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【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】悪夢のディナータイム

真名木風由

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/04/02 11:12

掲示板

オープニング

●悪夢のディナー
 『あなた』達は輸送機へ慌しく乗り込んだ。
 霍凛雪(az0049)より伝えられた、広州市の陽動──首謀者はプリセンサーも捕捉出来なかったとのことだが、愚神、従魔の襲撃であるからには、自我のある愚神が何かしらの形で噛んでいるだろう。
 が、今はそれを考えている場合ではない。
 『あなた』達はプリセンサーが捕捉した愚神、従魔襲撃事件の為に現地へ急行するのだ。
「ショッピングモール、だったな。しかも飯時かよ」
 時刻を確認しながらそう言うのは、蒼 星狼(az0052)である。
 傍らに腰を下ろすデイ・ブレイク(az0052hero001)はショッピングモールの見取り図を見ているようだ。
「じゃから、プリセンサーが視たものは、食事をする場所なのであろう? ふーどこーと、とやらは、気軽に食事が出来る場所だとおぬしも言うておったじゃろうが」
「人が集まる場所ってのが、気に入らねぇ。これ見よがしに被害を出しやがって」
「それが愚神じゃろう。わしらと同じ物差しで動いておらんわ」
 優美な外見とは裏腹に口がいいとは言えない星狼へ、やっぱり容姿に合わない口調をしたデイが呆れる。
 が、星狼の言う通り、陽動と牽制の意味合いを持つからか、ショッピングモールでも人が集中し易いフードコートを狙ってきている。星狼が気に入らないというのも解るが、デイの言う通り、それが愚神なのだろう。
 『あなた』達はショッピングモールの見取り図を頭に叩き込み、H.O.P.E.の手引きで従業員入り口から入り、時間短縮は出来るにしても最速でフードコートに向かうにはどうすればいいか。
 そして、プリセンサーが捕捉した情報の全てを頭に入れるべく資料に目を落とした。

 間もなく、輸送機はショッピングモールの駐車場に降り──

「愚神、従魔、出現!?」
 輸送機内に緊迫の声が響いた。
 プリセンサーは時間まで正確に予測していた訳ではなく、最短で来ていたがあちらの動きの方が速かったようだ。
 『あなた』達の顔に緊張が走る。
 次々と共鳴し、降り立った輸送機から飛び出して、従業員入り口からフードコート目指して走る──

●傍観者
 混乱巻き起こるフードコート。
 愚神達を守るかのように従魔が聳え立つ。
「彼らも中々ゲームの才能があるね。日付は決めるけど、好きにしていいよって言ったら、こーんなゲーム考えてくれるんだもの」
 瞳を三日月に細めるその愚神は、ショッピングモールから遠く離れた場所にいた。
 カード遊びしながら、パソコンでその混乱を楽しそうに見ている。
「今は便利だよね」
 さて、どんなゲームが繰り広げられるだろう?
 愉しそうな笑い声を、今はまだ誰も知る由もない。

解説

●目的
・被害を最小限にした敵の全撃破

●状況
・広州のショッピングモールのフードコートに愚神、従魔による襲撃が発生。
・従業員入り口から従業員通路を走り、フードコートへ(最短3分で到達)
・モール内には既に避難放送が流れている。

●敵情報(容姿以外の情報をPCは知りません)
・デクリオ級愚神陰(イン)
青年型愚神。
陽気そうな外見だが、卑屈な槍使い。
物理攻撃力・命中・生命が高め。

連撃(リィェンジー)
同一対象へ2連続攻撃。

沈(シェン)
攻撃威力は落ちるが、当て易い攻撃(命中判定にボーナス)、特殊抵抗判定に勝利するとBS気絶付与。

デクリオ級愚神陽(ヤン)
女性型愚神。
病的な外見だが陽気なトリガーハッピーで魔法攻撃に長ける。
魔法攻撃力・回避・特殊抵抗が高め。

音弾(インタン)
射程1~18。単体攻撃。
エネルギー弾で、命中時派手な音がする。
エージェントにとってBSにはならないが、一般人への影響はある。

音波(インブォ)
射程1~13、範囲3。
空気の弾を破裂させる範囲攻撃。
着弾時に爆発音が鳴り響き、命中した対象全て特殊抵抗判定、勝利した場合BS衝撃付与。

ミーレス級従魔人形(レンシン)x8
チャイナ服を着た少年少女の従魔。
通せんぼしており、率先して攻撃を受ける。
愚神が攻撃を受けると即治癒能力を行使。
物理・魔法防御と生命が高い。

注意:
・戦闘開始より1分経過する毎に愚神達はそれぞれ一般人を殺害します。
より恐怖を与え、数を殺せるか競い合っている模様。

●NPC情報
・蒼 星狼、デイ・ブレイク
指示がなければ、一般人防衛。

・一般人
時間帯もあり多数。恐怖で動けません。

・幻月
どこかで動向を見ている。
PCの前に姿を現さず、今回この情報の入手は出来ません。

●注意・補足事項
・ショッピングモール到着時点で共鳴済。
・緊急事態につき一般品(アイテムにないアイテム)持込不可。
・モール関係者は非能力者であり被害拡大の恐れより、彼らへの助力依頼不可。

リプレイ

●急行
「まだ手遅れって決まった訳じゃない」
(『ええ、嘆いていても始まりません。これからどう動くかです』)
 慌しいのは好かないと言いながらもアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)と共鳴した志賀谷 京子(aa0150)の走りに迷いはない。
(『まさか、食事時を狙ってくるなんて……』)
「最も人が集まる時間だ。奴らにしてみれば格好の餌場と化すからな……」
 ナハト・ロストハート(aa0473hero001)と共鳴するヴィント・ロストハート(aa0473)の見解は、まだ愚神を前にしていない為冷静な見解であり、それを聞いた九字原 昂(aa0919)が軽く肩を竦める。
「おちおち食事も出来ないなぁ」
(『そうぼやくな。さっさと片付けて飯にして貰えばいい。俺達も、な』)
 ベルフ(aa0919hero001)の冷静な指摘を受けた昂は走りながらも打ち合わせに耳を傾ける。
 既に敵がおり、多数の一般人がいるならば、一般人への被害がないようにすることが大事だろう。
(煽られなければいいんだがな)
 バルトロメイ(aa1695hero001)が、ネイ=カースド(aa2271hero001)と共鳴している煤原 燃衣(aa2271)を見る。
 今の所、彼の中の狂気が煽られているようには見えないが、現場に到着すれば判らない。

 現場へ急ぎ近づいていく。

 構築の魔女(aa0281hero001)は共鳴し、辺是 落児(aa0281)から主導権を得て疾走していた。
「時間帯と場所を考えれば、護ることを優先しましょう」
「我先に逃げて、連中が手を出さずに被害が出かねぇ……とジジイが頭の中でうるせぇ」
(『……ロロ』)
「ドミノ倒しなどは十分ありえますね。有事はフラッシュバンも考慮しますが……辺是も言っていますが、すぐに逃げろと言うのは逆に危険でしょうね」
 彼女の後方を走る蒼 星狼(az0052)は主導権自体は彼のようだが、デイ・ブレイク(az0052hero001)から頭の中で口喧しく言われているようだ。
 バルトロメイの場合、共鳴後はセレティア(aa1695)より主導権を得ているが、彼女はバルトロメイが自分を守ってくれると信じてその体を預けるような形、意識は浮上しないらしいので、この辺りは能力者と英雄の間柄次第なのだろう。
「状況を確認した上で一般人の方を護りましょう」
「わらわがいる限り誰も殺させぬ。敵の思い通りにはさせぬぞ」
 少し前方から、カグヤ・アトラクア(aa0535)の声が聞こえてくる。
 彼女は星狼と異なり他のエージェントよりも機動力がある為、やや速いのだ。
 が、現場到着が最優先とされる状況において、スピードが重要であると唱えたカグヤは到着出来る者から到着すべきと事前に言っている。
(『普通に聞けば正義の味方だけど、カグヤの場合どんな状況であろうと楽しんで対応してる厄介者だし』)
(何を言う。わらわは正義の味方じゃぞ?)
 そう話している間にも、エージェント達は現場へ到着していく。

●到着
「あ……あ……あぁ……」
 燃衣の声が震えている。
 フードコートに広がるのは、和やかな食事を踏み躙られた悪夢。
 構築の魔女が声を張り上げているが、それらが遠い。
 動いていない人がいる、死んでいるのか生きているのか判らない。
 2体の愚神が大勢の力なき人々へ──蘇ったのは、全て亡くした過去。
 重なり合う視界が歪み、膝を着きそうになるが、まだ膝は着けない。
(『……バカが。替われ……今のテメぇには』)
「……ネーさん、黙ってろ」
 ネイの響く声を燃衣は声に出して遮った。
 あの愚神達は、絶対に殺す。
 いや。
 沢山の人がそこにいる。
「もう来たのぉ。もうちょっと待ってくれてもいいのにアハハ」
「俺なんか倒せると思って来ているんだろ……」
 病的そうな外見に似合わぬ陽気な物言いをした女性型愚神、陽気な外見に似合わぬ卑屈な物言いをした青年型愚神。
 立ちはだかるのは、少年少女の容姿をした従魔。
 周囲には大勢の一般人がおり、無傷の者も動けないでいる。
 敵の能力は判らないが、すべきことはひとつだ。
「家族を……家族を殺したなァアアアッ!」
 燃衣が気を引くように従魔へ切り込む。
 が、従魔はあくまで進路妨害に立ちはだかるようだ。
「退けよッ! アイツが殺せないッ!」
 そう言いながらも状況分析を怠っている訳ではない。
 あくまで注意を引く為の手でもある。
 後方から駆けてきたヴィントが燃衣の肩から跳躍し──その肩が何かに撃たれ、落下する。
 一際派手な音が鳴り響き、一般人が恐怖の悲鳴を上げた。
「バカねぇ。的を撃たない理由がどこにあるの?」
 ゲラゲラと笑う女愚神。
(『ま、そうだな』)
 ベルフが小さく呟いた。
 跳躍して飛び越えるのは最短ルートではある。
 が、跳躍時、重力の制約を離れるが為に自分自身の肉体コントロールが厳しいものとなり、結果、本来の回避能力で回避行動が取れなくなるのだ。
「子猫ちゃん、そんなに俺に可愛がって欲しいのかい?」
(『ヴィント、ダメ、落ち着いて!!』)
 攻撃されたことで逆に精神が高揚したヴィントはその狂気が全面的に出た。
 ナハトがセーブの声を掛けるが、彼の破壊衝動が高まり過ぎてしまっている。
「上は危険なようじゃ。切り拓くしかあるまい」
 踏み台になろうとするバルトロメイを制し、カグヤが決断した。
 ライブスラスターで空中の制御姿勢を試みれば回避行動は取れなくはないだろう。
 が、絶対に回避出来るという断言は出来ない以上、同じことをして当たった場合、一般人の恐怖が深刻なものとなる。
「彼らが見ておることを忘れん方がいいのじゃ」
 自分達だけで成り立っている世界ではない。
 その為、それらは頭に入れておく必要があるのだ。
「それを、見越してやがるのか」
 バルトロメイが星狼を通じてそう言ったデイの言葉を反芻する。
 これが、大勢の一般人がいる場所で戦うということだとバルトロメイ自身も理解していた。
 跳躍しているのを待っているだけの敵は存在しない。そんなに親切な敵なら、こんな時間にこんな場所に現れたりしないだろう。
 非戦闘員を狙うやり方、その中でも市街地戦、愉悦の虐殺は彼が嫌う所だ。
「道を作れば、いいんですね?」
 昂がそのまま突撃しかねないヴィントよりも前を駆け、立ちはだかるように進路妨害する従魔へ向かう。
 その直前に京子のトリオが従魔へ決まり、より、狙い易くなった。
(『皆、同じ場所に集まっている訳じゃない。状況を整えるのに時間が掛かる。……いいな?』)
「道を塞いで歩かないって、習わなかったかな?」
 ベルフへ頷いた昂はわざと愚神に向かうように駆け、立ちはだかるように進路を妨害する従魔へ向かって、蜘蛛の巣のようなネットを投擲した。
(『習っているような奴は愚神にも従魔にもならんがな』)
 ベルフがツッコミしたが、女郎蜘蛛に囚われた従魔がバランスを崩し、道が出来る!
「行けッ!!」
 バルトロメイが今だと叫ぶ中、チョコレートを貰ったヴィントがカグヤに続く。
 狂おしいまでのこの衝動……あぁ、でもご馳走は取って置かないと。
 舌なめずりすらしそうなヴィントは青年愚神へ駆け、カグヤが女愚神へ駆ける。
「遊びは終わりだ。喰らわれ、俺達の糧になるのは貴様らだ」
 狂った笑みと共にヴィントが一般人へ攻撃しようとしていた青年愚神へ電光石火の一撃。
 狼狽えることはしなかったが、青年愚神はヴィントを見る。
「お前程度って思っているんだろうクソ共が」
 苛立ったような槍が後方に向けて2連続で振り抜かれ、ちょうど構築の魔女が到達、テーブルを立てていたそこを貫いた。
 テーブルが砕け散り、驚愕する構築の魔女と一般人の姿が見える。
「優先順位はあくまで一般人ということですか」
 構築の魔女が怯える一般人へ伏せるように注意を促し、呟く。
(『わしらが護る為に動く、それこそを隙に考える輩もおるということじゃ』)
「クソ共が」
 デイの言葉を聞いた星狼が思わず口に出して悪態をつく。
 多くはエージェント到着でエージェントに注意を向けるか、エージェントの行動に注意が引きつけられるが、全てが全てパターン化されていないなら、そういうこともあるのだろう。
「随分いい趣味してるじゃないの」
(『まさか』)
 アリッサが、京子の軽口の響きを感じて声を上げる。
「痛いのは好きじゃないんだけどね」
 京子は一般人を守るように立ち、従魔目掛けて撃った。

●排除
 昂の女郎蜘蛛は道を拓いただけでなく、先に従魔討伐を狙うエージェント達の動きも円滑なものとした。
「まずは数……」
 バルトロメイが放つのは怒涛乱舞。
 立ちはだかっていた従魔がどのような力を持っているかなど、知る由もない。
 数も多いのであれば、減らすことを考えた方がいい。
(『確実に仕留める布石を打て)
「千切れて消えろ……ッ!」
 燃衣もネイの言葉を聞きながらザグナル携え、怒涛乱舞。
 一般人がこの場から逃げることが出来れば、バルトロメイの言う『えげつない』手段を燃衣も講じただろうが、それが出来る状況ではない。
 愚神と従魔が手を下さずとも、我先に逃げればドミノ倒しもありえる。逃げるのに邪魔なら突き飛ばして踏みつけにすることもありえる。わざと愚神側へ突き飛ばし、その犠牲の間に逃げようとする可能性もある。生死間際だからこそ出る人の闇だ。
「どこまでも胸糞悪い……」
 人の闇を暴くようなやり方にバルトロメイは嫌悪を隠そうともしない。
 直後、昂のハングドマンが女郎蜘蛛に囚われていない従魔の足に目掛けて繰り出された。
 鋼糸は従魔の片足に絡み、昂が強く引くと、バランスを崩して傾き、それを好機とする京子のストライクが貫く。
「ここで殺すッ! ぁぁああッ!」
 燃衣が大声で女愚神を見据え、駆けようとするが、空気の弾が京子に着弾し爆ぜ、周辺を巻き込んで爆発音を響かせた。
 まともに喰らった京子が顔を歪めている所を見ると、ダメージが深いのかあるいは──
「やってくれるじゃないの……!」
 音の影響だろう、自身の集中力の低下を感じた京子が女愚神を睨む。
 本当に最優先で一般人を狙ってきている。
「わらわと踊っておる間、他の者を見るのはマナー違反じゃぞ」
「要望に応える必要、あったのかしらねぇ、ウフフハハハ!!!」
 カグヤが京子とは正反対の位置から近接戦闘を仕掛けているが、高揚し易いタイプなのか、女愚神は陽気な笑い声で大笑いしている。
「調子に乗っておるのも今の内じゃ。何か企んでおっても砕くのが正義の味方じゃ」
(『その割に顔が悪人面』)
 クーの言葉は綺麗に無視され、カグヤは英雄経巻での攻撃を続けた。

 ヴィントも青年愚神が一般人から距離を離そうとしないことに気づいていた。
「殺し甲斐なければご馳走が美味く感じないからな……」
 狂笑を浮かべるヴィントは意識を興に乗せることを忘れた訳ではなく、青年愚神の死角を狙おうと動くが、「気づかないとでも思っているんだろ」などと陽気な顔とは裏腹な発言で立ち位置調整、一般人攻撃狙いを変えない。
「……随分完璧主義なことで」
 すぐ近くで一般人を遮蔽物となる観葉植物の裏へ誘導している星狼の小さな呟きがヴィントの耳に届いた。
 ヴィントは「そうかそうか」と喉を鳴らして笑う。
 自分に意識を向ける口説き文句で口説き落とさないと、この愚神は優先順位を変えたりしない。
 女愚神の挙動確認に専念する構築の魔女が星狼に青年愚神の挙動確認を依頼していたが、エージェントになりたての星狼では具体的な挙動を見抜くことは難しかった為、散らばる一般人の一団の合間を移動し、この場から全力で逃すことは危なくともと構築の魔女同様遮蔽物の裏へ身を潜めさせ、所々合流させる等していたが───ヴィント的には大変役立つ感想であった。
「だから、貴様は、ダメなんだ。能 無 し」
 わざわざ区切り、強調して嘲ってやれば、青年愚神の顔色が変わる。
(『私達から逃れられない……』)
「子猫ちゃんが待ち侘びてるんだ。早く終わらせてもらうぞ」
 ナハトの声が響く中、ヴィントが狂った笑い声と共にライオンハートの切っ先を向けた。

 青年愚神の意識がヴィントに完全に向いたものの、女愚神は範囲攻撃を持つだけあり、一般人狙いで使ってくる。
「まだ負傷者だけで済んでますね……」
 構築の魔女も一般人護衛優先である為、まず遮蔽物の裏側に一般人をとフードコートを移動し、危険が迫れば威嚇射撃での牽制も考えていたが、範囲攻撃で来られると、カグヤが専念して対応しているが、それだけでは対処が難しい。
 直撃はしなくとも弾け飛んだテーブルや椅子などが直撃すれば、一般人なら負傷する。まだ、自分達が到達していない一般人に負傷者が出ているのだ。
 構築の魔女にはカグヤの立ち回りのお陰で攻撃がこないが、カグヤと愚神から一般人を護りつつ従魔対処の京子のダメージは嵩んできている。
「アリッサ、気づいた?」
(『ええ』)
 チョコレートがついた指を軽く舐めた京子の問いに、お行儀悪いと窘めながらもアリッサは問いの意味を理解して応じる。
 青年愚神は怒りでヴィント集中となっているが、女愚神は一般人狙いを崩していない。
 一般人へは効率性を求めてダメージを与えてきており、ひとつの確信に到達するのだ。
「ゲーム、してるよね」
 愚神は相変わらず悪趣味だが、その悪趣味がなければ到着時点で死者が出ているかも知れない。
 感謝など、したくはないが。
(『どのようなものでも、命を弄ぶ行為を許しはしません!』)
「当然。代償は払ってもらわないとね」
 京子は従魔を笑って撃つ。
 バルトロメイ、燃衣の連携で従魔1体が倒れており、狙ったのは昂が女郎蜘蛛で捕らえた従魔は既に女郎蜘蛛の影響下から脱してはいたが、消耗はしており、京子によって仕留められた。
「従魔はただの道具だ、容赦はしねぇ」
 バルトロメイが一気呵成を発動させ、従魔へ追撃効果と共に攻撃するが、集団戦闘に向かないのも一気呵成の追撃効果の特徴。
 起き上がった瞬間、女愚神の範囲攻撃で吹っ飛んだテーブルがバルトロメイに命中した。
 ライヴスを伴わないものである為、ダメージは受けないが、体勢を立て直す時間は通常より大きくなる。
 そのバルトロメイの隙を見て従魔が1体、青年愚神の傷を癒した。
 燃衣はそれを見、従魔はあくまで愚神を護る存在でしかないと判断、そこを逆手に取るべく動く。
「……ハケたッ! アイツを叩くッ!」
 女愚神へ叫び、背後へ回り込む動きを狙うが、こちらを見ない。
 虚言や虚撃であちらの意識を逸らせればと思ったが、女愚神は動じない。
「家畜の言うことをいちいち聞いてられないわよハハハハハハ」
 味方側に伝えていた為に動揺が走らない分、作戦であると見抜かれてしまったのだろう。
 侮る分、その作戦に乗ってやらないといった所か。
「特に1分毎にどれだけ恐怖与えて殺せるかゲームしようとしたの邪魔されちゃってるし? 人形(レンシン)が凌げるなら続行しようと思ったけど、来ちゃったから、予定変更してあげてんのよ?」
 ゲームで愉しく殺そうとしていたが、邪魔されているので自分達を排除する為に優先順位を変えないで攻撃といった所か。
 その方が後々与えた恐怖で逃げることも出来ず絶望するしかない人間を見られて愉しく殺せると言うのもあるのだろう。
「俺なんかに出来るかよと思ってるのか? その大したことねぇ奴に食われて貪られろ、殺すしか用途がない家畜共がァ」
 ヴィントが対応する青年愚神の言葉も女愚神と同質のものだ。
 競い合うゲーム感覚……愚神であるとは言え、どちらも負けず劣らずといった所だ。
 バルトロメイは自身の内の怒りをひとまず抑え、燃衣を見た。
「おい」
「大丈夫。……1周して頭は冷えました」
 バルトロメイの声に燃衣はそれだけ言う。
(『まず機動力を殺げ。足を使って動いていた所を見ると、浮遊能力はない。機動力を封じろ』)
「足元がお留守ですよ」
 ベルフのアドバイスを吸収する昂が見掛けだけは子供の従魔の足を引っ掛ける。
 頑丈で、生命力もあるが、京子の援護を受け、従魔攻撃専念のバルトロメイと燃衣が後れる筈もなく。
 愚神へ向かった1体を除いては問題なく討伐した。

●討伐
 昂が抑える手が足りないと判断し女愚神へ向かうと、カグヤはだいぶ負傷していた。
 それ以上に京子は負傷しているが、後方の一般人に被害は出ていない。
「ケアレイは?」
「余程でなければ温存じゃ」
 昂が問うと、カグヤが事も無げに返した。
「元々ケアレイは合流後までと思っておったが、可能な限り戦闘後まで持ち越すつもりじゃ。……負傷者が多過ぎるのじゃ」
 構築の魔女と星狼が手分けして一般人防衛に動いているが、人が多い。
 最初にエージェントの到着をほぼ全員で声を張り上げたのは効果的だったが、跳躍したヴィントが派手な音と共に撃たれて落下という光景を見、安堵に一瞬気が緩んだ分到着時よりも動けなくなった一般人がおり、その為に範囲攻撃の余波により負傷者が出てしまっている。
「わらわは人より頑丈に出来ておる。本当に拙ければ話は別じゃが、それまでは耐えようと思っての」
(『ゴキブリのような生命力がないと無理な力技だよね』)
 カグヤはクーのツッコミを無視しながら、被害最小限を心掛けている。
「僕が隙を作ります。今は範囲攻撃を止めた方がいいでしょう」
 理解した昂がカグヤとは別方向に床を蹴る。
 状況が動くと理解した構築の魔女がファストショット、女愚神の出鼻を挫く。
「範囲攻撃は爆弾のようなものかもしれませんが、単体攻撃は銃弾のようなものです。音もかなりのものですので、撃たせないでください!」
「なら、まずは先に動き易くしますね」
 女愚神の戦い方を分析していた構築の魔女へ応えるかのように昂が猫騙で女愚神の躊躇を生ませ、その行動を遅らせる。
 それを見て、笑みを浮かべたのが京子だ。
「さっきからさ、随分やってくれたよね」
 京子が立っていたのは女愚神に近く、そして一般人が多かった場所。
 その為に狙われ、攻撃を後ろにやる位ならばと避けることもしなかった為に最も負傷が濃い京子は、この状況でも笑って軽口を叩く。
「そろそろわたしもお礼したいなー。避けるの上手みたいだけどさ───」
 わたしも、当てるのが得意なの。
 その言葉と共に女愚神を狙った弾丸が消えた。
「!?」
 目を剥く中、死角へ転移した弾丸は女愚神を貫く。
「小賢しい人間共がぁ……!」
「小賢しいのが人間じゃのぅ」
 ラジエルの所に持ち替えたカグヤがにやりと笑う。
 敵の攻撃に射程そのものがある為、直撃ではないが攻撃を許し、一般人へ負傷者を出している。
 敵は香港から目を逸らす為に広州で動いているだろうが、それだけではないものを感じる。
「聞いている暇もないのでな、蝶のように舞い、蜘蛛のように捕らえて喰らうてやろう」
 それでも尚、女愚神は一般人狙いを変えようとしないのか、その掌を構築の魔女が向かう一団へ向けた。
 怯える一般人が恐怖のピークでパニックとなるが、パニックを既に読んでいた構築の魔女がここでフラッシュバンを頭上に向ける形で撃ち、閃光に目を眩ませ、動きを鎮める。
「動き停めちゃっていいのかしらね、アハハハハ」
「ええ。大丈夫です。あなたが討たれるので」
 構築の魔女はその動きを見ていたから、しれっと答えた。
(『1回で決めろ』)
「解ってる」
 背後へ回り込んだ昂の縫止が女愚神へ刺さった。
「きさ、ま」
「背後取られたんじゃ逃げられないわよねぇ?」
 笑う京子が軽口と共に再度、その弾丸を転移させて女愚神を撃つ。
 弾丸の転移を予測しきれないからか、女愚神を確実に狼狽させると、更にこの後昂の女郎蜘蛛が捕らえる。絶好の好機を逃さない4人の総攻撃により、識別名『陽』と名づけられることになる愚神は倒れた。

 ヴィントのお陰で一般人攻撃こそ止んでいたが、青年愚神も攻撃はエージェントに対して苛烈であった。
「攻撃力そのものも高いが、当てる技巧も高いようだな」
 実質1人で陰を押さえていたヴィントへ、青年愚神へ唯一到達していた従魔を倒したバルトロメイがチョコレートに続き、エネルギーバーを彼へ渡す。
 興に入って高揚はしているが、ヴィントは意識を持って行っている為に受け取ったエネルギーバーを口に入れ、バルトロメイが背後に回る時間を作るべく太刀筋の見えないその一撃で支援した。
 青年愚神を三角形の中央に据えるように囲みながらも、3人は星狼が一般人を一時避難させる動きの確認は忘れない。
 バルトロメイ、燃衣が一気呵成で青年愚神を攻め立て、追撃効果こそ発生しなかったが、ヴィントには十分な隙。
 視線の端で女愚神が討伐されるのを見たヴィントが血も滴るような笑みを浮かべる。
「子猫ちゃんと逢瀬出来なくなったなら……貴様を喰らうしかないな」
 発動させていたトップギアの恩恵そのままに疾風怒濤。
 が、組し易い相手と言われたと勘違いした青年愚神の戦意は折れるどころか著しく上がった。
「俺なんか簡単に殺せるとでも思ってるのか」
 青年愚神の2連続の槍が攻撃を狙う3人へ次々と決まるが、ヴィントがトップギア発動したのを見、バルトロメイ、燃衣が共に疾風怒濤。
 最終的にヴィントが疾風怒濤で止めを刺し、識別名『陰』となる青年愚神は倒れた。

●終焉
「今日はゲームオーバーかなー」
 パソコンで一部始終を見ていたその人物、トリブヌス級愚神幻月は戦闘の終わりと同時に大きく伸びをした。
「自分達がそうすれば、相手も応えてくれるとかホント面白いよねー。お腹痛かった」
 思い出して笑う幻月は、広州をその目に映した。
「ゲームは始まったばかり。愉しく遊ばれてよ」
 最後にこんな筈じゃなかったと絶叫する最高の顔をボクに見せて?

 カグヤのケアレイン、ケアレイが負傷者を治療していく。
 嵩んではいるが、死ぬ程ではないとして、負傷するエージェントの中でもその色が濃い京子とヴィントは燃衣からチョコレートを貰って傷を癒したが、そのスキルの恩恵は一般人優先とさせた。
「こっちが一般人護るなら、わざと狙って対処し易くするという手もありますか……」
 共鳴を解除したセレティアは治癒状況を見て呟く。
 優先順位を読むからこそ、優先順位を変えなかった。
 かと言って一般人を見捨てられるものではない。
 安心させた分、撃たれた光景への動揺が大きかった。
 隙を見せないこともまた、こういう状況では大事なのだろう。
「昂の動きがないと被害はこんなものではなかったじゃろうな」
 治癒を終えたカグヤが戻ってくる。
 自身よりもより多くの一般人の治癒にと考えたカグヤ自身は負傷したままだ。
 そのカグヤが言うには、昂の動きがないと愚神への早期到達が難しく、また、行動妨害優先の動きがあってこそ従魔の愚神到達が最小限であり、膠着がなかった。最終的に範囲攻撃を封じたのも大きいだろうと。
「治せる範囲で良かったのじゃ。動けなかった者は気絶しておっただけでの。危険な状態は去っておる。死者はなし。自分を優先させない正義の味方の結果としては上々じゃの」
「今日ここで食事は無理そうですけど……明日の今頃は夕飯食べられると思いますし、最後のディナータイムにならなくて良かったですよ」
 カグヤへ、何だかんだとぼやいていた昂も最悪にならない結果を改めて見る。
 終わったと思ったら、お腹が空いてきた。
 香港に戻ったら、とりあえず、夕飯にしよう。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535

  • 九字原 昂aa0919

重体一覧

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 願い叶えし者
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