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肝を試すなら森の中
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相談卓
最終発言2015/09/29 01:15:07 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/09/27 02:08:58
オープニング
●M樹海の噂
実に何もない、平和なある日のことだった。
空は曇っていてどことなく暗いHOPE敷地内を能力者たちが歩いていると、不意に背後から声をかけられた。
「ねえ、あなたたち、能力者よね?」
HOPE職員らしき女性は、楽しそうな顔で続ける。
「肝試し、しない?」
その発言に、能力者たちは首を傾げる。
すると慌てて、彼女は説明を付け加えた。
「えーっとね、個人的な依頼、でもあるのよ。M樹海の噂って知ってる?」
M樹海は山間部に存在する大きな森の名前だ。
道の舗装などもある程度はされているが、人の手がついていない場所も多々存在する。
そしてそこは、心霊スポットとしても、有名な場所である。
「まあ、知ってても知らなくてもいいんだけど。
そこで私の友人たちと肝試しをやろうと思うんだけど、どうも妙に真実味のある噂が出てきててね。
実害に遭った、って話が多過ぎるのよ。もし、従魔だの愚神がいたら危険でしょ?
だから、まずあなたたちに見てきてほしいの。もちろん、肝試しもかねてね」
どう、かしら。彼女は心配そうな顔でそう続ける。
能力者たちがそれに頷いて見せると、彼女はパッと顔を明るくして見せた。
「ありがとう! 友達に何かあったら嫌だし、お願いね! あ、場所の説明とかもしないと」
●呪われし森?
彼女が取り出したのは、数枚の写真だった。
「このM樹海、最近は呪われし森とも呼ばれてるの。
入口から入った道と、奥地でいくつかの被害が報告されてるわ」
森の木々は黒く、葉は伸び放題でかなり荒れているのが見て取れた。
いくつもの応用樹が生えている辺り、自然に近いのがよく分かる。
写真のうちの1つには、一応道らしきものへと続く入口も見受けられた。
「噂はいろいろだけど、情報を集めてみるとある程度法則性があるみたい。
1つ、道中は啜り泣きがどこからともなく聞こえてくるぐらいで他に実害はない。
2つ、奥地に行ったとしても必ず被害に遭うわけじゃない。ただ、多人数が集まると怪奇現象が起こる場合が多い。
3つ、啜り泣き以外の被害は、足を掴まれたとか、叩かれたとか、手による何かが多い。
とりあえずこれぐらいね」
彼女は写真の中から、森が一部開けたものを指さした。
「ここがその奥地。入口から歩いて15分ぐらいの場所だったはずよ。
肝試しがてらって言ったのは、現象が起きるのは全て夜だったから。明かりは用意しときなさいね
明るいうちから調査に行くのも止めないわ。好きに動いてちょうだい」
そして彼女は、写真と連絡先を書いたメモを押し付けるように渡してきた。
「真っ暗な山道を歩くことになるから、足元には気を着けなさいね。
現場までは私が送ってあげるから」
●肝試しスタート!
HOPE職員の運転する大型車に乗って、能力者たちはM樹海の入り口近くまでやってきた。
「さあ、ここよ」
暗い闇の中、立ちはだかるように森の木々がざわめいている。
空は曇りきっており、月明かりに頼ることは難しそうだ。
そんな中、彼女が言う。
「じゃあ肝試しってことだから、二人ずつペアで進んで行きましょうか。
もちろん、自主的にペアを決めてもいいし、くじ引きでもいいわよ。
ま、気楽に楽しむつもりで、のんびり行きましょうね」
満面の笑みを浮かべる彼女の前、それぞれに何とも言えない反応を返す能力者たち。
こうして、肝試しがスタートするのだった。
解説
●目標
イマーゴ級従魔の討伐
●登場
イマーゴ級従魔『マウスハンド』
名前こそついてますが、手が地面から生え、口だけが中に浮いてる感じの従魔です。
ぶっちゃけどんな攻撃でも倒せます。死角から足を掴んで来たり、啜り泣きの声を出す程度の雑魚です。
攻撃らしい攻撃はしてきませんが、全員が奥地に辿り着いた時点で姿を現します
●状況
M樹海
樹海と銘打ってこそいますが、普通に歩ける道はあります。
そこを歩いて行くと、開けた場所があります。
目標地点はその開けた場所で、入口から15分ほどです。
道中は啜り泣きが聞こえてくるでしょうが、それだけで危険はないでしょう。
ただ、街灯等の明かりはないので、懐中電灯などを用意するのをオススメします。
リプレイ
●肝試し開始!
「まずペア決めしましょう。クジは用意してるけど、組みたい相手がいれば先に希望を聞くわよ?」
暗い夜の森の入口でHOPE職員の女性が言うと、
「はーい! 俺はせーちゃんと一緒に行きたいな!」
集まった能力者の中から、木霊・C・リュカ(aa0068)が名乗りを上げた。隣の英雄、オリヴィエ・ドラン(aa0068hero001)も頷く。どうやら賛成のようだ。
「征四郎も、それを希望します」
せーちゃんと呼ばれた紫 征四郎(aa0076)もそれに応えるように頷いた。隣のガルー・A・A(aa0076hero001)も同意の意思を示した。
「じゃあそこの4人はセットね。他の子たちはクジを引いてちょーだい! 番号が書いてあるから、それに合わせて順番は決まるわよ。あ、最初の4人は、とりあえず2番目ってことで!」
差し出されたクジを、能力者たちは次々に引いて行く。
「あっ、1番だよカトリ兄ちゃん!」
「みたいだな」
宇宙 みらい(aa0900)とカトリ・S・ゴルデンバード(aa0900hero001)はクジを見ながらお互いの顔を見た。そんな二人に、同じく1番のクジを持ったモニカ オベール(aa1020)が話しかける。
「君が私たちとのペアかな? よろしくね! あたしはモニカ! で、こちらは相棒のヴィルヘルム(aa1020hero001)」
「よろしくな」
ヴィルヘルムは大柄な巨体を軽く屈め、みらいに笑いかけた。みらいはそれに無邪気にこ耐える。
「よろしくね、モニカお姉ちゃん、ヴィルヘルムお兄ちゃん!」
一方、3番のクジを引いた豊聡 美海(aa0037)は青い顔でクエス=メリエス(aa0037hero001)に話しかけていた。
「肝試しだよ、クエスちゃん……」
「おいおい、しっかりしてくれよ。能力者だろ」
そんな2人に、3番のクジを持った天原 一真(aa0188)が言う。
「あんたらがペア相手か」
無愛想な彼の横、ミアキス エヴォルツイン(aa0188hero001)は美海と似たり寄ったりの青い顔で言った。
「僕はミアキスよ。こっちは一真。よろしくね」
それに、美海はホッとした様子で言った。
「頼りになりそうな人がペアで良かったね、クエスちゃん……」
「だね。俺はクエス、この大きいのは美海。こちらこそ、よろしく」
そして4番を引いた4人もお互いに自己紹介を始めていた。
「いやー、肝試しなんて怖いなぁ、ビャク」
「ふん、こんなもの、怖いはずがないだろ」
門隠 菊花(aa0293)と白青(aa0293hero001)がそんなやり取りをしている横に、4番のクジを持ったシャーロット(aa1172)、スエイ(aa1172hero001)が並ぶ。
「あ、あの、ロッテはシャーロットと言います。よろしくお願いします」
「ん、ああ、よろしゅーな。うちは菊花。こっちはビャクや」
「よろしくなのです。あ、こちらはスエイと言います」
紹介されたスエイは軽く会釈して見せた。白青は怯えた様子のシャーロットに言う。
「安心しろ。俺様に任せればどうということはない」
それに少しほっとした様子で、シャーロットは頷いて返した。
「ペアは決まったかしら? じゃ、1番のペアからスタートよ!」
こうして、夜の森での肝試しが始まった。
●みらい、カトリ、モニカ、ヴィルヘルムチーム
足元に気をつけながら進むモニカは訪ねる。
「ところで肝試しって何すればいいの?」
同じように不思議そうな顔をしているヴィルヘルムに、みらいが説明する。
「お化けが出そうなところで、怖いのにどれだけ耐えられるか競うんだよ。進む途中で他の人から脅かされたり、脅かしたり」
「ああ、なーんだ、お化けか。そんなのより自然の方がよっぽど怖いよ、ねぇ?」
「ワシも森は長いが、そんなモノ一度も見たことがないぞ」
うんうん頷くヴィルヘルムに、ふと、カトリが提案する。
「だったら、驚かす側に回ってみるのもありかもな」
すると、モニカはそれに意地悪そうな笑みを浮かべた。
「驚かすか……そういうのも面白いかもね!」
「この程度の深さならば多少羽目を外しても危険は少ないだろうな。どれ、やってみるか」
ヴィルヘルムもそれに楽しそうに乗っかってきた。モニカは早速肝試しの驚かし方をスマホで検索し始めた。
「うーん、藁人形とか、大きな音とかで驚かす、かぁ。ちょっと藁人形は難しそうだね」
「脆い木をいくつか集めれば音を出す罠ぐらいなら作れそうだな」
「いいね! 木で人形作ったりもしよっか!」
着々と驚かせるようの罠を作り始める2人だったが、それにみらいが困り顔で言う。
「他の人たちを驚かすなんていいのかな……」
しかし、その横に立っていたカトリはニヤッと笑ってこんなことを言い出した。
「赤い色の文字とかで血のような言葉を書くのも定番だな」
「おっ、いいねー。口紅あったし、どっかに書いてみよっかな!」
「えっ、カトリ兄ちゃん?」
「ふっ、肝試しなんだ。楽しまなきゃ損だろ? 他の人たちも盛り上がりがあった方が楽しいんじゃないか?」
そう促され、みらいは少し迷った様子を見せていたが、
「一緒にやろうよ、みらい君!」
にっこり笑って言うモニカに、「よ、よーし!」と気合を入れてしまうみらい。その様子に、カトリは微笑ましそうに笑みを浮かべる。
「予備の服で人の形作ったりしよーっと。みらいくん、手伝って!」
「うん!」
「ではワシらは高い位置に人形を括り付けるとするか」
「おう。手伝うぜ」
こうして、四人はそれぞれに歩き回り、道中に罠や装飾を施していった。
「こんな感じ、かな」
「だいぶ怖くなったね」
「これなら他の参加者たちも驚いてくれるだろうな」
「初めてにしちゃ上出来だな」
満足げにおどろおどろしく変化した道を眺める4人。だが、その背後で、聞こえる啜り泣き。
「うぅ……ぐすっ……」
その声に、みらいは思わずモニカの手を握っていた。
「おー、すごいね。これは誰が用意したのかな?」
「前日から用意していた者がいたのか?」
「どうだろうな。とにかく、あとはあの広間で待機するだけだ。行こう」
「う、うん」
こうして4人は、目的地である広場へとたどり着くのだった。
●リュカ、オリヴィエ、征四朗、ガルーチーム
暗い森を前に、征四郎はリュカの方に手を差し出した。
「リュカ、征四郎が手を繋いであげますよ。見えないでしょうから」
「えー、やったー嬉しいな! なんかいつもより強く握ってくれるね!」
笑うリュカに、征四郎は正面を向きながら「離れないためです。森の中は危険ですから」と呟く。
その少し後ろで、オリヴィエ、ガルーの2人は能力者たちの様子を見ながら周囲の警戒を始めていた。
「警戒は怠らず行こう」
「ああ」
「……怖いなら、俺たちも手を繋ぐか?」
真顔で問いかけるオリヴィエに、ガルーは苦笑いで首を横に振る。そして、彼らも暗い道を進み始めた。
少しして、
「いやー、こういう深い森の中だと神隠しとか、幽霊の出没とかは定番だよね! そうそう、この間聞いた話なんだけどさ。とおりゃんせって――」
明るい声でリュカがそんな話を始めた。征四郎は青い顔でくいくいとリュカの手を引っ張る。
「やめましょう、リュカ。やめましょう」
壊れたラジオのように繰り返す征四郎だが、
「えー、ここからが面白いのに」
リュカは不満げだ。そして、
「ん、背後見ちゃいけねぇってのは不便だな。いったいどういう了見だよ」
「それはね!」
ガルーが続きを促してしまう。
「ガルー!」
悪意はないと分かっていても、征四郎は怒った声を出していた。そんな彼女に、オリヴィエはため息交じりの助け舟を出す。
「歌でも歌えば、少しは気が晴れるかもな」
それに、征四郎はすぐさま飛びつく。
「う、うた、歌ですね。お安い御用なのですよ……」
征四郎はすうっ、と大きく息を吸い、
「かーえーるーのーうーたーがー」
と歌い始めた。すると、
「へいっ!」
隣でリュカが、よく分からない合いの手を入れ始めた。ノリはいわゆる、宴会芸に近い。
「きーこーえーてーくーるーよー」
「イエイッ!」
「ぐわぁー」
「ハイッ!」
「ぐわぁー」
「ハイッ!」
「ぐわぁー」
「ハイッ!」
「ぐわぁー」
「ハイッ!」
「げろげろげろげろ、ぐわっぐわっぐわぁー」
「せーちゃん最高ー!」
しかし、どうも征四郎はお気に召さなかったらしい。
「もー、真面目にするのですよ!」
「ぐはっ!」
征四郎から見事な正拳突きをくらい、リュカは軽くよろめいた。
と、その時、バキィッ! と大きな音がリュカの足元から鳴った。
「ぴゃああ!」
モニカたちが用意した罠に、そして征四郎のあげたた大きな声に、ビクッ、と体を震わせるガルーを見て、オリヴィエはため息をついた。
「なんだ、怖いんじゃないか」
「怖がってねぇっつの、驚いただけだ」
ふん、と鼻を鳴らすガルーと、やれやれ、といった具合のオリヴィエに見守られながら、その後も征四郎とリュカは森の中を進んで行く。
やがて、開けた広場に辿り着き、彼らは先に来ていた4人と合流した。
「お、次のチーム到着だね!」
「まだ何も出ていないのかな?」
「そのようだ。他の者を待つとしよう」
「分かりました」
●美海、クエス、一真、ミアキスチーム
「暗いですね、ミーちゃん……」
「そうね……ってミーちゃん?」
「猫っぽくて、ミアキスちゃんだから、ミーちゃん、です。嫌、でしたか?」
「う、ううん、そう、ミーちゃん……いいかも」
軽く尻尾を振るミアキスを見つめながら、周囲の警戒をしつつ一真は周りへの警戒を強めた。その横で、クエスが話しかける。
「ご覧の通り、美海は背は高いが怖がりでね。いざという時は、サポートを頼むよ」
それに、一真は軽く頷く。しかし直後、
「肝試しなんだし、驚かすやつらのことも考えたら、怖がってやるのがいいんだろうけどな」
と呟いた。クエスは小さく笑い、「確かにね」と頷くのだった。
4人が森に入り、しばらく進むと、
「うわっ!」
「ひっ!」
懐中電灯で照らされた先、木に括り付けられた人形が見えた。その横には、呪、と真っ赤な文字が書かれていたりもする。
それを見た一真は、真面目な顔で言った。
「呪術目的の人形か? 藁のものが一般的だって聞いたけどな」
「の、呪い? み、見て大丈夫だったのですか……?」
「呪う瞬間を見なければ何もないはずだが、どうだろうな」
真面目に語る一真の横で、クエスはため息。
「おいおい、怖がらせることないだろ」
しかし、一真は至って真面目だ。
「怖がらせるつもりはなかったんだがな……こういうことがあったら、実在する事例を元に対策を考えるしかない、と思ったんだ」
すると、クエスは「なるほど」と腕組みをした。
「確かに、専門家でもない限りこういうのは実際あったものから考えるぐらいしかできないよね。そうだ、俺も旅してた時に呪術師から聞いたんだけど」
「聞かせてくれ」
「その人の呪いは相手の名前を正確に把握してる必要があったんだ。だから、こういった場所で無差別に危害を加えるタイプではなかったんだよね。日本の呪術ってそういうものが多いって聞いたけど」
「確かに、俺もそうだな。呪いたい相手の髪の毛なんかが必要だとか」
「ああ、そういうのも多いね。この場合、対策は何が一番なのかな」
2人はそのまま、呪いや幽霊、怪談に対する考察を初めてしまった。
立ち止まって話し合う2人を見つめながら、ギュッと手を握り合う美海とミアキスは怯えた目で震え声を出す。
「は、早く行きましょうよー……」
「そうだよー……早く行こうよー……」
それに生返事を返すと、一真とクエスは先を歩き始めてしまった。慌てて、美海とミアキスはそれに続く。
「ま、待ってくださーい!」
「置いてかないでー!」
2人の声は虚しく響き、その前で男たちは静かに意見交換を続ける。
やがて、4人は目的地の広場へとたどり着いた。
「人が集まってきましたね。征四郎としては、早く敵を片付けたいです」
「えー、俺はせーちゃんと一緒にいられて楽しいよー?」
「まだ敵は出ていないんだね」
「……大人しく待つしかないな、今は」
●菊花、白青、シャーロット、スエイチーム
「うう、怖いのです……」
怯えた様子で森の入口を見つめるシャーロット。その隣で、スエイは優しく微笑んだ。
「大丈夫だって、ロッティ。俺がついてるんだから」
「スエイ……」
ギュッとその手を掴むシャーロットに、スエイはご満悦だ。だが、その後ろで二人の世界に割り込む女性が一人。
「いやー、スエイはんは偉いなぁ。ビャクも頼むでー? 夜の森なんて怖くてしょうがないしなー」
なぁ? と視線を向けられる先、菊花の隣にいる白青はふんぞり帰って答える。
「あ、ああ、俺様に任せておけば大丈夫だ! シャーロットとか言ったな。俺様がいるんだ。大船に乗ったつもりでいろ」
それにシャーロットは頼もしそうな、ほっとした笑みを浮かべる。しかし、それを聞いているのが彼女だけではないのは、当然のことで。
「さっすがビャクやなぁ。ほな、先頭はビャクに任せよかー」
菊花によって先頭に送り出されてしまった白青は、一瞬青い顔で振り向くが、期待の込められた視線をシャーロットから向けられ、引くに引けない様子で歩き出した。
「うちらも行こかー」
その後ろ、菊花も呑気に森の中へと繰り出していく。そして、おっかなびっくり、シャーロットとスエイも森の中へと入り出した。
少しずつ、おっかなびっくり進む白青。その背後から、菊花は楽しげに言う。
「なぁ、あそこ、何か通らんかった?」
それに、白青は一瞬ビクッ、と反応するものの、指さされた先をじっと見てから、菊花の方を睨み返す。
「冗談やって。そない睨まんといてーな」
ひらひらと手を振る彼女に、白青はふん、と鼻を鳴らして先に進んで行ってしまった。
「拗ねんなよー」
とそれに続く菊花だったが、不意に、横の方から「うっ……ううっ……」とすすり泣く声が聞こえてきて、立ち止まる。
「うはっ、怖いなー。暗い森の啜り泣き、雰囲気あるなぁ」
一人楽しげな彼女に対し、スエイは声に対して警戒し始める。だが、それどころではない者が、2名。
「す、スエイぃ……」
ぎゅーっ、とスエイの腕に抱き着くシャーロットと、その動きを止めてしまった青白。それぞれの様子を見て、菊花はうーん、と軽く頬を掻いた。見れば、スエイも腕にしがみつくシャーロットを見て呆けた顔をしてしまっている。
やれやれ、とため息を一つつき、菊花は白青の肩に手を置いた。
「さ、先に進もか、ビャク。この声の主も、奥まで行けば出てくるやろ。ぶっ飛ばせば、怖がらしてきた報復になるんとちゃう?」
その言葉に、白青はハッと我に返った様子で頷いた。
「俺様をここまでコケにしてくれた代償は払ってもらわないとな……!」
そう言って再び歩き出す彼を見て菊花は笑い、そして後ろの2人に促した。
「さ、うちらも行こか。奥で皆が待っとるでー」
歩き出す菊花と、その後ろのシャーロットたち。
道中も啜り泣きは容赦なく聞こえる。それに菊花はケラケラと笑っていたが、
「ん?」
不意に、白青が手を握ってきたのに、別の意味で驚いてしまっていた。
「なんや、さっきまでの気迫はどないしたん?」
菊花がニヤニヤと笑いながら聞くと、彼はふんぞり返って言った。
「さっきから怖い怖いと言ってただろう。俺様のためではなく、お前のためだ」
「……そっか。あんがとなー」
変わらずニヤニヤと笑う菊花に、少し赤くなりながら、白青は先へ先へと歩く。
そうして4人が進んでいくうち、気が付けば、そこは開けた場所だった。すでに参加した能力者たちは揃っている。
彼らに声をかけようとした、その時、周囲の空気が一斉に変わった。
●マウスハンドとの決戦
ざわざわと蠢く森の木々と、騒ぎ出す夜の闇。
能力者たちは即座に英雄たちとリンクし始めた。
彼らの間、現れる無数の手と口。何体も現れたそいつらは、得物を求めるように能力者たちに掴みかかり、噛みつこうと迫る。
だが、その程度の攻撃に怯む彼らではなかった。
ある者は容赦なく掴みかかる手を切り伏せ、またある者は矢の的にして遊ぶように撃ち落としていく。次々に現れる手と口を、容赦なく倒していく能力者たち。気が付けば、森の中に漂っていた気配は消え去り、そこには静かな空間だけが残っていた。
「終わった、のかな?」
「みたいだな」
そう言いながら、みらいとカトリがリンクを解く。それに合わせて、他の能力者たちも次々に元の姿へと戻って行った。
「お、終わったのなら、急いで帰りましょう! 夜の森は危険ですし!」
ね! と言いながら、美海は早く帰ることを促す。呆れるクエスだが、それを止める理由もないな、といった顔だ。
「征四郎も賛成ですよ!」
「しゃ、シャルも!」
「僕も賛成!」
次から次へと、怯えていた人たちが賛同していく。
もっとも、そのパートナーたちは、
「そんな怖かったのかよ」
「俺がいるから大丈夫だって言ったのに」
「……」
それぞれに呆れ、萌え、帰りのルートを考えて、といった具合だ。
「そしたらうちらも帰っておやつ食べよかー。な、ビャク」
「あ、ああ。余裕だったな! ま、俺様にかかればこんなもんだ!」
菊花と青白も、すっかり気を抜いた様子だ。
そんな彼らに、モニカとヴィルヘルムが言う。
「皆、帰りも足元とか気をつけてね! しっかり帰るまでは、自然の中なんだから」
「うむ、その通りだ。夜の森は何が出るか分からん。帰るまで気を抜くなよ」
それに各々返事をしつつ、彼らは帰り始めた。
その中で、モニカたちはみらいたちのところにやってきて言う。
「それじゃ、あたしたちは明日も集合だね」
「えっ、どうして?」
不思議そうなみらいに、モニカはそっと微笑む。
「作ったものとか、ちゃんと後始末しないとね。片づけまでやって帰らないとダメでしょ?」
それに、カトリは感心した様子で言った。
「立つ鳥跡を濁さず、だったか。立派だな」
それに、みらいもうんうん、と頷いて見せる。そうして、自然と一番後ろを歩くことになった彼らの背後、誰もいなくなった広場はもう、啜り泣きの声もしない静かな森へと戻っているのだった。
ただ、道中、再びモニカたちの用意したトラップにひっかかり、数人が悲鳴を上げたのは、また別の話である。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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