本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】シウシウ

雪虫

形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/15 13:28

掲示板

オープニング

●嘆願
「お前らに……頼みがあるんだが……」
 古龍幇構成員、ダムはそう切り出した後言いづらそうに口をつぐんだ。しばし視線を彷徨わせ、しかし意を決したように目の前に立つエージェント達へと言葉を紡ぐ。
「その前にまず、改めて礼を言わせて欲しい。お前達HOPEのおかげで、狂化薬とかいう毒でおかしくなった俺の仲間はみんな正気に戻る事が出来た。もう少ししたら退院してもいいそうだ。本当にありがとう。それで、その事を古龍幇に連絡したら、今香港の復興の手が足りないって事を知らされたんだ。俺はもちろん行くつもりだが、その、もし良かったら……世話になりっぱなしで頼める義理じゃねえんだけど、一日だけでもいい、力を貸してくれないかなって……」
 ダムの言葉に一同は顔を見合わせた。視線と頷きで意志を伝えあい、ガイル・アードレッド (az0011)が率先して口を開く。
「もちろんヘルプさせて頂くでござる! 人々のためにハタラく事がヒーローの務めでござるゆえ!」
 ガイルの言葉に、その場にいる全員が頷いた。ダムはそれを聞くと顔を俯かせ「ありがとう」と頭を下げた。

●異常発生
「それじゃあ、よろしく頼んだぞ。何かあったらすぐに連絡を寄越してくれ」
「ラジャーでござる!」
 案内係の古龍幇構成員を見送った後、一同は瓦礫の山へと視線を向けた。民間コンテナ集積場。先日マガツヒの愚神、エクスプローションと激突し、そしてかの愚神が死んだ場所……その戦いに思う所がないではないが、しかし、今優先すべき事項はただ一つ。
「では、イッショウケンメイ頑張るでござる! 香港のミナサマのお役に立てるよう、ミーもNINJYAとしてフルパワーをハッキして……」
「……何か、近付いてくるわん」
 デランジェ・シンドラー(az0011hero001)は奇妙な違和感に瓦礫から空へと顔を上げた。エージェント達の上に広がる空は青々と晴れ渡っており、時折まぶしく差す日光に目が眩んでしまいそうになる。
 その中から、何か点が……否、箱が、エージェント達へと向かってくるのが視界に映った。禍々しい装飾の施された箱はエージェント達の頭上を通り過ぎながら、その内からドリルのついた奇妙な物体を落としていく。
「従魔……でござる!?」
 ドリルのようなものがついた従魔はエージェント達には目もくれず、自分達が落下した場所の瓦礫を削り掘ろうとしているようだ。一体何が目的なのかは分からない。けれど、何の意図もなく現れたとは思えない。エージェント達は各々判断し行動を開始した。

●時はしばし遡る
「まさか、エクスはんが死んでまうなんて……」
 奇妙な面を被った一人の少年が、そう言って残念そうに肩を落とした。字面こそ悲し気に聞こえるが、声の調子からも顔を隠す面からもその感情の真意を読み取る事は不可能だ。
「エクスはん以外にもぎょうさん『壊れた』ようどすし、友達がいなくなるのは悲しおすなあ……小鳥はんもそう思うやろ?」
「……」
「……そうや、『壊れた』なら『直せば』よろしいんや。エクスはんの体は爆発してあちこちに飛び散ってもうたらしいけど、全部集めて繋げれば十分まだ『使えます』よね? 他の『友達』もみんな回収して改造すれば、まだまだいっぱい『使える』はずどす。小鳥はんもそう思うやろ?」
「……」
「よっし、大事な『友達』のため、僕も頑張らないとあきまへんね。それじゃあ小鳥はん、僕は行ってきますよって。そこで僕の頑張り応援しとって下さいね」
 そう言って面を被った、奇妙なイントネーションの京都弁をしゃべる少年は嬉々とした様子で出ていった。少年が話し掛けていたそこには、すでに半分干からびた小鳥の死骸が転がっていた。

解説

●目標
 マガツヒの遺体の回収阻止
 
●状況
・民間コンテナ集積場一部の撤去作業中
・担当はエクスプローション爆心区域30×30スクエア。瓦礫が散乱し足場が悪く派手に動くと砂埃が舞う
・コンテナ集積場自体の広さは250×500スクエア。他の場所で古龍幇が作業中

●NPC情報
 ガイル&デランジェ
 シャドウルーカ―。指示がなければ謎の箱・青を攻撃。武器:二丁拳銃パルファン
・縫止
 ライヴスの針を放ち【封印】【移動力の低下】付与

 古龍幇構成員達
 全員リンカー。無線により指揮担当者に連絡可能

・持ち物
 無線機

(以下PL情報)
●敵情報
 謎の箱・赤×6
 砲身を三つつけた1辺60cmの箱型従魔。2スクエア上空を飛行し移動
・とりもち弾
 とりもちを1~3人に発射。【拘束】付与

 謎の箱・青×3
 1辺1mの箱型従魔。C&Cを1ターンに1~4体放出。4スクエア上空を飛行し移動

 C&C
 全長70cmのドリル型従魔。ゲーム開始時に3体配置されている。地面を這って回収対象を探し、2ターンで穴を掘り、1ターンで変形して回収、3ターンでさらに変形・飛行しマップから離脱。マップ外に出ると猛スピードで逃亡するため攻撃不可能となる
・ドリルアタック
 地面を這っている時限定攻撃。当たると1~3スクエア後退する

●その他
・従魔は目的を達成すると撤退
・謎の箱が提示数から増える事はない
・マップ内にはエクスプローションの頭部・右腕・左腕・右足・左足・胴体・マガツヒ構成員の遺体×4が埋まっている
・エクスプローションの遺体は広範囲に爆散している
・遺体が何処に埋まっているかエージェント視点では不明/エクスプローションの爆心地は把握している
・遺体は破壊可能
・遺体を回収したC&Cを破壊すると中の遺体も破壊される
・古龍幇担当地域にも五分後に従魔の群れが襲来する
・「時はしばし遡る」はPL情報
・古龍幇担当区域の戦況は当シナリオの動き、成功度が反映される

リプレイ

●襲撃
「ダム氏の仲間達、正気に戻れて良かったね」
 白いとんがり帽子型覆面に3つの深淵を宿す物体、もとい俺氏(aa3414hero001)の言葉に鹿島 和馬(aa3414)はベタ塗りしたような色味のジト目を三日月に細め頷いた。香港復興のためにはもちろんの事、知らない仲ではないダムの為にも今日は頑張る所存である。
「ホントにな。ご祝儀分も復興支援手伝ってやろうぜ」
 やる気十分のやる時はやる馬、やる時はやる鹿コンビとは対照的に、当のダムは少々浮かない表情を見せていた。HOPEと古龍幇は現在妥結の道を目指しているが、細かい部分ではまだいざこざがあるらしい。ここに来てそれを聞かされた、故の古龍幇としての戸惑いがダムの顔を曇らせていた。そんなダムに、木陰 黎夜(aa0061)が静かに近付き声を掛ける。
「ずっと、言い忘れてたことが、ある……狂化薬で貴方の仲間が暴走した時、ドリンク剤のことを教えてくれて、ありがとう……襲撃を受けた時に、うちらの言葉を信じてくれて、ありがとう……それだけ……」
 自分よりも遥かに幼い、一見すると少年と見紛う少女の言葉にダムははっと目を開いた。上の状況がどうであれ、ダムが黎夜達から受けた恩義は揺るぎのないものである。ダムは表情を引き締めると、大恩あるエージェント達へと仁義を以って頭を下げる。
「礼を言わなきゃいけないのはこっちの方だ。本当に、色々ありがとう。世話になりっぱなしで申し訳ないが、よろしく頼む」
「何かあったらすぐに連絡を寄越してくれ」
 ダムと案内係を見送った後、一同は改めて瓦礫の山へと視線を向けた。民間コンテナ集積場。ここで起きた出来事に各々が各々の思いを抱き佇む中、カグヤ・アトラクア(aa0535)は右手の下で妖艶にこそりと笑みを浮かべる。
「くふふ、明るくなったことじゃし、復興支援に紛れ込んであの猿の遺品回収でもしようかの。何か面白いの落ちとるといいのぅ」
「……爆男ここに眠る。復活怪人として蘇りそうでヤダなー」
 楽し気なカグヤとは対照的にクー・ナンナ(aa0535hero001)は眠そうな半開きの瞳で淡々と呟いた。それとはまた別の調子で、ガイル・アードレッド (az0011)が元気に声を張り上げる。
「では、イッショウケンメイ頑張るでござる! 香港のミナサマのお役に立てるよう、ミーもNINJYAとしてフルパワーをハッキして……」
「……何か、近付いてくるわん」
 その時、デランジェ・シンドラー(az0011hero001)は奇妙な違和感に瓦礫から空へ顔を上げた。エージェント達の上に広がる空は青々と晴れ渡っており、時折まぶしく差す日光に目が眩んでしまいそうになる。
 その中から何か点が……否、箱が、エージェント達へと向かってくるのが視界に映った。禍々しい装飾の施された箱はエージェント達の頭上を通り過ぎながら、その内からドリルのついた奇妙な物体を落としていく。
「従魔……でござる!?」
「おー、ドリルじゃ。浪漫武装として欲しいのぅ。合体変形機構があれば尚良し」
「他人事で観察してるけど、アレの狙いはカグヤといっしょなんじゃない?」
「む、火事場泥棒とは最低じゃな」
 クーからのやる気なさげなツッコミに、カグヤはさらに方々からツッコミを受けそうな返事を述べた。瓦礫を縫うように移動する従魔の姿に迫間 央(aa1445)が声を漏らす。
「あの形からして、ここの地中に潜るつもりか……? 先日の戦闘の残滓か何か……」
「んー。たけのこが穴掘ってる。いつも大きくなる前に食べられるから、フクシューにきたんだねー」
「きのこ派を追い出す為にがんばっているのだろう……などとつまらんことを言っていないで、仕事だ。すべて倒すぞ」
 手を掲げてたけのこ、もといドリル型従魔C&Cを眺めるギシャ(aa3141)にハードボイルドにノリツッコミを入れつつ、どらごん(aa3141hero001)はギシャと共鳴し、ギシャの姿を15歳に成長した姿へと変化させた。マイヤ サーア(aa1445hero001)は瓦礫の中にウエディングドレスで佇みながら、ドリルではなく箱の浮かぶ上空へと視線を向ける。
「……頭を抑えられたままじゃ分が悪いわ。砂埃も立ちそうだし、高低差も邪魔して敵を見失ってしまうかも」
「よっし、鷹の目いっちゃおうか!」
 マイヤの言葉にギシャ、邦衛 八宏(aa0046)、ハーメル(aa0958)、不知火 轍(aa1641)が同調し、計5体のライヴスの鷹を出現させ上空へと羽ばたかせた。御代 つくし(aa0657)はメグル(aa0657hero001)と共鳴し腰まで伸びた銀髪を風に流すと、アメジストの瞳に従魔の姿を映し出す。
「何か探しているのかな……?」
『何だとしても、味方ではない以上破壊した方が良さそうですね』
 メグルの言葉につくしは頷き、前方を這い進む従魔目指して駆け出した。つくしを基点にカグヤが、同時に走り出した佐倉 樹(aa0340)を基点に虎噛 千颯(aa0123)がフットガードをまとわせる。
「極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』!」
「ブルームフレア!」
「つくしちゃん、樹ちゃんぶっぱなしちゃってー!」
「メグル殿、シルミルテ殿、頼りにしてるでござる」
 千颯と白虎丸(aa0123hero001)の声援を背に負いながら、2つの魔法攻撃が2体の従魔を包み込んだ。1体は塵と化したが1体は炎と瓦礫を突き進み、それを尻目に華留 希(aa3646hero001)が麻端 和頼(aa3646)へひそひそと声を投げ掛ける。
「ココが爆男の死んだ場所かー!」
「そんな場所に従魔か……何かきな臭えな……」
「それより、ガイルとデランジェだー! ヤホー!」
 淡々とした口調でハイテンション気味にガイル達に手を振る希の姿に和頼は呆れ項垂れた。その姿から希と和頼の過去を推し量れる者は多分ほとんどいないだろう。一方、そこからやや離れた所で、砂塵を巻き上げながら向かってくる従魔に祖狼(aa3138hero001)が声を荒げる。
「おい、なんだアレ?」
「……! 従魔! 祖狼、リンクいきますっ!」
「緊急事態だ、行くよ百薬」
 祖狼と共鳴したライロゥ=ワン(aa3138)と同じく餅 望月(aa0843)も百薬(aa0843hero001)と共鳴し、その姿を大きな羽根を負う戦乙女へと転じた。和頼の死者の書、ライロゥの15式自動歩槍「小龍」、望月のスナイパーライフルがそれぞれに従魔を撃ち抜き、2体のC&Cを瓦礫の一部へと変える。
『ダム氏達の方にも来るかも。敵の情報を伝えておこうよ』
 俺氏の言葉に樹が頷き無線機を取り出した。「どうした」という声が終わらぬ間に冷静な口調で用件を述べる。
「こちら側に従魔が出現しました。警戒を強めてください。『私達』に目もくれず何かを探している模様です。人からマナを摂取する以上のやつらの完備か使命があるようです」
「そちらにも襲撃が行く可能性が高い、用心してくれ。そっちとは違うかもしれんが、こちらの敵は移動するドリル、それを生み出す箱、もう一種砲身の生えた妙な箱が浮いているが……」
「……頭上注意、だね。言わずもがなだけど言わないよりはマシでしょう。あと、市街地に行く可能性、高いね。広州と似た手口の攻め方してたんだから、考慮はするさ。地元の古龍幇の方が適任じゃない? 時間がねぇからな、最初が勝負だ」
「こっちの方は任せて、そっちはそっちの目の前の敵に集中してちょうだい」
「……こちら、『処理』に入ります」
 麻生 遊夜(aa0452)、轍、志賀谷 京子(aa0150)の言葉も送り、樹は通信を切り上空へと視線を向けた。先程従魔を吐き出した青い箱が、追加とばかりにC&Cを計9体排出する。別れて対処した方が良さそうだ、そう判断したエージェント達は五方へと散開した。

●東西南北心
 八宏は東側の最も高い位置にあるコンテナへと登り上がると、肩掛け付きのクーラーバッグを下げながら鷹と己の目、両方から敵の動きに意識を向けた。空には青い箱が3つ、赤い箱が6つ、地上では9体のC&Cがそれぞれ動きを見せている。骸 麟(aa1166)は瓦礫の中で足を踏みしめフェイルノートを引き絞ると、上空を漂う青箱目掛けて「無駄なしの弓」を撃ち放った。しかし矢は下方を流れてきた赤箱に遮られ、宍影(aa1166hero001)は麟の背後に幻影と佇みながら言葉を漏らす。
「何ともちょこまかと……これは修行にはもってこいの場所ですな」
「しっかし、このドリル野郎一体何探してるんだ?」
 麟は一度腕を下ろし地上へ黒い瞳を向けた。C&Cはドリル従魔らしく数個体がドリルで穴を穿ち掘り、数個体は横向きにそれぞれ何処かに向かっている。その様子に、ガラナ=スネイク(aa3292)は目つきの悪い三白眼をさらに眇めて忌々しげに舌を打つ。
「チッ! あのエテ公、くたばってもメンドクセェもん誘き寄せやがるなぁ……!」
『よくわかんないけど、兎に角あの変なのブッ叩いていけばいいのよね!』
「んじゃま、ガラナちゃんに合わせるよ!」
『リヴァ殿背中は任せるでござる』
 リヴァイアサン(aa3292hero001)に千颯と白虎丸が声を重ね、近くで穴を掘るC&C目掛けて足を踏み出した。千颯がフラメアを引くに合わせガラナも鋸歯大刀を振り、柳葉の穂先と鋸状の大刃を同時に従魔へ叩き込む。
「何の目的か知らねぇが、好きにはさせねぇよ! くたばっとけぇ!」

 西に立つカグヤは「宇宙の神秘が記される」と言うラジエルの書をその手に開くと、白いカード状の刃を生み出し青箱へと差し向けた。央も九陽神弓を空へと構え、こちらは赤箱へと太陽殺しの矢を立てる。
「あの箱従魔、降りてくる気配はない……だとすると落としてきたドリル型が奴等の本命?」
『何にしても良からぬことではありそうですね』
「とりあえず止めなきゃね!」
 つくしはメグルに言葉を返すや宝典の魔術を移動するドリルへ放ち、和頼がさらに白い羽根のライヴスで従魔の身を穿ち抜く。塵と崩れるC&Cに、天狼(aa3499hero001)が土御門 晴明(aa3499)の内で幼い声を漏らす。
『なんなのかな? あれ』
「とりあえず、ぶっ潰していけば、なんかわかっだろ」
 晴明はぶっきらぼうに言い捨てると、瓦礫を砕く従魔に飛び掛かり柳葉刀を振り下ろした。さらに遊撃として動くギシャがアサシンの身軽さを活かし、背後から襲い掛かって竜の鉤爪で縦に割く。
「でもー、たけのこじゃ前か後ろか分かんないねー」

 南側に位置したハーメルは鷹の目を通して敵に注意を払いつつ、自分の近くで穴を掘るC&Cにハングドマンの一対を飛ばした。轍がネビロスの操糸で従魔を上から絡め取り、粉々に引き砕いて瓦礫の内へ紛れ込ませる。
「……コンテナが多いんだから、擬態するなら『箱』、ドリルは瓦礫を掘り進めるため……場所が場所だし、従魔だって適した状態で来る、って事かな……」
『古龍幇にも言ったように頭上には注意を、ですね』
 雪道 イザード(aa1641hero001)に黙しつつ轍は鷹の向きを変えた。5体いるとはいえやはり無駄な動きはしたくはない。一方、祖狼はライロゥと視界を共有しつつ青い箱を眺め上げる。
『なるほどな、アレが親か』
「従魔を吐き出す従魔カ……早めに倒さないと厄介ダナ……」
『愉快な箱じゃな』
「愉快カ? どうせ碌な事考えていないのだロウ。……殲滅スル」
 ライロゥは小龍の銃口を青箱へと向け引き金を引いた。目につくのはC&Cだが、空中を漂う箱を優先すべきと判断した。零月 蕾菜(aa0058)も十三月 風架(aa0058hero001)に由来する朱い翼と鳥の脚を纏う右腕に死者の書を広げると、白い羽根のライヴスを青箱へと撃ち放つ。
「敵の狙いは何ですかね。 泳がせようなんて思ったら手数が足りませんね、速攻で片付けてから考えましょうか」
 望月は仲間達に問い掛けつつ、トリアイナの刃をC&Cへと振り下ろした。C&Cは海神の三叉槍を受けつつも、望月を無視するように瓦礫の中を突き進む。

 唐沢 九繰(aa1379)は咄嗟に北に配置する仲間のクラスと得意武器を頭の中で再確認した。近接主体の自分はC&Cを対応すべき、そう考えアステリオスで穴を掘る従魔1体を薙ぎ払う。
『和馬氏、前に捕まえたマガツヒの件、覚えてる?』
 俺氏の言葉に和馬は耳を傾けた。左耳の横で、腰まで伸びた黒髪のポニーテールが揺れる。
「……地下牢で暴走して死んだ奴等か?」
『うん。マガツヒはあんな感じで証拠残さないみたい。だから――』
「今回も、ってか?」
『隠滅か回収かは分からないけどね』
「何か調査されちゃ困るもんはあるって事か」
『きっとね』
「なら急いで邪魔しねぇとな」
『何か探してそうなのから狙おうよ。移動してるのより、止まって何かしてるの優先が良いよ』
 和馬は頷きを以って返すと、九繰が薙いだ従魔へと海神の斧を叩きつけた。それに背を向け、黎夜は青空とはまた異質の青い従魔へ眼帯の外れた両目を向ける。
「ダムの仲間……戻れたみたいで、よかった、けど……まだ、何か、起こりそう……」
『あの従魔、私達よりも優先すべき事があるみたいね』
 黎夜はアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)の言葉に目元を引き締め黒の猟兵の狙いを定めた。黎夜とは別方向から雁間 恭一(aa1168)が星天の腕輪を嵌めた拳を宙に向け、黒い霧と流星を二方向から青い従魔へ差し向ける。

「無視して捜索、か……余程大事らしいな」
『……ん、失せ物? 忘れ物? …それとも』
 遊夜の言葉にユフォアリーヤ(aa0452hero001)はクスクスと内で笑みを漏らした。その隣で21歳の姿に変じた京子が、16式60mm携行型速射砲を細腕に携える。
「ここに何か価値がある? わたしたちに復讐したいだけ?」
『さて。しかしまずは排撃を』
「おーけー。やるよ! 高い位置にいるのは守りたいから、という事で青の箱から狙い撃ちね」
 アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)に京子は頷き速射砲を従魔へ構え、遊夜と構築の魔女(aa0281hero001)もそれぞれ得物の狙いを定める。赤箱の姿が逸れ、3つの青箱が見えた所で一斉に引き金を引く。
「とりあえず、減って貰おうか!」
『……ん、外さない、よ』
 遊夜とユフォアリーヤの声と共に、三人の狙撃手によるトリプルトリオは従魔に「ジャックポット」した。神速の早撃ちは破壊とまではいかないまでも、それぞれの外表に致命的なヒビを走らせる。
「お見事でござる!」
「ドリルも、これで3体です」
「こっちの人数に対して従魔の数が少ないのう。やることなさげじゃ。早々に終わらせてあの猿の遺品回収を……」
 ガイルが称賛の声を上げ、エステル バルヴィノヴァ(aa1165)が望月の攻撃したC&Cに蜻蛉切を落として言葉を続け、カグヤが従魔達に興味を失ったように呟いた。その声を打ち消すように、青箱が今度は12体のC&Cを排出する。
「数を増やせばいいというものではないぞ。早々に始末してわらわはもっと面白いものを……」
『和馬氏、何かくるよ』
 俺氏が和馬に告げたと同時に、ほぼ沈黙していた赤箱の砲身が一斉にエージェント達に向いた。それに合わせるように、地面を這い始めたC&Cがエージェント達に突撃する。
「なっ!」
 エージェント達はC&Cのドリルアタックを防御し、あるいは回避したが、巻き起こった砂塵と赤箱が放ったとりもち弾に対処する事が出来なかった。半数の者にとりもちが張り付き身柄をその場に拘束される。
『小癪な真似を』
「とりあえず一つだけでも仕留めないと」
 アイザック メイフィールド(aa1384hero001)の言葉に蝶埜 月世(aa1384)はヴァリアブル・ブーメランを最もダメージの大きい青箱へと打ち放ち、ガイルも習って銃弾を向けた。青箱の1体は砕けたが、計15体のC&Cが瓦礫の中を横断する。
「今動けるのは13人……形勢逆転という所か」
「拘束された者が多過ぎじゃ、先に箱の破壊を狙うかの」
 麟は弓で、カグヤは魔法書で、東西から青箱目掛けて得物を撃った。しかし双方の攻撃は下方を流れ漂ってきた赤箱にそれぞれ阻まれる。
『やっぱり、高い位置にあるのは守るため……こうまでして回収したい所を見ると敵にとって余程大事な物のようね』
「なら、みすみすくれてやる訳にはいかんな……!」
 央はマイヤの言葉に歯を食い縛り孤月を抜くと、ジェミニストライクを展開しC&Cへ斬り掛かった。遊撃班に応援を要請したいが手が回らないのは何処も同じ。央と同じくとりもちを逃れた和頼も、瓦礫を掘るC&Cにバニップの杖を振り下ろす。
『……? 何か探してる? お宝かな!』
「んな訳……と思うが、気になるな……奪うか」
『人のモノって欲しくなるね!』
 一見無邪気に聞こえる台詞を希は淡々とした調子で述べた。和頼の赤い瞳が同意するように鋭く光る。

「何かを、探してる?」
 C&Cの動きを観察し九繰はぽつりと呟いた。南ではハーメルと轍が、中央では京子とギシャがそれぞれ協力して従魔を1体ずつ撃破している。九繰の呟きに俺氏も和馬へと声を掛ける。
『あそこ、敵が探ってるし何かあるかも』
 九繰と和馬は頷くと、二つの斧を同時に振るい穴を穿つC&Cを砂塵の一部へと変えた。その下にあった瓦礫をアステリオスと海神の斧で掘り砕き、そして、出てきたモノに九繰が思わず鋼製の右腕で口を覆う。
「うわ……」
 それは、死体だった。顔が潰れて判別する事も叶わない、名もなきマガツヒの戦闘員。拳を再び宙に向ける恭一の背後で九繰が声を張り上げる。
「敵の狙いが分かりました、遺体を探しているみたいです! でも、一体何のために……?」
「やれやれ……結局、従魔連中と協力して墓場の清掃か……」
『ふ……随分恵まれた屍体共だな。ちゃんと掘り返して貰い、棺桶まで用意してくれる。雁間、マガツヒに鞍替えしてはどうだ? HOPEより扱いが良いぞ?』
「……くたばる奴が多いから屍体扱いを良くしなきゃなんねえんだろ? 御免蒙るね」
 マリオン(aa1168hero001)の辛辣な提案ごと打ち砕くように恭一は光弾を射出した。しかし攻撃は赤箱に阻まれ、恭一は成長したマリオンの姿で舌を打つ。
『どうやら、また増えるようですよ』
 エミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)の言葉と共に、青箱から計8体のC&Cが落下した。同時にとりもちがようやく剥がれたらしく、拘束されていたエージェント達がそれぞれに走り出す。
「まずは情報の統括だ。現在C&Cが何体いるのか、何処にいるのか、ついでに遺体の位置情報も集めたい所だ。俺は弱点を探しつつまずは青箱の殲滅、か?」
「遺体を探している……もし先の愚神の爆発に巻き込まれているのなら、重さにもよりますが爆心地から外周へ飛ばされる可能性が高い、はず。爆心地を中心に掘り起こされた地点のマッピングを行いましょう。あとは探し物があるなら……退路も確保しないと意味がありません。地上と地下から逃げる場合は他の方に任せ、私は空を飛んだ場合を警戒しましょう」
『ロロ……』
 遊夜に構築の魔女が言葉を返し、辺是 落児(aa0281)が内で声を漏らした。遊夜が仲間の情報に耳を傾けながら青箱を狙い、構築の魔女と京子もそれぞれ宙へと銃口を向ける。
「こっちに攻撃するより優先してることがあると思ったら」
『……ここにあるもの。遺体の回収、って事でしたか』
「絶対に逃がさないようにしないとね!」
 京子とアリッサの言葉と共に遊夜と構築の魔女のテレポートショットが青箱に撃ち込まれ、京子の銃弾も同じ従魔に更なるひびを走らせた。だが破壊にはあと一歩及ばない。エステルが近くのC&Cに一撃を入れ粉砕し、掘っていた場所を改め遊夜へ声を張り上げる。
「何もない……センサーか何かで狙う地点が分かっているのかと思いましたが……こうなると従魔を野放しにしておく理由もありません、あの青い箱を早目に破壊する事を中心に考えた方が良いですね……みなさん!」

 八宏はライヴスゴーグルの下で瞳を苦渋の色に染めていた。ライヴスの流れが見えないか、四散した肉片や血痕の名残から遺体を捜索出来ないかと探し回っているのだが、ライヴスの流れは見えず、C&Cの移動により地面はぐちゃぐちゃに荒らされている。
「……もとより、御遺体が掘り出されるだろうと思って……まさか、こんな事に……とは……」
 一方、麟は装備を白虎の爪牙に持ち替えて、向かってきたC&Cに一撃を振り下ろした。そこに樹がウィザードセンスで強化したライヴスの羽を叩き撃つ。
「怪しいって思ったら……何やっちゃってるの!?」
『遺体を集めているでござるか……? 何のために……?』
「遺体の回収が目的だぁ? フランケンシュタインでも作ろうってのかよ」
『とにかく、止めるでござる』
 白虎丸の言葉と共に千颯が武芸服をはためかせながら大槍を従魔へ突き刺した。それでもなお地に潜ろうとするC&Cを、ガラナはストレートブロウで上空目掛け吹き飛ばす。
「ブッ飛べオラぁ!」

 カグヤの放った白い刃を追うように、つくしが上空へとブルームフレアを解き放った。刃と炎に切り裂かれ赤い箱が1体灰と消えていく。
「麻端! 右後方にドリル型だ!」
 央は声を張ったと同時に、自身はもう一つ視界に映る赤箱へと弓を向けた。大規模作戦で共闘した仲間の指示に和頼は杖を振り下ろす。
「こいつらに探させてから奪った方が楽そうだが、とりあえず数は減らさんとな。ガイル、いいか?」
「ラジャーでござる!」
 和頼の言葉にガイルは従魔への追撃を以って答えた。ギシャも爪牙をC&Cへと殴り込み、晴明が重ねて袈裟斬りに片刃を落とす。
『うーん、なんで死体なんて必要なのかな?』
「何かがあるから、回収に来たんだろ。それが何かはこっちが先に手に入れて調べればいいって話だ」
『……また、難しい話?』
 天狼の声に、晴明はふうと息を吐いた。鬱陶しいと愚痴るばかりの青い長髪を後ろへ流す。
「難しい、簡単な話なんてものはお前の気持ち次第だ。正直な話、どんな物事でも簡単なものなんてありゃしねェよ。ここはそういう世界だ。
 とりあえず、勘を頼りに歩き回ってみるとするか。当たれば、そこで待ち伏せもありだな。もし、そこが目的なら来るだろうし。
 当たるも当たらねェも、動かねェとわからねェしな」

 恭一はC&Cを遺体から引きはがすために守るべき誓いを展開させた。発散されたライヴスに引き寄せられた従魔へと黎夜がブルームフレアを炸裂させ、そこに九繰、和馬が斬り込んで2体を瓦礫の一部へ還す。
 反対側の南では、ハーメルが鷹の目を通した敵の位置を通信機で仲間に伝えていた。轍は何か痕跡がないかと目視とライヴスゴーグルを使って探索に当たっていたのだが、
「……何も見えない。周辺あんだけ派手にやったんだ、ライヴスで溢れてんだろって思ったんだけど……従魔が邪魔なのか、瓦礫が邪魔なのか、それとも……」
「吹ケ……乱羽!」
 ライロゥは多くを巻き込むべく箱の真下に移動すると、守りを崩す不浄の風で箱の群れを覆い囲んだ。そこから少し離れた所で望月と月世がC&Cを1つ破壊し、その下から腿から上を失った脚を一本発見する。
「これ、もしかしてエクスプローションの……」
「またドリルが増えるぞ!」
「任せて下さい、ブルームフレア!」
 遊夜の声に蕾菜が応え、ライヴスの炎を従魔の浮かぶ上空へと打ち上げた。青箱の1つが宙に崩れ、4体のドリル型従魔が新たに瓦礫に着地する。
『……これで16』
「全体に散らばっているようですね。麻生さんに連絡して詳しい配分の指示を……」
『樹、見テ。何カ様子ガ変ダよ』
 墓守(aa0958hero001)とハーメルより北東の方角で、シルミルテ(aa0340hero001)が樹へと合成音声で呟いた。見れば、先程はドリルのような形をしていた従魔が、何かを包み飛び立とうとするような形へと変わっていく。
「……どうやら、従魔が遺体を見つけてしまったみたいです」
 仲間達に向けそう言葉を発した樹の二色の虹彩は、何故か楽しさを滲ませるように光を反射し輝いていた。

●収集
「こいつもか……とにかく動きを止めるぞ!」
 近くに変形する従魔を見つけた遊夜と樹はそれぞれサンタ捕縛用ネットを取り出すと。その動きを封じるべくC&Cへと投げ付けた。しかし、従魔はネットをブチブチと引き千切りながらプロペラらしきものを広げていく。
「……邪魔をするなら、去なしますよ」
『わーお、珍しく顔と言動が一致してやんの』
 稍乃 チカ(aa0046hero001)の茶化しを半ば耳に流しつつ、八宏は地獄の門番と見紛う表情で従魔に縫止の針を放った。そこに麟も弓を撃ち、内に取り込んだ中身ごとC&Cを打ち砕く。京子とエステルももう1体の変形従魔の元へと急ぎ狙いを定めると、速射砲と蜻蛉切にてその企みごと瓦礫に変える。
「これで残り14体。発見された遺体が狙われる可能性もありますので、それらの地点の拠点防御も……」
 エステルが声を上げたその時、新たに生成されたC&Cがドリルを回転させエージェント達に襲い掛かった。かわしたと同時に5体の赤箱がとりもち弾を一斉発射し、計12名が瓦礫のただ中でその動きを封じられる。
「ぬう、面倒じゃのう」
「仕方ねえ、何にしても壊して壊して壊すだけだ」
 呆れ交じりのカグヤの声に、和頼はむしろ笑みを浮かべて得物片手に駆け出した。炎揺らめく半人半獣の姿で、持ち前の殺戮本能を惜しげなく腕に滲ませる。
「壊す壊す壊す、ぶっ壊す!!!」
「行くぞ、麻端」
 央がハングドマンの鋼線を駆使してC&Cを縛り上げると、和頼が嘴を伸ばす杖を振り一撃の下に粉砕した。カグヤが空を飛ぶ青い箱へと白いカードを撃ち放ち、轍がC&Cを女郎蜘蛛で捕らえた、所をハーメルが投擲ナイフを雨と降らせて破壊する。
「……本当は捕獲したい所だけど」
『もう少し余裕が出来たら、ですね』
 イザードの静かな諫めに轍は赤い瞳を細めた。一方、九繰、和馬、ギシャは恭一の放ったライヴスに引き寄せられる従魔へと各々の得物を振り落とす。
「キリがないな……掃除が進む所か手間が増えてる気がするが?」
「それでも、やるしかないでしょう」
 恭一に言葉を返しながら月世はドラゴンスレイヤーを携えると、ヘヴィアタックの強撃をC&Cへと叩き込んだ。しかしそれを嘲笑うように、再び4体のドリルが青空から落とされる。さらにエージェント達の視界の端で、3体のC&Cが変形を始めているのが見える。
「マガツヒ構成員を一人発見した!」
「奪われないよう守るんだ。北方面と西方面にマガツヒ構成員が一人ずつ、南東方面にエクスプローションの左脚一つだ。現在のドリルの数は13か」
「支援が必要なら要請を!」
 遊夜と京子の言葉に八宏がエクスプローションの左脚へ、エステルが北方面の遺体の元へと駆け出した。拘束を解いた者達もそれぞれ己の持ち場につき、各々視界に映り込むC&Cの撃破に当たる。
「とりあえず、あの箱を壊すべきだよね。みんなで一斉にブルームフレア……」
 つくしが声を掛けた瞬間、赤箱が三度地上へととりもち弾を発射させた。拘束された仲間に対し、しかしカグヤが、エステルが、望月が、和頼が、一斉に方々へ走りクリアレイの光を向ける。
「早う頼むぞ」
『お願いね』
『天使健在よ』
『治すのは任せてねー』
 カグヤ、泥眼(aa1165hero001)、百薬、希の声にソフィスビショップ達は頷いた。つくしが、ライロゥが、黎夜が、蕾菜が、上空へ八つの瞳を向ける。
「『アルスマギカ・リ・チューン』!」
「盛レ……幻華!」
「……壊れろ」
「させません、絶対に!」
 四つのブルームフレアは上空にて炸裂し、空を焦がすかと思う程の巨大な炎の花を咲かせた。最後の青箱と赤箱3つがその中で灰と立ち消え、残る2つの赤箱が所在なさげに浮いている。
「虎噛さん、これ、預かって頂けませんか」
 樹はタオルケットを取り出すと、ライブスフィールドを展開させた千颯の手へとそれを渡した。視界の隅では仲間達が従魔の殲滅に当たっている。
「エクスの部位が他に見つかったら……遺体回収の際包むのにお使い下さい。今までのヤツラは『死んだら』灰塵となるのが通例でした。それがエクスはなっていません。形の上では死んでいてもいつ『黄泉返る』かわかりません。念のため遺体同士を接触させないように。
 ヤツラは『人』の常識を大きく外れていますからね……」
「それはいいけど、樹ちゃんは?」
「私は、取り纏め者の元へ行こうかと」
 樹は言うや否や得物をウィップダガーへ持ち替え、変形中のC&Cへと素早く鞭を巻き付けた。さらにダガ―を胴へと刺し、きつく武器を握り締める。
「もし、この従魔が黒幕の元に戻るなら、回収を行おうとしている者に接触出来る可能性も……」
 その時、生き残っていた赤箱がとりもち弾を発射した。樹は拘束されて瓦礫に落ち、ダガ―を刺されたC&Cはそのまま飛び立とうとする。
「残念ながら、それは出来ない相談のようですね」
 構築の魔女は魔銃「フライクーゲル」を取り出すと、回収を阻止するべくロングショットを撃ち放った。C&Cは中身ごとボロボロと崩れ去り、樹の足下にウィップダガーがカツンと落ちる。
「それは……残念ですね」
「またチャンスがあるよ、樹ちゃん」
『今はこの場で力を貸して欲しい……でござるよ、樹殿』
 千颯と白虎丸の言葉に、樹は小さく息を吐いた。そして魔女服に張り付いたとりもち弾を引きはがしていく。
「仕方ないですね。楽しみは次に預けておく事にします」
「北東方面と南西方面に変形従魔が1体ずつだ。他の4体は構成員の遺体がある西と北に向かっている、行けるか?」
「もうドリルが増える事はない。十二分に対応出来る」
「それじゃあ、中央組は残った赤箱の対処に当たるとしますかね」
 央の言葉に遊夜は返し、ハウンドドッグを空へと向けた。方々で従魔の爆砕音が響き渡り、程なくしてコンテナ集積場に静寂が訪れた。
 
●廃苑
「そうですか、それでは失礼」
 京子は可愛らしくお嬢様言葉で締めくくると無線機の通信を切った。古龍幇の戦況を聞き、必要であれば応援に向かおうと思っていたのだが、こちらからの連絡も功を奏しひとまず何とか収めたらしい。とりあえず事態が沈静化した事にほっと胸を撫で下ろし、足下に置かれている遺体達へと視線を向ける。
 原型のまま回収できたのはマガツヒ構成員とおぼしき遺体が2体と、エクスプローションのものと思しき左脚。他は全てドリル型従魔と共に粉々に爆散したらしい。原型のまま回収出来た遺体は樹、つくし、轍が提供してくれたタオルケットにそれぞれ包み、爆散したものについてはHOPEに判断を仰ぎ、出来る範囲でという事で砂塵ごと回収する事となった。
「とは言っても一応だがな。ちなみにライヴスゴーグルを使って従魔や愚神の死体にライヴスの流れを見る事は出来るかどうかについてだが、強力な敵の遺体や激戦の後であれば可能性は高い、らしい。ただ、時間が経過すると共に見える可能性は低くなるそうだ。今回は爆散した上に時間も経ち、瓦礫に隠れていたからな、見えなかったのはそのせいだろう」
 轍と八宏の疑問にオペレーターはそう答えた。ちなみに従魔が爆散した跡を一通り歩いてみたがライヴスの痕跡は見られない。エクスプローションのライヴスもすでに消滅したと推測出来るが、念には念をという事で回収する運びとなった。
「とりあえず、回収したものから護衛を付けて分析班に送るわね」
「ああ、よろしく。無理はするなよ」
「まったく、死んでも厄介事呼び寄せるなんてホント迷惑な奴よね!」
 オペレーターに話す京子の後ろで、リヴァイアサンがヘソチラミニスカセーラー服でぷりぷりしながら腕を組んだ。魚の鰭の様な耳の上で青い緩やかウェーブツインテールを揺らすリヴァイアサンのその横で、ガラナも眉間に皺を寄せながら三白眼の瞼を閉じる。
「全くだ、黙って死んどけってんだクソメンドクセェ」
「爆男狙いならマガツヒかなー」
 15歳の少女から10歳の子供の姿に戻ったギシャが小首を傾げて疑問を投げた。それに対し、俺氏が自称鹿なのに人間の腕を組んで意見を述べる。
「可能性は高いと思うよ。さっきも和馬氏と話してたけど、マガツヒは証拠残さないみたいだからね。今回も隠滅か回収かは分からないけど、可能性はあると思う」
「回収だとしてもこんなもん、一体何に使う気だ?」
「狙いは遺体そのものか、それともゾンビでも作る気かね? 何かしら分析できると良いが……」
「弔いなどしない連中だから、廃物利用だろうな。爆発物としては使えそうだ」
 和頼と遊夜の言葉に、どらごんも三等身着ぐるみの見た目でハードボイルドに口を開いた。白いとんがり帽子型覆面とずんぐりむっくりした可愛らしい三等身着ぐるみドラゴンが向かい合って話をする、中々シュールな光景だったが、ギシャはそんな空気に一切構わず元気いっぱい拳を上げる。
「いつかたおーす」
「ところでこれ、爆発しないよね?」
 望月は集められた遺体や砂塵に改めて視線を落とした。白虎丸も白虎の被り物の下から金色の瞳を下に向け、そして千颯に視線を移す。
「千颯、試すでござる」
「なんで!? 白虎ちゃん、オレちゃんに何か恨みでもあるの!?」
「冗談でござる。邦衛殿や不知火殿、オペレーター殿の話ではライヴスは残ってないそうでござるし、集めている最中爆発していないので大丈夫だと思う……でござる」
「……まあでも、左脚は近付けない方がいいかもね。くっついたら大変だもんな。再生力高かった、あり得る……」
「では、こちらは僕が預からせて頂きます」
「……そうだね、プロに頼んだ方がいい。流石に失礼だと思うし」
 轍の言葉に皆が頷き、遺体の監視は八宏が行う事となった。一段落らしい雰囲気に希が和頼へ声を上げる。
「それよりお風呂ー! 埃塗れだよ!」
「探し物は回収・破壊しましたし、もう従魔は来ないでしょうか?」
「取り除けた“はずだ”では不十分ですので、全域検査が必要でしょう」
「です、よね。あはは、大仕事ですね」
「だとよ、風呂はお預けだな」
 エミナと和頼の言葉に、希と九繰の周りへと微妙な空気が漂った。そんな二人にデランジェがクスクス笑いながら声を掛ける。
「もう少し頑張らないといけないわねん。その後みんなでお風呂に行くっていうのも悪くないかもしれないわん」
「そうだね、みんなケガはなかったみたいだけどそれなりに汚れちゃってるし、私もさっぱりしたいし、一生懸命頑張ってみんなで早く終わらせよう!」
 デランジェの言葉につくしが元気いっぱい腕を上げた。「お風呂」に対してそれぞれがどのような反応を示したかはご想像にお任せとする。
「じゃ、それまで片付けついでに探索だね。ところでどうやって探してたのかな。外れてた所も見るとあてずっぽうぽかったけど、もしかしたらセンサーとかついていたかもしれないし」
「どうやって飛んだかも調べたい」
 ひょこりと顔を出した百薬に望月は紫の瞳を向けた。自称天使を見、その後ろに生えている羽根を見、そしてC&Cが混じった塵に視線を向ける。
「はいはい、がんばろうね。そもそも百薬は飛べるんでしょ?」
 望月の容赦ないツッコミに百薬はびしりと固まった。そんな百薬の横で望月は老婆餅を取り出し一口ぱくりと口にくわえる。
「ん、おいしい。香港おやつも侮れないね。
 そういえば謎パン商品化おめでとうってニンジャに言っておかないと。一体何処にいったんだろう」

 樹は散らばる瓦礫の山にふうと重く息を吐いた。とりもち弾はクリアレイを掛けてもらってとりあえず綺麗にはがれたが、その間に従魔は全て討伐されてしまっていた。実はもう一度チャンスがあればと考えていたのだが……そんな樹を、ガイルは励まそうと一生懸命拳を振るう。
「樹殿、元気を出して欲しいでござる! 気を取り直してイッショウケンメイ片付けを頑張るでござ……」
「……ござるー!」
 樹を励まそうと拳を上げたガイルは、蟠桃を持って抱き付きにきたユフォアリーヤに押し流された。顔を真っ赤にしながら口をもごもごされている気がするがあまり気にしない事にする。
「確かに、終わった事を悔いても仕方がないですね。探索にでも行こうかな。もしかしたら取り纏めさんが来ているかもしれないし……」
「……そういう事なら、一緒に行く」
「不知火さん」
「……どういう目的かは知らないけれど、従魔に任せっぱなしってのはお粗末だし……イザードも行くよ。見つけたら捕縛……」
「分かりました、ご一緒します。あと背筋はちゃんと伸ばして下さい。変な姿勢で歩いているといつか腰を痛めますよ」
「……」
 轍は口うるさいオカン、もといイザードの言に少し嫌そうな顔をしたが、オカンに口答えしても勝てないのが悲しい世の常である。そのまま黙して樹とシルミルテと共に黒幕探しに歩いていった。
 一方、カグヤは瓦礫のただ中に立ちながら残念そうに首を振る。
「この騒ぎじゃと遺品回収は無理そうじゃの。古龍幇担当区域の方も戦闘は終わったと言うし……うむ、しかし従魔を送った愚神が古龍幇担当区域に来ている可能性も十分あるのう。わらわはそちらの支援に行くぞ」
「……復興支援が面倒だからじゃないよね」
 クーの毒のある指摘に対し、カグヤはにこりと笑みを浮かべた。蜘蛛を敬愛し、和装に必ず蜘蛛の巣の意匠を用いる技術姫は、まるで演説するように白魚のような両手を広げる。
「そんな事は決してないぞ。従魔共を送った愚神が来ている可能性は決して低くはないだろう? もしかしたら面白いものが見つかるかもしれないし、古龍幇との友誼を繋ぐ道筋にもなるはずじゃ」
「……」
 クーは眠そうな半目でカグヤをしばし眺めたが、まあいいかと口をつぐんだ。カグヤが自分の興味のある事にしか興味を抱かないのに対し、クーは全てがどうでもいい。どうせすべてはうたかたの夢。眠っている間に通り過ぎ、自分を残して消えていく……クーはただそのうたかたに流れ漂うだけである。
 
 八宏は集まった遺体の処置を済ませると、その場で出来得るせめてもの供養を一人ずつに行った。一体何処の誰かも分からないし、もしかしたらすでに人間ではなかったかもしれない。エクスプローションに関しては左脚のみ。もしかしたら地獄とやらで八宏の行為を嘲笑っているかもしれない。
 それでも、葬儀屋として見過ごす事は出来なかったし、一人の人間として堪えきれぬ怒りを胸の内に抱えていた。死者への黙とうを捧げながら、その表情から怒りと苦渋は消えはしない。
「誰方の意向かは、存じ上げませんが……こんなこと、断じて許せません……」
「一緒に、いいか」
 背後から声を掛けられ、八宏はそちらに首を向けた。見れば黎夜が、アーテルを横に伴って遺体に手を合わせ向けている。
「……黙とう……しようと、思って……死体には、興味はねーんだ……死んだなら、どれも同じ……だから……。生き物の、避けられねーものだから……」
 黎夜はたどたどしい口調でそう言った。何度かマガツヒに遭遇している黎夜は、この遺体達に何かしらの価値があり、そのために回収しようとしたのではないかと考えていた。もしかしたら何かに使う可能性も……それでも、やはり黎夜にとっては遺体であり、丁寧に扱い、黙とうすべきだと思ったから、先程出来なかった分も合わせてそれを行いに訪れたのだ。黎夜とは別方向から来たライロゥは、共鳴時より遥かに幼くなった姿で静かに目を閉じ、喉の内から音を奏でた。不思議な旋律を響かせる少年の唄が終わった後、ライロゥに付き従って来た祖狼は主へ問い掛ける。
「何やっておるんだ?」
「……敵とはいえ、魂だけになればかわりまセン」
「弔いの唄か」
 ライロゥは目を閉じると、再び死者達に祈りを捧げた。その罪を浄化するような焔を込めつつ弔いの言葉を宙へと掲げる。
「……来世に償いヲ……」
「……お主は本当に……」
 祖狼は皺の深い強面で緩く深く息を吐き、八宏は強張っていた表情を少しだけ和らげた。その様子を少し離れた地点より眺めながら、天狼がだいしゅきホールドで晴明にしがみつきつつ問い掛ける。
「なんで必要なのかわかったの?」
「それはまだ分からねえよ。調べるのはこれからだからな」
「難しい話ばっかりだね。ところで、なにか甘いものってないの?」
 背中で首を傾げる相棒に、晴明はハァと息を吐いた。甘いものが大好き。移動する時はだいしゅきホールド。外見は8つ。そんな天狼と一緒にいると、誘拐犯か親子に間違われる晴明である。晴明はずり落ちそうな天狼を背負い直すと、存外な世話焼き加減でぶっきらぼうに答えを返す。
「あとでな」


「もう少し丈夫に作っておくべきでしたなあ。そしたらあの可愛らしいお嬢さんが遊びに来てくれたかもしれませんのに」
 奇妙な面に顔を隠した少年は残念そうに息を吐いた。視界の内にあるのは従魔に上半身を密着させ、自分の元に来ようとしていた魔女姿の一人の少女。ちなみに少年の「視界」にどんな「光景」が映っていたかは詳しく述べないものとする。
「他にも面白そうな人達がたくさんおったようどすし……今度お迎え用の従魔でも作りましょうか。エクスはんの事は残念どすが、僕も皆さんに会いたいどすし。その前に皆さんのお顔から名前調べんといけませんね。全部分かったらええどすけどなあ、僕が名前読んだらびっくりしますやろか。お話してみたいどすなあ。
 ふふふ」

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 常夜より徒人を希う
    邦衛 八宏aa0046
    人間|28才|男性|命中
  • 不夜の旅路の同伴者
    稍乃 チカaa0046hero001
    英雄|17才|男性|シャド
  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 神月の智将
    ハーメルaa0958
    人間|16才|男性|防御
  • 一人の為の英雄
    墓守aa0958hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • かにコレクター
    エミナ・トライアルフォーaa1379hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • 正体不明の仮面ダンサー
    蝶埜 月世aa1384
    人間|28才|女性|攻撃
  • 王の導を追いし者
    アイザック メイフィールドaa1384hero001
    英雄|34才|男性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • 焔の弔い
    ライロゥ=ワンaa3138
    獣人|10才|男性|攻撃
  • 希望の調律者
    祖狼aa3138hero001
    英雄|71才|男性|ソフィ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • 海上戦士
    ガラナ=スネイクaa3292
    機械|25才|男性|攻撃
  • 荒波少女
    リヴァイアサンaa3292hero001
    英雄|17才|女性|ドレ
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
  • エージェント
    土御門 晴明aa3499
    獣人|27才|男性|攻撃
  • エージェント
    天狼aa3499hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 絆を胸に
    麻端 和頼aa3646
    獣人|25才|男性|攻撃
  • 絆を胸に
    華留 希aa3646hero001
    英雄|18才|女性|バト
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