本部

愚神グリスプを討て

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
6日
完成日
2016/04/12 14:09

掲示板

オープニング

●災厄の現状
 とある地方空港の滑走路上に『ドロップゾーン』が展開された。
 作成したのは生駒山より逃げ続ける悪意の一つ。名を愚神グリスプという。
 己のみが生き延びる為なら人間だけでなく愚神、そしてH.O.P.E.の討伐依頼すら利用し逃げ続けた存在だが、この空港から海外へ逃げる前に、あるエージェント達の奮闘により逃亡を阻止された。
 この時グリスプはわざと目立つ形で逃げるふりをして、H.O.P.E.エージェント達を自分のもとへ誘き寄せ、予め手を回しておいた人間の組織『古龍幣』と、自分の所属する組織『パラダイス・メーカーズ』(楽園の作り手達)の愚神達を己の増援として集めた後、誘引したエージェント達を包囲殲滅する事を目論んでいた。
 しかしエージェント達の奮闘によりグリスプは逃亡手段を断たれ、『古龍幣』や愚神達も増援に駆けつける事はなく、『人間』と愚神両方から見捨てられたグリスプはH.O.P.E.に包囲され孤立した。
 そしてグリスプは己のドロップゾーンに身を潜め、今は空港滑走路上にある己の空間より出る気配はないが、プリセンサーより今後グリスプは態勢を立て直した後、自力での海外逃亡を図ると報告があり、H.O.P.E.も様々な手を講じていた。

●準備
 その部屋では『皆様』と共に今回初任務となるエージェント、真継 優輝(az0045)とシャレーク(az0045hero001)に向けた講義が行われていた。
 その内容は既に皆様が周知の内容だが、新人である優輝への助言者として一緒に聞いてもらいたいとの担当官の依頼に従った結果だ。
 この担当官はグリスプを追い詰め、追う者達を秘匿する為、全責任を追う覚悟で味方すら騙す『ある謀略』を行った事は皆様の記憶にも新しい。
 相応の処分を覚悟していた担当官だったが、当事者でもあるエージェント達からの処分軽減の嘆願が集められ、比較的軽い処分で済み、皆様に改めて謝罪した後、今に至る。
 講義内容は共鳴によって駆使できるAGWやスキルに関するものと、愚神の強さに関するものだ。
 共鳴によって皆様が使えるAGWやスキルは、英雄や能力者が共鳴を解いている間は使えない。
 例えば『英雄だけ戦わせて、能力者は後方で応援する』などの行動を行った場合、英雄も能力者も、共鳴によって得られる能力を生かせず、当然AGWもスキルも使えない。これは皆様もご存知のことで『あのグリスプ』を前にして共鳴しない真似は自殺行為だ、
 どうやら過去に優輝とシャレークがそれをやらかした事例があったらしく、優輝もシャレークも担当官より、そんな事にならないよう念を押されていた。
 そして愚神の強さだが、H.O.P.E.の見解では、デクリオ級とされる愚神を倒す場合は8人分のエージェントの戦力が必要になる。
 今回の相手はその上位存在ケントォリオ級である以上、それ以上の戦力が求められることは間違いない。
「前回グリスプと交戦したエージェント達より寄せられた各情報を整理分析した結果、グリスプは8人から10人のエージェントが総がかりで戦い倒せるか否かの力量があると見なされました」
 特に今回の戦場はグリスプの力が向上するドロップゾーン内であり、内部のみならず周囲に何が起こっても不思議ではない。
 現在現地のH.O.P.E.別働隊の手で空港や周辺海域にいる全ての人間を退避させ、周囲の封鎖に当たっているが、動員限度の人数を出しており、現在の任務に専念するので増援や別任務要請には応じられないとの事だ。
 またH.O.P.E.以外の人間達の所属する全ての組織からも、危険性を鑑み『いかなる要請にも一切応じられない』と回答が来ている。
 その一方で『古龍幣』などの人間組織に無線傍受される危険をなくす工作は徹底して行われ、現座傍受している存在はいないと諜報担当より連絡があり、担当官はこう助言する。
「ご不安でしたら通信連絡にはライヴス通信機をお使い下さい。それならば指定先の通信機を持つ方以外の他者に話を傍受される危険はありません」
 そして講義が終わり、優輝と一部の『有志』リンカーは共鳴しドロップゾーンの偵察に向かう。 
 全ては独力でグリスプを討つ困難を強いられる『皆様』の負担を少しでも減らすために。
 
●いざ終幕へ
 そしてボロボロになりながらも『有志』達は偵察から戻り、入手できた情報をH.O.P.E.に報告する。
 その内容を整理分析した結果、判明したのは以下の5点だ。
 ・ドロップゾーン内には大きな館のような建物があり、グリスプの姿は見えない。
 ・建物へ外からあらゆる攻撃を行ったが効果がない。検証の結果、このドロップゾーンには建物外からの攻撃は一切無効化される『ルール』が設定されている模様。
 ・建物内部は広々とした空間の中に柱が並び、壁には絵画が飾られ、4方に1体ずつ顔を隠した天使らしき像があり、美術館のような構造となっているが、中に入った途端入口が塞がり、刃で構成された蛇のような鞭が柱や壁から這い出て周囲に暴れまわったり、小銃の群れが突き出て弾幕射撃をされる。
 ・一度入口が閉じたら外側からの攻撃は一切通じない。
 ・しかし内側の空間ではどこを攻撃しても『敵』にダメージを与えるようだが、敵も回復手段がある模様。
 優輝を含む『有志』達はそれらの情報を得た後、不意に開いた入口から全員脱出し、それらの情報を皆様にもたらした。
 どうもグリスプはそれらの情報を皆様へ伝える為にわざと入口を開けて逃がしたようだが、『有志』達の負傷状態は酷く、貴重な回復役として守られていた優輝を除き、全員集中治療が必要で、彼らへのこれ以上の任務要請も一切認められないとH.O.P.E.より報告があった。 
「上層部より、今回の討伐の困難さを鑑み、報酬を上げる認可が下りました。それだけ今回は危険な任務となりますが」
 担当官が皆様に頭を下げて訴えた。
『どうか生駒山からの災厄をここで討ち果たして下さいますよう、お願いします』
 そして『皆様』は、現地へ到着後、現地にいる別働隊へ感謝しつつ、『皆様』の回復を支援する役目を与えられた優輝と共に動き出し、ドロップゾーン内に入る。
 罠の可能性は高いが、建物内部でしかダメージが与えられない以上、行くしかない。
 そして『皆様』が建物内部に入り切った時、建物の入口は壁と化して塞がれた。
『私の腹の中へようこそ、H.O.P.E.の皆様』
 広い空間にグリスプの声が響き、壁の絵にその顔が映し出される。
 この建物こそ『グリスプ』であり、この空間は体内だった。
『他の事を案ずるより自分の身を心配したらどうですか、虫けら共』
 だが『皆様』は虫どころか愚神身中の『獅子』だ。
 敵は眼前及び周囲全体であり、皆様の攻撃は全て命中する状況だ。
 生駒山の犠牲者達より『皆様』へ託された『願い』が今果たされようとしていた。

解説

●目標
 愚神グリスプの討伐

 登場
 ケントォリオ級愚神1体
 グリスプ
 生駒山より逃げ続ける愚神。今回ドロップゾーン内で館と化し、『皆様』を建物内部へ引き入れた。
 二回行動。
 
 旋刃
 柱や壁が赤く光ると共に刃の蛇のような鞭が現れ、襲いかかる。射程5。攻撃時何故か鞭が赤く光るので、注意すれば避けられる。
 
 酸弾
 柱や壁が青く光ると共に無数の機銃が飛び出し『胃液』を無数の弾丸にして放つ。射程10。時々【劣化】が付与される。

 『食事です』
 下記従魔を召喚する。
 
 イマーゴ級従魔4+6体。全て1撃で倒せる。
 『吼骨』
 下記場所内の像に憑依し吼える骨姿の従魔。4体。

 『黒人』
 黒い人型の従魔。吼骨が吼える度に6体ずつ床から現れ皆様に群がるがダメージなし。
 グリスプの指示で自身の消滅を代償ににグリスプを癒すが吼骨を全て倒せば現れなくなる。
 
 真継優輝
 今回唯一の有志。使用スキルはケアレイ、クリアレイ。皆様の指示に従う。

 H.O.P.E.別働隊
 空港周囲の封鎖と皆様の空港への送迎を行うが動員上限の人数が出ているので、皆様の戦闘後の負傷治療やアイテム補充を除き、それ以外の行動要請や増援要請には応じられない。

 状況
 地方空港の滑走路上にあるドロップゾーンで、中に館と化したグリスプがいるがドロップゾーンには館外側からの攻撃は無効化されるルールがある。
 空港周囲の封鎖と避難は完了し空港内外と海上には人、船、飛行機の姿は一切ない。
 他組織への要請は一切認められない。無線貸与済み。
 戦闘場所は以下の通りで『全てグリスプ』。下記以外の場所で動き攻撃する事は不可能。
 1マス当たり縦横各10m。

 123456789
 ■■■■絵■■■■A
 ■像/////像■B
 ■//柱/柱//■C
 ■///////■D
 絵//柱/柱//絵E
 ■///////■F
 ■//柱/柱//■G
 ■像/////像■H
 ■■■■塞■■■■J

リプレイ

●相克
 そのドロップゾーン内に佇む館の中は、一見すれば巨大な美術観覧室に見えただろう。
 空間内に2列の太い柱が屹立して視界を妨げる中、正面奥と左右の壁に巨大が額縁が飾られ、四方の隅に巨大な像がそれぞれ脇を固めているが、この空間はこの館の正体にしてドロップゾーン作成者である愚神グリスプの体内だ。何が起こっても不思議ではない。
 ベルフ(aa0919hero001)と共鳴した九字原 昂(aa0919)は既に鷹の眼を使い、頭上からの視聴覚も駆使して敵の攻撃や動向の警戒・監視も抜かりなく行っている。
(さて、追い込んだはいいが……。こういう状況を確か『窮鼠猫を噛む』と言うんだったな)
「鼠にしては、『コレ』はずいぶんと大振りすぎる気もするけどね」
 眼前の空間を鼠と断じたベルフに内心苦笑を伝えるも、昴は何らかの兆候を見逃すまいと、赤い光と刃の蠢く空間内の隙間を縫う動きでグリスプへの一撃離脱を繰り返す。
 シェリル(aa2532hero001)と共鳴し、服装こそシェリルのメイド服に近いが、表情を凛としたものに変えた姿となった藤丘 沙耶(aa2532)藤丘 沙耶もまた鷹の眼を使い、昴と共に仲間達の耳目の役目をこなしていた。
「ふうん……これが愚神グリスプ。これ以上逃がさない為にも、ここで果ててもらいましょうか」
 沙耶の感覚では館と化し、罠を張っていたように見えるグリスプの姿は、増援となる筈だった味方から見捨てられている以上、最後の悪あがきに感じられた。
(沙耶様、相手はケントゥリオ級。くれぐれも油断なさいませんよう)
「わかってるわよ、シェリー」
 内より己の英雄から釘を刺されたが、沙耶は淡々と応じ顕現させたフラメアを旋回させて、これから敵の悪意で満ちるであろう空間内に飛び込んだ。
(愚神グリスプ。相手にとって不足はない。慢心も油断もするつもりはないさ。他の9人と力を合わせてここでトドメを刺そう)
「緋十郎、2つ間違ってるわよ。1つ目は実際に戦うのはわたしであなたは力を貸すだけなのよね。2つ目は1人忘れてる。正確には他の10人ね」
 狒村 緋十郎(aa3678)と共鳴し、体の一部に緋十郎の意志の色を宿し、黒で統一したドレス姿に変じたレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)が内からの緋十郎の声に向け的確な指摘を入れると共に、話題にした1人、真継 優輝(az0045)に視線を向ける。
「真継優輝……だったかしら? くれぐれも足は引っ張らないで頂戴ね」
 一応優輝は回復役という事だが、戦場の場数を踏んでるとはいえず、レミアから見ても危なっかしい。だからこう助言を送る。
「わたしたちが守ってあげるから。あなたも、しっかりわたし達の負傷を治療して勤めを果たしなさい」
 尊大な口調ではあったが、一方で守るとも伝えたレミアの言葉には鷹揚さも含まれていた。
 その言葉に優輝は未だにおっかなびっくりな部分を残しながらも精一杯の声で『頑張ります』と応えた。
「優輝様。今回は皆様の回復に専念して下さい。それ以外の事はわたしく達で引き受けます」
 ヤン・シーズィ(aa3137hero001)と共鳴し、その表情をきりりと引き締めた白装束の姿に変えたファリン(aa3137)もまた、今回は優輝のフォローも兼ね、ともに仲間達の回復役となる事を優輝に伝えると共に、レミアや仲間達にはこう助言する。
「今までの関連報告書を見た限りですが、グリスプの攻撃の前には必ず光が発せられています。光に注意すれば、負傷も抑えられる筈です」
 回復の必要が少なくなれば、それだけ優輝の負担は少なくなるとファリンが考えての助言だ。
「わかったわ。後はよろしく」
 レミアはファリンや優輝に短くそう告げて、黒い疾風となって徐々に近づく赤い光の群れの中を駆け抜ける。
「館そのものが敵なら、目に映るもの全て破壊すれば良い、ってことよね?」
 不敵な口調でそう言い放ち、獰猛な笑みを浮かべたレミアは飛来する赤光を纏う刃を躱しながら漆黒の瘴気を纏う緋色の鉤爪を顕現し手近な像へ襲いかかる。
 泥眼(aa1165hero001)と共鳴し古風な鎧を纏う姿となったエステル バルヴィノヴァ(aa1165)はミラージュシールドを顕現し、自分と同じ回復役であるファリンや優輝、そして仲間達を守る位置につき、飛来する刃の鞭を異音と共に防ぎ止めた。
「結局全てに裏切られた訳ですね、この愚神は」
 周囲から聞こえる刃の蠢く音を警戒しつつ、エステルは内にいる泥眼にそう告げる。
(今までの所業を知れば仕方無いわね)
 この愚神は敵味方の見境も人間、愚神の区別もなく、全てを己の踏み台にして捨て続けた。
 両方に見捨てられた今の状況は当然の帰結と、エステルも泥眼も思う一方で、もっと別の道はなかったのだろうかとも考える。
「愚神は何故道を誤るのか。今回の戦いで少しでもわかるといいのですが……」
(そうね)
 しかしエステルも泥眼も、それが願望である事はわかっていた。
 リーヴスラシル(aa0873hero001)は月鏡 由利菜(aa0873)と共鳴する前に、傍らにいるメグル(aa0657hero001)へ御代 つくし(aa0657)を気遣う助言を行う。
「ツクシ殿は復帰したばかりだ。メグル殿、彼女を支えてくれ」
「何かあった時は私達で守ります」
 由利菜もまたメグルやつくしに対して守護の意志を示し、リーヴスラシルの世界の作法に則り共鳴し、光の姫騎士姿に変じて周囲から殺到するグリスプの悪意を迎え撃つ。 
 メグルの共鳴相手であるつくしは、海外でのとある戦闘で、古龍幣の重鎮への攻撃をその身で庇い、護りぬいたが代償として少し前まで重体を負っていた。
「ありがとうございます。つくしは僕も全力で支えます」
 今は重体より快復したものの、まだ日も浅いため、メグルはつくしに無理はさせたくなかったが、一方でつくしの意思は尊重したかった。
「みんなありがとう。でも、今行動しないときっと後悔すると思うから」
 メグルと共鳴し、髪の色や長さ、瞳にメグルの特徴を纏う姿となったつくしは決意を湛えた表情で眼前を見据える。
 ここで終わらせる。絶対に。
(ええ。ここで終わりです。終わらせましょう、つくし)
 メグルからの、自分の背中を押してくれる声と加護のもと、つくしは疾走する。
 目指すは正面奥にある、グリスプの顔が浮かぶ巨大な額縁。
 既に東海林聖(aa0203)はLe..(aa0203hero001)と共鳴し、その姿に英雄の色と加護を示す風を纏い、戦闘態勢を整えている。
(ヒジリー、どうする?)
「決まってる。全部敵ってんなら、全部まとめてぶっ壊すッ!」
(……まぁ、ヒジリーらしい返事だよね)
 聖らしい単純明快な考えに、Le..は内からため息をついたが、この状況では聖の勢いに乗ったほうが建設的とLe..も判断できた。
「やる事はこの愚神の殲滅ただ一つッ! 気合入れていくぜ、ルゥ!」
 聖は雷光を纏う漆黒の大斧を顕現して、近くにある柱に戦意の塊と化して肉薄する。
「いくぜ。千照流『破斥・雷光』!」
 言葉の通り、雷光の速度で繰りこまれた聖の大斧が三閃し、唸りを上げて3度大斧が柱と激突して柱を穿つ。
「虫けら、か。ではハリガネムシの恐ろしさ、貴様に味あわせてやろう」
 ナハト・ロストハート(aa0473hero001)と共鳴し、髪に銀色、瞳と異形と化した左腕に紅色を宿したヴィント・ロストハート(aa0473)は、グリスプの発した『虫けら』の単語にそう返しつつ、近くにある柱から赤い光と共に殺到する刃の鞭の前に己が大剣を掲げ、激突した刃の勢いを利用して後ろに跳躍し、後方からの赤い光と共に、背後より迫る刃に虚空を斬らせて着地した。
(何、それ?)
(寄生虫の一つの名前だ。宿主の体内で育ち、やがて宿主を喰い破る)
 内からのナハトの問いに応えつつ、ヴィントは報復の斬撃を獅子の咆哮と共に繰り出して、眼前の柱に叩き込む。
(言いたいことはわかったけど、もっとマシな例え方をしてほしかったな)
 内より響くナハトの呆れを帯びた声に、ヴィントは不敵な笑みと共にこう応じる。
(冗談はここまでだ。いくぞナハト。ここでコイツに剣の死を与え、確実に『喰らう』)
 悪意には闘志を。害なすものに終止符を。災厄には剣の死を。
 その信念に裏打ちされたヴィントの疾駆と斬撃が5条の光芒を描き、グリスプの放つ刃の群れと激突する。
 空間に火花と交錯する金属音を散らし、ヴィントの5条の剣閃が敵の刃を弾き飛ばし、自分の両脇にある柱2本を同時に切り刻んだ。
「全ての柱より青い発光を確認しました。近くにある柱を警戒して下さい」
「左右両側にある壁からの青の発光を複数捕捉しました。挟み撃ちに注意して下さい」
 仲間達の耳目の役割を務める沙耶からは淡々とした物言いで、同じ役割の昴からは礼儀正しい声でそれぞれの警告が発せられ、ほぼ同時に青い光と共に周囲にある複数の壁や柱より無数の銃口が突き出し、敷き並べた筒先が轟然と咆哮する。
 テミス(aa0866hero001)と共鳴し、テミスを十字の意匠に変え己の魔法書に纏わせた石井 菊次郎(aa0866)は、即座に旋風を編み風の障壁を構築する。
 銃火の眩い閃きと共に鋭い笛に似た音をあげて自分に殺到する弾丸の群れを、菊次郎の風の障壁があらぬ方向へと吹き飛ばし、反対側からの銃撃にはエステルが立ち塞がり、吠えたてる銃弾を防ぎ止め、後方にいるファリンや優輝を護りぬき、反撃のライヴスフィールドを放ち、グリスプの抵抗を弱らせる。
(主よ。この状況で奴から情報を引き出すのは難しいのではないか?)
(ですが、今回をおいてグリスプの所属していた『パラダイス・メーカーズ』(楽園の作り手達)や、グリスプの組んでいた『古龍幣』に関する情報を引き出せる機会はありません。多少強引でも情報は入手しなければ)
 内から響くテミスの声に、菊次郎はそう応じる。
 もちろん、己が探し求めている愚神の事も含めて。
 菊次郎には今回の討伐にあたりもう一つ『ある目的』があったのだが、それはグリスプが弱体化した後と割り切り、今はエステル、ファリン、優輝の近くで攻防の一角を担うべく、菊次郎は魔法書より黒の霧を顕現して周囲の柱に放ち、纏いついた柱に霧の中から無数の猛獣の形となった菊次郎のライヴスがグリスプや柱を切り刻む。
 その光景を、昴と沙耶の放った鷹の眼が頭上から捉え、仲間達へ的確な誘導を行いながらも交互に攻防の役割を変えながら、まずは沙耶が旋回させたフラメアの穂先を突風の速度で繰り出しては途中にある柱に叩き込む。
「どれだけ効果あるのかわからないけど、使ってみるかな」
(少なくとも、美味くない事だけは確かだ)
 次いでベルフの後押しを受けた昴が虚空に淡い光の軌跡を残し、逆手に持った孤月の刃を閃かせて柱に毒を込めた斬撃を加え、殺到する機銃弾を飛び越えたレミアが竜爪を振るい、四方に散らばる像へと攻撃を加えそれぞれダメージを蓄積させる。
 グリスプの反撃が広がってきたと判断した由利菜はライオットシールドを掲げて仲間達を守護する行動に出た。
「誓うは守護の意志。陽動法陣、展開!」
 由利菜の足元に光る魔法陣が展開し、周囲の敵意を絡め取ると、それまで周囲で煌めいていた赤と青の光が急速に由利菜の周囲だけに狭まり、刃の鞭や機銃掃射は全て由利菜に振り向けられるが、リーヴスラシルの加護と由利菜の掲げる透明な盾やその身を覆うライヴスに阻まれ、由利菜は全身に火花を散らせ、攻撃を弾き飛ばす。
「ファリンさん、真継さんを頼みます! この法陣の中なら、私の方へ敵の攻撃が全て向きます!」
「ありがとうございます、由利菜様。優輝様、こちらへ」
 援護を受けたファリンは由利菜に感謝するとともに、初陣にしては苛烈すぎる攻防戦に怯えながらも勇気を振り絞り仲間の治療に当たる優輝を守りながら、由利菜の構築する法陣の中へ入り、優輝に指示を出しながらも自身も活性化した複数の治療術を駆使して味方の負傷治療を行う。
 それまで赤と青の光のある場所を仲間達に伝え、攻撃を回避し続けてきたつくしは、攻撃が全て由利菜に向けられている貴重な時間を使い、ついに正面奥にある絵を射程距離に捉えると、温存していた幻影蝶を絵に向けて解放する。
 つくしより放たれたライヴスの蝶が絵に纏いつくと、グリスプの力と意識を奪い、それまで由利菜を襲っていた刃の鞭と機銃が強制的に沈黙し、動きを止めた。
(やはり館全体に影響が共有されるようですね)
 内からのメグルの声に頷くと、つくしは声を張り上げて、仲間達に『突破口』を伝える。
「そうみたいだね。みんな聞いて! どれだけ攻撃の幅が広くても、グリスプの意識も体も1つだけだから、私達の攻撃の全てが全体に影響を及ぼすよ!」
 それはつくしがグリスプ討伐の手段を手繰り寄せた瞬間でもあった。
「そうみたいだな。それっぽいライヴスの流れの変化が確認できたぜ」
 ライヴスゴーグルで視認できるライヴスの流れは視界10mの範囲であったが、聖もまた、戦いながらつくしの幻影蝶を受けた結果と思しき流れを確認することが出来た事を全員に報せる。
「今だぜ、みんな! こいつがおネンネしてる間にぶっ倒そうぜ!」
 未だ意識を失い、急速にその身を朽ちさせる愚神グリスプに向けて、聖の大斧が唸りを上げて斬撃を叩き込んだ。

●私の役割は『愛』
 エージェント10人から最も攻撃を受けていたのは部屋中央に並ぶ2列の柱だが、像を攻撃するレミアを除き、ヴィント、聖、菊次郎、つくし、昴、沙耶、武器を干将・莫耶に持ち替えた由利菜、蜻蛉切を旋回して攻撃を繰り出すエステル、弓弦を鳴らし重藤の弓からの射撃を放つファリンも加わった集中攻撃が続くも、未だに崩壊する兆しがない。
「予想以上にしぶといな。安全地帯を作らずにこいつを討つ事も視野に入れておいた方がよさそうだ」
 獅子の咆哮と共に眼前の柱に向けて怒涛の3連撃を繰り出したヴィントが冷静に次の一手を見極める中、意識を取り戻したグリスプの声が館の中に響き渡る。
『食事が来ましたよ、宴です』
 グリスプの声と共に、空間に一瞬現れた黒い奔流が四方にある像に絡みつくと、何かが爆ぜる音と共に、次々と4体の像から黒色の骸骨(以下吼骨と略)が現れ、その咆える声が館の床を震わせる。
 そして震えた床から複数の黒い手が突き出され、やがて黒い人の形をした従魔達(以下黒人と略)が次々と這い出してきた。
「あれは不味いですね」
 眼前の光景に沙耶がそう呟いて吼骨に疾駆する中、いち早く吼骨を黙らせようと動いたレミアの足に何かが絡みつく。
 見ると自分の脚を床から生えた複数の黒い腕が掴み、それに気づいたレミアが武器を振るう間もなく、腕達は乱暴にレミアを床に叩きつけ、腕の主達が周囲から這い出てレミアに殺到する。
『存分に貪りなさい』
「先に八つ裂きにされたいようね」
 グリスプの声が響く中、レミアは黒人達よりも昏い瘴気を帯びた緋色の爪を一閃して黒人の1体を塵に変え、不意に眩い業火がレミアの視界に広がると、業火は敵だけを焼き、従魔達を塵に変えレミアを解放した。
「レミアさん、大丈夫!?」
 立ち上がったレミアに、先程ブルームフレアを放ち、レミアに群がる黒人達を一掃したつくしが駆けつける。
「ありがとう、問題ないわ。つくし。あの忌々しい従魔を倒すわよ」
「うん。邪魔者は片付けないとね」
 レミアからの言葉に頷いたつくしが吼骨へ向けて魔法書から魔法の剣を射出して吼骨を貫き、レミアの竜爪もまた眼前の吼骨を貫くと、吼骨は塵と化して消え、レミアとつくしはグリスプの顔がある額縁へ疾駆する。
「こいつらは纏めて吹っ飛ばすッ!」
 聖の大斧が旋回し、5条の奔流と化して黒人達を次々と粉砕し、ファリンも金色の刃を持つサーベルを振りかざして迎撃し、従魔達を塵に変えていくが、吼骨の咆哮が響くたびに黒人達が床より這い出て周囲の壁や柱にしがみつき、己が消滅と引き換えにグリスプを癒していく。
「弾けよ、真紅の波動! 暴食の館を内から喰らい破れ!」
 殺到する黒人達を縫って跳んだ由利菜の体が風を撒き、閃光と化した蹴りから砲弾めいたライヴスが放たれ従魔達の群れに吸い込まれると、ライヴスの爆発が炸裂した。
 由利菜のライヴスショットで黒人達が吹き飛ばされ塵と化す中、一条の疾風と化し塵の幕を突破した沙耶のフラメアが稲妻の突きを見せて、吼骨を貫き塵と化す。
「では俺もアレを黙らせましょう」
 菊次郎が別の吼骨に向け手を掲げると、その手より放たれた稲妻が空間に灼熱の軌跡を走らせ、立ち塞がる黒人達を吹き飛ばし、吼骨や像を貫通してグリスプの館に雷の牙を突き立て、グリスプの繰り出す攻撃を粗くした。
「従魔を呼ばれるわけにはいかないよね」
 戦場に慣れてきたのか、おっとりとした口調の昴が別の吼骨に凄まじい速度で肉薄すると、軌跡を残す昴の逆手の斬撃が最後の吼骨を両断し、塵に変えると、残存する従魔達は呻き声と共に消失した。
 そんな時、突如エステルよりグリスプへその行動原理を問う声が放たれる。
「滅びる前に貴方が何をしようとしたのか話しなさい」
 エステルが見たところ、グリスプは回復手段を封じられ、討たれるのも時間の問題だ。
 情報を得るには今しかないと判断してのエステルの問いに、グリスプはこう唱えた。
『私は人間を愛しただけですよ』
 奪うとは、欲し、求めるからです。求めるというのは、私がライヴスを、人間を愛しているからです。
 ライヴスや人間を愛し、欲し、奪う。それが私です。
 私と貴方がたは同類なのですよと、グリスプは嗤う。
 しかしそれはこの場の全員が受け入れられない『愛』だった。

●討滅
 ほぼ全員のスキルが使用回数切れに近づく。
 エージェント達が挑むは邪悪(グリスプ)。それこそが、人々の災厄であるために。
 グリスプが挑むは11の勇姿(ブレイブ)。それこそが『己』の災厄であるために。
 互いを宿敵として。互いに相容れない道を駆け違い、互いのライヴスと戦意が空間を裂き、軋みをあげて、激突する。  
 周囲の柱や壁からの青の光と一斉射撃の轟音と共に、無数の弾丸を浴びてヴィント、聖が吹き飛ばされる。
「奪う事が愛だと!? ふざけんな!」
 聖は跳ね飛ばされた先でそう叫ぶと、雷光を帯びた黒い大斧を旋回し、自分の後方の壁より青い光と共に突き出された銃器の群れを薙ぎ払い、駆けつけてきたファリンから指圧めいた光を帯びたケアレイを受けて立ち上がる。
「同感だ。貴様のどの口が『愛』とほざく」
 銃弾に纏う酸にその身を焼かれながら、ヴィントの瞳に宿る真紅の戦意は未だ衰えず、翻した大剣で赤光と共に迫る刃の鞭を、火花を散らして弾き返し、ファリンの指示で駆けつけてきた優輝よりクリアレイを受け、酸を祓って立ち上がる。
「それが貴様の愛と言うのなら、それは貴様が犠牲にした人達に対する最大の侮辱だ」
 だからここで討つ。欠片も残さず、剣の死をもって塵にする。
「これ以上誰かが犠牲になる未来など見たくない。だから、ここであなたを終わらせる!」
 あらゆる方向より銃の群れが咆哮し、銃弾にその身を撃たれながらもつくしは諦めず、駆けつけたエステルよりケアレイを受け、ウィザードセンスで鋭化した報復の業火を放ち、グリスプの銃器や柱を焼き払う。
「いい加減目障りだから、さっさとこの建物ごと、この世界から消えて」
 回復役の仲間の尽力で既に負傷を回復したレミアは託宣のようにそうグリスプに告げ、レミアの竜爪が疾風怒濤の3連撃と化して眼前の額縁に浮かぶグリスプの顔に3度突き刺さる。
「諦めはしない。後悔もしない。そんな事は死んだ後でもできる事だからね」
 レミアの攻撃の間にグリスプの顔が浮かぶ額縁に接近を果たした昴が、毒を込めた弧月の刺突をグリスプの顔に滑り込ませ、再び毒で損傷を加速させる。
「わたし達はここであなたを討ち果たします。少しでも嘆きの数を減らせる世界に繋げるために」
 沙耶は銃弾と刃の迎撃を潜り抜けてそうグリスプに告げると、ジェミニストライクでその身を二つに分かれた姿をグリスプに見せ、狼狽させて行動を封じる中、陰陽印をグリスプの眼下に展開し、その放電でグリスプの顔を灼いていく。
(なすべき事を自分一人だけで背負おうとするな。私や仲間がいるのだから)
「……そうでした」
 攻撃・防御・感知。できるだけ多くの役割を担うべく奮闘する由利菜に、リーヴスラシルは適切な助言をしてその行動の視野を広げさせる。
 由利菜は亀甲紋用の浮き出た漆黒の刀身と水波紋様が浮き出た刀身を持つ双剣が繰り出して2筋の剣光を煌めかせ、赤い光と豪風を撒いて突きかかる刃の鞭を、片方の剣光が敵の刃を火花を散らして跳ね上げ、もう片方の剣光が空間に軌跡を残し、グリスプでもある館の壁を穿つ。
「永遠の眠りにつきなさい……!」
 全ては失われようとする命達を、少しでも拾い上げる事ができる世界に繋ぐ(リンクさせる)ために。
「1つ教えてさしあげましょう。簡単なことですわ」
 ファリンは優輝と共に、反撃を続ける仲間達を優先して癒す術が尽きてもなお、優輝を護りながら、重藤の弓で由利菜の援護射撃を行い、グリスプにこう告げた。
「私達のようなリンカーであっても、そうでなくても。戦う事は誰でもできますわ。その意思(ブレイブ)さえあれば」
 悪は見過ごせない。だから眼前の邪悪(グリスプ)を討つ。
「攻撃のこないゾーンは作れないならば、このままあなたを倒せば済む話です」
 エステルもまた治癒の術を使いつくし、今は己の祈りとルーンのロザリオを介した魔法の攻撃でグリスプを迎撃して仲間達を守りぬく。
「誰かを生かすこと、明日に繋げない御身は、人々の明日やこの世界に不要です」
 菊次郎の慇懃な声と共に、菊次郎は温存していたサンダーランスを解放する。
 グリスプに衰えが見えない以上、今使うしかないと判断した菊次郎の手から白く輝く蛇の群れが現れ、槍の形に編成され、グリスプの顔に放たれる。
 菊次郎から殺到した雷の槍は、そのままグリスプの顔を穿ち、その意識を薄れさせて刃や銃口の蠢きを鈍らせる。
 その時間を使い、トップギアでヴィントは攻撃力を己の『弾倉』に叩き込み、グリスプに宣告した。
「愚神グリスプ。貴様は誰にも顧みられず、存在を忘れられる愚物として、ここで消え失せろ」
 ヴィントの大剣が轟然と翻り、突風の速度で3度グリスプの顔を穿つ。
 オレ達の恐れるべきはただ1つ。
 グリスプ。お前が向かう先にいる人々の命が奪われることだ。 
 だからここで脱落しろ、グリスプ! 
「伊達にアタッカー名乗ってねェぜッ! いくぜ、オレの最後の千照流『破斥・雷光』!」
 トップギアで攻撃力の装填を終えた聖の咆哮と共に大斧が3度奔り、ヴィントの穿った3か所の貫通痕を正確に貫いたところで、館の空間内に何かの割れる音が響く。
 その途端、エージェント達の眼前に迫りくる刃が止まり、吼えていた機銃が沈黙し、飾られた絵に映るグリスプの顔にヒビが走る。
 11の戦意が朽ちるよりも先に、グリスプの生命力が尽きた。
 急速に崩壊を始めるグリスプに向け菊次郎やエステルが、グリスプが組んでいたヴィラン組織『古龍幣』や愚神集団『パラダイス・メーカーズ』から見捨てられた事を煽り、代わりに敵を討つと称し、様々な言葉を並べグリスプと繋がっていた人間の組織と愚神達の組織の情報を引き出そうとするが、返ってきたのは2人にとって思いがけぬものだった。
『仇などいませんよ。これは私の望んだ結末です』
 何かがおかしいと菊次郎、エステルは不審に思う中、崩壊の響きを纏うグリスプは嗤いながら、何事かを菊次郎やエステルだけでなく、残りの9人にも告げる。
 やがて刃や柱、機銃も朽ちて塵と化し、無数のヒビが建物内を席巻し、建物を構築する部材が引き剥がされ、建物の欠片が光の粒子となって空へと上がっていく。
 そしてグリスプの顔が砕け、残存する建物の欠片と共に、夥しい量の光の欠片となって周囲を光で覆う。
 やがて光が消えた後には、遮るものが一切ない滑走路の光景が残され、グリスプがいた痕跡もドロップゾーンも、グリスプと共に消滅したのか、共に消えていた。

●願いは叶った
 誰もいない滑走路に、つくしは予めH.O.P.E.の担当官を介して正式な手続きを終え、スマホに記録した民謡を流し、犠牲となった人達を悼む。
「やっと終わったね。誓いは、果たせたかな」
 全ては、報われたのだろうか。
 黙祷を捧げながらも、つくしはそう自問する。
「僕達は、僕達に出来る事をした。そう思いますよ」
 多くの人達とすれ違って生きているこの世界で、全ての人が幸せになれるわけではない。
 それはメグルにもわかってる。それでも、目の前にいるつくしや、周りの人達には幸せであってほしいとメグルは願う。
「わたしたちにとって、初のケントゥリオ級愚神の撃破、になるのかしら」
「勿論俺たちだけの手柄って訳じゃない、皆と力を合わせてこその戦果だ」
 駆けつけた別働隊により治療を受けたレミアと緋十郎がそれぞれの感想を口にする。
「色々と、面白い環境だったし、ヒジリーの修行には成ったかな。……お疲れ、ヒジリー」
 ケントォリオ級愚神を倒せても、Le..の聖への評価は依然厳しかったが、奮闘した聖を労う事も忘れていなかった。
「なんとか、グリスプに果ててもらえましたね」
「お疲れ様でした、沙耶様」
 沙耶はケントォリオ級愚神を討ち果たせた事への感慨を顔に浮かべる事はなかったが、そんな沙耶をシェリルは労わっていた。
「まぁ、体内から食い破られて倒されるのは、古今東西よくある話だからね」
「それが今回、一例増えただけだな」
 昴やベルフもまた、今回の勝因をそう分析していた。
 実際に、ここまで攻撃役と防御役、回復役、探索役と支援役が揃い、それぞれの役割を果たした事例は貴重だ。
「あなたも勝因に含まれているのよ、真継。もっと、胸を張りなさい。生駒山からの因縁を見事に断ち切れたこと、誇って良いと思うわ」
 レミアの言葉と視線の先には、H.O.P.E.別働隊より治療を受けている優輝の姿があり、レミアの言葉にはにかみながらも優輝はこの場の全員に頭を下げて感謝した。
「皆様の守りが無ければ、僕は役割を果たせなかったと思います。ありがとうございました」
 つくしの追悼の民謡が響き、エステルが泥眼に伴われて先にH.O.P.E.別働隊の手で搬送される中、菊次郎とテミスは、グリスプが消滅時に遺したものを整理分析していた。
「主よ。グリスプの話をどう思う?」
 テミスの問いに菊次郎は手にした情報を咀嚼したうえで、こう判断した。
「恐らく全て本当の事でしょう。嘘をつかずに真相をはぐらかすのもグリスプの手口でしたから」
 菊次郎やエステルがグリスプから情報を引き出そうとする試みは、菊次郎やエステルにとって判断に迷う情報を3つ引き出す結果に終わった。
 1つ目は、グリスプの組んだ『古龍幣』の正体は『マガツヒ』。
 実際に『古龍幣』という単語はグリスプや、グリスプが所属していたとされる『パラダイス・メーカーズ』(楽園の作り手達)所属の愚神ズセが発したに過ぎず、海外では自分達HOPEと『古龍幣』を衝突させるべく愚神達やマガツヒが暗躍していた報告も複数寄せられているため、その言葉は本当だろう。
 激闘を終え、駆けつけてきた別働隊の治療を受けていた聖もまたその単語を聞き逃さず、何かの感情を抱いていた。
 2つ目は、己が滅びる事は『主』の命令であること。
「私達は、奴らを壊滅させる一歩を刻んだに過ぎない。そして問題なのは『あのグリスプ』に滅びを命じられる存在が奴の所属していた愚神組織にいるということだ」
 由利菜との共鳴を解き、他の仲間達と共にH.O.P.E.別働隊の治療を受け、負傷を回復させたリーヴスラシルも菊次郎やテミスの話に加わり、その組織の脅威を訴えた。
 そして3つ目は、謎めいた言葉だった。
『求める愚神の手がかりは既に示しましたよ』と。
 グリスプは最期まで、菊次郎の求める愚神達の名を明かさず、ただそう告げて消えた。
「恐らく空港で時間稼ぎを演じた愚神ズセの事でしょうね」
 該当する条件がほぼ揃いながらも、瞳の異なる女愚神が目下の手がかりだと菊次郎は考えたが、事態が振出しに戻った感は否めない。
 それでも確かに今、皆様は生駒山からの災厄の一つをこの世界から祓うことができた。
 グリスプという災厄をこの世界から祓った勇姿(ブレイブ)にして『願い』を叶えた命達(ライヴス)。
 牙持てぬ人達の命を護るため、命を賭して悪意に立ち向かい、打ち克ってくれたヒーロー。
 それが皆様だ。
 そんな皆様を、H.O.P.E.別働隊は最敬礼の姿勢で迎え、激闘を終えた皆様は帰路に就く。
 海外での戦いも依然終わっておらず、皆様の歴史はこれからも回り続ける。 
 その行先はまだ見えず、いずれ愚神組織『パラダイス・メーカーズ』と衝突する機会があるかもしれない。
 これは世界の命脈に連なる話ではないかもしれない。ありふれた話かもしれない。
 それでもこの場所にいる災厄を逃すことなく討ち果たし、この世界の命達を護りぬいた皆様に感謝を申し上げる。

●胎動
 どこかの場所で、紫色が女性の形となった悪意、ズセという名の愚神が通話機の先にいる何かに報告する。
 グリスプは『予定通り』討たれ、自分達も『予定通り』世界各地で活動を始めたと。
「全ては貴方様の御心のままに。『我らが主』」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 願い叶えし者
    ナハト・ロストハートaa0473hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 終始端の『魔王』
    藤丘 沙耶aa2532
    人間|17才|女性|回避
  • エージェント
    シェリルaa2532hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
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