本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】蘭咲く庭に響く聲

東川 善通

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 6~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2016/04/06 11:21

掲示板

オープニング

●蘭の庭
 それは突如として出現し、瞬く間にその場を混乱に陥れ、、それのゲーム会場へと変貌させた。
「ほらほらほら、もっとイイ声で啼いてちょうだい」
 林の中を逃げ惑う人々に向け、池の真ん中に立っているチャイナ姿の女は水で作りだした弾を放つ。しかし、それは木々に邪魔され、逃げ惑う人に届くことはなかった。
「あら、外れちゃったわね。ざーんねーん」
 それでも、さして気にした様子もなく、次の狙いを探すべく池の上を進む。その一方で、蘭園に放たれていた従魔にでも遭遇したのだろう悲鳴が女のところに届いた。
「あら、イイ声ネ。でも、まだまだ足りないわ」
 もっともっとイイ声を響かせてちょうだいとその形の良い唇を釣り上げた。

●聲が聞こえた所
「被害は甚大。ただ、愚神が移動していないことを考えるとまだ生存者がいる可能性があるということじゃな」
「愚神の他には豹型の従魔と壁型の従魔か。壁型って妖怪の塗り壁みたいなのかな」
「かもしれんのぅ。まぁ、厄介なのは愚神と豹型じゃろうな」
 襲撃のタイミングを読むことができず、兎にも角にも急がねばと風 寿神(az0036)とソロ デラクルス(az0036hero001)を始め、君たち他のエージェントたちは輸送機に乗り込んだ。その中でそこにいる時間すら惜しいと入ってきた情報を整理をしていく。そして、君たちは蘭園に到着した。

●聲が届く所
「へぇ、彼も中々面白いゲームを考えたね」
 それにしても、ハントゲームにはうってつけの場所だねとトランプで遊びながらその映像を眺めていた青年にも麗人にも見えるその人物――幻月は口元に笑みを浮かべる。
「全員死ぬのが先か、それとも助けに来るのが先か。どっちかな?」
 そう言って、手に取ったカードを表に返せば、そこにはジョーカー。それは人間に対するものか、はたまた愚神に対するものなのか。ただただ、幻月は愉快そうに笑みを深めた。

解説

 生存者の救出及び愚神従魔の討伐
 【】はPL情報であり、PCが知ることのできない情報。

●蘭園
 広大な林の中に蘭が咲く庭園。見通しはかなり悪い。また、園内には水が引かれており、池が数か所に点在。尚池の近くには小さな建物がある。

●メイファ
 デクリオ級愚神。胸ぺたのチャイナドレスの女性に見える男。俗に言うオネエ。
 【常に浮遊(地面から数十センチ程)し、池の上から人を狙い水弾や水刃で攻撃する。】
水弾:水の玉を飛ばす攻撃。射程は1~5スクエア。ただし、物に当たるとそれまで。
水刃:水出来た円盤状のカッター。射程は1~5スクエア。物に当たればそれを切り裂く。

●ヴァオ×8
 ミーレス級従魔。1~2m程の豹。攻撃特化のため、爪は刃のように頑丈で鋭い。また素早い。
 【動くものを攻撃するため、風で動いた木々も攻撃する。また、動いていれば攻撃を繰り返す。それが己で攻撃したがために動いたものだとしても。】
噛みつき:噛み付き、肉を引き千切る。
切り裂き:刃のような爪での切り裂き。

●トンセン×6
 ミーレス級従魔。3m程の壁。逃げ惑う人々の逃亡を邪魔をする(偶々邪魔する形になっているだけ)。
 【3体はメイファのために池の縁にいる。】
のしかかり:ただ倒れるだけ。また倒れると起き上るのに時間がかかる(2ラウンド)。

●生存者
 園内を逃げ回っている。中には怪我をしている人も。どのくらいいるのか把握できていない。
 【怪我人(十名程度)は治療のため、池近くの建物に潜んでいる。尚、愚神は一番奥の池におり、その付近に五名ほど隠れている。】

●幻月
 【どこか遠い所で蘭園の様子を見ているようだ。今回出てくることはない。】

●風 寿神&ソロ デラクルス
 NPC。指示がなければ最低限の動きに。またステータス等はマイページとは異なる。

●注意
 こちらは急行ですので、一般物は準備できません。
 またリプレイは蘭園前からとします。

リプレイ

●聲を救え!
 悲鳴、獣の唸り声。それらが普段決して響くことのないだろう庭から聞こえる。
「クロさん、頼んでいたものが届いてますよ」
 セラフィナ(aa0032hero001)はそう言って真壁 久朗(aa0032)にスマホを手渡した。そこには、予想される入園者数と園内の地図が添付されている。
「随分と広いね」
 久朗の手元を覗き込み、地図をみる佐倉 樹(aa0340)。彼女の言うとおり、園内はかなりの広さを誇っていた。そんな彼女の言葉を聞いて、どう突入していくか話し合っていた他のエージェントたちも久朗たちの周りに集まる。
「入口は三か所ですか」
「ああ、ただ、北門はここから遠すぎる」
 久朗は全員のスマホに地図を送信した。それを見て、ふむと頷いたのは迫間 央(aa1445)だ。門は三か所あり、エージェントたちの傍には西門と南門があり、その反対側には北門があった。しかし、それは久朗の言葉の通り、彼らの場所から一番奥の場所。
「そやったら、この二つから突入するってことやな」
「必然と、そうなりますね。しかし、これだけ広いと生存者を探すのも苦労しそうですね」
「だからこそ、こうして、陽動と救助で分かれたんだろ」
「それもそうね」
 こりゃ、骨も折れるわとばかりに弥刀 一二三(aa1048)が声を上げれば、笹山平介(aa0342)もそれに同意する。キリル ブラックモア(aa1048hero001)は幻想蝶の中で輸送機でも食べていたクッキーを咀嚼し、そう言えば、柳京香(aa0342hero001)が頷く。
「そうだとしても、この広さだと要救助者の搬出は厳しいものがありますね」
「このあたりの建物で治療ができるところがあるといいのですが」
 中央あたりで救助者がいた場合、どこに敵が潜んでいるかわからない状態で運び出すのは危ないと言葉に含ませながらクレア・マクミラン(aa1631)は言う。それに地図の中央を指差しながら、リリアン・レッドフォード(aa1631hero001)は治療できる場所を確保さえできればと零した。
「風は生存者たちを出口へ誘導してくれ」
「了解じゃ」
「パニックになってる人もソロさんに声をかけてもらえれば落ち着きそうじゃないですかね?」
「そうですか? うーん、でもやってみる価値はありますね」
 どちらからどのように突入するかを話し合う一方で、久朗は風 寿神(az0036)に指示を出す。それに頷く隣ではセラフィナがソロ デラクルス(az0036hero001)に一つ提案をしていた。

「よし、それじゃあ」
「行ッテみヨー」
 樹とシルミルテ(aa0340hero001)の掛け声に陽動を請け負った木陰 黎夜(aa0061)、麻生 遊夜(aa0452)、賢木 守凪(aa2548)、一二三、央は共鳴した上でさらに二つの班に分かれ、南門と西門から蘭園へと突入した。そのあとを救助班の久朗、クレア、平介、鹿島 和馬(aa3414)が続く。
『被害甚大だってさ』
「わかってる。でも、まだ生存者がいるかもなんだろ……助けるぞ」
『あれ、冷静?』
「焦ってもしゃあねぇって教えられたからな」
『そう……いい仲間だね?』
「おうよ」
 彼らが足を踏み入れたそこは報告書にもあった通り、かなり木々が生い茂り、見通しが悪くなっていた。周りに目を配りながら生存者を探して走る和馬に俺氏(aa3414hero001)が声をかける。前を見つめる和馬と共に俺氏は往く。
「鹿島さんはクレアさんと行ってもらいましたけど、大丈夫ですよね」
「大丈夫だ。俺達は俺達がなすべきことを。それが最大の援護になる」
「それもそうですね」
 恐らく和馬がいるであろう方を向いて、そう零した平介に久朗が答えれば、平介は一つ頷いた。
「酷い状態ですね」
『そうね。このあたりにも従魔が出たのでしょうね』
 散らばる肉片にそう零せば、もしかしたら今もいるかもしれないとクレアは警戒を強める。そんな時、奥から先に行った和馬の声が聞こえた。クレアが急行すれば、そこには三メートルほどの壁が倒れていた。
「なるほど、これがトンセンということですね。ところで鹿島さん、大丈夫ですか」
「なんとか。急にぶっ倒れてきてビビったぜ」
 間一髪、後ろに飛びずさったおかげでトンセンの下敷きにはならずに済んだらしい。それに気づいているのだろう、体に似合わない小さな手足をバタバタと動かすトンセン。
「倒れたら起き上れないのか」
「いずれは起き上るでしょう」
 その前に始末してしまおうと二人はそれぞれの武器を手にトンセンに一撃を放った。トンセンは一度大きく手足を振り上げたがぱたりと地面に落とす。
「倒れたら暫くは起き上れない旨を連絡しておきましょう」
「任せた!」
 通信機を取り出したクレアに和馬はそう言った。そして、全員にトンセンの戦闘特色が共有された。
「俺達はH.O.P.Eだ。指示に従って速やかに避難してくれ」
 クレアと和馬がトンセンと出会っている中、久朗と平介は逃げ回っていた生存者に声をかけ、出口に誘導する。勿論、素直に聞ける人だけではなく、見てきた恐怖から助けてくれと彼らに縋り、その言葉を聞いてくれない者もいた。
「出口付近に司祭服を着た風と言うヤツがいる」
「それに俺たちの後ろは既に従魔がいないことは確認しているので安心してください」
 丁寧に何とか言い聞かせ、出口の方へ誘導する。
「ヴァオはこのあたりにいないようだな」
「みたいですね。おかげで助かります」
 通信機から、トンセンについての情報が伝えられる。そして、先行している陽動班からヴァオについての情報も入ってきた。

「……ゲームとかだとさ、ボスって大抵『一番奥に居ルヨネ』
 先頭を切って中に入った樹は通信機でそう伝える。昨日までやっていたRPG系ダンジョンゲームでは奥にボスがいたからだ。ただ、北門も含めてしまえば、丁度奥に当たるのは中央になるのだが、中央にはいたであろう形跡はあったものの、その存在はなかった。
『とリアえズ、さラに奥行っテミて、居たラ即連絡! 「居なくても、連絡するよ」
 そう宣言すると樹は北門の方へと足を向けた。北門の方へ近づくとどこからか唸るような声が聞こえ、樹は足を止める。樹が目視できる程度のところにヴァオはいるのだが、きょろきょろ何かを探している様子だった。
『見ぃツけタ』
「ヴァオを発見ね。周りに人影はーー」
『ないみタい』
 ざっと自身の周りを見回し、動くものや気配を探ってみたが、それらしいものは見つけられなかった。それに樹は発見したら、生存者を優先し、ヴァオの注意を引くことをシルミルテと確認する。
 そして、樹は死者の書を取り出すと白い羽根を出現させた。それは未だきょろきょろしているヴァオに一直線に向かい、飛んでくるものに気づいたヴァオはそれに爪を振り下ろした。
「それで回避したつもりなのかな? それとも」
『タダ、興味を持っタダけかな』
 動かず、本を構えヴァオの様子を窺う樹。先程飛ばした羽根はとうに消え去っており、ヴァオは再びきょろきょろとし始めていた。
『これハもしカスるトーー』
「……動くものに反応するのか」
「そうみたいやな」
 ひらひらとはためくローブを纏った守凪の周りにはヴァオが三体集まっていた。そこにたまたま居合わせた一二三がものの試しと大きな声を出してみたが、それには反応を見せず、風で揺れるローブに反応し、守凪に飛びかかる。敢えて、一二三は動かずにいれば、案の定と言うべきかヴァオは動きのある守凪だけを狙った。
「賢木はん、避けてやぁ」
 ヴァオを相手している守凪にそう声をかけ、彼がヴァオから距離をとるとそこに一二三がライヴスショットを放った。その余波は周りで守凪を狙っていたヴァオも巻き込む。
『ひぃ、ふぅ、みぃ、これで三匹だねぇ』
「報告であったのは八匹。つまり、あと五匹はどこかにいるということだな」
 ヴァオの死骸を数えたカミユ(aa2548hero001)に守凪はあたりに生存者がいないか確認する。ガタリと物音が聞こえ、彼はそちらに足を向けた。
「ヴァオは動くもんに反応しとるみたいや。動かへんかったら、襲ってこん」
 通信機でヴァオについての報告を行い、生存者には建物で隠れるもしくはその場で動かないように指示に伝えるようにとも伝えた。
「賢木はん、オレは奥に行くで」
「あぁ、わかった」
 一二三は守凪に声をかけるとさらに奥を目指した。その場に残った守凪は周りに生存者がいないか確認をする。木の陰は勿論、近くにある建物の中までしっかりと。
『カミナぁ、そこ、さっきも見たんじゃないのぉ』
「ただの確認だ」
 カミユに指摘され、その指摘をそう斬り捨てる。それに「くふふ、そう言うことにしておいてあげる」とカミユは面白そうに笑っていた。
「猫の遊び、みてーだな……」
『猫しては凶暴すぎるわね』
「それもそうだな」
 一二三よりヴァオの報告が入る少し前、黎夜もヴァオの特性を発見していた。死者の書で木葉を攻撃すれば、そちらに気を取られる。それに小さく零せば、彼女の中でアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)が答えた。そして、ヴァオの特性を観察した後、撃破し、通信機を手に取ったタイミングで、一二三からのヴァオの特性報告が入った。
『先越されたわね』
「まぁ、しかたない」
 報告を聞き、静かに通信機を戻すと近くに生存者がいないか目を配った。そして、木の陰に小さな人影を見つける。
『怖くて動けなかったのね』
「ただ、今回はそれがよかったみたいだな」
 小さく丸まる人影に黎夜は自分がH.O.P.Eの人間であると告げながら、そっと近づいた。人影は黎夜と同じくらいか少し下の女の子だった。
 大丈夫かと声をかければ、こくりと小さく女の子は頷く。その返事を聞きつつ、黎夜はざっと大きな怪我がないか確認をした。
『大きな傷はないみたいね』
「そうだな。ただ、ここも安全とは言いきれない」
 建物内の方がいつ従魔が現れるかわからないこの場所よりも断然安全だろう。そう考えた黎夜はスマホで地図を呼び出し、自分の場所と建物の場所を確認した。
「この先に建物がある。もしかしたら、他の人もいるかもな」
 とりあえず、移動しようと少女に声をかける。少女は恐怖から黎夜にしがみ付く形で、一歩一歩歩く。そして、建物に到着し、中を確認するとやはりと言うべきか、数人すでにその建物に身を隠していた。
「この近くにいた従魔は対峙したけど、まだいる可能性がある。だから、出来るだけ動かないように」
 知っておいて損はないとそこにいた生存者たちにヴァオの特性を説明する。
『やれやれ、後手に回らざるを得ないのが辛い所だ』
「……ん、敵は狩る、これ以上させない」
 遊夜の言葉にユフォアリーヤ(aa0452hero001)は任せてとばかりに尻尾をぶんぶんと振る。彼女たちは奥に来る途中で何人か生存者を見つけていた。そして、そこに丁度建物があったということもあり、静かにそこに隠れているように伝える。中には子供もおり、泣きそうになるとユフォアリーヤが口に指を当て、くすくすと笑いながら告げれば、何かが伝わったのか涙を拭い、こくんと頷いた。
「……壁?」
『いや、さっき通った時にはなかったはずだ。となると、これは』
 建物を後にしたユフォアリーヤの前に壁があった。ぺたぺたと触ってみるがそれは冷たく、壁であるとしか言いようがない。しかし、その壁の先には自分たちが来た道が続いているはずであると遊夜は口にした。ぐらりと壁が動き、ユフォアリーヤの前に小さな目が現れる。
『間違いなくトンセンだな』
「……切れる?」
『やってみるしかないだろう』
 チェーンソーを構え、ユフォアリーヤはトンセンと距離を取る。トンセンもトンセンで倒れるタイミングを計っているのだろうユフォアリーヤを目で追っていた。
『この先には行かせたくないんでね』
「……ん、あの子たちがいるから」
『その通りだ』
 こくと遊夜の言葉に頷くと、ユフォアリーヤはトンセンが動くよりも素早くチェーンソーをトンセンに振り下ろした。
『獣を放った庭園で人狩りゲーム? イカれてるわね』
「躊躇せず殺していい相手という意味では考えなくていいけどな」
 忌々しそうに呟くマイヤ サーア(aa1445hero001)にヴァオに一閃を浴びせ、央はそう零した。そして、「このあたりまで、従魔と生存者にしか合わなかったということは佐倉さんのいうように奥に元凶がいそうだな」と北門の方角に目を向けた。
 次々と入ってくる撃破情報に央は情報を整理し、報告者の場所をGPSで確認しつつ、残りがどこに固まっているのかを割りだしていく。
「とはいっても、やっぱり全体的に奥だな」
 自分たちが入ってきた西門、南門付近では寿神が鷹の目を使い、従魔の有無を確認しており、ないことが報告として挙がっていた。
 その上、生存者の話によれば、愚神は水の上に立っていたらしく、北門の付近にはこの蘭園一、大きい池がある。もしかしたら、距離を取るために敢えてそこを選んでいる可能性もあると央は考えを巡らませた。また、久朗から生存者が見た愚神の報告もあり、愚神は真っ赤なロングのチャイナドレスに身を包んでいるらしい。この緑ばかりの中に赤色があれば、遠くからでも分かりそうだ。その情報については既に全員に共有済みである。まだ、愚神発見の報告はなく、央も愚神探しに動き始めようとしたその時、通信機がノイズを発した。
『報告―。愚神を見ツけタ』
 全員の通信機からはシルミルテの報告が発せられた。それによれば、愚神のいる池の周りに四体ほど、トンセンの姿が確認できるらしい。また、ヴァオもいたのだが、そちらは彼女たちがなんとかしたらしい。
『賢木はん、木陰はんも近くにいてるか?』
『一二三、確かに近くには来てるが、もしかしてあれか』
『せや』
『うちはいつでも大丈夫だ』
 最後に守凪が溜息を吐いた後、通信機は途切れた。

●聲を聞け!
 陽動班が敵を撃破しているおかげで、救助班は最初以外従魔と出会うことなく、救助活動を行えていた。クレアは中央付近で立てこもっていた生存者の建物に入り、そこで、治療に当たる。
「消毒に必要な度数は60%、あとは大丈夫ね?」
「あぁ、足りるな」
 手も欲しいということもあり、建物の窓にはカーテンを引き、最悪の場合があったとしても見つかりにくいようにしてから、共鳴を解いた。そして、久朗たちに重傷者をクレアたちのいる建物へと運搬してもらう。
「このあたりの従魔は一掃していますが、安全のため、引き続きこの中にいてください」
 重傷者を治療する間も建物内の人には外には出ないように声をかける。一方でリリアンはスキットルに入っているウィスキーや密造酒「九龍仲謀」を裂いたナース服にふりかけ、即席の包帯を作っていた。
「安全になれば、すぐにでも病院に輸送しますので、一先ずはこれで」
 リリアンとクレアの二人で的確に治療していく。その建物の周りでは和馬が鷹の目を使い、他に生存者がいないかどうか、確認を取っていた。
「もう、この周りにはいない感じか」
『かもしれないね。それにしても、随分といたもんだね』
「今日はお茶会だったらしいからな」
 従魔は殆ど撃破されたと言って油断は禁物だよと、中から声をかけてくる俺氏に和馬はそう応えた。
『本当に散々だよね。あ、和馬氏、クレア氏が呼んでいるようだよ』
 クレアに呼ばれ、彼女の指示で一部の生存者を出口まで護衛することになった。そんな和馬と入れ替わりに血だらけの男を二人かかりで担いだ平介と久朗がやってきた。
「クレア、この人を頼む」
「随分と派手にやられてますね」
「どうやら、ヴァオに対して抵抗したらしい」
『子供達を守ってくださったそうなのですが……。無事で良かったです』
 服の破れから傷が酷かったであろうその男性は大量出血のため、意識を失っていた。しかし、発見時に久朗がその傷の酷さからすぐさまケアレイをかけ、こちらに運びこんだ。とりあえず、安全なところに運ぶことが出来、セラフィナは安堵の言葉を零す。
 その後、目を覚ました男の自分で何とかしなければと思ったという言葉に平介はかつての過去を見た。
「それから、このあたりはもう大体、生存者もいないみたいだ」
「ということで、俺たちは愚神の方に行ってきます。もしかしたら、まだあちらに生存者の方がいるかもしれませんからね」
「わかりました。こちらは任せてください」
 久朗と平介の言葉にリリアンとクレアは頷く。そして、彼らが出ていった後、戻ってきた和馬は引き続き、護衛を行いつつ、クレアたちのサポートを行った。

 北門付近の池の上では女性としか見えない愚神が水の上を浮遊していた。
「イイ声が聞こえなくなったわねぇ」
 どういうことかしらと笑みを浮かべたまま、黒いレースの手袋した手を頬に当てる愚神、メイファ。ただ、メイファにはそれがどういうことか理解しているのだろう、池の中央から動こうとせず、周りに目を配る。
 樹や一二三たちは木の陰に体を隠し、様子を窺う。池の周りにいるトンセンたちは特に行動をする様子もなく、ただただそこに立っている。
「あのトンセンを倒して、メイファのところまでって」
『できナいカな』
 どうにか水の方に倒してと考えるが、トンセンの高さとメイファまでの距離が長すぎる。
「まだ、見れたもんだな」
『それでも不快なのは変わらないわ』
 メイファ自身がまだ整った顔をしており、スリットから覗くのが生足ではなく、ストッキングであることに苦笑いを零す央。それにどちらでも変わらないとマイヤは零した。まぁ、もっともだと思いつつ、彼は水上戦を視野に入れ、ALブーツを装備する。そして、メイファに気づかれないように注意しつつ、池の中央近くにある建物の陰に移動した。
「……真壁、メイファの後ろあたりに生存者がいる」
 これから、一二三が提示したことをやろうと守凪。しかし、メイファの背後で動く人影に気づき、すぐに近くに合流していた久朗へと連絡を取った。そして、了解の意を受けると、守凪はメイファの攻撃が届かないであろう位置に移動するとその場に立ち上がった。
「イイ声で啼かせたいんだろう? なら、そんな所にいないで近くに来たらどうだ」
「あら、イイ男じゃない。そんなに啼かせてほしいのかしら」
 それにしても、あんたみたいなの、いたかしらと首を傾げつつも、メイファは守凪を射程範囲に入れようと徐々に近づく。その様子に全員が見つめる。あと少しで、射程に入るというところで一二三が池に掛かる桟橋を走り、正体不明のオイルを投げつけた。
「なっ!!」
 驚いた顔をし、一二三を振り返るメイファ。しかし、一二三よりも自身のドレスが汚れていることに目を見開く。その隙に一二三はライトブラスターでメイファを撃った。それに避ける暇すらなかったメイファは大きな声を上げる。
「お前の方が随分とイイ声で啼くようだな」
『カミナぁ、慣れないことするの大変そうだねぇ?』
 フンと鼻で笑って見せれば、彼の中でカミユは憐れみを織り交ぜて呟く。それに守凪は小さく「黙れ」と呟いた。
「餌の分際でやってくれるじゃねぇか」
 先程までの女性らしい声とは真逆の地を這うような低い声が池の上から響く。オイルでドレスを汚された上に、浴びされたレーザーにメイファの目は怒り一色になっていた。
「蘭のように美人だったのに惜しいね。でも……うちのアーテルの方がもっと美人だ……到底及ばねー」
 それに追い打ちをかけるようにメイファに言葉を浴びせかける黎夜。それを聞いてアーテルは中から落ち着くように声をかけた。ただ、黎夜は思った本心を言っただけであり、落ち着いた状態である。
「嬉しいことをいってくれるねぇ。でもねぇ、もう遅いんだよ。あんたのいう美人だっけ、そいつも一緒に俺の餌にしてるよ」
 口元だけに笑みを浮かべるメイファ。両手を池にかざし、水で出来た円盤状のカッターを作りだす。
 その一方で、久朗はメイファの近くにいた五人を北門へと誘導し、脱出させた。そして、フラメアを握り、池の近くに身を潜める。
「イイ声、聞かせてくれよ。絶望の声をさ」
 そう言うと、水刃を守凪と黎夜に投げつける。近くにあった木を切り裂き、二人に迫るが、寸でのところで避けきった。チッと舌打ちをするメイファの後ろに潜伏をかけた央がALブーツを使用して、近づく。
「おっと、こっちがお留守だぜ」
『いないと思った?』
 二人に意識を向けるメイファに遊夜がそういいながら、テレポートショットをメイファにお見舞いした。死角からの攻撃にメイファはどこだと叫び、水弾を撃つが、撃ったそばから移動し、姿を隠す彼らにはそれは届かない。
「水の上に立っていれば接近されないとでも思ったか? ……愚かな!」
 荒れるメイファを央は潜伏を使用し、背後から孤月で一突く。それにメイファはギギギっと首を後ろに回し、央を視界にとらえる。その手には水弾。
「やはり、これだけじゃ倒れないか」
 素早く、孤月を抜くと後ろに飛びずさる。だが、そこに水弾が投げられた。央はそれを斬り捨て、回避する。それに次の水弾を用意するメイファ。
「敵はそっちばっかやないで」
 一二三はそう言い、再度ライトブラスターでメイファを狙う。命中し、呻くメイファに追い打ちをかけるようにして、遠方から樹がブルームフレアを放った。
「あ゛ぁあああああ」
 蘭園に一番大きな声が上がる。そして、炎に包まれたその体から浮遊力は失われ、派手な音を立てて、池に落ちた。
「やったか」
 池の周りにいたトンセンを池の方に倒していた久朗が池に浮かぶ、メイファに目を向ける。
『とりあえずはこれにてひと段落でしょうか』
「あぁ、とりあえずはな」
 セラフィナの言葉に久朗は頷く。そして、全員で庭園で潜んでいる生存者の誘導が始まった。
「愚神は退治されたそうですよ」
「あの、私の子供は」
「今、皆で誘導してるから、もう少し待ってくださいね」
 西門の付近でメイファ討伐の報告を受けたソロが丁度誘導していた女性にそう言う。女性は子供とはぐれたのだと再三言っており、無事かどうかとソロに縋る。それにソロは優しくその背をさすり、大丈夫と声をかけた。
 そして、クレアより救急車の手配なども頼まれ、ソロはすぐに対応する。
「ちょっと、他に要『救助者が居なイカ』私も確認してくる」
 愚神討伐を終え、それぞれが声をかけた建物に向かう中、樹はそう久朗に告げると園内を確認がてら散策を行うため、再び、蘭園の奥へと向かう。
「綺麗な蘭が咲いてますね……踏みつぶされたこの子たちもまた咲けるでしょうか」
 樹の背を見送っていると近くで蘭の花を見つめるセラフィナがそう呟く。セラフィナの前には凜と綺麗な花を咲かせた蘭とヴァオかそれとも逃げ惑う人達によって倒されたのか蕾の蘭の鉢が倒れてあった。
「咲くだろ。いつか、きっと」
「そうですね。その時は一緒に見に来ましょうね」
「あぁ」
 久朗の言葉に頷いたセラフィナは倒れていた鉢を元の通りに置いた。
「くふふ、随分、疲れてるねぇ」
「言うな」
 はぁと本当に疲れたとばかりに溜息を吐く守凪に長い袖を口に当て、カミユは笑う。その一方で、未だ忙しく動くのはクレアとリリアンだ。
「そちらの患者は後頭部損傷で――」
「あ、こちらの方は意識不明でーー」
 やってきた救急隊員に一人一人の容態を詳しく説明していく。そして、容態と共にどのような治療を施しているのかも報告した。
「ほら、あれ、お前のお母さんじゃないのか」
「お母さーん」
「……ばいばい」
 一人で隠れていた男の子を保護した遊夜はその男子を出口まで連れてきた。そして、彼に面影のある女性を見つけて、もしかしてと思って声をかけてやれば、男子は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら母親のもとに走って行った。そんな男の子にユフォアリーヤは小さく手を振る。
「鹿島さん、お疲れ様です」
「や、俺、なんもできてねぇし。平介の方こそ、お疲れ」
「護衛も立派な役目よ。それがあったから、安心してメイファにあたれたんだから」
「そういうことです」
「なら、よかったかもしんねぇな」
 笑顔を浮かべ、和馬の頭を撫でる平介。それに眉を下げて、遠慮すれば、京香が平介の代わりに言葉をかける。それに和馬は照れたように頬を掻きながら、笑みを浮かべた。
「はぁ、何とか終わってよかったわ」
「そうだな」
 一二三がキリルのやる気も保たれたと安堵の表情を浮かべると、キリルは応じながらも不思議そうな顔。が、一二三は答えるつもりはなさそうだ。
「そういや、入園者リストとかないんやろか」
 それがあれば、亡くなった人とかもはあくできるんちゃうかと関係者らしい人に聞いてみたが、そう言うのはやはりと言うべきかないらしい。
「ここからは地道な作業だな」
「そやな。あとは地元の人間の方がやりよいやろ」
 うちらの仕事は終わりやとぐぐぐと背を伸ばす。
「……うん、やっぱりアーテルの方が美人だ」
「黎夜、そう言ってくれるのは嬉しいけど、もう終わったのよ」
 そういうアーテルに黎夜は「でも、アーテルが美人なのは変わらない」と意見を変えることなく、スマホにあるアーテルの写真を眺めた。
「――ヴァオ八体、トンセン六体、メイファの討伐完了いたしました。また、生存者の救出も無事完了しております」
 寿神は本部へ結果の報告を行う。そして、報告が終わると全員で蘭園に向かい、静かに手を合わせた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • 薫風ゆらめく花の色
    柳京香aa0342hero001
    英雄|24才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
    機械|19才|男性|生命
  • 真心の味わい
    カミユaa2548hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
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