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教えて、アーヴィンさん!
最終発言2016/05/24 20:15:34 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/05/25 19:35:05 -
偽りの聖職者
最終発言2016/05/26 00:47:24
オープニング
●数年前。某月某日 香港警察署にて(過去)
「どうして、こんなことやったんだ?」
犯人の少年は、強情に黙り込むだけだった。彼の口からは、なにも語られることがない。担当の警察官は書類をめくりながら、ため息をついた。
盗みだ。
「話してくれないのか?」
「……」
調書には、さまざまなことが書かれている。
少年の育ちがさしてよくはないこと。能力者として、いらない誤解を受けていること。同情するべき点もある。
しかし、一回目ではない。それになにより、今回、少年は老婦人から金品を強奪する際に軽いけがを負わせていた。
「何か、要求はあるか?」
「……神父様とお話ししたい」
「そうか」
ある種の救いになればいい。そう思って、警察官は連絡を取った。
それが、すべての始まりだった。
●現在 H.O.P.E.会議室にて
ぱちん。
スイッチの合図とともに、今回のターゲットの資料が映し出された。少し太った聖職者といった、いかにも人の好さそうな風体。しかし、それは表の顔である。
H.O.P.E.の職員はエージェントたちを見回すと、うなずいた。
「愚神の通称は『ビショップ』。人畜無害な見た目に騙されてはいけない。彼は、罪を犯した若者、身寄りのない者に神父として接触し、信頼を寄せたところで、少しずつ”救い”と称して危険思想を吹き込んでいた。そして、ライヴスを食らう。
もともとはアメリカで活動していたようだが、疑いを受けて国外に逃れた。しばらく活動を停止していたが、その間は顔と名前を変えて香港にいたらしいな。古龍幇の喧騒を受けて活動を再開。古龍幇の周辺にマガツヒの影があったのも、いくらかはこの男の手引きだろう。なかなか証拠がつかめず、彼のもとにH.O.P.E.のエージェントを派遣していたが、このエージェントの内通がばれてしまった。
ビショップは、ドロップゾーンを展開し、拘束したH.O.P.E.のエージェントと、彼の手下である「友明」の交換を要求している。しかし、相手が素直に交換に応じるわけはない……。
君たちの任務は、愚神『ビショップ』の撃破だ。そして、なんとかエージェントも救出してほしい」
●峯と春旭
「ビショップは、俺の友人をそそのかし、マガツヒの思想にかぶれさせたやつだ」
元古龍幇の男、峯(フェン)。彼は友人をマガツヒのせいで失い、大きなけがを負った。事実を受け入れられずにいたが、今は素直に受け止めている(【東嵐】見舞う者たち参照)。
「H.O.P.E.と古龍幇の協定を知っているか。この『ビショップ』の件に関して、俺はH.O.P.E.に調査協力をすることになっている。できることなら、自分の手でとは思ったが、今はまだ思うように体が動かない。……どうかこいつを捕まえてほしい」
峯は深々と頭を下げた。
解説
●目標
・ビショップの撃破。潜入エージェントの救出。
(参考:【東嵐】見舞う者たち)
※重症判定の可能性があります。
※質問卓で警察官アーヴィン(az0034)に尋ねることができます。
●登場
ビショップ
太った聖職者の外見をした愚神。
・ケアレイ
・クリアレイ
・【支配者の言葉】×複数回(!)
(補足)
ビショップは攻撃手段はない。
ビショップがエージェントを洗脳した場合、「仲間に仲間を攻撃」させる。
忠実なる騎士×5
見た目はチェスのナイト。ビショップはこのうちの一体に自分を守らせている。体が大きく頑丈だが、動きは非常にのろい。
武器は槍、斧、剣、杖、盾(ビショップの護衛)。杖は魔法攻撃。それ以外は近接攻撃。ビショップが撃破されれば塵と消える。
潜入エージェント
救出対象。ビショップに【洗脳】を受ける。
重傷状態。自害など重い行動はする心配がない。ただし、1度だけビショップの命令を受ける。
友明(ヨウミン)
ビショップが交換を要求している、マガツヒ思想に心酔する男。ビショップに支配(ルール以上の洗脳)されており、意思疎通は不可。ビショップが撃破されれば気絶する。
H.O.P.E.に拘束されているが、扱いはエージェントたちの作戦に一任される。
(PL情報)
・友明を連れていけばビショップは交換に応じようとするが、途中で【支配者の言葉】を使用して難癖をつけ、「取引は失敗した」と言い張る。
・友明の引き渡しは、ライヴスを食らうのが目的。
・ビショップはH.O.P.E.のエージェントを、自分の身が瀕死になるまで殺す気はない(洗脳済みというおごりのため)。
●ドロップゾーン
外からは小さな廃教会に見えるが、中は広い異空間。チェス盤のようなマス目があるチェッカーボードのような地面。およそ8×8スクエアで、開けた空間。ビショップは一番奥の真ん中にいる。その隣に救出対象。
エージェントたちは、教会の入り口(手前)から侵入。
リプレイ
●足を踏み入れる
ぎい、と、扉が開いた。
チェス盤のような異空間が、目の前に広がっている。
エージェントたちは、ビショップの前に姿を現した。愚神の要求である、――友明を伴って。
白い狩衣を纏った沖 一真(aa3591)が、一行から進み出ると、ビショップに近づいた。
「お初にお目に掛かります――ビショップ殿。あなたのお噂はかねがね。こうして前にしてみると、私のような若輩者でも、そのお力の片鱗を感じ取ることができますよ……」
「よくぞ、友明を連れてきてくださいました」
「あぁ、同志はお返し致します。その前に……」
沖は、友明を一瞥すると、教えを請うようにビショップに語りかける。――気取られるわけにはいかないのだ。
「あなたの目的がなんなのか、私ごときでは計りようもありません、あなたがこの男をどうしてそこまで欲するのか? それを聞いてもよろしいですか?」
教えを請うように、言葉を述べる沖。気分を良くしてか、ビショップは笑う。
「【ひとたび私の信徒となったものを、決して見捨ては致しません……】」
「!」
不意に、言葉に、力がこもったような気がした。ライヴスの重圧が、あたりに立ち込める。
(なんだ、この物言いは? ……ちょっと用心させて貰うぜ)
雁間 恭一(aa1168)が不穏な気配を悟り、沖に近寄ると、合図をし、装備の刃物で自分と沖を傷つけた。狂気の名を冠するインサニアが、理性を痛みに替え、狂気を中和する。
沖から棘が絡みつくような嫌な感触が消える。――あてられていたようだ。
だが、しかし、それは、ビショップがこちらに気を取られているということでもあった。
「お待ちください。まずは、エージェントの解放が先です」
「ふむ?」
石井 菊次郎(aa0866)の言葉に、ビショップは相互を崩した。
「交換を確実にするため、双方の人質をナイトに預ける……というのはいかがでしょう?」
ビショップにとって、この提案は渡りに船だった。騎士はビショップの忠実な下僕だ。
「急ぐことはありません」
石井は、持っていた聖書を示し、その上に手を置いた。
「まずは誠実に交渉する為に神に誓ってください。聖職者なのでしょう?」
「……よろしい、神に誓って」
ビショップは石井の意図に迷ったようだが、ゆっくりと下がると、聖書台の上の聖書に手を置いた。ビショップの誓いの言葉は、薄っぺらい響きを伴っていた。
一連の儀式を終えると、槍を持った騎士がゆっくりと中央に移動し、構えた。人質の交換だ。友明が前に進み、促され、エージェントがふらふらと歩み寄る。
ばちん。
ビショップは指を鳴らす。ピリリとした空気が、空間を駆け巡った。
(【友明。エージェントを連れて、こちらに来なさい……!】)
その音に反応して、友明が素早く動いていた。ビショップは嗤い、それからその顔を歪めた。――拘束されていない。彼は、エージェントの脇をすり抜ける。
無手と見せ掛け、懐に忍ばせたライヴスセーバーが、ライヴスを纏ってぐんぐんと大きくなる。またたくまに伸びた刃は、ビショップを素早く切り裂く。
疾風怒濤の3連撃だ。
ビショップは斬りつけられた腹を押さえてあえいだ。
「友明だと思ったか。残念だったな」
信者のフードが、はらりと落ちる。イメージプロジェクターによる幻影がほどけ、姿があらわになる。
最初から、友明はここにはいない。――ヴァルトラウテ(aa0090hero001)と共鳴した赤城 龍哉(aa0090)だ。
●目にもの見せるための一手
話は、少し前にさかのぼる。
「あー、この手の奴か」
『気が付いたら浸透されている手合いですわね。手強いですわ』
「ズバッと討滅したいとこだよなぁ」
赤城とヴァルトラウテは資料に目を通しながら、愚神の特徴を頭に入れていった。
「どうも坊主って苦手だぜ」
そう言う雁間に、マリオン(aa1168hero001)は心底不思議そうな表情を浮かべる。
『何故だ? 雁間。一緒にいて坊主ほど楽しいものは無いぞ? 雨が降れば神の御業、日が照れば祈りの功徳、果ては人の生き死にすら彼らの手の内にあると言う。余は彼らの物言いを聞くたび笑いを堪えるのに苦心したものだ』
「……俺はそれが楽しく聴けるほど荒み切っては居ねえって訳か」
雁間ははっとした表情を浮かべ、しみじみと英雄の見識に感じ入った。
「こんな所で自分の真人間ぶりに気付かせて呉れるなんてな……マリオン、流石だぜ」
『……』
マリオンは、肯定も否定もしない。
「生臭坊主も良いところですね。人間を食い物になんてしたら、食あたりを起こすって分からせてあげないと」
鬼灯 佐千子(aa2526)は軽口をたたくが、その双眸には隠しきれない怒りを浮かべている。他の何よりもヴィランズとその犯罪行為へ敵意を抱く彼女にとって、この愚神の存在は看過できぬ物であるのだ。
「ふむ……」
石井は、事前に手配していた聖書を、ぱらぱらとめくっていた。
「エージェントは、なんとしても助けたいですね……みなさんが気を引いているうちに、なんとか」
九字原 昂(aa0919)はエージェントの無事を慮る。
「何を吹き込まれてるか、分かったもんじゃない。その時はやれることをやってみよう」
沖が言う。
九字原と鬼灯。彼らは、エージェントの救助に回る算段だ。
エージェントを連れての離脱。前衛組、後衛組がそれをサポートする。
「相手をたぶらかし、信者に仕立て上げ吸い上げる、か。その手の天狗は嘘とハッタリに意外と弱いもんだが……」
沖は、赤城を見た。
(いけるか?)
赤城は、友明の姿をイメージプロジェクターで再現する。体格は似通っていたし、幸いなことに、教団のローブは深く顔を隠してくれる。
「友明の全部を真似するのは無理なんでな。ただ、ふとした時に出る癖とかあれば教えてくれ」
やれることをやろう。赤城の言葉に、峯は頷く。
峯に友明の癖や動作を尋ね、赤城は、友明に扮するための情報を着々と集めていた。ビショップに目に物見せるための一手だ。
「それと、なにか反応することはないか?」
「そうだな、スイッチを切るときだとか、妙に反応するんだ。パチッと……怯えているというか」
「命令の合図、ってことだろうな」
沖の言う通り、それはかの愚神が命令を与えるときの仕草だった。
『誤魔化されてくれますかしら?』
ヴァルトラウテの言葉に、赤城は肩をすくめる。
「さてね。俺らの知りようがない部分で判別されたらどうしようもないのは始めから判ってる事だ」
●思惑と救出
(させない!)
ビショップを狙って、鬼灯がフラッシュバンを放った。
閃光がほとばしり、あたり一帯、すべてのものの動きを鈍らせる。幸いなことに、エージェントたちには大した衝撃を与えなかったようだ。
驚愕の表情を浮かべたビショップ。みるみるうちに、その表情は怒りに変わる。
『アルスマギカ・リ・チューン』を持った石井は、愚神とは対照的に涼しい顔をしたまま、言う。
「いいえ彼は確かに友明です。真実が分からぬとは信仰が足りないのでは? 初心に返り【聖書を頭から読み上げて下さい】」
ビショップは、迫りくるライヴスの奔流に慌てて抵抗姿勢をとった。まさか、自らと同じ手で一杯食わされるとは。思ってもいなかったのだ。
沖が分析した通り、彼は思いあがっていた。命令するのは、自らの特権であると。
「ば、ばかな、このわた……わたしが!」
ライヴスがせめぎあう。ビショップは、動揺していた。
魔術師としての風格が、力が。拮抗して、僅かに。しかし、その時確かに、――石井のものが上回った。
ばらばらとめくれる聖書を、愚神は必死に目で追う。
「ア、ア、ア……」
声に逆らえず、聖書を朗読する愚神。
狂ったチェス盤の上で、愚神が聖書を朗読している。背筋が凍るような、奇妙な光景だった。
「大丈夫です、安心してください」
一方では、九字原がエージェントに近づいていた。彼は、潜伏を使用して、機会をうかがっていたのである。彼はすぐさまにエージェントを抱え上げると、離脱の体制に入る。
ビショップは今や意味をなさぬ文字列を追いながら、片手を振り上げ、騎士たちにエージェントの捕縛を命じる。
しかしながら、鬼灯の放ったフラッシュバンが、騎士の動きを鈍らせる。
「すみませんね、不届きながら謀らせて貰ったぜ。ま、そもそも同志になるとは一言も言っておりませんし」
沖が、幻影蝶を迫りくる騎士にほとばしらせる。もともと動きの鈍い騎士には、それで十分だった。
杖の一体が、魔法攻撃をほとばしらせる。
鬼灯の盾は、敵の攻撃をものともしない。
「今のうちに!」
救出部隊は、後方に下がるのに合わせ、ゆっくりと撤退していく。
「開けば要らん事を吹き込むお前の口に用はねぇんだ」
前線では、フルンティングに持ち替えた赤城がビショップに迫っていた。ビショップをかばう盾の騎士と槍の騎士の攻撃をいなしながら、返す刃で、フルンティングの血色の刃が鎧を切り裂く。
鎧の破片があたりを舞い、大剣をひときわに輝かせる。防御力に優れた従魔も、赤城の一撃の前に無傷ではいられない。
剣、斧の騎士がなおも逃げるエージェントに追いすがる。
「悪いな。チェスごっこするつもりはないんだ」
沖の身体を、拒絶の風がまとう。身軽になった沖は、振り下ろされる斧を、ふわりと避けるようにして回避する。
相手の方が、僅かに、早かった。
しかし、九字原がとっさに放った猫だましが、攻撃のタイミングをずらした。このわずかな時間の差が、エージェントたちの命運を分けたのかもしれない。
「残念だったな、テメェの相手はこっちだ」
九字原が作った隙に、射線に身を躍らせた雁間。エージェントに向かうすべての攻撃を受け止める。
後退するエージェントの前には、鬼灯が付いている。もう少し。焦ることなく、じりじりと後退する。
(気休め程度ですが……)
震えるエージェントに、九字原はイヤーマフを装着させた。ビショップの声が遠ざかったので安心したのだろうか、震えが少し収まる。
魔弾を放っていた石井が動きを変える。
ビショップが聖書を捲り終えたところを狙って、ブルームフレアが炸裂する。三体が炎上して、槍の一体が砕け散った。
エージェントは、主を助けなければ、と思った。
エージェントが、――彼の意に反してなのだろう。不意に立ち上がろうとする。
「悪いな、これ以上犠牲者を増やしたくないんだ」
沖はディシプリンウィップ で、エージェントを拘束する。しばらくすると、その思いは消えていた。
鬼灯が殿を務める。
彼女のプロテクトシールドに、戦場の光景が乱反射する。いずれも、救出対象のエージェントの側には通らない。
エージェントは、はっきりしない意識のまま、そんな光景を眺めていた。
ビショップは、網にかかった獲物が奪還されるさまを、ただ、遠くから見ているしかなかった。
●『反撃』
(させません!)
九字原のハングドマンの鋼線が、騎士の動きを阻害する。エージェントはドロップゾーンの外に離脱し、安全な場所へと移動した。ならば、一安心だ。
エージェントを逃がし、体制を立て直したエージェントたち。形勢は、エージェントの側に傾きつつあった。
「おのれ……【殺しあえ!】」
(!)
不意に、鬼灯の手元が狂う。支配者の言葉――狂気にあてられたのだと分かった。
正確無比に放ったトリオの1射が、仲間に当たる。――当たる。射線上にいるのは雁間だった。
「雁間さん! 後ろ!」
とはいえ、鬼灯はそれほど心配してはいない。相手は、名のあるエージェントである。己の攻撃などでは大した手傷も負うまい。
そう楽観視していたのだ。
(――そうでしょう?)
問いかけるような一瞬。
雁間が振り返り、視線が合った。そこにあったのは、雁間の意識か、それともマリオンのものか。
笑みを浮かべる。余裕の笑みだった。雁間はその通り、と言わんばかりに、すぐさまに体制を立て直し、再び敵に向き直る。
鬼灯のトリオの一射でのけぞった、斧の従魔。雁間はそれに向かって、無数の光弾を走らせる。
斧の一体が砕け散った。
ビショップが憤慨している様子が浮かぶようだ。愚神の思惑になど、誰が乗るものか。鬼灯は、次の攻撃に備え、再びライヴスガンセイバーを握りしめる。
誰もかれも、頼れる仲間たちだ。
前線では剣戟がほとばしる。その後ろでは、魔法攻撃が戦場を飛び交う。
石井の正確無比な魔弾が、戦場を一直線に飛び、ビショップを狙う。盾の騎士の盾を大きく凹ませた。
「雷神の威をもって、百鬼を退け凶災を祓う――急如律令」
沖は雷神ノ書で、鋭い雷を放つ。同時に、杖の騎士が呪文を唱えていた。沖の攻撃に、杖が衝撃で吹き飛ばされ、沖に光線が走る。
同時だった。
騎士の杖がもぎ取られるように黒焦げになり、炭化する。立っていたのは、沖だ。
杖の一体が砕け散る。
「ッ、【殺せ】!」
不意に、またあの言葉が走る。
自分か、赤城か。乗っ取るとするならば、物理的な攻撃力の高いどちらかであろう。雁間は警戒して、神経を集中させる。その時だった。――赤城の手元が狂う。
「!」
雁間は即座に体当たりをかませて、攻撃の向きを変える。振りぬかれた剣に自分もダメージを負ったが、範囲を大きく従魔へとそらした。
「助かった」
「お互いさまだな」
正しくコントロールを取り戻した赤城は、従魔にオーガドライブを放つ。防御を捨てた猛攻――赤城の一撃に耐えかねて、剣の騎士が砕け散る。
●すべてが終わった
「チェックメイトですね」
ビショップの命令を聞き届ける駒はもういない。盾を持ち、主人をかばっていた最後の一体が、今、まさに石井の魔弾で崩れ去ったからだ。
「あ、あ、あ、あ……」
ビショップは、顔を青くすると、震えあがって離脱を試みる。
「そうはいくか!」
赤城が仕掛けた一気呵成が、あっけもなくビショップを転ばせる。
この愚神は、他人を操ること以外に、何ら能力を持たないのだ。
「神様にお祈りは済ませましたか? まぁ、祈ったところで聞き届けてはもらえないでしょうね」
九字原が冷たく言った。
雁間が飛びかかる。きれいなスリーパーホールドが決まっていた。雁間は、ハンケチを口に押し込み口を塞ぐ。
「話したいことがあります。処分は任せていただけますか?」
石井がハンケチをはずす。ビショップは、未だ、縛られたままだ。
石井がビショップに近づくと、しゃがみこんでビショップと目を合わせた。
「ゆ、許してくれ……頼む……頼みます。私の知っていることならば……なんでも」
石井は愚神の命乞いを無視して、サングラスを外し、自らの瞳をさらす。
「この瞳の持ち主を他で知っていますか」
紫で金色の縁取り、十字型の瞳孔があらわになる。
「それは……? 普通の瞳では……。ああ……ああ……何か強い力を……ああ……私、私などでは……」
愚神は急に恐ろしくなったように、身震いをし始めた。
「わ、分かりません」
「そうですか」
変わらぬ石井の表情に、ビショップは笑顔を浮かべようとしたのだが。
石井はゆっくりと魔法書を掲げると、無表情にとどめを刺した。元の姿に戻りつつある教会に、断末魔が響き渡る。
「失礼御身よ、神無き我々の言葉に意味があると?」
石井の声は、なんの抑揚も伴っていなかった。
さんざん人心を玩んだビショップの末路としては、妥当なところだろう。
「よし、一応生きてるな?」
沖はエージェントの安否を確認すると、治療にあたる。エージェントはほっとしたような泣き笑いを浮かべていて、言葉にならない声で彼らに短く礼を言った。
九字原と鬼灯は、その様子を見て頷いた。
エージェントは無事に救出され、ビショップも正しく打ち破られた。
彼らの任務は、間違いなく成功だ。
ビショップの亡骸は風に巻かれて、ゆっくりと風化していく。
『この坊主は中々心掛けが良かったぞ。とても坊主とは思えぬ、誠実さであった』
共鳴を解いたマリオンは、どこか感心するかのようにビショップの最後の姿を眺める。
「どこがだ?」
『己がいう事を露程も信じておらぬのがありありとしておった。己自身をだます輩よりは大分ましであろう?』
「……」
あどけない顔をしたマリオンの物言いに、雁間はあっけにとられた。