本部

広告塔の少女~ユートピアを謳おう~.

鳴海

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
少なめ
相談期間
4日
完成日
2016/06/20 10:39

掲示板

オープニング

● 会議室にお菓子の持ち込みはありですか?

「おかしはグロリア社で用意するから、持ってこなくていいわよ」
 遙華は電話を肩と耳で挟んで両手でPCにキーを叩いている。
「ええ、うん。そう十二時から。御飯は、カツどんにする? いやね、取り調べじゃないわよ。みんなの意見がききたいなってだけ」
 そのPCのモニターには。グロリア社テーマソング計画と撃ち込まれている。
 その後に続く文字は、どうやら歌のコンセプトのようだ。
「ええ、そうして頂戴。そうね、頼りにしてるわ。よろしくね」
 そう遙華は電話を切るとロクトに向き直る。
「無事協力は取り付けられそう?」
「ええ、たぶん。まぁ。予定が付けばって言ってたから。どうなるかは結果待ちよ」
 そう言うとロクトは遙華へ珈琲を差し出した。
「テーマソングねぇ、老人たちも気軽に行ってくれたものね」
 ロクトは遙華の机にお尻をのせて足をくんだ。そしてモニターを見つめる。
「ユートピア? それがあなたの作りたい曲?」
「ええ、理想郷。世界にぽつりと残された私たちが、私たちの理想郷を作っていく。のりがいいアップテンポな、挑戦的な曲を目指すつもりよ」
「歌詞なんかは?」
「そうね……
 ここからゲームを始めよう。あるのは知恵と勇気、僕らの拳のみ。
 いわば世界の創世記。いつか古と、謳われる物語、今はじめよう」
 遙華は頬を赤らめながらそう詩を口ずさんで見せた。
 そしてこんな感じでどうかしら、とロクトを見つめる。
「却下ね」
「え!」
「もっと者悲しくて、優しい曲調の方が耳に残るわ」
「じゃあ、ロクトは何か案があるの?」
「ないわ」
「えー」
「それをこれから集まってもらう人たちに作ってもらうんじゃない」
「それって丸投げっていうのよ!」
「大丈夫よ、きっと……」
 そうロクトは遠くを見ながら言った。
 本当に大丈夫かなと遙華はその視線を追う。今日も空が晴れ渡っていて、綺麗だった。

● お菓子
 クッキーやチョコレート、饅頭やケーキ、節操なくいろいろ取り揃えられた。
 ソフトドリンクもたくさんの種類があります。
 皆さんで持ち寄ってくださっても構いません。

● で、結局何するの?
 遙華の依頼発注文にはこう書かれている。
【急募】作詞作曲に協力してくれる人募集。
 グロリア社の会議室で、グロリア社が使える曲を作ってくれませんか?
 お菓子あります。
 全部で二曲作ってほしいですが。
 片方しかテーマが決まっていないので、もう片方は本当に集まってくれた発想しだいになります。

一曲目が『ユートピア』
 世界にぽつりと残された私たちが、私たちの理想郷を作っていく。
 のりがいいアップテンポで挑戦的な曲が良い。
 歌詞はサビをみんなで作ってもらいたい。AメロやBメロ、他の構成は、作ることができれば。

二曲目がタイトル未定。
 しっとりした、泣かせる曲がいいとロクトの弁。
 こちらについては最悪完成しなくてもいい。
 本当に皆さんの発想しだい。丸投げである。
 
 曲についてはグロリア社で利権を持つことになるが、特定の歌手はいないので、いろんな人に歌ってもらいたいとのこと。

解説

目標、曲を二曲作る
 雑談がてら二曲分の構想をまとめます。
 後日PV撮影などお願いすることになると思います。
 もしできるのであれば三曲目も作ってくれて構いません。

具体的な作業。
1 ユートピア以外はタイトルを決める。
2 サビの歌詞を決める
3 曲で使う楽器を決める。雰囲気なども決める。
4 PV演出などを決める

 曲作りそこそこにロクトや遙華と雑談でも構いません。普段から気になっていたあれこれに、遙華やロクトが答えます。

リプレイ


プロローグ
「今日は来てくれてありがとう由香里」
『橘 由香里(aa1855)』はそう会議室に通されるも、その会議室の光景に唖然と口をあけることしかできなかった。
「オネーーーチャーーーン」
『古賀 菖蒲(旧姓:サキモリ(aa2336hero001)』は後ろから『蔵李・澄香(aa0010)』の胸をタッチ揉みしだいている。
「きゃあああ!」
「えへへ……結婚はしたけど、いつもどーりアイリスって呼んでね」
 そしてそんな意外なシーンからの唐突な自己紹介。
 由香里は心の中で叫んでいた。くるとこ間違った……
「うひゃあああ!」
「むしろ、セクハラ大魔神なんじゃ……」
 『小詩 いのり(aa1420)』がそんな光景を眺めつつ言った。
「ちょ、たすけていのり!」
 そんなやりたい放題のアイリスの肩を叩くものが一人、『煤原 燃衣(aa2271)』である。
「えへへ……サインをぉ……」
「なんじゃ!」
 アイリスはとびあがって驚いた。
「アイドルさんたちの…………。サインを……」
 そんな異様な雰囲気の燃衣に完全にビビッてしまうアイリスである。
「ああ、寝不足独特のぬるぬる感が、燃衣を変態っぽく見せている」
 遙華が謎の解説を入れた。
「いやぁ。実は僕とネーさんの趣味が音楽でして……。はりきっちゃいました」
 そういい笑顔を向ける燃衣、幸せそうである。
「燃衣、頼まれた機材が全部あるか確認してくれ」
 そう、一冊の台帳を燃衣に手渡す『防人 正護(aa2336)』そこにはPV撮影や、作曲活動のために燃衣が申請した機材全てが書かれている
「さすがの手際ね、主任」
「いやぁ……いろいろ考えてきてあるんですよ。よーしよし、泣けるコードはCマイナーからの……」
「……ダメだ。リフとメロが先……だ。コード進行はその二つに合わせて作れ」
『ネイ=カースド(aa2271hero001)』はギターの音を確かめるようにアンプなしでかき鳴らしていた。その指の動きはなめらかで普段の大雑把さはまるで感じさせない。
 そんなキャラクターの濃い燃衣とネイに押され気味の由香里。
「いやあ。これはあれじゃな。他の参加者がガチ過ぎて話に入っていけぬな。ホホホ」
『飯綱比売命(aa1855hero001)』はそんな青ざめた由香里の肩をポンとたたいた。
「笑って誤魔化しても駄目よ飯綱比売! 私が至極散文的なセンスしかないの分っていてその場のノリで依頼入れた癖に!」
「まぁまぁ落ち着いて」
 いのりがそう由香里に苦笑いを向ける。
「まぁ、そうだよね、そうなるよね。あ、じいや。お茶ひとり分追加で」
『セバス=チャン(aa1420hero001)』はそう命じられると手際よく、二人の前にお茶とお茶菓子を並べた。
「玉露と水羊羹と、澄香お嬢様のクッキーがあちらに……」
「あ、ありがとう」
「ありがとう、じいやはもう仕事優先でいいよ?」
 そういのりが視線を向けると、少し離れたところにロクトと『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』が難しい話をしている。
「さようでございますか? ではお言葉に甘えさせていただきましょう」
「では、こちらもさっそく会議を始めようじゃないか」
全員がそろったところで『アイリス(aa0124hero001)』が羽をパタパタさせながら言った。
『イリス・レイバルド(aa0124)』も立ち上がり、イミテーションウィングをパタパタさせるが、机の上が観にくいので澄香の膝の上に座った。

●案件1《ユートピア》
「クッキーとジャムが合うね」
「紅茶とも合うね」
 そういのりと澄香はアイリスの作ったジャムを食べてご満悦だった
「クッキーありがとう。おいしいわ」
 遙華も澄香のクッキーが気に入ったようでバリバリと食べている。そんな和やかな空気の中、澄香がさっそく手を挙げた。
「はいはい! じゃあさっそく」
「私たちがね、遙華の発注分から膨らませたイメージはこんな感じだよ」
 いのりが企画書をみんなの前に出した。
 海に囲まれた島国で砂浜を裸足で駆ける子供たちの物語。
 海と砂浜、花畑などで歌手が歌う場面と、皆で砂浜を歩いて足跡が続いているイメージ。
 そして、物語が始まる。
「楽器はギターに電子音(グロリア社の音楽ソフト使用)を使って民族楽器的な音も。タンバリン、カスタネット、トライアングル、参加者のコーラスで飾り付けてにぎやかに」
「歌詞はボクが考えたよ」
 そう差し出される歌詞カード、それを遙華とイリスとアイリスで覗きこむ。
 そうワイワイと楽しそうに話を進めるアイドルたちを見て燃衣は笑った。
「……なんだか。可愛いですね、アイドル。いいと思います」
「いつからその路線になったんだ?」
 正護が呆れて言った。
「すごくいい!」
 遙華が目を輝かせて言う。
「ただ、商業的な問題があってね、もう少し厚くできないかしら、これだと曲がすぐに終わりそうな気がして」
「うーん、ループさせる? こんな感じで」
 そういのりは、引っ張ってきた電子ピアノを弾いて見せる。
「すごいや、いのり」
「さすがだね、いのりさん」
 アイリスが、はははと笑う。
 そんな会議室の状況をどこか俯瞰風景で見つめながら由香里は、作詞、作曲という難題に一人で立ち向かっていた。
「おお、由香里よ、水餅じゃ、今の季節にピッタリじゃのう」
「何をのんきな……」
「如何にものーぷらんじゃったが、ま、なにごとも経験じゃ。わらわはお茶菓子など戴きつつ眺めておるゆえ、あとは頑張るのじゃぞ」
「ちょっと! 責任取って一緒に考えなさいよ!?」
「あ、そうだ、由香里にきいてみましょう」
 その声で遙華は思い出したのか、唐突に由香里に意見を求める。
「歌詞に厚みを出したいのだけど。何かいいフレーズはない?」
「えーっと」
 ゆかり自身歌とは無縁の生活を送っている、実家に認められることばかり考えて、成績、実績ばかり追い求めた人間なので、芸術の分野というものはちょっときつい。
 歌ったことがある歌など、校歌くらいなものか。
「うう、頑張ってはいるけど……。私そもそもこういうの苦手で」
「わかるわ……その気持ち」
 そう遙華は苦笑いを返す。遙華も元々サブカルチャーとは無縁だったので、由香里の気持ちは痛いほどわかるのだ。
「まぁ、砂浜で戯れるように踊ってコーラスで盛り上げていれば良いんじゃないかな」
「まさにそれだね」
 アイリスの言葉に澄香は拍手を送った。
 無邪気な子供たちが戯れている映像がぴったりだと、澄香がせんべいをかじりながら言った。
「あなた、お腹減ってるの? カツどん食べる?」
 澄香はカツどんを注文していた。クラリスは親子丼を注文していた。
「うん、お姉ちゃんはそれでもできるよね」
 イリスが神妙な面持ちをして言う。
「でもボクはそうはいかないからリードしてね?」
 顔は渋げだが、羽がパタパタしているから嫌ではないらしい。
「顔見知りが多いからか。知らない観客がいないからか。とにかく撮影だというのにイリスも慣れてきたものだねぇ」
 アイリスはイリスの成長を喜ぶように笑った。
「もう、この三人で依頼に入るの何回目だろうね……」
 そういのりは言いつつ、イリスのほっぺたをつついて見せた。それに習い澄香も反対側のほっぺたをつんつんして遊ぶ。
「まぁ、私たちが始まりの一歩を踏み出す……そういうつもりで気軽に遊びたまえよ新しい歌(イノチ)を歌うんだ、沈んだ気持ちでは勿体無いさ」
「ふぁい」
 イリスがいじられながらそんなくぐもった返事を返すと、話がひと段落したと見たのか燃衣が名乗りを上げた。
「あ、こっちも確認お願いします」
「わらわもじゃ!」
 ではお次にアイリスと燃衣の企画書へ目を通していこう。

●案件2《絆色の種火》
「さて、燃衣さんもまたルネさんに影響された歌か……これは手を抜けないね」
 アイリスが傘をくるりと回して企画書を覗き込む。
 テーマは《ディストピア》だと燃衣は言った。
「……えーっと。この世の中はですね、辛く理不尽なんです」
 その燃衣の話を真剣に聞いている遙華だったが、その耳にはなぜかアイリスがかじりついている。
「んー。じゃぷじゃぷする」
 慣れてしまった遙華である。
「つまらん」
 そうアイリスは別のターゲットを探してあたりを見渡すと、おあつらえ向きにいじりがいのありそうな由香里がいた。
 アイリスはいかようにして彼女を料理しようか思案を巡らせる。
「……愚神の脅威が、あり。……死が覆う世界はまるで「ディストピア」です……」
 場の温度が二度ほどスッと下がった気がした。燃衣の瞳から光が失われていく。
 その脅威に大事な人を亡くす人も大勢居る
「そんな喪われた人からの、まだ生きている大切な人への『生きて、頑張って』というメッセージ、こんな感じでどうでしょう」
「いや、燃衣はまじめな話をしている時はわりとこんな感じだぞ」
 場の空気が変わったことにフォローを入れる正護。
「いいじゃない、対になっている感じが私は好きよ」
「……そうですね、PVも対比したような感じにしましょう。蔵李さん、小詩さんのPVと対照的に…………瓦礫の山、荒廃した世界って感じで、そして」
 その燃衣の言葉を合図に正護がテーブルの上にアイテムを広げる。それは特殊な素材を用いて作られた水晶のペンダント、全て微妙に形が違ったり、紐の括り付け方が違ったりする。
「今回の作戦に使う品です、みんなでおそろいのペンダントをつけます」
「見本品よ、よければあげるわ」
「歌はアイリスさんにお願いします!」
「ははは、光栄だね」
「ギターはネーさん、ドラムはボク」
「電子ピアノはいのり!」
 遙華がずびっといのりを指さす
「え! ボク!?」
「お願い!」
「いいよん!」
「じゃあ由香里が被害者Aで」
「そんな配役なかったわよね!」
 由香里の抗議の声を無視して遙華は言う。
「PVについては大体固まったわね」  
「わらわの曲が残ってる!」
 忘れていたわけじゃないのよ、そう遙華はアイリスをなだめた。その無表情の言葉からは、それが本当なのか嘘なのか感じ取れなかった。
 

●案件3  月煌に咲く狐の歌~renard~
「この前の依頼で歌った歌が完成したのじゃ」
 そうアイリスは企画書を配る。
「『雨上がりの月夜』『狐』を重点に演奏時と演出を交互に和風チックで」
「え、それグロリア社に持ち込んでよかったの?」
「ん?」
 アイリスは首をかしげた。
「まぁいいわ。話はまとまったし。さっそくPV撮影言ってみましょうか」
 ただしここでは簡易版である、きちんとした演出をしようとするとなると、ロケの必要もあるため、だいたいこんな感じというものを把握する程度でしかないとだけ、遙華は説明を入れた。

● PV撮影、ユートピアの場合
 
 そこは寄せては返す夏の砂浜、鮮やかな木々や草花が彩りを添え、二人の少女が佇んでいた。白いワンピースの澄香は貝殻に耳を当て佇んでいる。
 いのりは短パンにTシャツのボーイッシュな格好で海際に体育座りをしていた。
 その後ろをアイリスとイリスが駆けていく。
 二人の口が歌を口ずさんだ。
Aメロ
《僕らは世界の子どもたち 何もない砂浜で 遠い楽園に思いを馳せる。
たとえ世界が荒れ果てて 希望なくした世界でも きっと僕らなら大丈夫》
 場面は夜に替わる、二人は手を繋いで輝く星々を見つめていた。
Bメロ
《もし心が折れそうになったとしても いかなる星の下に生まれようとも
誰にでも訪れるグロリア(栄光)》
 次いで廃墟、蔦が壁を覆ううち捨てられた楽園で、裸足の少女が手を取り合って踊る。
 ちなみにギターはネイで、ドラムは燃衣。
 由香里は顔を真っ赤にしてマラカスを振っている。
サビ
《ここから旅を始めよう あるのは意思と希望 僕らの夢のみ。
いわば始まりに詠う詩 いつか軌跡と謳われる物語 今はじめよう》
 場面は転換して、また砂浜、イリスとアイリスとゆかりが水を掛け合って遊んでいる。
 それを見つめながら麦わら帽子の二人が手を繋いで歌っている。
Aメロ
《僕らはただの子どもたち 何一つ持たずに 産声を上げる。
たとえ太陽すらが偽りで 希望なくした世界でも 胸に響く声が 導く明日》
Bメロ
《いかなる苦難が待ち受けようとも 信じられる仲間が傍にいてくれる
乗り越えれば訪れるグロリア》
サビ
《ここからゲームを始めよう あるのは知恵と勇気 僕らの拳のみ。
いわば世界の創世記 いつか古と 謳われる物語 今はじめよう》

 そして二人は海の向こうにある世界に思いをはせる。
 この先に何が待っているか分からない。
 けれどいのりと澄香は手を取り合って、笑いあって歌う。

Cメロ
《歩き疲れた時には、思い出すよ。
この旅が決して一人だけじゃないこと。
そう、キミがいること》
 ネイが瓦礫に足をかけ、体をのけぞらせながら弦をはじく。

《ここが、きっと理想郷》

 そして廃墟へ。さっきのメンバーに飯綱比売命もトライアングル持参で参加である。
 二人は背中合わせに目を瞑り歌う。その温もりがあれば怖くないとでも言うように手を伸ばす。
《ここから戦いを始めよう。あるのは手をつなぐ温もりと、どこまでも響くこの歌と。
目指すはこの世のハッピーエンド。救いへ至る物語、今はじめよう》

《仲間と共に、ここから新しい世界を始めよう》
 


● 月煌に咲く狐の歌~renard~ の場合

 赤い鳥居、そして古い社、周囲には木々が生い茂り。ここは山であるようだった。
 アイリスは銀蒼色の留袖をきこなし、三味線をにコードを繋ぐと、スピーカーからキィンと音が鳴った。
 その後ろでは由香里と飯綱比売命が顔を布で隠した、僧として待機しており、和琴に手をかけている。
「 時が経てば雨はやみ、狐色の月が出る
その時にはもう遅い、貴方はもう戻らない
私が何度も化けれても、思い出は化かせない
貴方の笑顔、眩し過ぎて」

 アイリスは階段をゆっくりとした所作で降りながら。カメラに視線を送る。

「この蒼い月狐(つき)の光の下で
私の思い、ただ伝えたい
時よ止まれ、霞んだ幸せが光に溶けて
消えぬように……」

 普段とは違う大人びた雰囲気に場が飲まれた。

「時が経てば雨はやみ、狐色の月が出る
その時にはもう遅い、貴方はもう戻らない
私が何度も化けれても、思い出は化かせない
貴方の笑顔、眩し過ぎて」


「もう戻らない“時”
かけがえのない“霞んだ”幸せ
それでも“明日”は来る
雨はやみまた同じ“月狐”の下で」

「遠く離れていても、同じ狐色の月が出る
もう遅いなんて言わないで、心だけでも貴方の隣に
たとえ化かされていたとしても構わない
そのすべてを受け入れよう 
静かに笑うあなたのように」

「この蒼い月狐(つき)に照らされて
私は濡れて会いに行く
時よ戻れ、滲み霞むあなたの姿が
消えぬように…」

「もし同じ月狐(つき)の光の下で、再び会えるとしたら
月狐(つき)よもっと光り輝いて、真実だけを写して……」
 そう空を突きを写したアイリスの瞳からは涙が伝い。

 そう崩れ落ち、涙を流すアイリス。カメラは後退していき、美しい満月が大きく映った。

● 緋色の種火 の場合

 そこは廃墟、と言ってもユートピアのような輝かしい場所ではない。
 ところどころに日が灯り、むき出しの鉄骨、そして瓦礫の量が比にならない。
 ここは愚神に襲われて壊れた街なのだ。
 その中心を外套を身にまとったネイが歩いていく。そして瓦礫の上に佇む、金色の少女に頭を垂れた。
 その少女は輝ける翼を広げて、胸に手を当て声を。響かせる。
 ネイは外套を脱ぎ捨てそして、ギターをかき鳴らす。
A1
《ボクの 声が 今届いてるかな
かけがえのない ボクの大事な人
いつも 共に 歩んできたけれど
『別れ』 それは 何時か来るわ》

《皆が 生きる この世界の姿
まるで うねる 濁流の様だね
容赦のない 力の波の前
抗う事も 出来ない》

 廃墟の中央には電子ピアノのいのり、ギターのネイ。ドラムの燃衣が輝ける少女を取り囲むように配置され、一心に己が感情を音に込めている。
 その輝ける少女アイリスは謳いながらも町を歩き。何かに気が付いたのかふと立ち止まった。
 瓦礫の間を凝視する。
 そこには由香里が挟まれていて、アイリスに向かって手を伸ばしていた。

B1
《あの日の約束(ちかい) 憶えてるかな
二人で笑い 交わした言葉
例え明日そう ボクが消えても
キミの背を 押すよ》

 その伸ばされた手を燃衣が取る、しかし瓦礫をどかせる力はなく。
 無情にも目の前で由香里は力尽きてしまう。
 広がる血、抜けるぬくもり、燃衣は叫びをあげた。

S1
《 泣かないでキミよ 負けないで どうか…
キミの胸の奥 ボクは居るから
絆色の灯を 燈し続けるから
歩き続けて 遙かな未来へ》

 変調、ネイのギターソロそして、張り裂けんばかりの苦悩をドラムにぶつける燃衣。
 消える魂に願いを捧げるアイリス。
 そして全員の水晶のペンダントが輝きを帯びた。

S2
《人の夢と書き 儚いと読む
泡の様に脆い ボク達の未来
世界は何時でも 闇で満ちてるけど
一人じゃないよ 私が居るから》

 天に上る魂たちは少女を祝福する、生きることをあきらめることないように道の先を示す。
 アイリスは自身の輝きを持って、迷えるものを導くように先を指さした。 
 この先にどんな絶望が待っていようと、大丈夫、そう笑みを作って。

  幕間

「意外といけるもんね、由香里、感性豊かというかなんというか」
「由香里の感性が豊か?ホホホ、ないない。ついこの前まで砂漠のようにカラッカラじゃったぞ」
 飯綱比売命が笑う。
「それなのにどうしてまた、こんな依頼に?」
「保護者としてはあやつに人生を楽しんで貰いたいからのう」
 燃衣に怒っている由香里、澄香といのりに歌を教えてもらったりして。
「遙華殿も、良い友人に囲まれて随分と表情が豊かになってきたではないか? あやつも、こういう中で少しでも楽しみを見つけてくれれば、それで良いと思うのじゃ……」


エピローグ
「あー、これが本題ね」
 PV撮影が終わり、全員が帰り支度を始めるとクラリスに呼び止められた遙華。
「燃衣もきいてくれる? あなたの活動方針にも関わってくると思うの、それだけ条件に出してもいい?」
「きかれて困る話でもないですし、いいですよ」
 クラリスは言った。セバスが全員に資料を回す。
「この度、グロリア社の広報部、まぁつまり私達。とセバスさんのモノクロプロと業務提携をするわ」
「するわって、そんな勝手に」
「私、上司」
「は、はい」
「モノプロとグロリア社の一時業務提携と『ルネ』のメディア展開の企画案を提出させて頂きますぞ。1月から密かに準備しておりました」
 セバスの話を要約するとこうだ。
 モノクロプロとグロリア社で一時的に業務提携。
 ルネのメディア展開企画を提出。
 複数の大手音楽サイトからルネシリーズを販売(澄香、クラリス、イリス、いのりが歌う「希望の音~ルネ~」を新しく収録し、視聴用として無償提供)
「責任、私どもモノプロダクションで負います」
 利益はグロリア社(遙華の立場強化)&滅びの歌被害への支援金。
 リンカーアイドルの話題性も利用し広く展開する。
「今回の依頼でというよりは、今後に向けての提案というようなものでございます」
「全ては、ガデンツァに対抗するため……」
「ガデンツァはルネの一件から3か月後に現れて大きな顔をしておりますしね」
 クラリスが言葉を継ぐ。
「あの愚神はリンカー達の歌を歌ってる。世界の認識がこうなることが我々の勝利です」
「お金はバカにならないくらい、かかるわよ……。資金はどこから?」
「全て、澄香ちゃんの借金に上乗せします」
「私聞いてない!」
 グギャーっと澄香が抗議する。
「じゃあ、100万G上乗せで」
 遙華は気軽にそう言った。
「ひどいや、遙華!」
「先行投資ってそんなものよ、安心して、いったん借金は増えるけど、今まで以上に返す速度が速くなることは約束するから」
「この業務提携も、少女らの努力の形としてイメージ戦略に使えますね」
 クラリスの言葉にロクトが頷いた。
「本社もこれだけの利があれば納得できないでしょう、それに最悪……」
「広報部門の切り出しを早く進めればいい……だけね」
 そのロクトの言葉に驚きの表情を見せたのは、今度は澄香たちだった。
「そのほうがモノプロの皆様の期待に応えやすいだろうしね」
 そうロクトに促されクラリスは別の資料を遙華に手渡した。
「本命の企画はこちらです」
そこには数々の規格に紛れて『専用エンジェルスビット開発計画』とあった。
 内容は精霊の詩の技術を流用、歌声へライヴス付随機能を追加。ライブスはクラリスの支配者の言葉をサンプリングし周波数と波長を近づける。
命令内容は『希望を捨てないで』
「ガデンツァは支配者の声をハッキングと言いました。ならばこれはジャミングです」
「これで滅びの歌に対抗するって?」
「この計画には問題が何点かあるわ。まず、エンジェルスビット自体試作品であるということ。というより技術自体を完成させないとべつの機能を付加させることができるかはわからないわ」
 けど、チャレンジする価値はあるとロクトは言った。
「正直、対抗は難しいでしょう。ですが」
「あちらのハードと同一のもの、ルネの欠片を組み込めればあるいは」
「それについては、一番重要な要素が不足しているの、それは」

『滅びの歌の正体』

「まぁ、そう言うことなら私たちも協力は惜しまないよ」
 そうアイリスが告げる。
「というか、この悪巧み断る理由が無いからね」
「むしろ積極的に手伝う感じだよねー」
 イリスが言った。
「おや、目立つのは苦手なのでは?」
「な、何事にも例外はつきものだよ!?」
「これで百人力ね。あ、澄香もう一つだけ条件を加えてもいい?」
「春香が復帰したらで構わないわ。もし可能なら、春香をあなた達のプロダクションに加えてあげてくれない?」
「だったら」
 そう燃衣は春香に楽譜を差し出した。緋色の種火の楽譜である。
「この歌を……春香ちゃんに……春香ちゃんならきっと、この歌を心から歌えると思うから……
それに……あの声を聞いた時から、ティーンって来てたんですよね!ティーンって! 」
「ふふふ、じゃあ、あの子を、あなたにファンになってもらえるように鍛えないと。これからはもっと親密に、みんなよろしくね」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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