本部

【神月】連動シナリオ

【神月】シャーム共和国首相に迫るは忍者達

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/07/23 13:25

掲示板

オープニング

●愚神の襲撃
 その車の中にいるのは、近日H.O.P.E.リンカー達と愚神達が激闘を繰り広げている、シャーム共和国の首相だ。
 つい先ほどまで病院の視察をこなしていたが、アル=イスカンダリーヤ遺跡で戦闘が発生したとの報告が届き、急きょ予定を切り上げ、今はこうして警護用の車に周囲を厳重に囲まれた車の中で、首都にある自身が執務を執る機関へと急いでいる。
 同乗する軍の将軍より遺跡における戦闘の詳細な報告を受け、現在愚神達と交戦中のH.O.P.E.リンカー達に向け、効果的な支援策はないものかと首相が思案する中、それは起こった。
 何の前触れもなく轟音と共に突如大気を灼熱させ、飛来した紫電の稲妻が、首相の乗る車の前後を走っていた護衛車を次々とぶち抜いた。
 護衛車たちが黒煙を上げて停止し、火炎を噴き上げる貫通孔から、蒸気と化した護衛達の鮮血が濛々と噴き出した。
 突然の事態に首相が狼狽える中、燃え盛り、無数の火柱と化した護衛者達の向こうに、紫色の霧が集い、やがて女性の姿をとるのを見た将軍が、慌ただしく運転手に向け指示を飛ばす。
「愚神の襲撃だ! 迂回しろ!」
 将軍より指示を受けた運転手が血相を変えて車を方向転換し、それまで広く整備された道から、細い路地裏が無数にはびこる細い道へと車を走らせる。
 そんな首相たちの動きに女愚神は嘲笑を浮かべ、再び霧となって姿を消す。
 細い路地を走る車内で将軍が辛うじて繋げた各機関へ慌ただしく現状を連絡し、救援要請を送る中、護送車を一掃した先の愚神が追ってこないかと、首相はしきりに後方の様子を伺っていた。
 そんな中、周囲を警戒しながら車を走らせていた運転手が叫びをあげた。
「前方に先程の愚神が現れました! こちらに突っ込んできます!」
 その声と同時に前方に紫霧と共に姿を現した女愚神が急速にこちらに迫るのを、車内の将軍と共に首相も目にした次の瞬間、首相の視界が急速に暗転した。
 強烈な回転力が首相の体に加わり、車の窓越しに見える光景も回転して路面が急速に接近する。
「首相閣下!」
 将軍の上擦った叫びや車が横転してひしゃげ、地面を削る音を聞きながら、首相の意識もまた暗転して消えた。
 横転し、残骸と化しと横たわる車の前に到達した女愚神は一通りその様子を確認した後、再び紫の霧と化してその場から消えた。

●救いと凶報
 ――は汝を守る武器。汝は――。
 朦朧とした意識の中、そんな声を聞いた首相がふと目を覚ます。
 すると眼前に無残に捻じ曲げられ、破壊された車の残骸と、見覚えのある将軍と運転手が事切れた状態で車の残骸の中にいる姿が飛び込んできた。
 間違いなく自分がそれまで乗っていた車だと知り、首相は戦慄を覚えた一方で、周囲を見渡し、あの女愚神の姿がない事に安堵した。
 どうやら自分は助かったらしい。少なくとも『今の段階では』。
 あの愚神は明らかに自分を狙っていた。であれば、実は生きていたことが愚神にわかれば、再び襲撃に来る可能性が高い。
 ならば、急いでここから脱出をしなければ。 
 このまま愚神が自分を見逃すと思うほど、首相も愚神の危険性を甘く見てはいなかった。
 懐を探って取り出した自分の通信機器は、車の横転の際に首相を守る働きをしたらしく、見事に破壊されていた。
 周囲には人影もなく、今の段階で自力で助けを呼ぶことは難しい。
 だが同時に首相はあの愚神に追われる間に将軍がH.O.P.E.にも救援要請を送っていたことを思い出す。
 現状で愚神達と戦い、この脅威から自分を救い出してくれる組織はH.O.P.E.以外ない。
 助けが来るまで現場を動かなければ、それだけ助かる確率は高くなるかもしれないが、いかにH.O.P.E.といえど、今の状況を把握し、自分のもとへ救援隊を差し向けるには幾ばくかの時間がかかることも、首相はよく知っていた。
 少なくとも自分は能力者ではない一般人だ。愚神に対抗できる手段など全くない。
 だから今は逃げの一手しかない。
 だがこの時首相が気づいていなかったことが2つある。
 1つ目は、首相は自分を一般人と思っていたが、実は能力者であり『既に今、自分の知らぬ英雄と共鳴している状態』であり、リンカーとなったこと。
 2つ目は自分を襲った女愚神が、『上司の命令』で既に現場から退き、『女愚神が引き連れてきた刺客達』が自分を狙って追い続けている事だ。

●首相を救え
 シャーム共和国首相、愚神に襲撃される。直ちに救援を求む。
 襲撃時に将軍が各機関に向けて送った救援要請は、緊急性の高い依頼としてH.O.P.E.上層部に直ちに送られ、各支部を経由後、シャーム共和国首都に拠点を置くH.O.P.E.の小さな支部に滞在するエージェント達が最も迅速に動けると判断され、現地支部にいた『あなたたち』エージェント達に向け緊急の依頼として必要な情報が送られてきた。
 現地の担当官が本部から提供された資料から慌ただしく必要とされる情報を抜き出し、説明していく。
「つい先ほど、この国の首相が愚神の襲撃を受けました。皆様には直ちに首相救出に動いて下さるようお願いします。場所はこちらになります」
 撮影機器には、恐らく上空から映したのであろう。
 白い平屋根の建物が立ち並ぶ中を細い路地裏が複雑に入り組んだ場所が映し出され、その中で首相の襲撃を受けたとされる場所が赤い丸で記されると共に、救出対象であるこの国の首相の顔がスクリーンに映し出される。
「愚神の襲撃がこの地域で起こった直後、巻き添えを受けるのを恐れ、この地域にいる人達は私達が確認できた限りでは全員この場からいなくなったそうです」
 この地域でいまだ彷徨う人間がいるとすれば、首相本人しかいない。
 そしてアル=イスカンダリーヤ遺跡での戦闘が激化していることもあるが、今回の件で別働隊と呼べる人員は辛うじて確保できた人達のみで、この区域に人が入らないようにする事、首相確保後、首相を安全な場所まで搬送する以外の要請には一切応じられないとの事だ。
「事は一刻を争います。皆様には全力で現場に急行して下さるようお願いします」
 いま首相を救える存在はこの場にいる『あなたたち』をおいて他にいない。『あなたたち』だけが首相を救う事ができる。
 
●刺客は『忍者軍団』
 女愚神は通話機で連絡を取る。
「現場周囲の邪魔な人間達は追い払いました。仰せの通り私はこの場から退きますが、あの者を殺すために、わざわざ『貴方様の忍者軍団でもある』ムンギア達を出撃させるまでもないのでは?」
『少し念を入れただけですよ、ズセ。ではこちらもやる事がありますので。結果報告は首尾よく事が運んだ後にお願いします』
 そう言うと、通話先にいた存在、ニア・エートゥスという名の愚神は通話を切る。
 それを確認した、ズセと呼ばれた女愚神は一礼し、紫霧と化してその場から姿を消した。

解説

●目標
 シャーム共和国首相を救出し、刺客達を撃破する。

●登場
 ムンギア×8 
 ミーレス級。通称『影忍』。身長1.8m前後。影が人の姿をとったような漆黒の従魔。嗅覚と視覚に優れ、その優れた感覚器官と移動速度、及び術を利用しての偵察、後方撹乱を得意とするらしい。
 シャドウルーカ―の『潜伏』『毒刃』『地不知』と同様の術を使い武器は手裏剣、忍刀、小型爆弾などを使う。
 上記情報は全てPL情報。 
 
 ズセ
 愚神組織「パラダイス・メーカーズ」(楽園の作り手達)に所属する愚神。ケントォリオ級。
 PL情報
 今回は首相襲撃後、首相暗殺を上記ムンギア達に任せ、既に現場から姿を消している。
 
 首相
 シャーム共和国首相。今回の襲撃事件の唯一の生存者。一般人。
 以下PL情報
 一般人だったが襲撃の混乱の最中、突如現れた英雄と共鳴したためリンカーとなり生き残る事ができた。現在共鳴中。なお首相は現在自分が共鳴中である事を知らず、英雄も沈黙中。敵の攻撃を1撃程度なら辛うじて耐えきれるが、最低限の防御力しか持たない。

 状況
 シャーム共和国首都に向かう途中にある、狭い路地裏の入り組んだ地域。空中から見ると以下のような感じになる。
 路地裏だが、至る所に荷物が雑然と積まれ障害物が多く、身を隠しやすいが、敵にも同じ条件が適用される。
 1マスあたり縦横各20m。現在下記の場所周囲をH.O.P.E.別働隊が封鎖中。区域内を生き残った首相とムンギア達が動き回り、地域内の住人達は既に逃げ出しており誰もいない。時系列的には遺跡が攻撃を受けた直後なので、現在は夕方。

  ABCDEFG
  =======
 1□□□□□□□
 2□□□□□□□
 3□□□□□□□
 4□□□■□□□
 5□□□□□□□
 6□□□□□□□
  =======

 =:大道路
 □:建物。建物と建物の間が路地裏にあたる。路地裏の幅は約2m。
 ■首相の車が横転した場所。

リプレイ

●開始
 夕闇が迫る路地裏の中を、シャーム共和国首相救出の任務を帯びたエージェント達が疾駆する。
 複雑に入り組んだ路地裏で構成された区画内は、恐らく愚神の襲撃から逃げ出した人々がその場に投げ捨てて行ったのか、多数の荷物や梱包が至る所に放り出され、雑然と積み上げられ、人の目には障害物の生い茂る隙間も、共鳴したエージェント達の健脚と動体視力をもってすれば立派な道となる。
「狭い路地裏が入り組んでて、邪魔なものが多いな」
 ティア・ドロップ(aa0255hero001)と共鳴し、髪を腰まで伸びるストレートロングの水色に変え、金色となった瞳の片方を前髪で隠した女性の姿に変じた柏崎 灰司(aa0255)は、途上にある山積みされた梱包の束を器用に飛び越えながら、首相が襲われたという場所を目指していた。
(道が入り組んでて、見つけるのが大変なのさ。ここは偵察が得意な人の情報をもとに動いた方がよさそうだから、ティア達は静かに行動するのさ)
(敵も隠れてる可能性もあるし、俺は派手に動かない方がいいな)
 内よりティアが仲間達の動きを邪魔しない形に動くようよう灰司に助言を行い、灰司も同意しティアと共に、周囲にいるであろう敵を警戒しながら、入り組んだ路地の間を静かに縫う動きで急いでいた。
 ティアの言葉通り、マイヤ サーア(aa1445hero001)と共鳴し、つかの間現れた四肢に流れる水の揺らめきのような幻想と共に、瞳を金色に変じた迫間 央(aa1445)と、どらごん(aa3141hero001)と共鳴し、成長した未来の姿となったギシャ(aa3141)が手分けして鷹の目を使い、路地裏より上空から首相の姿を探していた。
(要人の保護……。いよいよ本業の事務仕事とかけはなれた範疇になってきたわね)
(要人の警護につくSPの仕事だったら、今よりもっと給料がいいんだろうな……)
 内より届くマイヤの言葉にそう応えながらも、央は本業である地方公務員の職を辞するつもりはないが、首尾よく今回の任務を完了した後でも、本業の書類との『格闘』が待ち構えている事は容易に想像できた。
「ひっとだすけー。首相ってVIP(要人)だよね。救出できたらボーナスでるのかなー?」
(先の事より今に集中しろ。首相という国を背負う者の生きる意志と覚悟を感じ取り、必ず助けろ)
 内よりどらごんの思慮深い助言がギシャに届き、ギシャも『りょーかい』と明るく答え、鷹の目で上空に飛ばした鷹の五感を共有して首相を探し続け、央と共に上空から探索した結果をライヴス通信機「雫」を介し、他の仲間達へ伝えていく。
 蛇塚 連理(aa1708hero001)と共鳴し、装備する武器が赤味を帯びた蛇塚 悠理(aa1708)は、央とギシャからの連絡をライヴス通信機で受けながら、首相が襲われたとされる場所へ急ぐ。
「共和国首相か。絶対に助けないといけない人だね。H.O.P.E.の威信もかかっている事だし」
(襲われた場所からあんまり動いてないといいんだけどな)
 内より連理が首相の居場所について思案する声を悠理に向けるが、悠理も連理もその可能性は低いと思い、まずは首相が襲われたとされる場所近くからの探索を行うべく、狭い路地裏を駆ける。
「さーて、移動中に襲撃されたっつー話でやがりますが、なーんでそんな事されて首相は生きてんでやがりましょーかね?」
 ヒルフェ(aa4205hero001)と共鳴し、髪に銀色を、瞳に赤色を、手の甲に黒い刺青を纏う姿となったフィー(aa4205)が、現場へ急ぎつつも敬語とぞんざいさが混じった口調で、疑問点を口にする。
(サアナ、迂闊ナ愚神ダッタノカ。ソレトモ)
 あえて見逃す事で、何かを引き起こすつもりなのか。
 フィーの内で姿を見せずにいるヒルフェはそう考え、今回中途半端に襲撃を切り上げた愚神を過小評価する事はしなかった。
(イズレニセヨ最優先ハ首相ノ保護。イイナ?)
「まあ色んな話を聞きやがりますし。ここ最近の組織立った動きもありやがりますし。なんとも言えねーでやがりますがねえ」
 フィーもまた、ヒルフェと同じ考えなのか、特に反論することなくそう言って、まずは首相救出の為先を急ぐ。
「霧と共に襲撃をしかけて来た愚神……奴かな」
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)と共鳴し、髪の一房が銀色に変じ、左の瞳が蒼色を得て、ヴァルトラウテの纏う鎧をその身に合う形に変形し、鎧姿となった赤城 龍哉(aa0090)は今回の襲撃を行った愚神に心当たりがあった。
(愚神グリスプが海外に逃亡しようとした際に現れた女愚神、ズセかもしれませんわね)
 内にいるヴァルトラウテより龍哉の考えを肯定する声が龍哉に伝わり、龍哉も頷く。
「神出鬼没ってあたりで間違いねぇか」
 過去グリスプという愚神が、とある空港から海外へ逃亡を図った際、突如空港に現れ、これを援護したのがズセという名の愚神だった。
 グリスプはその後討伐されたが、ズセはグリスプを見捨て、空港から霧と化し去っている。
 フィーの口にした『組織だった動き』にもズセは愚神ニア・エートゥスを長とする愚神組織『パラダイス・メーカーズ(楽園の作り手達)』所属の愚神でもあるので、その条件に合致する。
 まほらま(aa2289hero001)と共鳴し、降り注ぐ光によって銀のメッシュにも見える明るい水色の髪がツインテールにまとめられ、透明感のある銀の瞳を持つ気品ある美貌を引き立てる服装に変じたGーYA(aa2289)は、まほらまと共に、ある疑惑を抱えていた。
(ジーヤ、これって)
(重要人物が愚神に襲われて状況が一変する。小泉さんの時と同じだ)
 GーYA達の言う小泉というのは、『古龍幣』という組織の重鎮の名で、今回同様愚神の襲撃を受けるも『奇跡の生還』をなした人物の事だ。
 しかし実際には襲撃の時には既に小泉は殺され、小泉の姿に化けた愚神によって、H.O.P.E.と『古龍幣』の間に猜疑の種をまき、騒乱を引き起こしている。
 この愚神はその後正体を見破られ退治されているが、小泉の言動に感銘を受けていたGーYAの衝撃は大きく、今も心に影を落としている。
(首相は命にかえても守る。けれど、愚神が化けているのなら)
 災厄を引き起こす前に討つ。
(一応冷静のようね。思うようにやりなさい)
 まほらまの内からの声を受け、GーYAは他の仲間達とやや異なる心境で現場へ急ぐ。

●救出
 やがて周囲を広域捜索する央とギシャと分かれ、5人が首相の襲われたとされる場所に到達する。
「こりゃひどいな。いよいよ時間との勝負になりそうだぜ」
 ひしゃげて上下が反対になって転がる車の残骸を前に、龍哉が状況が切迫している事を悟り、生き残った首相の捜索を進めるとともに、首相確保後の退避ルートを把握する動きも始める。
(怪我をしていたら、遠くまでは行けないと思いますわ) 
「見た限りだと、大量の血を引きずったような跡はなかったから、多分大丈夫だとは思うが」
 龍哉とその内にいるヴァルトラウテの言う通り、車の中で事切れた将軍と運転手のものらしき血だまりはあったものの、首相の姿も、怪我を引きずって逃げたような血の痕跡も見当たらなかった。
「この状況で首相は無傷で逃げることができたのか?」
 GーYAもまた、首相の負傷具合に疑念を抱いたまま、周囲の捜索にあたる。
 GーYAは逃げる首相の立場になって、助けが来るまで身を隠しそうな場所を推測してみた。
 あまり遠くない。窓など外の状況がわかるところ。壁やカウンターなど身を隠せるものがある場所。いざ敵に見つかったとしても脱出できる様、2か所以上出入り口のある場所。
 そういった潜伏候補となりうる場所を探し、ライヴスゴーグルも駆使して周囲を警戒しつつ、GーYAは首相の行方を追う。
 その間にも、ギシャはこの路地裏の『迷路』北方面を上空から探索し、南方面は上空を旋回する鷹の視覚と飛行をマイヤが担い、央は自身の視覚を含めた五感を動員して周囲の状況把握に努め、ライヴス通信機「雫」で他の方面を捜索する仲間達と情報を伝達しあい、同じく南方面を中心に探索を行っているフィーと連携して捜索の範囲を徐々に絞りこんでいる。
(しかしあの車の惨状から見て、よく生存できたものだ)
 捜索の最中、垣間見えた首相が乗っていたとされる車の残骸を確認した央は、あの惨状で首相が生存できた事に内心驚きつつも、潜伏を使い、忍足袋で足音を消し、敵の奇襲に備え身を潜めつつ捜索を続ける。
 その中で悠理は身を隠さず堂々と捜索を行っていた。
「首相ーっ! 生きていたら返事をして下さい! 私達H.O.P.E.が救援に参りました!」
 悠理はそう周囲に声をかけながら、路地裏の一番南端より西側へと並ぶ建物群の間を縫う路地裏を動き回り、灰司は悠理の動きとうまく連携して隠密性を高め、内にいるティアと役割分担して捜索と警戒にあたっている。
 そんな中、視界10m内という制限はあるものの、ライヴスゴーグルでライヴスの流れを追っていた龍哉が、人影らしき反応を確認し、悠理もまた自分の呼びかけに応える声を聞きつけ、それぞれライヴス通信機「雫」で仲間達に場所を連絡し、互いに情報交換し合った結果それが同じ場所だとわかり、その人影のもとへと駆けつける。
「H.O.P.E.エージェント、赤城龍哉とヴァルトラウテ。救助に参上ってな」
 龍哉の視線の先には、依頼を受けた際、担当官の事前説明のとき映像で見せられたシャーム共和国首相の姿があった。
(首相はご無事のようですね。見たところ怪我もないようです)
 ヴァルトラウテが首相に怪我がないか確認した上でそう龍哉に告げる中、悠理、灰司がまず駆けつけ、GーYAもまた首相のもとへ到着した。
 駆けつけた4人は身分証を提示してH.O.P.E.エージェントを名乗り、灰司は首相に許可を得た上で首相の負傷具合を確認したが、怪我がない事を仲間達に報せ、悠理は守るべき誓いを使い、敵の襲撃を自分に引き寄せ、灰司と共に残りの仲間達が到着するまでの首相の守りにつく。
(奇跡みたいな話よね。まるで知らないうちに誓約しちゃった、みたいな)
(偽物の小泉と同じことを言うな。首相は一般人だ。だから、これから守る対象が敵の可能性も考えて)
(1つの考えに固執するのは良くないわ。違っていたら、ちゃんと相手に謝りなさい)
 まほらまと、そんなやり取りの後、GーYAがまず眼前の首相らしき人物に名を問うと、『ラムス・アル=ワジール』と首相が自分の名前を答えたところで、GーYAがおよそ国家要人に向けない苛烈な口調と態度で首相に真偽を迫った。
「愚神が化けているなら正体を現せ。英雄なら隠れてないで姿を見せろ」
 首相がGーYAの気迫に気圧される中、悠理と灰司、龍哉、潜伏を解いた央が首相の周囲を固め、首相を庇う姿勢を見せ、4人はGーYAに首相の『ある部分』を見るようそれぞれの指で指し示す。
「GーYAさん、これを見て。これはこの人の幻想蝶だよ」
 悠理が示した先には、GーYAも見覚えのある、能力者が英雄と誓約を交わした際に現れるとされる、宝石のような外見の幻想蝶が、首相の身を飾る装飾品の中にしがみついていた。
 そしてフィーやギシャも全力移動で駆けつけ、首相は7人のエージェント達から自身が能力者であり、怪我一つない状態から鑑みて、今も『英雄』と共鳴状態であることを教えられる。
 そしてエージェント達より共鳴の解除方法を教わった首相が、半信半疑ながら言われた通りにすると、首相の身体から古風な鎧姿の女性が離れ、首相に向け片膝をついて跪き、頭を垂れて告げる。
「私の名はセアフ。汝の武器。汝の刃」
 それが能力者となったシャーム共和国首相ラムス・アル=ワジールと『英雄』セアフが、H.O.P.E.エージェント達の教えに従った結果、互いを認識した瞬間だった。
「愚神だと疑ってごめんなさい」
 そんな2人にGーYAが頭を下げて謝罪した時、頭上の空間を幾条もの光が駆け抜けた。
(ハイジ、盾!)
 ティアの警告に従い、首相を庇う形で灰司が掲げたシルバーシールドの上で金属音と火花が散り、灰司の足元に複数の十字型の手裏剣が転がった。
「敵の奴ら、この時を待ってたようだぜ」
 灰司が軽薄さを装いながらも、周囲を警戒しながら仲間達にそう告げる。
 やがて悠理の守るべき誓いで放たれたライヴスに絡め取られた1体の敵が剣を抜き、黒い魔風と化して殺到する姿を見て、迎撃に回ったフィーが奇妙な呻き声を上げ、内にいたヒルフェが怪訝な声をフィーに向ける合間に、『敵はただ素早く確実に殺すだけー』の声とともに、ギシャが敵に向かい吶喊した。
 一瞬の交錯と一瞬の激突の後、白銀に輝く竜の鉤爪型に鍛え上げ、【しろ】の愛称を持つギシャの白虎の爪牙が、突風の速度で敵の肉を貫き、骨を穿つ異音と共に、ギシャに打ち飛ばされた敵の体から、黒頭巾を纏う首が塵を振りまいて分離し、黒装束の体と共に地面に叩きつけられる。
(なんだこいつ。影……?)
「手裏剣に刀、黒い頭巾に黒装束……。忍者かな?」
 連理の疑念につられるように、塵となって消える敵の姿に、悠理は敵の特性から見て、敵はシャドウルーカ―のような存在という予想を仲間達に伝え、真っ先にフィーがその意見に賛同する。
 先程のフィーの反応は、言うなれば『こんなところで忍者に出会うとは思わなかった』という驚きだったのだが、我に返ったフィーは忍者との戦いに意欲を示し、先程忍者を屠ったギシャと共に忍者達の迎撃に回る。
「俺達に首相を発見させてから全員まとめて始末か。わかりやすい連中だ」
 龍哉は闘志をむきだしにした声で敵の意図をそう見抜くと、首相と『英雄』に共鳴の方法を教え、首相を共鳴状態に戻した悠理や灰司、GーYA達と共に首相の護衛と周囲の警戒に回る。
「……だとしたら、なめられたものだな」
 今しがたの襲撃は、央の観点から見ても、首相の車を残骸に変えたという愚神の手腕には明らかに劣る。
 央はそう仲間達に告げた後、仲間達に先んじて、首相を脱出させるためのルートを確保する為動き出す。
 路地裏の周囲から、殺気だけが膨らんで押し寄せる中、首相の護送が始まる。

●護送
 央は無言のまま疾走し、共鳴で得た驚異的な聴覚に届く微かな音から、敵の動きを把握する。
 首相や周囲の7人を囲むべく散った敵達が、それぞれ取り出す得物の音。振りかぶった腕と手裏剣が風を切る音。
 そういった音の類を把握した央がライヴス通信機「雫」で密かに他の仲間達へおよその音の位置を伝え、警戒を呼び掛ける。
 十字型の手裏剣が再び央に飛来した。その投擲方向と、敵が投じる際に生じたわずかな音から敵のおよその位置を推し量り、体を捻って手裏剣を回避すると央は潜伏を使いライヴスで身を隠し、目標を見失った敵――正式名称をムンギアという従魔、俗称『影忍』が潜伏したまま忙しなく周囲を見渡す中を、まったく別の方角から、月光のような軌跡をまいて振り下ろされた央の弧月が、斬撃音と共に影忍を頭から真二つに両断し、影忍は二つにされた断面から塵を噴き上げる。
「自分が得意な手段で逆に討たれる気分はどうだ?」
 塵と共に消えていく影忍にそう言い残すと、央はさらに退路を確保すべく潜伏状態を保ったまま疾駆する。
(今回は仲間にドレットノートが多い。俺は俺の役割に専念するか……)
 央の信頼を裏付けるかのように、首相を守る4人と2人の遊撃役はそれぞれの役目をこなし、影忍達からの首相への猛攻を防ぎきっていた。
 灰司と龍哉は周囲に潜伏する影忍達の居場所を暴き立て、2人の指示に従い悠理の放ったライヴスショットが叩き込まれた場所からライヴスの爆風が地面から噴き上がり、その中から竹に弾かれた小石のように、複数の影が思い思いの方向に跳躍する。
 跳躍していた影忍の1体が報復の一撃を首相に投じていたが、その方角には既に悠理がその身を盾にして立ちはだかり、影忍の手裏剣は悠理に微かなダメージを負わせたのみで弾き飛ばされる。
「くっ……」
 悠理の体を悪寒が駆け抜ける。
(敵の毒刃だ! 悠理、早く灰司を呼んで治療を受けろっつーの!)
 影忍が投じた手裏剣に込められた毒が、悠理の体に広がったと悟った連理が悠理に切迫した声を上げ、事態を察知した灰司が悠理に向け、クリアレイの清浄な光を飛ばし、悠理の身から毒を消して治療する。
「礼は不要だぜ、悠理ちゃん」
 首相捜索で行動を共にする事の多かった影響か、多少くだけた物言いで灰司は悠理にそう告げるが、それでも悠理は灰司に礼儀正しく『ありがとう』と感謝の言葉と態度を示す。
 その間にも別方向に跳躍し、周囲の建物の壁を奔る影忍から放たれた手裏剣が飛来するが、手裏剣はその射線上に割り込んだGーYAの掲げたヴァルキュリアの大剣の刀身に弾き飛ばされ、GーYAが敵との間合いを考慮し、ヴァルキュリアをしまって抜き放ったPride of foolsから、発射焔が2発、立て続けに放たれた。
 GーYAの2撃で立て続けに胴を撃ち抜かれた影忍が、胴から塵を振りまいて落下し地面に叩きつけられ、消滅する。
 他にも跳躍して距離をとろうとする影忍達には、疾風となって追ってきたギシャとフィーが突っ込んだ。
「衝撃の……」
 既にトップギアで攻撃力の『装填』を終えたフィーが跳躍しざまそう呟くと、両手から一気呵成を込めたノーブルレイの銀線をほとばしらせ、ノーブルレイを握るフィーの手に、敵の装束もろとも肉体を切り裂いた、堅さと柔らかさを併せ持つ感触が伝わると共に、ノーブルレイに切り裂かれ、塵を撒いた影忍の体が失墜し、地面に叩きつけられる。
 着地したフィーは地面に倒れ伏す影忍への追撃を試みるが、既にトップギア込みのフィーの最初の一撃を喰らった影忍は塵となって消え、フィーの追撃は不発に終わる。
「なんとも歯ごたえのねえ連中でやがりますねえ」
 フィーはそう呟くと気持ちを切り替え、退路を確保する央と首相を守る4人の間にある路地裏の障害物をノーブルレイを駆使して除去して回り、仲間達の行動を支援する間に、ギシャは別の影忍を追い詰めていく。
「そっちがニンジャだろうと、こっちも殺しにかけては本職のアサシンだよー」 
 影忍は軽い身ごなしで毒刃のこもった手裏剣をギシャに放ったが、ギシャは最小の動作で手裏剣をかわすと、既に影忍に向け構えていたライトブラスターの引き金を引いた。
 ギシャのライトブラスターより灼熱の奔流が放たれ、直撃を受けた影忍はその身を焼き穿たれ、塵と化し消えていく。
「アサシンは敵を討つのがお仕事ー」
(気を緩めるな。敵はまだ残っている)
 内にいるどらごんより的確な助言を受け、ギシャはさらなる獲物を求め、退路確保も兼ねて路地裏を駆け回る。
 その間に残る影忍3体は、潜伏を続けながら首相に迫っていたが、灰司と龍哉の警戒を潜り抜ける事はできなかった。
(敵は忍者系で攻撃の仕方が多彩だし、何してくるか分かんないから怖いのさ)
「だったら何かする前に討てばいいじゃねえか」
 ティアの内からの助言に対し灰司はそう応じると、ライヴス通信機「雫」を介して他の仲間達と情報のやりとりを行った結果、今のところ負傷者も、影忍達の放った手裏剣に含まれていたであろう毒を受けた仲間達はいないとわかり、周囲を見渡し潜伏する影忍の位置を把握し、攻撃の届く間合まで肉薄する。
 剣筋が制限される路地裏の狭さを考慮し、灰司は武器を白鳳の羽扇に変えた手にライヴスを込め扇を閃かせると、無数の白い矢が扇より放たれ、一連なりと閃き飛び、影忍はかわしきれずに全身を白い矢の群れに貫かれ、塵を上げて倒れ、消えていった。
 一方龍哉は『いかに周囲を動き回ろうと、隠れて動くタイプの従魔が常に近くに居る可能性は考えておいて損はない』という自身の観点に基づいて周囲への警戒を絶やさず、近くで潜伏する影忍を見抜き、当面の首相の守りを悠理とGーYAに任せ、自身は眼前の影忍に突進した。
「赤城の流儀は波涛の如く。だが外道は一切の躊躇なく打ち砕き、叩き潰す!」
 潜伏を見抜かれた影忍から手裏剣が龍哉に放たれるも、龍哉が顔の前に掲げたフルンティングが手裏剣を弾き飛ばし、龍哉の振るうフルンティングが発する血色の剣閃が軌跡となって宙を薙ぎ、フルンティングの刃が通過した周囲の建物の壁ごと、影忍の体を横に両断し、二つに割かれた影忍は塵をまきあげ、消えていった。
 仲間を見殺しにして跳んだ最後の影忍が刀を抜き放ち、体ごと首相目がけて落下するも、悠理が振るった蛇腹剣の剣光が頭上へ駆けあがる。
 蛇腹剣の秋霜の煌めきと赤味を帯びた刀身は、影忍の胸を貫き、最後の影忍は貫かれた胸から塵をあげて地面に叩きつけられる。
「君が最後の1体かな。俺達は君たちに構ってる暇は無いんだよね」
 悠理が蛇腹剣を引き戻し、塵と化し消えゆく影忍にそう呟く中、ライヴス通信機より『退路を確保した』と央から仲間達に連絡が入った。
 
●援軍
 こうして7人のエージェント達は央やフィー、ギシャ達の確保した退路をもとに、首相を守りながら路地裏を抜け、無事に安全圏まで到達した。
 なお龍哉が警戒していた『最初に首相達を襲撃した愚神ズセ』はその後も現れる事はなく、フィーの連絡を受け、近くに待機していたH.O.P.E.別働隊の手で首相や救出に携わった7人は一通り負傷治療やアイテム補充を受けた後、首相ともども首都へ護送され、シャーム共和国首相の救出は無事成功した。
 首都に到達した首相は、自分を命がけで守ってくれたエージェント達1人1人の手を取って深く感謝した。
 図らずも能力者となり、自身の『英雄』も得た首相だが、リンカーとなった事に不安もあり、GーYAはそんな首相をこう励ました。
「俺がリンカーやってるんだから大丈夫さ」
 そんなGーYAの言葉を後押しするかのように、首相が自分の『英雄』の為に用意した私設秘書という立場に遜色ない容姿と衣服に整えた『英雄』も首相を守る意志を示す。
「私は汝の武器だ。汝は護る」
 未だセアフと名乗る『英雄』の正体は不明だが、首相を守護する意志は本物だとエージェント達は信じたかった。
「君達H.O.P.E.が来てくれなければ私も殺されていただろう。私は君達H.O.P.E.への恩は忘れない。できる限りのことはさせてもらうつもりだ」
 エージェント達に向け、シャーム共和国首相ラムス・アル=ワジールは確固たる口調で、H.O.P.E.への支援に乗り出すことを約束した。
 その後首相は臨時議会を招集し、議会の席で首相自らが全責任を負うと明言すると共に、現在『遺跡』で愚神達と戦うH.O.P.E.を全面的に支援する議案を打ちだし、議会はこれを満場一致で賛成票を投じ、H.O.P.E.への全面支援案が議会で可決され、軍部も首相と議会の意向を承諾した。
 これによりシャーム共和国の軍隊がH.O.P.E.への支援に動き出す。
「これよりシャーム共和国軍は、H.O.P.E.を全面的に支援せよ。彼らこそがこの国の、いやこの世界の希望なのだ!」
 首相の強い決意と指示を受けた共和国各軍が鋼鉄の怒涛と化して、砂塵の吹き荒れる空と砂丘を進軍する。
 その先にある『遺跡』での戦いは激化の一途を辿っていたが、こうして新たにH.O.P.E.を支援する人々の動きもまた加速していった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 薔薇崩し
    柏崎 灰司aa0255
    人間|25才|男性|攻撃
  • うーまーいーぞー!!
    ティア・ドロップaa0255hero001
    英雄|17才|女性|バト
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 悠理aa1708
    人間|26才|男性|攻撃
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 連理aa1708hero001
    英雄|18才|男性|ブレ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • Dirty
    フィーaa4205
    人間|20才|女性|攻撃
  • ボランティア亡霊
    ヒルフェaa4205hero001
    英雄|14才|?|ドレ
前に戻る
ページトップへ戻る