本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】ハイヘイ

雪虫

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 5~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/06/01 14:38

掲示板

オープニング

●通達
「永平、お前にHOPEへの移籍を頼みたい」
 劉士文の言葉に、李永平はザッと顔を青ざめさせた。筋肉のついた肩を震わせ、敬愛する士文へ一歩を踏み出そうとする。
「あ、兄貴、どうして……」
「古龍幇とHOPEの協定の件については知っているな。それと同時に古龍幇からHOPEへの移籍についても推し進めたいと思っている。遠慮して口には出さないが、HOPEへの編入を希望している構成員も少なからずいるはずだ。そいつらへの後押しとサポート、そして古龍幇とHOPEの橋渡しをお前に頼みたい。そして出来れば、お前には真っ当な道を歩いてもらいたいと思っている」
「ま……っとうな道なんざ、必要ねえよ! 古龍幇が俺の居場所だ! あんたに従う事が俺の……」
「お前の気持ちは嬉しく思う。だが、誰かが橋渡しをしなければならない。そしてそれを頼めるのはお前だけだと思っている。お前なら、HOPEのエージェント達とも多少面識があるしな。
 お前が望むなら古龍幇に籍を置いたままで構わない。だが、今後はHOPEのエージェントとして、HOPEに移動した連中の面倒を見てもらいたい。頼めるな?」
 士文の声に、永平は顔を俯かせた。マイロードと心酔する士文の命令ならどんな事でも聞き入れてきた。
 だが、
「少し……考えさせてくれ……」
 永平は辛うじて呟くと、士文に背を向け項垂れながら去って行った。士文は永平の姿を見送ると一人深く息を吐いた。

●独陣
「どうすんだ、永平」
「お前はどうしたい、花陣」
 返された問い掛けに花陣は幻想蝶の中で顔をしかめた。永平がケンカ友達のような自分に意見を求めるとは珍しい。それ程参っているのだろう。
「俺は出来れば古龍幇に残りてえよ」
「俺だってそうだ。兄貴の言いてえ事も分かるが、古龍幇が俺の居場所だ。兄貴に従うのが俺の道だ」
「でもそうなると、兄貴の言に従ってHOPEに移動するのが筋だよな」
「そうなんだけどよお……」
 永平は珍しく重苦しく肩を落とした。実は永平には一つ懸念している事がある。自分達は劉士文に捨てられたのではないかという事だ。黒兵の大隊長という役割を任されてこそいるが、持ち前の単細胞からトラブルも引き起こしている、そんな自分に士文は愛想を尽かしたのではないだろうか……
「ああ、一体どうすりゃあ……」
「李隊長! マガツヒの居所が分かりました!」
 思い悩む永平の元に、黒兵の部下の声が勢いよく飛び込んできた。永平は顔を上げ、走ってきた部下の肩を強く掴む。
「本当か!?」
「はい、場所は日本の……」
「おい、何考えてやがる」
「古龍幇をコケにしやがったマガツヒにナシ付けに行くんだよ。ちょうどいい、ここで一丁功績挙げて、兄貴に使えるって所をビッグにアピールしてやるぜ! 花陣、お前はどうする」
「一緒に行くに決まってんだろ」
「お前、この事は誰にも漏らすんじゃねえぞ。黒兵の連中にも兄貴にもだ」
 永平は釘を差し、情報の書かれた紙を片手に走っていった。男はその背中を見送り、にやりと不穏な笑みを浮かべた。

●前触
 すぐ手元で鳴った電話を、オペレーターはいつものように事務的に取り上げた。始まりはいつもごく静かだ。それがどんな事件に繋がるものであったとしても。
「はい、もしもし」
「もしもし、HOPEはん? 僕マガツヒのパンドラ言うんどすけど、今お時間よろしいやろか」
 奇妙なイントネーションの京都弁に、しかしオペレーターは目を見開いた。のんびりと語られるマガツヒという単語にオペレーターの顔に緊張が走る。
「マガツヒ……だと……」
「はい。お時間取らせて申し訳ないどすけど、ちょいとお頼みしたい事があるんどす。実は古龍幇の李永平はん……? が、僕の所に『遊び』に来とるんどすわ。なんや遊び疲れてしもうたようで、HOPEはんの方で『お迎え』頼めませんやろか? ほんまは古龍幇はんの方がええんやろうけど僕も用事がありましてなあ、あと二時間ぐらいで移動せんといかんのどす。でも、HOPEはんもお忙しいでっしゃろうから、僕の方で『始末』つけてもかましまへんけど」
 『始末』。親し気な口調から放たれた単語にオペレータの背筋に怖気が走った。その胸の内を知ってか知らずか、京都弁紛いの少年の声は一層親し気に語り掛ける。
「ああもちろん、HOPEはんが永平はんの『お迎え』断ったんは古龍幇はんには内緒にしときますって。でも永平はんもきっとおうち帰りたいどすやろし……海を越えて帰れるよう僕が『壊造』しておきましょか?」
「『迎え』を行かせる。李永平にはこれ以上手を出すな」
「了解どす~。ほな二時間以内にお願いしますわ。場所はT地区××の廃工場どす。ほんならよろしゅう」
 そして通話はプツリと切れた。オペレーターは急ぎマイクの電源をオンにする。
「通達する、古龍幇の李永平がマガツヒに囚われた。制限時間は二時間、向かえる者は至急集まってもらいたい!」

●廃兵
「HOPEはんが迎えに来てくれるそうどすわ。あと二時間以内に来るそうどすから、もう少し僕とここでええ子にしときましょうね」
 奇妙な面を被った少年は親し気な調子でそう告げた。永平は床に転がりながら、必死の形相で眼前に立つ愚神の姿を睨みつける。
「ふ、ざけ……」
「あ、そうや永平はん、これご存じどすか? 狂化薬言うんどすけど、リンカーのライヴスを狂わせて暴走させる薬なんどす。古龍幇の皆さんにもお配りした事あるんどすけど、せっかくやし一つ味見してみませんか?」
 愚神の放った一言と取り出して見せた奇妙な缶に、永平は事の全てを理解した。パンドラと名乗る愚神は永平に近付き前髪を掴んで引き上げると、その口に缶を押し付け永平の喉へ流し込む。
「が……ああ、ああぁァアッ!」
 突如暴れ出し掴み掛かってきた永平を、しかしパンドラはいとも容易く腕一本で抱え込んだ。獣のように荒れ狂う永平の背を、まるで子供をあやすようにポンポンと叩いてさえみせる。
「永平はん、どうどう。そんなにはしゃがんで欲しいどす。HOPEのエージェントはんが来はったらいっぱい遊ばせてあげますよって。それまでは僕とここでええ子に大人しくしときましょうね」
「ガアッ! ああ、あァアアッ!」
「あ、HOPEのオペレーターはんにこれ以上手ぇ出すな言われましたのに……目ぇ離した隙に永平はんが狂化薬を勝手に飲んでしもうた事にしましょうか。僕怒られたくないんで、どうかこの件は内緒にしとって下さいね。
 ふふふ」

解説

●目標
 李永平の救出

●マップ情報
 廃工場
 10×15スクエア。山中にあり、HOPEからバスで1時間45分地点。時刻は昼。北・東・西には壁があるが南の壁は全て壊れている。床に奇妙な缶が転がっている以外障害物なし

●その他
・現場にはバスに乗って移動
・PCの移動中にオペレーターが古龍幇に連絡を取り、永平と永平の部下1名が行方不明である事、永平にHOPEへの移籍を打診した事を士文から告げられる
・狂化薬の解毒剤は出来上がっているが保存の関係上HOPEから持ち出す事は不可
・提示されている難易度はパンドラが戦闘に加わらない場合

(以下PL情報)
●敵情報
 李永平
 古龍幇のドレッドノート。暴走状態。ウェポンズを武器として使い、ウェポンズの形態によって射程が変化。AGWは全て破壊された模様
・怒涛乱舞
 周囲の対象を5体まで攻撃する
・烈風波
 ライブスの衝撃波を発生させ、離れた対象を攻撃する
・クロスカウンター
 攻撃を受けるか回避した際、攻撃を行った対象に反撃する

 奇箱・具×2
 全長1.5mの箱型従魔。1ターンに2~5体のウェポンズを生成する。移動力・物防・魔防が高い

 ウェポンズ
 剣・槍・弓・銃・斧・鞭いずれかの姿を取る。単独では回転しながら直線状を移動し攻撃する

 パンドラ
 マガツヒの愚神と目される。回避が異常に高い。PC達の姿を認めると永平を「解放」し逃亡しようとする。攻撃を加えると参戦。ウェポンズを使う事もある。エージェントの名前の検索に失敗し少々落ち込んでいる
・壊造
 接触した相手を改造する。効果は次の通り
奇箱・具:生成するウェポンズの数が3~6体になる
ウェポンズ:物攻・物防・魔防が上がる
・禍の狂持
 二回連続で攻撃を行う 例:壊造の二回連続使用・壊造後攻撃

●その他
・OPは「前触」以外はPL情報
・奇箱の外面は【東嵐】シウシウに出た謎の箱に似ている
・狂化薬は一本とは限らない

リプレイ

●車中
「永平さんとどういう話をしたのか教えてもらっていいですか」
 御代 つくし(aa0657)は電波の向こうの劉士文へ問い掛けた。廃工場へ向かう途中、オペレーターから士文に連絡を取った事、永平と永平の部下1名が行方不明である事を言伝られ、直接話がしたいと頼んで代わってもらったのだ。
「永平にHOPEへの移籍を打診した。同じくHOPEに移籍したがっている連中のサポートと、HOPEとの橋渡し、それからあいつ自身に真っ当な道を歩いて欲しいと……」
 その落ち着きのある声に、しかし佐倉 樹(aa0340)はわずかに表情を苦くした。親しくない人間には無表情にも見えるそれではっきり士文に苦言を呈する。
「まず劉大人が言う前に、顔見知りのHOPEエージェント……特にうちの隊長やそこの御代、その人達に勧誘の声をかけさせるべきでしたね」
「信頼している人に“自分の傍から離れろ”なんて言われたら……私はきっと、泣くと思う。……永平さんも悲しかったんじゃないかと思います」
 樹の言葉をつくしがすでに湿った声で引き継いだ。つくしの言葉は自分のより更に想いが籠っている、そう考えた樹はつくしに任せる事にした。出来れば士文と永平の事もどうにかしたい、その一念でつくしは必死に言葉を紡ぐ。
「もっと、永平さんと話をしませんか。永平さんは劉さんの傍に居たくて居るのだから、真っ当な道なんてどうでもいいくらい劉さんが大好きなんだから、移籍なんて簡単な事じゃないと思う。離れるなんて嫌だと思う。私だったら部隊から離れるなんて嫌だ。だから、未来を誓うとか、どうですか。いつか右腕に、とか!」
「古龍幇が未来を語れるような組織だと、君達『HOPE』は思うのか?」
 つくしの必死を、しかし士文の簡素な問いが打ち砕いた。
「俺は俺の生き様を否定するつもりはない。だが俺の行く道が真っ当ではない、そのぐらいは理解している。古龍幇の前では言えん事だが未来という言葉を軽々しく口には出来んという事もだ。
 だからこそ、まだ別の道を歩ける者にその機会を与えたいと思っている。俺を慕ってくれる者が相手でも、俺のエゴだと分かっていてもだ。君達の気持ちは嬉しいが、俺にも言えん事はある。押し付けるようで済まないが、永平を……俺の大事な部下を頼む」
 通信はプツリと切れた。表情を悲し気にするつくしに傍らのメグル(aa0657hero001)が声を掛ける。
「……彼を、連れて帰りましょう。必ず」
「……うん、そうだね。あ、クレアさん、これを」
 つくしと樹は睡眠薬を取り出すとクレア・マクミラン(aa1631)の手へ渡した。己の手を見つめるクレアにつくしがぺこりと頭を下げる。
「何かあった時の為に。私よりもクレアさんの方が上手く扱えるはずだから」
「餅ハ餅屋!」
 つくしとシルミルテ(aa0340hero001)の声にクレアは頷く。衛生兵としての使命と誇り、そして仲間の信頼に必ず応えなければならない。
「着きました」
 運転手の声にクレアは座席から腰を浮かせた。毅然とした表情でリリアン・レッドフォード(aa1631hero001)に視線を向ける。
「……さて、行きましょうか」
「えぇ、いつも通りに」

●接触
 廃棄されて久しいらしく廃工場の天井には所々穴が開き、砂塵に汚れた床の上にいくつか光を落としていた。邦衛 八宏(aa0046)は奥に立つ面を被った少年と、その腕に抱えられる青年を認め右手を胸に沿え頭を下げる。
「……貴方、ですか……お迎えに、参りました……」
「それは後に取っとけっての。 聞いときてぇ話があるんだろうが、なぁ八宏?」
 稍乃 チカ(aa0046hero001)の声と共に、八宏は二人の男の傍に浮く奇妙な箱へ視線を向けた。見覚えのある外装に八宏の中に確信が生まれ、横から木陰 黎夜(aa0061)が少年へ一歩足を踏む。
「2つ、質問……。1つ……『遊び』に来たのは永平だけか……。もう1つは、そこに転がってる缶は、狂化薬か……」
「……永平が随分と観たことのある状態になってるけど……」
『何、しタノ?』
 共鳴した樹とシルミルテの問いに少年の面がわずかに動いた。考えるように宙を向き、それからリンカー達へと戻す。
「『遊び』に来たのは永平はんだけです。その缶は永平はんが勝手に飲んでもうたんです。僕が飲ませたんと違いますから」
「彼は単純で馬鹿だが」
『誇リは気高イ』
「……飲むわけが無いだろう?」
 樹とシルミルテの追及に面は緩く横に振れた。本気とも戯れとも取れる調子で言葉を紡ぐ。
「ああ、やっぱり怒られてもうた……もうしないんで堪忍してくれません?」
 嘆願を却下するようにエージェント達は武器を構えた。面の愚神はひっそり笑い青年を抱える手を放す。
「永平はん、お迎えやって。お帰りやす」
 永平が走り出したと同時に、奇箱が武器型の従魔を計4体吐き出した。その1つを手に突撃する永平をよそに樹がつくしに口を寄せる。
「永平はまかせたよ……私はアチラと遊んでくる」
「うん、まかされたよ! 狂化薬のことだけど、もしかしたら仲間に使おうとしたり永平さんの状態を悪化させに来るかもしれない。気を付けてね、いつきちゃんっ!」
 つくしの言葉に樹は頷き愚神目掛け駆け出した。八宏もチカと共鳴し面を被る愚神に迫る。
「この前、香港でマガツヒとエクスプローションの遺体を弔ったんですが」
『んで? テメェの方で立派に葬式でも上げてやるつもりだった……なわけねーよな、目的教えろよ』
「目的?」
 八宏とチカの問い掛けに愚神は面を斜めにした。故意とも否とも取れる平坦な調子で言葉を返す。
「友達『直そう』思ったんですけど……そういう感じでええどすか?」
 八宏は知らず奥歯を噛み締めハウンドドッグを愚神に向けた。しかし愚神は喉笛を狙う銃弾を躱し、傍らに浮いていた奇箱の表面へと触れる。もう一方にも向かおうとした所で八宏がジェミニストライクを使い狙撃銃を同時に構える。
「行かせませんよ」
「わ、分身なんて恰好ええどす」
 愚神は微かに笑いながら二つの銃弾も回避した。そこに秘薬とウィザードセンスで能力値を上げた樹がブルームフレアを放ったが、愚神は炎からも逃れて樹の方へ面を向ける。
「ねぇ、"エネミー"か"シャングリラ"って知らない?」
「君の名前教えてくれたらええですよ、絶壁も可愛いお嬢はん」
 樹の問いに愚神は返し、その提案に樹は淡々と言葉を打つ。
「既に知っているだろうだからではなく、聴く前にまず自分から名乗るのが礼儀よ。探して」
『ごラン』
「あ、そうなんどすね。僕はパンドラ言うんです。だから名前教えておくれやすお嬢はん」
 パンドラは言いながら飛んできた武器型従魔に触れ、2つの内1つを自身の手に握り締めた。その面に八宏が銃口を向けパンドラが慌てて首を逸らす。
「わあ! お面は堪忍どす!」
「……お顔、見してくれまへんか……撮らんと、遺影の準備、捗りませんので」
『つーかよ、お前何がしてぇの? とっ捕まえた永平を易々と明け渡すような真似しやがってさ』
 少しでも多くの情報を引き出すべく八宏とチカは交互に言葉を投げ掛けた。それに対し、愚神は再び首を傾げる。
「あれ? こういう時ってお迎えお願いするんと違うんですか? 壊した方が正解でした?」
 樹が再度ブルームフレアを差し向けたが、パンドラはまたも回避し飛んできたウェポンズ2つに触れた。永平への接近を遮るように立つ八宏と樹へ、微笑むように愚神は首を斜めへ傾けた。

●焦爛
 ヨハン・リントヴルム(aa1933)は視界の全てが赤く染まるのを感じていた。共鳴した事により確かに自分の両目はパトリツィア(aa1933hero001)と同じ赤い瞳に変わっているが、そういう事ではない。本当に世界の全てが紅に染まっているような、煮えたぎるような焦燥を眼球の奥に感じていた。幼い頃に古龍幇の末端と言われるヴィランズ組織に誘拐され、強制されるまま様々な悪事に手を染め生きる事しか出来なかったヨハンは、その組織が解体され、HOPEに籍を置く事が認められた今となっても古龍幇への復讐を心の支えに生きてきた。
「なのに、あっさり協定を結んじゃってさ、僕は人生の一番楽しい時間を古龍幇に捧げたって言うのにさ……その借りも返してもらってないのにこんな所で手打ちだなんて……ねえ、僕の人生何だったの? ……答えろっつってんだよ! そのクソみてえな脳みそで!」
 ヨハンは黎夜が狂化薬の推測を伝える横をすり抜けて、15式自動歩槍「小龍」を永平へと突き付けた。永平はヨハンの問いに応えず銃弾を剣で相殺し、背後から飛んできた弓を取りヨハンへと狙い定める。
「やらせない」
 それを見た黎夜が黒の猟兵から黒い霧を召喚し弓の形の従魔を屠った。空手になった永平につくしが銀の魔弾を放ち、永平を正気に戻そうと必死に声を張り上げる。
「永平さん、お願い聞いて!」
「グゥ! アアァッ!」
「状況はバスで移動中に聞かせて貰った……制圧してやるぜ、『その先』を切り拓く為になッ! 行くぜ、ルゥ!」
『バーサーカー……かな……猪突猛進なら……捻じ伏せるだけだけど……やる事は何時も通り……』
 Le..(aa0203hero001)と共鳴した東海林聖(aa0203)はダズルソード03を現すと、先を制するべく衝撃波を撃ち放った。クレアは離れた所から永平の外傷や様子を見やり、リリアンの医学知識、自分の経験、そして仲間の証言を基に推察する。
「やはり原因は狂化薬か……本部に処置を要請しよう」
 クレアは周囲に気を払いつつ本部へとコールした。聞こえた職員の声を半ば圧し用を述べる。
「至急狂化薬の処置の用意を。それと、あれはいったい何を狂わせる。理性だけでああなるとは思えない、ライヴスですか?」
「その可能性が高い。どれぐらい飲んだか分かるか?」
「缶の大きさは普通のジュースと同じぐらいで、多分……1本」
 黎夜の言葉を職員へ伝えクレアは一度通信を切った。クレアは自身へリジェネーションを掛け、黎夜は仲間にだけ聞こえるよう通信機へ推測を述べる。
「あの愚神、狂化薬を持っていた、から……他にも持ってる可能性……ある……」
『武器に仕込んだり飲ませに来る可能性も警戒した方がいいわね』
 黎夜とアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)の言葉にエージェント達は警戒を強めた。一方、永平は背後から飛んできた斧を掴み烈風波を黎夜目掛けて振り払った。黎夜は回避し黒霧を斧に叩きつけ、それに合わせて接近したヨハンが毒刃を永平へと撃ち込む。
「地獄に落ちろゲロカス!」
 不安定に瞳を揺らすヨハンの斜め後ろから、つくしがアルスマギカ・リ・チューンを開き幻影蝶を差し向けた。光の蝶に囲まれる永平へつくしは必死の声を上げる。
「永平さん……っ絶対に、助けますから!」
 だが、その声は狂った瞳に届かない。永平は新たに槍を掴むと吠えてつくしへと向かい、その足を止めるべく聖の衝撃波が再び襲う。
「同じドレッドノートだからな……勝手はワリィが知ってる所だぜッ!」
 間合い、スキル、使用回数、それらに留意し近中距離を維持し、かつ斃してしまう事がないように。クレアも今は迅速な鎮圧を主眼に置き、天雄星林冲を隙の少ない刺突として押し入れた。しかし永平は槍型従魔でクレアの矛を受け止めると、クロスカウンターでクレアを斜め上に斬り上げる。
「……ッ、ブルームフレア!」
 黎夜はクレアへと迫るウェポンズに気付き、永平の持つ槍も加えブルームフレアを炸裂させた。ヨハンがジェミニストライクを掛け、黒い鱗の生えた手に小龍を握りながら永平へと笑みを向ける。
「あっははははは、ブーブー鳴きな豚さんよォ!」

●遡る事瞬前
「……あれが永平? なんかようすおかしい?」
『狂化かっ!? ムク、リンク!!』
 椋実(aa3877)は朱殷(aa3877hero001)と共鳴し、艶やかな紫髪を後ろへ流した。スレンダーな外見はほぼ別人と言っても良いが、何処か幼さの残る口調等は変わらない。  
「ぱんどら? もいるね」
『あれは……ちとやばいな……お前は近づくなよ?』
 面を被る愚神の姿に朱殷は椋実に釘を刺した。とある闇組織の暗殺人形であった椋実は、今でこそHOPEにいるが正義感というものは持ってはいない。どんな影響を及ぼされるか分からない、それ故の懸念だった。
「わかった。あっちのおにーさんはまかせようか」
『しかし武器生み出す従魔ってか! 俺らのもほしいよな!!』
「しゅあんはあんなのほしいの?」
『いろいろやってみてーじゃんか!』
 打って変わって明るい態度の朱殷に首を傾げつつ、椋実はエクスプローションナックルで奇箱へと殴り掛かった。御童 紗希(aa0339)もカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)と共鳴し、何かを忘れようとするように16式60mm携行型速射砲を構える。
「ぶっ壊れろオラアアアッ!」
「場違い感がハンパじゃないね~」
 何か嫌な事があったようなJKドレッドノートのその後ろで符綱 寒凪(aa2702)はマイペースに呟いた。厳冬(aa2702hero001)は相棒へと陽気な調子で言葉を返す。
『暴れられりゃそれで良いよな!』
「じゃ、やろっか」
 自分が楽しい事に一直線な寒凪と、陽気な単細胞の厳冬コンビ。厳冬の鱗を両腕に宿した寒凪はライヴスフィールドを展開させた。等級が分からない上に何を出して来るかも分からない。従魔だけかもしれないし、もしかしたら永平に使われた物など吃驚するような仕掛けがあるかもしれない、警戒するのは当然だ。新たに3体のウェポンズを吐き出した奇箱へと、頑丈らしいと判断した椋実は毒刃をナックルに乗せ打った。自分目掛けて飛んでくる武器型従魔を避けながら、紗季は奇箱へ肉薄しライオンハートを薙ぎつける。
「粉々になれコラァァァッ!」
「ウェポンズ、掴みたくなるよね、掴んじゃおうか」
 よっぽど嫌な事があったらしい荒ぶるJK戦士を尻目に寒凪はマイペースにウェポンズへ視線を向けた。その発言にさすがに厳冬が疑問を呈する。
『大丈夫なのか?』
「大丈夫、武器は一通り扱えるよ。制御? そんなの出来る訳ないじゃない。奇箱とウェポンズに向けて使おう、上手く言ったら同士討ちになりそうだし」
 寒凪はそう言って飛んできた銃型従魔に手を伸ばしたが、手に銃身がブチ当たりそのまま飛んでいっただけだった。どうやら掴むのは無理らしい。寒凪はそれを理解しケセラセラと笑い飛ばす。
「仕方ない、普通に戦おうか」
 椋実と紗希が息を合わせて己が得物を奇箱へぶつけ1つ目の奇箱は砕け散った。寒凪はブレイジングソウルを構えると、回転して来るウェポンズに狙いを定め引き金を引く。粉々に床へと落ちる残骸に寒凪が楽し気に目を細める。
「あれ、回収したいなぁ、ウェポンズお持ち帰りしちゃおうか。出来なかったら残骸だけでも持って帰りたい所だね。だってこんな面白いもの放っておけないものね」

●囚
 つくしはアメジスト色の瞳で猛る永平の姿を見つめた。つくし達が来る前も合わせて相当傷付いているはずなのに、未だ倒れる気配はない。気絶させて確保する。その目的のためにつくしは極獄宝典を向ける。
「リーサルダーク!」
「っし、一気に制圧するぜ……! 援護頼んだッ!」
 魔力の闇が晴れたと同時に聖が永平へ突撃し、換装したポルックスグローブで永平の右手を取った。
「千照流・闘撃……崩瓦!」
 一打で右手を取り、二打で脇の下に自身の肩を潜り込ませ、三打で肩の関節を引き外しつつ背負い投げて地面へ叩き付ける。疾風怒濤の攻撃にさらにクレアも矛を重ね、しかし永平は右腕の自由を失っても止まらない。
「ガアアアッ!」
 永平は捕らえた鞭型のウェポンズを怒涛の勢いで振り回し聖とクレアを据え打った。永平の反撃を予期していた黎夜はすぐさま黒の猟兵で鞭型従魔を塵に変え、その隙に肉薄したヨハンが憎き男へ飛び掛かる。
「てめえ等みたいなゴミでカスで生きる価値のない虫けら同然のサイコ野郎は! 踏んづけられて惨めにハナ垂れてるのがお似合いなんだよ!」
 その言葉通りと言わんばかりにヨハンは小龍の銃床で永平の頭を殴り抜いた。白目を剥き、ようやく地に伏した永平に足を上げるヨハンをつくしが背後から必死に止める。
「待って、もう気絶したみたいだから……」
「……」
「左肩まで外す必要はねえかな……それじゃあ永平の事は頼む……、ッ!」
 永平をつくしとクレアに預けようとした聖は、そこで自分達目掛けてウェポンズが4体飛んでくる事に気が付いた。咄嗟に怒涛乱舞を仕掛け4体の従魔を破片へ変える。
「では、行きますよ」
 クレアはつくしと協力して永平を担ぎ、飛んでくるウェポンズに注意しながら廃工場の外へと向かった。永平の状態を確認しつつ睡眠薬を1つ取り出す。
『経口摂取で投与。時間はかかるけれど筋肉の硬直を考えると、針はリスクが高いわ』
「了解、パッケージに経口摂取で投与する」
 クレアは永平の頭を取り睡眠薬を流し込んだ。そこに永平確保を見て取った紗希と寒凪が駆け付ける。
「一応ケアレイとリジェネーション掛けておくよ。ライヴス散ってる感じなら枯渇が怖いから秘薬も飲ませて……経過観察とかしたいけど時間ないね。後は任せてパンドラ支援行くよ」
 寒凪は回復魔法を掛けると廃工場へ戻っていった。紗希が念のためにとHOPEから借りた拘束具を準備し、クレアがその間に外れた肩をはめなおす。カイは紗希との共鳴を解くと、拘束衣を着させられた永平を肩へと担ぎ上げた。
「安定するまで付き添う必要がありますね。私は外傷の対応と睡眠薬の定期投与を行います」
「じゃあ私は聖さん達に連絡しますね」
 クレア達と共にバスに乗り込みながら紗希はスマホを取り出した。睡眠薬に拠るものか戦闘に拠る傷のためか、永平はぐったりとしたままピクリとも動かなかった。

●掃討
「了解。それじゃあオレは雑魚の制圧にするぜ。あれがマガツヒの野郎なら……聞きてェ事もあるしよ!」
 紗希からの連絡を受けた聖はパンドラへと視線を向けた。ヨハンも連絡を聞いた後、赤い瞳の下ににやりと歪んだ笑みを浮かべる。
「……あいつの部下、失踪中なんだろう? 『駆け付けた時にはもう既に何か事故に巻き込まれて怪我して』いてもおかしくないよね? ……ふふ、よし探しに行こう!」
 ヨハンは笑みを浮かべたまま工場の外へ向かっていった。本当は笑う所か頭が煮えくり返っているが、流石に金は大事だ。僅かな理性を振り絞り自分を律するより他にない。
「ああ……まだ殴り足りないなあ。でもまあ、多分死んでるよね。運よく……運悪くかな? 生きてても壊れているだろう。あ、愚神のヨリシロって事も考えられるのかな。生きてたらいいなあ……」
 一方、同じく紗希から連絡を受けた椋実と黎夜はもう一つ残った奇箱の対応に当たっていた。二人ともヨハンと共に永平の部下の探索に向かおうと思ったのだが、箱が思ったよりも硬い。椋実が毒刃を打ち、黎夜が不浄の風を発動させて援護する。ゴーストウィンドに巻かれながら奇箱は新たに6体のウェポンズを排出した。
「もうひとりいるらしいよ……?」
『永平の部下ってやつか……どこかにいるのか?』
「わかんないけど……うん、食べられちゃったかな? でもさがしてみようか」
『食べられ……普通に言うな?』
「愚神ってそーゆーもんじゃないの?」
『分かんないけどな! お前は気をつけろよ!?』
「たべたっておいしくないから」
『いやそーゆー事じゃなくてだな?』
 ではどういう事なのかとツッコミたくなるような椋実と朱殷の会話の横で、黎夜は眼帯の外れた両眼で箱の従魔をしかと見つめた。黎夜はパンドラが永平の部下に化けた可能性も視野に入れていたが、それでも何か手掛かりがあればと探索に行きたいと思っている。
「だから……さっさと壊さないと……」
 椋実が長い尾を振り回しながらナックルを奇箱へ叩きつけ、黎夜の放った黒い霧が箱を掻き消すように砕いた。その裏で密かに育くまれる悪意には気付かない。

●壊
 永平搬送完了を見て取った八宏は執拗にパンドラの被る面を狙い続けた。パンドラは八宏の銃弾と、樹が放つハロウィンチックな黒の猟兵を躱しつつ、特に反撃もせず飛んでくるウェポンズに両手をかざす。
「僕らに用がありはるんでしたら」
 八宏の呟きにパンドラは軽く面を傾げた。顔さえ見せない愚神へと八宏は鋭い瞳を向ける。
「まどろこしいことせんと……直接呼んでくだされば、いつでも“お迎え”に、伺いますので……邦衛、八宏……葬儀屋です……貴方がたも、弔わせて頂きますので……お気軽にお呼び出し下さい」
 ボソボソと、けれどパンドラを鋭く見据え八宏は自分の名と共に連絡先を差し出した。パンドラの動きが一瞬止まり、八宏は再び言葉を紡ぐ。
「……貴方の葬儀を行える日を、心待ちに、しております……」
『まどろっこしいのはテメェだろが! あー……要約すっとアレだ。「ぜってぇぶっ殺すから糞ガキ」ってことな』
 チカの言葉に、パンドラは連絡先の紙を取った。そして宝物のように両手の中に握り締める。
「連絡先頂けるんどすか!? 嬉しいどす! ソウギって何か知りませんけど『ぜってぇぶっ殺す』どすね! という事は……今壊し合ってええんどす?」
 ハウンドドッグから弾が放たれパンドラの面を掠った。パンドラを「遊び相手」として認識した樹とシルミルテが、とにかく興味を自分へ引くべく緩やかに言葉を投げ掛ける。
『ネェ、もっト』
「遊ぼう?」
『ワタシ達を愉しクサセて!』
 その時、愚神の面がグリッと樹の方へ表を向けた。面にヒビが走って砕け、泥を煮詰め腐らせたような黒い瞳が露わになる。黒い瞳が弧を描いた瞬間、廃墟を彷徨っていたウェポンズが一斉に樹と八宏に襲い掛かった。リンカー達の攻撃に少し数を減らしていたが、その数24体、内パンドラが密かに触れ壊造したものが計7体。一瞬でズタズタになった樹に近付きパンドラが真横に首を傾げる。
「可愛いお嬢はんにそんな風におねだりされたら、壊したくなってしまいますやろ?」
 パンドラはさらに壊造済みの槍を樹の脚へ突き刺した。歯を食い縛る樹の姿に愚神がハアと息を漏らす。
「愉しいどすか? 足りないどすか? もっといっぱいがええどすか?」 
 その時、黎夜の放った銀の魔弾がパンドラの横を狙い撃った。飛びのいたパンドラに黎夜が澄んだ瞳を向ける。
「ふっかけといて、あれだけど……時間は大丈夫……? とっくに過ぎてるんじゃ、ねーか……?」
「でも、可愛いお嬢はんにおねだりされたら叶えないとあきまへんやろ?」
「おい、箱入り野郎。テメー『エネミー』とか名乗ってるヤツ知ってるか……?」
 聖の問いに、愚神はグリッと瞳を向けた。黒が忙しなく揺れ動き、それからにこりと弧を描く。
「知りませんけど、僕のお仲間なんですか? それより僕これからどうすればええどすか? もっと愉しい方がええどすか? ねえ」
 聖は答えず赤い刀身から衝撃波を地に走らせ、八宏は体を起こし縫止をパンドラへと打ち掛けた。黎夜が再び銀の魔弾を愚神に向け、樹が寒凪に抱えられつつリーサルダークを解き放つ。魔力の闇が晴れた頃には、パンドラと武器型従魔だけが廃墟の中に残っていた。
「結局お名前聞けなかった。ま、でも八宏はんの連絡先頂けましたし、またの機会って事ですかね」
 愚神の面が二つに割れ、足下でカタリと音を立てた。愚神は八宏から貰った紙の感触を確かめるように右の頬に擦り付ける。
「ふふふふふ」

●帰還
「撤退したらどう出てくるかなって思ったけど」
 寒凪は樹を抱えたまま後ろを振り向き呟いた。パンドラは”遊んでいる”印象が強いから、どう遊んでくれるのか、試作品でも使って来るつもりなのか、どう壊すのか、壊し方、そういったものを「機会を逃すのは勿体ないから」しっかり観察しようと思ったのだが
「観察しないと次会った時楽しめないし、相手を知らないと値切り交渉も出来ないからね。遊びたいのはやまやまだけど今はその時じゃ無い気がするし。とりあえず壊し方はアレって事でいいのかな? ウェポンズを操って動かしたのかな。欲しかったなあ」
 結局ウェポンズを回収出来なかった寒凪は残念そうに息を吐いた。その横で聖がヨハンへ走りながら連絡を入れ、ヨハンと合流した一同はバスの中へと乗り込んだ。パンドラが追ってこない事を確認してバスを発車させ、樹を下ろした寒凪は座席の上に腰を下ろす。
「こんな時くらいは休ませてくれないかな~、良いけどね~」
『離れたし応急処置すっか』
 寒凪は樹にケアレイを掛け、樹は自前の伊勢海老を割って口の中へと入れた。クレアが負傷者を確認し、寒凪と協力して回復魔法を掛けていく。
「パンドラか……ふざけた野郎だ」
「……マガツヒ、いい気分しない単語……」
 傷を癒す仲間達を横目に聖とLe..は呟いた。黎夜は拘束衣に縛られたまま眠る永平に視線を落とし、クレアに自分の持っている睡眠薬を1つ渡す。
「……これも、使って……」
「ありがとう。大事に使わせてもらいます」
「永平寝てるね、いいな」
「無理やり寝かされているんだがな……解毒薬か……」
「無理やりHOPEに入ったって良い事ないのにね」
 永平を見つめながら椋実はぽつり呟いた。朱殷は紫紺の羽の下から煌々と光る紅眼を向ける。
「良い事なかったか?」
「……ちょっとだけあったかも」
「別にここが終着点じゃなくてもいいんだ、踏み台にして違う事したっていいんだぜ?」
「なに難しいこといってる? やれって言われたからやってるだけ」
「まー今はそれでいいか!」
「ちょっと煩いよ」
 明るく振舞う教育係(?)に椋実は口を尖らせた。自分もひと眠りしよう、とした所で、一人虚ろな目をしているヨハンへと意識を向ける。
「ん、ヨハンだいじょーぶ?」
「悩んでいるのか? ずいぶん顔色悪いな!」
 ヨハンは光のない青を椋実の方へゆっくり這わせた。戦闘中を思い返し椋実はヨハンへ声を掛ける。
「ヨハン、ヴィランズだったの? わたしもだよ? 無理やりHOPEに連れてこられたの」
 椋実の言葉に、ヨハンは「そう……」とだけ呟き再び押し黙ってしまった。椋実はしばしヨハンを見つめ、それから朱殷に向き直る。
「着いたらおこして」
「ん、了解」
 返事をしつつ朱殷は鳥唐を取り出しもぐもぐ食べた。共食い……と突っ込む人間は残念ながらいなかった。

●呪縛
 ヨハンはHOPEに到着すると「帰る」と近くにいた仲間に言伝て一人バスから離れていった。探索の結果何もなかった事はすでに仲間に伝えてある。誰の姿もなくなった所で訳もないのに涙が零れ、声を上げる事も出来ずただ水分を流していく。 
 ひとしきり泣いた所で背後に少女が立っている事に気が付いた。ヨハンは青くなった瞳を自分の英雄へと向ける。
「これからも、力を貸してくれるかな……」
「はい。ご主人様の幸せが、私の幸せでございます。地獄の果てまでも……お供します、ご主人様」
「……帰ろうか」
 パトリツィアは頷き、言葉通り主の背に付き従う。呪縛から解放される日が来るのか、それさえもヨハンには分からない。

 樹は永平を仲間に任せ職員に情報を伝えていた。メモを取る職員へ淡々と言葉を並べる。
「パンドラは面を被った少年の姿をしています。攻撃は全て躱されたので防御・生命力がどの程度かは分かりません。床にAGWの残骸が見えましたのである程度の力はあるかと……もしかしたら従魔を操ったり強化したりする力も」
「危険度を考えるとケントゥリオ級以上の可能性もあるな。引き続き警戒する事にしよう」
「う……」
 呻き声が聞こえ、樹は視線をベッドへ向けた。黎夜が永平を覗き込み虚ろな瞳に視線を合わせる。
「気分は、どう……? あ……うちのこと、覚えてる……?」
「こちらの姿では初めましてかしら? 金髪さん」
「ここは……?」
 見覚えのある顔と見知らぬ顔に永平は視線を彷徨わせた。そこにつくしも参戦し永平に必死に言葉を紡ぐ。
「色々心配だったかもしれないけれど、劉さんは永平さんを嫌いになったりいらないっていうわけじゃないと思う。信頼してない人を移籍なんてさせられないよ。HOPEとの関係を築いていくのに一番適任なのが永平さんだって、任せたかったんだと思う。もしそれでも不安なら、劉さんに直接聞いちゃおうよ! あと私は一緒に戦いたいな!」
「貴方の気持ちが、優先……話すべき……まだ、打診の段階……でも、劉士文は見捨ててないと、思う……バンコクで会った古龍幇が言ってた、『下っ端だろうと貧乏人だろうと捨てやしねえ』って……例え問題があっても、きっと捨てない……」
「ここにはヴィランや古龍幇を嫌う人もいるわ。橋渡しだけでなく実力も大切よ。それでも納得できないなら修行と思いなさいな」
 つくしと黎夜とアーテルの言葉に、永平は事情が知れ渡っている事を悟った。眉をしかめる永平に、黎夜は話の流れを変えるように問い掛ける。
「とっさかもしれなかったけど、あの時、腕を止めたのはどうして……? 女子供でもって、直前に言ってたけど……」
「……さあな、覚えてねえよ、そんな事」
「永平君、一ついいか」
 誤魔化すように呟く永平に職員が声を掛けた。何やら焦っている様子にエージェント達も視線を向ける。
「永平君、落ち着いて聞いてくれ。君の背中に

 マガツヒのシンボルがある」

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 常夜より徒人を希う
    邦衛 八宏aa0046
    人間|28才|男性|命中
  • 不夜の旅路の同伴者
    稍乃 チカaa0046hero001
    英雄|17才|男性|シャド
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
  • 急所ハンター
    ヨハン・リントヴルムaa1933
    人間|24才|男性|命中
  • メイドの矜持
    パトリツィア・リントヴルムaa1933hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • 鋼の冒険心
    符綱 寒凪aa2702
    人間|24才|?|回避
  • すべては餃子のために
    厳冬aa2702hero001
    英雄|30才|男性|バト
  • 巡り合う者
    椋実aa3877
    獣人|11才|女性|命中
  • 巡り合う者
    朱殷aa3877hero001
    英雄|25才|男性|シャド
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