本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】途絶えさせぬ未来

真名木風由

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2016/04/19 12:57

掲示板

オープニング

●狙われたのは
 『あなた』達は、緊迫の面持ちで歩いていた。
 広州市の愚神、従魔襲撃はタイミングが読めないことが多い。
 この為、エージェント達は合間を縫って広州市をパトロールしている。
 と言っても、広域である広州市、完全なパトロールは厳しい為、H.O.P.E.香港九龍支部においても待機エージェントがおり、香港と広州、両方の不測の事態に備えている形だ。
「ったく、愚神ってのはどいつもこいつもどうしようもねぇ」
「どうしようもねぇから愚神と言うのじゃろ」
 蒼 星狼(az0052)がブツブツ言うのを、隣のデイ・ブレイク(az0052hero001)が呆れたように窘める。
「可愛くねぇジジイだな」
「そこで同調しても始まらんじゃろ」
 デイがそう言った、その時だ。
 ちょうど直線距離にある先の建物付近から、鳥が一斉に逃げ出すのが見えた。
 続けて、悲鳴、窓ガラスが割れる音……ただごとじゃない!
 走り出す『あなた』達は、その建物から飛び出してきたのが子供であることに気づく。
 建物は、小学校。
 愚神は小学校を狙って、襲撃してきている!

●嗤う傍観者
「最近は便利だねー、ワタシノカワイイコドモノアンゼンガマモラレルヨウどこにでも見る手段がある」
 トリブヌス級愚神幻月がパソコンからその映像を見る。
 監視カメラには、恐怖に泣き叫ぶ子供達が逃げ惑っている姿が映っていた。
「ジョウソウキョウイクだっけ? 実にいいねー、この生存の為になりふり構わず逃げるのに助かる見込みがないって理解している様が」
「手配は恙無く」
「いつもありがと。楽しいのは共有しなきゃね」
 控える愚神へ幻月はのんびり笑う。
「まぁ、君達をありのまま共有出来たら、それが1番いいなぁ」

●突入せよ
 小学校到着と同時に支部から小学校の見取り図が送られてくる。
 オンラインの監視カメラを設置している警備会社の協力で従魔が子供達を煽るようにして愚神であろう男がいる校長室へ追い立てようとしているとも。
 逃げおおせた児童から、校長が食われながらも逃げろと叫んだから自分は逃げられたと事情を聞く。
 だが、まだ中に20人の小学校低学年の児童が取り残されていることが判明した。
「急がねばならんな。敵は校長室におるじゃろ」
 デイと共鳴した星狼が前を見据える。
 逃げられた児童と教員は追撃されないよう小学校敷地内から離脱し──今は、残された児童を救え!

解説

●目的
・被害最小限に敵の全撃破

●敵情報(【】内は突入時点でPCは知りません)
【ケントゥリオ級】愚神【威武(ウェイウー)】
30代男性の姿。
【武器は青龍刀。命中・回避・移動力高め、物理防御がやや低い。その他は平均的】
【不視撃(ブーシージー) 射程1~5。単体攻撃。攻撃時刃をPCの死角に転移させ、斬撃を浴びせる。命中がかなり高い。命中時対抗判定(威武側命中、PC側回避使用)勝利でBS狼狽付与】
【死尾(スーウェイ)射程1~20。単体攻撃。追尾能力があるエネルギー弾を撃つ。エネルギー弾は愚神・従魔にはダメージを与えずすり抜ける】

【デクリオ級従魔消兵(シァオビン)x4】
【影のような人型の従魔。潜伏しているがどこにいるかは不明】
【物理攻撃力高めだが、物理・魔法防御力は低い】
【透明化能力を持ち、シャドウルーカーの『潜伏』発動状態となる以外の能力はない。透明化は動作音は消えず、また攻撃行動で解除されるが、透明化状態で攻撃を受けた場合、BS狼狽付与】

ミーレス級従魔焔(イェン)x16
真っ赤な小鳥型従魔。高くは飛べないものの飛行能力があり、移動力が高い。
10体で子供達を追い立てている。
燃(ラン) 射程1~7。単体攻撃。火の玉による魔法攻撃(発火・延焼能力はなし)
※「揺さぶりの嘲笑」にも登場しています。

●NPC情報
蒼 星狼、デイ・ブレイク
指示がなければ子供を護る為に動きます。

●注意・補足事項
・校内及び愚神及び突入時点で取り残された児童の位置は判明済。
・生存者は追われている児童のみ。
・校内突入時共鳴済。
・当初のパトロールに必要な範囲であれば、H.O.P.E.への申請品、現地用意といったアイテム装備にない物の準備は可能。ただし判定対象である為準備の確約は出来ません。
・子供が5人犠牲になるとドロップゾーンが展開。最初の子供が校長室へ到達するのは3分、全力で走れば2分程度で追いつきます。

リプレイ

●術はひとつではなく
「やれやれ」
 ヴィント・ロストハート(aa0473)は、校舎を見つめながら溜息を吐いた。
 彼は、中に突入しない。正確に言えば、香港の戦いの負傷が重過ぎる為、逆にマイナスになるからだ。
「本当だったら安静にしてないといけないのに」
 負傷がなければ観戦に甘んじていない。
 そう言うヴィントを不謹慎と嗜めるのは、ナハト・ロストハート(aa0473hero001)だ。
「そうしたいのはやまやまだが、こちらの都合なんて向こうにはお構いなしだ」
 この状態だからこそ見えてくるものもある。
 そうした予感もあるが、ヴィントはまず、TV局の戦いでの、シンプル過ぎる経験を生かして情報を統べる。

●速やかな救出を
(『気をつけて。潜伏で感知され難くなっても目視されたら流石に露見するからね』)
(解っている)
 ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)の忠告を聞いた無月(aa1531)は、廊下という見通しのいい場所を走りながらも警戒を怠っていない。
 TV局でも姿を見せた従魔『焔』は機動力の高さと遠距離攻撃が持ち味だ。
 ヴィントと同じように無月もTV局の戦いに携わっており、それ故に開き戸を開けることは出来ない姿形から来る弱点は皆にも伝えられたが面倒な相手に変わりはない。
「いた!」
 無月が速度を上げた瞬間、彼女の真横を空を裂く強烈な矢が焔へ突き刺さる。
 更に接近する直前、もう一矢、別の焔を射抜き、その場にいた2体体勢を整えるよりも早く無月がしっかり仕留めた。
 動かなくなったのを確認してから、子供達が見ていた先、卸 蘿蔔(aa0405)を見る。
 彼女が携えていた九陽神弓は特に遠距離の射撃攻撃が可能な武器であり、無月に追いつけなくともその攻撃で彼女の到達を援護したのだ。
(『焔2体に子供達2人なら、子供達は任せよう。俺達は脅威の排除を』)
「焔は10体確認されているのでしたよね」
 レオンハルト(aa0405hero001)に応じた蘿蔔は、監視カメラを見た。
「この辺りに……」
 蘿蔔は、自分のスマートフォンのひとつを監視カメラの死角に置いた。
「子供達が校舎の外に逃げる時間稼ぎに必要ですからね」
 蘿蔔は全員にスマートフォンを用いた策を伝えていた。
 それはわざと鳴らし、焔に反応させることだ。
 子供達の悲鳴が最も良かったのだが、居合わせた形で急行しており、時間的な都合で子供達の悲鳴を着信音とするには時間が不足していた為、着信音自体は普通である。
 が、自我がない従魔が反応する確率は高く、時間が稼げる。
(『好きだよな、スマホ』)
「依存症でして」
 応じつつ、蘿蔔は身体の向きを変えて弓を引き絞り、目視した焔1体を撃ち抜いた。

「たーっ、危なかった」
 早瀬 鈴音(aa0885)は、蘿蔔の援護にほっと一息。
 先行した無月を追う形で移動していたが、子供達の足の差もあり、大きく分けて3手に分散していた。
「が、運はいい方じゃろ。件の開き戸のある部屋の前じゃ」
 デイ・ブレイク(az0052hero001)と共鳴している為ジジイ口調の蒼 星狼(az0052)が事務室を指し示す。
 児童が立ち入る部屋ではない為、事務室は開き戸、つまりドアの出入り口だ。
 ドアに手を掛けようとし──
「危ないっ!」
 咄嗟に子供の1人へ覆い被さるように抱きしめた鈴音が一瞬火に包まれる。
「おねえちゃん!?」
「痛……くない、へーきへーき」
 子供の前で痛がる訳にはいかないと鈴音は笑って見せた。
 直後に蘿蔔の矢が決まる間に子供達が次々に事務室の中へ入っていく。
 焔は5体、第2グループとして集めた子供達は10人と最多だ。
「皆、負けるんじゃないぞ」
 ドアを背に庇いながら、防人 正護(aa2336)が励ます。
 その声は正護だけのものではない。
 アイリス・サキモリ(aa2336hero001)のものも重なっている。
「ここはもう2階、窓からは逃げられないよね」
「部屋に逃げたのは露見しておる。また相手は子供じゃ。露見せずとも部屋で待てと言うのも厳しいじゃろ」
「山の遭難で動くと逆に危険な時もあると説くようなものだろうな」
 アロンダイトを手にする鈴音へ星狼が応じる。
 展開されている英雄経巻の向こう、焔以外の伏兵がいても対応出来るよう正護は前を見据えた。

●切り拓かれる
 紅焔寺 静希(aa0757hero001)と共鳴したダグラス=R=ハワード(aa0757)は、校長室の下まで来ていた。
 子供の救出などに興味もなく、別行動を取り、校舎内に入らず外部移動だ。
 1階であるなら相手に窓を開けさせるべく気づかせるだけでいい。
 2階なら木に……そう思っていたが、単純に木がなかった。
 子供が飛び移って遊んだりしないよう校舎付近に木は植えられていなかった。見取り図のみではそれは判らない。支部もそれを言及しなかったのは、子供の救出以外の理由もあってのことだったようだ。
「……」
 茂み付近より掴んだ土を握り締めるダグラス。
 校舎という建物の構造上、跳躍して窓ガラスを割って侵入するには厳しい。
 ダグラスは体育館へ繋がる渡り廊下へ身を翻す。
 階段を上り、校長室の真上の図書室が敵と遭遇しない最短ルートになる。
 子供がいないフロアへ従魔を潜ませる必要はなく、救出に動くエージェントがいるなら戦力はそちらに割かれる筈。
 彼らの到達予想を計算した彼は出来る限り早く図書室を目指す。

「モップで封鎖してください」
「解った!」
 足が遅かった為にまだ校長室には程遠い子供達を教室へ連れ込んだ構築の魔女(aa0281hero001)は、桜木 黒絵(aa0722)と声を掛けた。
 黒絵が教室の引き戸へモップを差し込み、焔が身体を割り込ませて強引に内部へ突入するのを防ぐ。
「とは言え、時間の問題ですが」
 教室の外の焔は3体。
 これでちょうど10体になる。
 フラッシュバンで隙を作って教室に飛び込んだが、教室内には監視カメラがなく、それ故に伏兵の可能性は否定出来ない。
(『最悪、ここから避難だね』)
 シウ ベルアート(aa0722hero001)は、黒絵へ階下を確認するよう言う。
 先に行かせているエージェントの方が焔への対応数が多いとは言え、ここの子供達を放って置くことは出来ない。
 愚神がいるなら、魔法的な罠の可能性もあり、それならば活性化させているマジックアンロックの出番だろうが、戦闘に入ると展開される英雄経巻はまだ紐解かれない状態のままだ。
『今、無月が保護した子供2人、校舎外へ離脱完了した』
 ヴィントからの連絡が入る。
 蘿蔔の援護で無月は自身への被害はなく、2人の子供を抱えて窓から飛び降りたらしい。
『蘿蔔が窓を閉めて施錠したから外部は問題ない』
「意外とシンプルな対策なんだね」
 なるほど、とシウが黒絵の内で納得の声を上げる。
(『シンプルに考えた方が逆にいいかもしれない。こちらが手を読もうとして逆に無理があることをしての自滅を面白がっている可能性がある』)
「今のやり取りだけでよく想像がついたね」
(『有効な手だからね』)
 黒絵は自分には思いつかないことである為、感心するだけだ。
「無事に逃げられますから、大丈夫」
 構築の魔女が子供達を宥めすかしている。
 彼らは自分達の校長先生が食われる音を聞いているのだ、大の大人でさえショックが大きいであろうそれは、子供ならばそれ以上であろう。
「そこにいるか!」
 階下から、正護の声が響いた。
 構築の魔女が下を見ると、鈴音、正護、星狼が子供達と共にいる。
「カーテンを広げる。飛び降りて貰ってくれ」
 蘿蔔の援護を受けて、焔5体を倒した彼らは子供達の安全の為の離脱策として無月同様窓を選んだ。
 が、人数が多く、無月のように抱えて飛び降りるのは難しい。
 かと言って、飛び降りるのを受け止めるのはリスクが高い。
 正護は避難用スロープや避難梯子を探したが、見当たらなかった。
 開き戸である分焔のこれ以上の侵入はなく、伏兵の心配がないなら安全になるまで動かないのも手である。
 が、子供は良くも悪くも計算出来ない為、待機させずに避難させた方がいいだろう。
 そこで正護は鈴音と星狼が先に飛び降りてカーテンを広げ、そこへ飛び降りる提案をしたそうだ。
 カーテンをロープにするという話はよく聞くが、正護は子供達がカーテンをしっかり掴んで1階まで無事に降りられるかどうかの点より、小学校という建物の2階であるなら高さはビル程ではなく、下が地面なら飛び降りが良いという判断である。これは彼の経歴が経歴であるからこそだろう。
「こわくない?」
「だいじょうぶだった!」
 構築の魔女の機転より子供達同士が会話することで応じる子供が出てくる。
 けれど、やはり不向きな子もおり、嫌がられた。
「先生を思うなら、戦え! 逃げろと言った先生の為に飛べ!」
 正護の声が飛ぶ。
 実は先程も同じように彼は言った。
 鈴音はここで校長の名前を出したら泣くのではとぎょっとなったが、内のN・K(aa0885hero001)は違う見解を出して諭したのだ。
(『先生が悲しむ、だったら、鈴音ちゃんの言う通りになるわね。でも、先生の為に戦えと言うのなら、話は別になってくるの。……彼らは先生が好きだから』)
 そして、その言葉通りに事は運んだ。
「引き戸に攻撃を始めてきたね」
「蘿蔔さん、無月さんが対応に入ってくれるそうです」
 ならば、すべきことを。
 黒絵と構築の魔女は託すようにカーテンを広げたそこへ子供達を放り、外へ逃す。
「すぐに合流する!」
 正護が上を見上げてそう言ってから、子供達を護ってヴィントがいる方角へ向かう。
「私達はそれまでにすべきことをしましょう」
「今まで上手く行き過ぎてる。シウお兄さんも注意してって言ってる」
 構築の魔女が目視されて攻撃されないよう注意して引き戸を開けた時には焔は1体。
 黒絵が紐解かれた英雄経巻からの白光にて仕上げた。
『校長室へ急行してくれ。交戦状態に入った』
 ヴィントから合流を待つことなく校長室へ向かうよう指示が出、彼女達は校長室を目指す。

●兵潜む
「状況は?」
「校長室入口付近に伏兵が1体いた。校長室ではまだ確認されていないが、可能性は高い」
 ヴィントの元へ到着するなり鈴音が状況確認すると、ヴィントは欲しい情報を提供する。
 位置的な問題で蘿蔔が襲撃を受けたそうだが、追いついた無月が唐突に姿を表した影のような人型従魔へ縫止を発揮させ能力を封じると、精神を立て直した蘿蔔と戦っているらしい。
「直前まで姿が見えなかったと言っていた。空気を裂く音の直後に攻撃を受け、姿を現したらしい。透明化能力だろうが、完全ではなさそうだ」
「エージェントが来ることを見越した配置なんじゃろうな」
 ナハトへ託す星狼が面白くなさそうに吐き捨てた。
「だろうな」
(『じゃが、後ろの方から音がしたら反応する程度の従魔じゃぞ? こんなこともあろうかと、という展開は考えてなかったのかの』)
 正護が星狼に同意していると、アイリスが内で尋ねてくる。
 が、エージェントを見越して動いているなら、子供達を直接害する為の伏兵ではなく、校長室へ入る足止めを行う可能性が高い。
「子供はこちらで何とかする。回復役皆無はきつい。攻撃の手も足りない」
 ヴィントが当初は救出後子供達のメンタルケアを考えていた鈴音や星狼へ校長室へ向かうよう依頼する。
 道中のやり取りで子供達は全員離脱完了したのなら、今は子供達の恐怖の原因を討伐する必要があるだろう。
 全員が内部へ入るのをヴィントは見送り、考察するように目を細める。
(自身の消息を掴ませない、巧妙かつ効率がいいのはマガツヒのアシッドも同じだ。が、アシッドとは異なる)
 校長室にいる愚神は、アシッドの時限装置のようなものだろう。
 その鑑賞手段のひとつに、監視カメラがある。警備会社は現場だけで警備を行っていない為ネットワークカメラを使用していることより、それを拝借して鑑賞しているだろうとTV局の戦いの後耳にした。それなら外部からのネットワークにない通信手段の場所なら自分で見物にでも来るのだろうか?
「外部からのネットワークにない?」
「侵入可能なネット主体のようだが、インフラ依存のデメリットがある為にそれが全てというのは公共交通施設や規模が大きい商業施設ではない。有事の際でも対応出来るように作られている。特に放送関係はインフラ依存のない有線放送設備は確実にある。専門じゃないがな」
 子供達がおり、無月から泣かせないよう念を押されているヴィントとしてはナハト相手でも暈した言い回しをせざるを得ない。
 無月が頑張って笑顔やウィンクをしたそうだから、それは尊重しておこう。
 彼の本業に向かない……逆に考えれば派手さの演出にはちょうどいいということ。
 プリセンサーも捕捉が出来なかったそいつは、鑑賞しながら、ロールプレイゲームをしているつもりなのかもしれない。
 けれど、ヴィントの推測の答え合わせはこの時ではなく、今はすべきことが他にある。

 構築の魔女、黒絵も攻撃しながら接近した為、伏兵であった従魔、後の識別名『消兵』は程なく倒れたが、校長室は既に交戦状態である為、子供達の避難を行っているエージェントの合流を待たず、中へ入る。
(『この状態では英雄経巻が展開することでの索敵は不可能。伏兵の確認を優先しよう。拒絶の風も忘れずに』)
 ライヴスゴーグルの位置を直す黒絵はシウの言葉に小さく頷く。
 透明化している状態のライヴスが見られるかどうかはこれから試す必要があるが、既にこれだけの愚神と従魔がおり、紛れられると、仮にいても見落としがちになる。注意しなければ。
「広州の一連の事件に関係してますよね? 首謀者の方は……」
「鬼ごっこの末に死ぬだけの餌が知る必要などない」
「教えてくれる訳ないですね」
 後に『威武』と識別される愚神に声を掛けた蘿蔔が、魔銃フラガラッハを構える。
 ダグラスの単独行動があった為蘿蔔の多い描いていたことの多くはする必要がなくなったが、愚神の援護になる焔、いるかもしれない消兵も倒さねば後の不利だ。
 そのダグラスは焔を無視して威武へ向かおうとしているようだが、焔は視界を妨げる妨害をしている。
 所々の具合より、ケアレイやリジェネーションといった手段で回復しており、敵から攻撃は執拗に受けていたようだ。ライヴスフィールドも発揮されているだろうが現状どう作用しているかまでは判らない。
 目視出来る焔を撃った蘿蔔に続き、構築の魔女もトリオで狙い撃つ。
(『ロ……――』)
「ええ。勿論。見られていること前提」
 共鳴後の主導権を構築の魔女に渡している辺是 落児(aa0281)の言葉を聞き、彼女は頷いた。
(ですが、何故ドロップゾーンは展開されてなかったのか。電波障害関係? それとも、ドロップゾーンの支配下に関連しているとか? そうすれば、情報操作が……)
 構築の魔女は考察しながら、それらがしっくりこないと思う。
 子供は特別、だからではないが、ここでの問題行動はより問題視されるだろう。
 H.O.P.E.の足元に火がつく。
 保護者を含めた学校の関係者のリストがあれば、影響力について判るかもしれないが……。
(……今は被害なく討伐を優先しましょう)
 それが大前提だ。
 焔が構築の魔女と蘿蔔の攻撃を受けたことでダグラスへの妨害が緩和された為、ダグラスは威武へ向けて床を蹴った。
 ダグラスはエネルギー弾を受けながらも間合いを詰め、ジョルトブローを繰り出す。
 大振りである為、回避する能力がなければ当たるだろうが、愚神はケントゥリオ級を見立ててもいいレベルだ。侮らせ、余裕で回避した隙に──
「見え透いている」
 威武は、ダグラスの攻撃を敢えて『受けた』。
 効率性に関係なく、ダグラスは己の我欲の為素手の攻撃を至上としている。
 が、彼が見立てているケントゥリオ級には素手での討伐するは厳しかった。
 側面に衝撃が走る。消兵だ。
 奇襲は警戒し、物音には注意を払っていたが、構築の魔女と蘿蔔の銃撃音によりその物音は掻き消えていた。
「私にも畜生共を愉しく殺したい我欲があってな?」
 ダグラスはまだ奇襲の立て直しが出来ていない。
 この口振りでは伏兵はまだいるだろう、が。
「おや」
 直後、ダグラスの後方が綺麗に吹っ飛んだ。
 背後から攻撃して姿を見せた消兵の攻撃を阻止する為、無月が攻撃を仕掛けたのである。
 黒絵の攻撃も続き、ダグラスは好機と威武へ向かった。
 しかし、黒絵が入口付近にいたこともあり、ダグラスを放置した威武が黒絵へ向かっていく。
「させるか!」
 咄嗟に合間に滑り込んだのは、到着した正護。
「どけ」
 距離が離れているのに威武は手にしていた青龍刀を繰り出す。
 拒絶の風を発動して尚吸い込まれた太刀に正護も思わず小さい呻き声を上げたが、その直後に鈴音がケアレイでその傷を癒した。
「今、刃が転移したように見えた……」
(『罠の類ではないな。テレポートショットの斬撃版だろう』)
 魔法的な罠ならマジックアンロックで解除出来るが、罠ではない特殊攻撃を打ち破ることは出来ない。
「俺に背を向けるとは余裕のあることだ」
 後方からダグラスが強襲してくる。
 が、彼の肘撃もダメージを受けたようには見えない。
 砂を投擲し、隙を作って死角に回り込もうとしたダグラスへ、倒しきれていない消兵が透明化しないまま攻撃を叩き込んだ。
(『デクリオ級も疑った方がいいわね』)
(だよね)
 N・Kの言葉へ応じつつ、鈴音は消兵への介入で負傷した無月をケアレイで癒す。
(押さえるぞ)
(『ジーチャンのスイッチ健在だね』)
 アイリスはその選択を否定せず、ライダー「サキモリ」として共に威武へ向かっていく。

●想い受け継ぎ
 この場でデクリオ級ではと推測された消兵は全部で3体。
 焔もまだ残っている為、蘿蔔だけでなく、構築の魔女、無月、星狼も従魔対処に回った。
 特に蘿蔔と構築の魔女は射程ある攻撃が武器である為、校長室程度の広さであれば全域のカバーが出来ることより、部屋の隅へ移動して背後強襲を避けた上での戦闘である。
(『必要ならブルームフレアを牽制に回そう』)
(乱用は出来ないけどね)
(『そう。使う際は慎重になる必要がある。タイミングは僕が言う』)
 シウの言葉に黒絵が会話を聞かれないよう心の中で応じる。
 ブルームフレアの炎は長期的なものではなく、発火、延焼の能力もない為、道を塞ぎ続けることは出来ない。あくまで短期的に相手を怯ませ足を踏み止まらせるまでが限度だろう。その為連打は出来ない。
「合流なんかさせるか」
 正護が魔砲銃を撃ち続け、愚神の気を引く。
(足に装着する時間はないのが惜しい)
(『ジーチャン、元々そういうのじゃないんじゃから、装着時間が長いのは仕方ないと思うのじゃ』)
 救出の際は子供達の無事、その後は校長室への到着を優先している為、当然そうした時間は得られていない。
 魔砲銃自体足に装着を想定されているものではないから、当然と言えば当然だが。
 が、ヒーローとはどのような場面であっても覆しに行くのがヒーローである。
 これで折られる意志を持つ者はヒーローになりえない。
「頑張って戦った子供達が、待っている」
 エネルギー弾を撃ち、距離に関係なく確実なダメージを与える愚神へ正護が喰らいつく。
 子供達の最も現実的な避難経路を考えていた彼は、子供達が自分達に寄せている期待を裏切る真似など考えてもいない。
「泣くなって励ましといて、泣き言は反則だし?」
 側面へ回り込んだ鈴音が口だけで笑う。
 ケアレイが既に尽きており、負傷が見え始めている。特に鈴音は回復の手を他者へ優先させた為その色が濃い。
 当初無傷であったダグラスの負傷が目立ってきている点より、単独戦闘中にほぼ回復手段は尽きていたのだろう。それを見せるような類でもないが。
(『あちらの対応が終わってからが本番かな。それまでは本攻勢でなくてもいい』)
(でも、本気で行かないと、当ててくるよ!?)
 シウの言葉を聞きながら、黒絵はそう言う。
 威力そのもので言えば、恐らくケントゥリオ級の中でとても秀でた個体ではない。
 が、回避能力も高い部類であり、蘿蔔の威嚇射撃の影響が出ているのかそうでないのか判断出来ない程度に確実に当てる手段が多彩だ。
 シウが算段をと思った瞬間、正護が壁を使ってより高く跳躍した。
「的だな」
「的は貴様だ!」
 直後、愚神が被弾する。
 正面にいた彼は消兵の目処がついた蘿蔔が魔銃を構えたことに気づいていたのだ。
 気づかせない為、跳躍し、愚神の視界を動かすのがまずの目的。
「!?」
 自分がしていたことをされると予想していなかったらしい愚神の顔に驚愕が走る。
 その隙を逃さず、愚神の斜め後方に降り立った正護は銃を構えた。
「技の使い方はひとつじゃない」
 死角からの銀の魔弾。
 それと同時に潜伏で身を潜めていた無月がジェミニストライク。
「見た目派手な分目を引くな。恐れ入る」
「やり方に固執して悪を倒せないヒーローは失格の烙印を押されそうだからな」
 が、相手もケントゥリオ級、まだ倒れない。
 構築の魔女が星狼の援護で従魔を完全に倒している間に確実性のある攻撃でエージェントを圧倒していく。
 けれど、やっと従魔を一掃した構築の魔女もテレポートショットで愚神の虚を衝く攻撃を仕掛けると、回復手段が高級お弁当とヴァシロピタという状態に追い込まれながらもエージェント達は総力を挙げて攻撃を重ねる。
「く……」
 逃げる素振りはないが、ダメージが嵩んでいる鈴音を狙おうと愚神が青龍刀を振り下ろそうとした瞬間、鈴音の目の前にブルームフレアが立ち上がり、その姿を一瞬隠す。
(『ジーチャン、手を狙って』)
 アイリスの言葉と同時に正護が気を取られた今だからと銀の魔弾で青龍刀を持つ手を撃った。
 取り落としはしなかったが、その警戒が向いた時にはもう遅い。
 無月の縫止が決まり、火力高い黒絵のブルームフレアが決まると、鈴音が銃撃に合わせて攻撃し、ダグラスが最後の仕上げを狙う。けれど、止めには至らず、最終的に正護が子供達の想いも上乗せするとばかりに一撃放ち勝負を決めた。

●未来を託した者を思う
 喜ぶ子供達が正護とアイリスに飛びついているのが見える。
 泣きじゃくる子供へは鈴音とN・Kが対応し、適材適所といった所か。
「いつか墓参りに行ければいい」
 無月が出てきた校舎を振り返る。
「そうだね。そこに身体はなくとも心はきっとある」
 万事整うには時間が掛かると校長室で挨拶を済ませたが。
「あなたとはお会いすることは叶わなかったが……その志、決して忘れはしない。そして、子供達の未来を守ってくれたこと、心からお礼を言います」
 食われる最期まで逃げろと放送しなければ犠牲者が出ていただろう。
 無月はジェネッサと改めて子供達を見た。

「いたくないの?」
「すぐに治るよ。大丈夫だって」
 戦闘終了後に高級お弁当、ヴァシロピタを食べたものの確実に当てる手段を持った相手だけあり、負傷を残さなかったのは潜伏で途中まで敵の目を欺けた無月だけだった。
 けれど、鈴音は負傷の濃くとも笑い、N・Kと一緒に子供達を安心させる。
「子供は元気じゃ一番じゃ」
「見た目だけはてめぇも一緒だクソジジイ」
「大人じゃったか!」
「ジジイで十分だアイリス」
 アイリスが星狼とデイと楽しく(?)喋っている。
 スマートフォンを回収した蘿蔔がレオンハルト共に戻る傍ら、鬼ごっこで遊んでやった以外の目的があちらにないと判断したシウが警備会社のサーバーを調査出来ないか黒絵と確認している。
 ヴィントと構築の魔女が自身の考察を共有し合い、今後の影響がないか支部への確認に動くようだ。
 ダグラスは既に小学校から姿を消しており、そういえばと正護は英雄の名と姿を思い浮かべようとしたが、印象に残ってないのか思い出せない。
 正護は小学校をじっと見ている落児に気づき、自分も小学校を見た。
(本当の意味で立ち直るには、時間が必要だろう)
 校長の最期の声と襲われた恐怖は子供達に残ってしまうのだ。
 それでも──
「皆、よく生きてくれた。……偉かったぞ」
 正護は子供達の頭に手を伸ばし、撫でた。
「皆が生きるのを諦めない限り、俺達は皆の明日を生きる希望で居続けるんだ……。だから絶対に絶望なんか、するんじゃないぞ」
 この言葉が、どうか未来へ繋がるよう。
 正護はヒーローとして助けた先への責任を抱く。
 それには、自分達自身が絶望してはいけない。
 ありがとうを言う子供達を前にエージェント達はその想いを強くする。

 つまらないとこれを見ていないどこかの誰か。
 今に見ていろ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336

重体一覧

参加者

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 願い叶えし者
    ナハト・ロストハートaa0473hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • 我王
    ダグラス=R=ハワードaa0757
    人間|28才|男性|攻撃
  • 雪の闇と戦った者
    紅焔寺 静希aa0757hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • 高校生ヒロイン
    早瀬 鈴音aa0885
    人間|18才|女性|生命
  • ふわふわお姉さん
    N・Kaa0885hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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