本部

【神月】連動シナリオ

【神月】女神の糸玉は尽きた

白田熊手

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/27 18:40

掲示板

オープニング

●ロンドン某所の洋館
「つまり……」
 執務室の大きな机に頬杖を突き、セラエノ幹部の女は直立する男に冷たい目を向ける。
「マルチン博士のオーパーツはHOPEに奪われた……そういう事ね?」
「まあ、そうと言えなくもないかと……」
 紫の派手なマントを羽織った男が言い訳じみた口調で言う。女は小さな溜息を吐いた。
「ロイ……他にどんな言い方があるというの?」
 穏やかだが棘のある声。ロイと呼ばれた男は遅まきながら気付く。下手な返答は命取りだ。
「その……どんなオーツパーツかも分かりませんでしたし……戦術的撤退と言うやつで……」
「戦術的撤退?」
「つまりその……戦力の温存です」
「へぇ?」
 女の口の端が上がる。
「連れて行った部隊の、半数を失ったのに?」
「いや、それは……」
 ロイは言葉に詰まる。所詮言い訳出来る状況ではない。
「いいわ、過ぎた事を言っても仕方がない」
 女はそう言うと、引き出しの中から取り出した資料をロイの前に投げ出す。
「……これは?」
「『短剣』の情報が、ギリシアの同志から寄せられたわ……ロイ、名誉挽回する気はある?」
「も、もちろん……ありますとも!」
「なら、すぐに向かって頂戴」

「ロイ様!」
 部屋を出たロイに小柄なお下げ髪の少女が声を掛ける。
「なんだエミー……何の用だ?」
 ロイは少女に先程と打って変わった尊大な態度で応じた。
「この間の事で怒られたんですか?」
「俺はセラエノ最高の紳士だぞ、あれしきの事で……」
「怒られたんですか?」
 話をはぐらかそうとしたロイを、エミーと呼ばれた少女はぶれずに追求する。
「……つまらん事を気にするな」
「やっぱり怒られたんですね。部隊の人、半分ぐらいやられちゃいましたもんね」
「奴らは引き時を知らんから、ああいう目に合うんだ」
「ロイ様は真っ先に逃げましたよね……私も危うく見捨てられる所でした」
 エミーは恨みがましい目でロイを見る。その視線をまともに受け止められる程、ロイは気の強い男ではない。
「いいかエミー……それは過去の事だ」
「はい?」
「紳士は過去を見ない。昨日ではなく今日、今日ではなく明日を見据えるものだ」
「ちょっと、何言ってるか分からないです……」
「チッ……!」
 舌打ちし、ロイはエミーの顔に女から受け取った資料を投げつけた。
「わぷっ!? 何するんですか!?」
「ギリシアへ飛ぶぞ……今度こそ失敗は許されん!」

●HOPEロンドン支部・ブリーフィングルーム
「最近動きの活発なセラエノだが、また良からぬ動きがあるらしい」
 担当官は集まったリンカー達にそう言うと、机の上に大きな地図を広げる。
「セラエノが向かったのはギリシャ南方の島だ。奴らはその島で、未知の遺跡を発見した様だが……幸い同じ情報をこちらも入手した。その遺跡がここ」
 担当官は右手の人差し指で地図の一点を指す。
「ただ……どうも遺跡には、入り口が二つあるらしい。我々が掴んでいるのは、そのうちの一つ。様々な情報から推察するに、セラエノはもう一つの入り口の情報を掴んでいるらしい。残念ながら、そちらの場所は特定出来なかったが……」
 担当官は左手の人差し指を地図に置き、先に置いた右手の指にくっつける。
「入り口は二つでも、目的地は一つだ。毎度の事で済まないが、急いで現地に向かってくれ。連中と競争だ」

●遺跡案内
・遺跡には二つのルートがあります。一つは女神ルート、もう一つは牛ルート。
・二つのルートのどちらかを選んで下さい。プレイングで意見が割れていた場合、多数決で決定します。
・選ばれなかった方のルートは、ロイ率いるセラエノ特殊部隊が攻略します。
・どちらのルートを選んでも部屋1~3までは同じ構成です。
・各部屋の扉は破壊可能ですが、それなりの時間が掛かります。

◇第一の部屋
・入り口には『砕けぬものが鍵である』と記されています。
・中には扉が一つと三枚の石版。扉には石版がはまる位の窪み。
・石版にはそれぞれ『八つのダイヤモンド』『七人の少女』『四つの盾』の絵が描かれています。

PL情報:どれか一つの絵を窪みにはめた時点で、残りは崩れ去ります。

◇第二の部屋
・入り口には『完全なものが鍵である』と記されています。
・入ってきた扉の反対側には鍵穴のある扉が一つあります。
・壁には『368』と刻まれた鉄の鍵。『496』と刻まれた青銅の鍵、『78』と刻まれた白銀の鍵が掛けられています。

PL情報:どれか一つの鍵を鍵穴に差し込んだ時点で、残りは崩れ去ります。

◇第三の部屋
・入り口には『白を捧げよ』と記されています。
・部屋の中央には水晶の塔が立っています。
・部屋の三方にはくぼみが有り、奥にオーパーツと覚しき発光器があります。
・発光器の前には大きな水晶の壺が有り、中にそれぞれ赤・黄・青の液体で満たされています。
・壺の下にはスイッチが有り、壺を取ると発光器の光は消えてしまいます。

・略図
■■■■↓■■■■
■■■■赤■■■■
扉□□□□□□■■
■■□□□□□■■
→黄□□塔□□青←
■■□□□□□■■
■■□□□□□■■
■■■■□■■■■

■:石壁
□:床
→↓←:発光器(矢印は光の進む方向)
赤黄青:色水の入った壺

◇第四の部屋
・部屋の入り口には、女神ルートでは『純潔なる男子の口付けに扉を開く』と記され、牛ルートでは『純潔なる乙女の口付けが扉を開く』と記されています。
・部屋には扉が一つ。彫刻が施されており、女神ルートでは女神の顔。牛ルートでは牛の顔が彫られています。

PL情報:正しい方法で扉を開けた者には、彫刻が『祝福』を与えた事を宣言します。

◇第五の部屋
・広い部屋です。入ってきた扉の向かいと側面に扉があります。
・側面の扉の前には杖が刺さった台があり。台には『祝福を受けし者、力を合わせよ』と記されています。

PL情報:正しい方法で杖を抜いた場合、第六の部屋に続く扉が開きます。

◇第六の部屋
・部屋中央の台に短剣が突き刺さっています

PL情報:短剣はオーパーツ『ホド』です。短剣を引き抜くと遺跡は崩壊を始め、同時に外への出口が開きます。

解説

●目標
・遺跡に隠されたオーパーツの奪取。

●登場

『探し手』のロイ:
セラエノ特殊部隊を率いるソフィスビショップ。性格に多少難はありますが腕は確かです。
 以前HOPEのエージェントと交戦した時には逃走に『マジックブルーム』を使用しました。
 以下はその時の依頼です。ロイが登場しているという事以外、今回の任務と関係ありませんが、ロイの戦闘力など参考までに。

『愛する者の胸に眠れ』
http://www.wtrpg0.com/scenario/replay/1590

エミー:
ロイの副官的なソフィスビショップの少女です。ロイより腕は落ちますが、それでも『リサールダーク』を使える程度の実力はあります。

セラエノ特殊部隊:
 ロイ直属の部下です。
 シャドウルーカー3人にソフィスビショップ1人。腕はそれなりです。
 シャドウルーカーは『ジェミニストライク』『毒刃』。ソフィスビショップは『ブルームフレア』『銀の魔弾』等を駆使して戦います。

●状況
・セラエノは遺跡に眠る『ホド』の短剣を狙い、ギリシャ南部の遺跡にやってきています。今回の任務は、セラエノより先に短剣を入手することです。
・遺跡の入り口は二つあり、それぞれに入り口には女神像とミノタウロス像が佇んでいます。皆さんはどちらか一つのルートを選んで攻略して下さい。プレイングで意見が割れていた場合、ルートは多数決で決定します。
・古い遺跡ですので、大きな衝撃などを与えると天井や壁が崩落する可能性もあります。
・遺跡の中には幾つかのリドルが配置されています。解かずに扉を破壊して進む事も可能ですが、時間が掛かる上、前述の通り遺跡が崩れる危険もあります。
・目的はあくまで短剣を入手する事です。ロイ達も目的は同じですので、戦場や勝敗に拘ったりはしないでしょう。

・PL情報というか、シナリオの都合なのですが、選ばなかったルートの所在は知らないという設定でお願いします。

リプレイ

●女神の迷宮
「オーパーツ。何に使うのかな? 何にせよ、セラエノには渡せないよね」
 女神が見つめる迷宮を前に、皆月 若葉(aa0778)は場にそぐわぬ弾んだ声で言う。
「……別ルートから侵入しているらしいな……気は抜くな」
 その様子を、ラドシアス(aa0778hero001)は軽く窘めた。セラエノもそうだが、遺跡にどんな仕掛けがあるかも分からないのだ。
「分かってるよ……でも、やっぱ本物の遺跡は迫力が違うね!」
「……言ったそばからそれか」
 ラドシアスは嘆息する。だが、遺跡に入れば自ずと皆月の気も引き締まるだろう。
「ふむぅ、セラエノとやらも本当によく見かける……旅費は大丈夫なのでござろうか?」
「あっちの心配してどうするのよ……もう、しっかりして頂戴」
 こちらでは、ピントのずれた事を言う小鉄(aa0213)に稲穂(aa0213hero001)が呆れている。
「小鉄さんは、以前にもセラエノと争ったことがあるのですか?」
「うむ、何度かござるな――」
 会話を聞き止めた笹山平介(aa0342)にそう問われ、小鉄はセラエノが関わった幾つかの事件の事を話す。
「その折は、魔法の箒で逃げられてしまったでござるが……」
「へぇ……そんな事があったのね……」
 箒で逃げたという男の話を、柳京香(aa0342hero001)は興味深げに聞く。
「『マジックブルーム』か……腕利きだね」
 一方、ソフィスビショップのハイドラ(aa3903hero001)は少し難しい顔をした。『マジックブルーム』は彼女にも使えない高位の術だ。それを使いこなすのだから、間抜けに見えても油断は出来ない。
「腐ってもセラエノですからね」
 小鉄と共に事件に関わった姚 哭凰(aa3136)も頷く。頭は悪そうだったが、正面から戦えば苦戦は免れないだろう。
「じゃあ今度は私達が逃げる番ですかね」
 本心かどうか、笹山は笑顔のまま弱気なことを言う。
「『セラエノ』か……ふん、今度も撃退してやろう」
 小鉄や姚と共に件の男と対峙した賢木 守凪(aa2548)は不遜な自信を見せる。
「今回はぁ、倒すんじゃないからねぇ? 早く見つけないとぉだよねぇ」
 相棒のカミユ(aa2548hero001)は相棒のずれた意識を冷静に正した。目的はオーパーツであって、戦闘ではない。
「先にオーパーツを発見すれば、戦わなくても目的を達成出来ますね」
 姚の英雄十七夜(aa3136hero001)もカミユの意見に同意した。理想だが、上手くいくかは神のみぞ知る所だ。

●第一の部屋
「わたしは、暗いのも割と平気だけどね」
 そう言いつつも、ランカ(aa3903)は持ってきた照明で遺跡の中を照らした。遺跡内部に光源はなく、照明を照らしてさえ薄暗い。
「稲穂、足元大丈夫?」
「何とか……」
 稲穂は小鉄の袖を掴み、慎重に歩を進めながら柳に応える。
「暴れたら壊れそうな気配が、ちと不安でござるな」
「壊さないでよ、お願いだから生き埋めはやめて」
(小鉄さんは……忍者だから、こういうのもすぐに目が慣れるのかしら)
 柳も笹山もそういうわけにいかない。彼らが目印にするのは、照明を受け闇に白く浮かぶカミユの姿。
「すみません♪ つい目で追っちゃいますね」
「こう暗いと……あんたの存在がすごい助かるわ」
「んん、白いのを頼られるのはいいけどねぇ。後ろにいると危ないかもよぉ?」
 カミユの笑みに、笹山は謎めかしく微笑み返した。
「中が迷路じゃなくて良かったよ」
 念のため磁針を持ってきていたランカがこぼす。もし迷路だったら、どれほど時間が掛かったか分からない。

 程なく隧道は尽き、一行は玄室の様な空間に到達した。
「なんの空間かねぇ?」
 カミユは辺りを見回した。突き当たりに扉。恐らくここから先へ行くのだろうが、固く閉ざされている。鍵穴はない。その代わり窪みが一つ。側には三枚の石版が置かれ、それぞれ『八つのダイヤモンド』『七人の少女』『四つの盾』が描かれている。窪みは丁度この石版と同じ大きさだ。
「窪みに石版を嵌めろと言うことでしょうか?」
 石版を眺め、十七夜は首を捻った。
「え、謎? ……なぞ……」
 稲穂はあからさまに動揺する。謎解きは控えめに言って得意でない。
「解けなかったら壁をぶち破るしかないな」
「その方が手っ取り早そうでござるな」
「慎重にやってよ……?」
 守凪と小鉄の解答(物理)に稲穂は一抹の不安を覚えながらも、反対はしない。根本的には同じタイプなのだろう。
「入り口の言葉がヒントかな?」
 皆月はそう言って首を捻る。入り口には『砕けぬものが鍵である』と記されていた。だとすると――皆月はダイヤの石版を手に取る。
「砕けぬ……ダイヤモンド?」
「砕けないっていうとやっぱりダイヤモンド?」
 ランカもその意見に賛成の様だ。だが、二人の英雄は異論があるらしい。
「……絶対に砕けない訳でもないな」
「硬いものほど、割れやすかったりもするけどねぇ」
「うっ……」
 自分の英雄から駄目を出され、二人は言葉に詰まる。だが、その時意外な方面から声が上がった。
「砕けぬということは、割れぬと捉えれるでござるな……?」
「え?」
 突然発言した小鉄に稲穂は思わず声を上げる。
「つまり割れぬ数……七人の少女が正解ではござらぬか?」
「なるほど! 割れないに置き換えるのか」
 沈黙していた皆月は歓声を上げ、稲穂は逆に言葉を詰まらせた。
「……嘘、こーちゃんが真面目に考えてるなんて」
「拙者を何だと思ってるでござるか!?」
 憤慨する小鉄だが、答えには一同納得。時間を掛けては居られない。小鉄は少女の石版を窪みに嵌め込む――扉は古代の物とは思えぬ程滑らかに開いた。
「やりましたね♪ 流石です♪」
 見事な解答を示した小鉄を笹山はハイタッチで迎える。小鉄は満面(マスクだが)の笑みでそれに応えた。
「楽勝でござるな!」

●第二の部屋
 小鉄の活躍により第一の部屋を突破した一行は、程なく次の部屋に到達する。
 この部屋にも扉。先程とは違いちゃんと鍵穴がある。その側には、『368』と刻まれた鉄の鍵『496』と刻まれた青銅の鍵『78』と刻まれた白銀の鍵が掛けられていた。
「今度も入り口の言葉がヒントだよね?」
 入り口に書かれた言葉は、『完全なものが鍵である』。ランカは三つの鍵を手に取った。鉄、青銅、白銀――ハイドラは首を横に振る。
「どれも完全な金属とは程遠いねぇ」
「そっか。わたしは、武器を打つなら鋼が好きかな」
 だが答えではないだろう。ランカは小鉄に目をやるが――沈黙。しかし、今回は姚に思い当たるものがあった。
「数字の方ではないでしょうか? 3つの内、496は完全数です」
「……完全数?」
「その数とその数を除いた正の約数の総和が同じになる数字……だな」
 耳慣れぬ言葉に皆月は疑問を発する。ラドシアスは簡単な説明をしようとするが――。
「……??」
 今一ピンと来ないらしく、皆月の頭の上には?を浮かべている。
「例えば6、この約数は……いや、止めておこう」
 仕方なくラドシアスは詳しく説明しようとしたが、途中で面倒になって諦めた。それより時間も無い。姚は早速鍵を鍵穴に差し入れる。すると、今度も扉は音もなく開いた。正答を確信し、姚は微笑む。
「よかった、開きましたね」

●第三の部屋
「明かり――?」
 前方から漏れてくる光に、守凪は意外の感を漏らす。陽の届かぬ遺跡の中。明かりと言えばランカの持つ照明だけだ。だが今前方からは、それより目映い光が漏れ出している。
「目的のオーパーツでしょうか?」
 十六夜が若干の期待を込めて言う。陽光には見えない。照明など有る筈のない古代の遺跡にそんな光があるとすれば、オーパーツだろう。
 だが、明かりの源はまたしても小さな部屋。入り口には先程と同じ様な文字で『白を捧げよ』と記されていた。
「またか」
 守凪は溜息を吐く。部屋の壁には三方に窪み。光はそこから発生していた。そして向かいには扉。光源もオーパーツの様だが、ここはまだ目的の部屋ではなさそうだ。
「解くしかないよねぇ」
 カミユは楽しそうに言う。扉を破壊して崩落を引き起こすリスクより、謎解きの方がマシだ。エージェント達は仕方なく、改めて部屋を調べる。
 光は赤、黄、青の三色。オーパーツらしき発光器の光は無色だが、その前に置かれた大きな水晶の壺の中に、それぞれ赤、黄、青の液体で満たされ、それによって光線の色が変じている。壺を取ると光は消えた。下にスイッチがあるらしい。三筋の光は中央の塔に集まる仕組みになっていた。
「白ってなんだろう?」
 入り口に書いてあった言葉の意味を考え、ランカは首を捻る。
「生贄か何かかねぇ」
 そう言うとハイドラはちらりとカミユに目を向けた。
「嫌だよぉ?」
 カミユは笑いながら身を引く。無論本気で実行する気は無い。解けないなら、扉をぶち抜くしかないが――。
「……これ分かったかも! 光の三原色が鍵だね!」
 物理解答を提出する前に、今度は皆月が声を上げた。
「光の三原色……でござるか?」
「うん。光には赤緑青を均等に当てると白くなる性質があるんだ。黄は赤と緑の混合だから……」
 皆月はそう言うと、赤い液体の入った壺を窪みから退ける。赤光が消え、黄と青の光だけが塔に差す。光は水晶の中で混ざり合い、白い光となる。光が塔を満たす。そして一瞬の後、白光を孕んだ塔は地に沈み、代わりに扉がゆっくりと開いた。
「上手くいったね!」

●第四の部屋
「まだあるのか」
 新しい部屋の入り口に、またも刻まれている謎の文言に、ラドシアスはウンザリして溜息を吐く。またしても目的のオーパーツはなく謎かけ。古代人は余程暇だったらしい。
「でもこれはぁ謎っていうかぁ」
 入り口に刻まれた言葉は、『純潔なる男子の口付けに扉を開く』。そして、部屋の扉にはキス待ち顔の女神の意匠。
「カミナぁ純潔だってぇ?」
 そう言ってカミユは目を守凪に向ける。
「……」
 沈黙。守凪もカミユを見返した。エージェント達――特に男共は互いに視線を送った。小鉄、皆月、ラドシアス……『純潔』の有資格者は?
「口付けって、なんだかお伽噺に出てきそうだね」
 ランカの無邪気な一言すら、奇妙な沈黙をもたらす――だが、その沈黙を笹山の明るい声が破った。
「今回色々考えすぎちゃって私はダメでした♪ ですのでここは私が引き受けましょうか♪」
「笹山殿――」
 意外な立候補に軽い驚きが走った。だが、それ以上にほっとした空気が流れる。正直この話題はきつい。余り長引かせたくはなかった。
「すまない平介――」
「皆さんの大事なはじめては大事な人の為にとっておいてください♪」
 守凪の言葉の後、笹山は扉が開くようにと願いながら女神に口づける。瞬間、笹山の体が淡い光を放ち――甘い声が響いた。
『――汝に祝福を授ける』
 声が消えた時、扉は女神の意匠もろとも消滅する。
「やった♪」
 開いた扉の向こうに見えた広い空間に、笹山は歓声を上げた。

●第五の部屋
「『祝福を受けし者、力を合わせよ』……ですか」
 部屋の中央。杖の刺さった石台に書かれた文字を読み上げ、笹山は首を捻る。
「女神の彫刻は、祝福を授けると言っていましたが……」
 笹山は試みに杖を引いてみるが、びくともしない。
「扉がひとつ多いね。担当官が言ってた別の入り口も、この部屋に通じてるのかな?」
 ランカは部屋を見回して言う。側面に大きな扉。自分たちが入って来たのと反対側にもやはり扉。今までと違い、この部屋だけ三つの扉がある。
「セラエノも俺達と同じ課題をクリアして、平介と同じ祝福を受けたのかもしれないな」
 だとすれば力を合わせるという意味は――守凪は笹山と共に杖を引いてみたが、やはり抜けない。
「残念だが、これは『祝福』を受けた者が力を合わせなければ抜けないようだ」
「セラエノを待ちますか?」
 十七夜の言葉に守凪は頷く。
「杖を抜いてしまえばあとは……早い者勝ち、だな」

「モー! 牛とキスとか最悪ですよ!」
「減るもんじゃないだろ! ガタガタ言うな!」
 小一時間程経ち、エージェント達が退屈し始めた頃、漸く向かいの扉が開く。現れたのは紫のマントを付けた長身の男と、小柄なおさげの少女。完全に油断している様で、不意打ち出来そうだが――取り敢えず迷宮の踏破が先決だ。
「遅かったねぇ」
 カミユがのんびりと声を掛ける。
「な、なんだお前ら!?」
 どうやらこちらの存在は完全に想定外だったらしい。紫マントはビクリと身を強張らせる。その顔に、小鉄は見覚えがあった。
「む、お主、どこかで見た顔でござるな? 確か……うぬ……そう、探し手のフォイとかいう」
「ロイだロイ! セラエノ最高の紳士!」
 ロイは詰まらない訂正を入れる。その尊大な様子に、十七夜と姚も彼のことを思い出しす。
「……あぁ冷蔵庫の時の方々ですね」
「ん、冷蔵庫?」
 きょとんとした顔をするロイ。あの時直接戦ったのは姚達だけで、それもリンク後の姿だ。分からないのも無理はない。
「そう、冷蔵庫。スコットランドのマルチン博士がわざわざ暗号まで使って隠したのがオーパーツの冷蔵庫でした」
「マルチン博士……貴様らあの時の輩か! 貴様らのせいで、お陰でこっちは首が危ないんだぞ!」
 ロイも漸く思い出し、怒りに声を荒げる。
「他に入ってたのは紫のクロッカスと奥様宛のメモでしたよ」
「うふふ、あの時のピザは美味しくいただかせてもらいましたよ」
 そんなロイを、姚達は更に煽る。
「なにぃ……だが、そうか」
 だが、ロイはなぜか不敵に笑った。
「ふふ、オーパーツが大したことのない物だった言うことは、私の失態も大した事ではないと言うことだな! ピザも料金払ってないし……よかったァ!」
「情けないこと言わないで下さい……」
 ガッツポーズまで取るロイに、少女が失望した声で言う。
「その上……丁度良い、お前らをぶちのめして名誉挽回だ!」
「ちょっと待って下さい……オーパーツは要らないのですか?」
「むっ……どういうことだ?」
 戦闘態勢に入ろうとしたロイを笹山が押し止める。お人好しにも、ロイはそれに耳を傾けた。

「んー……この杖を抜いて道を開くには、ウチのエミーとそっちのメガネが協力しなきゃダメって事か?」
「エミーさんも祝福を受けたのでしょう? 妥当な解釈かと」
 笹山の言葉にロイは渋い顔を見せる。だが背に腹は代えられない。実質最後のチャンスだ。恨み有る敵と組むのは業腹だが――。
「……仕方ない、『短剣』の方が重要だからな」
「短剣……ですか?」
「あ……いやいや気にするな。一時休戦、了承したゾ」

●第六の部屋
「失礼します……ここは力を合わせましょう」
「あ、はい……」
 笹山はそう言ってエミーに微笑む。『純潔』の祝福を受けただけあって、異性には馴れていないようだ。それを知ってか知らずか、笹山は杖を握るエミーの手に自分の手を重ねる。
「え?」
 驚いた顔をするエミーに、笹山はもう一度にっこり微笑んだ。そして――。
「ごめんなさい」
 エミーを逃がさぬようその手をギュッと掴み、笹山は杖を勢いよく引き抜く。と、同時に柳とリンクし、エミーに向かって『疾風怒濤』を撃ち込んだ。
「ちょ……!?」
 手を掴んだ不自然な体勢から放たれた片手での三連激。エミーは二太刀までそれを躱したが、最後の一発を貰ってしまう。
「いっ……たぁい!」
 重ねた手の中で杖が崩れ落ちた。そして扉が開く。その先に見えるたのは一本の短剣。ロイは顔を輝かせた。
「当たりだぞエミー!」
 セラエノの注意が短剣に向いた――その瞬間。
「いきます!」
 姚は味方に合図を送り『フラッシュバン』が発動させる。強烈な閃光がセラエノ部隊の目を焼いた。
「うぉ!? き、汚い! HOPE汚い!」
 ロイを含めセラエノはこれを真面に食らう。オーパーツまでのレース。そこに半瞬の差が生まれた。それを逃さず、小鉄は短剣に向かって向かって疾走する。閃光に怯みながらも、セラエノのシャドウルーカー三名がその後を追った。
「は、早い!?」
 だが、小鉄の早さは圧倒的だった。残像すら見えそうな速度で、あっという間に三人は振り切られる。
「拙者、今最高に忍者でござる!」
「くそっ、こっちはクビが掛かってるんだ!」
 このままでは短剣を持ち去られるのは確実。ロイは咄嗟に『重圧空間』を発動させ、小鉄の移動力減殺を試みる。
「なんとっ!?」
 腐ってもセラエノ。ロイの思惑通り小鉄の移動速度は大幅に減少したが――。
「ロイ様! 我々も体が……!」
 『重圧空間』は対象を選べない。その効果は小鉄を追う味方にも及んだ。
「しまっ……いや、時間は稼げた!」
 動揺するロイを尻目に、皆月は小鉄とセラエノの間に割り込み『トリオ』を放つ。
「簡単には渡さないよ……っと」
 射線は確実に敵を捕らえていた。だが、よりにもよってこの時、皆月の銃は二連続でジャムる。
「嘘でしょ、グロリア社ぁ!?」
 結局当たったの一発だけ。それに続き、笹山に斬られたエミーも復讐に転じる。
「女の子をいきなり斬るなんて……だから純潔なんですよ!」
 怒りにまかせて放つ『リサールダーク』の怨念に、笹山の意識は闇に沈む。
「あ、あらら?」
「笹山さん!?」
 崩れ落ちる笹山。皆月は慌てて駆け寄る。
 尚もセラエノの攻勢は続く。動きの鈍った小鉄に背後から『銀の魔弾』。だが、これにはランカが割り込んだ。足の遅いランカには、重圧下で魔弾を止めるには体で受けるより無い。が、高い生命力はそれを物ともしない。
「それじゃあ、ここからは競争だね」
 そのまま小鉄とセラエノの間を遮断する。そのランカと並び、守凪も小鉄を追うセラエノに接敵した。
「残念ながら、お前たちにオーパーツを渡すわけにはいかないな」
 追い縋る敵を『一気呵成』に斬り付け、その進路を阻む。打ち倒すには至らないが、敵の進路はほぼ遮断された。

「来ないで下さい!」
 一方、笹山を救出に向かった皆月にエミーは『銀の魔弾』を射出する。だが、手元が定まらないのか、魔弾は見当違いの方向へ飛ぶ。反対に、皆月を援護する為に放たれた姚の『トリオ』は正確に遺跡の天井を打ち抜き、ロイやエミー達の頭上を崩落させた。
「おおいっ!? あの女、可愛い顔してなんて事を!」
 生き埋めこそ免れたが、ロイの周囲は瓦礫で埋まる。その隙に皆月は笹山に駈け寄り、即座に銃の台座で彼の頭を殴った。
「笹山さんごめん!」
 鈍い音。だが、それで笹山の意識が戻る。

●ホド
「『咲き焦がせ星血の華』……ブルームフレア」
 ランカの放った炎がセラエノを阻む。援護を受けた小鉄はほぼ独走状態で短剣へと辿り着く。
「貰ったでござる!」
 手に取った短剣を小鉄は躊躇なく引き抜く。
「小鉄さんナイス!!」
 笹山を起こした皆月が歓声を上げる。だが、栄光は破滅の始まりでもある――突然起こる激しい振動。それは今まで壁にしか見えなかった遺跡の一部を崩し、暗い遺跡に太陽への出口をうがった。
「これは……?」
 姚が緊張した声を上げる。振動は出口を穿ったに留まらず、尚も遺跡全体を揺らす。短剣を抜いたことによって、役目を終えた遺跡が崩壊を始めたのだ。
「崩れるのか……お前たちも早く脱出しろ!」
 守凪は戦闘を中止し目の前のセラエノ達に叫ぶ。小鉄を追っていた三人は賢木の言葉に一瞬顔を見合わせる。が、やはり命あっての物種。言われた通り出口へと走った。
「走れますか、笹山さん!」
 皆月は目覚めたばかりの笹山に肩を貸す。
「いたた……ええ、大丈夫です。ロイさん、あなたたちも早く脱出を!」
 笹山は半ば瓦礫に埋まったロイ達にそう叫ぶと、皆月と共に出口で向けて走り出した。
「貴様らの指図は……」
「そんな事言ってる場合ですか!? 私は逃げますよ!」
 エミーはそう言うと、ロイを置いて瓦礫を抜け出す。
「あ、こら!」
 ロイもそれを追って瓦礫を抜ける。だが、ロイ達は致命的なことを忘れていた。
「体が……重いです!」
 ロイの『重圧空間』はまだ生きている。ロイ自身は重圧の影響を受けないが、エミーともう一人のソフィスビショップは崩落から逃れられそうにない。
「生き埋めは嫌です~!」
「チッ!」
 いったんは走り出したロイだが、一瞬躊躇しエミー達の方へ後踵を返す。このまま外に出てもエージェント達に袋だたきだろう。ならば――。

 一方、やはり『重圧空間』の影響を受ける笹山達にも余裕はない。全力で走ってはいるが、半減した移動力では――。
「間に合わない……!?」
「笹山殿、皆月殿!」
 短剣を抱えた小鉄の前で、皆月と笹山の姿は瓦礫に消えた。全員の頭に最悪の予想がよぎる――だが。
「いてて……」
「……皆月さん?」
 聞き覚えのある声に姚は目を向ける。そこにあったのは、崩れ去った遺跡から頭だけを地上に出す皆月と笹山の姿。
「無事だったか……」
 守凪が息を吐く。リンカーはライヴスを解しないダメージは受けない。瓦礫に埋まっていても、命に別状はあるまい。
「はは……この姿が無事と言えるなら」
 斜面からキノコの様に頭を出し、笹山は生き埋めとは思えない程朗らかに笑う。
「大丈夫、この位なら掘れるよ」
 そう言うと、ランカは共鳴を解いて獣人の姿に戻る。獣人の彼女には大きな爪がある。掘削などは出来ないが、崩れた瓦礫をどかすには便利だ。
「……ランカ殿、その爪は本物でござろうか」
「そういうのは仕事終わってから! ……でも私も気になるわねっ」

「生き埋めになるとは思わなかったよ」
 怪我を負った者を医療キットで応急処置しながら、瓦礫から助け出された皆月は独り言ちる。一緒に逃げたセラエノも、最早戦意喪失しているらしく、大人しく皆月の治療を受けた。彼らは何れHOPEに引き渡さねばならないだろう。手に入れた『短剣』も気になるが――。
「しかし短剣でござるか……苦無と比べて使い勝手はどうなのでござろうか」
「持って帰っちゃだめよ? ……だめだからね?」
 熟年夫婦の様な二人のやり取りを横目に、守凪は短剣を眺める。
「しかし……これはどんなオーパーツなんだろうな?」
 過去から掘り出された短剣がどんな『栄光』を運ぶか。それは未来の話となるだろう。
「まるで冒険してるみたいだったわね……」
「うむ」
 崩れた遺跡を前に、小鉄は稲穂の述懐に短くこたえた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213

重体一覧

参加者

  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • 薫風ゆらめく花の色
    柳京香aa0342hero001
    英雄|24才|女性|ドレ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
    機械|19才|男性|生命
  • 真心の味わい
    カミユaa2548hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
  • 『成人女性』
    姚 哭凰aa3136
    獣人|10才|女性|攻撃
  • コードブレイカー
    十七夜aa3136hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 植物園の捕食者
    ランカaa3903
    獣人|15才|女性|防御
  • エージェント
    ハイドラaa3903hero001
    英雄|23才|女性|ソフィ
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