本部

リンカーストーリー 第一章

玲瓏

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 5~10人
英雄
7人 / 0~10人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2016/07/19 20:46

掲示板

オープニング

 まずはこの本を手に取ってくれてありがとう。私は文屋彼方(az0010)という。聞いた事はないだろう、それは当たり前だ、なぜなら私はただのフリーライターだからだ。
 とはいえ、文章には相応の自信はある。国語の成績は学年トップというのが普通で、中学の頃まであった書写も月並み以上の評価を受け、漢字ドリルはいつも満点――という話は、まだ別の機会にしよう。この本は、私の事を紹介するために存在するのではないからだ。
 この本を書こうと思ったのは、リンカーという存在がどれだけ一般市民を守ってくれているのかを知ってもらいたいからだ。
 勿論どれだけ守ってくれているのかについてはご存知だろう。従魔、愚神は勿論の事、ライヴスの力を使う悪党すら退治する。今や正義のヒーローだ。
 だが、ただひたすらにヒーローを気取っているのではない。
 知らないうちに、エージェント達の事を「完全無欠、正義を愛する勇者達」と思い込んではないだろうか。人類を守るためだけに戦う、絶対正義であると。
 正義である事に代わりはないだろう。エージェントは本気で人の命を救うために身を投じて、脅威に立ちはだかっていく。
 しかし「彼らも人間」である。
 この本の目的は、エージェントではない人々に、エージェントの事を深く知ってもらう事。彼らの事を、人間だと思い出してもらう事。
 実は、そこらの下手な連続テレビドラマよりも彼らの人生は波乱万丈で、華が開いている。
 面白い事に、彼らは一人一人が主人公なのだ。これを物語にしようとすると、凄まじい主人公インフレが起きる事は、言うまでもないだろう。それだけ、彼らには魅力が溢れているのだ。
 長々とここまで順を追って話をしてきたが、突然エージェント達の事を深く知れといっても難しい話であろう。私は少しでも親しみのある文章にするために、小説形式でエージェント達の事を語っていく事に決めた。
 この本は決して、インタビュー形式で一人のエージェントについて淡々と述べるのではない。私はこれから一人称で、事実をノンフィクションに乗せる事にする。
 新聞にも載った事件を参考に――誰が、どうして、どのように、何をしたか――それを述べる。そのエージェントの過去や思いというのは行動に影響するのだ。
 テレビでは「エージェントが無事解決」とだけテロップが流れるだけであり、詳しく知る事はできない。
 この本はその詳細を語る物なのだ。
 さあ、次のページから世界は変わる。この真っ白で、私だけしか存在しない空間から、色が付き始めてエージェント達が姿を現す。その眼でしっかりと、エージェント達の事を深く見つめてほしい。
 ヒーローがどうしてヒーローなのか。


 相方と一緒に街に出た私は、手あたり次第にエージェントの姿を探した。この本を完成させるために、エージェントに何を尋ねれば良いのか、という事はもう練られてある。後はただ、人を探すだけだ。
 エージェント達の日常から、エージェントを読み取る。難しい話ではあるものの、日常という事柄は、その人物を知るのに一番効果的なのだ。
 歩いていると、さっそくエージェントを見つけた。私はメモ帳を開いて、声をかけた。
「時間をくれないか。訊きたい事があってな」

解説

●目的
 自分の事を良く知ってもらう。

●質問事項
 文屋彼方がエージェントに質問する内容を、以下に箇条書きで記します。
 ・どうしてエージェントになったのか、その経緯。過去。
 ・自分に課している目標。
 →現在はどれくらい近づいているか。
 ・任務で、どのように活躍しているか。
 →印象に残った任務はあるか。
 ・英雄との出会いをどう思っているか。英雄は、契約を結んだ相手と出会ってどう思っているか。
 ・最後に、何か雑談をしましょう。今までは私ばかり質問をしていたので、今度は貴方が質問をしてください。ジャンルは問いません。

●文屋が訪れるタイミングについて、他
 彼は全くランダムな時間帯、場所にエージェント達を訪れる。任務の時を除いて、例えば買い物をしている所や仲間と遊んでいる時等に質問を持ちかける。そのため、二人以上のエージェントと同席して質問する場合もある。
 質問をしてくれた礼として、ジュースをお礼に渡す。無論、リクエストは受け付けます。

●お願い
 今作を仕上げるために、「この事を取り上げてほしい」「これは取り上げないでほしい」という事柄を教えてください。
 答えたくない質問には答えなくても構いません。

リプレイ


 この本を書くために必要なのは行動力である。私は今まで踏み入れた事のない場所にまで足を向かわせていた。
 ほどなくエージェントを発見した。
「エージェントの文屋彼方だ。少し取材をさせてほしい。君というエージェントについて」
「私の話を?」
「兄さん、私も聞きたいです」
「禮も? つまらないと思うけど……」
 禮(aa2518hero001)というのが英雄の名前だという。
「そこの喫茶店でお茶にするところだったんだ、ケーキでも食べながら話そうか」
「ありがとう。感謝料として、何かをご馳走しよう」
 店に入り、私とエージェントは店主に案内された席についた。ケーキとコーヒー、それから紅茶が頼まれた。
「古風な喫茶店だな」
 木製の椅子机と洒落たクラシックオルガン。
「古風な方が、私の性に合っている。特別な思い入れがある訳でもないが……。失礼、名乗ってなかったな。私は海神という」
 本名は海神 藍(aa2518)だ。私は早速、彼から話を伺う事に決めた。なぜエージェントになったのか。
 品物が机の上に並んだ。
「私は子供のころ従魔に襲われてね、エージェントに救われたんだ。あの背中を追いかけようと……いや……そう。最近まで忘れていたんだけれど。本当に、色々なことがあった……家族が皆死んでしまったり……病死に事故に他殺、フルコースさ。って、こんな湿気た話は要らないね? この時代にはありふれたことだ。――でも、何はともあれ無事に大人に成れた。近所の人々の支えが無ければきっと……世界を、憎んでいたことだろう」
「兄さん……」
 禮は隣に座る海神の顔を見上げた。憎んでいただろう、その言葉が彼女の耳に響いたのだ。海神は彼女の頭の上に手を置いた。
「その後はHOPEの事務員から、あの背中を思い出して、この子と出会って。エージェントだよ」
「……次に、何か思い出深い任務はあるか」
 少し遅れてケーキが届いた。
「全力を尽くしても救えないものも多い。既に終わっていて、鎮魂歌を歌うくらいしか…ね」
「あの任務、ですね。"黒い海のセイレーン"……」
 救えなかった人がいたのだ。
「それでも戦うことは辞められないんだ、私自身の為に」
「――英雄と出会ってどうだろうか」
「……出会えて、本当に良かったと思っている。……今では唯一の家族だ」
 すると禮は焦りながら店員を呼び出してケーキを注文した。私は戸惑ったが、海神は耳打ちですぐに説明してくれた。
「この子は気恥ずかしくなるとすぐケーキに話を反らすんだ」
 ケーキを頼み終わると、今度は禮に同じ質問をする事にした。
「彼と出会ってどうだろうか、禮」
 元々ほんのり赤かった頬が少し濃くなった後にこう答えた。小声ながらも。
「……幸せ、ですよ」
 おおよその取材が終わって私は、折角だからと雑談をする事にした。私ばかりが質問していたので今度は彼に質問をしてもらった。
「家族は居るかい?」
「ああ。宝物にも代わる事のない愛する妹がいる」
「そうか、なら……ケーキでも買って帰って、一緒に食べると良い。それが楽しめる日々を守ることが今の私の願いだ」
 言い終えた海神は、禮に――家族に視線を寄越して微笑んだ。


 続いて私が尋ねたのは浅水 優乃(aa3983)という女性のエージェントだ。彼女は人見知りで取材に困惑したが、ベルリオーズ・V・R(aa3983hero001)という名前の彼女の英雄の助けがあって、取材に参加してくれた。
「私、あの……面白い話は出来ないと思いますけど」
「面白い話でなくとも構わない。無理な願いならば俺は退散するが……」
「い、いえ大丈夫です。全然大丈夫じゃないですけど、頑張りますっ」
 付近には話し合いに適するような場所はなかったため、適当に道の通りに備え付けられていたベンチに座って話を尋ねる事にした。まずはエージェントの経緯、だ。
「成り行きというか、なんというか……すみません。今でも何で私なんかがエージェントしてるのかなって……思いますし――」
「でも何か、目標の一つや二つはあるんじゃないか」
「え、えっと、その……私、気が弱くて内向的だし鈍臭くって何しても中途半端で……だからそんな自分を変えたいなって、自信が持ちたくて」
 更に付け足すように、ベルリオーズが口を開いた。
「優乃はね、とっても優しいよ」
「え、ベルっ」
「ピアノも上手だし、料理も出来る」
「うぅ……」
「自信ないの、勿体無い、からわたしも色々手伝ってるの」
 仲睦まじい様子だった。浅水は英雄の言葉に恐縮しているが。
 私は次に、二人が互いにどう思っているかを尋ねた。
「初めは不思議な女の子って、それだけだったんですけど……世間知らずだけど私よりずっとしっかりしてて頼りになって、かけがえのない大切な存在ですよ」
「優乃の事はね、大好き。わたしに名前をくれて、沢山教えてくれて、一緒に居てくれる。ピアノも弾いてくれるんだ。優しい音、優乃らしくて好き……。貴方は、音楽好き?」
「よく聞いている。落ち着いた曲を好んでな」
「わたしピアノの練習してる、けど難しいね。楽譜も読むの難しいあ、ピアノ以外も好きだよ」
「あのう……」
 何か物を言いたげに浅水が遠慮がちな声で切り出した。
「ベルは私を過大評価だよ。ピアノも、ラヴェル上手く弾けないし」
「わたしが好きだからいいの」
 これ以上二人の時間を邪魔するのは、それこそ遠慮したく思って私は退散する事にした。近くに自動販売機があったため、そこでジュースを買って二人に感謝料を支払った。
「ジュース有難う御座います。あの、本出るの、楽しみにしてますね」
「ありがとう。精一杯、頑張らさせてもらおう」
 私は礼をして、二人から遠ざかった。後ろを振り返ってみると、やはり背中を見ても仲が良いという事がすぐに分かった。


 その時彼女達は買い物をしていた。私も買い物があったから店に寄ったのだが、奇遇であった。時間があるといって、二人はすぐに取材に応じてくれた。
 彼女の名前は木陰 黎夜(aa0061)。そして英雄はアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)という。
「誓約を交わしたのはもう四年も前になるわねエージェントはあと二ヵ月で一年になるかしら?」
 アーテルは頭の中で計算しながら言った。
「うん……。エージェントになった理由は……強くなるため、かな……うちは、男の人が、苦手で……怖くて……アーテルにも、いろいろ、迷惑かけてて……怖いものがなくなれば……強くなれるのかなって」
「最近は弓を引けるようになって有り難いと思ってるわ」
 木陰の目標は男性恐怖症を治す事だという。
「二人はこれまでどんな任務をしてきたのか、聞かせてほしい」
「そう、だな……。香港……特に、古龍幇関連に参加することが多かった、かな……? ヴィランって、ひとくくりにしてた、けど……あんまり悪いヤツらじゃねーのも、いて……古龍幇の認識が変わったから……信頼を武器にするのは、大きいって、感じた……」
 香港の事件は記憶に新しい。彼女はあの大きな事件に終止符を打つために活躍していたという。
「それ以外だと焼肉の依頼ね。当日キャンセルになったお肉の消費。私は写真と宣伝の記事の添削をやりましたけど、食べ物の力ってすごいと感じた瞬間だったわ」
「男性恐怖症、だと言っていたが、英雄との出会いは平気だったのだろうか?」
 英雄は男性だ。女性の言葉を話しているが、それは木陰に気を遣っての事だと知った。
「最初は……すごく怖かった……男の人、だったから……今も怖いけど……裏切られてもいいって思えるくらいには、怖くない……」
 次に私はアーテルに目を向けた。
「私は、最初は黎夜にも頼れなくて、この世界に伝手がある訳がなくてかなり苦労したけどね。誓約しなきゃ良かったとは、今は思ってないわ」
 二人についておおよそ聞けた所で私から雑談に踏み込んだ。質問を求めたら、アーテルがこう言った。
「"英雄"になりたくないって考え、どう思う?」
「……冷静な人だ、と思うな。死の恐怖を毎日感じなければならないだろう。責任感が背中にのしかかってくるだろう。冷静な人はそこをよく理解している」
 長話にならないよう気を付けて、言葉を進めた。
「このまま話を終わらすと無難な事しか言わないようで癪だから最後に一つ言うならば――退屈な思考だと思う」
「なるほどね。真摯に答えてくれてありがとう」
 彼がどんな思いで一つ一つ言葉を言ったのか、それは想像できなかった。


 先ほどから疑いの目を向けられている。
 今は二人の少女に取材を申し込んでいた。英雄である一花 美鶴(aa0057hero001)が私の事を、監視カメラのように見つめるのである。
「で……では、早速。どうしてエージェントに?」
 質問に答えてくれるのは九十九 サヤ(aa0057)という名前を持つ高校生くらいの少女だ。
「以前愚神に襲われた時、一緒に捕まった子供を逃がせなくて。私は美鶴ちゃんのおかけで無事でしたが、怯えるだけで何も出来なかった事がずっと心に残っていて……」
「言い換えればトラウマ、なのだろうか」
「まったく、サーヤを怯えさせたり、髪を切ったり、きっと変態だったのよあの愚神」
 先ほどから口を開かなかった一花がようやく話してくれて安心した。警戒を解いてくれているのだろうかと。
 思い出し怒りに声音を揺らす一花に微笑みを向けた九十九は、話を戻した。
「美鶴ちゃんが来て一緒になって、私にも人を助けられる力を得たのなら、その力が少しでも役に立てばいいなって思って」
「じゃあ、任務での思い出は何かあるか」
「あ……天空塔での戦い、ですね」
「サーヤ、確か持っていましたよね。市民の人達からもらった……」
「はい、えっと……こちらを頂いたんです」
 希望章という名前の、稚拙だが……仄かに優しさの残滓を感じ取れる物を彼女は取り出した。クレヨンで何か言葉が書かれている。
「助けた人達からもらったんです。今度は助けられたんだ、って嬉しかったです」
 一生涯の宝物になるのだろう。助けられた市民も幸せになり、エージェントも幸せになる。
「九十九は、一花の事をどう思って?」
「助けてくれた恩人であり、一緒なら戦場でも怖くないって思える大切な親友です」
 先の警戒する表情はどこかに吹き飛んだのか一花は笑顔が表情の全体に出てきていた。
「一花は九十九の事をどう――」
「そりゃあもう可愛らしくて何にも例えられないほど……いえ、どんな言葉を使ってもサーヤの事を褒めるには足りませんわ。大好きという言葉を使わさせてもらうと、大がすごくたくさんありまして。お花や小動物など可愛らしい物はどこにでもありますが、サーヤはたった一人しかいないんです。このリボンだってず――」
 この後の言葉は読者の想像に委ねる。
 お菓子の材料を買いにいくからと九十九は言った。呼び止めた事を詫びて私は離れようとしたが、一花が私を引き留めた。
「サーヤは先に行ってて」
 呼び止められた理由が思いつく前に、彼女はこう話した。
「さっきの、サーヤの事をどう思っているか……ですが、サーヤはね、"紙"なんだと思ってます。手で握りしめればぐしゃりと潰れてしまうほどもろくて、だけど、時には希望章のように力をくれる。本当に"紙一重"ですけど、少しづつ積み重ねて強くなっていく……自分の事を頼りなさげに言いますけど、決して弱い子ではありませんわ」
「話を聞く限り、俺も頼りになる子だと思ったな」
「"こんな"私でも好きだと言ってくれる……。はっ……! い、今のは無しですわ、オフレコです。サーヤにも内緒です!」


 快く次に私の尋ねに応じてくれたのは二人のエージェント、二人の英雄だった。今回は五人での大勢でのインタビューとなった。
 前回九十九達のインタビューの際、最後少しだけ焦ってジュースを買うのを忘れてしまったため、今度は最初からジュースを買う事に決めた。リクエストもあってリンゴジュース、アイスココア等を四人分買った。
「ガルーちゃんは愛想よくね、にっこり笑いながら答えるんだよ?」
「はいよ。努力する」
 木霊・C・リュカ(aa0068)は取材に心が躍っている様子だった。ガルー・A・A(aa0076hero001)はもう一人のエージェント、紫 征四郎(aa0076)の英雄である。
 リュカの相棒の名前はオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)。頭を下げて挨拶をしてくれた、礼儀正しい少年だ。
 彼はアルビノという病を患っており、重度の視界不良の他に病弱な体で、自分ひとりで生きていく事が難しいのだという。
「征四郎、写真は無さそうだから別にめかさなくてもいいんだぞ」
「え、そうなのですか? 写真は撮らない?」
「写真を撮る事はないな。残念だが……」
 おそらくインタビューしてきた中で一番最年少のエージェントであるのが征四郎だった。男のような名前であるが、立派な少女である。
 早速、二人の過去を尋ねる。
「五歳の頃に、ガルーと出会いました。実家をヴィランに襲われた時に……。エージェントになったのは、ガルーが戦いたいと言ったから、ですね。それが誓約でもあり約束でしたから、腹を決めるのに時間はかかりませんでした。征四郎はガルーに助けられましたので、今度は他の誰かを征四郎が助けるこれは道理ですし、力がある以上紫家の剣士としても、そうするのが正しいと」
「戦うことを、誓約と共に俺様が誓わせた。誓約後割とすぐにリュカちゃんちに転がり込んだんだけどそれから調べて、人を守り戦う最も適した場所がH.O.P.E.のエージェントだった、ということだ」
「お兄さんも誓約通りだよ! 世界に溢れる物語を見つけにいくんだ」
「二人の人生において、目標はあるだろうか」
「目の前の人を助けること……ですかね。今は。それに頑張っていれば、父さまもきっと征四郎を見てくれる……」
「お兄さんは特にないんだ。せーちゃんと同じように、人を助けられればいいのかなって。物語を見続ける事は目標になるのかな」
「二人は任務で、どういった活躍をしてるんだろうか。記憶に残る任務もあれば……」
「どれも大事な記憶なので、選ぶのは難しいのですが。小学校で愚神が出て、避難をさせる任務があって、それは、その、"守れなかった"ので、よく記憶に残っております」
「そのね、お兄さんは依頼に感情を持ちこむのが苦手で、今一踏み込めないんだ」
 彼の言葉にオリヴィエがこう理由をつけた。
「目的の達成を意識しすぎてるのかもな」
「ね。もうちょっとこう……なんていうんだろ。ふふ、どうすればいいと思う?」
「仕事に感情を持ち込まない事は非常に難しい事だ。困らない限り治す必要はないと思う。治したいなら……目の前で起きている物語を聴くと、いいんじゃないか」
「答えてくれてありがとね。あと……記憶に残る任務、だったよね。それならね、一つの家族の物語を終わらせて、その後の事を見守ってあげた依頼があるんだ」
「俺も、それを言おうと思っていた」
「あ、オリヴィエも? ふふ、お兄さん達結構節操ないから、あんまり同じ人とか敵さんを追いかけるってないんだけどね」
「未だに、答えがでない仕事、だった」
「征四郎もリュカ達と一緒にいたのです。ヒガンバナの花言葉、まだ覚えてるですよ」
 四人は大のつく程の親友なのだろう。大が何個つくかは分からないが。次に、英雄とエージェントの絆に関する質問をそれぞれにした。
「あの時、父さまがあそこに征四郎を残したのは征四郎を信じてくれてのことだと思っています。だから征四郎には、守らなきゃ、以外になにもありませんでした。でも今は、なんだか前よりもずっと悲しいことも、嬉しいことも深くなった気がするのです。色んな友達も増えて、色んな経験もして……あの出会いが征四郎を生かしてくれたのです」
「俺様の全ては、此方に来る前に、沢山のものを犠牲にして成り立っている。多くを殺した。だから俺様の命は、どこにいようと"沢山のもの"の為にあるんだ。俺様は戦わなければならない。戦えるなら誰でも良かった。戦うと誓ったから征四郎と誓約をしたんだ」
 ――。

「……でも今は。こいつで良かったと思ってるよ。相棒は」

 私は絆を感じた。この感想は同様に、リュカとオリヴィエにも注がれる事になる。
「世界の扉の鍵を一緒に握りしめた。とても大切な出会いだよ」
「まだわからない。呼ばれて出会った時から、ずっとわからない。ただ、共に見続けるのは眩しくて、きっと楽しい」
 この質問にこれ以上答えるのは難しいと、二人は内緒話をするようなポーズを見せた。その後に、恒例の雑談の時間を取る事にした。
「フミヤはどうしてエージェントの為にこんなに真剣に記事を書いてくれるのですか?」
「かなり鋭い質問だが、それはこの本の最後に書いて締めくくろうと思っている。その時まで楽しみにしてくれると嬉しいな」
「分かったのです! リュカは何か、質問あるのですか」
「……、ぁ、じゃあさ、好きな物語を教えてよ。本でも映画でもアニメでも。なんでもいいよ! オリヴィエはSF物、お兄さんはファンタジー物が好きなんだ!」
「そうだな……本だと推理小説であったり、サスペンス物。映画だとアクション物をよく見る」
「そうなんだっ、じゃあ今度暇だったら古本屋にもおいでよっ」
 リュカは名刺を私に差し出した。喜々として。私も喜んで受け取った。今度出向いてみるとしよう。


「エージェントだよな、君は。少し話を伺いたいのだが……」
 遠くを見つめる男にそう言ったのだが、一言だけでは気づいてもらえなかった。再び言った時、ようやく彼は振り返ってくれた。
「ああ、ごめん。どうも夏バテみたいで気分が落ちて……さながらグランドキャニオンで紐なしバンジージャンプってところかな。はは、は……」
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ。話を聞きたいんだよね、いいよ」
「まずは飲み物を買おうと思うんだが」
「ビールをお願いしようかな。美味しければ何でもいいよ」
 彼の要望通りに飲み物を買って、話を伺う事にした。
「僕の過去については二十年前の新聞を読んでくれれば詳しく書いてあるよ」
 新聞を調べてみると、彼の事が載っていた。名前はヨハン・リントヴルム(aa1933)というのだが、彼はドイツ人で日本に旅行に来たときに誘拐され、強制的に悪事を行わせられていた。
「で、何だっけ。理由? ……別になりたくてエージェントになったわけじゃないんだけどね。ヴィランズの一員としてエージェントと戦って、死にかけて、入院生活を終えて、気付いたら登録されてた……大方、僕の行動を監視するためにそうしたんだろう」
「何かそうだな……こう、人生の目標みたいな物があれば聞かせてほしい」
「目標……か、別にないな。ヴィランズの元締めどもを殺したかったけど現実には叶わなくなっちゃったし。仕事に打ち込もうにも過去が過去だろ、どこが雇ってくれるんだか。エージェントの資質もないみたいで、かといって僕みたいな犯罪者が平穏な家庭を築けるわけがない。何も希望が見えない……正直、あとは死ぬだけの人生なんだよね」
 私は言葉が詰まった。次の質問に行くには、早いと思った。
「そんな事はない。ヨハン、君は今まであまりにも不幸な事が重なりすぎた。だから何か、良い事が起きる、起きてほしいと思う」
「慰めてくれているのかい。はは、ありがたいな」
「それに依頼でも、人を助けたり……褒められる事だってあるんじゃないか」
「依頼で目立った活躍が出来たことがないんだ。それも悩みでさ。ああ、でも。この間の依頼……愚神退治なんだけど、夢を見せる愚神でさ、いつもはヴィランらに弄ばれる夢ばかり見ていたから……嬉しかったな」
「――ヨハンには英雄がいるな、今日は見受けないが……。英雄の事をどう思っているのか、教えてほしい」
「英雄との出会いは……僕らの一番美しくて、一番忌まわしい思い出だよ。彼女の名誉もあるから詳しくは言わないけどね」
 私は再び言葉に詰まっていた。
「……僕の事、嫌いになった?」
「とんでもない」
「いや、いいんだ。何でもない。まあ、こういうエージェントもいるんだよ」
 正義のヒーローばかりじゃないんだ。
 そういう彼の口は重かった。正義のヒーローばかりじゃない。彼が言うから、余計に響いて聞こえた。
 太陽が鬱陶しく思えた。


 今日は日差しが人々の体温を上昇させる日で、私は休憩として池のある公園の、屋根のついたスペースで休んでいた。池で泳ぐ鯉は涼しそうだ。
 その鯉を、私以外にも眺める人物がいた。
 体調は良くないみたいだった。すぐ隣には腕を抱く中学生くらいの少女がいた。
「その怪我、何かあったのか」
「え? あ……、あはは、ガデンツァって言ったら分かるでしょうか」
「君もあの事件の解決のために頑張ったエージェントという事か」
 彼の名前は黒金 蛍丸(aa2951)だった。まずは、彼の過去について尋ねる事にした。
「少し昔話になりますがいいですか?」
「お願いしよう」
「僕が英雄に憧れるキッカケ、正義の味方になりたいと思うキッカケ、全ては僕の故郷を従魔が襲った時にまで遡ります。あの時……詩乃が駆けつけてきてくれて、共鳴をしてくれたおかげで僕は……故郷の皆を守ることができました。正義の味方のように……でも、僕は自分が正義だと思ってはいません。……難しい問題になりますが、正義って人によって変わるものだと思うのです」
 驚かされた。彼はまだ若い。若いうちから、正義の多様性について認知しているのだった。
「君の正義とは?」
「僕の正義ですか……? それは……みんなの笑顔を守るために戦うことです。だから、どんなに難しい事件でも、僕は僕なりに頑張ってます……でも、もっと強くなりたいって思います。詩乃にも仲間にも心配かけてしまっていて」
 英雄の名前は詩乃(aa2951hero001)という名前である。
 ――詩乃の前髪の奥、瞳が見えた。
 二人はお互いの事をどう思っているのか、聞かせてもらう事にした。
「運命だと思っています。えっと、その……ロマンチックなものではないですが……でも、確かに僕の人生は変わったと思います。詩乃がいてくれるから頑張れること多いです。きっと、僕、独りでは……戦い続けて心が折れたかも知れませんね」
 詩乃は前髪を触っていた。微笑ましい様子だった。
「君は?」
「私は……蛍丸様の事は、心配が多いですが……、私の隣にいるのが蛍丸様で良かったとは……思っています」
 おそらく彼女が黒金に思っている事はもっとあるのだろうが、それだけ言って話は終わった。表情が隠れていて、照れているのか無粋な質問をしたと怒っているのかは不明だ。
 雑談の時間だ。もう話の終わりも近い。
「僕のお話はその、役に立てたでしょうか?」
「心配は無用だ。君の話は心が安らぐ話だった。ありがとう」
「――あ、そういえば僕本屋さんにいく所だったんです。詩乃にプレゼントしようと思って……良かったら、読みやすい本とか教えてもらえませんか?」
「本なら……ライトノベルとかどうだろうか。ああいや近頃のライトノベルは難しい話が多いか……。オススメの本屋なら知っているんだが」
「教えてくれると嬉しいですっ」
「えっと――古本屋の金木犀という名前の所だったな」
 黒金の話を最後に、一章は幕を下ろす。少しでもエージェントの事が伝われば幸いだと思っている。
 この本が必要とされるならば、二章はその内に執筆するとしよう。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • いつも笑って
    九十九 サヤaa0057
    人間|17才|女性|防御
  • 『悪夢』の先へ共に
    一花 美鶴aa0057hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 急所ハンター
    ヨハン・リントヴルムaa1933
    人間|24才|男性|命中



  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • ひとひらの想い
    浅水 優乃aa3983
    人間|20才|女性|防御
  • つまみ食いツインズ
    ベルリオーズ・V・Raa3983hero001
    英雄|16才|女性|ジャ
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