本部

悪党婚活中

落合 陽子

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/06/04 18:54

掲示板

オープニング

●プロローグ
「どうしても彼女と結婚したいんだ。どんな手を使っても!!」
 北アフリカ某国のとある地方には変わった風習がある。

●ロンドン警視庁にて
「例の殺人事件、進展はあったかね」
「いや、それが」
 課長の言葉に刑事が首を振る。
「やはりどうしてもデラの証言が必要ですよ。別件逮捕して司法取引に応じさせれば事件は解決です。ヴィランズ『セントラル・ルージュ』も一網打尽に出来る」
「そのデラが見つからないん だから他を当たるしかないだろう」
「しかし」
「課長!」
 別の刑事が色々なものをデスクから叩き落しながら走ってきた。名前はレター・インレット(az0051hero001)。その後ろからパートナーのユキ・ジェンナ・タカネ (az0051)がやって来る。
「国家のらぶりーわんわん、レター・インレット! ついにデラの居所を発見しました!」
「おお!」
 課長は書類を拾いながら顔を輝かせた。
「あいつはどこだ」
 レターは元気よく言った。
「北アフリカで婚活してます!」
「なるほど」
 課長は優しい笑みを浮かべた。
「3時間ほど仮眠を取ってまたおいで」

●馬車は扱えますか?
「つまりは結婚資格争奪戦レースです」
 ユキは地図を広げると北アフリカの一部を指した。
「ここの地域では 地域の有力者の子供と結婚するには馬車レースに勝たなければなりません」
「息子でも娘でも?」
「ええ。子供が20歳になった日に。最近は婚約という形を取っていますが実質は結婚確定です。参加資格は20歳以上の男女。犯罪者やその他特別な事由がある者は勝ったとしても無効となりますが。今回は娘さんの結婚資格を争います」
「それでそのレースにデラが出場すると」
「はい。出場者名はヘンリー・ゴートンですが、間違いなくデラです」
「しかし、北アフリカで婚活って。どうせ犯罪者ってバレるだろうに」
「いえ、恐らくデラの目的は結婚じゃありません。サマンという放蕩息子をレースで勝たせることです」
「なるほど。サマンとかいう奴に金を渡されたか」
「もしくはせびった か。どちらにせよ裁判まで時間がありません。レース中のごたごたに乗じて拘束するのが妥当です。レースには確実に出場します。素晴らしい金づるですから」
「こんな美味しい話はないわけか」
「でしょうね。デラは元々厩務員で馬車で観光案内をしていた経験もあります。馬車レースのサポートにはもってこいです。サマンは何度もロンドンに来ています。その内にデラと知り合ったのでしょう。何度か2人でいるところが確認されています」
「わかった。よく調べてくれたな」
 課長はにっこり笑った。ユキはいやな予感がした。
「ところでタカネ捜査官」
「はい」
「君は確か、馬車が扱えるな?」

●婚活って大変
「ノックぐらいして頂戴」
 北アフリカの某ホテル。ユキが身支度をしているとレターが入ってきた。
「すぐに課長に電 話した方がいい」
「ホテルのベッドの硬さについての文句なら無駄よ。公務員なんてこんなもので」
「違うわよ」
「何?」
「馬車レース、中に人を入れてやるわよね」
「そうよ。現地の警察官にやってもらう手はずでしょ」
「デラとサマンの馬車に入るのは、地元のヴィラン。それからもう1つ。娘さんが本当に結婚したいひとがレースに参加するみたい。もちろんnotリンカー」
 ユキは黙って電話に手を伸ばした。今すぐHOPE応援要請の許可がいる。

解説

●目的
・ヴィランの拘束(レースのサポート)

●レース内容(当日は交通規制あり)
・ルール
 屋根つき乗り合い馬車の中に2名以上を乗せ、定められたルートを走る。基本なんでもアリ。妨害行為可(乗客が行うのも可)ゴール時に乗客が乗っていなければ失格。
・ルート
 市街地~ステップ地帯~川(橋をわたる。道幅はぎりぎり馬車が2台通れるぐらい)~ステップ地帯~市街地(スタート地点)

●参加者
・デラ
 ロンドンで暗躍しているヴィラン。主に使う武器はナイフ。とある殺人事件の目撃者でもあり、ロンドン警視庁が追っている。
 サマン(後述)の依頼で他のレース参加者の妨害を企む。乗組員はヴィランズ『砂風』のメンバー2名。両名ともアサシンナイフの使い手で体術にも優れている。

・サマン
 放蕩息子。確実に勝てるようにデラへ妨害を依頼。馬車を操る腕はいい。乗客は能力者だが、自分は違う。
 乗組員はヴィランズ『砂風』のメンバー2名。両名ともアサシンナイフの使い手で体術にも優れている。
  
・カマル
 地元の有力者の娘と本と相思相愛の間柄。馬車を操る腕はいいが、気が優しく真面目なため、ごく普通の装備と乗客で勝負しようとしていたが、デラを追ってきたロンドン警視庁の刑事の説得でリンカーを乗せることに同意する。

・ブリッジ
 レースの飛び入り参加者。正体はデラを追って来たリンク中の刑事。緩めの服と目深に被った帽子で男装している。声も姿も全く違うため、初対面でなくても彼女達とはわからない。ロンドン警視庁の人間だとは伝えてある。

リプレイ

●それぞれの思惑
 この依頼を受けたリンカーと英雄たちの反応は見事にばらばらだった。

「さーて、お仕事だー」
「やれることだけをやるとするか」
 ギシャ(aa3141)とどらごん(aa3141hero001)は一応、真っ当にがんばろうとしているが、他はやや違うようで……。

「随分と変わった風習ね。でも、息子もって事は女性同士のレースもあるのかしら?」
「今回はそっちで無くて良かったです。遠慮無く出来ますし」
「遠慮は何時でも必要よ、エステル」
「善処します。それはそうと、このブリッジさんって結局誰なのですか?」
 風習に注目する泥眼(aa1165hero001)となんだか不穏なことを言うエステル バルヴィノヴァ(aa1165)。この会話の時、ブリッジの正体であるロンドン警視庁の捜査官2人がくしゃみしたとかしないとか。

 同じ風習に注目するのでも片桐・良咲(aa1000)の場合はテンションが高い。
「婚約者を決めるためにのレース、面白そう! 馬車での競争ってことはやっぱり悪者を捕まえる西部劇みたいな感じかな!」
「珍しく積極的に仕事を受けたと思えば。お祭に行くんじゃないんだぞ」
 尾形・花道(aa1000hero001)の心配は膨らむ。

 同じく好奇心を持って依頼に臨むは霧島 侠(aa0782)。
「婚約のレースか」
「姐さんってわりと人の恋路に興味しんしんだよね」
 飛影(aa0782hero001)が言う。こちらはどちらかと言えば恋路の興味だ。

 同じ恋路関係でも、アイザック ベルシュタイン(aa1578hero001)の発想は別方向。依頼内容を把握するなり、真面目な顔で言う。
「アレ? これ勝ったら俺」
「何もないよ?」
 くい気味に突っ込む赤谷 鴇(aa1578)。

 似たようなことを考えているのがもう1人。こちらはもっと積極的だ。
「なあ、有力者の娘って美人なのか?」
 その一言でドナ・ドナ(aa0545hero001)は旧 式(aa0545)の考えていることがわかった。
「なんだ、まさかお前勝ちに行く気か?」
「依頼を見ろ。目的はヴィランの確保だ。カマルを勝たせろとは書いてねー」
「止めとけ止めとけ。もし万が一にもお前が勝っちまったら娘さんがかわいそうじゃねーか、こんなチンピラチビ返品待ったなしだぜ」
「テメエには言われたくねー!」

 そして。
「必ず勝つよ」
 カマルは恋人の手を握る。

「必ず勝たせてくれよ」
 放蕩息子はヴィランに懇願する。ヴィランはにっこり笑ってうなずく。

「短い間だが、よろしく頼む」
 刑事は馬を撫でた。鋭く目を光らせながら。

 それぞれの思惑が錯綜するレースが始まる。

●レース直前
 レース会場周辺。皆それぞれ、準備や打ち合わせに忙しい。
「わかりました」
 広い肩幅と引き締まった体、穏やかな瞳を持つ青年が深みのある声で言う。彼がカマルである。彼の目の前にいるのは侠、良咲、花道。カマルの乗組員だ。4人は人目を避け、カマルの馬小屋で打ち合わせをしている。
それぞれの役割を確認し終わるとほぼ同時、飛影が悠然と入ってきた。買い食いでもしたのか口をもぐもぐさせている。
「遅い。とっとと幻想蝶に戻れ。もう打ち合わせは終わった」
「えー景色見ながら風を感じたい」
「レースなんだぞ。積み荷を軽くするのは当然だ」
 問答無用とばかりに幻想蝶放り込み一同に向き直る「準備完了だ」
『……』
 カマル班準備終了。

「ブリッジさんですか?」
 鴇は馬小屋に入ろうとしている人物に声をかけた。目深に被ったハンチング帽にぼろぼろのローブ。事前情報がなければ敵認定されそうな格好だが、ロンドン警視庁の刑事、ブリッジで間違いない。
「鴇さんとベルシュタインさんか。よろしく頼む。とりあえず、こちらへ」
 声は中性的だし、顔どころか体のラインまで隠されているため、年齢どころか性別もよくわからない。アイザックは気づいたかも知れないが彼は「よろしく~」と返しただけだった。馬小屋の中では既にギシャとどらごんが待っていた。挨拶を交わしていると、今度は男女2人が入ってきた。
「よう。俺はドナ。こっちの小学生の入学式が旧式だ」
「うるせー! 身長に 合わせて短パンにしたんだよ。西洋貴族風で格好いいだろうが」
「いやどう見ても」
「打合せを始めよう」
 アイザックの感想を無理やりぶった切ってブリッジが言う。時間がないのだ。ブリッジの言葉に旧式はにやりと笑った。
「考えがある」
 打ち合わせを終えるとブリッジは馬車に馬をつなげるため馬小屋を出た。そして絶句する。ロココ調のド派手な馬車が指定場所に鎮座していた。来た時はごく普通のそれだったはずだ。『ブリッジ』というプレートあるからこれで間違いないはずなのだが。
「お前がやったのか?」
「まあな。念のために娘の気を引くためには馬車も普通の馬車じゃダメだろ? っつーわけで西洋風の貴族が乗ってそうな馬車にデコレーションしたぜ」
「やる気じゃねーか」
「うるせードナ、男に生まれたからには勝負する時があんだよ」
(婿になる気か!)
 背後の旧式とドナの会話にブリッジは頭痛を覚えた。それであの格好だったのか! 
ブリッジ車、準備完了。

「すごい馬車だな。ブリッジ」
 馬車に馬を繋げていると侠が声をかけた。
「気を引くそうだ」
 暗に自分の趣味ではないことを強調する。
「敵はこちらの正体をつかんでいると思うか?」
 侠は声を落として言った。
「時間的に敵が我々の正体に気づくのは難しいだろう。念のため、その辺はHOPE や地元警察と連携して情報操作もしている」
「そうか。では相手に合わせた態度を演じよう。低レベルにガン付けとか」
「……頼む」
「レース参加者は位置について下さい」
 アナウンスに従い、御者が指定位置へと馬車を動かす。無論、既に乗組員は馬車の中だ。予告通り、リンカーの中で唯一共鳴していない侠は隣のサマン車のヴィランズとカン付し合っている。
「それではレースを開催します」
 勝負が始まる。
「スタート!」

●婚活スタート(市街地~橋の手前)
 トップを切ったのはブリッジ車。鞭をややきつめに使い、スピードを一気に上げる。これは旧式の作戦である。
「サマンが依頼主である以上ヴィランはサマンを勝たせに来るはずだ。だから俺たちがトップをとる。 そうすりゃ必然サマン車やデラ車の狙いは俺らになる。
 で、ヴィラン共をぶっ潰して最後にカマルに勝ちをゆずりゃー大団円だよ。
 そうゆうわけでブリッジ、本気で頼むぜ」
 旧式の思惑通り、ブリッジ車の右後方には不自然なほどぴたりとデラ車がついている。やや遅れて左後方にサマン車、最後尾にカマル車が走る。
「結構速いね」
 ギシャが声を上げる。
「川までは大人しく様子見だし、荷馬車の中っつーのを満喫し……うおっ」
 旧式の台詞が終わるか終わらないか、馬車に軽い衝撃が走った。その後も断続的に何衝撃は走った。鴇が外へと身を乗り出すとデコレーションの一部が取れかけて車体を叩いているのが見えた。さらに身を乗り出しデコレーションをはがして捨てる。
「あ、おい!」
 旧式の非難を無視して辺りを見回すと道に拳大の石が転がっていた。明らかに不自然な大きさだ。
「投石されたようですね」
「もう攻撃してきたのかよ!」
「馬車からじゃないね」
「早く町を抜けましょう。町のどこかにあいつらの仲間がいるみたいです」
 それを裏付けるように再び石が飛んでくる。今度は鴇が他の馬車から見えない位置で装甲を展開。石を防いだ。ギシャは馬を旧式はブリッジをそれぞれ護衛に当たる。
「地味な攻撃しやがって!」
 石が投げられているのはブリッジ車だけではない。カマル車も狙われている。
「馬鹿なッ! こんな序盤で攻撃だと!?」
 言いつつ、侠は戸を開け、飛んでくる石を器用に叩き落とした。
「まあ、想定内だ」
「だが、放ってはおけん」
良咲は盾で馬やカマルを守りつつ、投石の方向から敵の居場所を割り出し、ロングショットで2人の敵の服と壁をまとめて貫いた。カマルは落ち着いた手綱さばきで馬車を操り、最後尾として市街地を抜けた。

 ステップ地帯に入り、人通りがなくなった頃、2番手のデラが連続で馬に鞭を入れだした。ブリッジ車との距離を詰め出す。だが、それだけでまだなにも仕掛けてこない。
 仕掛けてきたのはサマン車。手綱を緩めて最後尾のカマル車に並び、体を大きく傾け幅寄せしてくる。良咲が牽制に弓を射るが、ヴィランにアサシンナイフで弾かれた。
「まずはこちらから潰す気か。想定内だ」
 窓を閉め隙間から次々と剣を素早く差し込む。サマンは大慌てで車体を離した。これではヴィランズより先に馬車が壊れる。
「ちっ。あいつら一般人じゃねえ」
 ヴィランの呟きを侠は耳ざとく拾い上げ、窓を開けて真顔で一言。
「一般人だ」
「無理があるだろ」
「馬鹿なッ! 日本人的奥ゆかしさで専守防衛してきたのに」
『いや普通の乗客はそもそもそゆことしないし』
 ヴィランズの声が見事に重なった。

「状況はどうだ?」
 デラ車の中。ヴィランの1人が無線に向かって言う。
「異常はない。手はず通り、綱を引っ張ったら橋が落せるようにしている」
「了解。最後尾はカマルだ。カマルが橋の前部に差し掛かったら橋前部を落とせ」
「りょ、了解」

「ご苦労様。もう眠って下さい」
 橋のたもと。農民風の姿で共鳴中のエステルが言う。呻き声を上げて男が気を失う。
コースに川があると聞いて念のため先回りしたら、案の定工作員がいた。全員叩きのめし、1人を残して警察に突き出し、残りの1人には今、虚偽の通信をさせた。男を橋のたもとに縛ると歩き出す。次の待ち伏せ地点は橋の半ばだ。

 狙うはサマン車。

 橋まで500m地点。ブリッジ車とデラ車が並んだ。急激に幅寄せしてくる。橋の幅は2台ぎりぎり通れるほどの幅である。ここでデラ車から離れようとすれば、橋に入ったところで減速しなければならなくなる。
ギシャが動いた。馬車の戸を開けるとデラ車へジャンプ。手にした白虎の爪牙が日にきらめく。ヴィランも動いた。馬車席の戸を開け、アサシンナイフで攻撃を受け止めた。鋭い金属音が響く。ギシャはアサシンナイフを軸に馬車席の天井に飛び乗った。ヴィランの1人も天井に飛び乗り、ギシャへとナイフを振り下ろす。ギシャはそれを白虎の爪牙で受け止め、足払いをかける。だが、不安定な場所からの蹴りはやや甘かったようでヴィランはそれを腕で払った。ギシャは素早く身を引くと、白虎の爪牙を構えた。橋まで後、200m。
「ちっ」
 デラ車に残ったもう1人のヴィランが決着のつかない天井での戦闘に業を煮やしたらしい。手を伸ばしてブリッジ車に飛び移ると鴇を羽交い絞めにしてデラ車へ戻る。鴇は抵抗しない。ヴィランは素早く鴇を拘束するとナイフを突きつけた。
「仲間を殺されたくなかったら馬車止め」
 ブリッジは無言で鞭を入れ、旧式は戸を閉めた。
「お前ら血も涙もねえな」
 ヴィランだけには言われたくない。

 ブリッジ車先頭で橋入り。馬1台分遅れてデラ車、5分ほど遅れてサマン車、カマル車と続く。

 橋は落ちない。

●婚活佳境(橋~ステップ地帯)
 橋に入っても、ギシャとヴィランの戦いは続く。刃と刃が幾重にもぶつかり、鋭い音を辺りに響かせる。
「人質を捨てろ!」
 デラが叫んだ。今、デラ車には5人乗っている。対してブリッジ車は2名。重さ的に不利だ。今は鞭を多く入れているからスピードが出ているものの、この調子ではいずれ失速する。
デラはブリッジに向かってナイフを投げた。ブリッジは運転で手一杯である。だが。
「残念でした」
旧式に阻まれた。その後も次々ナイフを投げるが全て旧式に楽々阻まれる。
「便利だな。『守るべき誓い』」
「くそっ」
デラの指示通り、鴇を捨てようとヴィランが馬車の戸を開けたその時。
「もういいか」
 リンクが解除される。アイザックは素早く鴇の拘束を剣で斬ると再びリンク。後はもうすごい。剣が振り回しにくいと天井を剣でぶち抜き(ギシャとヴィランは欄干に飛び移って再び戦闘開始)右方向の壁を蹴破る。ヴィランも能天気にそれを見物しているわけではない。アサシンナイフを鋭く振り、これ以上馬車を破壊させないよう殺しに行く。剣とナイフが何度も交錯し、火花が散った。その影響を被って馬車はぼろぼろである。
「早く落とせ!」
 無茶を言うデラ。ヴィランとギシャの分馬車が軽くなり、ブリッジの馬車に並び出した。いきなりスピードを上げられて、馬車の中にいた2人が転げ落ちそうになる。それを利用して鴇が動いた。バランスをあえて崩し剣がヴィランの死角に入るように動く。
「がっ!」
 その一撃はアサシンナイフを砕き、敵を戦闘不能にする。その上に、ギシャによって蹴り飛ばされたヴィランが落ちてきた。さらにその上にギシャが着地。再び戦い出す。だが、こう狭いと鴇もうかつに手が出せない。というより身動きがほとんど取れない。後方の壁を蹴破ろうかとも思ったが後から来るカマル車の邪魔になってしまう。仕方なくブリッジ車に飛び乗り、デラを襲撃しようと思ったとき、デラが叫ぶ。
「邪魔だ女!」
 橋の半ば、1人の釣り人が竿を垂れていた。怒鳴られ欄干に飛び移る。
釣り人はサマン車が釣り人のそばを通り過ぎようとした瞬間、斜め脇から蜻蛉切を馬車に突き刺した。普通の釣り人がそんなことをするわけがない。エステルである。
「!?」
 変則的な棒高跳びの要領で馬車へとジャンプする。サマンは悲鳴を上げて手綱を緩めた。馬車が蛇行する。異様な馬の嘶きにデラが振り向いた。
「ちっ」
 手綱を放すとブリッジ車の上に飛び乗る。主を失った馬車はすぐに蛇行しながら暴走し出す。デラは見向きもせずに再び欄干へとジャンプし、走ってきたサマン車に飛び乗った。今まさにサマンを捕まえようとしていたエステルに斬りかかる。
「ブリッジ、交代だ。デラの馬車を頼む。こんなところで暴走されたら俺らも落ちる!」
 旧式は制御台に飛び乗って叫んだ。ブリッジは隣の馬車へ飛び移り、手綱を短く持って強く引いた。馬は足を高く上げ、大きく嘶いた。馬車の中のリンカーたちは思わず悲鳴を上げる。鴇はリンクを解除して馬車に重みをつけた。
「ギシャ! こっちに移れ!! 乗客がいなきゃ囮にならねえ」
「了解ー」
 既に自分の相手を戦闘不能にしたギシャが飛び乗る。

 ブリッジ車、御者変更。旧式へ。このまま優勝なるか。

 急に軽くなって落ち着きかけた馬が再び暴れる。
「うわっ!」
 左壁に頭を思い切りぶつけるアイザック。
「まあ、死ななきゃ問題ないし、このまま落ちても……デラいないし」
「俺は問題があるんだけど?」
 言いながらブリッジの隣に飛び移り、一緒に手綱を引く。
「ブレーキバーを少し引いてくれ」
「OK」
 アイザックは手綱は離さずゆっくりレバーを引く。馬はなんとか落ち着き再び走り出した。
「ヴィランズ捨ててもいい?」
 ヴィランの隣に移りながらブリッジに聞く。
「悪いがこのまま拘束しててくれ。地元警察に渡す手はずになっている。デラは彼らに任せる」
「了解。それならこいつらには床の穴を塞いでもらおう」
ブリッジはゴールするまでにこのヴィランズが死んでないことを祈った。

 デラ車、制圧。御者変更。ブリッジへ。

 サマン車の天井ではエステルがデラと対峙している。鉄扇での先制攻撃はアサシンナイフで受け止められ、叩き落とせなかった。ロザリオで足元を攻撃し、バランスを崩したところで鉄扇を使う。だが、デラも伊達にロンドンで泳いできたヴィランではない。ロザリオの動きを読んでジャンプしてかわしつつ、アサシンナイフで鉄扇を受け止める。受け止めつつ、鋭い蹴りを放った。良咲はデラに弓を向けるが双方の動きが激しいため、なかなか撃てないでいる。サマンを攻撃すれば馬車が暴走してこちらも巻き込まれる。中にいるヴィランも何とかデラの援護をしようとするのだが、下手に動けば弓の餌食になるか剣で馬車を串刺しにされるかなので手が出せない。サマン車は最後尾として橋を抜け、ステップ地帯へと入った。

●婚活ゴール(ステップ地帯~市街地)
 ステップ地帯でも順位は変わらない。トップはブリッジ車(運転者:旧式)続いてデラ車(運転者:ブリッジ)、サマン車、カマル車と続く。サマン車の天井ではデラとエステルが戦っている。
「サマンに幅寄せを」
 鴇の言葉に従い、ブリッジはスピードを落とし、サマン車に並んだ。ステップ地帯は前半のそれより市街地までの距離が短い。ここでデラを拘束しなければ市外に逃げ込まれる可能性が出てくる。エステルはデラの攻撃をかわし、デラ車に飛び移った。それとほぼ同時、デラの足元へと良咲が矢を打ち込んだ。デラの体勢が崩れる。エステルが再びサマン車へと飛び移った。飛び移りざま鉄扇の一撃をデラへ叩きつける。
「がっ」
 体勢を崩していたデラは避けられない。馬車から転がり落ちた。地面に叩きつけられる寸前、鴇がデラの服を掴んで馬車へと引きずり込んだ。
「いらっしゃい」
 
 デラ捕獲。依頼達成。5分後、ブリッジ車、サマン車、カマル車市街地入り。

「ふん、そろそろゴールか、ケリを付けるか」
 侠は伸びをして車の戸を開けた。サマンは真っ青になりながらも安定した運転をしている。たいした度胸ではある。
「後は頼んだ」
 競り合っているサマン車に飛び移りながら共鳴。エステルは侠の意図を察してデラ車に飛び乗る。依頼はデラの確保。ならば念のため、鴇と一緒にデラを見張ったほうがいいだろう。
「おい! 早く落とせ!」
 サマンが叫ぶ。言われなくてもヴィランは戸を開け、アサシンナイフを侠へと振る。だが。
「ぐっ」
 鴇の斬撃がナイフを砕く。もう1人のヴィランも攻撃を仕掛けるが、これは良咲の弓に阻まれた。
「そんなに落としたいなら手伝うぞ。……ハンドレッドウイング!」
 ブラッドオペレートの一閃が馬車の後部ごと乗客を下車させる(ちなみに技名叫んだのは飛影)
「よし!」
 車体が軽くなり、サマンが喜色満面、後ろを振り返る。だが、そこには何もない。
「!!」
 侠は共鳴を解除して自分も軽やかに降りる。
「よき風が共にあらんことを!」
カマル車に飛び移りながら侠は叫んだ。

「クソッ!!」

 サマン車、大破。乗客0名により敗北決定。

 ここで初めてカマルが強く鞭を入れた。
「速ッ」
 他の馬車とは蹄の音から違う。ものの数分でブリッジ車を捉えた。
「げっ」
 蹄の音に振り返った旧式が声を上げ、慌てて鞭を入れるが、明らかにスピードが違う。双方、ゴールが見え始めた。後、1km。ついに、カマルが旧式に並んだ。
「カマルさん!」
 ゴール先で素朴な顔立ちの可愛い娘が叫ぶ。彼女が有力者の娘だろう。小柄な体のどこから出るのかと思うほどの大きな声で言う。
「あたし、信じてます。待ってますから!」
「重さ的にこちらが有利すぎるな」
 どらごんが言う。
「そうだね」
 ギシャがリンクを解く。馬車が急に重くなる。スピードが落ちた。後、200m。まだ、旧式の方が前にいる。旧式は鞭を打った。カマルも鞭を打つ。後、100m。
「カマルさん!」
 2台の馬車がゴールを通り過ぎた。審判が叫ぶ。

「勝者、カマル!」

●大団円
 大声援の中、カマルが馬車から降りた。娘はわき目も振らず、カマルの方へ走る。カマルは黙って娘を抱きしめた。
「おめでとう。カマルさん」
「もうカマルでいいよ」
 割れんばかりの拍手と花が2人を包み込む。
「なんてロマンチックなんだろう!」
 良咲はリンクを解くと馬車を降りた。人々と一緒になって花を撒いて祝福する。
「こういう幸せもあるのね」
 馬車を降りながらつぶやくエステルの言葉に泥眼は静かにうなずいた。

 花道はデラと2人のヴィランズが拘束されている馬車(ほとんど板付き馬だが)の方へと歩む。ブリッジは馬車から降りるとリンクを解いた。
「ご協力ありがとうございました。ブリッジ改め、ジェンナ・ユキ・タカネです」
「イギリスのらぶりーわんわん、レター・インレットでっす! あ、飛影さんに侠さん! 覚えてるー? 蟹のレター・インレット」
「らぶ? 蟹?」
「気にしないで下さい」
 素早く遮るユキ。その横ではレターが何故かどらごんとギシャに握手を求めている。
「ところで」
花道は拘束されたデラたちヴィランズを見た。
「こいつらはどうする」
「デラは事件の証言のためにロンドンへ。後は地元警察に任せます。市街地の真ん中で降りさせられたヴィラン2名とサマンも既に地元警察に拘束済みです」
 いつの間に来たのか地元の刑事らしき人間が数名、車から降りて敬礼する。
「そうか。逃がさないようにな」
「大丈夫ですよ」
 馬車から降りながら鴇が言う。デラに向き合いにこっと笑って一言。
「証言前に逃げたらまた会いに来ますね?」
 レターもにっこり笑う。
「だそうよ。よかったわね」

「人の恋路を邪魔する奴は自分の恋で痛い目見るんだよな……。反省したぜ」
 ド派手な馬車に寄りかかってその光景を眺める旧式。ただいま悲哀の一服中である。
「つーかよ、なんだこの噛ませ犬感? リア充の応援なんてせずにカマルの馬車を本気でリア充爆発させに行けばよかったぜ」
「分相応ってやつだよ。テメエは馬車でお姫様さらえる身分にはねーんだよ」
 ドナが全く慰めになっていないことを言う。旧式はへこむ様子もなく真顔で言った。
「お前もさらわれる身分にはぜってーにならねーけどな」

「さて、私たちはこれで」
「えー! 観光は?」
「ご協力感謝します。では」
 レターは現地警察が回してくれた車にデラと放り込まれる。放り込まれる寸前、レターが旧式に笑みを浮かべて敬礼したが見えただろうか。レターは見た。ゴール寸前で旧式がわずかに手綱を緩めたこと。

 1台の車が空港へと走り出してもまだ歓声は止まない。

「爆発しろー!!!」
 アイザックの祝福の叫びが歓声に混ざった。

 数日後。
「検察側の証人としてハリー・デルラ・ウィ ルを」
 デラと名乗っていたヴィランが裁判官の前に立つ。

 証言によりヴィランズ“セントラル・ルージュ”のリーダーの殺人罪が確定。リーダーを失った“セントラル・ルージュ”はその後、大半が逮捕され、事実上の壊滅状態となった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 堕落せし者
    旧 式aa0545
  • エージェント
    霧島 侠aa0782

重体一覧

参加者

  • 堕落せし者
    旧 式aa0545
    人間|24才|男性|防御
  • エージェント
    ドナ・ドナaa0545hero001
    英雄|22才|女性|ブレ
  • エージェント
    霧島 侠aa0782
    機械|18才|女性|防御
  • エージェント
    飛影aa0782hero001
    英雄|16才|男性|バト
  • 楽天家
    片桐・良咲aa1000
    人間|21才|女性|回避
  • ゴーストバスター
    尾形・花道aa1000hero001
    英雄|34才|男性|ジャ
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 馬車泣かせ
    赤谷 鴇aa1578
    人間|13才|男性|攻撃
  • 馬車泣かせ
    アイザック ベルシュタインaa1578hero001
    英雄|18才|男性|ドレ
  • ぴゅあパール
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