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酔っ払いのためのRPG~カクテル編~
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カクテル談義と相談卓
最終発言2016/07/09 19:45:00 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/07/09 15:17:23
オープニング
●さぁ、カクテルで
「本日はレディースデーとなっております。女性のお客様がカクテル代は、半額にさせていだきます。おススメは、ソルティードックです。慣れていないなら、ビールをベースにしたシャンディも美味しいですよ」
昭和の匂いが漂う居酒屋に、今夜は似合わないオシャレな酒の注文が飛び交う。マンハッタン、マティーニ、マルガリータ……。誰でも知っている有名なカクテルから、キール、アイリッシュ・コーヒー、バンブーといったちょっと珍しいカクテルも即席のお品書きには書かれていた。
「すみません。おかみさん、カクテルを作る練習をさせて貰っちゃって」
厨房から顔を出したのは、青年である。来月店を出店する予定の彼は、知り合いの店を借りて自分の腕を錆つかせぬように練習をしていた。馴染みの客達は、華奢なグラスを持ちあげて青年バーテンダーに喝采をおくる。
「美味い!」
「いっそ、ずっと店にいてくれよ~」
そんな酔っぱらいの隣の席では、腹を空かせた大学生達が今日も酒以上につまみを大量に注文する。
「えーっと、出汁巻きとタコの唐揚げを追加で。あ、あと揚げ出し豆腐。海藻サラダもおかわりで」
あいよ、っと奥に控えた店主がいつもどおりの調理に取りかかる。お洒落なカクテルと大衆的な料理、本日の居酒屋は不思議な空気を醸し出していた。だが、気にする客は一人もいない。よっぱらいとは、そういうものである。
「団体席だけど、座れる?」
店の暖簾をくぐったのは、仕事終わりのリンカーたちであった。彼らはアルバイトに案内されて、店の端っこに座った。
何をするために――?
無論、大いに飲み食いするためである。
「きゃー、カクテルを作る道具が巨大化したわ!!」
厨房から出てきたのは、巨大化したバー・スプーンであった。かちん、かちん、と金属の心地よい音を響かせながら飛びまわる。アルバイトたちが逃げ惑うなかで、一人がシェイカーに放り込まれる。ぐるんぐるん、と掻きまわされるアルバイトを見て客は大爆笑だ。
「助けてくれ~。はっ、はぐぅぅぅ」
●酔っぱらうと恰好付けたがるタイプ
カウンター席には、孤独の男がいた。
スコッチをちびちびとやりながら、チーズを齧る男は店の喧騒にため息をつく。酒とは孤独のなかで飲み物である、というのが男の……愚神の考えであった。
「うるさい人間どもめ。俺が、粛清の刃を振りおろしてくれるわ」
からん、とスコッチに入れられた氷が崩れる。
この愚神、自覚は全くないが酔っぱらっていた。
解説
・カクテルで楽しく酔っぱらって、従魔および愚神を退治してください。
※リンカーはアルコールで酔っぱらいませんが、このシナリオでは場の楽しい雰囲気で酔っぱらいます。そのため、ノンアルコールを飲んでも酔っぱらいます。呑みたいものがブレイングシートに書かれていない場合は大人はシャンディ、子供はノンアルコールカクテル(シャーリー・テンプル)をお出しします。
店……古き良き居酒屋。本日はカクテルに力をいれている。店内は常連客でひしめいている。なお、常連客は従魔が現れても逃げようとはせずに呑んで食べて大爆笑している。なお、店の人間はアルバイトは四名。店主、おかみさん、バーテンダーがいる。
従魔
シェイカー……内部に人間を閉じ込めて、ぶんぶんシェイクしてくる。登場するとアルバイトが一名なかに閉じ込められてしまう。五体出現するも、一つ一人しか閉じ込めることはできない。なお、長時間閉じ込められると吐いてしまう。ごろごろと転がって、移動する。やや素早い。
バー・スプーン……細くて長い、スプーン。反対側の端っこにはフォークもついている。突き刺さると非常に危険であり、シェイカーに閉じ込められた人間を優先して狙う。二体出現。
メジャーカップ……煩い客にかぶさり、動きを封じる。跳ねて移動しており、スピードは遅い。三体出現。
アイスピック……基本的に動かないが、メジャーカップに捕まった獲物を正確に突き刺してくる。二体出現。
愚神……むやみに恰好をつけたがる、愚神。従魔が全滅すると「俺の真の力を見せてやる」と宣言し、攻撃に映ろうとするも武器をどこかに置き忘れているために何もできない。
リプレイ
●一部、危険な酒の飲み方があります!
昭和の雰囲気が漂う店の暖簾をくぐると、そこではもう常連客たちが上機嫌でよっぱらっていた。左で乾杯、右で乾杯といたるところで楽しげな声があがる。そんな場を彩るのは、きらびやかでお洒落なカクテルたちである。
「お腹が空いた……」
中城 凱(aa0406)は「ぐぅ」と鳴る腹を押さえた。酒よりもなによりも、まずはご飯を胃に入れたいお年頃である。離戸 薫(aa0416)や美森 あやか(aa0416hero001)も同類で、三人そろってお腹を押さえていた。
「おかずばっかりだとなぁ……飯が食いたい」
唐揚げとか焼き魚とか美味しそうだが、一緒に飯が欲しい。白飯にわかめの味噌汁、あと漬物なんかがあったら嬉しい。再び、凱の腹が「ぐう」となった。
『焼きお握りなら、一応ご飯だけど? 流石にお茶漬けは最中に食うもんじゃないと思うぞ』
酒呑みのしきたりを一応知っていた礼野 智美(aa0406hero001)に言われ、凱はお茶漬けの注文をあきらめた。鮭茶漬けが美味しそうだったのに。
「か、カクテルだって、ママ!」
真白・クルール(aa3601)は周りの客がひっきりなしに注文するカクテルに、目をきらきらさせていた。店に入る前こそ脅えていたが、店に入ってしまえば祭りのような活気に彼女はすっかり呑まれてしまっていたのである。美しく甘そうなカクテルに、真白は興味しんしんであった。
『カクテルって……お酒、でしょ?……ママも飲んだ事ないのよ』
ちょっと心配、とシャルボヌー・クルール(aa3601hero001)は呟く。仲間たちと一緒だとはいえ、初めての場所で初めてのものに手を出すのは気が引ける。
『あらあら、半分以上未成年なのに。なんで居酒屋に来てるんでしょうねぇ、わたくしたち』
十七夜はお品書きを見ながら、ノンアルコールがあることに気がついた。困っているシャルボヌーに、さりげなくそれを進めておく。英雄とリンカー双方共に未成年な薫とあやかペアにも、ノンアルコールを進める。
「シャーリー・テンプルってジュースみたいなのかな?」
『頼んでみましょうか』
一体どんなものが出てくるだろうか、と薫とあやかはワクワクしながら待っていた。
「外で呑むのは好きじゃないんですけどね……。まずは、XYZを」
好きではないと言いつつも一足先に注文をする、姚 哭凰(aa3136)。
華奢なショットのグラスに作られた、半透明な酒。一説には「それ以上のものは作れない、究極のカクテル」という意味で命名されたと言われるカクテルである。その度数の強さに哭凰は「ふぅ」と息を吐いた。
「駄目だよ、お譲ちゃん。ショット器のカクテルは三口で、飲まないと」
見知らぬ常連客もとい酔っぱらいが、哭凰に話しかける。
何故、とは思ってはいけない。
酔っぱらいとは、無駄にフレンドリーなのである。
「そうなんですね。では……」
XYZの残りを、哭凰は二口で飲み干す。心なしから、彼女の丸い頬っぺたは赤く染まっていた。
「次は、アラウンドザワールドをください」
さっそくお代わりを注文する哭凰を見ながら、十七夜(aa3136hero001)はマティーニをちびちびと呑んでいた。透明な酒に浮かべられる緑のオリーブの姿は、酒好きでなくとも一度くらいは目にした事があるであろう。カクテルの王さまと言われるだけはある、堂々とした立ち姿だ。
「タコ唐揚と揚げ出しとシーザーサラダ食べたいね。あとは、お腹にたまりそうなものかな?」
五十嵐 七海(aa3694)が食べ物の注文を終わらせると、飲み物の欄で目が止まった。
――むむむ、サマーデライトとシャーリーテンプルか。
両方とも呑んでみたいが、残念ながら胃袋は一つ。料理も沢山食べる予定であるし、お腹に溜まりやすい甘いカクテルを最初から呑み過ぎるのはいかがなものであろうか。だが、両方とも呑みたい。あわよくば、他のものも呑みたい。
「中城さん、せっかくだからシャーリーテンプルをわけっこしない? 色々、呑んでみたいし」
七海は、女の子の必殺技を使うことにした。
シェアである。
「へー、ノンアルコールカクテルってあるんだ……」
凱は、酒の名前の下に書かれた簡単な説明にわずかに顔色を悪くする。
「え、シャーリー・テンプルはシロップ入り?……すいません、甘くないノンアルコール・カクテルってありませんか?」
『お前、甘いもの苦手だもんな』
智美にからかわれた凱は「茶漬け!」を注文する。どうやら、酒呑みのマナーは無視することにしたらしい。凱の注文に、近くにいた大学生は「兄ちゃん、それカクテルじゃないよ」と大笑いだ。
「俺は、サマーデライトだな。そのあとに、ジンジャーリッキーを。ミミガーも追加してくれ」
ジェフ 立川(aa3694hero001)の言葉に、七海は目を輝かせた。
「それじゃあ、私はシャーリーテンプルにするよ。……あとで、一口飲ませてもらってもいいかな?」
かまわない、というジェフの言葉に七海はすっかりご機嫌になった。
『七海ー! 色んなカクテル呑もーネ!』
色々あるから楽しミー、と華留 希(aa3646hero001)はさっそくおススメのカクテルに手をつけていた。
「……お前ら、未成年だろーが」
麻端 和頼(aa3646)は度数が高すぎる酒ロリンコ151をちびちびとやりながら、カクテルの呑んではいけないはずの年齢だったはずの希を見る。
『……アタシが見ためどおりとでも?』
世のなかには、不思議な事がいくらでもあるんだヨー。
哭凰とか……。
哭凰とか……。
「これでも成人してます!」
哭凰が希と和頼の間から、ひょっこり顔をだす。その手にカクテルグラスが握られており、すでに何杯かをお代わりした形跡があった。
『うふふ、くーちゃんと外で呑むと相変わらず面白いですねぇ』
そういう十七夜の隣にも、空っぽのカクテルグラスの群。
「わたしには、全く面白くないの!」
『そうだよね。見た目が全てじゃないよね』
かんぱーい、希と哭凰が杯を合わせた。
「……勝手にしろ」
ノリと勢いのみで形成される二人の会話に、和頼は匙を投げた。
女子会いとは、こういうものである。
「ちょっと手を加えるだけで、こんなに風味が変わるのかぁ」
九字原 昂(aa0919)は、マンハッタンを飲みながら感動をしていた。乾杯は呑みなれたハイボールだったが、二杯目から冒険してみたのである。カクテルの女王と呼ばれるマンハッタンは、度数こそ強いがやや甘口で飲みやすい。それをジュースのように飲む昴に、ベルフ(aa0919hero001)はすこしばかりハラハラしていた。この呑み方は、飲みつぶれて路上で倒れている大学生のそれであると。
『……自分のペースをちゃんと分かって飲んでいるんだろうな?』
「せっかくだし、普段飲まないようなお酒を飲んでみたいなぁ」
話を聞いているのか聞いていないのか、よくわからない返答が返って来た。これは、不味い。このままでは、あと数時間後には自分は昴の介抱の為に家に帰らなくてはならなくなる。
『飲むのはいいが、ほどほどにしておけよ。お前さんを背負って帰るのは嫌だからな』
「あっ、次はマンハッタンをお願いします」
『……』
人の話を聞いていない。
大人の力を借りようとベルフは、シャルボヌーの方を見た。
『あら、美味しいわね、これ何かしら?』
「動物の内臓だって! 臭みがないね! すごい! 魔法みたい!」
真白とシャルボヌー親子は、店自慢のモツ煮を二人で仲良く食べていた。煮玉子が入ってる、と真白は嬉しそうである。
「カクテルも、すっごく綺麗……これが飲み物だなんて、不思議……」
真白は、自分の分のカクテルをうっとりと見つめる。呑んでみると甘いジュースなのだが、見た目が綺麗だから大人になった気分である。
「はい、こちらは大人用のシャーリー・テンプルになります」
バイトが、シャルボヌーの前にカクテルを置く。
「本当に綺麗ね」
シャルボヌーもうっとりだが、ベルフは「ん?」と思った。実はシャーリー・テンプルにはウォッカ等のアルコールを入れるレシピも存在するのである。
「まぁ、未成年じゃないんだし。一杯ぐらいは、どうってことないだろう」
ベルフは、知らなかった。
シャルボヌーが、この大人のシャーリー・テンプルを大変気にいってお代わりを連発したことを。
美味しい料理に美しいカクテル、気心しれた仲間たち。
酒場の夜は、楽しく流れていくはずであった。
「きゃー、カクテルを作る道具が巨大化したわ!」
厨房からバー・スプーン、メジャーカップ、アイスカップが飛び出してくる。そして、最後に飛び出してきたシェイカーがアルバイトの一人を飲みこんだ。
「助けてくれ~。はつ、はぐぅぅぅ」
数秒後には、爆発してはいけない爆弾が暴発する予感がした。
そんななかで、常連客は「あんな道具で作ったカクテルが呑みたいねぇ」と上機嫌である。
「敵? ……せっかく飲んでたのに仕事かぁ」
『おい、そっちは敵と逆方向だ』
昴が向かったのは、出口である。
このままでは、昴がうっかり無銭飲食を犯してしまう。ベルフは危険を感じて、共鳴する。だが、昴の千鳥足は変わらなかった。口当たりが良くて度数の高いカクテルばかりを飲んでいたら、同然の結果であった。女性は、特に真似してはいけない。
「希と共鳴するのー」
七海は管を巻きながら、希に抱きついていた。
『分かったよ。七海、二人で従魔をたおそうネ!』
「うん」
酔っぱらった七海の手を取った希であるが、当然のごとく二人が共鳴できるはずもない。
「おい、酔っぱらいで遊ぶな」
和頼は、思わず希を止める。
見たところ、七海は完全に出来あがっているようである。
「和頼には悪いけど、あたしが好きなのは七海なんだよね」
その言葉に、一人の酔っぱらいが反応した。密かに百合を愛する会社員は、社会の歯車になりながら日々心の潤い――本物の百合を探していた。そんな善良な会社員の間の前に、神々しく咲き誇る一輪の百合の花が舞い降りたのであった。
こんにちは――新刊のネタ。
「でも、ジェフも私の~」
七海は、ジェフに抱きつく。
百合好き会社員の花が散った。
さような――めくるめく妄想。
「アイスピックは、大人しく氷を砕いて居ればいいんです」
哭凰は、なぜかメジャーカップの上に鎮座していた。
竜玉でアイスピックを攻撃する姿は、年相応に成長したこともあって氷の女王様のような風格があった。酔っぱらって、目が座っているともいう。
その姿を見た老人は、息子に電話をかけていた。
哭凰は、老人の孫の生きうつしであった。年に数回しか会えない孫の面影を重ねつつ、しみじみと呑んでいたのに瞬きの間に彼女は大人へと成長してしまったのである。思わず老人は息子に電話をかける「うちの孫、一夜にして大人の女になってないか?」
さようなら――良好な親子関係。
『……折角、真白が楽しくお友達とお喋りをしていたのを。邪魔したのは誰の仕業……?』
シャルボヌーは低い声で囁き、力任せにバー・スプーンをなぎ飛ばす。その先にあったのは、常連客の上等な上着。その上着の持ち主の男は定年間近で、何年も着られないのに上着は新調された。なぜならば、上着は「娘が初給料で買ってくれた」ものだったから。
さようなら――初給料。
凱は、少し焦っていた。
さっきまで茶漬けを食べていたのに、気がつけば従魔の軍勢である。凱は、武器をもった。
『バカ、こんな狭い空間でブーメランみたいな大剣使うな!』
智美の言葉に、凱は我に帰る。
そうだ、こんな武器では店を壊してしまう。
もっと、小回りのきくものでなければ。
「よし……」
凱は武器を持ちかえて、それを従魔に向かって投げた。
『サブに短剣あるだろうがっ! なんで、ソレ投げた!!』
「あっ」
凱は短剣に武器を持ちかえたが、全ては遅すぎた。
彼が投げたのは、さっきまで食べていた鮭茶漬けだった。きつく塩を振られた鮭と薄味の出汁、それにアラレと三つ葉が入った茶漬け(六百イェン)だった。美味しかった。たまにわさびがツーンと香って、本当に美味しかった。だが、今は床の汚れである。
さようなら――鮭茶漬け。
「あれ……ベルフ、僕が二人いるよ?」
すごい手品に困らないよ、と酔っぱらった昴が謎の感想を漏らす。
『自分のスキルの効果だろうが……』
ベルフは、ため息をついた。そろそろ急性アルコール中毒を心配すべきかもしれない。深刻な酔いの症状であるが、それでも何とか従魔を追いつめているところはさすがである。
「二人だったら、攻撃力も二倍だよね?」
「……だから、それはスキルの効果だろうが」
人の話を聞いていない昴は、「わーい」と言いながら従魔に向かって弾丸を放つ。たまに狙いをそれた弾が、カクテルグラスを次々と割っていく。
バーテンダーが、涙した。
あのグラスたちは自分が店をもったときのために、ちょっとずつ金を溜めて購入したものだった。
さようなら――節約の日々。
『あー、バラライカとかニコラシカとかを飲む予定だったんだよ!』
望が、思い出したとばかりに騒ぎたてる。
「……お前、何でそんなに詳しいんだ?」
『夜外行くと知らない人が奢ってくれるんだ!』
美味しいお店を紹介できるよ、と希は上機嫌である。
「……ジェフ。羨ましいぜ……希は好き放題でよ……」
『希も可愛く見えるぞ? 七海と交代……いや俺と希をか。お試しするかね』
和頼が漏らした男性名とも女性名とも思える名前に、百合男の隣に座っていた薔薇女がときめく。このトキメキは、薄い本にしたためなくてはならない。今から描いていたら、印刷所の割引の期間には間に合わないであろう。でも、大丈夫。薔薇女は社会人である。たとえ割り増し料金を払ってでも、イベントには間に合わせてみせる。
さようなら――財布の中身。
「本当に、たすけてぇぇぇ。はぐぐぐぐぅぅぅ」
シェイカーが、ぺっと呑みこんでいたアルバイトを吐きだす。おそらく攻撃担当のバー・スプーンが全滅したせいであろう。吐き出されたアルバイトからは、すっぱい匂いがした。シェイカーに存分にゆすられたせいで、アルバイトは自らが吐いたものにまみれてしまっていたのである。
「国東くん……」
女性アルバイターが顔を背ける。
仲の良い恋人同士であっても、見せられない姿というものがある。付き合って十カ月の恋人たちには、乗り越えることができない試練であった。
さようなら――幸せな未来。
「ふははははははっ。従魔は全てしりぞけられたか、俺の真の力を見せてやる!」
バーボンを片手に、愚神が立ち上る。
「強そうだな……」
いかにも呑めそうな風体な男に、和頼がにやりと笑う。そして、グラスにわずかに残っていたロンリコ151を一気に飲み干す。酒が弱い人間が見たら、卒倒するような呑み方であった。
「オレより呑めるよな……? 店長スピリタスだ。希、抑え付けろ!」
『愚神も酔うと寝るのかナー?』
悪い顔して笑う希と和頼に「ぎゃー!」と愚神は情けない悲鳴を漏らした。バーテンダーは「呑めない人に、呑ませるのはダメ絶対」と首を盾に振らなかった。
「地面が歪むよ~。真っ直ぐ歩けない~。ジェフ」
そう言いながらも武器を握る七海に、ジェフは青くなった。
『落ち着け、店を壊すぞ。人命第一だろう?』
下手に撃って店が全壊となったら、笑うに笑えない。
いや、もう割りと取り返しのつかない程度には壊れているのだけれども。
「はーい、お兄さん。ちょっと、店の裏側まで来てくれるよね」
すっかり酔っぱらった昴が、愚神を羽交い絞めにする。
『お……おまえ、なにする気なんだ?』
共鳴しているベルフが、何故か冷や汗を流す。
「あはははは、話し会いだよ。話し会い」
にこやかに昴は、愚神をどこかに連れて行った。
数分後に帰って来た昴の頬には、ケチェップ風のなにかがついていたという。
さようなら――中二病が抜け切らなかった愚神。
『さあ、皆さん! 飲み直しましょう! 真白をこれからもよろしくね! カンパーイ!』
シャルボヌーが、無事だったシャーリー・テンプルを高々と持ち上げる。その様子に、真白は目をぱちくりさせていた。
「ま、ママ。それ、アルコール入ってなかったよね……?」
おほほ、と笑うシェルボヌー。
そんなシャルボヌーと杯を合わせたのは、希である。
『そうそう! 呑み直そ』
『酒精なしで酔えるか。お神酒ならともかく』
いつの間にかカクテルグラスを持ちながら、智美が呟いていた。
「酒飲んだ事あるのかよ、おい」
未成年代表の凱は、いつの間にか追加注文していた梅茶漬けを流しこんでいた。すっぱい梅干しの味が、まろやかな薄味の出汁に溶けだして食欲をそそる。やっと空腹を満たせた、凱であった。
「ボストンクーラーをお代わり」
『こちらには、ギムレットを』
哭凰と十七夜は、競うようにカクテルのおかわりをバーテンダーに要求していた。お店がこんなになっても作るんですか、とバーテンダーは半泣きだ。
バーテンダーには、夢があった。いつかは、自分のバーを開くと言う夢が。だが、店を半壊にさせられてまで店を続けていく自信など彼にはなかった。
さようなら――若者の夢。
『起きろ! 背負って帰らないって言っただろう!!』
ベルフは、酒を飲み過ぎて夢のなかにいる昴を前にして途方に暮れていた。店の無事だった座布団を引っ張り出して、折りたたんで枕に加工してからの睡眠である。これは、朝までここに寝るつもりであろう。
コレ、背負って帰るのか……。
ベルフは、遠い目をした。
「ジェフ~。……おんぶして」
一方の七海は、酔いがまわったせいなのか駄々っ子になっていた。
肩を貸そうとしても「おんぶ~」としか言わない。
『いかん、どうやって帰る?』
ジェフも途方に暮れていた。
煙草を吸うために店を出ようとしていた和頼は、その光景をみて思わず呟いてしまった。
「タクシー捕まえろよ。それで、一緒に乗ってくなりすればいいだろ」
現代の酒呑みの常識に、英雄二人はぽんと手をうった。
『その手があったか!』
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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