本部

夢を喰らう者

ふーもん

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/27 19:05

掲示板

オープニング

「子供達の皆ー! 将来は何になりたいのかなー?」
「パイロットー!」
「お嫁さんー!」
「Jリーガー!」
「歌手ー!」
 可愛らしい子供達を前にして先生は束の間の安らぎを得る。ここはとある小学校の1年3組。つまり低学年の児童達が集まっているまだグレる事を知らない無垢なる感情が渦巻いている――そんな場所だ。1人1人の児童はこれまた目を輝かせんばかりに己の夢を将来の自分に託す。まるでタイムカプセルを心の内に仕舞い込む様にして。
 だが、そんな中1人の少年が俯いていた。いや、少年と呼ぶにはまだあどけなさすぎた。その児童は取り分けて目立つ訳もなく、元来大人しい性格をしている。しかし先生はそこに何か不吉の影の様なものを幻惑として見た様な気がした。
「どうしたの? 元気ないね。君の夢は何? ほら、俯いてばかりじゃ先生にも分からないでしょ?」
 勇気を振り絞ってまだ大学に出たての新人女性教諭は声をかける。何事も話しかけてみなければ始まらない。
「先生――」
「なあに? ほら、頑張って! 君の夢は何?」
「僕? 僕には夢なんかない!」
 いきなり必死の形相でその児童は吠えた。犬の遠吠えなんて生温いものじゃない。それは絶叫だった。何が起きたのか瞬間、分からなくなってしまった若い女の先生は真っ白になってしまった頭の中で――こういう時こそ冷静にと、教師としてのマニュアルを組み立てていく。幸い、周囲の児童達は子供ながらにはしゃぎまわっていてこの1人のクラスメイトになんか目もくれない。その状況が状況だけにありがたかった。
「――そんな訳ないでしょう? 皆、ちゃんと夢があるって答えてくれたじゃない。勇気を出して君の夢を先生に教えて」
「だって僕の夢は喰われちゃったんだよ!」
「何に?」
「お化けに。いや、でもねでもね! あれはお化けじゃなくて怪物だったかも! 嘘じゃないよ! ホントだよ」
 はぁー。と、深い溜め息。この手の話は小学生低学年にはよくある事。分かってはいたのだが、実際相手にすると辛い、しんどい、疲労困憊。だが、先生はめげなかった。女教師としての意地とプライドだ。
「どんなお化け? それとも怪物? 夢を食べられちゃったのはどうしてかな?」
「――きっと僕が怪物と取り引きしたからだ。だから僕の夢は喰われちゃったんだ!」
 取り引きと聞いた瞬間、妙におぞましい光景が女性教諭の脳裏に過ぎった。一体何なのか分からないままそれは雲散霧消した。
「だって僕、自分の夢を思い出せないんだもん!」
 幼き少年は勝手気儘に話を続ける。先生は少しだけ耳を傾ける。
「僕の家のすぐ近くにある神社に怪物はいたんだ! 夜、そこで遊んでたら怪物が現れて僕と取り引きしないか――って、誘ってきたんだ!」
 女教諭にもその神社には心当たりがあった。でも確かその神社は今はほとんど取り壊されて廃屋同然と化しているはずだ。肝試しとしてはうってつけな場所とも言えるが――。
「ダメじゃないの! 夜中にそんな所に出歩いちゃ! ――でも分かったわ。先生がなんとかして君の夢を見つけてきてあげる」
「ホントに!? 絶対だよ!」
 若い女性教諭はニッコリと微笑んで指切りげんまんする。そして脳裏に過ぎった嫌な予感だけにどこか取っ掛かりを覚えた。

「つまり、こう言う事です。その児童は何らかの形で愚神、あるいは従魔かヴィランと接触し自分の夢と引き換えにして一時的にライヴスを捕食されずに済んだ」
 場所はH.O.P.E.東京海上支部。先程の女性教諭の情報源を頼りにして議題はその何者かに向けられていた。もちろん愚神、従魔、もしくはヴィランの仕業であるのは言うまでもない。
 夢を喰らう異形の主。それは迷信の類であればバクをさすのであろうが、事態は現実に起こっている。要するに一刻を争うのだ。
 ――そこに集められたのは6人のエージェント達。
「もしその神社なる廃屋にライヴスを保持している何者かが潜んでいるのであれば、早急に始末しなければ更なる被害者が生まれます」
 つまりそれは最悪の事態の拡大を意味していた。だからこそ、もう一度だけ強い語気で6人のエージェント達の司令官は言いきった。
「出来るだけ速やかに始末して下さい」

解説

 夢を喰らう何者かとのバトルが今回の主体です。主にまだ小学生になったばかりの児童が、その何者かと接触したが為に発覚した今回の事件。
 ライヴスが蔓延したこの世界で一体何者が廃屋と化した神社に潜んでいるのでしょうか? 条件は次の通りです。

 ・もちろん戦闘がメインなのでライヴスを介したバトルになる事は間違いありません。つまり相手は愚神、従魔、ヴィランの様な輩だと思っていて下さい。
 ・敵を倒す前に、他に被害者がいないかを口頭で確かめて下さい。
 ・相手は人々の夢を喰い荒らし、その源がライヴスとしてのエネルギーもしくは何らかの影響を与える少し厄介な輩です。その分、戦い甲斐があるとも言えます。
 ・幼児である少年の夢をキッチリと果たす事を前提にして戦って下さい。少年に夢を思い出させてください。
 ・被害の拡大を防ぐ為、速やかに動く事。時間との戦いでもあります。

 それではPLの皆さんの参加を心待ちにしております。

リプレイ


「子供の訴えがあって初めて判明か」
『これは仕掛けた方が周到と思った方が良いかもしれませんわね』
「ま、心構えとしてはな。油断するつもりもないが」
 キーボードを操作しながらそう言ったのは赤城 龍哉(aa0090)だ。
 場所は駅前にあるネットカフェ。例の事件の情報を得る為にネットを経由してその手の噂話を探る。
 何よりも今回は時間が無い。現場百回でも良いが、あの少年が訴えた様に神社に足を踏み入れた結果、命を長らえる代償に何かを失った類の情報網を模索する。
 英雄のヴァルトラウテ(aa0090hero001)もそれに異論は無い様だ。そしてこの地域に纏わる(特に例の神社の)奇怪な出来事を幾つかキーワード検索する。
 一時間ほど経過しただろうか? 奇妙な文字列が暗幕の様な背景にディスプレイ越しから映った。
 ――あなたの夢も危ない! 廃墟と化した神社に夢を喰らう愚神!?――
 それはとあるサイトだった。そこにはカメラで撮影した画像が何枚か貼られていて、ボロボロに朽ち果てた神社の端々がクローズアップされていた。
「これ――あの神社だよな?」
『そう……ですわね。でも、名称も記載されて無いお寺なんて少し奇妙ですわ』
「それほど知名度の低い神社なのかもな。それか余程古い神社なのかもしれない。もしくは――」
 ――未だに無数の夢を喰らう何者かの手によって、その神社に関わった関係者たちの記憶事抹消された?
 このサイトはその最後の手掛かりとなる記憶の残滓。
 たぶん夢を喰われたこのサイトの管理者である被害者がその『取り引き』とやらに応じた結果、中途半端にサイトだけが取り残され、放置された。
「まだ公に調査依頼が来るレベルまでいってないな――なるほど。こう言う事だったのか」
『でも奪ったライヴスの量が十分なら、被害が一気に拡大する可能性がありますわね』
「ドロップゾーンの余地が出てない分マシか」
 これ以上、情報が混乱しない為にも2人は二言三言、会話を交わして颯爽とネットカフェを後にした。


「夢か……俺のはもう果たせそうには無いな」
『夢が破れたなら新しい夢を探せるけど、奪われたらやっぱり探せないのかな?』
 例の少年から事情聴取する為に小学校の校内に訪れたのは御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)だった。
 場所は校舎の一階の多目的室。誰にも知られる事なく少年と面会するにはうってつけの場所とも言える。
 時刻は昼。例の事件の発端となった被害者の少年は現れた。早速取り引きや夢について詳しく尋ねてみる。
「そうだな、最初に怪物と何を取り引きしたか覚えているか?」
「覚えてないよ。僕の夢だって事くらいしか……。だって僕の夢は怪物に食べられちゃったんだよ!」
「君は何かを望んだからこそ、怪物との取り引きに応じたんだと思う。もしかしたら自分の夢を叶えて貰う為に夢を引き渡したのかも知れん」
「――僕の夢を叶える?」
「まあ、兎に角は取り引き内容を思い出して貰えれば、君の夢を取り戻す手掛かりになると思う」

 事情聴取は終了し、後は仲間との合流前に少年の家族についても調べる為、2人はその家へと向かっていた。
『ねえ、夜に神社に遊びに行くって普通じゃないよね?』
「ああ、両親に問題があって家に帰りたくないのかもな。だとすれば彼の家は家族関係の修復の可能性もある」
『怪物を倒して元に戻っちゃったら嫌だね……今の内に出来そうな事も探してみようね』
 2人は黙々と歩いていった。


「とっさの機転なのかわからんが夢を対価にライヴスの吸引を防ぐとは……子供とは思えん機転の良さだな」
『確かにそうじゃが、童の夢を奪うとはなんたる暴挙じゃ』
「だが、将来の夢ってよっぽどのことがない限り子供はみんなと共有してそうだから完全にわからないというのは……おかしな話じゃないか?」
『確かに……そうじゃな。もしかしたら夢と一緒にそういった気持ちややる気といったものを封じられてるかもしれないのぅ』
「そうして焦れたところでライヴスを奪う……あり得る線だな」
 会話をしているのはリィェン・ユー(aa0208)とイン・シェン(aa0208hero001)だ。しかしそこから導き出した結論はやはりあまり時間をかけるのは得策ではないという事だった。
 2人は情報を集める為に例の少年の小学校にいた。
 時刻は午後2時近く。ちょうど下級生の児童達が帰宅する時間帯だ。その隙を見計らって1年3組の児童が集う校庭へと足を忍ばせる。
 いくつかの班に分かれて帰宅する児童達から聞き込み捜査をする。無論、少年の夢についてである。
「しょうらいの夢? ――みきくんの?」
 少年の名はみきと言うらしい。
「ボクの夢はパイロットだけど、みきくんのはしらない!」
 どこかぶっきら棒にだけどハキハキとした口調でその友達の児童は言った。その他の児童も同様に――
「みきくん? そういえば何だっけ?」
「ボク、わすれたー」
「りか、お嫁さん!」

「収穫無し――か」
『それにしても疲れたのじゃ』
 だが、まだ希望が潰えた訳ではない。
「残るはあの少年、みき君とやらの家族にどうした経緯があって今回の事件――俺達からしてみりゃ依頼だな――に至ったのか聞き込みをしてみよう」
『仕方ないのう。童、みきと言ったか? みきの家族の情報源に頼るとしようかの』
「念の為、夜に神社に行った事は怒らないように言っておくか」
 2人は目的地の場所へと急いだ。


 少年事、みき君宅に辿り着いたのは3組のエージェントだった。
 無論、連絡を取り交わしたと言う訳もないが偶々、居合わせたと言う訳でもない。事前の目的が同じだった事からほぼ同時刻に顔を合わせただけだ。
 だが、多少のズレはあった様で最初にみき君宅に訪れたのはやはりカグヤ・アトラクア(aa0535)とクー・ナンナ(aa0535hero001)だ。
 学校での聞き込みを行っていた御神と伊邪那美、そしてリィェンとインは少し遅れて後からやって来ていた。
「夢を奪うとは許せんのぅ。人は夢をもって……」
『ああはいはい、急ぎの依頼みたいだからさっさと行きなよ』
 夢を奪われた被害者みき君宅の門前で何か人生の矜持の様な哲学を語ろうとするカグヤの背を押してクーはそう言った。
 みき君の家はとても近代的な佇まいをしていてインターホンにカメラが仕込まれていたが、別段それ以外に目立った所はない。
 至極ありきたりな一般家庭の住居だ。問題無くインターホンを鳴らす。
『――どちら様ですか?』家の中から怪訝そうに主婦層の女性の声が聞こえてきた。これにはクーが答える。
『すみません。ボクはH.O.P.E.東京海上支部から派遣されてきたエージェントの者です。例の事件についてお尋ねしたいのですが……』
『ああ、未樹が言っていた夢がどうとか言う……ちょっとお待ち下さい』
 どうやらインターホンの声の主は少年みきの母親で間違いなさそうだ。そしてその会話が唐突に終わった時――
 もう2組のエージェントが同時にやって来た。

『まず最初に――みきがどんな夢を持っていたのか? ボクも含めて皆が思っている疑問だよね? それとも本当に夢なんか無いのかな?』
 それが今回の事件に関する肝心要でありどうしても聞かなければならない重要なキーポイントだ。
 カグヤとクーを初めとして御神と伊邪那美、そしてリィェンとインも沈黙でそれに頷いていた。双方ともに異論はない。
 少年みき――いや、未樹君が廃屋と化した古い神社にて夜中に何者かとの『取り引き』に応じた結果、発覚した今回の事件の裏側。果たしてその家族である母親は何と答えるだろうか?
「あー、この際だから付け加えておくが未樹君が夜に神社に行ったことに関しては――見過ごしてもらえると助かるんだが」
『わらわもリィェンと同意見だ。一刻を争うが故、それについては何も今、討議する事は無いのう』
 リィェンとインが口々にまくし立てる。
「それについては承知しています」
 しかし意外と少年未樹の母親は毅然と答えた。問題は家族には無いのか? ――御神と伊邪那美、そしてリィェンとインがそう思ったのも束の間……
「あの子の夢を奪ったのは他でもない私なんですから」


「夢も希望もないのは面白くないからね。悪い……とも思わないけど、取り返させてもらうよ」
 九字原 昂(aa0919)は既に例の神社のある現地に到着。時間は限られているとはいえ日中の内に廃神社についての情報収集に勤しむ。
 時刻は午後1時過ぎ――。
 まず近隣への聞き込みをする前に地元の図書館へと足を運ぶ。この地に根付くあの廃神社に関しての資料を漁る。
 過去の記録から現在に至るまでどの様にして変化していったのか。この地にて時代の足跡を辿る。
「なるほど……これが例の神社――今とは違って見違える様に綺麗ですね。まあ、過去を遡ったのだから当たり前か」
 神社の名は――『夢想仏神社』と言うらしい。なんでも他人様には言えない夢や妄想を奉った神様が安置されてる場所だとか。
「他人様には言えない――夢……か」
 どうやら問題の焦点はそこにあり、情報の解析に急ぐ。もしかしたらあの少年未樹も何か他人様には言えない夢があったのかもしれない。
 数十分ほど図書館に引き籠り一通り目的を達成した後、すぐに屋外に出て九字原は次の行動へ移った。

「あの神社には近付くなってママが言ってたから僕はよく知らないけど……」
 地元周辺住民の情報である聞き込みである。
 近隣住民、特に子供達に話を聞いて、あの今は廃神社と化した『夢想仏神社』についての話や被害を聞いて回る。
「それはどうしてかな? 思い出してごらん。何か理由があるんじゃないかな?」
「そう言えば――」
 その子供はどこか口籠りながら言い難そうに躊躇いがちにあの今は無き廃神社について語リ出す。
「真夜中になるとあの神社はボロボロから元通りになって、人の夢をなんでも叶える夢想仏様が甦るんだって。だけど今は愚神が神社を根城にしているから近付いたらいけないんだって」
「愚神――が?」
「うん。でも誰も信じてないよ。所詮子供だましだよ」
 その子供との接触を終えた後、苦笑交じりに九字原は呟いた。
「愚神か」
 なんとなく予想は付いていただけに特に驚きはしなかったが、万が一と言う事もある。それにあの少年。未樹が嘘を言ったとも思えない。
 その後の調べの結果、大人達を含めて他の住民も異口同音に質問に応じた。
 気が付けば、時刻はすっかり夕刻の闇へと支配されつつあった。
「これは、いけない。早く皆の所へと急がなければ」
 九字原は小走りにその場を後にした。


『きっきっき、夢かい、新しい夢を唆して悪戯仲間でも増やしてみようかねぇ』
「いや、まずは元凶とっちめて解決しような?」
 レフティ(aa4016)も昼間の廃屋の様子や夜以外の被害が無いかどうか聞き込みをしていた。
 キィ(aa4016hero001)に関してはその質疑応答中に子供達に邪な夢を唆し、1人悦に浸っていた。
 事前に打ち合わせた作戦は夜間にあの廃屋と化した神社へと皆の情報を照合した後に向かう事。
 その為、2人は人数分のライトを用意していた。夜間戦闘・行動に備えての事前準備だ。
 例の廃屋にはやはりかつて『夢想仏神社』と呼ばれた事や愚神が住みついてる等の情報が錯綜しその端々をキャッチする。
「『夢想仏神社』――か。良いんだか悪いんだか分からない神様が奉ってそうだな」
『きっきっき、愚神であれば罰せば良い。本物の仏様ならば……さて、どうしたものかねぇ』
「あまり物騒な事は考えないでくれよキィ」
 そうこうしている内に、時刻はゆっくりと過ぎていき辺りは夕暮れから漆黒の闇のそれへと背景が塗りかえられていった。

 ――そして一同は目的地の神社へと集った。
 事前に仲間達が収集した情報を照らし合わせた結果、不自然かつ奇妙な事が幾つか分かった。

 ・少年未樹の夢を奪ったのはここにいる神社の何者かではなく、彼の母親?
 ・神社の名は『夢想仏神社』と言うらしい。なんでも他人様には言えない夢や妄想を叶える、あるいはそれらの類を奉った神様が安置されている。
 ・真夜中になると神社はかつての繁栄を取り戻し、人の夢をなんでも叶えるその名も夢想仏様が甦る。
 ・今は愚神が神社を根城にしている為、近付いたらいけないと地元では言われている。

 そんな中、赤城とヴァルトラウテはH.O.P.E.に要請してこれ以上大袈裟にならない程度に神社への立ち入り禁止を警察に協力して貰った。
 何せ真夜中の神社の廃屋だ。怪談では無いが、愚神以外の何かが出てもあまりおかしくはない気もする。
 暗闇の中、ライトアイの使用を出来るだけ控える為、やはり人数分のライトは必要だった訳だ。
 手にしたライトを持って、廃屋神社の奥へと突き進む。しばらく歩いた後、突然何者かの声がけたたましく響き出した。

 ――フフフフ。あー。腹が空いたわ。貴様等も余に夢と言う名の御馳走を与えてくれるのかの?――

 声はこの夢想仏神社の最深部の破れた障子越しに聞こえてくる。
 声の主は影だ。影だけが動いていた。
「強盗風情が取り引きとは随分気取ったもんだな」
 少しもビビらず赤城は戦闘モードへと移行。そして続ける。
「わざわざ廃墟に来るような相手なら騒ぎにならないとでも踏んだか。一体何人の夢を喰いやがった?」
『ねえ、戦う前に一つ聞きたいんだけど……キミはどれだけの人の夢を奪ってきたのかな?』
 御神の英雄、伊邪那美も同意見だった。
『さぁ、貴様が童らから奪った夢を彼らに返すのじゃ!!』
 わざと複数形にする事で他の被害者がいないか探りを入れるイン。
「お願い神様。どうかわらわの願いを叶えて欲しいのじゃ。その為じゃったらなんでもするのじゃ」
 相手が何者か分からない以上、相手の土俵に立って様子見。それは他でもないカグヤ。
「獏は悪夢を食べるという話なので、今回は違ったモチーフだと思いますね」
 思案顔で集めた情報を眺めて冷静に分析する九字原。
『しっかしそういう趣味なのか? 違うってぇなら他に喰ったやつを言ってみろよ』
 危ない方向に走り出しそうになるキィ。しかしこれも作戦。相手が幼児趣味なのか他に被害者がいないかを確かめる為。

 ――フフフフ。今宵は満月。そして夢の御馳走は大量だ。貴様等の夢は余がいただこう。その代わりに生きて帰してやっても良い――

 しかし相手はその言葉を翻す。例の取り引きとやらをエージェント達相手に持ち掛ける。
 ここが我慢の限界だった。
「いずれにせよここまでの取り引きはクーリングオフだ。返して貰うぜ!」
 そう言った赤城はボロボロの障子を蹴り飛ばすと――
 その瞬間、影は踊る様に飛び上がった。

 犯人である愚神(?)から夢を取り戻すには倒せば良いのか、何かの触媒のアイテムを奪取すれば良いのか、具体的な指標を探り出したいところ。
 そんな中、遂に己の姿を現した今回の事件の首謀者――それはやはり愚神だ。だが、その姿形は異形の主。
 廃屋の中にある部屋中にその影は闇となって広がっていた。視界は遮られ、まるで何かのホラーゲームを想起させる。
 その正体は人々の邪な願望。つまり夢だった。
 そしてその悪夢を母体として愚神は少しずつ強くなっていった。
 愚神に名は無い。だが、この『夢想仏神社』にかつて奉られていた神仏になりきって人々の夢を喰らい、ライヴスとして変換。そしてそこからさらに――複数の従魔が出現した。
 ミーレス級の従魔。無論、思考能力は無い。だが、人々の夢の欲求が形となってまるでアンデッドの様にその二足歩行従魔は動き回る。
「チッ! こんなもん夢なんかじゃねえ!」叫ぶ赤城。
 シャープエッジで牽制し、通常打撃が通るか確認。
 敵の手の内が全く分からないので、飛び道具で探りを入れる。もちろん仲間との連携に対応。
「やるな……!」
「夢……なのかな? 夢……じゃないよね!」
 記憶の一部を奪われる可能性を考慮して相手からの攻撃や不自然な動きがあったら喰らわない様に距離を取りつつ戦闘に参加し、後衛を陣取ったのは御神と伊邪那美だった。

 ――フフフフ。今宵の宴は盛大じゃな。大盤振る舞いで楽しもうではないか――

 名も無き愚神。影となった夢を喰らう者は哄笑する。そして蠢く影。儚き人々の夢――。
 愚神の言葉の端々から取れるのは唯一、夢を奪った者は1人では無くやはり複数だと言う事。先程のインの探りは有効だった。
 この場に少年はいない。しかし、少年の夢を思い出させる為に取り戻す為に必死で戦う。
 敵の能力は未知数。ミーレス級従魔を片付けつつ本体の出方を窺う。そして神社が倒壊するのを防ぐ為、そう言った攻撃は全て叩き落とす。
 ――敵の能力は未だ謎のまま……。

 今回の愚神は正体こそ不明だが、会話は可能そうなのでカグヤとクーは適当に話を合わせて、今まで願いを叶える取り引きをした者の有無や、過去の取り引き内容を聞き出す。
「一体、何人の者と夢の取り引きとやらをしたのじゃ?」
 ――フフフフ。戦いの最中に質疑応答とは……。さあて、どうだったかの?――
『まさか、従魔の数と一致してると言う事なのかな? 出来れば過去の取り引き内容も知りたいんだよね』
 ――フフフフ。そこまで教える義理は無いかの?――
「――たとえそれが、わらわ等の願いであり取り引き材料だとしても?」
 ――!――

 それを聞いた瞬間、愚神の気配が変わった。いや、周囲に取り囲んでいた影の密度が徐々に薄くなっていき穴の開いた天井の辺りに集中した。

 ――フフフフ。面白い事を言うのう。だが、その取り引きは不成立じゃ――

 遂に愚神は姿を現した。異形の主。まるで薄汚れた千手観音の様な一言で言うならば夢魔。
 それまで敵に気付かれずに潜んでいた九字原はこれを逃さずに奇襲をかける。
 戦法はヒット&アウェーの近接攻撃。
「そこに居ると危ないよ……まあ、もう遅いんだけどね」
 すかさずハングドマンを投擲する。ライヴスの塊の様な夢魔は先制を仕掛けられ、気付かずに鋼線を四肢に巻きつけられる。
 武器、コンユンクシオを左手主体に扱い、前衛としてスキル全開で撃破を心掛けていたレフティもその隙を逃さなかった。
 右前腕部を引き、ジャコンと音を立てたり、キィに至っては『きっきっき』と笑って夢魔の注意を僅かでも逸らす。
 機械の右前腕部をもう一度引き、ジャコンと鳴らしてオーガドライブ。そして一気呵成。さらに今度は右手で一気呵成。

 ――グッ!!!!――

『きっきっき、なんだい○○じゃないのかい』と、キィ。右手をわきわきさせながら。
『うらめしや~ってかい? きっきっき』続けて顔の下にライトを当てて余裕の笑み。

 弱ってきた愚神。そして夢魔に止めの一撃を放つ。
「これでラストだ!!」
 捕縛され身動きが取れなくなった夢魔事愚神の懐目掛けてオーガドライブを叩き込んだ。

●<戦闘終了後>
 少年未樹だけがなぜ夢を喰われたと言う記憶が残っていたのか? それは彼の母親の影響だった。
 『夢想仏神社』には他人様には言えない夢や妄想を叶える神様が安置されていると迷信としてこの地域の人々には伝わっている。
 それが故に少年の母親はまだ無邪気な心を持った少年未樹が邪な考えで例の神社に出入りする事を禁じたのだ。
 だが、少年未樹の好奇心は止められなかった。幼い子供と言うのは止めろと言われると無性にやりたくなるものだ。
 母親はそれに気付く事はなかった。しかし少年未樹が後に真夜中に神社に行った事を問い質すと、それに呼応する様にして愚神に夢を喰われた事を未樹は思い出した。
 母親は嘆いた。そして勘違いして悔いた。あの『夢想仏神社』には迷信ではなく本当に神仏の類が潜んでいると。
 そして迷信はさらに続く。真夜中になると廃神社はかつての繁栄を取り戻し、夢想仏様も甦る。
 恐らく幼児を対象とした親達が他にもいたのだろう。噂は広まりそれが今回の事件の発端。
 そこに付け込んだのが夢魔。夢を喰らう者。つまり今回の愚神だった訳だ。
 つまり愚神はかつて安置されていた夢想仏様の真似事をしていたのだ。

『ねえ、恭也が子供の時の夢って何だったの?』
「……親父を超える事だったな」
『それは……今はどう? お父さんを超えた?』
「いや、強くなったと思ったら更に遠くに居られる感じだ。叶うのは何時になるのやら」

『そういえば、リィェンの子供の頃の夢はなんじゃったのじゃ?』
「あの頃はそんな事考えもしなかったが……ま、仲間のためのヒーローになりたかったと思うぜ多分」

 そしてエージェント達が去った後、未樹を始めとした子供達の夢は皆、一様にして――
「悪を倒すリンカー!」
 それを今回のエージェント達が知るのはもう少し後になってからの事である。(了)

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • エージェント
    レフティaa4016
    機械|16才|男性|回避
  • 銅像のチュー霊長
    キィaa4016hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
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