本部

逃亡者を庇護せよ

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
9人 / 5~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/05 18:31

掲示板

オープニング

 降りかかる全ての事は、運命だから仕方がないことだ。
 自分が、シーカの最高幹部に指名されたことも仕方がない。
 たった一人の身よりである祖父が亡くなったことも仕方がない。
 自分が、祖父の友人に命を狙われることも仕方がない。
 それでも、人にはそれぞれ崇高な義務がある。
 ……祖父が生前に、よく言っていた。


 シャーム共和国は、東地中海に面した国である。
 気候は地域によって差があり、南部に行けば肥沃な土地もあるが、中心部になるほどに乾燥が激しく砂漠の国となる。それでも、シャーム共和国が豊かなのは石油資源にも恵まれたおかげであろう。そんな国のとある町で、少女はふらふらと歩いていた。
 少女エステルは、空腹だった。
 祖父の友人フランツに追われる彼女は、もう一日以上なにも食べてはいない。エステルを育てた祖父ヤーセルはシーカの最高幹部らしい厳格な人間であったが、育ち盛りの彼女の食事を抜くような人物ではなかった。屋敷にいた使用人達も、エステルに美味しい食事を作ってくれていた。
 今は、もうみんないない。
 祖父ヤーセルは死に、屋敷の人間たちも皆殺しにされた。確たる証拠はないが、弱冠十三歳のエステルは自分の周りで起こった死の原因が自分の後見になるはずのフランツにあると感じとっていた。
「あ……シャワルマ」
 羊肉とスパイスの香りが、鼻孔をくすぐる。二重のうす焼きの生地に肉を包んだ料理の香りは、空腹を猛烈に刺激する。
「きゅるるる」と恥ずかしいぐらいに、エステルの腹は鳴った。大通りにあるにしては、シャワルマを出す店は客が少なそうに見えた。昼時の時間にしては少し遅いためかもしれない。だが、店に入るにしても先立つものをエステルは持っていなかった。
――私が持ち出せたのは……シーカのメンバーの『証』とおじい様から頂いた『宣誓の書』だけ。お金なんて、ぜんぜんない。
『腹がへったのか?』
 わびしい気持ちのエステルに声をかけたのは、一日前に契約したばかりの英雄であった。使用人達の血に染まった屋敷の中で、愚神に殺されそうになったエステルを助けた女性の英雄。フランツが差し向けたと思われる愚神の間の手からエステルを守った彼女は、無表情で考え込む。エステルを守ると誓った英雄アルメイヤは、なんの前触れもなく店の硝子を鞘に入れたままの剣で割った。
「なっ、なにをしているのですか!」
『忘れたのか、主よ。あなたは「我々はシーカ。混沌の敵たる堕落と衰退を討つ刃」と宣言し、私は「ならば誓う。私は刃也。あらゆる災禍より主を守る刀なり」と答え誓約を結んだ。その空腹からも、私はあなたを守りとおす』
 エステルを助け出したアルメイヤは、全ての記憶を失っていた。アルメイヤという名さえ、エステルが付けたほどだ。そして、アルメイヤは恐ろしいことに善悪の基準さえも持ちあわせていなかった。
「駄目です! アルメイヤ、持たざる者から奪ってはなりません!! 絶対に!」
 エステルの叫びに、アルメイヤは素直に従った。ほっとするエステルであったが、店の奥からガタイの良い男たちが出てくる。
「お譲さんたち、なにやってくれてんだよ。ここは俺たちが出資してる店だぜ。俺たち、アンタらのことシメなきゃなんねぇだろうがっ!!」
「ごめんなさい! べっ、弁償は後日かならずします。お願いです、許して下さい」
「あんたみたいなチビじゃなくて、こっちの姉ちゃんに言ってんだよ!」
「きゃっ!」
 男は、エステルを乱暴に押しのけた。小さなエステルはその衝撃で路上に転がり、地面に落ちていた硝子の破片で切ってしまった。
 エステルの指を伝う血を見た瞬間に、アルメイヤは男たちを敵であると認識した。


「だれか、HOPEに連絡しろ!」
 野次馬の一人が叫ぶ。
 エステルと共鳴したアルメイヤはあっという間にギャングたちを倒し、通報を受けた警官たちすらも敵に回して立ちまわっていた。
(……ダメ。アルメイヤ、やめてください)
「やった、警官があの女の武器を折ったぞ!」
「いや……見ろよ」
(おねがい……アルメイヤ、やめて)
 野次馬が、アルメイヤの頭上を指さす。何もないはずの空間から、彼女は先ほど折れたはずの剣と全く同様のものを取り出した。
「止めだ」
 アルメイヤの頭上に大量の剣の複製品が現れ、警官達を狙っていた。
(私は、戦いたくはないの!!)

解説

・店の前で大暴れしている女性リンカーの確保

シャワルマ店の前……人通りが多いが、野次馬が集まっている状態。大通りのために道は広いが、ほとんどの面積が自動車用の道路であり歩道の幅は人三人分程度。現在、交戦していない警察によって野次馬の避難と車の交通止めがおこなわれ始めている。

シャワルマ店……アルメイヤがギャングや警官と暴れたために、ほぼ半壊状態。椅子やテーブル、調理器具などがいたるところに散らばっている。

ギャング……五名出現。目覚める気配もなく、店の中で気絶している。

交戦している警官……五名出現、全員がリンカー。自力で歩ける程度には負傷している。(PL情報――リプレイは、警官たちにアルメイヤが攻撃を仕掛けようとするところから始まります)

・アルメイヤ……長身美女の英雄。かなり戦いなれており、武器は細身の剣。折れても代用品を空中から召喚が可能。PLに囲まれたり、遠距離からの攻撃を受けた際には大量の模造品を召喚して照射する。剣戟は正確無比であり、相手の急所(喉や目)などを集中的に狙ってくる傾向がある。しかし、掃射に関しては命中率が悪く、数撃ち当るの状態。アステルに忠義を誓っており、彼女を守るためならば何でもする。

・エステル……とある理由から、逃亡している少女。リンカーとしての経験は浅く、共鳴しているとアルメイヤの行動に関与できない。(PL情報……アルメイヤを戦闘不能にすると、共鳴が切れる)

リプレイ

●不可思議なアルメイヤ
 アルメイヤの頭上に、いくつもの剣が現れる。その光景は、まるで銀色に光る雨が空中で止まっているかのようであった。いっそ幻想的な光景に、警察官たちは一瞬我を忘れた。その光景は滝のなかに入り込んでしまったかのように、あまりに美しかったのであった。だが、アルメイヤの剣は確実に立ち向かっていた警官達に向いていた。
「止めだ」
 バンッ、バンッとアルメイヤに向かって銃が放たれた。
 辺是 落児(aa0281)と共鳴した構築の魔女(aa0281hero001)がファストショットを最初に撃ち、ナラカ(aa0098hero001)と共鳴した八朔 カゲリ(aa0098)がアルメイヤに向かって銃を放ったのであった。アルメイヤの意識が、警察ではなく彼らにうつる。
 HOPEから駆け付けた、彼らに。
『その忠義、見事なり』
 ナカラが、呟く。彼女は、アルメイヤが自分の契約者を庇って攻撃を続けていた事を察していた。だが、同時に残念な気持ちも抱いていた。
『……忠とは盲目的となることであるまい』
「それを踏まえた上で、暴威を振るって揮っているのだろう」
 ナカラの呟きに、カゲリは答える。
 リィェン・ユー(aa0208)は、未だにアルメイヤの近くにいる警察たちを見て危惧する。アルメイヤの意識は構築の魔女たちにそれたが、未だに剣の切っ先は警察に向いていた。
「こいつは……まずいな」
 リィェンの呟きに、イン・シェン(aa0208hero001)は頷く。
『うむ。あの警察らの命を絶ってしまったら、ややこしくなってしまうのじゃ』
「これ以上暴れて、契約者の立場を危うくするのは止めろ」
 リィェンは、アルメイヤに向かって烈風波を放つ。その勢いは、警官に向いていたアルメイヤの剣の勢いを相殺した。
「キャス」
『ハイ』
「俺たちもいくぞ」
 鴉守 暁(aa0306)とキャス・ライジングサン(aa0306hero001)そして五行 環(aa2420)と鬼丸(aa2420hero001)は、それぞれ素早く警察の元に近づく。そして負傷した警察の腕を力強く掴んで、戦闘領域から離脱した。警官達は負傷はしているものの、命に関わるようなものではなさそうであった。
『幸運の女神ヨー。運が良かったネー』
「とりあえず、あいつらは俺たちが止めねぇとな」
 キャスや環たちが警官の保護にまわっているそのころ、エステル バルヴィノヴァ(aa1165)と泥眼(aa1165hero001)は、ぼろぼろになった店内からギャングたちを運びだしていた。アルメイヤに軽くいなされたギャングたちは、皆仲良く夢の住人である。
「気の毒な一般市民には、とても見えませんね」
 それにしても、とエステルは顔を上げる。
 彼女には今回の事件のことが、残念でならなかった。
「この時期にリンカー同士のいざこざなんて……。愚神達が人間同士の不信感を増すような動きをしていることを考えれば、一般の方々のリンカー対する視線を少しでも良くしなければならないのに」
『誰もが、全体のことを思って行動できるわけがないわ。そして、リンカーだとしても日々の生活に追われるなかでトラブルに巻き込まれることもあるわ』
 泥眼の言葉は、正論であった。
 それでも、納得ができないものを感じてしまう。
「……それは、そうだけど」
 エステルが外を見やると、すでに仲間たちがアルメイヤたちと交戦していた。エステルも武器を構えて、その戦いのなかに舞い戻った。
『ちんぴら、という風にはみえないな。この世界のルールを知らぬ新参の英雄か?』
 どらごん(aa3141hero001)の呟きを聞きながら、ギシャ(aa3141)が一気にアルメイヤとの距離を詰める。デビルブリンガーを構えて、ギシャはアルメイヤの首を狙った。
「させるか」
 アルメイヤは手で持っていた剣で、ギシャのデビルブリンガーを防いだ。それによってアルメイヤの剣は一本折れたが、彼女は何もない空間から新たな剣をとりだした。さっきからアルメイヤは何度も虚空から武器を取り出しているが、彼女の武器がつきることはない。
「これ以上は、誰も傷つけさせません!」
 柳生 楓(aa3403)は、守るべき誓いを使用する。そして、アルメイヤに一番接近していたギシャに対してハイカバーリンクを発動させた。
「私を倒さないで他の人に剣一本、触れることなど不可能だと思ってください」
『守るのは楓の十八番だからね。被害を最小限に食い止めるよ』
 氷室 詩乃(aa3403hero001)は言葉に、楓は決意を込めて頷いた。
「防御は私に任せてください! 必ず守り抜きます!!」
 楓の言葉は、周囲に響きわたった。
 アルメイヤが剣を構えて、ギシャの横をすり抜ける。どうやら、直接的に防御の要である楓を狙うつもりらしい。だが、楓の前に女性が現れる。
「困るんだよねぇ。暴れる場所ぐらい考えてくれないと」
 Arcard Flawless(aa1024)は楓を庇うように、手の甲をアルメイヤの前に差し出す。カキンと高い音がして、アルメイヤの細い剣は止まった。Arcardはネビロス操糸を左手に撒きつけ、簡易的な防刃材をあらかじめ作っていたのだ。今の攻撃は、ソレで防いだのである。
 Iria Hunter(aa1024hero001)の動物の鳴き声のような言葉をArcardは聞く。彼女は、冷静に状況を分析する。アルメイヤの細い剣は、折れていない。アルメイヤは滑らかに次の攻撃に移ろうとしているが、Arcardにはそれが隙に思えた。Arcardは、ライヴスリッパーを発動させた。
 その攻撃に乗じて、ギシャはもう一度アルメイヤに接近をはかる。そして、女郎蜘蛛を発動させた。アルメイヤの動きが制限され、その隙を見逃さない仲間がいた。
 環である。
「ここが狙いだ!」
 環はヘビィアタックを使用し、細身の剣ごとアルメイヤに渾身の力で攻撃を加えた。剣の折れる感覚に、環は笑んだ。何度も彼女が武器を虚空から取り出す様子は見てきたが、それでも武器を奪えば束の間、戦力は低下するはずである、だが、アルメイヤの冷徹な瞳は輝きを失ってはいなかった。
「邪魔だ。……きえろ」
 アルメイヤの頭上の虚空に、剣が現れる。
 無数の剣の姿は、最初に警察官たちを狙っていたのと同じものだった。次の瞬間には、その剣は空から地へ雨のように降ってくる。銀の雨に、果敢に挑んだ者がいた。
「ワリィが、それだけは面倒だから出させやしねぇよ」
 リィェンは怒涛乱舞を使用し、剣を叩き落とそうとした。だが、剣の掃射は攻撃範囲が広いのかリィェンの攻撃範囲外の場所にもアルメイヤの剣は飛んでいく。リィエンは、内心舌打ちをした。自分に一人での力では、今度は防ぎきることができない。
「食事をする時は汚してはダメ、とママに教わらなかったのですか?」
 エステルは、蜻蛉切りの穂先を構える。エステルは、自分の元に剣が落ちてくるのを待った。そして、剣がエステルの間合いに届いた瞬間に彼女は舞った。落ちてくる剣たちは、エステルが操る穂先に叩き落とされる。
 アルメイヤの能力を見ていた、構築の魔女は眉を寄せた。
「人体の急所を狙える技術と広範囲に武器を射出する能力……細身の剣を武装としていますが、高位のジャックポットでしょうか? ……しかし、それだけの力があるのに何故このような騒動を?」
 構築の魔女は、ちらりと周囲を見やる。野次馬の避難や交通規制は完璧におこなわれ、自分たちが戦うべき場は整えられている。構築の魔女は、できるかぎりアルメイヤをそちらへと誘導させようとする。
「はーい、そこの人ー。話しを聞いてくれますかー?」
 暁は、アルメイヤの手足を狙いながらも彼女に話しかける。
「街中でトラブルがあったと見受けられるけどさー。敵と味方とそれ以外の区別がつかない人ー? 脅威はすでに過ぎ去っているしなー。あ、君の主と話したいから共鳴を解いて欲しいな?」
 暁はのんびりとアルメイヤに話しかけるが、狙いは正確であった。アルメイヤも暁から距離をとり、彼女を脅威とみなす。だが、暁を攻撃しようとしても楓が防御してしまう。
 防御の要は、楓だ。
 楓を倒さなくては。
「させないよ!」
 かく乱のために走り回っていたギシャが、アルメイヤの攻撃にくわえる。あくまで一撃のみをアルメイヤに食らわせると、ギシャは彼女からすっと離れた。大きなダメージを期待していないギシャの攻撃であったが、徐々にアルメイヤの体力を削っていく。
 ギシャの役目は、あくまで陽動であった。ギシャが離れた途端に、カゲリはライブスショットを使用する。足を打ち抜かれたアルメイヤは、それでも闘志を失わなかった。
 手で握った細身の剣で、アルメイヤは確実な一撃必殺を狙った。
 相手の急所を正確に突き破るための、攻撃。
 目を突きさし、喉をえぐり、足首のアキレスを切り裂くための正確な一撃。
 そのために、アルメイヤは痛めた足の痛みを誤魔化して突き進んだ。
「キミが敢えて剣を振るわなければ、此方が銃を向ける必要もなかった」
 狙われたArcardは、剣戟を防御しながら冷静に語る。Arcardに阻まれたアルメイヤは、環に狙いをずらした。
「おっと、そうはさせねぇぜ」
 環は、疾風怒濤を使った。
 アルメイヤは環の攻撃に耐えうるために剣を盾にし、自身の身を守ろうとした。彼女の体力は削られており、余裕がなくなっていた。それでも、彼女は負けるわけにはいかなかった。アルメイヤが負ければ、エステルは守れない。
 小さなエステルのために、アルメイヤは負けられない。
 そのときだった。
 アルメイヤの視界の端に、人影が映った。その人影は、リィェンであった。アルメイヤは咄嗟に距離を取ろうとするが、それより先にリィェンが電光石火を使用する。あっという間に懐に入ったリィェンに、アルメイヤは剣を振り降ろそうとした。その剣は、とても正確に自分を倒そうとする男の眼球へと向かっていた。
『これだけ正確に急所ばかり狙えるのは見事じゃが……その分読みやすいのじゃ』
 イン・シェンの言葉に、リィェンは頷く。
 その通りだったからである。
 リィェンの一撃は、アルメイヤとエステルを分けた。誰もが、決着はついたと感じた。だが、アルメイヤはまだ諦めてはいなかった。自分と別れたエステルを背に隠し、傷つき勝ち目が見えなくなってもなおも戦おうとしたのであった。
 それは、手負いの獣のような姿であった。
『剣が、ここまで担い手を無視して暴れ回るか。……微笑ましいな』
 ナラカの呟きが聞こえたわけではなかったが、アルメイヤの姿をみて決心を固めた者がいた。
 楓だった。
 彼女は、真っ直ぐにアルメイヤの元へと歩き出す。
 仲間たちは、楓を止めようとはしなかった。
 彼女が、アルメイヤに止めを刺す為に動いたのではないと知っていたからである。
 ぱぁん、と楓はアルメイヤの頬を力いっぱい叩いた。乾いた音が、野次馬のいなくなった道路に響き渡り、幼いエステルは目を白黒さえながらもその光景を見ていた。
「例えあなたが彼女を守ろうとやったことでも、結果的に彼女を危険な目にあわせていることに気がついてください。……それでも気がつかないようなら、あなたは英雄失格です」
 アルメイヤは、その言葉を受けてなお剣を握ろうとしていた。否、彼女が剣を離した瞬間などなかった。アルメイヤの闘志と忠義は、未だに燃え尽きてなどいなかったのである。エステルは、ようやくアルメイヤの腕に飛び付く。
「止めてください……戦わないで、アルメイヤ」
 その言葉に、アルメイヤは目を見開いた。
 詩乃は、周囲を見渡す。戦闘のとばっちりを食らった周辺被害は酷いものであり、怪我人がいないのが不思議なほどであった。それも警察とリンカーたちが、怪我人を出さないように努力をしたからである。そうでなければ、店に取り残されたギャングやアルメイヤに立ち向かっていた警官などに大きな被害が出てきたであろう。
『君の守りたい気持ちはわかったよ。でも、今回はやり方を間違えたね』
 詩乃の言葉に、アルメイヤは自分の腕に押さえつける契約者の姿をようやく見た。幼い手足で大人の体格のアルメイヤを止めようとする――その姿を見た。
「見ろよ、それが結果だ」
 環の言葉が、アルメイヤに突きつける。
 自分の暴力が招いた結果を。
「正しく無駄な戦闘だったんだよ。力で押し問答をする前にやるべきがあった、ということさ」
 Arcardの言葉は、果たしてアルメイヤに響いたのであろうか。

●決意のエステル
 カゲリは、仲間達がアルメイヤとエステルを囲む姿を見ていた。
 エステルは何か事情がある少女のようではあるが、カゲリ自身の目には彼女は状況に流されるだけの風見鳥にしか見えなかったのである。自分が特に干渉するほどの相手には、思えなかった。
『そちは、そこに正座じゃ!! まったく、いくら契約した相手を守るためじゃろうとその声を無視して被害をもたらすとは言語道断じゃ!! もしここに来たのが妾らじゃなかったら、今頃、そちの大事な契約者の命はなかったぞ!!』
 イン・シェンは、アルメイヤに正座をさせて説教をしていた。
 その時であった『ぐぅー』と誰かの腹が鳴ったのだ。誰もがきょろきょろと空腹の人間を探すと、小さなエステルが恥ずかしそうに腹部を抑えていた。
「ご、ごめんなさい。何も食べていなくて……」
 暁は、キャスは小銭を手渡した。
「お腹すいた? キャスー、そこでシャワルマ勝ってきてー」
『カシコマリーマスター!』
 キャスは、近くの店で人数分のシャワルマを購入してきた。ジャンクフードのように片手で食べることができるシャワルマは、立ち話をしながら食べるにうってつけであった。
 全員が、とりあえずと自分の分を一口かじる。
 珍しい味は羊肉のものだが、あるはずの臭みはスパイスで押さえられていた。クレープのように生地に包まれていることもあって、食べやすさもありながらもボリュームもたっぷりある一品だ。エステルは自分の分を渡されると、「もう我慢できない」という顔をしてシャワルマにかぶりついた。
「大丈夫か、お譲さん。俺はリィェン・ユーっていうんだが、君の名前も教えてもらえるかな?」
「……私は、エステルと申します。こっちは、英雄のアルメイヤ。私達は先日契約したばかりで、アルメイヤはまだ色々と分からないところがあって……あの、先ほどは本当にすみませんでした」
 エステルは、ちょこんと頭を下げる。その仕草は丁寧で、彼女の育ちの良さが見てとれた。
『あらエステル、同じ名前なのね。……お腹を減らしていたなんて、可哀想な子』
 泥眼は、私の分も食べなさいと自分のシャワルマも差し出す。すでに自分の分を食べきっていた幼いエステルは、泥眼の差し出したシャワルマも目を輝かせて食べた。
「腹空かせて辛かったんだな」
 ボリュームたっぷりのシャワルマを二つも食べてもまだ物足りなさそうなエステルを見て、鬼丸は呟く。
「そんな腹空かせて、親はいないのか?」
 環の言葉に、エステルの目にうっすらと涙が浮かべた。環は不味い事を尋ねてしまったかもしれないと思いながらも、エステルから詳しい事情を聞くために質問を重ねる。一番最初に思いついた可能性は、愚神によって家族を皆殺しにされたことだった。
「愚神か? どういう繋がりなんだ?」
 環の言葉に、エステルは首を振った。必死に涙をこらえるエステルに、ギシャはシャワルマを差し出す。
「こっちも美味しいよー。キミも食べるー?」
 エステルは、それも受け取った。成長期の食欲というよりは、やっと食べ物に有りつけた安心感のほうが強いようであった。はぐはぐとエステルは、自棄になったように胃に食べ物を詰め込んでいく。アルメイヤは自分のぶんには手をつけようともせずに、未だにリンカーたちを見ていた。
「私の親は、随分前に亡くなりました。両親が亡くなってからは、おじい様が私の唯一の家族で……そのおじい様も先日亡くなりました。アルメイヤはそのときに契約して、私のパートナーになってくれたんです。あの時は私も殺されそうでしたから、すごく助かりました」
 アルメイヤは、エステルの危機的状況を救った英雄であるらしい。それからずっとエステルとアルメイヤは、街をさまよっていたらしい。
「殺されそうになった?」
 構築の魔女は、眉を寄せる。
「……屋敷を襲撃されたんです。使用人達も……そのときに皆殺しにされました」
 エステルの口から出た、屋敷という単語に違和感を持つ人間は少なかった。上品なエステルの雰囲気は、屋敷で大事の育てられた令嬢のイメージにぴたりとはまったからである。
「……そのタイミングで偶然、英雄が現れる可能性もゼロではないでしょうけど」
 構築の魔女は唸りながらも、エステルが巻き込まれた事件のあらましを整理していた。エステルは祖父と暮らしており、その祖父が暗殺された。その後、屋敷が襲撃され使用人ともどもエステルも殺されるところであったが、アルメイヤに助けられて今に至るということであるらしい。
「アルメイヤちゃんについては、知識や経験の浅さからのパニックということで済むんじゃないか?」
 事情を聞いた暁は、シャワルマを頬張りながら呟いた。警察に突き出すにしても、HOPEに保護するにしても、アルメイヤが暴れたという事実は変わらない。しかし、アルメイヤが罪に問われないかもしれないと知ったエステルはほっとしたような顔をした。アルメイヤとは違い、エステルにはしっかりとした社会常識が備わっていたのである。
『HOPEは警察ではないわ。どうしようもない事情があったら、話しを聞いてくれる処よ。困って行くのなら、足を運ぶ事をおススメするわ』
 泥眼は、それとなくエステルにHOPEに保護されるように進めた。自分のパートナーと同じ名前の少女に、泥眼は庇護欲のようなものを感じていたのである。
「私が勝手に思ってるだけだけど、アルメイヤちゃんの措置としては保護観察つき要観察というところかなーと」
 暁の独り言のような言葉に、エステルは揺れた。
「HOPEですか……」
 エステルは、わずかに難色を示した。しかし、アルメイヤの顔とリンカーたちの顔を交互に見て、決心をしたように顔をあげた。
 カゲリはその表情に、決意を見た。
 風見鳥のように流されるだけだったエステルが、今初めて自分の力で決断しようとしているように見えたのであった。
「もし……抗うと決意したのならば、その時は」
 力を貸すのも嫌ではない。
 カゲリは、誰にも聞こえないほどに小さな声で呟いた。
「――決めました。私は、HOPEの元で庇護を願います」
 自分の道を決めたエステルに、Arcardはふと疑問に思った事を尋ねた。
「最後に教えてほしい。どうして、きみやきみの祖父は狙われたのかな?」
 エステルはその問いかけに、わずかに戸惑いながら答えた。
「私達は、シーカの関係者です」
 はっきりと、エステルは宣言する。その言葉に、彼女は鞄に入れて持ち歩いていたシーカのメンバーの『証』と『宣誓の書』が重みを増したように感じた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • 神鳥射落す《狂気》
    Arcard Flawlessaa1024
    機械|22才|女性|防御
  • 赤い瞳のハンター
    Iria Hunteraa1024hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • エージェント
    五行 環aa2420
    機械|17才|男性|攻撃
  • エージェント
    鬼丸aa2420hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
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