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遠き香港へ。つまらないものですが。
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つまらない物てすがどうぞ
最終発言2016/03/29 13:49:49 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/03/29 13:44:51
オープニング
国際会議を控え、騒動の渦中にある香港に比べれば日本は安全な空気が流れている。
要塞部分が切り離された、H.O.P.E.東京海上支部では今日も割と緩めな依頼が舞い込んでくる。そしてその依頼をこなすエージェントたちも、のほほんと仕事に当たる。
香港の皆さん、大変ですか? 私たちはのんびりした春を迎えそうです。
まぁ香港の皆さんとか言っても、現在日本で動いているエージェントの中にも、香港から移動してきてまだ香港に帰るようなお忙しいエージェントもいるわけではあるが。
そんな中、古龍幇やマガツヒ、更には愚神勢力が絡む事件に追われて疲弊しているであろう香港支部の職員たちに何か送ってやろうと言い出したのは誰だったか。
きっと忙殺されて、ストレスや不満も溜まっているはずだ。ただでさえ神経をすり減らす仕事だからね、福利厚生の一環だよ、とは職員の言葉だった。
そうだ職員が言い出したんだ。暇そうにしているエージェントたちを捕まえて、香港に送る物を色々と見繕ってきてくれという依頼をされたのだ。武器や必要物資は、横浜港を出ていった輸送船が運んでいたらしいが、娯楽品とか菓子類とかそういう嗜好品に近い物はダメだったらしい。
なので自分個人の依頼として、何か選んできてくれと東京支部の職員に頼まれたのだった。センスは君たちに任せるよ、とは愚かな職員が笑顔とともに告げた言葉だ。にやり。
しかし職員はこうも加えた。クッソ高い物を買ってきても費用は出せないからね、と。その場合は自腹を切るか自分で返品してきてね、と。エージェントは無茶苦茶する人間が多いから、それに慣れた職員はしっかり釘を刺してきた。これ金銭感覚を試されてる?
とにかく、職員による『クッソ高くない』と『福利厚生の一環たりうる』かを見極める審査を通過できるような代物を、エージェントたちは買ってくることになったのだった。
依頼してきた時は『何か買ってきてくれ』だけだったじゃねえか。後付け多すぎるだろ。ブーブー不平を訴えながら、エージェントたちは東京支部を後にした。
解説
■目的
大変な香港支部の職員さんたちに、労いの品を送りましょう。
菓子類とか雑誌とか、食料や日用品でもちょい高い奴とか、簡単な差し入れと言う感じのものですね。
■敵
職員のゆるい審査。選んだ物品を審査します。
高すぎる物を買うと職員さんが費用を出してくれません。
その場合は自腹か返品です。ダッシュで返品です。(実際に所持金が減るわけではありません)
とはいえあまり難しく考える必要はありません。よほど変な物でなければ大丈夫です。
あえてラインを攻めるのも、もちろんアリです。
■場所
日本国内。
金はかけん、と近場の駄菓子屋とかに凸っても大丈夫です。
最高の物を求めて、国内でフライトしても構いません。
ただし移動にかかる費用は出してくれません。そして所持金が実際にちょっと減ります。
■状況
東京支部を出たところから皆さんは自由です。
物を買ったら東京支部に戻って職員さんのゆるい審査です。
遠出する場合は、せめて3日以内には支部に戻ってきて下さい。
リプレイ
●収納に優れた逸品
「嗜好品かー。お菓子とかで良いのかな?」
支部を出てすぐの所で世良 霧人(aa3803)は足を止め、相棒のクロード(aa3803hero001)に意見を求める。クロードは至って静かな声で。
「香港にいらっしゃる方々に送るのでしたら、やはり日本の物が良いかと思います」
「そうだよね。チョコとかがいいのかなぁ」
送る相手の実像が見えないと、差し入れ選びも難しいものである。とはいえ考えていても始まらない。保存も利くし支部の大勢の人間にも受け入れてもらいやすいだろう、ということで霧人はお菓子を買うことに決めた。
早速、近場にあるスーパーまで足を運び、2人はお菓子コーナーをうろうろ。
「うーん、こうやってじっくり選んでみると、色々なお菓子が出ているんだね」
「そうなのですか。どうも私にはどれも目新しく見えます」
「クロードはこっちに来て日が浅いからね」
一般的な板チョコとかクッキーとかでもクロードにとっては新鮮な物であり、中身もどんな物かわからない。故に品物を選ぶ役は専ら霧人が務める。
チョコ、ビスケット、飴。そういったお菓子をピックアップ。量も多めにカゴに入れていく。
「これ見たことないな。家に買って帰ろう」
「奥様たちの分ですか?」
「まぁね。大丈夫だよ、もちろん自分のお金で買うから」
季節限定モノのお菓子をいくらか買い込んでから、会計を済ませる。レジの店員はカゴ一杯にお菓子を詰めて台に置いてくる男に多少驚いていた。ワイシャツにベストときちんとした格好をしているものだから、ますますどういう理由なのかが謎だろう。
店を出ると日照具合がだいぶ変わっていた。思いのほか時間がかかってしまっていたようだ。
「ふう、結構な量になっちゃったな……。持ってくの大変だ」
両手にずしりと感じる買い物袋の重みに、霧人が息をつく。
「幻想蝶の中に入れてしまえば良いのでは?」
眉一つ動かさず、クロードが諭す。霧人は一瞬呆けた後に。
「…………確かにそうだね。すっかり忘れてたよ」
リンカーになってから1ヶ月も経っていない霧人は、自分が便利な収納アイテム『幻想蝶』を所持していることに全く気づいていなかった。
●思春期だから
「差し入れかぁー、何がいいんだろうなー?」
「向こうは大変そうだしな。大変な時ほど、気晴らし、息抜きするのは大切だからな。なにか、こう、ストレス解消できるモンがいいよなぁ」
五行 環(aa2420)と鬼丸(aa2420hero001)はああでもないこうでもない、と話しながら街をブラブラ、そしてダラダラしていた。
「息抜き、息抜き……アレしかないっ!」
うんうん頭を悩ませていた環が急に何かを思いつき、俊敏な動きで走り出した。
環が向かった先は本屋だった。奥へ、ひとけのない方向へ進んでいく。
「へへっ、これ必須だろ? 生活必需品!!」
彼が手に取ったのは、いかがわしい本。それ万人の生活必需品じゃない。主に思春期男子の必需品。
「……ごくり。ナイスだな! これはオレも欲しい!!」
鬼丸も同調し、思春期らしい悪ノリで阿呆な行動に走る2人。数冊の本を選び、レジへ向かう。
当然ながら女性雑誌や趣味雑誌などで挟み込むサンドイッチ買い。カモフラージュの仕方まで完全に思春期男子である。
晴れやかな顔で本屋を出てきた阿呆2名。
「あとは……そうだな……」
また何か閃いた環は雑貨屋へ突入。色々買ってから支部に戻っていった。
●食い意地
「嗜好品かー何を送ればいいのなの? シャルティいい意見ないなの?」
漠然としすぎている依頼内容に困っていた豊浜 捺美(aa1098)が英雄のシャルティ(aa1098hero001)に尋ねているところだった。シャルティは無言でちょっと考えた後に。
「……落ち着ける物?」
自信なさそうに首を傾げている。
「捺美君とシャルティ君だー!」
呼び声が聞こえる。声の主は八咫(aa3184)だった。嬉しそうにスキップしている。その背後には金華(aa3184hero001)の姿も見える。
「八咫ちゃんやっほー金華ちゃんもやっほー」
「……こんにちは」
合流した流れで、2組は一緒に買い物をすることにした。八咫はそれに喜んで大はしゃぎ、足取りも軽い。
「買い物捗っているなの? 私はまだ迷っているなの……やっぱり喜んでもらえる物を送りたいなの」
「うんうん! 向こうの人が喜ぶの一緒に買おうね!」
歩きながら激しいアクション(?)で会話をしている八咫を横で眺めていた金華は、相方の謎のハイテンションに言及。
「いつになく元気だにゃ……」
「春に近づいて暖かくなったからねっ!」
「寒くにゃいのは良いことにゃ、実に良いにゃ」
「暖かいお日様は罪深いなの。日向ぼっこしたいなの」
春の陽気を感じながら、一同は八咫のたっての希望で駄菓子屋へ。差し入れだけでは済まなそう。
ちょっと趣のある店を見つけ、足を踏み入れる。
多種多様な駄菓子が所狭しと店内を覆い尽くす。何かいるだけで楽しくなるような。
「色んなおやつ置いてあるー、なに買おっかなー……」
「ま、此処のなら職員も出してくれるかにゃ」
費用の心配をしていた金華をよそに、八咫は駄菓子選びに夢中になっていた。主に食うため。
「ね、このチョコの奴甘くて美味しいんだよ!」
「……あちしにもちょっち分けるにゃ。……確かに甘いにゃ」
「でしょでしょ! えへへ」
賞味しつつも差し入れ用の購入は忘れない。スナック系やチョコ、昔ながらの駄菓子、『ヒュージカツ』や『ブタ野郎メン』などと印字されてあるモノも。八咫が持てる程度の袋一杯に買う。
「いろいろあって迷っちゃうね」
「……かりんとうや煎餅がいい」
シャルティの意見も参考にして捺美が差し入れをセレクトしていると、後ろから八咫が肩をポンと叩いてきた。何か口の中でころころと転がしている。
「ころころーしゅわしゅわー、捺美君たちもおひとつどーぞっ」
八咫が差し出してきたのは飴玉(ソーダ味)だった。彼女が口に含んでいるのもこれらしい。
「わーいありがとうなの」
「……ありがと」
貰った飴玉を皆でころころ。
「案の定……まぁ良しとするにゃ」
八咫が自分で駄菓子を食べ始めていることに金華は呆れるが、金銭的に痛手になることはないので小言を言うのはやめておいた。
駄菓子屋を出ると、金華が猛然とどこかに向かおうとする。何となく行き先が予想できる八咫は服をひっぱって引き止めた。
「ご、後生にゃ、高級猫缶んんん!!」
「もー、今日はぷれぜんと買うって約束でしょー!」
「駄菓子は見逃したにゃ! 頼むにゃ!」
「それとこれは別ー!」
結局猫缶はおあずけ。罰として金華は荷物持ちをやらされることに。不憫。
「気持ちわかるけどだめなの」
「……迷惑かけるのよくない」
涙ながらに猫缶を諦めた金華に捺美は苦笑い、シャルティは呆れていた。
八咫の買い物は終わり、次は捺美の買い物となるのだが、彼女はまだ何を買うか決めあぐねていた。
どうしたものかと考えていると、金華が持たされている駄菓子の袋が目につく。
「そうなの。お菓子だけだと喉が渇くから私は飲み物関連を送るなの」
その足でダダッとスーパーに向かい、緑茶の茶葉やティーパック、ココアなどを買い物カゴに入れる捺美。八咫たちは後ろからついていき、カゴが山盛りになる様を眺める。
「……珈琲」
くい、と捺美の袖を引くシャルティ。その手には珈琲のパックが。
「そうなの。ありがとなのシャルティ」
気遣いに感謝して、捺美は珈琲と砂糖、ミルクもカゴに追加してレジへ。本日2回目の謎のカゴ山盛り客を前にして店員さんが怪訝な表情をしていたが、そんなことは気にすることなく支払いを済ませる。
「もう1ヶ所回ってもいいなの?」
店外へ出たところで、捺美が八咫らをふり返って言った。
「いいよいいよー!」
八咫は二つ返事でオーケー。「ありがとうなの」と言って捺美が目指したのは百円ショップだった。
飲み物に合わせてコップや湯飲みを買うためだ。
色々物色していると、そこは百円ショップ。雑多なラインナップにどうにも目移りしてしまう。ついつい髪飾りやアクセサリーを物色。
「これなんてかわいいなの」
目についた物をカゴにポイ。もちろん自腹。すると同じアクセサリーに伸びる手が見えた。
「えへへ、お揃いだー」
八咫が自分のカゴにそれを入れた。もう完全にお買い物気分である。
「うん。お揃いなの」
笑いあう2人。そこに金華の釘を刺すような声が。
「送る奴も忘れるにゃよー」
脱線に気づいた捺美が慌ててコップ類を買い揃え、一同は東京支部へ戻っていく。
●ネット時代
「日本人から本物の日本製の物を貰えるという事実が喜ばれるらしいよ? あっちは、色々あるからねー」
「安かろう悪かろうデスネー」
鴉守 暁(aa0306)は支部内のとある一室で相方のキャス・ライジングサン(aa0306hero001)に何やら教授していた。
「だからまー日本製であれば無理に日本的な物でなくてもいいんだね。日本的すぎて説明が読めないとか使い方がわからないとかじゃ困るからさー。まあH.O.P.E.職員だしそこら辺は対応できるだろうけどねー」
「ワタシも説明読めない時アリマース」
「じゃあ帰ったら勉強だー」
たわいない会話を切り上げ、暁はPCに向かう。目的はネットでの探索。とりあえず日本各地の特産品を扱う場所が都内にないかと調べる。東京では地方フェアなどはいつでもどこでも何かしらやっているものだし、現地に飛ばずとも地方産の良品は手に入る。
「ネット、便利デスネー」
「ホント便利ー。時間と金があれば出かけなくてもいい……」
ネットパワーにより特産品を入手できる場所を都内に発見した暁はそこに向かい、適当に商品を見繕って支部に帰ってきた。
●振り回されて
「ジロー! オレ、オカシがいいとおもう! オカシたべたらしわあせ!」
「しあわせ、だしお前が食べたいだけだろ……。確かに菓子もいいが、日本が感じられて、日頃の疲れが癒されるような物も贈ってやりたいんだ」
「オカシー♪ オカシー♪」
「はぁ……」
もはや人の話を聞かないほどに浮かれている小狼(aa3793hero001)に何やら不穏な予感を感じ、武 仁狼(aa3793)は思わずこめかみを指で押さえた。
買い物のために近場を色々と見て回っていると、2人は酒屋の前で足を止めた。
「日本酒か……。良いかもしれないな」
まさに仁狼が挙げた条件を満たした品と言える。
これを買うべきかと店先で考えていると、仁狼は小狼が向こうから自分に向かって無邪気に駆け寄ってくるのに気づいた。金も持っていないはずなのに大量のお菓子を抱えて、しかも誰かに追われている。
つまり……。
「ジロー! これにするー!」
どっかの店から勝手に持ち出してきたに違いない。
「だぁぁぁぁっ!? お前、バカっ、返してこい!」
「えー?」
「そんなには買えん! い、1個だけにしろ!」
追ってきた店員に平謝りし、仁狼は小狼が取ってきた菓子を1個だけ購入。残りは2人でお店まで戻しに行った。
たっぷり怒られた後、小狼に説教をしながら仁狼は街を歩いて店を回る。
ふと目についたのはお茶専門店。
「抹茶もあるか……。落ち着けそうだな。酒が飲めない奴らもいるだろうし良いかもしれないな」
「ジロー! きれいなオカシがあったー!」
「だぁぁぁぁっ!? 返してこーい!」
デジャヴ。再び大量のお菓子を抱えて小狼が走ってくる。もちろん店員も。
再び平謝り、そしてお菓子を1個だけ購入。後始末も忘れない。
その後も何軒かの店の前で立ち止まるもののその度に小狼が何かやらかす。
買い物はいつ終わるのか。
●カツラ
「せっかく日本から贈るんだから、日本らしい物がいいよね!」
「そうだねー。んじゃ、ちょっと見て回ろうかー」
日本らしい物を調達するため、天都 娑己(aa2459)と龍ノ紫刀(aa2459hero001)は和風の土産専門店に向かった。
店に着くや否や、娑己は面白がってあれもこれもと手に取っては紫刀に見せていく。
「ねーねー、紫ー、これなんて日本らしくて良いと思わない!?」
チョンマゲのカツラを被って何故か得意げな娑己。周囲の観光客の視線を集めていて、しかもそれに全く気づいていない。相も変わらず今日もお馬鹿ぶりを炸裂させる娑己を紫刀は微笑ましく眺めている。
「あはは、娑己様、お土産じゃなくて、差し入れだってこと忘れてないー? ……っていないし!?」
紫刀は笑いながら娑己をたしなめたが、すでに娑己の姿はそこになかった。即断即決、彼女は恐るべき速度でカツラ(と近くにあったオモチャのカタナ)をレジに持っていっていた。
チーン。売買完了。
がっくり肩を落とす紫刀と、満足げに戻ってくる娑己の姿が悲しかった。
「娑己様、差し入れだからねー?」
「任せといて! さっきはあまりにも可愛くてつい買っちゃったけど!」
さすがにカツラが審査に通るかはわからないので、別の物を探して2人は店内を歩く。娑己は思い当たる品があるようで、店内をぐるぐると探し回る。被るのがマナーとでも言うようにカツラも装備。
「メイユってどこに置いてあるのかな?」
「メイユ?」
紫刀が聞き返すが、ちょうどその時に目当ての物を見つけた娑己が棚に駆けていく。
「あ! あったー! これこれ!」
指差したのは入浴剤。日本の名湯と記されている。
「娑己様……それはメイトウって読むんだよ……。うん、でもいいね、それ」
「でしょ!? 毎日神経も使う大変なお仕事だろうし、少しでもリラックスしてもらえたらいいなと思って!」
草津、湯布院、登別、等々の名湯が小分けにして網羅されている入浴剤セットを購入。
店を出て、2人は娑己の実家の神社に寄った。騒乱が起こる香港支部の安全を祈願するためのお参りをし、木札も差し入れ用にいくつか持っていく。
「リラックスもそうだけど、無事にいてほしいからね」
皆が無事に過ごしてほしい、という気持ちのこもった差し入れは香港の人たちにも受け入れてもらえるだろう。
紫刀はそれを確信し、皆のことを思う娑己の優しさについ口元が緩む。
っていうか笑う。いやだって娑己はカツラを被っているんだもの。カツラ被ってさっきの台詞を言っているんだもの。
しかし主のシリアスシーンで笑ってはいけない、と紫刀は地面をばんばんと叩きながら必死に笑いを堪えるのだった。
●審査
支部に戻った暁がいるのは何故か和室。暗い中に中央に1本の蝋燭の炎がゆらぐ。
「現地の民にも喜ばれる、さぞ御代官様のお目にもかなうであろう品をご用意致しました。キャス、出して」
越後屋風の暁が合図を出すと、キャスが怪しげな包みを職員に差し出す。
「例のモノはコチラでゴザイマース」
封を開くとそこには黄金最中……ではなくカステラがあった。いやかすていらと言うべきか。
「これは良いですね」
職員さんはにこやかに頷く。
「洋菓子のような和菓子のようななのが良いらしいので酒饅頭とかにしようかなとか思いましたが、饅頭だとあんこが苦手な人とかおりますので」
「はぁ……」
「これに茶葉をお付けします。和菓子にはやっぱお茶ですので。香港への差し入れは以上2点、よろしいでしょうか? 御代官様、ご決断を」
さっき良いと言いましたよ、と職員が口を開きかけたところで暁が「待った」と手を出して止める。
「こちらは御代官様への手土産でございます。キャス」
「ハーイ」
キャスが差し出したのは酒饅頭。
「どうぞ懐にずずいと」
賄賂を押し付けてくる越後屋。職員さんは「いえ結構です」の連呼。そのやりとりはしばらく続いた。
「HAHAHAHA。まあキャスと食べるために買ったってのもあるけどねー。日本酒もあるけどこれは私たちのー」
大きな瓶を取り出しながら暁が悪代官ごっこをやめ、手を振って退室しようとする。酒や饅頭は自費なので問題ない。
「あ、そだ。嗜好品は士気に関わるから補給物資に入れるように強く言ってね。これはホントに大事だから」
「えぇ、わかりました。上に伝えておきますね」
ならばよし、と暁はキャスとともに東京支部を後にした。
他の面々も続々と支部に帰還。
「だいじょーぶ……? あ、もしかして少なかったかな!?」
「似たようなのならちゃっちゃか買ってくるにゃよー」
買い込んだ駄菓子の量を心配する八咫、金華はダッシュの準備をする。
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」
審査は通過。駄菓子たちは晴れて香港へ旅立つことに。2人は一安心といったところ。
「私はこんなものを買ってきたなの。領収書はこちらになりますなの」
八咫と一緒に品物を披露する捺美。職員は領収書と袋の中身を交互に見ている。どきどき。
「問題ありません。こちらも送っておきますね」
「よかった、許容範囲に収められたなの」
ふー、と捺美は一息つく。八咫と健闘を称えあおうとしたところ、すでに彼女の姿は隣になく、気づけば環たちが持つ袋の中を覗きこんでいた。
「ねぇねぇ、どんなの買ってきたの、見せて見せてー!」
「ばっ!? ダメだ、これは見せられねえ!」
「何なのー? 私も見たいなのー」
「ダメだって! いやマジで頼むから!」
頑として袋の中身を見せようとしない環と鬼丸。理由は言わずもがな。
「見せたくないと言っているのですから、無理強いはよくありませんよ」
環らにフォローを入れるのは霧人だ。単純な心遣いなのか、それとも環たちの慌てっぷりから中身を推察したのかは不明である。
「まー無理にとは……ね」
「なら帰るなのー。みんなお疲れ様なの」
八咫たちが帰るのを見届け、環は職員のもとへこっそりと歩み寄る。
「なぁ、これなんか良いんじゃねえかと思うんだが……」
「あーだめですね」
即答。いかがわしい本は一発アウトだった。
「いや、これぜってぇないと困るって! 溜まるって! 不健康になっちまう!」
「持ってるかもしれねぇけどよ、同じモノじゃ飽きるしな!」
溜まるとか飽きるとか、一体どういう本なんだろうね!
「いや無理です」
素っ気ない。これ以上押してもダメそうなので、2人は別の物を見せることに。
「あー、それと……これもな」
照れくさそうに環が提出した物。それは雑貨屋で買った色紙だった。しかも数十枚。それには香港支部の職員らへ宛てた労いやエールの言葉が寄せられていた。
「これは……」
「まぁ……ついでだ」
2人は買い物を済ませた後、東京支部内を奔走して職員やエージェントに声をかけまくってこの寄せ書きを作っていた。実は情に厚い2人、品物はもとより気持ちも添えて送りたいと考えていたのだ。
「いいですね。何だかんだ言って嬉しいものでしょうしね」
「だろ! だよな!」
職員の認可が1つ下りたところで、阿呆どもは再交渉に移る。
「そんでこの本も必要だって! ほら、ちょっと見てみりゃわかるって!」
「大変な時こそ、気晴らし、息……抜かせてやりてぇだろ?」
鬼丸が物凄いドヤ顔である。上手いこと言ったみたいな。2人とも最高の差し入れになると本気で思っている。思春期男子だから。馬鹿だからじゃない。
食い下がる2人に向け、職員はとうとう言った。
「全責任をお二方が背負うというのなら……」
「え、責任……」
「それはちょっと……」
職員の目がマジだったので2人はやむなく撤退する。
後続の霧人と娑己の差し入れは無事にオーケーが貰えたようです。
審査を終えて外に出ると、空は暗くなっていた。
霧人は空を見上げ、遠き香港の地で戦う者たちに思いを馳せる。
「向こうは今、大変なんだよな。僕らが送った物で、少しでも気が休まると良いね」
「はい、旦那様」
八咫も空を仰いで、香港の状況を案じる。
「香港かー、あっちは大変なんだよね……?」
「色々とどんぱちやってるみたいにゃ、おっそろしいにゃぁ」
金華は大げさに身を震わせ、八咫は己の両手をじっと見つめる。
「ヤタも強くなったら戦えるのかなー」
「まぁだまだ先になりそうにゃ、気長にやるのが一番にゃぁ」
「喜んでもらえるといいなぁ!」
「大丈夫だよ娑己様。きっと喜んでもらえる」
香港の人たちを少しでも癒せることができるなら、そう願って娑己たちは家路につく。
審査で弾かれたカツラとカタナを装備しながら。街中を闊歩。紫刀はやっぱり笑いを堪えるのに必死です。
●ぶらり旅
他方。
「皆が喜ぶといったらやっぱり酒じゃないか?」
「お酒が苦手な人もいるでしょ? てか自分が飲みたいだけじゃないの?」
マルコ・マカーリオ(aa0121hero001)は己の考えを伝えるも、アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)は冷ややかな視線を送るのみ。
日本ならではの物が良いとスマホで検索し続けていたアンジェリカは、ヒットした『箱根』に惹かれて箱根へと向かうことにした。
そこそこの長距離移動を経て到着した温泉街・箱根では、早速差し入れ用に寄木細工を買いに行く2人。伝統工芸品ならば日本らしさの要件は充分クリアしている。
「こんな凄い物を作るなんて、やっぱり日本の文化は侮れないね」
モザイク模様に作られた品の数々をうっとりと眺めるアンジェリカ。
「確かに自然を活かしつつも芸術的な作品だな。だがわざわざ来なくても東京でも売ってる店はあるだろう?」
寄木細工の技巧に魅了されてはいるが、マルコは至って現実的に考える。
「ふふ、ちょっと考えがあるんだよ」
アンジェリカは得意げな笑みを浮かべて4千円程度のお盆を会計に持っていき、何やら店員と話しこんでいる。マルコは会話が終わるまで黙って彼女の帰還を待つ。
「さぁ行こうかマルコさん」
「何を話していたんだ?」
「ふふーん。それはね――」
胸を張って説明し始めるアンジェリカ。彼女は寄木細工の制作現場を見学・撮影させてほしいと交渉していたのだ。香港の者たちもメイキング映像を見れば楽しんでくれるだろうと思い、予め見学可能とされているお店を選んでいた。
少し感心するマルコを連れ回し、アンジェリカは作業工程を2台のスマホの容量が許す限り撮影する。
差し入れ購入を終えると日は低くなっており、2人は温泉宿に泊まっていくことにした。
湯を堪能した後は、宿の食事に舌鼓を打つ。刺身に鍋物、最高ではないか。
「これは足が出まくりだな」
浴衣姿のマルコが晩酌しつつ苦笑い。宿泊費が支給されるとは思えないので自腹は確定だろう。
「いいじゃない。ボクたちも福利厚生の一環ということで」
隣で返事をするアンジェリカは、卓にノートPCを置いて作業中。撮影映像を編集してDVDに焼こうとしているようだ。
朝を迎えてから東京に戻ったアンジェリカは、職員の前で「ふふん」と平たい胸を反らしていた。
「ほら、こんな綺麗なお盆でお茶を運んでもらったら、安いお茶でも高級品に感じてきっと幸せな気分になれるよね。作業工程はきっと香港の人たちも楽しんで見てくれると思うし、温泉の素の入ったお風呂でゆったり疲労回復も出来る。これって立派な福利厚生だよね♪」
帰り際に買った温泉の素も合わせて提出してまくし立てる。
「おやカノーヴァさんも入浴剤ですか。寄木細工に入浴剤は良いですね。制作映像も大丈夫でしょう。ただそれ以外にかかった費用は出せませんよ?」
「ま、まぁ覚悟の上だよ。香港の人たちが綺麗な物を見て癒されてくれたらボクも嬉しいし、自腹を切るなんて望むところさ」
箱根でゆったり羽を伸ばした分は、やはり自費で賄うことになったのだった。
●後日
「ま、待たせたな……」
買い物の日から3日後、仁狼が支部に全速力で走り込んできた。小狼にひたすら振り回されて結局ここまでずれ込んだらしい。
「おや、どうされました?」
「か、買ってきたんだ! 香港への差し入れ!」
「あぁそうでしたか。すみません、何か終わった気分でいました」
「……」
何はともあれ、仁狼は買ってきた品を職員の前に出す。
内容は日本酒4合瓶、茶筅付きの抹茶セット、合わせて華やかな和菓子と酒のつまみ。菓子類は小狼が持ってきた物の中に混じっていた。どうやら彼なりに考えてはいたらしい。
「はい、問題ないですね。お疲れ様でした。しっかりと私の手で送らせて頂きます」
ゆるーい審査を無事通過し、仁狼は胸をなで下ろす。小狼は職員が差し入れをどこかへ運んでいく様をじっと見ていた。
「よろこんでくれるといいな!」
ふり返った小狼は無邪気に笑っている。
「まぁ……いい組み合わせだ。喜ぶだろ」
自分の選んだ物はともかく、小狼なりに頑張って選んだ物は喜んでもらえたらいい。そう思いつつ、仁狼は相棒を伴って支部を去っていく。
後日の職員の談によると、送った品はどれも好評を博していたそうである。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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