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暴走「鳥」特急
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相談卓
最終発言2016/05/28 13:16:58 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/05/25 22:19:03
オープニング
●
どこまでも広がる大地、遮るもの一つない広い空。
まばらに低木が生えているだけのサバナを疾走する集団がいた。
集団は砂煙を巻き上げながら一直線に駆けて行く。
進路上にある草木、岩、逃げ遅れた動物までも跳ね飛ばし、ひき潰し、ひたすら一直線に。
砂煙の間に見え隠れするのは逞しい二本の足、丸みを帯びた体、長い首に嘴を備えた頭部。
その集団はこのサバナに棲息する鳥類、レアに似ていた。
かつては確かにそうだったのだ。しかし周囲の景色に溶け込む地味な色をしていた羽毛と体色は毒々しい程赤い。
長い足と首は二回りは膨張し、大地を蹴る爪はどの肉食獣よりも大きく鋭かった。
従魔と化した集団はひたすらに走る。
広いサバナで獲物を探し回るよりもっと効率のいいライヴスの狩場を求めて今はまだ遠くにある場所に目を付けた。
それは農業で生計を立てる人々が多く住まう町だった。
近年住民も増えて町も広くなりサバナ観光のために外から人が訪れるようにもなったが、発展した町と言うにはいささか遠くのどかな日々を送っている。
その日常が跡形もなく蹂躙されるまで、誰一人として明日も同じ日々が続く事を疑わなかった。
●
「朝早くからありがとうございます。早速ですが、依頼の内容を説明させていただきます」
従魔発見の報告を受けて集まったリンカー達に告げられたのは、デクリオ級従魔がミーレス級従魔を引き連れ町に迫っていると言う話だった。
町はそれほど大きいものではなく、住民のほとんどは農業で生計を立てている。従魔に対する防備などない。
しかし、従魔が迫っている事を知っても農業を営む人々の多くは農地を放棄して町から離れる事をよしとしなかった。
「住民は自分達で小屋を解体したり古い道具や木箱、とにかく使えそうな物をかき集めてバリケードを作り、最後まで農地と町を守る気でいます」
彼等の先祖が心血を注いで開拓し農業を始めた土地であり、周りからの助けもなく自分達で作り上げた町だと言う自負がそうさせるのか。
元々農地の周辺は動物避けのフェンスで囲まれている。そこをバリケードで補強し、ありったけの武器を持ち出して従魔に対抗するつもりでいるらしい。
警察の避難勧告を聞かないどころか、町で生まれ育った警官たちは我こそがと率先して町の防衛に乗り出している。
「まだ幼い子供やその母親などは避難させたそうですが、老人などはいざとなったら自分達が餌になるとバリケードの近くに待機しています」
しかし、住民の覚悟をあざ笑うように従魔はバリケードを突破し、そのまま町に突入する。
そして手当たり次第に建物に突撃して中にいる住民ごと文字通り蹴散らして行くのだ。
「犠牲者を出さないためにも、皆さんには町の外で従魔を討伐してもらいます」
現地ブラジル高原のサバナはまばらに低木が生える程度。
特に従魔が走っている付近にはちょっと背の高い草程度のものしかない。障害物は特に気にせず走れるだろう。
「こちらから乗り物と運転手を用意します。皆さんの中で免許をもっている方がいればご自分で運転しても構いません」
当日は現地に到着後、観測を行っている職員の誘導従って走り、従魔を発見次第交戦開始と言う流れになるだろう。
「普段とは勝手の違う戦闘になると思います。事故に気を付けて討伐を行って下さい」
解説
●目標
デクリオ級一体とミーレス級三体の従魔の討伐
●状況
時間・天候:午前中・晴れ
ブラジル高原の真っただ中。サバナを爆走する従魔を追撃します。
戦場はまばらに低木が生えている平野になります。一般人は周囲にいませんが、特殊ルールで戦う事になります。
従魔と並走できる乗り物に乗って従魔を発見した所から開始となります。
免許を持っている年齢であれば自分で運転する事もできます。
参加者全員が免許を持てない年齢だった場合はH.O.P.E.職員が運転します。
●特殊ルール
このシナリオの戦闘はチェイスルールが適用されます。
どんな乗り物に誰が運転し誰が乗るのか記載して下さい。
記載がない場合は適当に振り分ける事になります。
・乗り物
『バイク』:運転手の他、後部座席かサイドカーに乗れます。
『ジーブ』:四人乗りのジープです。
『その他』:ご自分の愛車や愛馬など持っている方がいれば一般的に乗れる人数、種類など記載して下さい。
F1カーやUFOなど、明らかに一般車両でないものは避けて下さい。
ちなみに馬は軽車輌扱いです。
●敵
・従魔『ヴェルーダ』
毒々しいほどに赤い羽毛に覆われたデクリオ級従魔。
頭にトサカのようなこぶがあります。
・能力
魔法は一切使えない物理攻撃特化ですが、蹴爪と嘴にBS効果があります。
『蹴爪』:鋭い爪がついた足での蹴り。低確率で出血(減退)のバッドステータス効果。
『嘴』:先端が鋭く尖った嘴による突き技。低確率で出血(減退)のバッドステータス効果。
『体当たり』:低確率で衝撃により判定達成値が減少します。
・従魔『メリエント』
ミーレス級従魔が三体。メリエントA、B、Cがヴェルーダの前に重ならないよう横並びになって走っています。
・能力
こちらも魔法は一切使えない物理攻撃特化です。
『蹴爪』:鋭い爪がついた足での蹴り。
『体当たり』:低確率で衝撃により判定達成値が減少.
リプレイ
●追走
サバナの大地をジープの一団が行く。
唸るエンジン、舞い上がる砂塵。オフロード仕様のジープの無骨な車体は薄く砂色に染まりつつあった。
『サバナは初めてだなー……暗黒大陸のイメージだったけど、ブラジルにもあんのか』
「写真とかで見ると同じような場所でしたね」
共鳴しているパートナー『破壊神?』シリウス(aa2842hero001)の呟きに新星 魅流沙(aa2842)が景色を眺めながら言う。
渇いた大地は広く、たまに低木が生えている程度で景色の変化はほとんどない。
長く走っていると自分がどこにいるのか分からなくなりそうだ。
ハンドルを握るのは佐藤 咲雪(aa0040)のパートナーであるアリス(aa0040hero001)。
こちらもすでに共鳴済みである。
ジープには四人のリンカーが乗っており、英雄と共鳴状態にならなければ乗りきれなかったのだ。
「私の免許は国際ライセンスじゃないけど良いのかしら?」
「いいんじゃないか?事情が事情だし」
『……ん、道を……走る訳じゃない……から、運転できれば……良いんじゃない?』
ふと思い至ったアリスの発言にシリウスが応え、アリスに体の制御を任せている咲雪も肯定する。
彼女らは従魔討伐のためにジープを走らせているのだ。
プリセンサーが察知した従魔はこのサバナの先にある町を狙っているのだが、その町の住民は自分達の生まれ育った町と農地を守るべくバリケードを構築して迎え撃とうとしているのだ。
従魔と戦うための武器も力も持たない身では敵わない事など分かっているだろうに。
「村の人達……これは絶対に退けないわね」
「ええ。何としても食い止めなければなりません」
蝶埜 月世(aa1384)が決意も固くフロントガラスの前に広がる大地を見据えると、ブラッドリー クォーツ(aa2346hero001)と共鳴している花邑 咲(aa2346)が静かな微笑みを浮かべながらも強く決意する。その気持ちはブラッドリーも同じだ。
『一匹たりとも討ち漏らせませんね』
少しずつ近づいて来る砂塵の切れ目から毒々しい赤い色が見えていた。
トサカのようなコブがあるデクリオ級従魔『ヴェルーダ』と、その支配下にあるミーレス級従魔『メリエント』三体。
地響きを上げて走っており、背後に近付くリンカー達のジープにはまだ気付いていない。
『村の前面に利用できる土地があって良かった。後は村に向かわせないようどう料理するかだけだな』
アイザック メイフィールド(aa1384hero001)の声が幻想蝶から響く。
共鳴状態にあるためその姿は見えなかったが、月世は力強く頷いた。
従魔の討伐に失敗すれば町を守ろうと避難を拒否した住民達が犠牲になるのだ。
別のジープでは辺是 落児(aa0281)が運転しながら設置した通信機などの確認を行っていた。
共鳴しているパートナーの構築の魔女(aa0281hero001)は落児の確認作業を手伝いながら避難しなかった住民達の事を思う。
「住民達の多くは農業を生業としているそうです。避難をしても生活基盤である農地と町を失うとあれば避難できなかったのでしょうか」
「私は避難しない町の人達の事を悪く言いたくないかな。住み慣れた町を自分達で守りたいと言う気持ちは凄く分かるから……」
後部座席に座る桜木 黒絵(aa0722)も町の住民達の気持ちを考えていた。
健康な住民は男女問わず農具や健在や獣用の銃をありったけ持ち出し、老人は万が一の時は時間稼ぎの餌になろうと集まった。
彼等の祖先が心血を注ぎ荒野を開拓した農地と町。生まれ育った大切な場所を守るために。
『そんな彼らを守る為に僕らがいる。今回はスピード勝負だから、段取り良く行くよ黒絵』
シウ ベルアート(aa0722hero001)は力が入り過ぎている黒絵を落ち着かせるように言う。
「町に辿り着く前に殲滅しないとな」
『ヒジリー、やる気満々だね』
公明状態になった体の感触を確かめるように武器の柄を握る東海林聖(aa0203)の様子に、影となって後ろについていたLe..(aa0203hero001)もぐっと手を握った。
「オレはとんでもない発見をしたよ、ジャス。速く走ると、少し涼しい」
他のジープとは打って変わってどこか呑気な事を言うのはパートナーのジャスリン(aa4187hero001)を助手席に乗せた赤嶺 謡(aa4187)だ。
今日のサバナは良い天気である。戦闘に備えて窓を開けていた謡の肌はじりじりと太陽に焼かれていた。
「でもヨウちゃんの髪の毛のぐしゃぐしゃだね。そんなワイルドなヨウちゃんも好きだよ」
他に同乗者がいないからか、片手にビールを持ったジャスリンも呑気だ。
砂塵まじりの風に吹かれワイルドな形に固まりつつある謡の髪にそんな事を言って来た。
「きみはビール飲んで楽しそうだな、ジャス……もう耐えられない、共鳴だ!」
謡がたまりかねて共鳴したタイミングを狙ったかのようにスピーカーから落児と共鳴した構築の魔女の声が流れる。
『従魔がこちらに気付いたようです。皆さん、準備はよろしいでしょうか?』
窓を閉めていてもびりびりと響く従魔の足音に奇鳥の声。
リンカー達のジープが従魔に急接近すると、従魔の方も太い首をもたげた。
「……ん、無視?」
『どうやら町に行く事を優先するようね』
咲雪とアリスと目が合ったメリエントは確かにリンカー達の事を認識しているが、すぐに視線を前方に戻している。
「まずはテレポートショットでこちらに意識をひきつけましょう」
構築の魔女のテレポートショットが一番近い距離にいたメリエントの一体に命中し翻弄の効果を与えた。
別の窓が開き、聖が手にしたアサルトライフルの銃口が突き出される。
「行くぜ、アタッカーの本領の見せ所だなッ!」
従魔の足音とジープの走行音にも負けないほどの銃声が響き渡り、ばら撒かれた弾丸がメリエントの足を更に鈍らせる。
「シウお兄さん、私達も行くよ!」
『車は揺れる。よく狙って』
黒絵がシウに頷きライヴスガンセイバーの引き金を引く。
ここに至りヴェルーダが何か指示を出すような鋭い鳴き声を上げた。
メリエント三体が応えるように鳴き声を発し、リンカー達のジープに鋭い目を向ける。
●砂塵舞う戦場
『さぁて…いくぜ、相棒。害獣駆除(ハンティング)だ! ……オレ、煮干しより鳥ガラ派だし』
攻撃のため窓から身を乗り出した魅流紗をシリウスが囃し立てる。
「そうですねー、私も……って、なんでダシの話になるんですか!?」
『なんでってそりゃあお前、にぼ』
「もう、いきますよ!」
シリウスが「にぼし」と言うのを遮って魅流紗はメリエントに仕掛ける。
リーサルダークの闇はメリエントの意識を奪わんと纏わりついたが、奇声を上げたメリエントは闇を跳ね飛ばす勢いで魅流紗がいる窓に向かって突撃してきた。
『やばい、体ひっこめろ!』
シリウスに言われるまでもなく咄嗟に車内に引っ込んだ魅流紗の体が直後の衝撃で倒れ込み、他の同乗者の手で支えられる。
『むっ……なかなかの衝撃ね』
大きく揺れた車体を咲雪に運転を任されたアリスが制御する。
「……ん、何度も当たると、やばそう?」
『当たればね。そう何度もやらせないわ』
ハンドルを握り締めた表情は咲雪のものではなく、闘志を燃やすアリスのものだった。
「……ん、頑張って」
ベタ踏みされるアクセル。
唸るエンジン音に負けじと月世が声を張り上げた。
「こちらの攻撃はまだ終わってませんよ!」
体当たりをしたメリエントに月世の放ったブーメランが命中する。
たまらずジープから離れようとしたが、追撃が待っていた。
「不用意に近付くと危険ですよ」
そう言ったのは共鳴した体の主導権を受け取ったブラッドリーか咲か。
急所を狙った銃撃はメリエントの頭部を抉る。
致命傷にはならなかったが立て続けに攻撃を受けたメリエントが最前列から引き離される。
『飛んで逃げたりはしないでしょうか』
「大丈夫ですよ、サキ。鳥と言っても、今回の鳥は飛べる形状ではありませんから」
ブラッドリーは次の攻撃に備えながら咲の懸念を取り払う。
「……ふむ。どうやら飛行能力だけでなく遠距離系の攻撃も有していないようですね。それなら、少しはお役にたてそうです」
攻撃を受けた二体のメリエントとまだ控えているヴェルーダにその様子は見受けられない。
ブラッドリーと同じく、従魔を観察している者はもう一人いた。
「見た目からすると発達した足と備わった爪、巨大な嘴……あとは従魔になったことにより巨大化した身体が武器になるでしょうか?」
構築の魔女が頭に銃撃を受けつつも最前列に戻ろうと走るメリエントと走り続ける他の従魔を観察していた。
元になったと思われる鳥類レアよりも大きな体躯と太い足が生み出す衝撃は先ほどの体当たりを見ればよく分かる。
H.O.P.E.から提供されるだけあって車体も一般車輌と比べて頑丈なのだろうが、よく見れば窓枠と扉の表面が少し歪んでいた。何度も攻撃を食らうと車体の方が先にやられるかもしれない。
「皆さん、車体を狙われる体当たりに特に注意をして下さい」
通信機を通した構築の魔女の警告に咲雪から了解の返事が返ってくる。
「向こうがその気ならオレが相手をするよ」
三台目のジープを運転する謡の返事は皆の盾になるというものだった。
他の二台と違い共鳴状態で一人乗りとなる謡とジャスミンは他のメンバーが攻撃に集中できるよう盾役に徹する。
「きみの相手はオレが務めさせて頂くよ。どこまでも付き合ってやるよ。こっちが飽きるまでな」
三体目のメリエントの蹴爪が構築の魔女と共鳴する落児操るジープに迫っているのを見るや間に車体を割り込ませ、代わりに蹴爪を受けた。
見事に扉にめり込んだ爪を見た黒絵と聖が身を乗り出して銃を構える。
「倍返ししてあげる!」
「コレでも食らいやがれッ!」
二人分の銃撃にメリエントが弾き飛ばされたかのように後方に下がる。
「もう一発!」
砂塵の向こう側からその様子が見えていたのだろう。
別のジープから飛んで来たのは車体に立った魅流紗の紫電の矢だ。
メリエントが大きくよろめく。倒れる事はかろうじて凌いだようだが、明らかに足が鈍った。
それと入れ替わりにヴェルーダがジープに迫り、メリエントよりも重く鋭い蹴爪が魅流紗に傷を負わせる。
月世はヴェルーダを睨んだが、当初の狙いを思い返してメリエントに目を向ける。
「今はヴェルーダよりもメリエントが先ですね」
遠距離攻撃を持っていない従魔達はあまり距離を取らず各ジープに接近して攻撃して来るため、ジープと従魔の距離はかなり近くなっている。
月世はブーメランから大剣の攻撃に切り替え、車外に乗り出してメリエントに斬り付けた。
大地を抉り走っていた足が崩れ、メリエントが前のめりに地面に倒れる。
「戦線離脱と言う手もありますが」
ブラッドリーは倒れた従魔に狙いを定めた。
『一匹たりとも逃すわけにはいきません』
咲の言葉通り、その一撃がメリエントにとどめを刺した。
三体いたメリエントの内一体が倒された事でリンカー達も勢い付く。
残り二体目のメリエントは案外しぶとい上に度々運転席を狙って攻撃を仕掛けて来た。
「……ん、攻撃、来るよ」
『ま、この程度なら造作も無いわね』
咲雪の警告通り運転席に迫ってくるメリエントの攻撃をハンドル操作で回避するアリス。
「向こうにふられたからって今度はこっちかい?」
落児の方を狙ったメリエントの攻撃は間に入った謡がカバーする。
攻撃を防がれ憤るメリエントだったが、威嚇射撃にひるんで隙を作ってしまい聖と黒絵に手痛い反撃を受けていた。
『……ヒジリー……ルゥ、お腹空いた』
聖と共鳴状態になっているLe..だが、黒絵のブルームフレアに焼かれたメリエントの香りを感じたらしい。
「……アレ、食う気じゃねーよな……」
聖はこのあとLe..に焼き鳥でも食べさせようと決めつつ、ダズルソードの衝撃波をメリエントに叩き込む。
深く切り裂かれたメリエントはその場で赤い羽毛の塊となり、砂塵の中に消えて行った。
『とりにく……』
「後で買うから!」
ブルームフレアでLe..に焼き鳥の匂いを連想させた黒絵にはLe..の声は聞こえなかったが、彼女と共鳴しているシウは聖の叫びからなんとなく察したらしい。
『僕は鳥肉よりもコーヒーを飲みたいな』
「折角ブラジルに来たし」
戦闘中ながら呑気なやりとりはヴェルーダの奇声に遮られた。
●大破
ヴェルーダの奇声を聞いたメリエントの行動が変わる。
自分を攻撃してきた者がいるジープにばらばらに反撃していた所を、ヴェルーダが狙った相手を集中攻撃するようになった。
蹴爪や嘴は中にいるリンカー達だけでなく車体も容赦なく傷つけ、ジープ二台のミラーはへし折れ、フロントガラスにもヒビが入っている。
落児と構築の魔女が攻撃を阻害する目的で用意したウレタン噴射器と消火器は運転席への攻撃を受けた際に破損していた。
『ジープでぶつかって行くってのは殴ってる感じがあって楽しいね』
「ジャス、それを言うなら殴ってる、じゃなくて殴られてる、だな」
相方に訂正を入れた謡が運転するジープに至っては、盾役を続けていただけに破損が激しい。
後部座席の扉は一枚落ちており、窓も割れてオープンカーのような有様になっていた。
『メリエントはあと一体ね』
「……ん、もうすぐ倒れる」
鷹の目を使って周囲を見てた咲雪がアリスに答える。
ウィザードセンスで攻撃力を強化した魅流紗が揺れる車体の上で弱ったメリエントに狙いをつける。
『どんなに素早い奴も『かわせない瞬間』は必ずある……コッチも、敵もな。ビビったら負けだ! 目ェ開けろ!』
シリウスの発破に魅流紗は一度深呼吸をする。
狙ったメリエントは今落児達のジープに攻撃を仕掛けていた。
ヴェルーダの一回り大きな体が何度か重なり、メリエントも動き回る。
「かわせない瞬間を……狙って……!」
メリエントが聖と黒絵の攻撃を受けて体勢を崩す。
今だと思ったと同時に紫電の矢が放たれメリエントを貫いた。
「やった!」
快哉を叫ぶ魅流紗に最後の一体となったメリエントが反応する。
「かかってきなさい!」
視線を感じた月世がむしろ好都合とばかりに構える。
メリエントの鋭い嘴をシールドで受け流し、大剣を突き刺した。
「今です!」
月世が剣を突き刺したまま逃すまいと力を込め、逃げられないメリエントにブラッドリーが銃弾を撃ち込む。
力尽きたメリエントは地面に倒れる直前ばらばらに崩壊し、赤い羽毛だけが宙を舞った。
「……ん、あ。やばい」
『やばいぞにぼし! 弾き飛ばされるなよ!』
咲雪の少し強張った声と魅流紗に掛けられたシリウスの警告の直後、ヴェルーダがジープに突っ込んできた。
体当たりが激しく車体を揺らし、車内にいる三人の体が軽く浮く。
車上にいた魅流紗に至っては必死にしがみついたものの危うく放り出されそうになった。
「いけません、援護を!」
構築の魔女が助けに入る。
援護射撃で怯ませ、聖と黒絵が引き離そうと集中攻撃を行った。
しかしヴェルーダは再び同じジープに攻撃を加えようとする。
「おっと、オレを無視するなんてつれないな。オレだけを見つめている約束だろ」
次の体当たりを食らえば流石に危ない。
ハンドルを任されたアリスがそう思った時、謡が車体を滑り込ませた。
これまでも盾になり続けた車体が嫌な音を立てて軋み裂け目が割れる。
「赤嶺さん!」
構築の魔女が今度は謡の助けに入ろうとしたが、謡は傾いた車体から叫んだ。
「オレはここまでだ……後は頼んだ!」
前輪とバンパーが潰れた謡のジープからは煙が上がり、動けないのは誰の目から見ても明らかだった。
瞬く間に後方に消えていく謡。
「やってくれたわね……」
普段はシリウスと共鳴して多少好戦的になろうとも基本はヘタレな魅流紗の目がぎりっと吊り上がっていた。
車から放り出され地面に叩きつけられる危険を感じたせいもあるかもしれない。
涙目でヴェルーダを睨みつけ、弓を構える。
目の前で自分たちを庇って戦線離脱した謡を見送る事になった月世とブラッドリー、そして共鳴している咲も武器を持つ手に力が入る。
ヴェルーダの能力はけして低い物ではなかった。
強力な蹴爪と嘴はリンカー達を確実に傷つけ追い詰めようとした局面も確かにあった。
しかし、味方の盾となり大破したジープと奮闘した謡の犠牲に報いようと奮闘するリンカー達に対したった一体ではいかなデクリオ級とて不利と言わざるを得なかったのだ。
魅流紗が放つ紫電の矢が、月世のライヴスを込めた重い刃がヴェルーダの発達した太い足や首に致命的なダメージを負わせる。
「このモヒカン野郎ッ! 見てるとどっかの筋肉ダルマ思い出してムカついて来たぜッ!」
聖がジープのドアを蹴り開けて身を乗り出す。
「聖くん?!」
驚いた黒絵が止める前に、聖がジープから飛び出した。
「喰らいやがれッ!! 千照流……」
刃にオーガドライブのライヴスが収束して行く。
「絶翔……墜牙ッ!!」
防御も顧みぬ猛スピードで走る車からの突撃とヴェルーダ自身が走るスピードが加わった刺突が深々と毒々しい赤い体を貫き、無数の羽根となって爆散した。
「やったぜ!って、やべ……っ」
猛スピードの車から飛び出した聖はヴェルーダと言う支えがなくなり、勢いよく地面を転がる。
『……ヒジリー……受け身』
「ちょ、ちょっと失敗したんだよ!」
砂に塗れて起き上がった聖にLe..の声が些か呆れていた。
仲間の車が慌ててブレーキを掛けて戻って来るが、思った以上の距離を転がってしまったらしい。
戻って来るまでに少し体裁を整えようと起き上がった聖の目に、高く登る太陽が眩しかった。
その頃、時を同じくして同じように太陽を見ている二人がいた。
「みんな結構先に行ったみたいだね。ヨウちゃん、これは町まで歩いた方が早そうだよ」
共鳴を解いたジャスリンがほらと指差した地面には仲間のジープが残したタイヤの跡があるが、その先は地平線の彼方に消えている。
大破したジープの僅かな影に座っていた謡はとんでもないと歪んだジープの車体にくっつく。
「なんて事を言うんだ。この炎天下を歩くなんて自殺行為じゃないか。オレはここで待つ!」
行く行かないとの二人の押し問答は従魔に勝利した仲間達からの連絡が届くまでしばらく続いた。
●少し違う日常
ブラジル高原のサバナの端に少し変わった農地がある。
動物避けのフェンスにはガラクタを積んで作ったバリケードが設置されてものものしい。
にも関わらず、農地を経営している人々が住む町は訪れる観光客の数が増えてものどかな日々を送っている。
この町が変わったのはほんの少しの間だけ。
従魔に蹂躙され失われるはずだった日常はリンカー達の手で取り戻された。
普段は地元の常連ばかりと言う町の料理屋はリンカー達のために貸し切りになり、その日の夜は酒場が大いに賑わい男衆が二日酔いになる程だった。
テンションが上がり過ぎてちょっとした買い物のつもりで来た少女と青年に、なんと木箱に詰まったコーヒー豆を配送してしまった者もいたと言う。
そんな騒ぎも日々が過ぎれば徐々に薄れて行く。
かつてこの町が危険に晒されていた事を思わせるのは農地に残されたバリケードのみ。
しかし町の人々は変わらぬ日々を送りながら、その日常を守ってくれたリンカー達の事を度々思い出す。
そして彼等が守ってくれた日常がいかに大事なものだったかを噛みしめるのだった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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