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犬になったわけじゃない!
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【相談卓】
最終発言2016/06/22 12:04:53 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/06/22 23:16:48
オープニング
●犬になったらなにしましょう
ひろびろとしたドックランで、正義(az0013)は律儀にお座りしていた。
水たまりに映りこむのは、ドーベルマンになった自分である。いつかは猫になったなぁ、と思いつつ正義は、どうやら自分の飼い主らしい小鳥(az0013hero001)が投げたフリスビーを本能のままに追いかけた。
「わんわんわん」
声まで犬になっているなぁ、と思った。
●眠ってたら良かったのにね
「……まさか、こんなことになるなんて」
HOPEの職員達は、頭を抱えた。自分たちの目の前には、自分が犬になったと思い込んでいるリンカーたちがまさに犬っぽく振る舞っている。今日も愚神と戦っていたリンカーたちであったが、そろって愚神の攻撃を受けてしまいこうなったのである。正義など犬っぽく座って、犬っぽく足で耳の後ろをかいている。意外と体が柔らかいらしい。
「ほうら、取ってくるですぅ」
小鳥は笑顔で、フリスビーを投げる。
医者がいうには単なる催眠術で一日もすれば元に戻るというが、あんまりな状態である。こんな醜態がバレないために、近くの学校の体育館を貸し切りにして厳重に鍵もかけている。念のために英雄についていてもらうことにはなっているが……なんというかリンカーたちが正気に戻ったら可哀想な光景でもあった。
「自分が犬だと思い込んでいるなんて……」
解説
・犬になったと思い込んで、体育館内で英雄と遊んでください。なお、リンカーたちは体育館ではなくてドックランにいると思い込んでいます。
(※英雄不参加の場合はHOPE職員と遊ぶことになります)
・体育館……とある学校の体育館。鍵が厳重にかけられており、外に行くことは不可能。だが、倉庫などには鍵はかけられていない。日中であるが、人払いをかけられている。
・正義・小鳥……正義は犬になったと思い込んでいる。小鳥はそんな正義で遊ぶために玩具を持っており、気がるに貸してくれる。
・部員……バスケット部の部員。体育館に鍵がかかっていることを不審に思い、忍びこむ。そのままにしておると、携帯で写真をとられる。
リプレイ
●呑気なわんわんランド
麻生 遊夜(aa0452)は、ふるふると震えていた。別に寒いわけではない。本日の気候は暑くもなく寒くもなくで、絶好のアウトドア日よりであった。普通の遊夜ならば、背伸びでもして日光の光を満喫していた。
「依頼に行った、そこは良い」
うんうん、と遊夜は頷く。
苦戦もせずに勝利の終わった戦いに、今日は早く帰れるなと思ったはずである。
「依頼は終わった、そこも良い」
別段、トラブルはなかったはずである。
「犬になった。……そこも、良くはないが置いておく」
もう、このさい犬になったことは肯定しよう。自分一人が犬になったらパニックに陥っていたかもしれないが、幸いにも依頼を共にした仲間も犬になっている。いや、よく考えるとまったく幸いでもないのだが……ここは考えないことにしよう。
「……何故だ。何故、俺は――」
水たまりに映るのは、大きな瞳に大きな耳。何かに脅えているのか、と自分で突っ込んでしまいそうなほどに震える体。
「チワワに!!」
OLに飼われていそうな外見となった遊夜は、自分の外見にショックを受けていた。小動物よりも少し大きいぐらいの体格になったせいで、目に映る者が全てのものが巨大で目新しくはある。だが、チワワはいただけない。犬になるならば、もっと強そう犬種がいるだろう。
土佐犬とか。
ハスキーとか。
「俺もあれが……あれが良かった」
ドーベルマンになった正義に、遊夜は羨望の眼差しを向ける。真っ黒でしゅっとしてて、とてもカッコイイではないか。なんで、自分はチワワなのかと。
『……ん、ユーヤ』
名前が呼ばれ、反射的に遊夜は振り向いた。そこにいたのはユフォアリーヤ(aa0452hero001)であり、彼女は自分に向かって両手を広げている。あれは……小型犬に「おいでー」と言っている飼い主そのものである。たしかに今の遊夜ならば、あの両手に飛びこむこともできるであろう。だが、それはダメだ。見た目はチワワでも、心はドーベルマンなのである。そんないかにも小型犬ぽい行動など、誇りが許さない。
だが、遊夜の体は思いに反してぷるぷる震えていた。生まれたての小鹿のほうが、もっとしっかり立てていたであろう。
『…ん、ほらユーヤ。あっちいくよ。お友達もきてるんだから』
いつの間にか、遊夜はリーヤにしっかりと抱きかかえられていた。現実であったらありえない光景であり、どうにも違和感が付きまとう。
「わ……わんちゃんだー!?」
遊夜が連れていかれた先には、ポメラニアンの子犬がいた。ほわほわの毛並みをした子犬は、ビー玉のような目をさらにまんまるくして驚いていた。
葛原 武継(aa0008)であった。
彼は、ふんふんと遊夜の匂いを嗅ぎながらも涙目になる。
「このまま戻れなかったら、どうしよう……パパやママに、会えなくなっちゃう……。もし、このまま戻れないとしたら、僕たち、わんちゃんとして生きていくしか……」
子供らしい弱音に、遊夜は言葉に詰まった。
今は大丈夫だと言う気軽な励ましもできない。なにせ、原因がまったくわからないのだから。
「ドッグフードとか……食べないといけない。……あと骨の形のガムと。あと、おふろにも入れられちゃうし。わしゃーってライカにタオルでふかれちゃう……」
どーしよー、ドライヤー熱いよ! と武継は嘆いていたが、後半は気持ちよさそうだった。武継は「ドックフードはいやだよー」と言いながら、Лайка(aa0008hero001)の顔をぺろぺろと舐めている。
『武継……良い子にしていろ』
ぺろぺろ、と顔を舐める武継をライカは引き離す。
くーん、と不安そうになく武継の頭をライカはぽんぽんと叩いた。
『離さない……心配するな』
「ライカ、ライカ。そのままぎゅってしてて、お願い。どこにも行っちゃだめだよ」
言葉がわからないかもしれないと不安になるけれども、ライカは自分をぎゅっと抱きしめてくれていた。それだけで、少しだけ武継はほっとしてしまう。
「わふっ。お風呂かー。気持ち良さそうだね」
老犬のようにゆったりと地べたに寝っ転がっていたのは、木霊・C・リュカ(aa0068)であった。シェットランド・シープドッグという犬種になった彼のお腹は、今やすっかり泥だらけであった。せっかくの長い毛足も台無しな光景であった。帰ったらオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が洗ってくれないかなー、とすっかり犬ライフを満喫しているリュカは考える。
「サクラコ、しょーぶなのです!! ボールを先に捕まえたほうが、勝ちなのです!」
「いっぱいはしりまわって遊ぶぞ! 遊ぶんだぞ! べるべっとよ、ボールをなげよ!」
へっへっへ、と舌を出して嬉しそうに駆けまわっているのは紫 征四郎(aa0076)と泉興京 桜子(aa0936)である。ポメラニアンと柴犬の子犬となった彼女たちは、『仕方ないわね……思いっきり遊べばいいんでしょ!! ほら、ボールよ! とってきなさい!』と叫ぶベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)のボールに向かって一直線に走っている。
「先にボールをベルベットのところに持って帰ったほうが、勝ちなのです!」
「ぼーるーぼーる! おいかけるであるぞ――!」
二匹の子犬は、ボールと一緒にころころと転がっていった。
若いなー、とリュカは二人の姿を見つめる。先ほどから手足がおかしな痛みかたをしているリュカにはできない動きである。怪我をしているわけではない。ものすごく馴染みのある痛みなのだ。そうたとえば――普段使わない筋肉をうっかり使っちゃったような感じの痛みだ。人はそれを筋肉痛と呼ぶのだが。
「お! りゅかどのー! いっしょにあそぼうであるぞ!」
自分の周りをぐるぐると回り始めた桜子に、リュカはぎくりとする。筋肉痛っぽい痛みで動けなくなっているとは言いづらい。
そんなとき、オリヴィエがほとんど無言で桜子とリュカの間に入った。そして、すっと小さな掌をリュカの前に差し出す。なにかくれるのかなー、とリュカは期待に目を輝かせながら尻尾をぶんぶんと振っていた。
『……お手』
オリヴィエはやっと絞り出したような声で、そう言った。
リュカは素直に、ぽんと手をおいた。
「ジャーキーの匂いがするよ! おやつちょうだい! おやつ、おやつ」
ご褒美、ご褒美、とリュカはお腹を見せてごろごろと体を揺らし始めた。
『そんな簡単に腹を見せるな、野生がなさすぎないか。まだ征四郎の方が野生っぽいぞ』
犬の野生化はオオカミじゃないかなー、と思いつつもリュカは貰ったジャーキーに大喜びした。さて、ゆっくり味わおうかと思っていると……。
「おいしそう……」
と、桜子がよだれを垂らしていた。見れば、征四郎や武継も似たような表情をしている。これは自分が貰ったジャーキー……と思いつつも、リュカは断腸の思いでジャーキーを子供たちに譲った。大人は、時に辛いものである。
「ジャーキーを賭けて、今度は三人で勝負であるぞ」
「僕もなんですか!」
自信ないです~と言いながらも、ライカの腕から離れた武継もボールの追いかけっこに混ざる。ちなみに、ジャーキーは忘れられた。リュカは、ちょっと悲しいが耐えた。大人とは、そういうものなのである。
『あー、また要らねぇ気を使いやがって……』
ガルー・A・A(aa0076hero001)は、他の犬とばかり遊ぶ征四郎を突然追いかけ始める。子犬から見たら、小山のような巨体がいきなり自分達に向かって走り出したのである。普段見慣れているとはいえ、その時ばかりはガルーが鬼のように見えてしまっていた。
「な、なんで追いかけてくるのですか。ガルー!!!」
「ライカ~。助けてください!」
「鬼ごっこであるぞ。負けないぞ」
約一名(桜子)をのぞいて涙目になった子犬たちであった。散々走りまわった征四郎は、とうとうガルーに捕まってしまった。ちなみに、武継はライカにすでに保護されている。「よしよし」と背中をぽんぽんと撫でられる武継は、まだガルーのほうを直視できていなかった。
『あのさぁ、なんでオリヴィエやリュカに懐いてんの。お前さんの飼い主は、俺様だろうが』
小さな体をひょいと抱きかかえられて、征四朗はガルーの膝に乗せられる。そのまま頭を撫でられた時はぎょっとしたが、優しいガルーの手に疲れた体が重くなっていく。
「……そういえば、頭を撫でられたのは初めてなのです」
普段、ガルーは征四郎の頭など撫でない。
そういうことをする男でないことは、征四朗が一番よく知っている。
けれども、今のガルーの手はこんなにも温かくて優しい。
ガルーは小動物が苦手だったのにと思いつつ、征四朗は大きく欠伸をした。今の征四郎は、子犬なのである。だから、頭が撫でられたことも遊んで眠たくなることもあたり前なのだ。
「ガルー……もうちょっとなのです」
これが夢なら、覚めるのだ。
だから、もう少しだけ自分の頭を撫でていて。
『……たまには、いいか。甘やかすのも』
『わんこ優牙だー♪』
プレシア・レイニーフォード(aa0131hero001)は、柴犬になった狼谷・優牙(aa0131)を撫でていた。喉を撫でてもごろごろいわないねー、と言いつつやりたい放題である。
「あ、何か凄い既視感ですー。前は猫でしたよねー。……僕」
今度は犬かー、程度の気持ちしか感じなくなった己がちょっと悲しい。そんなふうに達観していた優牙であるが、突然にプリシアは優牙をぎゅっと抱きしめた。
『毛もちょっとかたーい!』
「プレシア、抱きつくのはダメなのですよー!?」
あわあわと戸惑いながらも、プリシアに抱き締められるのが気持ちいいことにドキドキしてしまう。
「こっ、これは犬になったからなんです!」
犬は飼い主が大好きだから抱きしめられると嬉しくなっちゃんです! と優牙は言い訳をし始める。
「大好きだから、甘えたくなったくなっちゃうのね」
優牙の言葉に、目を輝かせた女性がいた。フィアナ(aa4210)である。小型犬になった彼女は、遠慮なんてせずにルー(aa4210hero001)に体当たりをする。小さな彼女の全体重をルーは『おっとと』と呟きながら支えようとしたが、バランスを崩したのか尻もちをつく。
「大好き!!」
小さな舌を伸ばして、兄の顔に近づくフィアナ。
「あわわわ。大胆すぎます!」
と、顔を真っ赤にしている優牙。
プリシアは、優牙の黒い肉球を押して遊んでいた。
『ちょっと待ったフィアナ、それは駄目だよ。ストップ』
フィアナの顔を掌で遮るルーは、彼女に優しく『ステイ』と声をかける。待て、と言われるもフィアナの視線は、大好きでたまらないルーに向けられていた。
『ルー君は、フィアナ君と遊んであげないのかな?』
幼いプリシアは、首をかしげていた。
その手には、ちょうどいいサイズのボールが一つ。優牙の胸に、嫌な予感が広がった。
「あ……あんなの投げられたら。ころころ転がって、どんどん遠くにいって」
『一緒に遊ぶのは楽しいんだよね。そーれ、ボール取ってくるのだ♪』
ぽーん、とプリシアがボールを投げた。ゴム製ボールは良く弾み、それを追って優牙は走り出す。
「ああ、ボール投げられると身体が勝手に動くのですよー!?」
わーん、と言いつつも優牙はボールを追いかける。
その光景を見ていたルーは「どうせお遊びである」とあきらめたように。フィアナの頭を撫でた。
『……はぁ……分かった分かった。頬ならいいよ』
ルーの許可が降りた途端に、フィアナはルーの頬をひたすらぺろぺろと舐め続ける。体全体から大好きが溢れ出ており、尻尾を千切れんばかりに振っていた。
『……うん、流石に変化はあるか……』
自分の顔に蜂蜜でも塗ってあるかのような興奮ぶりに、ルーは頬に限定して良かったとほっとする。こんな流れでうっかりキスなんてしたら、女の子のフィアナは可哀想だ。
そんなマイペースな二人組を横目で見ながら、自分を恥じる少年がいた。天野 一羽(aa3515)である。伊分に対するルナの態度がいつもとはちょっと違うような気がして、気恥ずかしくなってしまう。今は一羽は犬であるから、当然なのかもしれないが。
『一羽ちゃん~。迷子になったら困るよね』
ルナ(aa3515hero001)は実に楽しそうに、ボーダーコリーになった一羽の喉を撫でる。
『リラックスしていてね』と囁く彼女の声は、犬に対するものとは思えないほどに色っぽい。つつっ、喉を撫でられる感触に思わず一羽はうっとりとした。犬になったせいなのか、喉を撫でられるのが素直に好きだと言えるような気がした。細い指先に身をゆだねていると、いつの間にか一羽の首には少しごつい首輪がはめられていた。
『危ないから、離れないようにね』
そう言って微笑むルナの手には、何故か鎖。よく見てみると、鎖は自分の首輪に繋がっている。少しごついのは、どうやら鎖付きの首輪であったかららしい。もっとも、鎖は一羽の動きを阻害するような長さではない。
『……可愛い。可愛い!!』
一羽の頭を撫でるルナの様子を見て、一羽は少しばかりほっとする。彼女が付けてくれた首輪が似合っていて、ほっとしたのであった。
『どうしよう、一羽ちゃん飼いたい』
ぼそり、と不穏な台詞も聞こえたが。
『……お手。おすわり』
恐る恐るといった様子で自分に命令するルナに、一羽は答えた。すべては簡単な命令であり、一羽には朝飯前である。成功したので褒めてくれると思ったら、ルナは顔を真っ赤にして両手で口をふさいでいた。
『……可愛い。可愛い!! 大事な事だから二回言っちゃった!!』
きゃー、と飛び跳ねそうになるルナに、一羽は首をかしげる。
自分はなにか特別なことをしたであろうか、と。
『せっかくだし、フリスビーを借りてきてみたんだけど……。さーて、投げるわよー。一羽ちゃん、取ってらっしゃーい♪』
「ずいぶん遠くまで投げるなぁ」
ルナの手から放たれたフリスビーに言葉だけで呆れつつ、一羽は内心目の色を変えていた。自分の頭上よりも高く飛ぶ、フリスビー。
あの丸いおもちゃを、ルナの元に持っていきたい。
持っていって、もっと褒められたい!
そんな犬の本能に逆らえず、一羽はフリスビーを追いかける。フリスビーの高度が下がった瞬間、一羽は跳んだ。空中でフリスビーをキャッチすると、体をひねって方向転換をする。その後は、ルナの元に戻るだけだ。
『もー、本当に可愛い!!』
ルナは大喜びで、一羽の頭を撫でた。『お姫様のキスで元に戻らないかしら』という物騒なことを考えていることは隠して。
「べるべっとよいっぱい走り回っておったらはらがすいたぞ! べんとうをひろげよ! ごはんのじかんであるぞ!」
散々遊びまわった桜子は、ベルベットの前でお座りする。へっへっへ、と彼女に熱い視線を送って、自分が希望するものが与えられるのを待っていた。
『んー? 何? お弁当…? ああ…お昼だしちょうどお腹すいたのね? じゃあ開けるからちょっと待ってなさい』
ベルベット自分の荷物から、大きなお弁当を取り出す。その匂いに、さっきまで寝転んだままだったリュカが、しゃきんとお座りの体勢になった。その様子に、オリヴィエは何とも言えない顔をしていた。
『いっぱい作ってのよ。さぁ、召し上がれ』
●色々な意味でドキドキの体育館
『ああ! いきなり寝転がるんじゃないわよ!! 着物が崩れるじゃない! って寝てる……』
桜子は体育館の真ん中で、仰向けになって寝息を立てていた。すぴすぴ、と深く眠っている彼女にベルベットはため息をついた。桜子もリュカも……この場にいるリンカーの全員がさっきから「わんわん」としか言っていない。HOPEの職員いわく、犬になった夢を見ている可能性があるとのことだ。おそらく、その考えはあたりなのだろう。
今は寝ている桜子だが、さっきまでは物凄く大変だった。他の人を追いかけ回したり、ボールを拾って来て「投げて!」とアピールしたり。そのたびにベルベットは『裾がっ!』と叫んだものである。
『元に……戻るのか?』
武継に頬をキスされながら、ライカは尋ねる。
HOPE職員は「おそらく」と非常に歯切れの悪い答えしか返すことがなかった。ライカとしては、不安がる武継を少しでも安心させたいのだが歯がゆかった。
『……待て』
オリヴィエはスマホで犬のしつけ方を調べて、リュカで実戦していた。リュカの顔を向ける先には、桜子が食べきれなくて残したベルベットの手作り弁当があった。体に変化は全くないのに、仕草のせいか今だけはリュカがとても犬っぽく見えるのが不思議である。
ガルーは征四朗を膝の上に乗せたまま、そんな光景を見て苦笑いする。
うつらうつらしている征四郎は、ガルーの掌が気持ちいいのがなすがままである。非常に大人しいので、ガルーもついつい甘やかしてしまう。
犬も猫も、ガルーは苦手だった。戦場に小さなものを連れていくのが、怖いのだ。守るべきものが、守れなかったときが恐ろしいのである。
『……まぁ、どうせこいつは覚えてはないか』
自分に撫でられる征四郎を眺めながら、ガルーは目を細める。
そんな光景をルーは、優しい眼つき見守っていた。
『……ん』
遊夜と戯れていたリーヤが、顔をあげる。犬になったと思い込んでいる遊夜は、ボールを持ってきたのに褒めてくれないリーヤの若干不満げである。うー、と唸っている。無論、それは犬の鳴き声ではなく、人間の声帯ででる声だ。
わんわん、と吠えた遊夜はリーヤにのしかかった。おそらくは「もっと遊べ」と言いたいらしいが、残念ながら現実の遊夜の体格は成人男性だ。夢見ているチワワではない。押し倒されたリーヤは、まんざらでもない表情で『……ん、やーん』と照れて見せる。わずかに潤んだ瞳で見上げると(ボールへの欲望)に興奮した、遊夜の姿。
へっへっ、と舌を伸ばす成人男性と妙齢の美女。
道端だったら、確実に警察が呼ばれていたであろう。
そんなときに、カシャと音が響いた。
英雄たちは、音がした方向を見る。そこには、ジャージを着た少年の姿があった。スマホを片手に持った彼は、この光景を撮ってしまったのである。リンカーたちが、犬になって戯れる姿を。
『えっ? これ撮られたら、一羽ちゃんが社会的に死んじゃうの?? ちょっと、プレイ中の恋人たちを撮るなんて最低よ!!』
ルナの言葉に、高校生は逃げた。
「うわぁ、見てません。俺は見てません!! そう言う人の集まりなんて、見てません!!」
『しっかり、見てるだろ!』
「ロリコンの飼い主が追い掛けてくる!!」
ガルーは、征四朗をライカに預けて少年を追った。ライカの右手には武継、左手には征四郎。可愛い少年少女を抱っこできて、若干ごきげんである。
『……ん、ユーヤは男の子を追い掛けて』
飼い主であるリーヤに命令された遊夜は、少年を真っ直ぐに追い掛ける。涙目なのは、少年である。何が悲しくて四つん這いになった成人男性(しかも、けっこう足が速い)に追いまわされなければならないのだろうか。
『……ん、後ろばっかり見てるのはだめ』
少年が、尻もちをついた。
いつの間にか正面に回り込んでいたリーヤが、少年の目の前で笑みを浮かべていた。
『…ん、撮ったの、ちょうだい?』
『うふふふ♪ わんこになりきった優牙の写真ゲットなのだ♪』
プリシアも、わしわしと犬になりきっている優牙の耳の後ろを嬉しそうに撫でていた。
『なるほど、写真が欲しかったんだな』
自分の相棒を膝に乗せながら、英雄ルーはぽんと手を叩いた。おおらかなルーは、自分とフィアナの関係性が第三者にどう見られるかなど考えてなどいなかった。おそらくは、フィアナもちっとも気にしないであろう。
数時間後、リンカーたちは無事に元にもどった。
英雄たちは、妙に嬉しそうな顔をしていたという。
――写真の行き先?
残念ながら、HOPEの職員は把握していない。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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