本部

強制、事故チュー!

時鳥

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/06/13 19:24

掲示板

オープニング

●像の回収依頼
「確かにありますけど……ずっと倉庫に眠っていますが、こんなもの本当に欲しいんですか?」
 田んぼが広がるヨーロッパの片田舎、H.O.P.Eの職員から話を聞いた青年、アンダラッセは怪訝そうに眉を寄せた。彼が持っている全長18センチメートルの男女が抱き合うブロンズ像がオーパーツであり、今、セラエノが狙っている品だというのだ。
 確かにあの像は不思議な力を有しているのをアンダラッセも知っていた。しかし、H.O.P.Eが欲しがる品であるとは到底思えないのだ。何故なら、その像に近づくものは足を滑らせ偶発的に 必 ず 何かとキスしてしまうからだ。
「私も幼いころにうっかり近づいてしまいましてカエルとしたことがありますよ。それ以来カエルは苦手ですが……」
 どこか遠くを見る目で語るアンダラッセ。そのことがあったため、倉庫の奥深くに置いたまま誰もその像を取り出す者はいなかったという。
「倉庫の鍵は渡しますので勝手に持って行ってもらって結構です。後、祖父の日記もお貸ししますよ。祖父はその像がお気に入りでして何かと色々書いていたようですから」
 倉庫の鍵と小さな日誌をH.O.P.Eの職員へとアンダラッセは手渡す。厄介払いができる、とそんな表情だ。
 H.O.P.Eとしては確かにこのガラクタに近いオーパーツを回収するのは割に合わない。しかし、セラエノが狙っている、という情報が入った以上、放っておくわけにもいかないのだ。例えそれが嘘の情報だったとしても。
 という流れでエージェント達に像の回収依頼が回ってきた。誰が作ったんだこんなものと言いたくなる代物であるが決して壊さないように回収してほしい。
 もしかしたら文化財的に価値があるかもしれないからだ。
 ただし、何が起こっても保証はできないが……。

●祖父の日記
 アンダラッセの亡き祖父の日記に書かれている像の話を抜粋してみよう。
「今日、不思議な像を買った。古いがしっかりとした木箱に入ってる。この箱から出せば意中のあの子とキスできるらしい。楽しみだ」
「何故か壁とキスしてしまった。どうやら対象を選べないようだ。だが諦めたりはしない」
「まさか人間とのファーストキスが男性になるとは……」
「やったぞ! あの子とキスをしてしまった!」
「あの像のおかげであの子と結婚できるまで進展した。一時はどうなることかと思ったが本当に買ってよかった」
「しまった、像の箱をなくしてしまったぞ。倉庫のどこかにあると思うのだが」
「メモ:木箱。とても質素な作りだがすごく古く色も変色し黒ずんでいる」
「結局見つからないし、倉庫で蛇としてしまった……もうこのままここに像は置いておこう。僕にはもう必要ないだろう」

解説

●倉庫
・レンガ造りのスレート瓦葺き平屋建て。
・長さ12m、高さ6m、幅5m程の広さ。
・所狭しと色々なものが置かれています。沢山の木箱や段ボール。壊れた農作業機器やバイク等。
・生物が潜んでいる可能性があります。
・像は倉庫真ん中辺りの木箱の上にあります。

●像ついて
・全長18㎝。男女が抱き合っているブロンズ像。古いものの為か黒く変色し錆びついている。男性は全裸で女性布を纏っている。
・ある一定の距離まで近づくと偶発的にキスしてしまう所謂、事故チューが発生します。
・事故チューが発生する確率、また相手などはランダムです。つまり何とキスするか誰とキスするかを知っているのはダイスの女神様だけです。
・元々入っていた木箱にいれると事故チューが起こらなくなります。
・共鳴をしている状態だと事故チューが起きる確率が倍になります。

●木箱
・倉庫のどこかに眠っています。
・とても質素な作りで変色し黒ずんでいる
・像がぴったりと収まる大きさ
・側面に古い言語で何か綴られている

リプレイ


 長年放置されていたと思われるぼろい倉庫の前に集まる依頼を受けた勇敢たるエージェント達。
「きっきっき、事故チューかい、何と当たるかねぇ」
「目的忘れるなよ、像の回収だからな?」
 手をわきわきとさせながら楽しそうなキィ(aa4016hero001)にレフティ(aa4016)が釘を刺す。
「え? 事故チュー? 困っている人のお手伝いじゃないんですか?」
 その言葉に狼谷・優牙(aa0131)がびっくりして問いかける。レフティが依頼の内容を説明すると少年は頭を抱えた。
「別に事故チューとかラッキースケベとか狙ってないが受けてみたぜ! お宝をトレジャーハントするってやっぱり夢があるよな! まぁ舞台は残念だがな!」
 と、元気なのは神鷹 鹿時(aa0178)。その英雄フェックス(aa0178hero001)も「がんばるぞ~……」とやる気だ。
「宝探しみたいなのだ♪ 面白そうー♪ 僕が一番に見つけるのだ♪」
 鹿時の言葉に楽しそうに頷くのはプレシア・レイニーフォード(aa0131hero001)。
 その時、ヨハン・リントヴルム(aa1933)が溺愛するパトリツィア(aa1933hero001)の頬に手を当て優しく唇を重ねる。
「ふぇ! もう始まってるんですか?!」
「あれは普通にキスしてるだけだろ!」
 それを目撃した優牙が驚いた顔をするもすかさず鹿時が突っ込む。
「この仕事に、エコーを連れてきたのは間違いだったかもしれないですね」
 填島 真次(aa0047)が連れのエコー(aa0047hero001)の目を両手で覆いながらため息を吐いた。
 ヨハンは単にずっとお互いにキスしてれば他の人としなくて済む、という思い付きからパトリツィアとキスをしてみたのだが、すぐお互いの顔しか見えず依頼をこなせない事に気が付いて止める。パトリツィアのことを溺愛するヨハンと、そんなヨハンに従順なパトリツィア。故に二人とも人前でキスしても平然としていた。
「あ! 影狼くんにヨハンさんだ! やっほー!」
 そこへ桃井 咲良(aa3355)が元気に声を掛ける。ヨハンともう一人、影狼(aa1388)が咲良へと向き直った。
「キヒヒ♪ 記念に撮ってやったぜ」
 ジャック・ブギーマン(aa3355hero001)はヨハン達のキスを激写しており愉し気に口端を吊り上げながら咲良の後ろに続く。ヨハンがジャックに声を掛けようとしたその時――。
「なんと破廉恥な能力を持つオーパーツだ……主よ、なぜ受けた?」
「くわあ! こ、この宝典! ……力の奔流が! おおおお! 漲るぞ、凡ゆる魔術が吾が掌中にある! ふふふ……この術式とこれを組み合わせれば、丸でアイゼンガルドのかのお方の様な支配の妖力が!」
 女性の問い詰めるような声の後に意味不明な雄叫びが響いた。テミス(aa0866hero001)と石井 菊次郎(aa0866)だ。菊次郎は極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』を開き更に理解しがたいことを叫んでいる。この宝典、ものすごい効果を発揮するのだが如何せん装備すると使用者のテンションがハイになってしまうというちょっとアレな品物。
「……それどころではない様だな……如何したものか?」
 自身の能力者の様子に頭が痛むのか額を抑えるテミス。
 実に個性豊かな面々が集まった。


 ドアを開け電気をつけて、さあ、今から中へ! しかし、菊次郎とテミス、そしてエコーはこの場にはいない。
「うむ……セラエノが狙って居るとすれば警備は必要であるな。倉庫に接近されぬ様敷地の警備に行こう」
 テミスはこう言って警備役を買って出た。菊次郎は、まぁ……お察しの通りだ。
「資料に寄れば、中を探したけれども見つからなかったとありました。念の為、エコーは小屋の周りを一通り見て来てくれませんか?」
「ん、分かった」
 どこの馬の骨とも分からない相手に、エコーと事故チューさせる訳には行かないのは当然。それ以上に、カエルとか蛇とか、それに虫とか。そんな物をエコーの口元に持っていって、間違って食べてしまったらと思うと……そんな心配が真次の頭の中を駆け巡る。流石に虫など食べないと思うが可能性が0とは言えない。だから真次はエコーのことを心配して影響がないと推測される倉庫外を一周してくることように頼んだのだ。その推測が当たっているかは、さておき。
「とりあえず近寄らないようにして箱を探しましょうかー。その方が安全そうですよー」
 優牙がごっちゃりとした倉庫の中を見回しながら皆と一緒に中へ足を踏み入れた瞬間――ズベッ!!
 盛大に足を滑らせ床に顔面をぶつけたのは真次とフェックス。本日初めての唇は冷たい埃の被った床に奪われた!
「ぐっ!」
「うっ!」
 踏み込んだことで像の洗礼を受けたのか、はたまた何かの偶然か。真次がよろよろと立ち上がり、フェックスには鹿時が声を掛けながら手を貸す。そんなこけた二人を眺めながらジャックがニヤニヤと笑う。
「もう始まってんのか。キヒヒ♪ 面白れぇ呪いの像だなこりゃ」
「これ作った人何を思って作ったんだろうね?」
 咲良が考えるように首を捻った。
「よし! それじゃあ早く探そうぜ! フェックスは箱を探してくれ! 俺はブロンズ像を探すぜ! レッツ探索だ!」
 そう言って倉庫の中へ一番に駆けだしたのは鹿時。他も早々にバラバラと探索に入る。
「な、何か凄い像ですね……。手に入れた経緯は色々とアレな気もしますけど、効果の程はある意味凄いみたいですしー。ここまで来ると呪いの品って気がしないでもないですけど」
 探しながらも手帳の内容を思い出し呟く優牙。
「ぐすっ……パトリツィアの唇が誰かに奪われるなんて……」
 これからのことを考えてぽつっと零したヨハンの台詞が何かの引き金になったのか、奥へ駆けだそうとしたプレシアの足が絡まりパトリツィアのスカートを咄嗟に掴む! 彼女もバランスを崩した。
「きゃっ」
 プレシアかパトリツィアの声か、その声に優牙が反射的に振り返ったその直後、パトリツィアが優牙に倒れ掛かり二人の唇が触れてしまった!
「わっわっわっ!」
「失礼いたしました」
 真っ赤になって動揺する優牙からそっと離れパトリツィアは淡々とした謝る。ちらっ、とヨハンへ彼女は視線を向けた。ヨハンが自分を溺愛していることをパトリツィアは分かっている。彼が傷ついていないか気がかりだった。
(パトリツィア……僕とするより幸せそう……。そういえばキスする時っていつも僕からだし、パトリツィアはそういう事を望んでいないのでは……?)
 だが、パトリツィアの気持ちも知らず一人悩むヨハン。どんどん考えが泥沼にはまっていくが、いつまでも悩み続けられる時間はなかった。何故なら……
「お宝ってのはだいたい高い所にあるんだよな! まぁ基本だよな!」
 そう言って脚立を上っている鹿時が誤って足を踏み外し、ヨハンの上に落ちてくる!
 ドサッ!
 都合のいい偶然、というか像の力で二人はちゅーした。しかし、落ちてきた衝撃のが痛いかもしれない。
「これはあの像の能力なんだぜ! 決して悪気があったわけじゃないんだからな!」
「あ……ごめんね、神鷹くん……」
 慌てて起き上がり謝る鹿時。ヨハンも同じく謝罪を口にするが、何故か少し照れた素振りを見せている。しかし、鹿時はハンカチで口をごしごし拭って気付く素振りはない。
「これがファーストキスだったらと思うとゾッとするぜ……」
 ところで鹿時が使っていた倒れた脚立は積まれた段ボールやらを倒し、銅像が置かれているテーブルへとその連鎖が迫る。そしてテーブルの端に重い箱がガツンッ! と当たり銅像がなんでか思いっきり飛んだ! その先に居たのは、キィ。
 別のところを見ていたキィの顔面に銅像がぶつかる! ガンっ! ちょっと鈍い音がした。
「きっきっき、愉快なことだねぇ」
 銅像が床に落ちないよう手でキャッチしながら赤くなった顔で楽し気に笑うキィ。準備していた毒々しい髪染めを使ったウィッグを銅像に被せ、自分の頬に化粧道具で赤い頬紅を丸くつける。
 キィは倉庫に入る前、モヒカン、鼻眼鏡等のパーティグッズや化粧道具を幻想蝶に詰め込んでいた。
「いやねぇ、キスする度に色々仮装するのも面白いかと思ってねぇ、きっきっき」
「……まぁ罰ゲーム感覚なら多少なり傷は軽くなる、か?」
 そんな会話を交わしていたキィとレフティ。レフティは化粧などで中を汚す懸念から掃除道具も準備している気の利かせようである。
 とにかく像を確保したキィは一旦レフティと協力してプチプチを銅像に巻き付けようとした。しかし、急に何故か銅像が重くなり二人の腕が重力で下へと引っ張られる! そして二人の顔がぶつかる。もちろん、唇も。
 キィはすかさずレフティに鼻眼鏡をかける。そして自分の頭には紙でできた三角帽子を乗せる。
「何か、混沌としてきたな……」
 呟くレフティ。その合間に銅像はころり、と彼らの手を離れた。
「お前ら、見た目すごいな! ブロンズ像見つけたのか!」
 そこへ鹿時が騒動を聞きつけてやってくる。落ちている銅像を拾おうと手を伸ばしたところで、レフティ達を激写していたジャックの手からスマフォが飛び出る。それをキャッチしようと手を伸ばした先に――鹿時。もちろん唇が触れる!
 が、ここは鹿時とジャック。鹿時は待ってましたとばかりにジャックの胸に手を伸ばす。しかし、待っていたのは鹿時だけではない。ジャックは鹿時の顎を両手で押さえ唇の間から舌を滑り込ませた。所謂、ディープキス。時間にして幾らばかりか、結構長い。
「いやその……、これもあの像の力だ! そうに決まってる!」
 ちゃっかり胸は揉んだものの流石に舌を絡ませられるとは思っていなかった鹿時。バッ、と離れると急いで近くの木箱の山を登り高みへ逃げる。
「キヒヒヒ、ご馳走様だぜ♪」
 その反応に満足げにニヤニヤするジャック。
「よいしょ……よいしょ……、とりあえず掃除ついでに出していくぞ~……」
 一方フェックスは積まれた箱を一つ抱え外へ出そうとしていた。像が見つかった、という声にそちらへ向かおうとする真次とフェックスが抱えた箱がぶつかる。倒れる二人。箱の上に真次が倒れたことにより身長差が埋まり唇同士キス。だがフェックスに体重がかかってしまったことに気が付き真次がすぐに体を起こす。
「大丈夫ですか?」
「重かったぞ~……。でも今のがキスってやつなのか……? 何だかヌメッっとしたぞ~……」
 真次が差し伸べた手をじっと見てから斜め上に感想を零すフェックス。そこへうろうろとしていた影狼が床に零れていた油に足を滑らせ真次の横から追突してきた! 真次が押し倒される形でキスをしてしまう。しかも、レフティ達の足元に転がっていたはずの銅像が真次の真横に来ていた。
「すみません、影狼さん」
「わふっ」
 謝る真次に影狼はまったく気にした様子なく銅像に手を伸ばし掴む。しかし、手が滑り毒々しいカツラ髪を靡かせながら銅像が真次の顔面に落下! 三回連続、真次のSAN値がゴリゴリと削れていく!
 ずるり、と真次の顔から銅像が床にずれ、顔面を抑えながら真次が体を起こす。と、銅像が乗ったのは一枚の細長い板。そして駆け寄ってきたキィが板の反対側を踏み、シーソーの要領で再度キィの顔面に銅像がクリーンヒット! 早くも二回目。彼女は銅像に好かれているようだ。
「きっきっきっ、痛いねぇ。でも今度こそ捕まえたねぇ」
 キィは銅像に蝶ネクタイをつけて、自分の顔にナマズ髭を書いた。完全に楽しんでいる。
「それが例の銅像なの?」
 そこへヨハンが近づいてきて、キィが抱えている銅像を覗き込もうとする。が、ヨハンの後頭部にぐらぐらと揺れていた木箱が落下してきた! その衝撃で前のめりになり、キィとヨハンの唇が触れる。
「ごめんね、キィさん……」
 キィから離れてまず謝罪、次にパトリツィアに視線を向けるも彼女はいつもと同じ表情。うなだれるヨハン。そんな彼にキィは3のような形の目のついたサングラスを差し出し。
「きっきっきっ、ヨハン君もつけて楽しまないかい?」
 自分は蝋燭がメガネの上に乗っているデザインのサングラスをかける。
「ありがとう。そうするよ。」
 ヨハンは小さく笑みを返しパーティーグッズのメガネを受け取って掛けた。すると影狼がキィの髪を軽く引っ張る。
「……我……」
 自分を指さしながら何か訴える影狼にキィはガイゼル髭を取り出しつけてあげる。ほんの僅か満足そうな表情を浮かべる影狼。どんどん見た目がすごい集団になっていく。
 そこへぴょこん、と一匹のカエルが木箱の隙間から飛び出してきた。影狼の顔面に飛んでくる!
「……ん」
 ヌメッ、とした感触を唇に受けるも影狼の表情は変わらない。カエルは何かを察知したのかすぐに影狼から跳ねて逃げる。その先に居たのはヨハン。ヨハンの唇を奪っていくカエル。
「うっ」
 ヌメヌメの感触に少し呻くヨハン。そこに騒動を聞いて咲良が顔の覗かせた。が、それが運の尽き、咲良の顔に飛び移るカエル。
「にゃー!?」
 一番大きな反応、悲鳴を開ける咲良。そんな俊敏なカエルは連続でエージェント達の唇を奪った後すぐに木箱の隙間に跳ねて逃げて行った。
「カエルとキスしちゃったよー!? う~……気持ち悪い……」
「大丈夫?」
 項垂れる咲良を覗き込むヨハン。それを見たキィがきっきっきっ、と笑いながら三人に自分とは色違いの三角帽子をぽいぽいっと乗せる。どんどん仮装姿の人間が増えていく倉庫内はとてもカオスで、箱の探索はあんまり進まない。
 その中で一人もくもくとフェックスは箱を外へと運び出していた。最初以降どうやら事故チューを回避できているようだ。すると、倉庫の壁の一部から光が漏れていることに気が付くフェックス。彼の小さめの体であれば顔くらいは入れられそうな穴。なんとなくその穴に顔を突っ込むフェックス。倉庫の外が垣間見え、たがすぐに視界がふさがり唇に柔らかいものが触れた。
 外回りをしていたテミスが丁度同じく穴を見つけ覗き込もうとした矢先、フェックスの顔が出てきて偶然にキスしてしまったのだ。
「なっ!」
 きょとん、とするフェックス。ぷるぷる震えるテミス。テミスの様子を見たフェックスは穴から顔を戻そうと右手で壁を押した、つもりが外へとその手が出てしまいテミスの胸をむにっと押してしまった! 怒りに震え高ぶるテミス。
「怒ってるのか……? ごめんだぞ~……」
 その様子に流石に謝るフェックス。彼の天然ぶりにテミスの毒気が少し抜けた。
「これは事故だ。仕方あるまい」
「さっきのキスと違うな……? 何だか柔らかい感じがしたぞ~……」
 テミスの言葉に頷き、真次とのキスと、テミスとのキスを比べて感触の違いに首を捻るフェックス。しかしその様子を目撃していた真次の顔から血の気が引く。まさか、外も安全ではないのか?
 と、そこへ丁度エコーが倉庫の前に戻ってきた。慌ててそこへ向かう真次。しかし、そこへ運悪くヨハンが壊れた農業機械の裏から姿を現した。急いでいた真次は止まれない。ドンッ! という音と共に倒れる二人。真次が上になる形で倒れ、唇が触れ合った。
「あ……ごめん……」
「な、……っ」
 照れくさそうにはにかむヨハン。しかし、彼は3の目のメガネをかけてパーティー三角帽を被っている。思わず脱力する真次。だがその真次の目に倉庫に足を踏み入れようとするエコーの姿が映る。すぐに身を起こし急いでそこまで駆けて行った。
「何も、なかった」
 エコーが倉庫回りを一周してきた感想を息を切らして自分のところまで辿りついた真次に告げる。真次はエコーにもっと遠くを探してくるように言おうと肩に手を伸ばすが何故か掴めずスカす。そして前のめりになって幼女と唇が触れ合った!
 どこの馬の骨か分からない人間とのキスは防げたが自分がエコーの唇を奪ってしまうとは――っ!
「エコー、すみません。とにかく遠くに出来るだけ遠くを探してきてください」
 倉庫の外も安全そうではない、してしまったキスのことはとりあえず置いておいて真次はエコーに次の指示をだす。最初と同じくエコーは頷いて了解を示すと倉庫から離れて行った。
 この銅像の効果の範囲はどれぐらいなのだろうか……。


 さて、テミスが事故チューに巻き込まれるちょっと前、倉庫外周を見まわるテミスと菊次郎。
「……72の魔神の内属性が風である者は18……それを全て召喚し嵐の魔方陣と化すのです! このルートは正に魔方陣! 全てが合致してきています! アテマルクトヴェゲブラ……」
 セラエノの襲撃者が現れないか警戒して辺りを伺うテミスだが、菊次郎は何故か歩いているルートを魔法陣だと思い込み魔神を召喚しようと呪文を唱える。すると近くの茂みががさごそと音を立てた!
 敵の襲来か、と、テミスが身構える。
「愚か! 愚か! 愚か! この魔神殺界の守るこの地! に侵入しようとは! 笑止! 笑止! 笑止!」
 その方面へ向かって菊次郎が叫ぶも出てきたのは野兎。しかも菊次郎の剣幕にすぐに逃げて行ってしまった。
 緊張を解くテミス。再度何もいないか辺りを見回すと、倉庫に穴が開いている部分があることに気が付いた。そしてなんとなく覗き込んだ時、テミスは事故チューに初めて巻き込まれた。
 フェックスとキスをしてしまった後、テミスは考えた。この倉庫には近づかない方がいいだろう。そう思って一歩後ろに下がろうとする、が、何かを踏んだ。後ろに転びそうになるのを前に力を込め回避しようとするテミス。そこに烏が来襲しテミスの背中を押した! 前のめりにバランスを崩し、倉庫のレンガに顔面をぶつける。
「くっ……」 
 小さく呻くテミス。早くこの倉庫から離れなければ、そう思った瞬間、目の前のレンガにメリッ、とヒビ入る。そして一瞬にして崩れるレンガ。古すぎた所為かもろくなっていたようだ。そしてそこから飛び出てくるレフティ。鼻眼鏡はつけているものの、彼は共鳴していた。壁を壊したのは彼だ。
 二人とも目の前に人が出てくることは予想しておらず、またレフティの勝手に動く右腕がテミスを捕まえ引き寄せる! 二人がちゅーする!
「きっきっきっ、ごめん!」
「……これがあの像の力なのか?」
 レフティがキィと同じ笑いをしながらも謝罪する。しかしテミスは額を抑え苦々しい表情をした。レフティの右手が自身の唇にドギツい色の赤い口紅を塗る。横に思いっきりはみ出したが罰ゲームみたいなものだから仕方ない。
 そもそもレフティが倉庫の壁をぶち破る前のこと。ジャックが自身に事故チューが起こらないことをいいことに皆の事故チュー現場をパシャパシャとスマフォに収めていた。
「キヒヒ♪ 面白いネタになるよなぁ」
 だが、ジャックの余裕なターンはそこまでだ。スマフォを見ながら歩いていると足を滑らせてしまう! そして床と顔面がご対面。すぐに顔を上げイラッとして悪態を零しながら床を蹴とばす。すると床に転がっていたドライバーも一緒に蹴ってしまい、それが勢いよく転がって立てかけてあった木の板にぶつかる。そして、木の板が壊れたクレーン車に倒れかかりクレーン車の先端が像を拾い上げジャックの方へぐるんっ、と勢いつけて向かってきた。顔面に像を受け取るジャック。
「くっそっ!」
「ジャックちゃんストップストップ!」
 苛立ちまぎれに像をはたき落そうとするジャックを慌てて咲良が止めた。
「んあ? ……ウゼェ……」
 と、咲良を睨みつけようとした時、クレーンの動く大きな音に驚いて飛び出てきたカエルとジャックの唇が触れ合う。連続してジャックは唇を奪われたわけだが、ここまで種類多様に経験できたのは彼女だけだろう。
「きっきっき、左腕だけじゃ大変じゃないかい? 共鳴しようじゃないさ、右腕は任せておくれよ」
 キィが面白そうだと提案して、二人は共鳴した。が、そこへクレーンに吊られたままの像がぐるん、っと振り子の原理で彼らに迫った! 顔面にダイブしてくる像! どうやら共鳴してもキィのことが気に入っているらしい。一人だけ銅像とのチューがダントツだ。
 その結果、右手が壁に当たりもろくなっていたレンガが壊れ、その先には不運にもテミスがいた、というわけだ。更にクレーンが勢いをつけすぎてぐらぐらと揺れ始める。壊れていたせいもあるだろう。銅像に引っ張られるように横倒しになり、その勢いで銅像が大きく飛んだ! その先は――。
「……待て! 見るからに異様な気が漂っておるでは無いか!」
 テミスだった。その現状を認知し逃げようとするテミス。しかしそこは銅像の力。少しウェーブをかいてテミスの顔面にヒット!
「なあああるほど! それがセラエノの求めるブロンズ像ですか?? 強力かつ! 絶対的な! 接着力があると……おお!?」
 菊次郎がハイテンションで感嘆する。そんな外まで騒動が広がる中、倉庫内の一角できょろきょろしていたプレミアと優牙。
「こっちのほう誰も探してないしこっちを探したらあったりして……はやや!?」
 クレーンが倒れたことで現れた依頼に書いてあった箱を見つけた。
「箱が見つかれば後は入れるだけですし、これで一安心ですね……ふぇ!?」
 優牙が安堵していると気が付いた咲良が箱の元へ寄って行く。しかし咲良は床に散らばった木片に躓き、プレシアにぶつかる。二人の少女の事故チュー。
「ん……あ、ゴメンね? えーと、大丈夫?」
「あははー♪ 面白いのだ♪ 説明で言ってたの本当だったんだねー♪」
 顔を覗き込み心配する咲良にプレミアは楽しそうに笑って答えた。全然平気のようだ。
「とにかく、早く箱に入れようぜ!」
 鹿時が箱を両手で持ちあげ、外に落ちている像の元へと走った。


「帰りに、うがい薬と口内洗浄剤を買って行かないといけませんね」
「ん、早く帰って、ご飯食べる」
 ひと段落ついて真次がため息交じりに零した。彼が一番いろんな人の唇を奪った事故チュー霊長類だ。
 優牙は相手は女性だったものの初めてのキスは好きな人が良かった、と、今回のは最初のキスではないと自分に言い聞かせている。プレミアは楽しかったのだ♪ とご満悦。
 一方、鹿時は像が仕舞われた箱をまじまじと観察し古代文字を見つめた。
「む~、こう言うの読めればトレジャーハンターっぽいんだがな~、まぁ鑑定待ちって所か!」
 やっぱり読めない。そこへキィが箱に手を掛け――。
「きっきっき、おっと手が」
「やめような?」
 蓋を開けようとしたのをレフティがぎしっと抑える。
「……宝典は必要な時以外はしまって置いた方が良いようです」
「先に気付け……」
 宝典をしまった菊次郎が正気を取り戻し呟く。テミスが呆れ顔をした。しかし銅像も菊次郎のハイテンションが怖かったのか彼だけ唯一事故チューが起きていない。
 影狼は満足したのか貰ったパーティーグッズをしまっている。ジャックは撮った写メを咲良に見せていた。
 皆がそれぞれワイワイしている中、パトリツィアがヨハンのところへやってくる。
「あの、ご主人様? 今回のは私が望んでした事ではありませんのでどうかお気に留めずに……」
 そして背伸びをしてヨハンの唇に柔らかいキスをした。ちゃんと私もあなたを好きですよ、という証に。
 こうして残念な力を持つオーパーツはH.O.P.Eになんとか回収された。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 魔王の救い手
    填島 真次aa0047
  • Allayer
    桃井 咲良aa3355
  • エージェント
    レフティaa4016

重体一覧

参加者

  • 魔王の救い手
    填島 真次aa0047
    人間|32才|男性|命中
  • 肉食系女子
    エコーaa0047hero001
    英雄|8才|女性|ジャ
  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • 元気なモデル見習い
    プレシア・レイニーフォードaa0131hero001
    英雄|10才|男性|ジャ
  • キノコダメ、絶対!
    神鷹 鹿時aa0178
    人間|17才|男性|命中
  • 厄払いヒーロー!
    フェックスaa0178hero001
    英雄|12才|男性|ジャ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • エージェント
    影狼aa1388
    機械|15才|?|攻撃



  • 急所ハンター
    ヨハン・リントヴルムaa1933
    人間|24才|男性|命中
  • メイドの矜持
    パトリツィア・リントヴルムaa1933hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • Allayer
    桃井 咲良aa3355
    獣人|16才|?|回避
  • TRICKorTRICK
    ジャック・ブギーマンaa3355hero001
    英雄|15才|?|シャド
  • エージェント
    レフティaa4016
    機械|16才|男性|回避
  • 銅像のチュー霊長
    キィaa4016hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
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