本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】未来を選ぶ日

昇竜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/15 16:09

掲示板

オープニング

●蒼く白む香港

 香港の戦いは終わった。
 エージェントを中心とするH.O.P.E.は、古龍幇との衝突を回避し、愚神の策謀を打ち破った。
 香港の周囲をぐるりと取り囲む結界――本来ならば目に見えぬ、時折ライヴスの燐光きらめくそれは、勝利の象徴でもあった。香港は今や、世界でも有数の安全な都市となったのである。
 香港の市街地を散策していたエージェントたちが街角を曲がったとき、ガラの悪い集団とばったり出くわした。

「あ……」
「……ふん」

 男たちはぷいとそっぽを向いて脇をすり抜けていく。小さな英雄は舌を出してあっかんべえまで見せているが、そこに一触即発という様子は無い。エージェントたちは思わず苦笑いを浮かべた。
 H.O.P.E.と古龍幇はこの地において英雄同士が争う危険を悟り、国際会議での妥結発表に向けて交渉を本格化させつつあるという噂だった。市街地では一時避難者たちの帰宅が始まり、戦闘で損傷を受けた建物やインフラの修理も始まって、建設作業員らの元気な声が飛び交っている。
 香港の海へと視線を転じるエージェントたち。
 結界の壁にきらりと燐光がきらめいた。香港の街に残った戦いの傷跡も浅くはないが、それも、この輝きが目に入れば無駄ではなかったと感じられた。

●交渉大詰め

「大人、どう思われやすか?」
「全ての条件は、とても呑めない……だが、第四条までなら……」
「まさか! はなからして、筋目が通らねぇってのに」

 九龍城の一室、劉士文(リウ・シーウェン)は未だH.O.P.E.への態度を決めかねている長老達の説得に窮していた。幹部会の議題は、暫定案として提示された停戦条件について。

「第一条、H.O.P.E.は古龍幇の非合法活動に目を瞑らない事。この前提からして、馬鹿にしていやすぜ。どうしてこんな要求に応じる事ができやしょう」
「致し方あるまい、テムル。正義を謳う組織だ、見過ごせない事の方が多いさ」
「なら、単に相互不干渉の取り決めにしたらいいんでさぁ。邪魔をしないし、邪魔をされない。それじゃいけやせんか?」

 テムルと呼ばれた幹部は、頑固にも最初期から意見を変えていない。

「腹の立つ事はまだありますよ、劉大兄。
 第二条、古龍幇は愚神との取り引きや協力要請に応じない事……セクションによっては商機を逃しますよ、これじゃ」
「柳(リウ)……忘れたのか? 愚神がどんな行動理念を持っているか」
「僕は儲かれば相手が何だって構わないですよ」
「出張るんじゃないわよ、若造が」

 柳という若い幹部は強欲な性格。其れを聞いて、老齢の紅一点が口を開く。

「愚神が人間を食い物としか思っていない事は、今回で骨身に染みたでしょう。テムルも、少し落ち着きなさい。多少痛みを伴っても、H.O.P.E.との停戦は幇存続の為に避けられない事なのよ」
「でもよぅ、楊(ヤン)のアネキ……」
「おや楊大姐、まだ議会にいらしたんですか? 無理しないでそろそろ隠居すればいいのに」
「柳、」
「捨て置きなさい、劉。
 まあ、そうですね……最初の二つの条件は、受諾も止む無しでしょう。でも、それ以降は少々頂けません。
 例えば第三条、古龍幇は愚神問題においてH.O.P.E.と協力して対応に当たる事。
 確かにH.O.P.E.にしてみれば、アジア各国にパイプラインを持つ我々の協力は是が非にも欲しい所。しかし、それで幇は一体何の得をすると言うのです?」

 楊の言葉に、劉も一時返答に詰まる。

「楊の言う通りだ。それに第四条、古龍幇は構成員のH.O.P.E.登録、及びそれに伴う脱退を禁止しない事……この条件も受け入れ難い。我らは加入に際して、一蓮托生の誓いを立てる。幇は信頼で成り立っているのだ。おいそれと脱退が許される風土ではない」
「マーロウ先生まで……」
「申し訳ないが、劉大人。今のままでは、我々はH.O.P.E.の要求に素直に頷く事ができない様だ」

 マーロウは面子や伝統を重んじる性質。劉は額を押さえて書類に目を落とした。

(私の力が及ぶ範囲ではこれが限界か……テムルやマーロウ先生は義理人情、柳や楊女士は損得勘定を重要視している。
 それに、この最後の条文。第五条、古龍幇は今後一切の非合法活動を放棄し、合法的組織へ移行する事。
 これだけは、私も譲歩しかねるな。生活が揺らぐ構成員が出てくる)

 劉としては第四条まで妥協の余地もあるが、幇は合議制。

「……分かりました。最終的には、H.O.P.E.との直接会談の日に決議する事とします」

●未来に向けて

「人類一丸となって、愚神の脅威に立ち向かう……言葉にすれば簡単な事です。
 しかし、世界蝕より二十余年。H.O.P.E.と古龍幇とを隔てる対立の壁は、掲げる義の差によって厚く硬固なものとなってしまいました。
 けれど少しずつでも、努力しましょう。手を取り合う未来に向けて」

 停戦成就は、その第一歩。会談当日、霍凛雪(az0049)は香港支部の会議室にエージェントを集めていた。

「本題に参りますわね。皆さんにはH.O.P.E.の特使となって、これからここで古龍幇幹部陣と停戦条件の交渉を行って頂きます。
 此方から提示する条件は五つ、どれも先方に納得して頂くには難しいものばかりです。
 私達の切れる手札を整理して、交渉に備えると致しましょう。

 まず、今回の戦いでH.O.P.E.が挙げた戦績。古龍幇が単独では、あの事態は収め得なかった。この事実は不平を訴える相手を説き伏せるには有効に働くと思いますわ。

 また、私達と敵対し続ければあちらにはデメリットしか無いというのも事実。打算的な幹部の説得には、一つ武器として使えるでしょう。

 そしてもう一つ、決して愚神と結託しないという約束事は、必ずお互いの為になるという事実。愚神がどんな卑劣な存在か、皆さんの言葉なら説得力も強い筈です。

 最も難しい要求は、やはり第五条。
 無論、いずれは違法行為の一切から手を引いて頂きたいですが……現状では絵空事に等しいでしょう。
 でも、予め無理難題を吹っかけた分、言い方によっては一部の違法行為を止めさせるくらいは叶うかも知れませんわ。
 官僚や政治家との癒着、非合法品の売買と密輸、闇金融、賭博、国際的なヴィランの密入国斡旋……これら古龍幇の活動の中で、特に愚神に利用されかねないと思われる所が狙い目ですわね。

 ……あら、もう時間ね。
 ごめんなさい、私は会議の刻まで、別の職務が入っていますの」

 支部長は会議室から出かけて、一同を振り返った。その唇は微笑を浮かべて。

「……皆さんは、その手で古龍幇との停戦を選び取りました。真に排すべき敵を見極め、人と人とが争わずに済む様に。
 協力に応じた古龍幇の方々も、その願いは同じ筈。
 この協定締結によって、香港は流血を忘れられる。未来はより明るくなる――私は、市民は、H.O.P.E.は、そう信じていますわよ」

解説

概要
参加者が特使となり、古龍幇との長期的な停戦条件について幹部陣と交渉を行います。
H.O.P.E.から古龍幇に提案する停戦条件は以下の通りです。

一、H.O.P.E.は古龍幇の非合法活動に目を瞑らない事。
二、古龍幇は愚神との取り引きや協力要請に応じない事。
三、古龍幇は愚神問題においてH.O.P.E.と協力して対応に当たる事。
四、古龍幇は構成員のH.O.P.E.登録、及びそれに伴う脱退を禁止しない事。
五、古龍幇は今後一切の非合法活動を放棄し、合法的組織へ移行する事。
※さらに盛り込みたい条件等あれば、幹部陣と審議する事もできます。

幹部陣
交渉の場には多数の幹部が出席しますが、古龍幇は派閥意識も強い集団です。特に重要な派閥の筆頭はOPに登場した以下の人物であり、彼らの説得がシナリオ攻略の鍵となります。(権威は記述順が後の者ほど強いです)

ベク=テムル
実戦部隊の元帥。幇が見下されていると感じ、何かと突っかかってくる。
特に第一条が気に食わない様子。

柳 小雲(リウ・ショウン)
華北の長老。とにかくH.O.P.E.が商売の邪魔。
特に第二条を嫌忌するが、揚げ足取って場を荒らし、交渉を決裂させるのが本意。

楊 賢智(ヤン・ヒョンジ)
上海の長老。利害の均衡を図る。
特に第三条について、管轄外まで協力するいわれはないと思っている。

・Marlow 曲阜(マーロウ・シーフー)
劉の相談役。相手の誠意を測っている。
特に第四条の通過には、強い信頼が必要と見ている。

・劉 士文(リウ・シーウェン)
最大派閥を継承する長老。幇を取り仕切ることをある程度認められている。
立場上、特に第五条に難色を示している。

ヒント
プレイングには、幹部の誰と交渉するか、どう交渉するかお書き頂く事になろうかと思います。
その人物の性格やH.O.P.E.の提案を拒む理由等は、OP本文に書かれています。
相手の特徴を掴み、より良い停戦協定を締結して下さい。

リプレイ

●定刻、

 ロータリーに一台のリムジンが入る。旗章とエンブレムは小篆字体、龍一文字――最も正式な古龍幇のシンボルである。出迎えたのは霍凛雪(az0049)と10名の特使達。劉士文の前に、穏やかな微笑を湛えたCERISIER 白花(aa1660)が進み出た。

「……此方に通信機器を預け、ボディチェックも依頼されるという事ですね。では私達にも同じ様にして頂けますか? この場で通じ合える物は互いの信頼だけですから」
「是非も無い事ですわ。プルミエ」
「はい、白花様」

 白花の斜め後ろにぴったりと付けていたプルミエ クルール(aa1660hero001)は、名を呼ばれて面を上げた。

「さぁ、『人』との対話ね」
「久しぶりでございますわね!」
「おやプルミエ、今日は天鵞絨の旗袍ですか。お似合いですよ」
「光栄ですわ、大人。郷に入っては、という諺もございます故――これはわたくしなりの礼節です」
「感服です……そちらのお嬢さんにも」
「――志賀谷と申します」
「ああ……名刺とは日本人らしい。覚えて置きましょう」
「恐縮です。では、議場へご案内します」

 礼装に身を包んだ志賀谷 京子(aa0150)は一同を伴って支部内へ。シルミルテ(aa0340hero001)がプルミエを見て、佐倉 樹(aa0340)に囁く。

「アノ人が銃持ってナいなんテ、珍シいネ」
「それって、凄く重い意味があるよね。丸腰で主の横に立つなんて、自分の命を手放すにも等しいと思うから。今回の相手は藪の中の蛇か……上手くやろう」
「蛇、居ル事前提なノネ。……ワタシ達が居ルノはどっチの藪?」
「ナイショ」

 揶揄う様なシルミルテを見返し、佐倉は悪戯っぽく笑う。

「楽しい腹の探り合い、かな」
「いざというときはお任せを」
「それはないと思うけど、でもありがと」

 志賀谷は背後に侍らせたアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)に微笑んだ。

「劉さんに顔も売れて、幸先はいいかな」
「――内緒話ですか? 京子」
「いえ、劉さん。会場を別所にしたかったという話を」

 それを聞き、劉は狒村 緋十郎(aa3678)に尋ねた。

「そんな話があったのですか?」
「ああ、俺は獅子山展望台を提案していた。香港返還を記念して作られた場所なら、公平性もあると思ってな。だが、設備不足なんかの理由で断念した」
「つくづく驚かされますね」
「……敬意を払うのは当然の事だ」
「それに、龍の懐柔はこの場に居る者の本意ではありません」

 劉の言に、スーツ姿の真壁 久朗(aa0032)と八朔 カゲリ(aa0098)が意見を添える。

「先に提示された条文は、結果を急き過ぎた草案です」
「これは手厳しいですわね、影俐さん」
「貴方が老獪の女傑と呼ばれる所以は、その警戒心からと心得た上での進言ですよ。あれでは古龍幇を腑抜けにする為の降伏勧告でしか無い」

 霍にも、八朔の語気は揺るがない。

「成程。弱化を追求する遣り口は貴方の意にそぐわない?」
「いいえ。我も人、彼も人、故に対等とは基本に置くべき道理……然しそれでも、信じると言う事が尊いのだと、無価値ではないのだと信じたいという心は確かにあるのです。ただ、これは理想論――先ず尽力すべきは、停戦の締結そのもの」
「……貴方は全てを認め、受け入れるが、それに何ら期待を抱かないと?」
「如何にも。これは諦観に他なりません」

 そう耳にして、ナラカ(aa0098hero001)はくく、と喉奥で笑う。霍は彼女に静かな視線を向けた。

「では楽しみにして置きなさい。奇跡を起こす為に、私は貴方がたを特使にしたのですから」
「言われるまでも無いわ。そなたも長生きの割には、懲りない女子よな」
「ごちゃごちゃとうるせぇぞ、柳! 黙って付いて来んか!」
「やだやだ、ああ怖い」
『緋十郎。この男、殺した方が世の為じゃなくて?』

 狒村と柳小雲は早速いがみ合っていて、幻想蝶で見守るレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)も我慢の限界だ。張り詰めた空気は、榊原・沙耶(aa1188)が転んだ拍子で緩む。

「いったぁ~い」
「バカ、何やってんのよ」

 小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)に助け起こされる榊原。無論、彼女が転んだのは態とだろう。マーロウ・曲阜は柳を見て低く唸った。

「困った子供だ」
「彼も今回で愚神がどういうモノかは判った筈ですが……それでも関わりを持ち続ける事は、古龍幇としての総意なんですか?」
「まさか」

 GーYA(aa2289)が聞くと、マーロウは静かに首を振った。まほらま(aa2289hero001)が続ける。

「愚神と相容れない事がはっきりした今、新たな改革は必要でしょ?」
「分かっているさ。戦いには勝利したが、幇も甚大な被害を受けた。その元凶である愚神との関わりを良しとすれば、被害者や遺族に面目が立たない。だが、あれにそう問うても無駄だぞ。奴の専門は武器商、基本的には諍いが増えれば増えるほど喜ぶ男だ」
「そんな人を何故、長老に据えて置くんです?」
「家族は人柄を選びませんよ。血の気の多い若者もまた、幇社会を閉鎖的足らしめる為に必要だわ」

 眉を顰めるジーヤに、楊賢智が言う。黒金 蛍丸(aa2951)は彼女を見据えた。

「楊さん。今日、僕達はその事でお話をしに来たんです。H.O.P.E.に対して思う所もあると思います。腹を割って話をしたいです」
「……ふ。これから鎖に繋ごうという龍に、随分な物腰低さね。貴方は?」
「初めまして、黒金 蛍丸です。本日はよろしくお願いいたします。繋ごうだなんて……僕達は只、手を取り合っていきたいだけです」
「そう。楽しみにしていますよ」

 皆に続き、議場へ入る楊。黒金は少し息を吐く。

「ほ、蛍丸さまぁ……き、緊張しないのですか? そ、組織のトップの方ですよ」
「してない、訳ないですよ。でも、最初は聞くだけですから」

 全てはそれからだ。不安げな詩乃(aa2951hero001)にへたりと笑い、黒金も議場の扉を開けた。ジーヤとまらほまもそれに続く。

「H.O.P.E.と古龍幇の停戦が決裂したら……」
「裏で暗躍している愚神にご褒美あげちゃうようなものよねぇ」
「でも俺は交渉スキル無いし。小泉さんが目指そうとしたものが何か、見届けるだけかな」
「大丈夫でしょう、他の方が頼りになるし、お偉方もいるしねぇ」
「そうだ。今のうちに、劉さんに"あの事"を聞いておかなくっちゃ」

 その後ろ、ベク=テムルは追い抜きざまに真壁を睨んだ。真壁は平静を保つが、背後に付き従うセラフィナ(aa0032hero001)は僧衣の襟を緩く握る。

「相手は経験も豊富で、癖のある方々と見えますね」
「だが、恐れる必要は無い……言葉も大事だが、態度で示す事も大切にしよう。相手にすれば年若い者が多いだろうが……此方は皆愚神と戦ってきた者達だ」
「ええ。多くの困難から、皆で守り抜いた可能性です」
「ああ……最後まで見届けよう」

 真壁は扉に手を掛けた――仲間が繋いだ未来を、願わくは、其れをこの先も続けてゆける様に。
 最後尾は、白花と霍。

「分かっているのですか、白花? "それ"を古龍幇に返還するという事は、故小泉氏とH.O.P.E.の縁故を失うという事ですわよ」
「ええ。これは白紙の委任状の様な物です」
「……随分なジョーカーを切りますね」

 一歩も動かない二人の熱意に、霍は負けたと言いたげに表情を和らげた。彼女が懐から出した立派な巾着を受け取り、白花達も議場へ入る。
 ――会議室は、紅茶の香りで満たされていた。

「殺伐としても良い事は無いと思い、僕と榊原さんで細やかながら用意させて頂きました」
「ほら、紅茶を淹れてあげるから、早く座りなさいよ!」

 黒金は幹部陣に微笑み、小鳥遊とプルミエがティーポットを手にする。

「ハーン、ランチョンテクニックって奴? 茶菓子で一体何が変わるんだか」
「柳、お前と言う奴は……表へ出ろ!」
「……プルミエさん、狒村さんにお茶を出して差し上げて」
「承知しましたわ、佐倉さん」

 場が落ち着いた所で、郷矢 鈴(aa0162)が卓鈴を鳴らした。

「申し遅れましたが、記録係を務めさせて頂きます郷矢と申します。よろしくお願い致します」
「記録係って、都合の良い様に内容を改竄する仕事?」

 やはり流れに一石を投じたのは柳。

「いいえ。記録文書は完成後に複写し、保管する為の物です。互いに確認して双方代表者にサインも頂きます。其方に専門官が居ればお任せしますが……」
「そう。古龍幇との合議なんて、兼任の片手間で充分って訳かい?」
「其処までにして貰おう、若いの」

 彼を止めたのは、ウーラ・ブンブン・ダンダカン(aa0162hero001)。

「フン。特使ともあろう者が、英雄頼みのお子様とはね」
「そうではない。意思統一は済ませてある……俺の発言は鈴の意思だと思って頂いて構わない」
「……では真壁さん、進行を」
「……指名に与った、始めるぞ。……先ずは第一条から」

 真壁の低い声が、水を打った議場に響く。

●議録

「第一条がってんじゃねーんでさ。俺はこんな不平等な取り決め自体反対で、正直話す気にもならねぇんです」
「……わたしも片務的な書き方は良くないと思っていました」

 郷矢が筆を走らせる。最初の陳述はテムル、返答者の欄には志賀谷と書き入れられた。

「二条と三条は、冒頭に"H.O.P.E.及び"と追加しましょう」
「ハッ。たかが一エージェントに、そんな権限が有るんで?」
「有りますわよ、テムル。ここに居る方々は特命全権大使――即ちジャスティン・バートレット会長の代理ですから」

 霍の台詞に、テムルは一時言葉に詰まる。郷矢は会話に耳を傾けながら、ダンダカンに囁いた。

(「この方は会長が出席しない事にも腹を立てていた様ですね。面子を気にする性質なのでしょう」)
(「単純に指図を嫌っているのだ。敬意を表され、威勢が衰えるのがその証拠」)
「テムル……お前は実戦部隊の元帥だと聞いている。誰よりも戦場の危険を知っているだろう」

 そう発言したのは真壁。

「当然でさ。あんたの名もよく聞こえてますぜ、鴉の主殿」
「ならば、共に在る仲間の大切さも俺と同じ様に理解している筈。なのに何故、俺達を拒む? 主張が有るのなら全て訊こう」
「飄々と言いなさるな。あんたも一部隊を束ねているのなら、考えても見なせぇ。これまで毛嫌いしてきた連中に命を救われ、親がそいつの言いなりになると言う。どの面下げてウンと言えるんでさぁ」
「違う……俺達が望むのは、同志が無益に傷付かなくて済む事だけだ」
「それと第一条を許すのとは、話が違うんでねぇですかい?」
「この条文はそのままでの通過を望む……幇が信と連帯に重きを置いている様に、此方も道理と法に触れるものを看過することはできない」

 真壁の表情からは、あくまでも自分達が立場を覆す事は決して無いという表明が読み取れた。そのすぐ横、佐倉が一言添える。

「水と油は混じりませんが、私達は人間です。同じ目標を持っているのなら、折り合いを付ける事も出来る」
「樹の言う通りだ。此度の停戦は少なからず双方が望んだからこそ、この会議が実現している。その望みとは何だ、テムル?」
「……打倒愚神、でさ」

 ダンダカンの後押しに、テムルが答えた。

「左様。そして愚神は人の疑心、不信、不満に付け込む……妥結が実現しても、負の感情が増えては無意味だぞ。不可侵の約束では、今度は俺達の中で問題となる。曖昧にしてはそれこそ混沌の種だ……互いに立場が違っても良いではないか」
「互いに最前線で命を張る者として、どうか俺達の言葉を聞き入れて欲しい」

 真壁に言われ、そこまで黙っていたテムルは、ふぅと息を吐く。

「確かに、立場の明文化は必要かも知れやせん……認めますよ、第一条。どうやらあんた達は、間違いなく救都の英雄の様ですね」
「うむ、大儀であるぞ。鈴」

 ダンダカンに促され、郷矢が原案での可決の旨を記録した。段落をひとつ上げ、議題は第二条に移る。

「柳さん。利益に固執して忘れているようなら、記憶の引き出しを開けてください」
「そうだ。愚神との関わりは破滅の未来にしか繋がらない……それは先の戦いで証明されているだろう」
「嫌ですね、ジーヤさん、真壁さん。私はチャンスを逃したくないだけで、愚神と結託したいなんて言ってませんよ」
(「正に利益の追求者ですね」)
(「最悪、既に取引の予定があるのかも知れんな」)

 郷矢とダンダカンは全く為人の不明な相手から価値観や性格を読み取ろうと耳と凝らす。

「ならば、そこまで第二条に拘る必要もないだろう。小泉氏の誇りを汚すことを回避できたのも、H.O.P.E.が愚神の策謀にいち早く気付いたからだ……俺達は協力し合う必要がある」
「ほう。亡き小泉大人が築き上げた古龍幇の伝統と権威を出汁にする気ですか?」
「其処へ土足で踏み込んで来たのはあちらだ。それだけこの妥結は、愚神やマガツヒに対抗する為の強力な繋がりとなる」
「そうですよ。長期的にお考え下さい。彼らを利すれば、貴方は必ず食い殺される」
「随分私の手腕を侮っておいでですね、美女」
「わたしは貴方に安心して頂きたいだけです。この協定に依って愚神情報網は強化され、リターン減退以上にリスクは低減されます。更にはH.O.P.E.との取引という、新たな商機も生じる」

 志賀谷を笑う柳に、佐倉が言う。

「自信家ですね。このような場に出ていらっしゃるぐらいだ、貴方は本当に商人として優秀なのでしょう。ならばいっそ、エージェントに協力させて利を得ることを考えられては如何か? 貴方程の方なら、此方が納得できて其方が利を得る手法、思いつかれるでしょう?」
「……それはそうですが」

 少し笑顔の曇った柳に、志賀谷が丁寧に応じた。

「商人が利益を目論むのは当然ですし、わたし達の目的はその妨害ではありませんから。目指すのは、何よりも信頼関係の樹立。古龍幇の利益を尊重するのは当たり前ですよ」
「……いいでしょう。私からは此処までです」

 郷矢は小さく息を吐き、議題に第三条と綴る。ダンダカンも遣り取りを小耳に意見を交わした。

「(古龍幇側の負担が大きくなってきました……この方も余計なコストを憂慮しているのでしょうね)」
「(しかし蛍丸は……あんなにも相手の目を真っ直ぐ見れる奴だったか? 楊女士の心証は良さそうだが)」
「蛍丸様、あわわわ……私、」
「詩乃、大丈夫だから、きょうきょろしないで僕を見ていて」

 楊は実戦部隊稼働の具体的な金銭事情等を交えて、幇の低利益を主張する。口を挟む事も無くそれを聞き終え、黒金は言った。

「今はまだ、全て信じて下さいとは言いません。何故なら、判断材料が足りていない筈ですから。ですので提案です、僕を判断材料に加えて下さい。そして貴方自身で、結論を導いて頂きたいのです。では始めましょう……先ず、第三条が通らない場合、双方にどんな問題が生ずるか」
「……ふ、馬鹿にしないで頂戴。提起した忌避理由以外を引き合いに出すの? 古龍幇は、この妥結を蹴って影響力が下がる様な軟弱な組織ではなくてよ」
「存じてます。以前、僕が関連事件に携わった時――古龍幇が貧しい人に大きな信用を得ている事を知りました。皆さんは無くてはならない組織です。だからこそH.O.P.E.と協力する事で、活動の幅は拡大してはどうでしょう。これには周りからの信頼獲得や、この事件で喪失した信用の回復等の効果も見込めます」
「それに、知っての通り我々は専門機関――こと第三条においては、必ずお役に立てます。アジアにおける古龍幇の強みと、対愚神で経験を積み重ねたH.O.P.E.の強みが相互を補完すれば、強力な体制となる事は間違いありません。金銭事情は追って説明しますので、どうか今は……」

 志賀谷の口添えに、楊は少し考えて、それからふと唇端を緩める。

「貴方がたが幇を便利に使おうと思っている訳でない事は分かりました。取り敢えずは、この先の話を聞きましょう」

 議題は第四条へ、語りはマーロウ。

「さて。残案は留保し、時の流れに任せる手も一つあるが……?」
「そうですね。本条の通過には強い信頼が必要――私も全くの同意見です。これは自組織に対しても然り」
「悲しい男だな。身内が信じられんか」
「では伺いますが……幇が課す一蓮托生の誓い、本物ならば脱退希望者など存在しないのではないですか?」
「言葉尻を掴むのが得手か、少年。だが取り合うに能わぬ……一蓮托生とは、善悪を省き、運命を共にする事を意味する。即ちこれは脱退があったとして、それを断罪する為の約束ではない。幇社会は狭い人間関係内で完結する故に完全なのだ。脱退しても血の契は切れず、幇に仇を為せばその一族は処刑の対象となる。自由な脱退を許可すれば、誓いの意味自体が揺らぐ事になりかねん」

 眼鏡の奥、瞳は感情の起伏も少なに、八朔が切り返す。

「ではこうしましょう。登録に於いて、H.O.P.E.は幇員の脱退強制は勿論、勧告すらしない」
「まさか……そんな事が。所属の重複を認めると言うのか?」
「協力は欲しいが、過度の干渉は不本意です。急いては事を仕損じる――これは日本の格言ですが。我々の望みは偏に協定の締結のみ」

 唸るマーロウに、狒村が重ねて。

「新たに愚神対応や情報共有の窓口役を担う部局を設けるのはどうだろうか。相互に人員管理もし易かろう。霍支部長」
「それで第四条の通過が叶うなら、願っても無いですわ。現行の古龍幇対策専門部署である、作戦第一課を再編しての設置を約束しましょう。ミスター・マーロウ」
「しかし……劉、どう思う?」

 熟慮に耽る劉。狒村は満を持して立ち上がる。

「劉大人。俺は今回の戦いで古龍幇に並々ならぬ恩を享け、そしてあんたに心底惚れた……! どうか俺にも、一蓮托生の誓いを立てさせては貰えないだろうか」
『ええっ! ちょっと緋十郎、何気持ち悪い事言ってんのよ』
「いいやレミア。"侠"たる劉大人なら、この気持ちを分かって貰えると信じている! 今後H.O.P.E.が幇を裏切るような真似があれば、あんたに俺の首を捧げよう」
『全く……こいつったら、仕方ないわね』

 狒村は徐にシャツを脱いだ。その背には亡霊武者に受けたであろう傷が刻まれている。

「これは神無月との戦いで黒兵を庇って受けた傷だが……幇の援軍が無ければ、この程度では済まなかっただろう。一度共に肩を並べて戦った仲間は、俺にとっては最早同胞に等しい。"猿"は仲間意識の強い動物でな」
「緋十郎……」

 言い終えて、狒村は頭を下げる。

「頼む……!」
「……緋十郎。その心意気だけで、貴方の本気は十分に伝わりました」
「! じゃあ、」
「ええ。でも義兄弟の契りは、場を改めましょうね。……第四条は可決です、霍支部長」
「ご英断に感謝を。では、最後の議題へ移りましょう」
「その必要はありませんよ……とても、無理な相談ですから。今は受け入れる準備が出来ていない」

 やはりこの件に関して、劉の身持ちは固そうだ。少しでも態度が和らげばと、郷矢も口を開く。続けて榊原も。

「大人、私達は、最終的なゴールを設定しておきたいだけです」
「勿論です、今すぐになど。猶予期間が必要でしょう」
「正直、その話を此処で聞く事すら難しいのです。ご理解頂きたい」

 困った様に笑う劉の内心を如実に表して、幹部達は険しい表情を浮かべている。

「……では、これなら如何でしょうか? 貴方が心配されている幇員の生活や、彼らが背負う事になる刑罰緩和を、H.O.P.E.からも働きかけるとしたら」

 劉ははた、と息を止めた。榊原を見る彼の目は見開かれている。横目で霍を見れば、彼女は薄く笑って。

「そんな事が……可能なのですか?」
「ええ、司法組織に対して打診を行いますわ。古龍幇はスラムの秩序維持などの功績も有りますし、効果は充分望めると思います」
「俺からも頼み込むよ。裏社会を牛耳る者が居なくなれば、そこに愚神が滑り込むだけ……古龍幇は必要な組織だ。各方面から金銭的、人員的にも支援したい」
「賠償金の一部負担も相談しましょう。資金難は依頼斡旋でのお手伝いもできます。時間が掛かっても構いません……共に在れる方法を、一緒に探して頂けませんか?」

 狒村、榊原に続けて、白花が言う。

「蛇の道は蛇――非合法の世界に潜む愚神の類の監視・偵察を古龍幇に委託する形で、資金の提供も考えています。窓口となる部署がありますから、H.O.P.E.への報告も堂々と行って下さい。希望は鎖ではありません、私達は、龍の朋友でありたいのです」

 榊原は姿勢を正す。

「この協定が締結されれば、一つ確実な事がございます。我々としても非常に腹立たしい相手、そして古龍幇の皆様方におかれましても、腸が煮えくりかえる程に恨んでいるであろう相手――マガツヒへの一手が、早くなるという事です。古龍幇の情報網に我々の知識を合わせれば、必ずやあの姑息なテロリスト共を殲滅出来る日が来ると、私は確信しております。
 どうか、今一度のご一考を。宜しくお願い致します」

 特使が揃って深く礼をすると、劉達は顔を見合わせる。志賀谷はゆっくりと背筋を伸ばした。

「わたし達と貴方がたでは、価値観が異なるでしょう。それはわたし達のなか、恐らくはあなた方のなかでさえ完全に一致はしない。けれど愚神が人類の脅威であるという一点については、一致できると信じています。良い関係を築いていきましょう」
「そして……私達に預けられた何よりも大事な信頼を、そちらにお預けします」

 立ち上がった白花が丁寧に手の平に載せたのは、銀色の龍の根付。表情には微笑も無く、有るのは、ただただの真剣さのみ――劉の目を見て、彼女はそれを差し出した。

「これを受け取ったとき、私は小泉氏に運命を切り開く幸運のお守りとして、一つのダイスを託しました」
「……そうでしたか。女神は、彼には微笑まなかったのですね」
「それでも、私達は諦めるつもりはありません。彼が私にこの根付を託した意味――それを無駄にしない為に、何度でもダイスを振ります」

 いつしか、誰もが白花と同じ目をしていた。
 願いは一つ。
 信じろ。
 信じて。
 信じて欲しい。
 ――劉は逡巡ののち、静かに目元に影を落とした。

「いいえ、白花……龍は貴方がたに導かれ、今日この日より幸福な未来に向けて飛び立つのです。
 ジーヤ……君の問いに答えられる日は、まだ先だと思っていました。ですが、私の心はもう決まった」

 不意に名を出され、ジーヤは劉を見る。その柔和な微笑みに、彼は見覚えがあっただろう。

「"朋"とは、志を同じくする仲間の事。"隣人"とは、情愛を注ぐべき同じ集団の一員の事。
 古龍幣は、ヒーローズ・オブ・ピースメイキング・ジ・アース――通称H.O.P.E.と共に愚神と戦う事を約束します。
 ……第五条は、可決です」

 その場に居た全員が、目を見張った。

「付き合いきれませんね。それが最長老の意思を継ぐ者のする事ですか?」

 一人だけ、柳は嫌悪を隠そうともせずに声をあげる。

「長期計画性と痛み分けの誠心まで見せられては、此方も相応の犠牲を払わねばなるまい」
「馬鹿な。心臓を差し出しておいて相応の犠牲ですって?」
「勘違いしているのはお前だ、柳。違法行為は収入源の一つであり、自由に飛び回る為の翼の一枚に過ぎない」
「……結構です。でも覚悟して下さい」
「そうだな……これから古龍幇には苦しい時代が訪れるだろう。だが、彼らとなら乗り越えて行けるさ」

 柳はそこで劉から視線を外した。白花を振り返り、劉は根付を丁重に懐へ仕舞う。

「マダム、この根付は小泉孝蔵の後継者の証です。しかし、当分は私が預かって置きます。彼のせがれ――小泉晃は、これを持つにはまだ経験不足ですから」
「そうですか。では多くを経験し、何年か先、彼が父親の後を継ぐに相応しい男となった時……」
「ええ。その時、晃にこれを渡しましょう。彼はエージェントになる事を決めたと聞きます……彼を見守るという事は、私が故小泉氏から受け継いだ親心であると同時に、休戦受諾の決意そのものでもあるのです」

●停戦協定

「第一条、H.O.P.E.は古龍幇の非合法活動に目を瞑らない事。
 第二条、H.O.P.E.及び古龍幇は愚神との取り引きや協力要請に応じない事。
 第三条、H.O.P.E.及び古龍幇は愚神問題においてH.O.P.E.と協力して対応に当たる事。
 第四条、H.O.P.E.及び古龍幇は所属の重複が可能とし、他方組織の脱退を強制・推奨しない事。また、新たに愚神対応や情報共有の窓口となる双方合同部局を設ける事。
 第五条、古龍幇は長期計画的に今後一切の非合法活動を放棄し、合法的組織への以降を目指す事。H.O.P.E.は、これまでに古龍幇の犯した罪の刑罰緩和の為に、司法組織との交渉を仲立する事。また、刑罰緩和への助力には、賠償金の一部負担を含む。
 以上条文に異存無ければ、此方にサインを。劉大人、霍支部長」

 二人が公文書に署名した。郷矢は歴史的瞬間を目の当たりにし、思わず胸を押さえる。

「こんな成果が得られるとは思わなかったわ……」
「お前が事前にデメリット解消やメリット提示を皆に言い含めていた事が実を結んだ部分もあるさ。交渉が進むごとに相手の信頼を得てゆく地盤作り、中々見事な手腕であったぞ。鈴」

 ダンダカンの称賛を受け、彼女は少し緊張を解いて笑った。

「紆余曲折あれど、総て通ったか」
「面白いぞ、霍凛雪! これがそなたの言った奇跡とやらか?」

 八朔は誰ともなく、ナラカは堪えきれないといった様子で高らかに。調印を終えた霍は、珍しく歳相応とすら取れる満面の笑みを浮かべた。

「奇跡でなくて、何だと言うのです? 数か月前の香港では、古龍幇との完全な停戦など夢の彼方でしたわよ」

 一方の劉には、佐倉が問う。

「劉大人、最後に一つお教え頂きたい。古龍幇は、過去に愚神達と取引されていたのですよね?」
「そういう部分もあった、という事です……ふふ。意地悪ですか? 樹」
「いいえ。ただ、今回古龍幇とH.O.P.E.に潜り込んだ蟲は、出現時期がほぼ同時でした。同一愚神の手引きかも知れません……特にきな臭いと感じた愚神があれば、その情報が欲しい」
「成程。では、幇が所有する全ての愚神情報を、第四条で定められた新規部局に寄せます。そこから一緒に探してみましょう」
「あの、劉さん。お疲れさまでした、どうぞこれを」

 ジーヤが差し出したのは、申請して置いたH.O.P.E.まんの箱。

「日本では、新たな隣人にはお近づきの挨拶代わりに蕎麦などを贈る風習があります。香港支部で人気なんですよ、よかったら召し上がってみてください」
「ありがとうございます……この紙は?」
「それをリンカーが剥がすと、すぐアツアツになるんです。おいしいですよ、旨みもたっぷり。協定が結ばれたので、これからはいつでも食べられますね」
「それは凄い技術だ……嬉しいですよ、ジーヤ」
「H.O.P.E.では愚神と戦っていく為のアイディアを集め、形にしていくシステムもあるんです。これからは一緒に考えていきましょうね。それから……あの時、電話で話した最後に「死ぬな」って言ってくれた事、社交辞令でも嬉しかったです」
「全く、貴方という人は……社交辞令でそんな言葉が出るものですか。本当に、無事で良かったです。ジーヤ」

 劉がジーヤを抱き留め、まらほまは思いがけず、契約者の安らかな表情を見た。
 そんな遣り取りのお蔭か、室内の雰囲気は和やかだ。楊には、黒金がお礼をする。

「今日はありがとうございました」
「あらあら、律儀ねぇ。どうしたの、そんなに頬を染めて」
「はひ……あ、すみません。これが普段の僕です……おどおどして情けないですよね……」
「そんな事は無いわ。貴方の真摯さは、しっかり伝わってきました。ねぇ、詩乃さん」
「わ、私はやっと……いつもの蛍丸様に戻ってくださって、安心してます……」
「さて皆さん、名残惜しいですが、解散の頃合いですわ。お見送りをさせて頂きます」

 霍の声掛けで、面々は会議室を後にする。まらほまと志賀谷は、出がけに彼女へこう提案した。

「支部長。H.O.P.E.一日体験、の様に、若い人達の交流の場を設けたらどうでしょう?」
「京子、皆さんと親睦を深めるチャンスですよ」
「そうねアリッサ。支部長、私からも。懇親会を開催しては如何ですか?」
「それは良い考えですわね。検討しましょう」
「……支部長、少しよろしいですか?」
「あら沙耶、何かしら?」

 榊原もまた、終わった後の事を考えている。

「古龍幇とH.O.P.E.とが妥結したとなれば、糾弾は絶対に避けられないでしょう。香港紅茶会は多数の政治家、投資家を擁する強力な組織の筈。マスコミ対策は万全に、必要ならメディアに圧力も」
「ご忠告に感謝しますわ。でも将来的な合法路線へ抱き込む為に、巨大な犯罪組織と妥結する事は世界機にも珍しくありません。協定内容も公表し、政治判断と強調します。その上で賠償等を求め、バランスを取っていきましょう」

 榊原と話ながら、霍も廊下へ。佐倉とシルミルテ、真壁とセラフィナもそれに倣う。

「あの二人の意図、汲んであげられてたかな」
「ン、バッチリ場を和ませタヨ」
「……今日は茶化して来なかったな」
「して欲しかったの?」
「……馬鹿言え」
「クロさん。饅頭祭って、どんな祭祀なんですか?」

 ――誰もが、取り戻した尊い日常を噛み締める中。
 その永遠を願う祈りが、二つの組織を結ぶ絆を紡いでゆく。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
  • 龍の算命士
    CERISIER 白花aa1660

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • エージェント
    郷矢 鈴aa0162
    人間|23才|女性|命中
  • エージェント
    ウーラ・ブンブン・ダンダカンaa0162hero001
    英雄|38才|男性|ジャ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 龍の算命士
    CERISIER 白花aa1660
    人間|47才|女性|回避

  • プルミエ クルールaa1660hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
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