本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】オチウド

雪虫

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 8~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/03/31 15:26

掲示板

オープニング

●提示
 獣のような唸り声を、ダムは憔悴しきった表情で耳にしていた。
 先日バンコクの屋台街で起こった古龍幇構成員による暴走事件。つい先程まで何でもない顔で笑っていたのに、突然人が変わったように暴れ出し、今なお回復する兆しも見せない仲間達。仲間達の治療のため、そして古龍幇の潔白を証明するためにH.O.P.E.に来たダムだったが、何も出来ない無力さに歯を食いしばる事しか出来ない。
「ダム君」
 名を呼ばれ、ダムはベンチの上で顔を上げた。そこにはすっかり顔なじみになってしまったオペレーターが立っていた。
「君の仲間が口にしたドリンク剤についてだが、まだ詳しい成分については分からない状態だ。君の仲間を治す方法もな。そこで、彼らを東京支部に送ろうと思う。香港は今戦闘中で余裕がないが、東京なら専門の研究所や病院もあるからな」
「……分かった。ただし俺も行く。古龍幇の潔白も証明出来てねえし、何よりこいつらを残して一人で戻る訳にはいかねえ。東京だろうが何処だろうが行ってやるよ」
「承知した。H.O.P.E.からは護衛を出そう。君達の安全は絶対に守る。信用してくれ」

●襲撃
 エージェント達は港に立ち船の到着を待っていた。支部同士を繋ぐワープゲートの存在を古龍幇に明かす事は出来ないし、暴走した構成員の体内に残るドリンク剤がどのような影響を及ぼすかも分からない。襲撃を受ける危険もあるが、それでも通常の行路を最善と判断し、エージェント達とダムはH.O.P.E.の所有する港に立ち船の姿を待っていた。
「遅れているな……何かあったんじゃないか?」
「仕方ねえって。今は海も香港もドタバタしているらしいからなあ。全く物騒な世の中になったもんだぜ。俺達にとっちゃあサイコーだけどな」
 ダムがエージェントに尋ねたその時、背後に並ぶコンテナの上から聞き慣れぬ声が響いてきた。振り向くとそこには二人の男が立っていた。その内の一人は先日古龍幇の幹部を殺したとかで、香港支部の壁に張り出された手配書の写真と全く同じ顔をしていた。
「なんだ……お前らは」
「君達を殺しに来た者だよ、古龍幇の下っ端共クン。H.O.P.E.に保護されている古龍幇が殺されたって聞いたら、H.O.P.E.と古龍幇の関係はもっと悪化しちゃうかもなあ~。それが俺らの狙いだけどな」
 そして、男達の体が膨れ上がった。喋っていた男は鳥の化け物のような姿へ。黙していた男は犬の化け物のような姿で。
「そんじゃあ古龍幇の下っ端共クン、俺達のタノシミのために殺されて頂戴ね。あとH.O.P.E.の下っ端共クン、この前は相手してやれなかったけど今日は遊んであげるから、仲良くしてね? ヒヒャハハハハッ!」

解説

●目標
 古龍幇構成員の防衛、及び襲撃者の撃退

●襲撃者
 共にデクリオ級以上の愚神と推測される。移動力が高い。連携を取ってくる。ダムやH.O.P.E.を挑発するような事を口走る。古龍幇構成員4名を全て殺すと逃亡する
 
 ヤマキジ
 3m近いキジのような姿をしている。空を飛ぶ事は出来ない
・フェザーショット
 半径4スクエアにいる敵を羽根の弾丸で攻撃する
・フェイクフェザー
 半径4スクエアに羽根を舞わせ敵の命中を下げる
・鉤蹴
 足の鉤爪で敵を強攻する

 ヤマイヌ
 3m近いイヌのような姿をしている
・毒牙
 噛まれると毒により【減退】(1)付与
・咆哮
 大声で半径4スクエアにいる敵を威嚇する。【拘束】付与
・突進
 前方8スクエア上にいる敵に突進する

 共通パッシブスキル
・禍の狂持
 二回連続で攻撃を行う。例:咆哮後、即突進
・焦華
 生命力30%以下で移動力が上がり、回避が下がる

●マップ
 H.O.P.E.の港
 一般には公開されていない私有港。一般人が侵入してくる事はない。戦闘区域は20×20スクエア。北側と東側に海があり、南側は通路に続き、西側にコンテナが積み重なって並んでいる。戦闘区域北東方向にバスが停めてある。時刻は午前。晴天。

●NPC
 暴走構成員×3
 バスの中に目隠し・猿轡・両手両足をロープで縛られた状態で収容されている。正気を失っており共鳴する事も出来ない。半径4スクエアに襲撃者が接近すると拘束具を全て引き千切り逃げようとする。

 ダム
 古龍幇構成員。グレートソードを使うブレイブナイト。レベル10。襲撃者に怖気づく様子はなく果敢に戦おうとするが……。古龍幇の現状については何も知らされていない

●PL情報
 襲撃はこの港のみで船上・東京についてからの襲撃はない

リプレイ

●襲撃
 海風が、その場にいる者達の間を強く吹き抜けた。鹿島 和馬(aa3414)は風に黒髪ポニーテールを弄ばれながら、ベタ塗りしたような黒い瞳で敵の姿をジトリと睨む。今回の護衛に参加したとは言え、和馬は古龍幇とH.O.P.E.の関係をきちんと把握している訳ではない。だが、現れた二体は任務の敵。それさえ分かればそれでいい。「俺氏」と書かれたとんがり帽子型覆面を頭からすっぽり被り、白いローブに全身を包んだ謎の人物、俺氏(aa3414hero001)は、腕を組んだまま傍らに立つ相棒へと語り掛ける。
『わざわざ遊んでくれるってさ』
「あらま、お優しいことで」
「『だが断るッ!』」
「この俺達の最も好きな事の一つは」
『自分で強いと思っている相手を』
「『ボコってプゲラってやる事だぜ!』」
 和馬と俺氏は拳をガツンと付き合わせて共鳴すると、ハウンドドッグを出現させ化け物キジへと狙いを定めた。意図を察したヤマキジがヤマイヌから離れつつ弾丸を回避したのと同時に、麻生 遊夜(aa0452)がユフォアリーヤ(aa0452hero001)と共鳴し狼の毛並みを海風へとなびかせる。
「何とも頭の軽そうな鉄砲玉だな……ああ、だから鳥なのか」
『……ん、遊んであげる、仲良くは出来ないけど』
「何にせよダムさんとその『家族』は守ってやらんとな」
 クスクスと声を漏らすユフォアリーヤに苦笑しつつ、遊夜はハウンドドッグを出現させながらバスの前に守を構えた。目掛けて駆け出そうとするヤマイヌの前に、プロセルピナ ゲイシャ(aa1192hero001)と共鳴した谷崎 祐二(aa1192)が立ちはだかる。
「また狙ってくるのか!」
 前回の襲撃を思い出し歯をギリ、と鳴らしつつ、斜めに入り込んだ祐二は毒刃を乗せグリムリーパーを敵へと振るった。死神を冠する鎌を回避したヤマイヌに、木陰 黎夜(aa0061)の放ったブルームフレアが襲い掛かる。 
『楽しみのため、ねえ。なら、貴方達の楽しみを潰すわ』
 アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)は黎夜の口を借り異形の襲撃者へと宣告した。その凛とした言葉に、しかしヤマキジは口を歪めてにやりと笑う。
「そんなツレネえ事言わないで、タノシもうぜオチビちゃん!」
「わぁ~見るからに三下っぽーい! ウケる~」
 ヤマキジが黎夜に狙いを定め羽根を差し向けようとした所に、虎噛 千颯(aa0123)の声が少々わざとらしく聞こえてきた。普段のゆるいとも言える調子を崩さない千颯を白虎丸(aa0123hero001)が内から諫める。
『見た目に騙されるなでござる、千颯』
「白虎ちゃん、今はちょっとお口にチャックね。言ってる事は正に三下だね~、オタク使い捨て仕様っぽいよ~?」
 その言葉に、ヤマキジは鳥と人間が混ざったような相貌に凶悪な笑みを深めた。自分目掛けて振りかざされた巨大な翼を、しかし千颯はグリムリーパーで受け止める。
「言ってくれるじゃねえか、下っ端飼われのにゃんこちゃん」
「俺ちゃん一人倒せない程度の実力で何言っちゃってんの? マジウケる~」
「お主らの企み、通す訳には参らぬ……いざ、推して参る」
 千颯とヤマキジが交戦を開始した一方、小鉄(aa0213)はヤマイヌにメギンギョルズを巻き付けた両の拳を突き付けた。3m近い敵の姿に稲穂(aa0213hero001)が密かに心情を漏らす。
『け、結構おっきいわねあなたたち……でも、この人達を治す邪魔なんて、させないわっ。こーちゃん、こいつらぶん殴っちゃって!』
 ヤマイヌが小鉄に爪を振るおうとしたその時、潜伏を仕掛け移動していた不知火 轍(aa1641)がアームブレードに毒刃を乗せ振り抜いた。ヤマイヌの腕を斬り上げながら小鉄に向けてぽつりと呟く。
「……派手に、やれ」
「かたじけない轍殿!」
 ヤマイヌが轍に一瞬意識を奪われた隙に、小鉄は空中に跳躍しヤマイヌの頭蓋目掛けてストレートブロウを叩き込んだ。後方へ吹き飛ぶヤマイヌに小鉄は自慢の拳を向ける。
「殴り合いは忍びの十八番でござるよ」
『それ絶対に違う気がするわ』
 稲穂のツッコミにも黙しつつヤマイヌは体勢を立て直すと、右腕を蝕む違和感に気が付いた。潜伏に気付けなかった事に目を眇めるヤマイヌに、千颯がヤマキジを押さえながらピースサインを形作る。
「密かに張ったライヴスフィールドが役に立った? 秘薬で飛躍のオマケつき~」
「やるじゃねえか。でも受けてばっかじゃ俺達も叱られちまうんでな!」
 ヤマキジは足を持ち上げると、鋭い鉤爪で千颯を大鎌ごと蹴り飛ばした。そして小鉄と轍にフェザーショットを放ち、その隙にヤマイヌが咆哮を上げつつバスに突進しようとする。
「させないよ!」
 その眼前に、呪いの秘められた魔力の闇が立ち込めた。ヤマイヌは頭を振ってリーサルダークから逃れ、マビノギオンを携える少女、御代 つくし(aa0657)を睨みつける。つくしは敵二人にいまだ残る面影を認め喉をわずかに震わせる。
「その顔……まさか、古龍幇の人を殺した……!」
『落ち着いて下さい、つくし。今優先すべきはバスに乗る彼らの安全確保です』
「出たわね愚神! ニック、変身(共鳴)よ!」
 緊張を孕むメグル(aa0657hero001)をある意味で裏切るように、大宮 朝霞(aa0476)の元気いっぱい快活な声が響き渡った。歪みない相棒の歪みない通常運転に、ニクノイーサ(aa0476hero001)は無駄だと知りつつ一応意見を述べてみる。
「H.O.P.E.メンバーの他にはギャラリーもいないし、今回は変身ポーズを省かないか?」
「何言ってるのよ! ヒーローの最初の見せ場なのよ! ほら早く! 変身! ミラクル☆トランスフォーム!」
 朝霞はビシィッ、とポーズを決めるとニクノイーサと共鳴し、『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』(自称)に変身した。紅のバイザーから敵を見据え、一点の穢れもない純白手袋でビシリと敵に指を向ける。
「飛んで火にいる夏の虫とはお前達の事よ! ギタギタにやっつけてやるわ! 主に白虎丸さんと俺氏さんがね!」
『おい朝霞。そこはヒーロー名乗ってんだからお前の名前も入れておけ』
「キャー! ウラワンダーさん素っ敵ー♪」
『和馬氏、朝霞氏の変身見たら絶対それやるよね。お約束感だよね』
『俺!? でござるか!? 大宮殿も頼りにしてるでござるよ!』
「ありがとう! では改めて聖霊紫帝闘士ウラワンダーがいる限り、この世に悪は栄えません! ウラワンダー☆アロー!」
 和馬と白虎丸の声援を受けつつ朝霞はフェイルノートを出現させると、バスを背に守りながらヤマイヌに矢を射放った。同時に佐倉 樹(aa0340)も、魔女帽の下で何処か楽し気に笑みながら死者の書をその手に開く。
「藪をつついて蛇を出すのは」
『コッチかな? アッチかナ?』
 シルミルテ(aa0340hero001)と見事な割台詞を決めながら、樹はいつになくワクワクしていた。以前出逢った「愛しの」ヤマザルに似た獣達との遭遇に、常から淡々とした態度の崩れる事のない樹のテンションが上がっている。
「来ると思ってたよ!」
『始末スルべき獲物ヲ逃がしてイルモのネェ!』
「さぁ! 君たちは負け犬? チキン野郎?」
『ソウで無いなラ見せテミテ!』
 樹は凶暴に笑みながら愛しい獲物目掛けて銀の魔弾を撃ち放った。予め掛けていたウィザードセンスに威力を上げたそれは、朝霞の放った矢と共にヤマイヌの脚を貫いた。エージェント達の姿を目の当たりにしたダムは、グレートソードを握り締め足を踏み出そうとする。
「お、俺も……」
「待って……」
 その行く手に、黎夜の小さな背中と細い腕が立ち塞がった。黎夜はダムを振り返り、眼帯の外れた両目でダムの姿をしかと見つめる。
「狙いは貴方たち……古龍幇の潔白の証明と、貴方と、貴方の仲間のために、殺させないつもりでいる……だから、彼らの側に居てほしい。前に出るなら、うちを盾にしても構わねーけど……」
「おいおい、古龍幇の下っ端君はそんなおちびちゃんに守ってもらわなきゃ戦えもしねえのか」
「んだと……」
「挑発に乗るな! こいつらだけとは限らん、俺達はバスの護衛につくぞ! 頭の軽いバカの挑発なんぞには乗らないよな? 家族の為に耐えて貰う!」
『……ん、幇は、「家族」を見捨てないんでしょう?』
 ヤマキジの挑発に激昂しそうなダムを、遊夜とユフォアリーヤが同時に諫めた。かつて自分が語った言葉に立ち止まるダムに、千颯、白虎丸、つくしもそれぞれ言葉を投げ掛ける。
「仲間を守るのも強さのうちだぜ。あっちは俺ちゃん達に任せてそっちは仲間守ってな」
『今は俺達を信じて欲しいでござる。必ず守ってみせるでござる』
「古龍幇の人たちも仲間が傍にいた方が心強いだろうから、バスの方に居て下さいっ! 私たちH.O.P.E.は、永平さんに度胸と心意気をかわれたことがあります。だから、お願いします。手助けさせて下さい。今は信じて下さいっ……!」
「ハッ、信じろなんて言われたって下っ端君、そもそも君の所属する古龍幇だって信じるに値するモノなのか? 君らがこんっなに大ピンチなのに助けにも来やしねえじゃねえか。いやそもそも? 君の仲間がそうなっている原因だって古龍幇の仕業かもしれないし……」
「君は、ヒトを捨てた彼らと、ヒトの私達一体どちらを信じるの?」
 抉るようなヤマキジの言葉を樹の静かな言葉達が遮った。樹は少し睨むように桃色と橙、二色の彩りを持つ虹彩を背後に立つダムへと向ける。
「君の家族を始末しに来た奴等と、守ろうとしている私達一体どちらを信じるの? 君にとって一番大事なモノは何? 虚実が確かでない奴らの妄言? それとも、すぐそこにいる『家族』? どっち?」
「古龍幇の今、聞きたいか……? 知ってる範囲だけ、だけど……古龍幇の幹部が、恐らく襲撃者に殺された……停戦交渉中に、古龍幇とH.O.P.E.の双方が襲撃を受けた……古龍幇とH.O.P.E.は、何者かに狙われている……」
『H.O.P.E.を信用するかは貴方次第です。敵対している組織を信じることは簡単ではありませんから。ただ、貴方の仲間を思う言葉を、俺は本物だと思っています』
「お前にとって本当に大事なもんは何よ? こいつらを倒す事か? それとも……仲間を護る事か?」
『敵を倒すなんて雑事は俺氏達に任せて、友達を護りに行くと良いよ』
 樹に続いた黎夜とアーテル、和馬と俺氏の言葉に、ダムは剣を握り締めた。船を待っている間、樹とシルミルテが掛けてくれた言葉が頭を過ぎる。この間古龍幇の永平さんとかいう人に会ったよ。腹筋ノ人ヨー。誤解があって、こっち側が疑われて危なかったけどね、違うってわかったらちゃんと謝罪くれたよ。話ヲ聞いテクれるいイ人ダネ♪ それはダムの中にある古龍幇の姿そのものだった。法を破る事はあっても人の道を外れはしない。仁。義。侠。それらをダムは握り締める。
「俺は家族を信じる。それから、お前達H.O.P.E.の事も……少なくとも、そこのチキンと野良犬よりはな!」
「……はー、下らねえ。下らねえ下らねえ下らねえ。家族だの仲間だの信頼だの希望だの、全部ブッ壊しちまった方がずっとキモチイイだろうが」
「どうして古龍幇の人を、家族を……子供を! 殺したの……っ!」
「好きだからだよ、壊すのが。好きな事するのにそれ以外の理由がいるか?」
 つくしの問いに無感情に答えを返し、ヤマキジとヤマイヌは地を踏みしめ駆け出した。明らかにバスを狙う瞳に遊夜が狙撃銃を構える。
「こっちにも来たってことは、もう確定だな。殺しに来た、もっと悪化、それが俺らの狙い、タノシミのために……と来たもんだ。ダムさんら四人が生きてたらあいつらにとって都合が悪いってことだ」
『……ん、対立を煽ってる』
「古龍幇の幹部も先日殺されたと聞いた、あの鳥野郎の顔には覚えがある」
『……ん、ヨンピョーも関わってたはず』
「だからあんた達は死なせない、あいつらは捕らえて白日の下に突き出してやらぁ!」
『……ん、群れは、「家族」を守らないと、ね』
 遊夜は和馬と息を合わせ、ハウンドドッグのダブル攻撃でヤマキジへと弾を放った。しかしヤマキジは羽根を散らし銃弾を回避する。
「おおっとお、行かせないよん」
 そこに千颯が再び飛び込みグリムリーパーを振り下ろした。ヤマキジは鎌の一撃を喰らいながら憎々し気に吠え立てる。
「ウゼェ猫だな、そんなに壊れたいなら壊してやるぜ!」
「そっちこそ、全力フルボッコの上フルオープンパージさせてやるから覚悟してちょ~」
「イヌにキジ……しかしこやつ等は美味しく無さそうでござるよ」
 千颯が何か不穏な事を述べた一方、小鉄も別の方向で不穏な事を呟いた。即座に稲穂がお母さんと聞き紛うツッコミを小鉄へと入れる。
『まって、愚神食べたらお腹壊しちゃうからやめなさい』
「……完全サポートで行かせてもらうよ」
『最近サポートしかしてませんね』
 轍の呟きに雪道 イザード(aa1641hero001)が思った事を呟いた。轍はそれに少し口を尖らせつつ、しかし淡々と言葉を返す。
「……元からだろ。やれる事を全力でやるよ、今回はな」
 轍は今度はヤマキジに狙いを定めると縫止を敵へと撃ち放った。再び千颯を鉤爪で強攻しようとしていたヤマキジは、轍に気付き千颯への攻撃を中断して回避する。
 一方、小鉄も自分の任務を果たすべくヤマイヌに再度肉薄した。黒い覆面をなびかせながら敵に一気呵成を仕掛ける。
「連撃、仕掛けさせて頂く」
『お腹いっぱい御馳走してあげるわ!』
 小鉄は重心の乗った一撃でヤマイヌを撃ち転倒させると、さらにアイアンバンクの拳を巨体へと叩き込んだ。するとヤマイヌの目の色が変わり、小鉄からも視線を逸らしバスに突撃しようと試みる。
「ブルームフレア!」
 焦華を発動したヤマイヌに、黎夜は進行を止めるべくライヴスの炎を炸裂させた。しかしヤマイヌは燃えながらも走り続け、避けたらバスに接近されると判断した黎夜は腕に装着した禁軍装甲で受け止める。
「敵対していても、ダムや永平の怒り、本物だったから……地元住民からの古龍幇への信頼も、この目で見た……上の命令に関係なく、生かしてーと思った……だからダムたちのところへお前たちを通すつもりは、ない……」
「あなたが何を言おうと、私は『希望』を信じてるから、あなたたちなんかに関係の悪化なんてさせない。H.O.P.E.も古龍幇も壊させない!」
 つくしは声を上げながらヤマイヌに対し、マビノギオンから幻影蝶を羽ばたかせた。美しい光の蝶の群れに捕らわれたヤマイヌを視界に映し、樹が仲間達へ要望を伝える。
「ところで……あいつら持って帰ったら色んな解析進みそうだから獲りましょう」
『聞いたか、出来れば生け捕りにしたいらしい。情報を訊き出すんだと』
「了解。善処するわ」
「……おい、てめえら俺達をナメ過ぎじゃねえか? 遊ぶのはもうヤメだ、任務の遂行を優先する!」
 ヤマキジはそう吠え立てると、フェザーショットで千颯と轍を攻撃し、隙をついてバス目掛けて走り出した。その行く手に、ディフェンダーを盾とした朝霞が飛び出し立ち塞がる。
「ウラワンダー☆ガード!」
「さっすが朝霞ちゃん! 頼りになるぅ~!!」
 我が身を盾に構成員を守る朝霞に千颯が称賛の声を上げた。一方ヤマキジは悔しさと焦りに顔を歪める。
「ぎ……」
「何だ、飛べないのか? 頭は軽そうなのにな」
 歯を食いしばるヤマキジに、追い込むように遊夜の声が投げ掛けられた。先程の挑発のお返しとばかりに怒涛のように畳み掛ける。
『……ん、見掛け倒し?』
「自分で狙いだ云々言ってたんだろうが……マジで鳥頭になったのか?」
『……ん、ドリンク剤の失敗作?』
「適当なもん掴まされて調子乗ってたのか、可哀そうにな」
「ご……が、ガ、クソが、クソが、クソがァァッ!」
 正に「とさかに来た」らしく突っ込んでくるヤマキジに、遊夜はにやりと微笑んでテレポートショットを撃ち放った。空間を転移し死角から敵を狙う弾はヤマキジの膝裏を撃ち抜く。
「ガ……」
「すまんが楽しませてはやれねぇな、鉄砲玉クン」
『……ん、させない』
「く……この……」
「最初の威勢はどうした! 疲れて突進もできないのか! それとももう諦めて負けを認めたとかか?」
 遊夜を狙おうとしたヤマキジの背後から今度は祐二の声が聞こえてきた。怒りと焦りで思考力が低下しているヤマキジはすぐさま祐二へと標的を変える。
「壊す! 壊ス壊すコワス!」
 ヤマキジは走りつつ祐二に攻撃しようとした、所で祐二が真横へと転がった。その後ろに設置していたサンタ捕縛用ネットがヤマキジの脚に絡まり、ヤマキジが大きくバランスを崩して転倒する。
「ふー、内心ばればれかという不安と少し怖い思いがあったけど成功」
「く……コんなものすぐ引き千切っテ……」
「逃がしはしないよ。俺は鹿島和馬、守勢において類稀なる才有りと謳われた男」
『カッコ普段は自宅限定』
 ネットを引き千切ろうと足掻くヤマキジに、さらに和馬が畳み掛けるようにライヴスの針を放った。ヤマキジとヤマザルの無力化、そして潜伏者の炙り出しも兼ねて、樹が支配者の言葉を告げる。
「眠れ、ただ眠れ。壊す続きは夢の中へ。私が『夢の終わり』を告げるまで眠れ」
 ヤマキジとヤマイヌはピタリと動きを止めると、エージェント達から視線を逸らし互いへと瞳を向け、ヤマキジは翼を、ヤマイヌは脚を、互いの腹部へと叩き込んだ。ヤマイヌの瞳から光が失われ、その姿を人間と獣の中間に変えながら倒れ込む。
『ド、ドうしタノ?』
「支配者の言葉で操って、同士討ちをさせたの。本当はそのまま眠らせたかったんだけど、睡眠は自分でもコントロール出来ないからね……」
「ヂ……ぐしょう……フザケやがって……俺達は、マガつひ……」
 まだ意識を失わないヤマキジは、フェザーショットを撃ち込もうと翼を掲げた。だが、何も起こらない。縫止による封印がヤマキジの攻撃手段を奪っていた。
「愚神と仲良く話す舌は持たぬでござるよ」
「おねんねの時間だってよ三下ちゃん!」
 小鉄がうろたえる敵に疾風怒濤の連撃を叩き込み、千颯がトドメにグリムリーパーを中心へと振り下ろした。ヤマキジが体液を噴き上げながら二回り程姿を縮め、糸が切れた人形のようにアスファルトの上に倒れ込む。
「終わった……かな……」
『まだ油断は出来ませんから武器になりそうなものは「破壊」しましょう。代わって下さい、つくし。やるのなら僕の役目です』
 メグルはつくしに伝え共鳴し直すと、敵から武器を完全に奪うための「作業」を行い始めた。淡々とそれを行うメグルから視線を逸らさないまま、轍はライヴスゴーグル越しに遠くを見るように目を細める。
「……こんな物手に入れたら、やれって事、だよな」
『何をするんです?』
「……ライヴスの流れ、見るんだよ。意図的に、乱されているのか、気になる」
『どうですか?』
「……乱れ過ぎてて、わかんねぇ、な。一応さっきも見たんだけど」
 轍は息を吐きつつゴーグルを上げ、幻想蝶から睡眠薬を二つ取り出した。ライヴスに作用するためリンカーでも使えると言う触れ込みだが……
「……もしこれがライヴス異常ならばこれだけじゃ心許無いんだよな。……でもま、二回分あるから存分にやるか。……薬に関して頼りないけれど専門家居るし、致死量とかにはならねぇだろ」
『頼りないって誰の事ですか?』
 イザードの温和だが微妙に凄みのある問い掛けに、轍はピューと口笛を吹いた。敵の口をこじ開け薬を飲ませ、それからアサシンナイフを取り出してヤマキジの腕部に押し当てる。
「……こいつらが愚神かそうじゃないのか推測の域を出ないけど、普通の刃物じゃ通らなさそうだし……佐倉さん、回収する用の物持ってない?」
「ありますよ、どうぞ」
 樹はスキットルを二つ取り出すと轍に渡し、轍はその中に血液と毛髪を回収した。樹はスキットルを受け取ると、何処か上機嫌そうな顔でナイフで「イ」「キ」とスキットルに軽く傷をつけていく。
「採取は終わったかな? 拘束は俺ちゃんにおまかせよ~ん。レッツフルオープンパージ&フルシャットロックタイム……」
「う、うああああ!」
 その時、バスの方から獣のような声が三人分聞こえてきた。見れば暴走した三人が、完全に正気を失くした顔でバスの外に出ようとする。
「お前ら、おとなしくしてろ! もう大丈夫だ!」
「しっかり! 意識を強く持って下さい!」
『朝霞、非常時だ。気絶させるのもやむをえん』
「それは……最終手段よ」
「こいつら少し遠ざけるか。和馬ちゃん、つくしちゃん! 俺ちゃん上手く使ってな!」
 朝霞とニクノイーサはダムと協力して三人を取り押さえ、千颯は和馬やメグルと協力して敵をバスから遠ざけた。海風が、その場にいる者達の間を再び強く吹き抜けていった。

●一時の休息
 千颯は何故か晴れ晴れと満足げな表情で立っていた。足元には獣の特徴を残しつつ人間に戻った刺客二人が、何故か下着一枚の上に金属猿轡で転がっている。両手両足の拘束は祐二から提供された三鎖鞭掛ける二つ。これを完全開放<フルオープンパージ>&完全拘束<フルシャットロック>と言う、とか言わないとか。
「ふっ……俺ちゃん程の能力者なら相手すら完全開放する事が出来るんだぜ! お前たちの敗因は完全開放した俺ちゃんに楯突いた事さ……」
「いつの間に……でござる……この馬鹿は……迷惑な能力でござるが……今回は役にたったのでござるか……ござるか?」
 多分自害と逃走防止という本来の目的は果たせると思うが……白虎丸は一先ず目を逸らした。一方、黎夜は千颯や朝霞に回復してもらった腕をさすりつつ襲撃犯へと視線を向ける。
「ガイルを犯人にしようとした、ヤツら……愚神、だった……? こいつらも、ドリンク剤を使ったのか……? それとも、前回の襲撃の時にはもう愚神と契約していたのか……? 前回の襲撃のヤツらとは別人で、愚神に成り代わられて殺されたのか……?」
「今は何とも言えぬでござるな……目を覚ましたらたっぷり絞ってもらうでござる。聞きたい事や調べたい事があるらしいでござるからな」
「どんな狙いがあるのか、首謀者は誰かもね」
 黎夜の疑問に、小鉄と朝霞が言葉を続けた。その横で、祐二も屈み込んでプロセルピナを背に負いながら刺客達へ視線を落とす。
「こいつらがバンコクでトカゲをけしかけた奴ら、って事でいいんだよな」
「こいつらが……」
 祐二の言葉に、ダムが一歩を踏み出した。いまだ共鳴を解かず剣を握るダムの姿に祐二が慌てて声を掛ける。
「ダムさん、気持ちは分かるが今は押さえてくれないか。古龍幇の家族への被害を止めるには情報が必要だろ。彼らのようにしないためにもな」
「……分かっている。本当は殺したい所だけど、色々聞かなきゃいけない事もあるんだろう。お前らに任せるよ。それから、古龍幇の事、教えてくれてありがとう。仲間を守ってくれてありがとう。お前らのおかげで、俺は家族を失わずに済んだよ」
「あの時の非礼に対するお詫びみたいなもの、かな……東京に着くまで、ぜってー護ってみせる、から……」
 黎夜の言葉に、ダムは初めて笑顔のようなものを見せ、再び「ありがとう」と呟いた。そこにつくしが呼び寄せた、刺客達を護送する用の車両が到着する。詰め込まれる襲撃者達を眺めながら、小鉄はようやく共鳴を解く。
「東京に着くまで完全に警戒は解けぬでござるが……しかし色々と不穏な事ばかりでござるなぁ……」
「まぁ、どこもかりかりしてるわね」
「う、む……拙者らは前で暴れるだけでござるよ、何があろうとも」
「いやまぁそうなんだけどね? はぁ、これだからニンジャって言われるのよ……」
 稲穂が少々呆れ気味に肩を落として突っ込む一方、和馬は襲撃者達……ではなく、職員に襲撃者達の話の内容を言伝るつくしの方を眺めていた。ジト目の下にくっきりとついたくまという不健全そうな見た目とは裏腹に、その口からは存外優しげな言葉が零れる。
「御代は自分以外の誰かを優先し過ぎる時がありそうで心配よねぇ」
「和馬氏もあんまりつくし氏の事は言えないんじゃないかな」
「木陰も、ちっせー子が戦ってのはどうにも慣れねぇな」
「でも多分、和馬氏より強いんじゃないかな」
 俺氏は和馬と同じ方向に腕を組みつつ、覆面に開いた穴の中から眼前に広がる世界を見ていた。もっとも、覗いても暗闇しか見えない穴の中に潜む俺氏の本体がどうなっているかは不明だが、やる時はやる馬と、やる時はやる鹿、それが鹿島和馬と俺氏コンビである。
「ダム氏とその仲間達を無事に東京へ送ってあげないとね」
「んだな……仲間の為に頑張る奴の応援はしてぇし」
「自分、重ねてる?」
「うっせーよ」
「船が来たぞ、東京までもう一踏ん張りだ」
 照れながらぶっきらぼうに返す和馬の耳に祐二の声が聞こえてきた。遊夜も仲間達と共に船へと乗り込み、今から渡る海と、再び戻ってくるだろう香港の街並みを視界に映した。刃を交える前に襲撃者の述べた言葉が海風と共に耳を掠める。
「海も香港もドタバタしてる、か……忙しくなりそうだ」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • Foe
    谷崎 祐二aa1192
    人間|32才|男性|回避
  • ドラ食え
    プロセルピナ ゲイシャaa1192hero001
    英雄|6才|女性|シャド
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
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