本部
レトロゲームで休日を棒に振ろう
掲示板
-
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/04/19 17:11:33 -
熱血!超忍者ブラザーズ
最終発言2016/04/23 08:18:29
オープニング
早朝の東京海上支部。ひと気もまばらで、静まり返った施設内ではゆっくりと時間が流れていた。
従魔討伐の任務を終えてから支部に宿泊していたエージェントたちはそんな中で目を覚ます。特殊事件は時を選ばずに発生してしまうので、仕事を終えても家に帰れないというのはある意味、日常茶飯事なのだ。
時刻は5時前。何故こんな早い時間に目覚めてしまったのだろう。
未だ電車は動き始めておらず、一行はすぐに帰ることは出来なかった。仕方なしに彼らは何か時間を潰せないかと、起き抜けでまどろんでいる体でのそのそと活動し始める。
泊まっていた部屋は和室。テレビを点けたり、部屋に備えられた飲食物を漁ったり、適当にネット閲覧したり。
少し時間を潰せば、後は帰るだけだった。その日は休日だったし、せっかく早起きしたのだから時間を有意義に使ってやろうじゃないかと考えたりしていた。
だのに、誰かが見つけたあるモノにより、事態は一変した。
割としょうもない方向に。
部屋の片隅に、ダンボール箱が1つ置かれていた。見るからに古びたその箱を開けると、中には1台のゲーム機と1本のソフトが入っていた。
ゲーム機には『ブラックコンピュータ』という文字が刻まれ、ソフトはカセットタイプで『超忍者兄弟』というタイトルが記されている。
いわゆるレトロゲーム。30年以上も前に発売された物のようだ。
暇潰しにはこれ幸い、と一同は大型テレビに古のゲームを繋いだ。機体やケーブル類がしっかり働いてくれるか不安だったが、ゲーム機を起動するとテレビ画面は即応し、ドット画で『超忍者兄弟』とタイトルを表示させる。乏しい音源が郷愁感を誘う、ような気がした。
スタートボタンを押すとゲームが始まる。横スクロールアクションのようだ。
キャラを動かし、敵を倒して巻物を拾う。巻物を消費すれば派手な忍術などが使えるらしい。説明書を読む限り。
少しだけ。始発が動き出すまで。
ほんの少しの時間潰し。
というつもりで始めたのに、いつの間にか時刻は午前7時を過ぎていた。電車なんてとっくに動き出している。
だがエージェントたちは一向にゲームをやめようとは思わなかった。
熱中するあまり、時が過ぎるのを忘れて、ひたすらにゲームクリアを目指していた。
腹が立つほどに難しいゲームだが、投げ出す気になれない。
やってやるぜ、今日は休日だしな。
たまの休みを無駄にする覚悟、完了です。
解説
■目的
レトロゲームをプレイしながら楽しく過ごす
■ゲーム
・『超忍者兄弟』
主人公の忍者兄弟を操る、謎の鬼難度レトロゲーム。
知名度がないに等しく、何故か情報がほとんどない。
横スクロールアクション。6エリア全18ステージ、3の倍数のステージにボス敵が待つ。
ラスボス前に各エリアのボスが連続で再登場するいわゆる『ボスラッシュ』がある。
しかもラスボスは5回の変身、計6回倒さねばならない鬼畜仕様。もはや無理ゲー。
ゲームオーバーになると最初のステージからやり直し。
コンティニューはなく、全5機でクリアしなければならない。
当然進むごとにステージは難しくなっていき、ラストステージは理不尽の嵐。
およそ一般人ではクリア不能、共鳴したリンカーの超人的能力なら何とかなるかもしれない。
2人同時プレイが出来るが、両者が一緒に進まないと画面がスクロールしないのでむしろ難しくなる。
しかも1人1機なので残機が減る速度も2倍。無駄機能である。
ちなみに残機が無限になる裏技とかもなく、ネットで調べても『頑張れ。以上』程度のアドバイスしかない。
・ブラックコンピュータ
レトロゲーム機。風圧でバグるとまで言われるスリリングな機体。
接触した日には間違いなく絶望できる。
■お部屋
・広々とした和室。
・大型液晶テレビあり。
・窓からは東京の街並みを一望できる。
・お菓子や飲み物完備。酒類はなし。
■状況
朝、眩しい日光が窓から差し込む。そんな時刻からスタート。
食事やシャワー、お手洗い等で室外に出ることは可能。
ただし乱暴にドアを開閉すると振動でゲーム機が動作不良を起こすかもしれない。
ゲームは丸1日は費やさないとクリアできない難度。最悪2日目突入コース。
クリアする頃には廃人になっているかもしれない。
ただしエンディングは恐ろしく簡素で3秒で終わる。
リプレイ
●遺物的な
時を遡りゲーム発見時。
「お! ゲームじゃねぇか。年季入ってるけど動くか?」
「ゲームとなると目ざといよねー、春翔は」
アリス・レッドクイーン(aa3715hero001)に小言を言われつつも、暇を持て余していた一ノ瀬 春翔(aa3715)は禁断の箱を開けた。
「?? 何コレ? すごく古いゲーム機って事は分かるけど……」
ルナ(aa3447hero001)が春翔のもとまで来て、彼が取り出した遺物を眺める。
「ゲーム! ……んんっ、まぁそうだな、ゲームは一通りしたことがある。暇潰しにはなるかもしれんな(ゲームだ! ゲームだ!! これはもう楽しむしかない!!)」
一瞬パァッと表情を明るくした賢木 守凪(aa2548)はすぐにそれを引き締め、普段の不機嫌面を装う。本音と建前が逆にならなくて良かった。
「でもこれぇ、かなり古くないかなぁ? 振動でバグる系かもよぉ?」
人見知り系な守凪を差し置いて、相棒のカミユ(aa2548hero001)がゲーム機を触ってその耐衝撃性に疑問を呈する。
「そ、それはブラックコンピュータ!? 何故こんな懐かしい物が!?」
目を輝かせて輪の中に突っこんできたのは世良 杏奈(aa3447)である。彼女が幼い頃に持っていたとかそういうことだろうか、古ぼけたハードを抱えて歓喜している。
「これ、カミユさんの言うとおり振動に弱くて。ハードの傍を歩いたら画面がザァーッと……あぁ懐かしい!」
説明するうちに昔を思い出して杏奈のテンション上昇中。
「それならば座布団の上に置いてはどうでしょう。更に緩衝材を重ねればなお良いのではないかと思います」
会話が耳に入ってきたので宇津木 明珠(aa0086)がひとまずの対処法を掲げる。確かに床からの振動は緩和されそうだ。
「とりあえず繋げてみるか」
春翔が大型テレビに手際よく接続していく。明珠は幻想蝶から気泡緩衝材を取り出し、座布団と重ねて設置。
「またイイものをいじっとるのぅ~♪」
「羽目を外すなよ」
浮かれるアイリス・サキモリ(aa2336hero001)に、防人 正護(aa2336)はしっかり釘を刺す。
「お、ゲームですか? って古っ!」
「ゲーセンなら慣れてっけどなー」
ゲームの余りの古さについつい素が出てしまう五行 環(aa2420)。鬼丸(aa2420hero001)はブラックコンピュータ(以下ブラコン)の小さなコントローラを摘み上げている。
「ガキが何かしてると思ったら……ゲームか。ウチにゃゲーム機ねーもんな。この機会にさくっとやってみるか」
「面白そうなモン出してんな。あたしにもやらせろよ」
金獅(aa0086hero001)とドナ・ドナ(aa0545hero001)も興味を示して、遂にはエージェント総出でしがないレトロゲームに挑む構図になった。
「レトロ……己の感覚のみでドットの一つ先を読み、反応速度の誤差を修正する。嗚呼、何というロマン」
白衣の女、狩生 すがる(aa1026)は古のゲームに心躍らせる。外からはわかりにくいが心躍っている。
部屋の片隅で眠っている旧 式(aa0545)を置いてきぼりにして、彼らは『超忍者兄弟』を起動した。
●鬼ゲー
一同は適当にやってみる。最初はゲームオーバーしたら交代。
まずはゲームを見つけた春翔と、物凄くやりたそうにしていた守凪がやることに。
タイトル画面からスタートを押せば、すぐにゲーム開始。ドット調の画面、乏しい音源、操作感の微妙な悪さ、嗚呼レトロゲーム。青と白に色分けされた忍者兄弟を操り、ステージのゴールを目指す。
「このピコピコ音、昔のゲームって感じするわ」
「何で青なんだよ。背景黒くて見づれえっつーの。開発者ふぁっきん」
前時代感が漂うブラコンに言及するルナと、1Pの忍者兄が青であることに文句を言うドナ。夜をイメージしてか背景が黒ですごい見づらい。
「ふーん……ゲーム自体はオーソドックスだが……こりゃ中々歯応えのある……」
「そこそこ難しいが……ふむ、クリアはできるだろう……」
持ち前のゲーム勘でステージ1をクリアした2人。好調な滑り出しだった。
だが、ステージ2の中盤から途端に難度が跳ね上がっていく。
「え……おい……おい何だコレ!?」
「……何だこのゲームは……! 簡単なはずの横スクロールアクションなのに敵の動きが激し……全五機!? 増えないのか! 増えないのか!? くっ、ゲームオーバー……最初からだぁ!?」」
忍者兄弟死す。画面にはモブ敵がわんさかと動き回っている。量も動きもいやらしい。更に1度ゲームオーバーになると最初からやり直すしかないようで、無理ゲー臭が漂う。
「ステージ2で死ぬって……」
「早くね?」
環と鬼丸が心無いブーイングを浴びせてくる。
「いやいやいや、無理だってコレ。ほら、やってみろよ」
春翔と守凪からコントローラを受け継ぎ、環と鬼丸がやってみる。
「ゲーセンで鍛え抜かれた黄金タッグを見せてやる!」
ユニゾンでしょうもないことを言う2人。息はピッタリだがゲーム内ではどうか。
「おい、鬼丸っ! もたもたしてんじゃねぇよ!」
「お前が敵倒さねぇからじゃねぇかよ!」
ぎゃあぎゃあ喚きながら右往左往、慣れない横スクロールにめっちゃ苦戦していた。互いに罵詈雑言を飛ばし、足を引っ張り合って初回プレイはサクッと死んだ。
「やっぱり死んだじゃねぇかよ。俺が言ったとおりだろ?」
「そうですね、鬼ゲーですわ……」
「ステージ2に行けるとかマジ神っすわ……」
春翔への軽口を謝罪しながら萎れて席を立つ環たち。
続けてプレイに挑むのは金獅とドナ。キレてブラコンをぶち壊したりしないかが超心配。超物理的危機。
金獅は家庭用ゲームをしたことはなかったが、ゲーセンに行ったり、ネットでゲーム実況動画をよく見ているということもありそこそこ上手くプレイできていた。対するドナも実はゲーム好き、なかなか器用に忍者を動かしている。
「おい、もっとアイテム拾えよばか。忍術が使えねーだろが」
「あぁ? 忍術とかいらねーだろ。避けりゃ済む話だろーが」
すっごい口悪い。不穏なやりとりに周囲は(物理的に喧嘩し始めてブラコンが昇天するかと)ハラハラしたが、当の2人はそれほど気にする様子もなく淡々とプレイしていた。日常的に口が悪いからこの程度は何でもないのかもしれない。
だが理不尽なゲーム難度に敗北を強いられた場合は別だ。
「ステージ2で死亡かよくそが! 開発者死ね! 難しすぎんだよ!」
「やってらんねーわ」
思いっきり腕を振りかぶってコントローラをゲーム機に投げつける。
のを周りがどうにか防ぎとめる。脆弱性が認められるクソ機体、硬い物をぶつけようものならどうなることか。
何とか金獅とドナの苛立ちを収めて一同はほっと一安心。ドナは気を紛らわすために外に一服しに行き、金獅は「俺はもういーわ」と言って後は観戦することにした。
ざっと見ただけでもわかる鬼難度。守凪は密かに武者震いしていた。
「ふ……いいじゃないか、上等だ。これだけ骨がありそうなゲームは久しぶりだ。絶対にクリアしてやる……!!」
今時のユーザーフレンドリーなゲームとは一味違う、もはやクリアさせる気もない鬼ゲーを前に、1人のゲーマーが燃えている。見えない炎とか揺らいでいる。
彼が燃えている間、カミユはすがると2人プレイをしていた。
「昔のゲームっぽいもんねぇ、情報なんて無いだろうしぃ……やってみるしかないねぇ(ちゃんとやらないとカミナに怒られるからねぇ)」
「嗚呼、1ドットの極み……素晴らしい世界なのです。ロマンなのです」
とりあえず死んでもクリアの踏み台にはなれるだろうという思いで試行錯誤するカミユ。後ろで守凪がすごい真剣な目で画面を見ている。
すがるは常人ならざる集中力でプレイし、恍惚の境地に達していた。
しかしステージ2の壁は突破できず、あえなく敗退。
交代を受けて出陣するアイリスは、何やら色々と幻想蝶から取り出し、何かの準備を整える。
「皆さん、おはこんばんにちございます。H.O.P.E.のドルマス兼ゲーム実況のアイリスじゃ~♪ 今回やっていきますゲームは……じゃん! 『超忍者兄弟』……ブラックコンピュータってハードのソフトでマイナー中のマイナーらしいのじゃが……初めてみたのぅ……」
何と実況動画の撮影を始めた。H.O.P.E.支部の一室で行うとは何たる豪胆。杏奈やルナ、アリスも何だか乗り気でいるし、すがるも何故か撮影として助力している。無駄なチームワーク。
「でー! 今回はH.O.P.E.のメンバーで2人プレイでやっていこうと思いま~す♪ はい、自己紹介」
「皆さん、こんにちはこんばんは! 杏奈です♪」
「ルナでーす♪」
「アリスだよー! プレイはしないけどよろしくー!」
『ゆ っ く り し て い っ て ね !』
とまぁワイワイと女性陣の華やかな口上で始まった実況動画撮影。
「妾も1フレームにロマンを求めるのじゃ~! 64ビット級の極み~!!」
やる気みなぎるアイリス、自信満々に忍者を操っていく。
で。
「5機でいけるわけないじゃろ……」
「……すごい難しい。ナニコレ」
「鬼畜ってレベルじゃないと思うんだけど」
結局ステージ2で死んでしまい、アイリスと杏奈は床に両手をついて軽い絶望感を味わっていた。見ると時計は朝7時を示しているではないか。2時間ちょっとでステージ1のクリア止まりという難しさ。
「杏奈、共鳴すればもっといけるんじゃない?」
非道な鬼ゲーに恐々とする面々に対し、ルナはごく自然な提案をする。リンクすれば能力は格段に跳ね上がる。クリアを目指すなら共鳴するのが近道だ。
近道ではある。が、本道ではない。
「共鳴? そんなチートみたいな事してクリアしても嬉しくねぇ! 意地でも生身でエンディング見てやる!」
「妾等も共鳴する気はさらさらない! ゲームにチートは不要! 難民勢魂なめるななのじゃー!!!」
熱きゲーマーの意地を示す春翔とアイリス。相方であるアリスはよくわからないが何となく同調して頷いてやり、同じく相方の正護は……いない。ゲームに興じる皆のために朝食を買いに出ていったようだ。
そして生身プレイに最も熱くこだわるのがすがるであった。
「これは過去からの挑戦状なのです。当時これを開発した熱き御仁達からの、現在の人間はどこまで知覚力と技術力を高める事が出来たかという挑戦状なのです。並びいる無理ゲー『キタノの挑戦状』ばりの……。ならば、たとい無理ゲーと言われても、たとい共鳴が必要だろうとも、すがるは過去に挑んだ一般人の後継として、挑戦なのです。……アイアンパンクで少々チートチックながら挑戦なのです」
静かに迸る熱情。何て貴い志なんだ。その場に居合わせたゲーマーたちはすがるに感服した。
というかなーりしょーもないエピソードを経て、彼らはとりあえずは共鳴せずにガチンコプレイでやっていこうと決めたのだった。
●皆の力で
その後は適当にコントローラを回しつつ、総力をあげて『超忍者兄弟』の攻略を目指した。皆で画面の前に集まり、あーだこーだと意見を交わし、死につつもステージ構成を頭に叩きこみ、仲間のプレイを参考にしてクリア方法を考え出していた。
「あー、今のちょっと惜しかったねー。もう少し右で忍術使ってれば行けたよー。さあ! ワンモアプレイ! 次は誰かなー?」
ずっと実況オンリーで盛り上げてきたアリス。喋りがそろそろ板についてきている。ワイワイ騒ぐ仲間たちに茶々を入れるのは結構楽しいと感じていた。
「んん? 今のとこはもうちょっと手前でジャンプじゃねぇか? 6フレームくらい? ……ってそんなのTASでしか出来ねぇよ!」
プレイを観察しながらキレのあるセルフツッコミを見せる春翔。多分ちょっとハイになってる。実のところ時間は無情な早さで過ぎていき、現在3時。おやつタイム。
「ふむふむ……そこはそう避けるのか……ゲームは奥が深い」
正護が買ってきたおやつをモグモグしながら守凪も観察に余念なし。さすがゲーマー勢。皆でやるゲームはとても楽しく、彼は現在、生涯の中でもかなり充実した時間を過ごしている。顔には出さないが。いや正確には顔に出ないよう頑張りつつも結局顔には出ている。
「っしゃ! いける!!」
「ミスんなよ!」
環とドナが2人プレイでステージ6に進み、ボスと激戦を繰り広げていた。アイテム集めで忍術の蓄えは充分、いけると誰もが思った。
そこで、ですよ。
「……っくしょいぃっ!」
隣で見ていた鬼丸が豪快なくしゃみを放ち、画面にモザイク走る。終わった。
キレた。環とドナはキレた。
「……てぇめぇぇっ!!」
「このくそが! 死んででも止めろやくしゃみぐれえ!」
「マジか!? 今ので!?」
環に胸倉を掴まれ、ドナにげしげし蹴られながら当惑する鬼丸。
「さすがブラコン……昔もよく泣かされたわ」
「杏奈、よくこんなゲーム遊んでたわね」
身に起こった悲劇を懐かしむ杏奈に、ルナは杏奈がどういう幼少期を過ごしていたのかとても気になった。
騒動はやかましく、式がようやく目を覚まし、寝ぼけ眼をこすりながら皆の輪の中に入ってきた。
「始発までのつもりが寝すぎちまったな……ってなによ。レトロゲー? 俺はゲームとかあんま興味ねーんだよなぁ」
式がやってきたのに気づき、ドナが鬼丸を蹴っていた足を止める。
「寝すぎだろ。あとこれな、メチャ難しいんだよ。お前も付き合え。帰ってもどうせ暇だし」
「暇なのはお前だけだろ……まぁ、いいけどよ。とりあえず一服してくんわ」
「あ、アタシも」
強制終了を喰らったストレスを解消するために、ドナは退室した式の後を追っていく。
「攻略法、何かないのかしら? プレイ動画でもあれば参考に出来ると思うんだけど」
「よし、ググろう。裏技もないか調べましょう!」
小休止の空気になったところで杏奈がスマホを取り、攻略情報を検索してみた。
だが期待は裏切られるものである。
「……頑張れ、以上。としか書かれてない……」
両手をついて本日2度目の絶望ポーズの杏奈。ルナはそんな彼女の肩をポンポンと叩いてあげる。
「既存の攻略情報が無いとなると、自分たちでデータを検証してみるしかありませんね」
明珠が放った一言に皆が振り返る。攻略法が無いなら自分たちで作ればいいじゃない、という感じの彼女の一言はまさに画期的なものであった。明珠は計算などは出来ても実際の操作が追いつかないので、皆のゲームを控えて見ているだけだったが、実は2台のスマホをフル活用してプレイ動画を撮影していた。それを材料として、攻略に必要なデータを割り出していこうということらしい。
「一ドットの極みまで検証するのです」
すがると明珠、2人で卓の上にノートやPC、スマホと並べて作業準備万端。これまで得た情報を基に、敵の種類や攻撃方法、当たり判定、被ダメージ時の挙動、罠やアイテムの出現箇所やタイミング、果てはプレイヤーの向き不向きまでをも調べていく。
「ここは上のルートでしょうか。下に比べて敵が少ないように思います」
「下のルートには無敵アイテムがあるのです。途中まで行ければ後は突っ切るだけなのです」
「途中まで行けるものでしょうか。それが開発陣の罠ということも……」
嬉々として議論を交わしている2人。余人には入りこめない雰囲気があふれているので、周囲はひとまずゲームを再開した。研究するにしても知らない所を検証することは出来ない。少しでも前に進むことが必要なのだ。
再開1番手はアイリス、実況にもエンジンがかかってくる。
「おーい、必殺ボタンがきかなくなっちょるぞ~ぃ!」
「しゃがんでB、しゃがんでB、しゃがんでB……」
やかましいが、進むには進んでいる。ほぼ幸運によるプレイだが、それも好意的に捉えれば『何かもってる』ということである。ちなみに正護は支部の施設を借りて昼食を作ってくれている。皆がゲームに没頭する中、正護がいて良かった。
アイリスの実況プレイ中でも、皆は食い入るように画面を注視。色々口出しもするものだからもはや全員の声が入り乱れて何がなんだかわからん。
「息だ! 息してもやべぇ! 息すんな!」
「わずかな振動も許すな!」
特に環と鬼丸がひどい。1度バグらせたことでめっちゃ過敏になっていた。実行犯の鬼丸に至っては移動はすべて匍匐前進で行うという徹底ぶりだ。
それに感化されたというわけでもないが、他の面々も退室時などは慎重すぎるほど慎重だった。基本ゆっくり忍び足、ドアの開閉も細心の注意を払ってそーっと。気分は爆発物処理。そんなノリも案外楽しい。
だが楽しさだけではクリアは出来ない。
もう人間の限界じゃねレベルの敵やステージギミックに、一同は心折れかけていた。
そんな中、ドナがゲームに興味なさげだった式を駆り出し、禁断の共鳴プレイに手を出した。
「あー、できっかな……」
(「観戦してポイントは覚えてんだろ」)
ドナに背中を叩かれるような感じでゲームに臨む式。
共鳴の効果は顕著で、反応速度などが格段にアップ。苦戦気味だった要所のボスもさっくり倒せたりしてしまった。
が、元来ゲームしない式。道中でクソつまらんミスとかもしてしまうわけで。
それをするたびに、ドナが共鳴解除してぶん殴るわけで。
「つまんねーミスで5機使いやがって! あー、イライラしてきた……一服してくんわ……っとタバコ切れてるぜ。おい式、あたしに分けろ。なきゃ買ってこい。ノースモークノーゲームだぜ」
「しょうがねーな……」
この扱いでも買ってきてくれる式の懐の広さはどこで培われたのだろうか。皆はそう思わずにいられなかったという。
杏奈も、ドナにならって共鳴プレイを試してみる。
「あなたが、コンティニューできないのさ!」
共鳴時の主人格のルナ、どーんと言い放つ。ルナが大好きなキャラの台詞だそうで、彼女はコンティニューなしのゲームだと知ってからずっと言いたかったらしい。無邪気。
共鳴すれば超人だ。ルナはステージを次々突破していく。
「えぇ……なに今の……アリス何も見えなかったんだけど……」
もはや人の住む領域ではない。アリスはその難度についていけなくなり。
「もうアリスは何も言えません……みなさんがんばってください……」
実況をやめた。その後は黙って事の進行を見守る。
が、ルナと杏奈の共鳴プレイでも最高到達点はステージ12。全体の3分の2だった。
時刻は、11時を回っている。もう真っ暗やで。
「俺たちは……俺たちはここまでなのか……!」
「くっそぉぉぉっ! こうなりゃ意地でもクリアしてやる!」
共鳴しても到達できない場所へ。環と鬼丸は無駄に熱い男の意地を見せる。これが青春って奴なのか。
背筋ピーンの正座で、指しか動かさないプレイ姿だけど。
バグらせない、これ第一。
●そして朝
明珠とすがるの研究により完璧な攻略法を身につけ、一同はコンスタントにゲーム終盤まで進めるようになっていた。何から何まで網羅して、到達した全マップが明珠のノートに記録されてある。これが結構大きい。
そして環の提案により、集中力を爆発させるために1人1ステージで交代する、それぞれ得意な箇所をプレイするという形を取り、皆は快進撃を続けた。
「まーよくこんな時間までやるよなー」
疲れた人にマッサージしてやりながら、金獅は皆の情熱に感心する。ちなみに彼のマッサージは知り合いの女たちに好評なようで大変気持ちよく、施術された面々は変な声を出したりしていた。男だけど。
ゲームは佳境、皆はボスラッシュに挑んでいた。各ボスはすでに経験済み。得意とする者たちでコントローラを回しながら、効率よく倒していく。
「よっしゃ! 妾の出番……妾にぃ~……任しちょけぇぇぇえええっい!!!」
渾身の台詞をマイクに乗せ、アイリスもいわゆる神プレイを見せつける。
最後に待ち受けるはラスボス。恐らく最も強大な敵。だが彼らは何も恐れはしない。挑むのみだ。
だってもう朝5時だし。ここまでやっちゃうともうね。
「これを作った御仁方々が、今はどんなゲヱムを作っておられるのか。それを考えるだけでムネアツですなあ」
終わりへと向かう画面を眺めながら、すがるが何か語り始めた。もう色々脳内物質出てるんだろう朝だし。
「もしも、もしも軟弱なギャルゲやアレなゲームを作っていたりしたらすがるはその時こそ共鳴してカチコミなのです」
開発スタッフに思いを馳せながら、彼女は目にした。
ラスボスを打ち倒し、歓喜する者たちの背中を……。
で、肝心のエンディングは3秒で終わった。そしてタイトル画面に戻る。
あまりにもひどいエンディングを見て、環と鬼丸はただただ呆然としていた。守凪は正座から前のめりに伏して寝ている。
「ショボ……いが、それ以上に達成感がすげぇぜオイ……はあ……疲れた」
「ふぁ~あ~……みんなおつかれさまー……お休みなのに疲れたよぉ……」
盛大な疲れと、それ以上の達成感。満ち足りた春翔の隣で、アリスはあくびをかきながらも労いの言葉をかける。
「やったー。クリアできたのね……。こんなに嬉しいのも久しぶりだわ。ね、せっかくだから皆で記念撮影とかしません?」
杏奈の提案は即、受け入れられた。皆この達成感を分かち合いたかったのだろう。
鬼ゲー『超忍者兄弟』を中心に据えて、皆で1枚の中に収まった。これは今日の日の勲章なのだ。
「これは未来に残すべき宝なのです。いつか人類がさらに進化し余裕で攻略できた時、きっとこの世界は豊かな楽園に……さすがになってはいないでしょかね」
ソフトを手にして、すがるが壮大なことを口走り始める。この思い入れは一体。
「決めたのです。後世の為に情報を纏めて攻略本を作っておくのです。最終ペヱジには当然『頑張れ。以上』と記すのでしょうけれども」
「今回撮影した様々な動画も、狩生さんの一助になるかと」
すがるのノートPCにゲーム動画を転送しながら、明珠が言った。2人で構築した攻略法、そのすべては後進のゲーマーたちに受け継がれていく。
あれ、マジで割と壮大です。
「すげぇ1日だったな」
「あぁ」
正護がチャーターした帰りのバスを待つ間、朝日が眩しい窓から環と鬼丸が外を見ている。
そして言う。
「俺達の春は……」
「終わった……」
貴重な休日に、自分たちは何をしていたのだろう。何とも言えない気持ちを抑えられなかった。やっちまった感がすごい。
アイリスは逆にやりきった感に満ちて、ほくほくであった。その彼女の表情を見て、正護は静かに、諭すように言った。
「アイリス、もう一生分のゲームやったから……もうゲーム禁止、な」
「ごめんなさいー! ごしょーじゃ~! 許してぇ~……」
実況とか調子に乗りすぎた。1日を棒に振った罪は重かったのだ。すがりつくアイリスに正護は「お前の罪を数えろ」と言ってやったそうです。
式とドナは支部の外で一服やっている。ドナは苦労に見合わぬエンディングを見せられてファッキンな気分だったが、1本吸うと落ち着いてきた。
「超難度のレトロゲーをクリアした後の煙草はうまいね」
「俺はただただ疲れた」
「まあ、そうゆうな。ここで養った集中力がいずれ役に立つだろ」
「立たねーよ」
たわいない会話をしつつ紫煙をくゆらせる。
役に立たない。
式の放った最後の一言が、この1日を見事に表現していた……。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|