本部

【神月】連動シナリオ

【神月】孤独の逃亡者

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 5~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/26 22:17

掲示板

オープニング

●孤独な少女の夢
 私の目の前で、使用人達が次々と血に染まっていく。
 私は、それを脅えながら見つめている。
 ――ワタシガ、アナタヲマモル。
 アルメイヤが囁くのに、私は頷けない。それなのに私の体はアルメイヤの意思によって動かされて、私の望まない戦いをする。
 ――ワタシハ、アナタヲマモル。
 やめて、と叫ぶ前に私の手が真っ直ぐに伸びて……おじい様に突き刺さっていた。
「違う……違う! おじい様は、フランツに殺されたんです!!」

●孤独な少女の現実
 エステルが目覚めれば、そこはHOPEが所有する施設だった。
 ホテルのように暮らす分には不自由ない設備がそろっているが、生活感はあまりない部屋であった。十三歳の身寄りを亡くした少女は、そこに逃れようがない寂しさを覚えた。 HOPEに保護を求めたエステルはシーカの関係者であることを明かしたこともあり、昼はHOPEによる事情聴取を受けるのが日課になっていた。
 しかし、エステルはHOPEには自分がシーカの関係者であるという情報以外は明かさなかった。HOPEを経由してフランツにエステルの情報が流れる可能性を考えて……というよりはエステルはHOPEに自分が持っている『宣誓の書』にある伝承が解明されることを恐れたのだ。あの『宣誓の書』にある伝承が解明されれば、アルメイヤのように善悪の区別すらつかない英雄が呼びだされてしまうかもしれない。
 そうなれば――街はまた破壊される。
『エステル、悲しいのか?』
 契約を交わした英雄アルメイヤが、いつの間にかエステルの隣に立っていた。
『私は、あなたをあらゆるものから守ると契約をした。あなたを、その悲しみからも守ろう』
「どうやって……」
『HOPEを破壊する。エステルに悲しいことを思い出させるのがHOPEなら、私がそえを壊してやろう』
「止めてください!」
 エステルが、悲鳴のような声をあげた。
 アルメイヤには、常識というものがすっぽりと抜け落ちている。アルメイヤを空腹から守ろうとして、シャワルマの店を大破させてしまったこともあった。あのときは駆け付けたリンカーたちのおかげで死亡者を出さずにすんだが、「あのとき、もしも……」と思うとエステルは怖くて仕方がない。いつか自分が、祖父を殺したフランツと同じ人種になってしまいそうで怖いのだ。
『私は、もう戦いたくはありません。アルメイヤ……あなたと共鳴することだって、もうこりごりなんです』

●心と閉ざした少女の周囲
「少し散歩をして、気を紛らわせたほうがいい」
 HOPEの職員はエステルのそれを進め、何人かのリンカーを護衛につけてくれた。甘いお菓子やフルーツなどが山積みになった狭い道を歩いても、エステルの気分は優れない。隣にアルメイヤがいることによって、彼女はとても緊張していた。
 ――共鳴するのもこりごりって、言ったことを謝りたい。でも……本当にもう戦いたくはない。
 エステルは拳を握りしめて、表情に不安がでることをぐっと耐えた。
 自分を守るHOPEのリンカーと英雄たちが仲睦まじそうに見えれば見えるほどに、エステルの孤独感は酷くなってく。
 ――私達は、どうやっても仲良しになれない。
 自分たちと常識も能力も違う英雄と自分達が、どうやって仲良く暮らしていけるのかがエステルは分からなくなりはじめていた。
「ほら。お譲さんたち、そんな暗い顔をして。サービスしとくから、フルーツでも食べて元気をだしなよ」
 フルーツ店の商人が、エステルやリンカーたちにフルーツを投げ渡す。フルーツを拒否したアルメイヤ意外は、それぞれ受け取って一口食べた。
「ああ、食べてしまったね。ザンネン。じゃあ、また来世でね。これは、手土産に持っていってね」
 商人の隣で商売をしていた人間の首が、飛ぶ。首は鎌のように鋭いもので切られており、その切れ味に満足するかのように商人の姿が変わっていった。まるで木のように変貌を遂げた商人の姿に茫然とするエステルの体を、植物の蔦のようなものが絡んで持ち上げた。
「くくくくっ。こんな場所で、商人のふりをしてたかいがあったってもんだ。なぁ、おまえたち今はさぞかし動きにくいだろ」
 商人の男――いや、愚神の言葉にエステルたちははっとした。さきほど口にした果実の影響なのか、彼女たちの体に変調をきたしていたのだ。
 
 体が痺れて動かない!!

解説

・愚神に人質に取られているエステルの保護
・愚神(商人)の討伐

・商店街……昼間でも裏路地のように薄暗く、店の商品が道にも並んでいるので人が四人並んで歩ける程度の広さ。なお、愚神から人々が逃げる際に店の商品は放りだされる為に、非常に足場が悪くなってしまっている。

・愚神(商人)……足が根となり、手の指がそれぞれ蔦のようになっている愚神。なお、指の蔦は非常に長く、愚神の意思で動かすことが可能。
 ・親指――鎌状になっている攻撃用の指。切れ味が鋭く、素早く動かすことが可能。体が痺れた状態であれば、攻撃を受ける可能性が高い。
 ・人差指――武器などがついてない普通の蔓状の指。しなやかにしなり、鞭のように攻撃をしかけてくる。蔓の指で相手を捕縛してから、鎌の指で首を切り落とす攻撃も可能。なお、右手の蔓の指はエステルを拘束している。
 ・中指――見た目は鎌の指と大差はないが、鎌の先には黄色い大きな花が咲いておりその花粉が体につくと体が痺れる。なお、花粉は風にのって飛ばすことも可能。花がついているため、刃物としては使用できない。
 ・薬指――見た目や性能は蔓の指と変わりないが、尖った蔓の先からは毒液がでる。毒液に触れると徐々に体力を奪われていくことになる。
 ・小指――薬指と同じ毒が含まれる棘が発射される。

・エステル……アルメイヤと共鳴する事を恐れているため、命が危なくなっても自分からは共鳴を拒否してしまう。

・アルメイヤ……エステルを助けようとして、何も考えずに敵に突進していく。止めないと、いつまでも攻撃を続けるので連携の邪魔をしてしまうこともある。なお、フルーツを食べていないので麻痺してはいない。

リプレイ

●麻痺との戦い
 狭い路地に散乱した果実を踏みつぶし、商人や客が逃げ惑う。元々広くはなかった路地に取り残されたのは、人質を取った愚神と立ち向かうリンカーのみ。
「……不覚を取りました。狙われる可能性が有るからこうして護衛に入っていたのに。私は……」
 愚神に囚われたエステルを見て、彼女と同じ名前を持つ少女――エステル バルヴィノヴァ(aa1165)は唇を噛む。こんなときに備えての護衛だというのに、愚神の差し出した果物を食べてしまったが故に体が痺れて動かせない。あまりに迂闊であった、と彼女は自分を叱った。
『……エステル、すべき事をするだけよ。考えるのは後!』
 泥眼(aa1165hero001)はエステルを叱咤するも、予断を許さない状況はやはり悔しいものがあった。周囲の仲間たちも一人の残らず体が麻痺しているようである。唯一動けるのはアルメイヤぐらいだが、彼女は作戦もないもなしに単騎で突っ込むばかりだ。
「チッ……動けねぇ……!! あのクソ野郎……やってくれるぜ……!!」
 一ノ瀬 春翔(aa3715)は痺れる体に鞭うって、潜伏を使用する。これでしばらくの間、愚神が春翔を狙う事はないはずだ。今は、愚神に対して対抗できる手段がない状態である。防御か身を隠すことが、最善策であった。
『これって、もしかしてもしかするとスッゴクヤバいんじゃないの!?』
 愚神に斬りかかってははねのけられるを繰り返すアルメイヤを見ながら、アリス・レッドクイーン(aa3715hero001)は焦ったように呟いた。
「くっ……この大切な時に、身体が……!」
 月鏡 由利菜(aa0873)も痺れる肉体に、悔しさをにじませた。オーパーツ事件の事実関係をたしかめるためにも護衛を引き受けたというのに、肉体がいうことを聞かない。
『今は耐えろ。私の…ネルトゥスの加護を信じるのだ』
 リーヴスラシル(aa0873hero001)が力強く励ますも、彼女の声にも悔しさが滲んでいた。
「からだが……しびれて……」
 ギシャ(aa3141)は、がくりと膝を折った。
ギシャは、エステルと友人になりたかった。たとえ、どらごん(aa3141hero001)に『おまえは実働要員で、エステルは指導者タイプだから違うだろう』といわれても。だから、あえて弱ったふりをした。
 それを見ていた柳生 楓(aa3403)が、苦しまぎれに氷室 詩乃(aa3403hero001)に手を伸ばす。楓の決意は、詩乃が不安になるほどであった。
「くっ……この程度の障害で……他の人を傷つけさせたりはさせません!!」
『楓! 無理しないで! ここで倒れたら元も子もないよ!!』
 詩乃の言葉に「わかっています」と返しながらも、守るべき誓いを発動させる。これで愚神の注目は仲間やエステルでもなく、楓に移るはずである。
「N・K……わたしたちもリンクを」
 早瀬 鈴音(aa0885)は隣で動けなくなっている、N・K(aa0885hero001)に手を伸ばす。N・Kも鈴音の考えを察して、必死に指先をパートナーへと向けた。二人の細い指がわずかに触れ合い、彼女達の全てが重なった。
「まずは……自由に動ける頭数の確保だよね」
 鈴音は、クリアレイをギシャや八朔 カゲリ(aa0098)そしてエステルへとかけた。一刻も早く、人質になっている少女エステルを保護しなければならない。そのため手段を確保するためにも、人員が必要だった。
 麻痺が取れたカゲリは、剣を握った。
「力を貸すと言った以上、無碍にはしないぞ」
 力任せに突き進むことしかできていないアルメイヤは、もはやこちらが機転を効かせて利用するしかないであろう。
 一方で、ナラカ(aa0098hero001)はわずかな落胆を覚えていた。
 エステルもアルメイヤも、双方共に互いを信頼しきることはできなかった。二人の繋がりは、ナラカが想像した程度ではなかった。それでも、ナラカは二人に過剰な期待をしてしまう。
『アルメイヤの行いは、愛しているが故に愛させてくれというものかのう』
 ナラカの達観しきった呟きを聞きながらも、カゲリはエステルが捕まっている蔦に向かって攻撃を仕掛ける。そのカゲリの攻撃をサポートするかのように、レイ(aa0632)のファーストショットが蔦の指の付け根を狙った。
「リンカーと英雄との関係性……か」
 鈴音によって回復したレイはカゲリをサポートしながらも、その解決が難しい疑問を口にする。
「人と人。時としてそれは難しい問題となるのだろう、な」
『オレらは仲良しだよね~』
 陽気なカール シェーンハイド(aa0632hero001)の声を聞きながら、レイはライトマシンガンを装備に武器を持ちかえて周囲の障害物を淘汰する。できるかぎり、戦いやすい場を整えたかったのだ。
「……どうかな?」
 お遊びの時間は終わりだ、とレイは銃を構える。
 愚神の狙いを乱す意味合いを含めて、レイはできるかぎり動きまわった。
「命に代えても……この子は殺させません」
 エステルは、愚神に捕らえられた少女に対してカバーリンクを使用する。たとえ自分の身が危うくなろうとも、エステルは自分と同じ名前の少女を守るために持っていた術を使ったのだ。
『人質に、痺れる果実……姑息な手を使ってくれる。――楽には死なせんぞ!』
 ラシルが無形の影刃にて、愚神の中指と薬指を狙う。離れた位置からの攻撃は、愚神の指を切断するにはいたらなかった。
 愚神の指についた花が揺れる。その花から出た花粉が、微風にのってリンカーたちに襲いかかろうとしていた。
「もう一度、麻痺状態になるとかごめんだし……」
 アリス(aa1651)は拒絶の風を使用して、花粉を退ける。Alice(aa1651hero001)は仲間たちの大半が麻痺から脱却したというのに、未だに単騎で戦いを挑むアルメイヤを見て囁く。
『雷神ノ書が役に立ちそうね』
「あの人に関しては、邪魔にならないなら利用しよう」
 同じ名前を持つ少女達は、互いの策戦に頷きあう。
 雷神ノ書に振れたアリスは、激しい雷電を愚神に向かって落とす。愚神の指が愚神の意思によって動かされているのと言うのならば、この激しい攻撃で愚神の意識を少女エステルから反らさせるつもりだった。
「人質として振りかざされたら、面倒くさいからだよ」
 アリスは、小さく呟いた。
『はわわ……。ようやく麻痺が解けたのですぅ。動けますかクリスさん?』
 Chris McLain(aa3881)の言葉を聞きながら、シャロ(aa3881hero001)は武器を構えた。
 麻痺がとけるまでは、ずっと防御で耐えてきたのだ。
 解けたからには、思いっきり暴れさせてもらう。
「なんとか動けそうだ、すまない」
 クリスは、愚神対してフラッシュバンを使用した。愚神がひるみ、その体が一瞬のけぞった瞬間にトリオを発動させる。それとほぼ同時に、レイは愚神の掌を狙った。ちまちまと指をねらうより、指がついている掌を一気に攻め落とす算段であった。鎌状の指が、レイを狙って伸びた。
『させないぞ!』
 ラシルの声を聞きながら、由利菜はライブスショットを使用しようとする。
 そのまま行けば、愚神の親指を切り落とせるはずであった。だが、由利菜と愚神の間にアルメイヤがわりこむ。由利菜を邪魔しようとしたわけではなく、エステルを助けるためにアルメイヤは最短距離を行こうとしたにすぎない。
 だが、それは由利菜にとっては邪魔以外の何物でもなかった。なぜならば、このまま由利菜がライブスショットを使用すれば確実にアルメイヤに当たるからだ。
 由利菜は、咄嗟に攻撃の起動をずらした。
「アルメイヤさん!」
 由利菜が叫ぶも、アルメイヤは止まらない。
「あなたのエステルさんを助けたい、と思う気持ちはわかります! でも無闇に攻撃するのなら、エステルさんに被害が及ぶ可能性があります !落ち着いてください、エステルさんを助けたいのは私たちも一緒です!!」
 楓も、アルメイヤを止めようとした。
 今のままでは、アルメイヤはそのうち取り返しのつかないダメージを負いかねない。だが、アルメイヤは自分の身などかえりみることなく攻撃を続ける。
 アルメイヤだけでは、やはり限界があった。退けられるアルメイヤに話しかけたのは、鈴音だ。彼女は、全員にクリアレイをかけ終わったところであった。
「エステルを助けたいんなら、一人より大勢じゃん?」
 鈴音は、アルメイヤが単騎で何度も突っ込んだことに怒りを感じてはいなかった。たった一人で敵に挑もうとするたびに、むしろアルメイヤの本気が伝わってくるような気さえしていた。
「別に、一人でやらなきゃってわけでもないよね。この場だってわたしとN・Kがいなかったら麻痺で危なかったし、わたしとN・Kだけでも愚神には勝てないと思う。誰かと協力しないと……エステルは守れないと思うよ。もうちょっと融通をきかせなよ。わたしとN・Kが、回復と射撃で援護するから」
 鈴音は、アルメイヤにケアレイをかける。
「さぁ、エステルを助けにいこうよ」
 鈴音の言葉に、アルメイヤは頷きもせずに再び愚神へと突っ込んでいった。
 そして、再びアルメイヤは一人で攻撃をする。
 けれども、今度は何かが違った。
 アルメイヤが愚神に切りかかろうという瞬間に、彼女はすっと身を引いたのである。その隙間に、ギシャがディステニーシザーズを持ってアルメイヤの前に降りたつ。
「音もなく忍びよる暗殺スキルは、ギシャの得意分野だよ」
 微笑むギシャの足元には、切断された蔦が転がる。少女エステルが捕まえていた蔦を、ギシャは切断したのであった。
「逃がすかぁ!」
 愚神がギシャとエステルに向かって、鎌の指を向けた。
「ギシャさん、その子を連れて避難を!」
 愚神とギシャの間に入ったエステルが、武器の扇で指を受け止めて攻撃から仲間を守る。両足に力を入れて踏ん張るも、このままでは力負けしまう。エステルがそう恐れた矢先に、助けが入った。カゲリがライブスブローを使用し、エステルの助太刀に入ったのである。
 カゲリは、守られる少女エステルをちらりと見やる。
 そして、その薄い唇で彼女に言った。
「もしも、おまえがこれ以上は戦いたくないというのならば――英雄との契約を破棄するべきだ」
 冷たい言葉は、カゲリなりの優しさでもあった。
 エステルが戦いの向かない――ごく普通のか弱い少女であるならば、全てをゆだねて庇護のなかにいるべきなのだ。少なくとも彼女が成人するまでは、誰かが守ってくれるだろう。たとえこの場で、エステルが戦わない選択をしたとしてもカゲリは彼女を責めない。全ての人間が、戦いに向いているわけでもないのだ。
 あとは、自分が全てを背負おう。
 だが、エステルは動揺はしても「破棄する」とは言わなかった。
『形がどうであれ、エステル殿はアルメイヤ殿の主。狙われている今の状況で、安易に契約を破棄するのは双方共に危険だ!』
 愚神の攻撃を受け流しながら、ラシルが叫んだ。その叫びを聞きながら、由利菜も自分も同意見であると頷いた。
「……恐れず踏み出してみるべきです。……私も、そうやって自分の英雄と打ち解けましたから」
 由利菜の言葉を、少女エステルは戸惑いながらで聞いた。自分の為に全てと戦えてしまうアルメイヤを制すので精一杯で、今まで彼女と対話をすることはなかった。
 そんなチャンスは、なかった。
 いいや、エステルがアルメイヤを理解する事を避けていたのだ。アルメイヤを恐れて、彼女を理解するチャンスから目を背けていたのだ。
「……リンクって、理不尽ですよね?」
 ぽそり、とエステルは自分と同じ名前の少女のために呟く。扇で攻撃を薙ぎ払い、幼い少女を懸命に守りながらも。
「突然起きて、そして訳の分からないまま究極の選択を迫られるんです。全く知らない別の存在と全てを分かち合うか、全てを失うか……勿論余裕のある場合もあるのでしょうけど……でも、気持ちが間違っていなければ、必ず互いを理解できるチャンスは訪れます」
 エステルは少女をギシャに預けて、今度は仲間の回復のために立ち上る。
 そろそろ皆のダメージが蓄積した頃合いである。
 少女を守るためにも、まずは仲間を守らなくては。
「怖かったよね? もう少し離れようね」
 ギシャはエステルを抱きかかえて、戦闘領域から離脱しようとしていた。だが、それを少女エステルが拒否した。そして、代わりにギシャに問いを投げかける。
「どうして皆さんも……アルメイヤも……私を守ろうとするんですか?」
 少女の泣きそうな問いかけに、ギシャはわずかに微笑みながら答えた。
「同じ暗殺者として、エステルと友達になりたいからだよ。アルメイヤも、ギシャと同じ気持ちじゃないかな?」
 春翔はギシャたちを襲おうとしていた指に向かって、ジェイミストライクを使用する。
『あの娘……自分が一人ぼっちだって、勘違いしてるのかもしれない……』
 アリスは、わずかに心配そうにエステルを見やった。エステルの様子やギシャへの問いかけは、彼女の心に住まう孤独のせいにしか思えない。
 春翔は、それも仕方がないかもしれないと感じた。
「こンのマシーン野郎……守る守るって、結局テメェが一番守れてねぇんだよ!」
 アルメイヤに向かって、春翔は叫んだ。
 アルメイヤの人の話しの聞かなさは、彼女が記憶を失ってところも大きいだろう。だが、それ以上にアルメイヤはエステルに甘えている。エステルを主として信頼し、全てを任せている。それに耐えきれる人間もいるが、エステルはまだ幼い少女に過ぎない。
 その負担は、あまりに重すぎる。
「守りたいなら、まずはエステルのことをもっとちゃんと見てやれ! そうじゃなきゃ、テメェがエステルを潰すことになるんだぞ!!」
 春翔は縫止を使用して、愚神の動きを止める。愚神が動きが止まった瞬間に、愚神から距離を取り動きまわっていたレイが弾丸を撃ち込んだ。
「何故、お前達は契約を交わした? 最初のこと、それを思い出してみろ」
 レイは、エステルに向かって口を開く。
『仕方なく、だったとしても……エステルは受止めたんだ。――アルメイヤの全部を。それって凄いことじゃね?』
 カールの言葉を、レイは聞いていた。
 目の前で親しかった人を殺され、自分も殺されそうになった
 そんななかでも少女エステルは、アルメイヤを受け止めた。
「何もかもを鵜呑みにして、それでエステルが哀しむ。アルメイヤ、それを分かって……エステルが止めて欲しいことまでやるのか?」
 まだ、エステルとアルメイヤの仲を修復する事は可能である。
 レイは、それを信じてアルメイヤにヒントを出し続ける。
 本来ならばエステルの保護者にもなれるはずの年長者アルメイヤに「おまえは変われるはずだ」とヒントを出し続ける。
「アルメイヤさん、もっとエステルさんの心をちゃんと汲み取ってあげてください。そしてエステルさんが、アルメイヤさんに本当にして欲しいことを理解してあげてください」
 レイの攻撃で、愚神の指の狙いがズレた。
 楓は、そこにライブスリッパーを叩きこむ。
 綺麗に決まった攻撃であったが、楓の表情は晴れない。
「このままだと……。いずれはアルメイヤさんの行動で、エステルさんが傷つくことになります」
 今までは、誰かがそうなる前に止めることができていた。
 だが、次もそうなるとは誰も言えない。
「エステルさんを守りたいなら、まずは二人で話してあげてください」
「わたしも、足りないのは会話なんじゃないかって思ったの」
 ライヴスフィールドを展開させつつ、鈴音も口を開いた。
「何を食べたい? 何をしたい? お味噌汁の具はなにがいい? そんな他愛のない会話と時間が必要なのかなって」
 敵が弱体化した隙を狙って、アリスたちはアルメデルの書を使用した。不気味な悪魔の幻想が現れ、それが愚神へと向かって行く。それを見ながら、鈴音はなおも言葉を続ける。
「わたし達と英雄も言ってしまえば他人なんだし。何を望んでるかなんて、簡単には解らないけど。答えてくれたことなら、確実に相手の願いになるんじゃない?」
「時間なら、この戦いのあとでたっぷりとあるな」
 レイは愚神と切り結ぶ由利菜のサポートをするために、弾丸を打ち続けていた。
「エステルさん!」
 由利菜は、小さなエステルに向かって叫ぶ。剣と愚神の指との絶えないぶつかり合いの音に負けぬように、由利菜は叫ぶしかなかった。この声や言葉が、絶対にアルメイヤに届くと信じて。
「あなたも恐れず踏み出してみるべきです!! エステルさんのことを、ちゃんと知ってあげてください!!」
 由利菜の剣が、愚神の指を切り落とす。
「テメェ……ここに居たのは単なる偶然か? それとも……」
『返答によっては見逃してあげるかもね!』
 春翔は武器を構えて警戒しながらも、愚神から情報を聞きだそうとしていた。もしも、この愚神がエステルを追っている敵であるのならば有益な情報を知っている可能性があったからである。
「はははっ、見逃してやるだなんて随分と上から目線だな。おまえたちが守ってる餓鬼は、自分の後見人に殺される予定の餓鬼だぞ! そいつがシーカの最高幹部ヤーセルの孫であろうとなかろうともう関係ねぇ。その餓鬼を守り続けても、その餓鬼から奪い取れるモノなんてないんだぜ」
 エステルは、愚神の言葉にぎゅっと拳を握った。
 そして、同時に鞄を庇った。
 愚神は、エステルのその動きを見逃さなかった。
「『宣誓の書』は、そこかぁぁぁ!!」
 残った指が、エステルへと延びる。ギシャが少女を庇おうとするが、想像以上に指は素早かった。エステルを抱きかかえて逃げるには、時間が足りない。
「往生際が悪い奴だな。でも、約束だ。見逃してやろう……俺は、な」
 春翔の言葉を合図にしたかのように、アリスはブレームフレアを使用する。
「植物の姿を持つ、己を恨みなよ」
 冷酷な声を響かせて、アリスは炎を放つ。真っ赤に燃え盛る炎は、樹木に似ていた愚神の体を残虐に燃やした。その炎を見ながら、エステルは身動き一つせずにたたずんでいた。
「怖かったよね? もう大丈夫だから安心してねー」
 ギシャが、エステルを抱きしめる。
 だが、それでもエステルの体はかたく固まったままであった。
「やっぱり……お爺様を殺したのも、私を狙っているのも――フランツだったんですね」
 そんなエステルに、アルメイヤは話しかけようとする。だが、その前にクリスがアルメイヤの肩を掴んだ。
「少しでも、あの子がヴィランになりそうな事を言ってみろ。額に穴が開くぞ」
『クリスさん、恐がらせちゃ駄目ですってば』
 シャロはクリスを慌てて止めつつも、アルメイヤがエステルに何と声をかけるのか気にしていた。ここでアルメイヤが失敗すれば、エステルとアルメイヤの絆は二度と結ばれない。それでも二人が前に進むためには、言葉が必要だった。
『エステル、もう一度だけ誓約の言葉を言ってくれ』
 アルメイヤの言葉に、エステルは目を丸くする。
「え……あっ。わっ――我々はシーカ。混沌の敵たる堕落と退廃を討つ刃」
「私はその言葉を聞いて、エステルと契約した。そして、エステルは人にはそれぞれ高貴な義務があるとも言ったな」
 それは、エステルの祖父が生前によく言っていた言葉であった。いつの間にか自分も祖父と同じ事を言っていたのだと実感して、エステルは目を見開く。
『私にとっての高貴な義務は、エステルを守ることだ。それを達成するためにも……色々と教えてくれ。エステルの好きな事、嫌いな事、全部を』
 次はかすり傷一つ付けさせないから、とアルメイヤは言う。
 その光景を見ながら、レイは呟いた。
「俺達は音楽で繋がってる。……エステルたちは何で繋がるんだろな?」
『それを今から見つけていくんじゃんか。俺らみたいな、仲良しになるために』
「……どうかな?」
 わざと冷たい態度をとってみれば、カールは楽しげにレイにじゃれついてくる。その様は、悪友同士という言葉がぴったりであった。
『え――レイ、そんなこと言わないでよー!』
「……分かった……から、そんなに近付くな。鬱陶しい……」
 レイとカール、エステルとアルメイヤ。
 信頼関係においては正反対な二組を見ながら、カゲリは疑問を口に漏らす。
「彼女は、戦う事を……アルメイヤを選ぶだろうか?」
 カゲリは戦闘のなかで、戦いたくなければアルメイヤとの誓約を破棄しろと進言した。だが、その言葉にエステルは答えていなかった。
 戦うか戦わないか。簡単な二択の問題だったのに、彼女は選ぶことができなかったのである。「無言」は戦うことの意思表示になりえるのか、そんなことを考えるカゲリの隣で、ナラカは忍び笑った。
『覚者は望んでいるだけであろう。あの二人が真に分かりあい、互いの信頼を得て、覚醒することをのう』
 エステルとアルメイヤが互いを知るために口にする言葉達を聞きながら、ナラカは言葉を続ける。
『例え傍観にあろうとも、信じる事の尊さを証明したいがためにのう。だから、覚者にしては過度なほどの期待をしてしまうのじゃ』
「それは、おまえもなんだろう」
 カゲリの言葉に、ナラカは微笑みだけでかえす。
 彼女の答えも、また「無言」であった。

●分かりあうために
 エステルとアルメイヤ、互いに互いの事を話し会う。
 自分の事を分かって欲しい、相手の事を知りたいと思いながら、互いに互いのことを喋り出す。
『エステルは、自分のために周りに傷がつくのが嫌なのだな』
 長い話し会いの上で、ようやくアルメイヤはエステルのことを少しだけ理解した。エステルも、アルメイヤのことを少しだけ理解したような気がした。今までは、アルメイヤを周囲を傷つけることもいとわない凶暴な人物であると思っていた。
 だが、今は違う。
 アルメイヤの話を聞けば聞くほどに、彼女は真っ直ぐで高潔だった。融通が効かないところが多々あって、彼女が全力で自分を守ろうとするから問題が起きるのだ。
『エステル。怖いことや嫌な事を、もっといっぱい教えてくれ。私はそれからエステルを守るために――私がそれにならないように努力をしよう。だから、まだ私にエステルを守らせてくれ』
 アルメイヤの言葉に、エステルはおずおずと頷いた。
 戦う事はまだ恐ろしいと感じるが、アルメイヤは自分たちを意思を疎通できる英雄であった。エステルは、鞄ごと『宣誓の書』を抱きしめる。古い時代からしたためられてきた本で繋がった英雄が、ワルモノでなかったことに少し安堵しながら。
「アルメイヤ。この書で呼び出せたあなたと私も分かりあえたわ。だから、あなたと同じ存在がこの書から呼び出されても私は怖くはありません」
 だから――フランツが刺客を差し向けた原因となった本をHOPEのリンカーたちにも見せよう。それによってアルメイヤのような存在が目の前に現れたとしても、もう怖くはない。
 エステルが持つ『宣誓の書』は、シーカの関係者しか読むことができない言葉で書かれていた。シーカの目的と歴史、赤き月の伝承、短剣の持つ力、混沌と無垢の刃、セフィロトのシーカ(生命の樹の短剣)のこと――。
 これらは、エステルの口からHOPEのリンカーたちへと伝えられることになる。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 高校生ヒロイン
    早瀬 鈴音aa0885
    人間|18才|女性|生命
  • ふわふわお姉さん
    N・Kaa0885hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
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