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相談卓
最終発言2016/03/26 10:53:35 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/03/26 03:58:06
オープニング
●広州市、非常事態につき
プリセンサーが広州市の襲撃を察知し、緊急編成されたチームは中国最大規模の遊園地に出没した愚神対応に向かっていた。ヘリから見下ろすと、現場は観光地のど真ん中で、夜にも関わらず煌々と明るい。
「敵はデクリオ級愚神、識別名『闇夜(アンイェ)』。外見は幼い少女ですが、遊具のコーヒーカップのような従魔を操り、子供を狙った事件を繰り返していた危険な愚神です。遊園地に現れたのは、おそらくこの襲撃を主導した高位愚神の指示と思われます」
主犯格の特定はまだできていないし、香港も放ってはおけない。だが、遊園地の愚神を放置すれば少なくない犠牲が出る。それは避けなくてはならない。
「現地で避難誘導に当たっている職員によると、愚神はゴーカートのサーキットに留まっており、10人程度の子供が従魔に捕らえられているそうです。駐車場に着陸する時間も惜しいですから、ぎりぎりまでサーキットに接近するので、皆さんは飛び降りてください。間もなく到着ですよ、準備はよろしいですか?」
エージェントたちがヘリから飛び降りると、愚神『闇夜』はそこで彼らを待っていたかのようにワンピースの裾を持ち上げた。
「ようこそ『げーむ』のばんじょうへ」
くるくると回ると、少女愚神の周囲で風が渦を巻く。するとたちまちにアスファルトは芋の皮のように剥けた。周囲には独りでに動くコーヒーカップが点在しており、内部にはぐったりした子供の姿が。
「アンイェ、ひとりじゃつまらなかったの。でもさそってもらえたんだ」
よく見れば子供と従魔は根のようなものでしっかりと繋がっていて、簡単には引きはがせそうにない。
「わたし、ふじみなんだよ。だから、みんなあさまでおどりくるってね」
●闇夜のカード
「きた、本当にきた。アハハ、面白いなあリンカーってやつは」
年齢も性別も曖昧なその人物は、映像の中に駆け付けたエージェントたちを見つけて手放しで喜んだ。傑作だ、あの必死そうなカオ。
「こんなの陽動だって分かってるくせに、人が死ぬとなると黙って見ていられないんだねぇ」
人々の笑顔が恐怖に歪む様も見ものではあったが、そんな光景は見飽きた。新しいゲームの相手は彼らなのだ。強い光を放つその瞳、絶望でまっくらにしてやりたい。どんな風に命乞いをするのか聞いてみたい。そのためにたくさんの手札を用意した。
「さて……闇夜のカードは2枚。愚神の討伐か、子供の死。好きな方を選びなよ」
さあ、ボクをどう楽しませてくれる? その呟きはまだ誰にも聞こえない。
解説
概要
広州の遊園地に愚神が出没し、10人程度の子供が捕らえられています。子供たちを救出し、愚神を討伐してください。
敵構成
デクリオ級愚神『闇夜』(アンイェ)×1体
外見はワンピースの少女。魔法攻撃が高いです。
射程内で、従魔を狙う敵>外見年齢の若い敵の順に狙います。
特殊技
・風の魔法(大):攻撃判定を2回行います。射程1~2。
・風の魔法(小):命中判定を2回行います。射程1~18。
ミーレス級従魔『コーヒーカップ』×子供と同数
外見は遊具のコーヒーカップ。1体につき1人の子供を乗せています。生命力が高いです。
攻撃手段はありませんが、愚神の生命力が70%を切ると生命吸収で回復させます。
子供を従魔から引きはがすには、メインアクションを2回消費する必要があります。
特殊技
・生命吸収:子供のライヴスを吸い取って、対象の生命力を回復します。射程1~13。
この技が一回でも使用されると、子供に死亡判定が発生します。
状況
・戦闘エリアはゴーカートのサーキットで、障害物のない開けた場所です。
・任務に急行したため、一般物の持ち込みが難しくなっています。
・プリセンサーの予知で、敵の戦闘能力は既に明らかです。
※●闇夜のカード章はPL情報です。PCは『この章で描かれている内容を知っている情報として扱うことは出来ません』。
リプレイ
●
『女の子の愚神か……やりづらいな』
「愚神は愚神だろ。倒せばいいだけだ」
『そ、そうは言ってもさあ……』
普段は粗野でも明るい倭奏(aa3754hero001)が、いまは刺青に縁取られた瞳を、怖気走る深紅に冷え込ませて。肉体は白瑛(aa3754)の意識下にあり、片割れは心に語りかける。
『でもシロ、まずは子供達の救出だな。早く助けてやらないと!』
「何故? さっさとあの女を倒せばいいだけじゃないか」
『あの子達には、何の罪も無いんだ。巻き込まれて怪我したら大変だろ?』
「……なら、すぐ終わらせよう。蕾菜、僕は左をやるよ」
「はい! では、私たちは右側を。カグヤさんは……」
「奥側は任せよ、足の速さには自信があるぞ」
零月 蕾菜(aa0058)に、カグヤ・アトラクア(aa0535)が応える。遣り取りは瞬時、エージェントたちはそれぞれ駆け出した。
「『闇夜』だなんて、本部も気に入らない呼称を名付けたものね……」
レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)も漆黒の外套とゴシックドレスの裾を靡かせ、夜空を飛ぶ様に。
「闇夜はわたしの領域よ、愚神風情には過ぎた名前だわ。
わたしの前で『闇夜』を名乗った非礼、後悔させてやらないといけないわね。
緋十郎、いつにも増して尽力なさい。今夜はわたしのために働けて、幸せでしょう?」
狒村 緋十郎(aa3678)は、これから己が受けるであろう苦痛を想像して声を震わせる。
『ああ……あの日、命を救って貰った恩義、俺は生涯忘れんよ。レミアのために力を尽くそう。それに、子供達も全員無事に助け出したいし、な。しかしあの愚神……まだ幼い少女じゃないか。何とか説得――』
「緋十郎、姿形に惑わされては駄目よ。ヴィランならいざ知らず、愚神はその存在の根本から人間とは相容れない存在よ。ああ、それとも……緋十郎は、ああいう年端もいかない娘が好みなのかしら?」
『ば、馬鹿を言え。俺が好きなのは……』
狒村は想い人の名を、言いかけて止めた。
『いや、今は任務に集中しよう。行くぞ!』
「フン……下僕の分際で、わたしに指図しないで頂戴」
レミアは不遜に言い放ち、従魔の一体へアスファルトを蹴る。
『蕾菜、救急車は呼んでる?』
「はい、サーキットの外に」
『では、まずは救助に専念しましょう』
走駆のうちに十三月 風架(aa0058hero001)へ応える零月の頬で、黄の龍鱗が夜の遊園地の街灯を照り返す。辿り着いた異形の壺内から少年を剥がしていく。
「……あく、ま?」
趾を思わせる右腕で助け起こした少年には僅かに意識が有り、遍く神性を一身に宿すかの如き彼女の身形に小さく声を漏らした。しかし、力無く垂れる手を取り彼を見つめる翠眼はその形容とは裏腹の印象を抱かせて。
「絶対に助ける……そして守ります」
少年は安堵し、瞳を伏せる。
『シロ、二人運べそうか?』
「誰にものを言ってる」
白瑛は従魔と子供を縛る蔓を引き千切り、解放されくらりと倒れる少年を肩に担ぐ。
「わたしはあの子にしようかしら」
『分かった。いくらか攻撃に当たっても、痛みは俺が肩代わりするから』
「いい子ね、緋十郎」
レミアは全力移動で素早く従魔に辿り着き、少女の戒めを切り裂いた。見た目だけは同い年ほどの子供を片腕に軽々と抱え、次の目標を目指す。無論、愚神闇夜は黙っていない。
「どうしてみんな、わたしをむしするの?!」
駄々を捏ねる幼女が放った鋭い風がレミアを襲う。灼眼はそれを捉え、回避へ動く。翻る黒衣は舞踏の様に。だが、
「……!」
敵意を持った風は再び彼女を狙って襲い来る。避けられない――
「させぬ!」
割って入ったのはカグヤ。周囲に浮かぶ無数の甲骨文字が、攻撃に感応して白い結界を可視化する。霧散した風がその肌を撫でた。
「礼を言うわ!」
「よい、誰一人殺させん。子供が人質とは許せぬ。未来ある若い命はわらわたちが絶対に守ってみせるのじゃ。のうレミア?」
「ええ。じゃあ、あっちは任せたわよ!」
カグヤは最奥の従魔に身軽にひょいと従魔に乗り込む。少女を取り巻く根を取り去ると、クー・ナンナ(aa0535hero001)がその心に呆れた口振りで。
『正義の味方みたいな発言だけど、内情を知ると幻滅するよね』
「生きていれば、いずれわらわの役に立つ可能性があるから助ける。それの何がいかんのじゃ?」
『偽善者ではないだけマシなのかな?』
それから異形のコーヒーカップの縁を掴み、逆さに引っくり返す。
『流石、よく思いついたね。これならこの従魔が対応済だって分かりやすい』
「下手に刺激すると別の罠が待ち構えてそうじゃしの。レミアを庇ったのもそういうわけじゃ」
『はいはい』
「構造的に自力で起き上がれんじゃろ。さて、全部で12人か……救出班が五人じゃから、一度に二人は運びたいの」
五人は既に一人を救出し、もう一人を救助すべく移動している。霧島 侠(aa0782)の腕の中にも、昏々と眠る少女が一人。剣で絶った根は灰と崩れ落ち、外傷は見られない。子供たちはライヴスを吸収され、気絶しているだけだ。
(そうと知れればスピード優先――1シークエンスで二人救出しても、まだ二人残るな。往復が必要とは言え、この愚神は子供好きと聞く。私の見た目では食指も動くまいが、)
霧島は愚神の太刀先を見切る。万一にも攻撃に晒さぬよう、子供は敵と逆側に抱え。
「う……」
「もう少しの辛抱だ。すぐに助ける」
二人目を解放し、霧島は子供たちを両脇に抱えてカップの間を縫い走った。サーキットの外、救急車へ辿り着くと、零月とレミアは既に戻っていて。
「では、治療よろしくお願いします」
「あと二人ね。足の速さからして、わたしが適任かしら。行ってくるわ」
零月は子供たちを救急隊員に預け、レミアが戦場へ戻る。白瑛とカグヤもすぐに二人の子供を担いで到着。ここまで、なにもかも霧島達の計画通りだ。
(予知情報の敵行動パターンは余りに単純……何か伏せ札があるのか? 愚神がへそを曲げてルールを変えてくる可能性も考えられたが、石井君は上手くやってくれたようだな)
霧島は光の鞘より曲剣を引き出し、愚神へ向き直る。
●ふじみ
「むししないでよーッ!」
「ゲームですか、闇夜?」
喚く愚神に、草臥れたスーツの影が歩み寄る。
「非常に興味深いですね。では『戦う前にそのルールについて良く話合いましょう』」
石井 菊次郎(aa0866)を前に、闇夜は沈黙する。言の葉に伴うライヴスが愚神に打ち勝てば、彼女は彼と話さざるを得なくなる。
(子供を逃がすより、愚神を倒すより……主には、先にしておくべき事があるか)
(ええ……彼等には、問わねばなら無い事があります)
石井の手、十字と黒の装丁を施されたグリモアに宿るテミス(aa0866hero001)がその心に囁く。胸中で肯定を示す石井の狙いは時間稼ぎ、同時に“不死身”の意味も探れれば重畳。ウィザードセンスの担保も有るが、もう一押しか。
「御身も、どうせ遊ぶなら楽しい方が良いでしょう。このまま何も決めずにゲームを始めれば、我々はすぐに負けてしまうかもしれない。そうなれば御身はまた一人ぼっちになります。楽しむコツは、ルールの徹底です」
混沌とした愚神の瞳から、感情の渦が消える――掛かった。
「……わかったわ、くわしくはなしてあげる。かんたんなるーるよ。かけるものはいのち。しょうしゃにはゆえつを、はいしゃにはしを」
「まだです、これでは良く話合ったとは言えない。賭けるものは、誰の命ですか? 愉悦とは、永遠の命のことでしょうか?」
「だれのいのちでもかまわないわ。だってにんげんなんて、ほかにつかいみちないもの」
闇夜はくすりと笑う。
「えいえんのいのちがゆえつだなんて、やっぱりにんげんね。わたしはわたしのおもちゃがあるかぎり、ぜったいにしなないの」
「成る程、ようやく俺にも理解出来そうです」
仔細な言葉にケチを付け、ルールを聞き出す。やはり不死身性は従魔に依存するものだ。
「闇夜、これは実に詰まらないゲームです……御身には実質、何の選択権も無い。只、我々にいなされ遊ばされ、無理をすれば命を縮めるだけ……こんなゲームに、何故乗ったのですか?」
『話し合い』が終わり、洗脳が解けた闇夜はハッとして辺りを見た。子供達は従魔から解放され、次々サーキットの外へ運び出されていく。
「ひどい……わたしのおもちゃ、」
「ほら、これではすぐに恐ろしい暗闇での孤独に逆戻りです。貴方は騙されたのですよ。時にゲームの相手は、人間である必要も無いのではありませんか? 御身ならもっと、面白いゲームに出来るはず。俺と組み、取引をしましょう。嗚呼、ただその前に……」
震える幼女の前で、生に疲れたようなその男は徐にサングラスを鼻先に掛けた。覗く眼光は毒々しい紫、中央には十字に開く瞳孔。
「この瞳を持つお知り合いは居ませんか? 嬉しい言葉を聞くと人は理解も早くなるものです」
「おしえて、あげない!」
放たれた凄まじい風の魔法が、周囲のアスファルトを捲り上げる。石井は咄嗟のことで拒絶の風も使えず、裂かれた着衣は見る間に血の色に変わった。
「アンイェのぱーてぃ、めちゃくちゃにして! ゆるさなッ……」
「――残念です、闇夜」
電光石火、愚神は不可視の一撃を食らい、その場で揺らめいた。石井は何食わぬ顔で、幼女の血を黒霧の刃に吸わせる。
「ここまでですね、五々六さん」
「充分だ」
獅子ヶ谷 七海(aa1568)に憑依した五々六(aa1568hero001)が、愚神を殴り飛ばした細腕、指先で愚神を指し。
「起きな。これ以上ねぇって程、手加減したぜ」
「ふふ、ふフフ」
闇夜はゆらり、立ち上がり。とうに理性を無くした目は愉快げに。
「どうしてにんげんは……こどもをたすけようとするの?」
「下らねぇ事を聞くな。俺はガキ共なんかどうなってもいい」
愚神の問い等、五々六には事も無く。
「そうなの? みんな、かよわいこどもなのに?」
「弱ければ死ぬ。弱くなくても、ほんの少し運が悪かっただけで死ぬもんだ。その点で言えば、あのガキ共は幸運な方だろ。――何せ俺はあいつらを、『見殺しにしても構わない』が、『助けても構わない』と思っているからな」
囚われた子供たちを救うことが愚神への攻撃になるからこそ、作戦に協力している。小首を傾げる闇夜に理解は難しそうで。
「どうでもいいなら……なんでッ! ――、」
攻勢を見せる愚神の足を、低威力のライヴス弾が貫く。視線の先に、浮かび上がる雪の肌。共鳴によって大人びた姿を得たリア=サイレンス(aa2087hero001)が魔砲銃にライヴスを込める。
(なーんか、色んな意味でやり辛い相手だよなぁ)
(ん……でも、やらないと、ダメ……)
(……わーってるよ)
古賀 佐助(aa2087)の戸惑いは、リアの言葉で打ち消える。その手は恭しく闇夜へ差し出され、口ぶりは気障たらしく。
「お望みなら、一緒に踊ってあげるよ、Little Lady」
「ダメ、ダメダメダメ! わたしはこどもがすきなの。だってね、」
闇夜はぐるりと首を回し、再び獅子ヶ谷に。
「なきさけぶだけで、なんにもできないデクなんだから!」
お頭は見た目以下か、獅子ヶ谷は唾棄する。リアはフラッシュバンの構え。
「つれないね、こっちの相手もして欲しいな?」
「ッ!!」
眩む光に立ち竦む愚神は、再び素手の電光石火で地に沈む。どつきまわされるばかり、まるで木偶。
「この……っ」
ふらと立ち上がり、闇夜の放った風の刃はリアに。獅子ヶ谷がカバーリングに動くより早く、零月が彼女の前に立つ。扇子の一振りが攻撃を受け止めた。
「――風を使うのは自分だけとでも?」
「零月。救助、終わったんだ」
「はい、残りの子は今、レミアさんが」
「うん、零月も獅子ヶ谷も、アリガト」
「勘違いすんな、仲間だからじゃねぇ。脱落者が出ると効率が落ちるだろうが」
獅子ヶ谷は順調に進む避難を後目に、脂汗を流し始めた愚神を嘲笑う。
「おかしいよなあ。不死身のはずなのになあ。このままじゃあ、お前……死んじまうぜ」
「う……るさい!!」
――さあ、もっと怒れ。焦り、恐れるがいい。
これ以上餌を解放させる訳にはいかないだろう?
ならばまず、この鬱陶しいリンカーを殺さなければ。
そう刷り込まれた愚神の攻撃は獅子ヶ谷に集中し、どんどん単調に。使い古された嘗ての礼剣はいとも容易く闇夜の巻き上げる凶風を弾いた。「しんで! あっちいって!」と一つ覚えに叫ぶ少女を、駆け付けた白瑛は倭奏の声で。
「なんか、わがままな女だな」
『女の子に向かって失礼だよシロ……! 人質を用意しておくなんて、そりゃあ意地悪だけど。
それはそうと、『げーむ』の詳しい所はもうちょっと調べたいよな』
この事件の背後に居る者、放っておくと危険だ。やり口には此方にトラウマ植え付けようとする様な残酷性を感じる。白瑛から喉を借り戻し、倭奏は闇夜へ。
「ねえねえ、誘って貰えたって事は、仲間がいるんでしょ? 誰に誘って貰ったの、キミ?」
「アハハハハハ! ここでしぬのに、そんなこときいてどうするの?!」
「じゃあさ……このゲームって、どうしたらクリアになるのかな?」
「どちらかのかけきんがなくなったらよ! さあしね!」
長い髪を振り乱す少女に、倭奏はお手上げ。
『難しいお年頃なのかな?』
「気が触れてるんだろ」
『だから、そういう言葉を使うなって』
「零月、今だ」
「ええ……闇夜、終わりにしましょう」
零月が獅子ヶ谷の影から飛び出す。巻き起こった不浄な風が愚神を蝕み、風の鎧は綻ぶ。
『なんだかまだ、やらしい手を使ってきそうだし……シロ、背後から叩こう』
「言われずとも」
『あー! 可愛くないなあもう』
「じゃまよーッ!」
愚神の操る鎌鼬が白瑛を襲う。一撃目は回避、二撃目は獅子ヶ谷のカバー。長い脚が閃き、ライヴスを乗せた白瑛の上段蹴りが愚神の肋骨にめり込む。萌える草木の如き蓬髪は、この世に有り得べからぬ白さで遠い灯を透く。吹き飛んだ闇夜の背後にじりじりと回り込む反対側、獅子ヶ谷の傍にはカグヤが。
「待たせたの」
「カグヤか。レミアの運んだガキで最後だな」
「うむ、全員無事じゃ。寝かせておけば、直目覚めよう。どれ、ふじみの愚神とな」
「偽りの不死さ。従魔からカギを取り上げりゃ、それも剥がれる」
「曲がりなりにも『闇夜』を名乗っておるのじゃぞ? 吸血鬼みたいに夜間は無敵とか、そーいう可能性もあるではないか。ま、試してみるかの」
「……期待し過ぎだと思うが?」
「くふふ。しかして、わらわは先に放置しとる従魔を破壊するとしよう。みな愚神に夢中の様じゃからな」
「ああ、悪いが頼む」
「大丈夫よ。此方が片付けば、ちゃんと手伝ってあげる」
救助を終えたレミアは、街灯の長い影が整然と並ぶサーキットを庭主の様に踏み締める。その手は二の腕まで黒い瘴気に覆われ、暗器はまるで鋭い爪の様。
「これで心置きなく無礼者の粛清ができるわね。お望み通り、闇夜の血宴を悦しませてあげるわ。光栄に思いなさい」
「ふふフ……よるをすべるひめぎみよ、よくききなさい。わたしのなまえは、あなたのいうやみよとはちがうものよ」
「お黙り!」
愚神の風の刃と、一気呵成の攻防。細腕が繰り出す超質量の一撃に、愚神の身体が地を跳ねる。
「わたしのなまえは……わたしのこころのいろをあらわしているの!」
愚神は叫び、立ち上がる。その肩をレミアの靴が、勢い良く踏み付けて押し戻し。
「その魂、何処へ堕ちるのかは知らないけれど……『闇夜』を名乗ったこと、冥府で後悔するのね」
宣告し、緋色の爪は少女の腹部を切り裂いた。
「っぐ、うううううッ!!」
転がるように逃れる闇夜の背中を、獅子ヶ谷の疾風怒濤が切り刻む。叩き付ける様な乱暴な太刀筋に、潰れた肉は血を噴き出すより想像を絶する苦痛を愚神に与えた。
「まだ死ぬなよ。裏に誰がいる? 俺も鬼じゃねえ、吐けば助けてやる」
「ふふ、ふふふ、ウフフ、こたえたらたすける、ですって? おおおっかしい、そんなつもりないくせに」
「愚神には、いまいちセンスのねぇ聞き方だったか? 嘘をつくのは、人間様の特権だろ」
およそ少女が浮かべてはならぬ邪悪な笑みで、獅子ヶ谷は大剣を振り被る。
「――邪魔だ」
更に霧島が、視界に入った従魔を斬り捨てつつ、真っ直ぐ遡上し。彼女と獅子ヶ谷の連撃が愚神を八つ裂きにする。
「にんげん……わたしを、そんなふうにみおろさないで、」
闇夜はそれでも血塗れの両手を振り回し、威嚇するように面々から距離を取る。だが瞬きの隙間で、彼女の目の前には不敵に笑うカグヤが現れて。
「っ!」
「小さなレディ……最期に、わらわとも踊ってくれぬか?」
従魔の掃討を終え、彼女はその手を取る様に。しかし闇夜は動かない。カグヤは益々目元を緩め、踊るように差し出した手を揮う――同時、近距離全方位の光の乱舞。
「そなたの闇夜、打ち払うのは光じゃ」
「っうあああーッ!」
闇夜の身体に感光したような穴が開く。もう少しだ。白瑛は一気呵成で愚神を押し倒した。その胴に跨って立ち、首の根に胡弓の弦を突き付ける。
「……もうお終いか? 奥の手で人質を隠していたとか、そういうのもないのか?」
闇夜は表情もなく彼を見上げて。
「そうね……わたしのかーどは、これだけよ」
「温い。僕たちを良い様に呼び出して遊んで、それで満足なのか?」
瞳の底で、紅より濃き緋の憎しみが燃え上がる。闇夜はそれを見て口端を歪めた。
「みんなのてのうちはわかりきってる。たのしみだわ、そのめが、しのきょうふでゆがむひ――がッ」
緩く煙を上げたのはリアのライフル。
「遊びの時間は終わり、子供はもう眠る時間だよ。安らかにお眠り!」
愚神は傷口から、見る間に写真が焼け焦げるように闇夜に溶けて消えた。
「……手の内が分かり切っている、だって? 戯言を、」
白瑛は獲物をライヴスに帰し、闇夜の影が焼き付いたアスファルトを見て。
「手段や切り札なんて、いくらでもある」
『俺達がいれば可能性は無限になるんだぜ?』
「……お前と僕を一括りにするな」
『なんでっ』
白瑛は倭奏には応えず、踵を返す。
『最近この手の任務が多すぎる。戦力をバラけさせるのが目的なんだろうけど……例えそうだとしても、放ってなんておけないよね、シロ』
めげずに語り掛ける倭奏に返事をするでもなく、白瑛はただぽつりと。
「僕は……自分で手を下さないで見てるだけの奴が、一番嫌いなだけだ」
『……そっか』
戦う理由は、今はそれでもいいだろう。倭奏は静かに目を伏せた。
●
「菊次郎、そなたも寄れ」
「ええ、ありがとうございます」
「足止めご苦労じゃった。七海と佐助ものぅ。お蔭で救助が楽になったわ」
カグヤのケアレイン。降り注ぐ治癒の光に、傷口は泡立って直ぐに閉じる。
「……私達、なにもしてないよね、トラ」
「オメーじゃなくて、俺が戦ってたんだろうが」
「五々六と零月とは初めて依頼が一緒になったけど、やっぱり二人とも頼りになるね。行く時は慌ててて言えなかったけど、今後ともよろしく!」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。そういえば、依頼でご一緒するのは初めてでしたね。さ、風架さんも」
「ああ、よろしくお願いするよ」
展開された魔法陣が消えると、惨劇を免れた遊園地の遠い灯だけが静寂のサーキットを包んだ。狒村がレミアの許へ戻ると、彼女は満足げに赤い爪の手入れをしていて。
「……竜爪も夜猫も、悪くない馴染み具合だわ。かつての魔力が戻った訳ではないけれど……ふふ、やっぱり素手で獲物を引き裂いてやる感触は、心地良いものねえ」
「そうか……レミア、身体は大丈夫か?」
「当然でしょ? 痛くも痒くもないわ。さあ、帰るわよ、緋十郎」
駐車場からは、迎えのヘリの羽音が聞こえる。去るレミア達の背中を追いながら、カグヤはうろついているリアを見つけて。
「なにを探しておるのじゃ」
「うん、襲撃を主導した愚神が居るらしいから……ま、何もないならそれが一番だけど、念のためね、念のため……」
「そんなに簡単に尻尾を掴める相手ではなかろうて」
「全くあの愚神。誰に誘われたか知らんが、ソロプレイなら一人でやればいいものを」
霧島は地面に焼き付いた愚神の影に吐き捨てる。この事件の裏に、何者か黒幕が存在するのは間違いない。警戒するリアの胸中で、古賀は息を吐く。
(はぁ~……何とか終わって安心したぜ。足止めとは言え、正面からやり合うのはやっぱ柄じゃねぇな)
(……結構、ノリノリだった、と思う)
(それはお互いさまだろうし、否定はしないけど、2度目は流石に勘弁したいなー)
去り際、カグヤは足を止め、戦場を振り返る。それから獲物を探す蜘蛛の様に、視線を這わせて見せ。
「……いずれは、そなたも食い破るのじゃ」
その言葉に、どこかで誰かが、薄く笑った気がした。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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