本部

【神月】連動シナリオ

【神月】霧の中の暗殺者

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/28 00:37

掲示板

オープニング

●  私がやらなけば、誰がやるというんだ
 午後、昼下がり、閑散とした時計塔前にその男はいた。遥か先の土地に思いをはせるように空を見ていた
「所長……」
 そんな初老の男に、二十代前半の男が声をかける。
 彼らはそろって同じ制服を着こんでおり、その肩にはH.O.P.E.のロゴが刻まれていた。
「本当に行くのですか?」
「ああ、遺跡から出土した遺産。博物館に展示された礼装。全てが短剣、そしてその彫金、模様全てが酷似しているとなれば……。調査しないわけにいくまい」
「しかし所長、今H.O.P.E.から非常警戒態勢が発令されています。仲間がもう、四人も殺されているんですよ」
 そう青年は目に涙を浮かべ、所長に詰め寄った。
「だが、これは世界の一大事の可能性がある。エステルと言ったか。あの子のもたらす情報いかんによっては、あの剣一本でこの世界が危険にさらされることもあるのだぞ」
「娘さんはどうするんです。今年やっと卒業だって、言っていたじゃないですか」
「家族より、優先しなければならないこともある」
「所長……。僕たちまだ、あなた達がいないと、何も」
 そう青年が目頭を押さえると、その所長は彼の肩をたたいた。
「君なら大丈夫だ。私の教えを十分に吸収した。他のメンバーもだ。私が教えることはないよ、だから私が行くんだ」
 そう所長は傍らの鞄を手に取り青年へと背を向ける。
「家族が、君たちが生きている世界のことだ。私には引くことはできんよ。私しかやれないのだ。ならばいくら危険でも私が」
「せめて、護衛が付くまで待ってください」
「飛行機が来る。もう行かねば」
「所長!」
 青年は自分の無力をかみしめ、灰色の空を見つめた。
 心なしか霧が出始めた。もしこの霧で飛行機が飛ばなければ、全てが丸く収まるのに。
 そう青年は願った。

● ジャックの故郷は綺麗か
 今回はグロリア社のプレイベートジェットで現地に飛んだ。
 オペレータは手が足りないのでなぜかロクトが務めている。
 だがロンドンに降り立ったリンカーたちは早速信じられないものを目撃する。
 ロンドンの町はすっぽり濃霧で覆われていたのだ。
「なによ、これ」
 ロンドンの街中に降り立ったロクトは唖然と周囲を見渡す。
「ドロップゾーン? こんな形で街中に、しかも突然」
 その直後ロクトはコンクリート上に塗られたような血の跡があるのを発見する
「行きましょう。何が起こっているか把握する必要があるわ」
 霧はロンドン塔のへ向かって進めば進むほど濃くなっていくようだった。
 もはや指先しか見えない、そんな白闇のなかでロクトは聞きなれない音を聞いた。
 それはまるでガラスを打ち鳴らすような甲高い音。
 そして、何か重たいものを引きずるような音。
「これを見て……」
 そうロクトは突然走り出す。
 その先には、建物の壁、その一面が赤くペイントされていた。
 その正体は濃霧のせいで遠目でからでは判然としない。だが近づいてみればすぐにわかった。
 それは、調査官のうちのひとりだ。
 彼は磔にされていた。胸のあたりから引き裂かれ、その血で手元に文字が書かれていた。
 『This way, please(こちらへおいで)』
「なめた、真似を」
 ロクトは眉をひそめる、そこにはご丁寧に矢印まで書かれていた。
 それをたどり歩くと突如霧の晴れた公園に出る。
 その中央には少女が佇んでいた。噴水の縁に腰掛け。たおやかな笑みを浮かべている。
「やっと、たどり着いたか。遅かったではないか」
 ロクトはその少女の姿に息をのんだ。水晶のように透き通った見た目。それはまるで……。
「我が栄光ある名はガデンツァ。讃えよ。よい、許す、そちらが我を崇めることをゆるす」
「あなたが、この一件の黒幕?」
 水晶で削り出された足を地面につけるとカツンと涼やかな音が響いた、ガデンツァと呼ばれる少女はロクトを真正面から見つめ、にやりと笑った。
「そうさな。黒幕、この一件を仕組んだのは我じゃなぁ」
 そうガデンツァが指を鳴らすと、マネキンのような従魔が噴水の中から現れる。その腕に抱えられていたのは、調査官の一人、最年少の青年『ヨシュア・ゴードン』だ。
「まさか、そちら程度のために、我が駆り出されるとは、全く屈辱的な話ではあるが。まぁ仕方がない」
「仕方がない?」
「オーダーには答えよう」
 まるで目の前のリンカーを気にせずガデンツァは言う。
「遊んでやる」
 そう言うと乙女は噴水の中に飛び込んだ。それに従魔も続く、その場にはゴードンだけが残される。
 あわてて彼の元へ駆けるリンカーたち。
「これは、ゲームじゃ」
 突如として、その空間にガデンツァの声が響き渡った
「遺産の調査官、それらを殺しつくすのが我の務め。しかしそれだけでは簡単すぎる。そもそもこの町ごと吹きとばせばよいだけだ」
「そんなことがあなた程度にできるの?」
「…………よい、我は一度の無礼は許す、二度目はないぞ小娘」
 そう殺気の混じった声でガデンツァは言った。
「まず、この町に数体の従魔を放つ、奴らには死んだ調査官と同じ見た目をさせておる」
 ガデンツァは語る、ゲームのルールを
 その従魔を探し切り、殺せればリンカーの勝ち。
 さらに、この町の中でガデンツァを見つけ出せてもリンカーの勝ち
 負ければ直ちにドロップゾーンを解除するという。
「検討を、祈るぞ、ははははははは」
 そう笑い声を残し、去るガデンツァ。同時に公園を霧が覆い始めた。
「所長が、空港に……」
 そう呻くのはゴードン
「彼が行ったのは?」
 尋ねるロクト。
「二時間前程度」
 ロクトは記憶を漁る。確か二時間ほど前から霧がかかり、飛行機は飛ばなくなっていた。つまり所長は空港にいる。
「すれ違いになったみたいね……。ただ、この案件、厄介なことが多いわね」
 霧の中で疑心暗鬼に満ちたゲームが始まる。

● 作戦会議
「そんな、エリシュ……ああ。お前まで。これで、これで五人目の犠牲が」
「ごめんなさい、私の力不足よ。でも今は死を悼んでいる暇はないの、対策を考えないと」
「仲間たちのところに行って、救う、それだけだ」
「そうなるとただ問題点は、はたして調査官が私たちを信用するかしら」
「どういうことだ?」
「ゴードンがいれば、話は早いと思う、私たちの話に耳を貸してくれるかもしれない。けど彼らは、私たちとかつての仲間の姿を持つ従魔。どちらの話を聞いてくれるかしら、みんな、聞いて頂戴」
 ロクトは意気消沈する皆に声をかけた。
「現状、このゾーン内では方位磁石、電子機器。GPS等使用不可能よ」
 さらに一般人は方向感覚も狂わされ。簡単に迷ってしまうだろう。
 一般人はこの霧のせいで町の外に出られない。警戒して建物の中に立てこもっているようだが、派手な戦闘は被害を生む可能性がある
「現在の私たちが守るべき調査官、もともとの総数は九人。死者は五人、生存者は四人。これから生存者を救いに行くわ」

解説

目標 デクリオ級従魔二体の撃破
   もしくはガデンツァの発見

<目指す場所>
1 空港
 一般人が大量に押し寄せ避難所となっている。所長は空港内の14番ゲートに向かうと言っていたので、その周辺を探せば見つかるでしょう。
 時計塔を中心に北側に存在

2遺跡調査局
 H.O.P.E.のもつ物件、二階建ての何の変哲もない一軒家だが、対従魔用のトラップが複数仕掛けられている、引っかからないように注意。
 時計塔中心に南側に存在

デクリオ級 従魔『マリオネット』
・特長
 見たものの姿形、そしてDNAがあれば本人の性格までコピーできる。
 一定以上のダメージによって変装が解ける。
 また、AGWを奪い強化する力を持つ。倒せばAGWは返却される。
 初期装備は苦無とアサルトライフル。

愚神 ガデンツァ
 あらゆる情報が謎に包まれている愚神。
 こちらの情報が逐一伝わってるらしい。
 ただし、ロクトが感じたところによると戦闘力は極めて高く危険らしい、万全な状態以外の戦闘は避けるようにとのこと

<研究員について>
 現在生存している研究員は四名

・『ヨシュア・ゴードン』
 若手調査官。臆病だが仲間のためなら危険を冒せる。今回はPCに同行する。

・研究員二名
 遺跡調査局に引きこもっている、愚神襲撃の恐怖におびえ正常な判断ができない、リンカーたちを敵の差し向けた従魔だと思う。
 説得方法を考える必要がある。
・所長
 飛行場にいる。
 彼は冷静だが、自分のチームメンバーのことを信用しやすい傾向にある

 死亡した調査官には暫定的にアルファベットを振るとわかりやすいでしょう。
 死亡した順からA。B。C。Dとし、OPにで壁に貼り付けにされて死んでいた彼はFとします。 

リプレイ

第一章 異変

『蔵李・澄香(aa0010)』は無残な研究員の死体の前に膝をおろし黙祷を捧げた。
「ひどい……。残りの無事な人達は必ず助けなきゃ」
 そう憤りを見せる『九十九 サヤ(aa0057)』その言葉にヨシュアは頷き、涙をぬぐって前を向く。
「なんでこう愚神ってゲーム感覚なのが多いのかしら」
 そのサヤへと『一花 美鶴(aa0057hero001)』がため息交じりにそう言った。
「本当に……愚神たちは趣味の悪いお遊びがホント好きね」
 『志賀谷 京子(aa0150)』が同意を示す。
「なればこその愚神なのでしょう」
『アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)』が言葉を続ける。
「……被害を出さないことも大事だけど、それと」
「それと?」
「不思議な一致って面白そうでしょう? その謎を解き明かしてくれるプロを守らなきゃ、不思議なままで終わってしまいそうじゃない?」
 その言葉に全員が頷いた。そして美鶴は決意を新たに視線を上げる。
「そう簡単に負けるつもりはないわよ」
その隣で『卸 蘿蔔(aa0405)』と『レオンハルト(aa0405hero001)』がヨシュアの隣に立ち声をかける。
「怪我はありませんか? 愚神にはどこで捕まりました? 何か、されましたか?」
「いや、記憶は、全くないんだ、所長と離れてからすぐに意識が……」
「ショックを受けているところごめんなさい。敵はヨシュアさんのお仲間に化けている可能性があります。詳しい特徴をお聞かせ願えませんか」
 そう蘿蔔の言葉を澄香が継いだ。
 ヨシュアはリンカーたちに話し出す。思い出交じりに死んでしまった五人の特徴を。
「レオ……」
「わかってる」
 そう蘿蔔とレオンハルトはわずかに手を触れさせ共鳴。まるでレオンハルトに吸い込まれるように蘿蔔の姿が消えた。
――安全のためとはいえ、疑うようなことをして申し訳ございません
『水瀬 雨月(aa0801)』は一寸先も見えない霧の中を見渡して言う。
「ゲーム……ね。甘く見られたものだけど、油断してくれるなら好都合かしら」
「ええ、そうですね。おかげで一方的なゲームにされなくて済みます」
 そう『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』は全員のスマホにあらかじめ落してあったロンドンの地図を有線で送る。
「回線遮断は経験済みです。行先の地図はPCの画像に落としてあります。皆さんどうぞ」
「気になるのは、まるで私たちを待っていたかのような、対応よねぇ」
 そう穏やかに言ったのは『榊原・沙耶(aa1188)』すでに彼女も『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』と共鳴済みである。
 そしてその言葉にクラリスは同意する
「ええ、こちらの到着を待ちうけていたとみて間違いないかと」
「おかしなことは他にもあります」
『構築の魔女(aa0281hero001)』が告げる、もちろん彼女も『辺是 落児(aa0281)』と共鳴済み。
「調査員を殺すことを依頼されたといいつつ
 自身を見つけることが出来れば目的を達していなくても引く……と
そもそも、最初の4人を殺したのは彼女なのでしょうか?」
「その謎を解き明かしている暇も、今はないわね。さぁどうするか……」
 雨月は言う。
「今は誘いに乗るしかなさそうね。そして出会ったら今回の件について問い詰めましょう。あの不遜な性格なら油断じゃなくて余裕というものだとか言い放ちそうだけど」
 その言葉にクラリスは苦笑した。それが容易に想像できたためだ。
 そして最後に、澄香は膝についた埃を払い霧の中に潜むであろうガデンツァへと言い放った。
「ゲームをクリアできた場合、何卒、お目通り願います。御足労頂くのも忍びないので、時計塔の方に此方から伺わせて頂きます」
「厄介だね。でも泣き言は言ってられない。人の命がかかってるんだから。皆を助けてあの偉そうなガデンツァって奴の鼻をあかしてやらないとね!」
『アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)』がそう言い、『マルコ・マカーリオ(aa0121hero001)』はそれにうなづいた。
 その後作戦会議を終えたリンカーたちは空港へ向かう班と調査局へ向かう班とで分かれた。
 暗殺者におびえながらの護衛戦が始まる。

第二章 惑いの玄関先

 澄香が用意した地図のおかげで移動はスムーズだった。霧の中ではあったが一度通ったこともあるので、空港班はスムーズに空港まで戻ることができた。
 そこは人でごった返していた、空港施設内はだいぶ霧が薄い。なので非難のために人が集まってきているのだ。
「あれ? レオンハルトさんは?」
 アンジェリカがあたりを見渡すと、確かにいない、その疑問にサヤが答えた。
「警備室に向かいましたよ。十四番ゲート付近から人を退避させるために」
 レオンハルトは別行動で警備職員の元まで走っていた。
「失礼します」
 そう警備室の扉を開けて、この異常事態に神経をピリピリさせていた警備官たちに告げる。
「H.O.P.E.だ、ちょっと協力してもらいたいんだけど。いいかな」
 そうレオンハルトは蘿蔔のパスポートを見せる、そこにはH.O.P.E.エージェントの印が刻まれていた。
 その印があれば超法規的措置が認められる、空港の一部施設の利用も可能というわけだ。さらに警備員は敵の特性なども知らないので何の疑問もなく捜査協力に応じてくれた
「14番ゲートを封鎖して、あたりから人を遠ざけてほしいんだ」
「ああ、エジプト行きの便だな」
「理由はなんでもいい。漏電、霧によるゲート変更。混乱は避けてくれ」
「わかった、手配しよう」
「そして放送機材を貸してほしいんだ。呼び出ししたい人がいる」
 レオンハルトはマイクのスイッチを入れると。所長の名前を読み上げ十四番ゲートで待つように伝えた。
 その放送を京子たちは聞き。作戦は順調に進んでいることを実感する。
 実際十四番ゲートからはどんどん人が遠のいていく。
「人を隠すなら森の中、か。あとは狙撃に気を付ければいいだけだけど……」
 そう京子は周辺を警戒しつつ、空港班は十四番ゲートにたどり着いた、すると案外すんなりとその姿を見つける。
 間違いないH.O.P.E.と刻まれた制服を着こんだ、ヨシュアから聞いた外見に一致する男、調査局の局長がそこにいた。 
「あなたが、調査局の局長さんですよね?」
 サヤが話しかける。
「君たちはいったい……、私を呼び出したのは君たちか?」
「H.O.P.E.です」
 サヤが答える。
「あなたを保護しにきました、いまあなた方が狙われていて……」
「それは知っている、だから私は君たちを疑っている。敵は何らかの手段によって無抵抗な職員を虐殺しているんだ、私は変装を殺害手段の一つとして疑っているが、どうかな」
 所長の拳からバチバチと電流がほとばしる。どうやらアイアンパンクのようだ。
「では、これでどうですか?」
 サヤが目の前でリンクを解いて見せる。そしてパスポートを見せた。
 それに習って全員が共鳴を解く。
「ほう今度の従魔は六体か、腕が鳴る……」
「ああ、もう分からずや!」
 京子はそう苛立ちを隠そうともせずに、スマートフォンを操作する。
 そしてそこに録画してあった映像を再生する。
「これは?」
「ぼくたちは一度、街中に向かったんだ」
 アンジェリカが言葉を継いだ。
「町は濃霧に覆われていたよ、そして愚神のもとに誘導されて、彼女は職員を殺し切る前に従魔を倒すか、自分を見つけて見ろとゲームまがいの条件を付きつけてきたんだ」
 その動画に移りこんでいたのはヨシュア。彼から所長に向けたメッセージだった。
「その時に彼を救出した……」
 そのスマホを所長に手渡すと、彼は食い入るようにそれを見つめた。
「お子さん、ご病気なんですってね。なんで言ってくれなかったんですか、俺偶然知っちゃって、帰ってきたら頼りないかもしれないですけど。俺に危ない仕事教えてください、まだ半人前ですけど。役に立てるように精一杯やらせてください。所長に恩を感じてるんです」
 その間にサヤはライブスゴーグルで周囲に異変がないかを確認している、周囲に異常は確認できなかった。
 その動画を観終わった所長はスマホを京子へと返し、そして全員を見つめた、まるで値踏みするように。
「今の状況では信用できないかもしれないが、我が魂と我が神にかけてあんたを護ると誓おう」
 そうマルコが胸に手を当て、所長の瞳を真っ向から見据えた。
 そしてそこにレオンハルトが合流する、彼の中にいる蘿蔔は言った。
――どうかここは私達を信じて下さい。他の職員の方も必ず守り、そしてあなたを目的地まで届けます
「…………」
――危険なら皆で乗り越えましょう。協力させてください
「いいだろう、短時間でこれだけの情報を集めるのは、H.O.P.E.関係者でないとできないだろうしな。ヨシュアも助けてくれたようで、感謝する、いったんは君たちのことを信用しよう」
 そう所長は一人一人に握手を求めた。
「あと、あまり非常時にホイホイ共鳴を解くものではないよ、危なっかしくて見ていられない」
 そんなお小言を軽く聞き流し、その場にいる全員が従魔に対する警戒を強めた、相手はどんな手段で襲ってくるか分からないからだ。

第三章 悪霊の住む家

「産業革命時の霧の都をこんな形で見る事になるなんて、随分と洒落のきいた愚神ねぇ」
 沙耶は一軒家の前でぽつりと一言つぶやいた。
 作戦がうまくいった空港班の一方、調査局に向かう班は、霧の深い街中を闊歩しやっとこさ、目的地までたどり着いたのだ。
「さぁ、ヨシュアさん、カギを」
 そしてロクトが促しヨシュアがカギを取り出し、差し込み、回す。
 その直後。
「ちょっと待って」
 澄香が緊張感滲む声で言った。
 澄香はラジエルの書を展開、光り輝く術式の中から最適な術式を選択。
 刃を発射しトラップを解除した。
『ぐぎゃー』
「あら、今何か聞こえなかった?」
「気のせいですよ」
 そう澄香はあわててラジエルの刃を踏み砕く。
 そして雨月と澄香が家の中に突入した。
「どうですか? 何か変わったところは」
 構築の魔女は精神を統一し周囲の探索に努めた。
「作動しているトラップがあるわ」
 雨月が言う。雨月の指し示す方には壁に無数の穴が開いており、硝煙の香りがする。物理トラップのようだった、しかも一回限り発動するタイプの。
「くそ、もう奴ら来てやがるのか」
「アーロン、チャールズ、どこ……」
 そう叫びをあげながら館内に突入しようとするヨシュア、それを沙耶が後ろから羽交い絞めにして止める
「わざわざ敵さんにここにいるっておしえるつもりかしらぁ?」
――いえ、従魔がいるなら逆に私達がいることを知らせてしまった方がよいでしょう
 クラリスは言う。そして頷いて澄香が脳がくらくらするような可愛い声で言った。
「隠れていて構いません。とにかく身の安全を最優先に!」
「こっちだ、緊急避難先には心当たりがある」
 ヨシュアは全員を先導して屋根裏部屋を目指す、その大きな扉は目でみてわかるほど膨大な霊力を帯びていた。
「トラップが四重に仕掛けられてる」
 それを澄香は一つ一つ丁寧に解除する、すると扉が自然に開き、そして。
 その部屋の奥でうずくまる二人の職員を見つけた。
「私たちは敵ではないわぁ。H.O.P.E.よ」
 沙耶がいい、共鳴を解除して見せる。
「ほら、共鳴解除もできるでしょう?」
 しかし調査員たちはおびえて銃を突きつけるだけ、こちらの話など耳に入っていないようだった。
「みんな信じてくれ、本当に!」
 たまらずヨシュアが叫ぶ、しかし
「お前が本物だって証拠もないだろう」
 愕然とするヨシュア、そしてため息をつく沙耶。
 雨月はたまらず支配者の言葉を使用する。
「アーロンさん、チャールズさん、話を聞いて!」
「む、無理だ、先ほど連絡が来たんだぞ、ヨシュアは死んでるって。所長も死んでるって」
「仕方がないわね」
 沙耶は再び共鳴そして、セーフティーガスを使用。
 彼女を中心に無色透明のガスが周囲に充満し始める。
 しかしその時だ。
 
「その女何かする気だぞ! 気をつけろ」
 
 部屋の中央まで進んだリンカーたち、その背後から声が聞こえた。
 そこには。エリシュと呼ばれた調査員と所長が立っていた。
「所長! エリシュ」
 アーロンが叫びをあげる。
「違います、あちらが従魔です」
 構築の魔女が叫び。雨月は幻想蝶を放つべく構えをとる。 
 それを沙耶が制した。
「それはまずいわぁ」
「でも……」
「恐怖に駆られている調査員の前で、かつての仲間と同じ姿の人物を攻撃したりしたら……」
 その判断は正しい、正常な判断力を奪われている現状でそんなことをすれば、状況は一気に従魔有利に傾くだろう。
 そう、それだけで状況は従魔の有利にかたむくのだ。それを知っているからこそガデンツァはそれをさせる。 

 次の瞬間、所長とエリシュの頭がはじけた。

 一瞬何が起こったか分からなかったリンカーたちは唖然と従魔を見つめるしかなかった。。
 次の瞬間、天井の隠し扉が開き、そこからアーロンとチャールズが下りてくる。
 同時にリンカーたちの目の前でおびえていた二人の姿が消えた。ホログラフィックだったのだ。
 倒れ伏す所長とエリシュに近づく隊員二人。
「だめだ! 戻れ!」
 構築の魔女がフラッシュバンを投げ入れるも。二人の動きを封じることはできなかった。
 そして閃光によって伏せた目を戻してみると、そこには、苦無で胸を一突きにされた二人の調査官の姿があった。
「アーロン、チャールズ!」
 その後の従魔たちの行動は素早かった。頭が吹っ飛んだ形状のまま従魔は起き上がり、そしてヨシュアにアサルトライフルを向ける。
 降り注ぐ銃弾、それを沙耶と構築の魔女がその身を以て防いだ。
「まさか、そう来るなんてね」
 ロクトは歯噛みした。
 敵の狡猾さを読み間違っていたことを深く、深く後悔した。
「ガデンツァ。あなたはいったい何者……」
 混乱するリンカーをよそに従魔は陣形を整えていた。一体の従魔が前に立ちはだかり、もう一体の従魔は職員をめった刺しにする。
――その人たちを解放しなさい
 クラリスが支配者の言葉を使用し、命じた。めった刺しにしていた従魔の動きが止まる。
 そして二人を巻き込むように雨月のブルームフレア、しかし。
「きいていない?」 
 煙のむこうから現れたのは、姿をもとに戻した従魔。水晶の少女の姿が露わになる。
「くっ」
 構築の魔女がPride of fools を構える。
 続いて。澄香のウィッチブルームで薙ぎ払うように攻撃。
 それに合わせて、構築の魔女はテレポートショットで、苦無を握る従魔を横っ面に弾き飛ばした。
 がしゃーんと盛大な音がして吹き飛ばされる従魔、その隙に通せんぼする従魔を殴り倒して、沙耶二人の傍らに膝を下ろす。
「傷口から気泡……。こっちはどす黒い血。ここまで的確に急所を突くなんてねぇ」
 沙耶は傷口を見ただけで、的確にどの臓器が破壊されているか分かった。
 この大けがではもはやリンカーと言えど助けることはできない。
「早く病院へ運ばないとねぇ」
 そう沙耶が振り返った時、その視界の端に映ったのは、ヨシュアをかばってアサルトライフルに打ち抜かれるロクト。
「「ロクト!」」
 澄香とクラリスの声が、館内に響き渡った。
 彼女は共鳴をしていない、その状態で霊力を纏った弾丸を受けるとどうなってしまうのだろうか。

第三章 不協和音

 一行は周辺警戒を数時間にわたって続けていた、
 異常は何もなく、平和で穏やか、所長と談笑する時間すらある、
「ガデンツァについてはボク達が翻弄されてる所を一番近くで楽しみたいんじゃないかな?」
 アンジェリカは何の異変もない空港を眺めながらマルコにそう言った。
「だからすぐ近くでボク達を見られる所にいる気はする。具体的な場所は思いつかないけど、もし見つけても仲間全員と合流出来ない時は無理に戦わないようにするよ」
「なかなか鋭いな……」
 そう二人の会話に割って入る所長。
「危ないから下がっててもらえると助かる」
 そうレオンハルトは彼の肩に手をかける。
 しかし所長はその手を払う。
「所長?」
「つまらん、本当に、つまらん、さして知恵を絞らんかったくせに、運だけで最悪の事態を回避しおった」
 突如所長の口調、そして纏う雰囲気が変わった。
「ん? それとも我が……」
「何を言って……」
「所長?」
 そう京子、サヤも異変を感じ取る。
 その瞬間、所長は自分の持っていたトランクを無造作に投げ捨てた。
 そのトランクの蓋が勝手に開く。
 そして、その光景を目の当たりにして、その場にいる人間全員が言葉を失った。
「ひ、ひどい……」
 そこに詰め込まれていたのは、ぐしゃぐしゃにひしゃげられた、男の死体、そしてその男の顔は、目の前の所長にそっくりで。
「蘿蔔! 目を閉じろ」
――無理です、そんなこと
 だって見えてしまうのだから。
 あわてて目を閉じるレオン。しかし、スナイパーがその視界を閉ざすということがどのようなことか。それを身を以て知ることになる。
 その瞬間、所長の拳の形が変わり。
 ガデンツァの攻撃がレオンハルトの肩口を切り割いた。
「所長何を!」
 サヤは反射的にライブスフィールドを展開。
 京子は銃を向け、アンジェリカもエクスキューショナーを構える。
「不遜な」
 その瞬間、足元から水が沸き立ち腕や足を攻撃、武器を取り落す面々、
「そう急くな。脅かしただけじゃ」
 次のそしてその水は所長の手元に戻り、赤い結晶となって滞空する。
「我は褒め称えておるのだぞ、その未熟ながらよく我の策略を看破。いやこれは偶然なのだから避けたというべきか」
 ほとばしる霊力、所長の姿が徐々に変化していく。
 そう、ガデンツァの姿に。
「格が……違う」
 その場にいる全員が一瞬で覚った。
――何者ですか……
 蘿蔔が問いかける。
――すみちゃんをいじめて遊んだでしょう! あなたはルネさんの何なんですか
「ルネは我が兵の名じゃな、本来であれば」
「な……」
 蘿蔔は言葉を失った。
 そんなリンカーたちも尻目に、ガデンツァは謳うように話を始めた。
「可哀そうに、今回は博打が大外れじゃな。魔法耐性の高いルネ二体はあちらに送り込んである。そこに魔法使いが二人、そして一人は医者……だったかの? スナイパーが独り、前衛もなしに孤軍奮闘、まぁ模倣に特化させたから戦闘力はさほどでもないが」
 全員が青ざめた。
「そしてルネに対して説得力のある札はこちらに来ておる」
 そう言い全員を見渡すガデンツァ。
「いや、暇じゃから語って見せただけじゃ、もうすぐ戦闘も終わるのう、あ、死んだ。ゲームクリアおめでとう」
 その瞬間、急激に霧が晴れていく。あっという間に空に晴天が広がった。
「本来であれば、ロクトかヨシュアが来ると思っていたが、まぁよい。我は暇する。ではの」
 その瞬間ガデンツァは砕け散り、後に残ったのは水晶と、所長の死体だけだった。


第四章 混沌を呼ぶもの
 調査局内は荒れ果てめちゃめちゃになっていた、すでに息を引き取った二人の亡骸と、涙を流すヨシュア、苦しそうに呻くロクト。
 その中心で全身にひびの入ったルネが二体横たえられていた。
 その口が開く。
『澄香よ、聞きたいことがあるらしいのう』
 その声に澄香は一瞬驚いたが。すぐに気を持ち直し澄香は言葉を返した。
「わざわざお越しいただきありがとうございます」
 ルネの胸の上に澄香はオダマキの花束を投げ捨てる。
「オダマキか、花言葉は」
「断固として勝つ」
 澄香が言葉を継ぐ。
「確かにそれもあるが、他にもあってのう、愚かという意味も持つ、五月の誕生花じゃな」
 澄香は歯を食いしばった。
「で? ゲームに勝った感想はどうじゃ? よかったのう、ヨシュアは助かった。お前たちの勝利じゃ」
「……水晶の姫君とは縁がある身ですが、看護師ルネさんの際にいらした方のお名前を伺いそびれまして」
 澄香は意を決してその言葉を伝える。
「わらわ様と呼んでいますが、失礼なので。うかがっても?」
 その言葉にその愚神は笑いながら答えた。
「わが名はガデンツァ。混沌の十三騎が独り。『終末を奏でるもの』ガデンツァじゃ」
――わらわ、ではなかったのですか?
「感情が高ぶると出てしまうのじゃ、気にするな、まぁ一人称などなんでもよい。重要なのは、存在意義じゃ」
 そう言い放ち、ガデンツァはその場にいる全員をあざけるように笑った。
「ちなみに赤いオダマキの花言葉は心配して震えているじゃ。お前たちにはぴったりじゃの! はははははは」
 その瞬間砕け散るルネ。そして構築の魔女がだるくなった腕でカーテンを開けると、快晴の空が見えた。

エピローグ

 あの後すぐに連絡網が回復、緊急搬送されたロクトの付添人として沙耶とクラリスが乗り込んでいた。
「今回のドロップゾーン。規模がかなり大きいわねぇ」
「ええ、そうね……」
 ロクトはかすれた声で答えた。
 クラリスと沙耶は顔を見合わせる。意を決したようにロクトに告げた。
「こんな時でごめんなさいねぇ、あまり子供たちにはきかせたくなくて」
 隣にはクラリスも座っていた。
 その二人を見て、ロクトは微笑む。
「トリブヌス級よねぇ、ガデンツァって子は」
 ロクトはその言葉に頷く。ロクトも同じ見解だった。
「それにしても。いくら何でも、遥華ちゃんのスケジュールが筒抜け過ぎよねぇ。
社内に内通者もしくは快く思っていない社員がいるんじゃなぁい?」
「ほんとうに、その通りよ、先日のコンテナの件もあるわ」
 ふがいない、そうロクトは自嘲する。
「遥華さん以外の、全てを疑った方がいいわよぉ。スケジュールを把握出来る立場の社員の内偵をお奨めするわぁ」
 その言葉に含みがあることをロクトは見抜いていた。
「ええ、あの子以外、信用しなくて構わないわ、その代りあの子は疑わないで上げて、たぶんそれが一番あの子を傷つけるから」
 そのまま力尽きたのか、ロクトは眠りの縁へと落ちていく。
 沙耶は彼女の言葉の意味をかみしめながら容態が急変しないこといのり病院へ向かった。

 翌日、リンカーたちは棺桶の前に立っていた。
「貴方達の無念はきっと晴らすからね」
 そうアンジェリカが告げると、その場にいる全員が祈りをささげ、アンジェリカははレクイエムを歌った、 
 死者八名、生存者一名。決して勝ったとは言えない結果が、リンカーたちの胸を締め付けた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • いつも笑って
    九十九 サヤaa0057
    人間|17才|女性|防御
  • 『悪夢』の先へ共に
    一花 美鶴aa0057hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命



  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
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