本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】少し珍しい花見

真名木風由

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/04/06 10:54

掲示板

オープニング

 春。
 日本では、人々が満開の桜に思いを馳せる時期である。
 とは言え、ここ、香港では今そういう状況ではない。
 元々、香港には桜(この場合ソメイヨシノを指す)が少ないらしく、日本へ観に行く位らしい。
 ワープゾーンですぐに帰ることは出来るが、広州への陽動の件もある為、緊急事態に備えて待機状態なのだ。
 何もなければ、今日は香港九龍支部で1日終わる。終わってしまう。
「待機している間、何かしましょうか」
 同じように待機する剣崎高音(az0014)が提案してくる。
 訓練のようなものだとアラートにすぐ対応出来るかどうか判らない為、そうではないもの。
「お花見……だと、呼ばれても……気づけない、わよね……」
 夜神十架(az0014hero001)が、ちょっとしょんもりと残念な様子。
 それに高音が宥めようとし──何か思いついたような表情に変わった。
「お花見とは違いますが、それぞれの桜を再現してみてはどうでしょうか」
 何を言い出しているのだろう。
 皆(十架さえも)がそう思っている中、高音がこう言葉を続ける。
「皆、桜の絵を描いてみたり、桜を再現したお菓子を作ってみたり……そういう形で揃えて、お花見してみてはどうでしょう。それなら、何かあってもすぐに対応出来ると思うのですが。……ただ、待っているだけというのも何ですし」
 あとは精々、何度もカフェに足を運ぶ程度だろう。
 エージェントであるし、こちらも緊急事態に備えた待機中とは判るだろうから、向こうも嫌な顔はしないだろうが、ずーっと入り浸っているというのも心理的に、という所ではあった。
 良い時間潰しでもあるか、と『あなた』達は賛成を伝え、何をしようか考え始める。

 『あなた』は、どのようにして桜を再現する?

解説

●出来ること
・桜を再現

下記のようなことが可能(蔵倫注意・20人程度が会議するような広さの部屋想定でお願いします)
・絵(切り絵・貼り絵・塗り絵含)
・折紙
※一般的な画材なら職員から借りる等で準備可能ですが、絵の場合ですと、アクリル絵具や油彩といった専門店でなければ入手不可能なものはなしとします。紙類も文房具で売られているもの、画材屋にあるようなものではないもの。
・刺繍、編み物
・ビーズ
※上記は元々暇潰しとして所持していた範囲で。
・調理(飲料関係含)
※ただし待機中なのでアルコール関係はアウト。場所はカフェの厨房の隅を間借り、材料もカフェからお裾分けなので、豪華過ぎるものはアウトです。
・音楽
※スタジオ設備はないので所持品の範囲内となります。歌の場合演奏者がいないとアカペラ。
・ダンス(日舞等ジャンル問わず)
※室内で出来る範囲のもの。備品が壊れる心配がないもの限定。
・その他
上記になくとも再現が出来るもの(桜を感じさせるもの)で、複雑な準備が不要なものであれば出来ます。
NG例:桜染(手順がかなり複雑ですぐに準備出来ない)・ミシン等機材を扱う服飾(準備の観点より)

●流れ
桜の再現の準備→それぞれの桜を見せ合いっこ

●NPC情報
剣崎高音、夜神十架
桜の白玉団子を作るようです。
プレイングに記載なければ最後に振舞う程度の描写となります。

●注意・補足事項
・同じ場(基本料理関係以外の方は場所移動なく一室にいると判断されます)にいる方は任意で絡ませます。限定した交流は出来ません。
・芸能関係の方は本番(見せ合いっこ)メインとなります。
・プレイングの比重でリプレイ描写を判断します。欲張り過ぎると描写分散しますのでご注意。
・PCは知りえませんが、この日緊急出動は起きません。
・その他MSページにお願いもございますので確認をお願いします。強行しても残念な結果になる場合もありますのでご注意ください。

リプレイ

●始まりは唐突に
 鋼野 明斗(aa0553)は、カフェのソファに横になっていた。
 待機状態だし、時間帯もあってカフェの人はまばら……ちょっと位いいだろうと経済新聞を縦折り読みにして、読み終わったら、待機しているあの部屋に戻ればいいかと考えている、そんなのんびりタイム。
 けれど、その平和は、1冊のスケッチブックによってあえなく終了。
『はなみ!!』
 明斗の目の前で、ドロシー ジャスティス(aa0553hero001)はその文字をばんばん叩く。
「花見? 今は待機中だろう。日本だってまだ満開じゃない。満開まで──」
 びたーん。
 ドロシースケッチブックアタック。
「ド、ドロシーさん、そ、その辺に……」
 一緒に来たらしい剣崎高音(az0014)の取り成しにより、明斗は眼鏡を直す。
(来なかったら、首掴んで振り回されて、殺されたかもしれない)
 そこで、明斗は説明を聞き、胸を張ってドヤしてるドロシーに応じることにしたのだった。

●桜を作る
「カフェだけあって結構材料揃ってるんだな」
「ないだろうと思ってたものがあったりすると、逆に選択肢が広がって困りそう」
 礼野 智美(aa0406hero001)と美森 あやか(aa0416hero001)は、カフェからお裾分けされた食材を見た。
 ワープゾーンが設置されている香港九龍支部だ、世界各国からエージェントが足を運ぶだけあり、材料は揃っていた。状況も考慮すれば、エージェントに対する心遣いもあっての品揃えがあるのかもしれないが、この辺りはよく判らない。
「桜の下で食べるおやつ、なら、桜を思い出すと思うのだけど」
「そうすると、何だろうな? ないと思っていた材料があると逆に困る」
 来る途中、桜の塩漬けは厳しいだろう、糯米や桜の葉もないだろうから完全な桜餅はアウト、葛粉もないだろうし寒天もないかもしれないとないことを前提に構想していたのだが。
「でも、当初の路線でいいと思うの」
「だな。桜の再現だ、そこに拘る必要もない」
 あやかが桃ジャムを手にして微笑むと、智美も肯定の言葉を返す。
 その後ろをドロシーがちょこちょこ走っており、何となく見ると、踏み台を運んだドロシーは明斗に教えて貰った飲み物を準備する模様。
「材料は好きに使っていいらしいから、友達と楽しく遊んで来い」
 何やらドロシーがスケッチブックをバンバン叩くと、明斗は軽く肩を竦め、結局ドロシーと一緒に歩いていく。
「飲み物関係は任せるか。材料というより時間的にやりたいと思った甘酒は時間が掛かるしな。一応待機であることを忘れない方がいいだろう」
「そうね。待機の身であって休暇を楽しんでる訳じゃないわ」
 アラートが鳴るかもしれない状況での楽しみだが、料理している間に鳴らなければいい。

「材料は、ありそうね」
「準備を始めないとね」
 材料を確認していたルナ(aa3447hero001)に世良 杏奈(aa3447)が微笑む。
 カフェへ来るまでの間、お菓子でどう桜を再現しようと話していた彼女達はルナの提案で美味しく綺麗な再現を考えていたのだ。
「クッキーか何かですか?」
「出来上がりを楽しみにしてね」
 高音を手伝う為、手を洗ったウェルラス(aa1538hero001)が杏奈へ声を掛けると、杏奈はそれだけ認めて微笑んだ。
 見掛けは子供のウェルラス、ルナの男性判定は受けなかったらしく、特に何もされないまま、高音の方へ歩いていく。

「桜の白玉団子ってだけあって、桜の花の塩漬け使うのか」
「ええ。桜のケーキを見てあるだろうと思いましたし」
 高音を手伝う十影夕(aa0890)が準備した材料を覗き込むと、彼女はそう笑った。
「……あ、ありが、とう。魔女は、どうし、たの?」
 夜神十架(az0014hero001)が踏み台を探していると、先に見つけた辺是 落児(aa0281)が十架にと持ってきてくれた。
「ロ……ロ」
「……魔女、お部屋で頑張ってた、わね……」
 部屋を出る前の構築の魔女(aa0281hero001)を思い出したらしく、十架は手伝いに来てくれたと解釈したらしい。
「桜……少し、お水に浸けないと……ダメ、なの」
「ロロ……」
「お願いします、落児さん」
 十架の説明を聞く落児が頷くと、高音がボウルとストップタイマーを渡してくれた。
 桜とは風流なものだ。しかし、魔女殿は(色々な意味で)大丈夫だろうか。
 言葉にして落児がそのように考えていると、夕が白玉に入れる為の桜の花びらを切りつつ、心配そうに呟く。
「任せておきなさいって時は実は不安で……」
「大丈夫ですよ。あちらの部屋にも皆さんいますから」
 高音と話す夕は自身の英雄シキ(aa0890hero001)を案じているようだ。
 桜のイメージと結びつきやすい桜寺りりあ(aa0092)という友人が部屋に残ると分かっているから、こちらで「やってみたい」と手伝いを申し出たのだろう。
 会話を何となく聞いていた落児はドリンク、フルーツカットを協力して作業しているドロシー、ウェルラス、十架の会話に気づく。
「あぁいう時のアレにはちょっと近づいてたくないんで……」
 ウェルラスの能力者、水落 葵(aa1538)は部屋に待機していた筈。
 大丈夫かという方向性ではないようだが、何だか微妙に不安を覚えるような言葉だ。
「ーロロ……」
 世の中、色々あるのだろう。
 自分のことを棚上げした落児、時間通りに水浸すのを終了させ、桜の花びらの水気を切る作業へ。
 と、比蛇 清樹(aa0092hero001)がやってきた。
「ロロ……ロロ?」
「ん? いや、やはり楽器は厳しかった」
 落児の言葉を正確に理解している訳ではないが、雰囲気で気づいたらしい清樹はこちらへ合流した理由をこう述べた。
 日常的に愛用品などで、楽器を持ち歩いていれば話は別だったが、そうではない。
 支部に楽器はなく、一応確認し、やはりないということで、彼は練り切りを作る為に合流してきたのだ。
「桜の形も再現だ」
 白餡を手にした清樹はこちらをベースにした練り切りを作り始めた。

●桜を創る
「わたしはえをかくのにいそがしいが、ユウはいいこにしているといいんだが」
 さて、夕に心配されているシキは一呼吸つき、ふう、と息を吐いた。
 用意して貰ったのは画用紙。
 シキ画伯はこちらへ桜を創ることに忙しいのだ。
「ほう、なかなかのものをつくっているようだね」
 シキが見る先は、構築の魔女だ。
 構築の魔女は大変楽しそうに、そう歌さえ口ずさんで、桜作成中。
 シキと同じ画用紙の他、ハサミ、カッターナイフ、折紙、ポストイットを用意して貰った彼女はどうやら切り絵らしく、自身が描いて切り抜いた枝へ桜イメージのピンクの折紙を咲き誇るかのように貼り付けている。
「画用紙の上に立てるのかな」
「ほう、そうなのか?」
「え、あ、何となく」
 構築の魔女の手つきを見ていた中城 凱(aa0406)が漏らすと、シキが凱を見る。
 が、独り言のつもりであった凱はシキに顔を向けられ、咄嗟にそれしか答えられない。
 気にするようなシキでもなく、「わたしもまけておられんな」と画用紙へ桜を描くの再開。
「とても心が温かくなる絵なの、です……」
 りりあがシキの絵を見て顔を綻ばせている。
「桜の絵、ですよね。日本で言うと満開の頃の花でしょうか」
「そうだと思うの、です」
 離戸 薫(aa0416)が同じようにシキの絵を見て呟けば、りりあはこくりと頷く。
「お2人は何を?」
 凱と薫は色画用紙にハサミ、セロテープを準備しており、彼らも何かを作るのだというのは容易に推察できる。
「俺達は折角お菓子作って貰えるんだし、気分だけでもってことでランチョンマットを作ろうか」
「桜の花びらの形に切ったりしたら、雰囲気出るんじゃないかと思って。色画用紙もありましたし」
「素敵なの、です」
「桜寺さんはどうされるのです?」
 作業にひと段落ついた構築の魔女がその手を止め、りりあへ話を振った。
「あたしは……舞、でしょうか?」
 楽器は用意出来ない為、スマートフォンに入っている三味線の曲を再生するそうで、その音に乗せて舞うとか。
「三味線ということは、日舞とかでしょうか?」
「……きちんと、お稽古が出来るようになって、から、まだ数年経ってません、けど……昔から何度も見てきました、です」
「それは楽しみですね」
「僕もです。披露の時を楽しみに待ちますね」
 凱が問うと、りりあが微笑みを返す。
 それに対して構築の魔女と薫が期待を添えれば、リリアの顔は嬉しそうにはにかんだ。
「すばらしいはなみになりそうじゃないか。ごうかけんらんというやつだね」
 シキは鷹揚に頷き、それから会話に加わっていない葵を見た。
 葵は会話が聞こえた様子はなく、画用紙と水彩絵具で桜を描いている。
 急で用意して貰った水彩絵具は所謂小学校低学年の子が使うような範囲のものしかなかったが、葵にはそれで十分だったらしく、絵を描く前に口にしていた実家の庭と店の前の駐車場にある桜をその画用紙で再現しているようだ。
 その目は優しく、それはまるで恋人に注ぐ視線であるかのように愛しさが含まれている。
 ウェルラスが葵とは別行動の理由に実家の庭と店の前の駐車場にある桜を描くことに心血注いでいるからのようだが、その詳細な理由までは判らない。
「私達も準備を進めましょうか」
「えはかれだけではないとしらしめてやらねばなるまい」
 構築の魔女が微笑むと、シキは鷹揚に頷いた。
「俺達もランチョンマット頑張りますね」
「手分けすれば早いよ」
 凱と薫もハサミを手に、ランチョンマット作成に戻り──それを見るのはりりあだけとなった。
(あたしも桜は大好きだけど……葵さんも大好きなのね)
 身体が弱かった頃もずっと眺めていた桜は色々出来るようになった今も大好きな花。
 同じように大好きであろう葵の生み出す絵を見ているのは、窓の外とは違う桜を見ているようで、何だか楽しい。

 その葵は画用紙に桜を着々と描いていた。
 見なくても描けるその姿は、春にその艶姿を見せる。
 メインとなるのは画面手前のひとかたまりの花。
 こちらは綿密に、他はややラフ気味。
 背景は空……これはそれぞれの満開の時期の空の色をイメージしたものだ。
 一応昼ということにしたが、夜空の艶姿も素晴らしいものだと言っておかなければならない。
「しっかり、教えないとな」
 お前達がどれ程綺麗な奴かってをな。

●桜作りの総仕上げ
「ほんのり桜色だな」
「そうですね。味わうとより、といった所でしょうか」
 夕が団子を形作りながら呟くと、やはりドロシーより手伝うように言われて形作りに参加する明斗が白玉団子の過程に刻んだ桜を入れていることを思い返し、色以上に桜なのだろうと返す。
 ウェルラスはほんの少し借りて、崩れないようアドバイスを受けて猫耳団子を少し作った後はシロップを煮詰める工程を請け負っている。
「ロロ……」
 煮立てたタイミングを見計らい、落児がウェルラスの肩を軽く叩く。
「あ、よろしくお願いします」
 ウェルラスが落児に気づくと、鍋の前から退く。
 鍋が重く、かつ、その鍋を冷やしておく冷蔵庫のスペース的な問題で落児が運ぶのを請け負った為、彼が運びやすいよう場所移動したのだ。
『そろそろOK』
 ドロシーが十架相手に冷蔵庫前でスケッチブックをとんとん叩いている。
 蜂蜜レモンなゼリーを作ったそうで、ゼリー完成後フォークで細かくクラッシュするらしい。
「ロロ……ロロロロ」
 鍋を冷蔵庫に入れた落児は背丈や量的な問題より冷蔵庫にあったゼリーの状態を確認、問題ないとして作業し易い場所へ運んでいく。
 フォークを持った2人がゼリーを細かく砕き始め、ウェルラスもそちらのフォローに回ったようだ。
「こちらも形作ってみないか?」
 練り切りの形作りをしている清樹が白玉作業の夕へ声を掛けた。
「清樹さん、綺麗に形作られるんですね」
「しっかり桜と花びらしてる……」
「こうやって、こう」
 ある程度目処が立っているからか高音も練り切りへ顔を向けると、彼女と同じように感心する夕の前で清樹がお手本を見せていく。

「クッキングアート、ですか」
「ルナの提案なんですよ。桜を使わずに、と思って」
 あやかが杏奈とルナの作業を見、何をするか気づいて声をかけると、杏奈は笑みを見せた。
 その横で、智美が女と気づいたルナが「女!?」と素っ頓狂な声を上げているが、智美が「ナリはこうだが俺は女だ」と苦笑して応じている。
「俺とあやかも桜を使わない路線だ。いや、最初はやはり桜と思ったが、それだけで再現も面白くないだろう?」
「何を作ったの?」
「見てのお楽しみといった所だが、そうだな、こちらもクッキングアートとだけ」
 智美がルナへにやりと笑ってみせた。

 やがて、全てのお菓子が揃い、エージェント達は待機の部屋へ戻っていく。

●桜お披露目
「みたまえ、ユウ。これがわたしのさくらだ」
 お披露目になるや否や真っ先に披露したのはシキだ。
 画用紙いっぱいに描かれたのはクレヨンの桜。
 ごく普通の、外見年齢に合致した絵画レベルだが、日本庭園のような場所にある桜は満開の様子。
「わたしのげんそうちょうのなかとちがい、ぜんぶサクラだ」
「これがシキの幻想蝶の中? 良さそうな場所なのに何で入りたくないの?」
 真っ先にお披露目したい相手ユウはキーホルダーにしている幻想蝶とシキを見比べる。
 すると、りりあがくすくす笑った。
「おまえはほんとうにいろけをしらないね。りりあはよくわかっている。わたしはユウといっしょがいいんだよ」
 故に、幻想蝶の中はあまり入りたくない。
 高校の授業中などは入らざるを得ないから、幻想蝶に入る頻度は高いのだが。
「全部桜にしたってことは、本当は他の木もあるのか?」
「よいしつもんだ。わたしのげんそうちょうのなかにはほかのきもある。が、はなはなくともはなをつくる、そのけっこうなおもむきにおいてサクラいがいをかくのはぶすいだとおもわないかね?」
 葵が興味を持って問うと、シキは大変真面目にそう仰った。
「あとは、食べ頃のものもありますし、先に食べてしまいましょうか」
 高音が提案し、食べ物の紹介から入ることになった。

 トップバッターは杏奈とルナ。
 蓋をぱっと取った大皿の上には、桜の木を再現したクッキーだ。
 花を咲かせる木の幹も白い皿の上で舞う桜の花びらも綺麗で、美味しそうに見える。
「桜は使ってないとのことでしたよね?」
「ええ。木はチョコ味、桜の花と花びらはイチゴ味ですよ」
 あやかが尋ねると、杏奈が何味かをここで明かす。
 すると、薫が反応した。
「これなら妹達も見て楽しんで、あと、味も大丈夫かな」
「薫の妹ならこっちだろうな」
 凱も納得する所らしく、軽く頷く。
「妹がいるの?」
「まだ幼くて。桜味も大人に感じそうだから、チョコとイチゴの方が好みだと思いますよ」
 会話を耳に拾ったルナが見た目は杏奈との距離が安全という目算をした上で尋ねてみると、薫はそう言って微笑んだ。
「そういう意味じゃ俺とあやかのも薫の妹達にも食べられそうなものだな」
「和のクッキングアートでしたよね」
「どう違うのかちょっと見たいわね」
「では、今」
 智美へ顔を向ける杏奈とルナに応えるようにあやかが蓋を取り、自分達の作品を見せた。
 目に飛び込んできたのは、薄いピンクの桜を模した和菓子。
 ひとつはイチゴジャムと牛乳という組み合わせの牛乳かん、もうひとつは桃ジャムを餡に見立てた桜餅、らしい。
 どちらも桜の形をしており、見た目も綺麗だ。
「葛餅や本当の桜餅も候補になくはなかったんですが、こういう桜の表現もありだと思いまして」
「桜味ばかりというのも何でしょうし、いいと思いますよ」
 説明するあやかへ構築の魔女が微笑みを向ける。
「桜味だけではというものには賛成だ」
 何やら作業していた清樹が自分の番だと桜を模した練り切りを披露する。
 こちらも色合いは桜だが、桜は使用していない。
「ほう、みやびやかなよそおいだね。じつにけっこう」
「練り切り……和の風情があるな。食べる美しさって奴だろう」
 シキが練り切りの見事さに感嘆し、葵も清樹の腕の見事さに感心しきり。
 当然、シキはその中で少し不恰好なものに気づいていて、「これはユウ、おまえのものだね?」と指し示している。
「結構難しかった。見比べるな」
「いや? これはわたしがもらわねばならないね。ぶかっこうでもユウがつくったなら、わたしがたべねばなるまい」
 夕へ言い放つシキは、「いろけがないからそのへんはいいのだよ」と添えて、夕からでこピン喰らって少し涙目。
 次いで、高音が十架と一緒に桜の白玉団子を配った。
 こちらは刻んだ桜の塩漬けが入った桜の白玉団子へ煮詰めたシロップを注ぎ、季節のフルーツと桜の塩漬けで見た目も華やかにひんやり楽しむものらしい。
『じゃーん!』
 食べ物系最後は自分だとばかりにドロシーがスケッチブックばんばん叩き出す。
 背丈的な問題で、明斗がクラッシュゼリーが入ったグラスを配り、無色のサイダーを注いでいく。
 塩漬けの塩気を抜いた桜がサイダーによってクラッシュゼリーの上を舞う形でとても綺麗だ。
「混ぜるとピンクがほのかに出て、色合いが綺麗ですよ」
『特製お花見ドリンクなのよ』
 明斗の説明の横でドロシーがスケッチブックで一言添える。
 キラキラ光るドリンクを1番に振舞いたい十架は混ぜてみて、光の反射に目を輝かせ、それがドロシーには嬉しいらしく、スケッチブックの文字も元気がいい。
「桜入れてないんだな」
「こっちのがいい」
 ウェルラスのドリンクには桜が浮かんでいないと葵が顔を向けるが、ウェルラスは渋い顔でそれだけ返した。
 葵は勿体無いと猫耳の桜の白玉団子を食べていく。
「食べたり飲んだりしながらシキさん以外の作品をお披露目しないといけないですね。まず、このランチョンマットが凱さんと薫さんの作品だということから始めた方がいいと思いますが」
 構築の魔女が話を向けると、隣に座る凱と薫へ視線が向けられる。
「一応使うお皿の大きさや枚数を確認した上で、桜や花びらに色画用紙を切り抜いたんです。あと、紙である分飛ばないよう一時的にセロテープで下の部分を固定してるんですよ」
「名案ですね。それに何かの拍子にズレ易いですし」
 薫の話を聞いた構築の魔女が改めて自身のランチョンマットへ視線を落とした。
「全部色画用紙です。文房具屋にある程度のものでも結構出来るんだなと思いましたよ」
「うむ。こういうのもじつにみごと」
 凱が材料を明かすと、シキは発想が大事であると理解を示す。
 花見も大事だが食い気も忘れないシキ、花見をしっかり満喫しており、現在夕も形作りに一部参加した桜の白玉団子を賞味している。
「文房具屋の範囲といえば、水落さんの作品が素晴らしくて」
 構築の魔女がそう言った瞬間、ウェルラスは話を振るなという顔をした。
 しかし、その時には色々遅かった。
「披露の時が来たな」
 葵ががたりと立ち上がる。
 ウェルラスがすんごい渋い顔をする中、葵の桜愛が炸裂した。

●桜を彩る
「実家と店の前の駐車場にある桜達を描いたぜ」
 親のビルの管理と、そこのビルの1階にある玩具屋の雇われ店長をしていると前置きした葵は3枚の桜の絵を披露した。
 桜は見た所、どれも品種が異なるようだ。
「まず、1人目がこいつ」
 葵は恋人を紹介するかのような愛おしげな視線を絵にやり、『1人』目の桜を紹介した。
 1人目は山桜。
 葉も描かれたそれは、和歌に詠まれることが多い桜。『吉野の桜』でもある。
「桜の起源って話もあってだな、だからっていう訳じゃねぇが、俺にとっての起源みたいなもんでもある」
 思い入れの強そうな様子の葵は説明の為に周囲を見た後、また山桜を見つめた。
「1本だけで咲くんじゃなくて、沢山群れて咲く方が生える辺り……寂しがりっぽいな」
 まるで人であるかのような言い方はそれだけ思い入れが深いということを示している。
 ウェルラスの顔の渋みが増していく。
「2人目は染井吉野。今は大体こいつを思い浮かべるんじゃないか?」
「そう、ですね。あたしもイメージが強いと思います、です」
 清樹の練り切りを食べていたりりあが葵の問いに答える。
 そう、と葵は頷く。
「こいつは1本だけでも映えるからな。家の庭にいることもあるだろう。が、やっぱりある程度いた方がいい」
「山桜との違いってあります?」
 凱が軽く手を挙げて尋ねると、葵はよくぞ聞いてくれたと凱へ顔を向けた。
「俺としては山桜より手が掛からない感覚だが、見てやらんといかん時期が読めない。そうした意味では山桜より手間が掛かることもある。……ま、だから、いいんだろうな」
「3人目は……僕は見たことないです」
「それは損しているぞ」
 染井吉野を締めくくって、葵が最後の桜を見せると薫が思わずそう言った。
 すぐさま葵が言い切り、ウェルラスの顔が最高に渋い。
「これは八重紅枝垂桜だ。咲く時期がちぃと遅いが、1人だけでも十分映える。艶やかな装いもこいつに限ってはちっと長い。他より傲慢な所があるが、それに見合う華がそうさせているのかもな。艶やかな美人はそういうもんだ」
 蕾の頃は色濃く、花開くにつれて淡くなる───花の開き具合で変わりゆく色はまさに美女の装いの如く。
 葵の話によると、5分咲きから7分咲きを遠目で見ると、最も紅の色が濃いらしい。
 そこから淡い色合いになっていく様は美しく、毎日見ていても飽きないようだ。
「飽きない美人ってのも大したもんだ。うちの店の前の駐車場にあるのがこいつだ。咲く時期になったら是非見に来てくれ。花も喜ぶ」
 ウェルラスは渋い顔だが、ドロシーはスケッチブックをばんばん叩いて明斗へアピールしている。
 ドロシーが楽しんでいるのだから過剰な介入はと自由にさせていた明斗も花見は嫌いではないので、散る前に今の状況が改善されたら行ってもいいかもしれないと思って、白玉食べていたり。
「水落さんの後では少しお恥ずかしいですが」
 構築の魔女が微笑み、自身の切り絵を披露した。
 桜が立つような切り絵の下には、人型の切り絵。
 ポストイットで作られたそれは、構築の魔女が皆をイメージしたものだ。
「時間の問題もありますから、象徴的なものですね」
 背丈や小物程度ならと作っており、誰が誰なのか判る。
 扇やスケッチブック、そうしたものを見つけては誰が誰なのか推測が飛び交う。
「ところで……ロータスワンド、持ってるわよね?」
「ロローロ……」
 察した落児が場所的にそれはどうかというような空気で構築の魔女へ声を掛ける。
 会話は解らないが、多分そうだろう。
「ほら、武器の動作確認になりますし、ライヴスの花綺麗だと思うのだけど……」
「ロロロロ! ……ローロ」
 落児、必死密度高い空気で高音を見る。
 言葉は解らないが、これは絶対そうだろう。
「メインのりりあさんの舞、準備完了したようですよ」
 先程準備終わったらしいりりあに気づいていた高音のお陰で共鳴してロータスワンドなオチはなくなった。
 落児、心の底から安堵。

●桜を舞う
 折紙の桜吹雪が舞う中、りりあがひとさし舞う。
 先程までどれも可愛くて美味しいとスマートフォンで写真を撮っていたりりあとは異なる趣だ。
(いつ見てもりりあの舞はいいものだ)
 いつの間に料理技術を身につけているのかとりりあに言われていた清樹は、病弱だったりりあが昔は布団の上で手の動きしか練習出来なかったとは思えない位だと感慨深げ。
 桜には色々思いでもあるが、嫌いではない。
 その思いはりりあの舞を見て確かなものになる。
「きょうここのえににおいるかな、たいへんけっこう」
「清樹さん撮らないの?」
「しゅやくはりりあだよ、ユウ」
 自分が撮りたいみたいで恥ずかしいと言う夕のスマートフォンを奪って、シキがりりあの舞を動画に残している。
 音楽こそ、スマートフォンで再生される三味線の音色だが、りりあの舞は本物だ。
 共に舞う花吹雪も折紙であるが、りりあが自身の扇と清樹の扇を差し伸べるようにして舞う度に花びらが本物へ変わっていくような気さえする。
 舞は演目はあっても、同じ舞はない。この瞬間のりりあが生み出すものだから。
 それ故に、そこへ桜が再現される。
 舞が終わると、エージェント達から拍手が送られ、りりあは少し恥ずかしそうに微笑んだ。

 こんな風な嬉しさが他の誰かにもあるから、ゲームで悲劇なんて起こさせたくない。
 今日、アラートが鳴らなければいい。

 エージェントの願いが通じたのか、それともゲームの首謀者の攻略方法なのか、この日アラートは鳴らなかった。
 けれど、今、この瞬間も、ゲームは構築されようとしている。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    桜寺りりあaa0092
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538

重体一覧

参加者

  • エージェント
    桜寺りりあaa0092
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    比蛇 清樹aa0092hero001
    英雄|40才|男性|ソフィ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    シキaa0890hero001
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