本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】Qui Iniuria

紅玉

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2016/04/05 21:19

掲示板

オープニング

●希望の船
 香港での戦闘に伴い、横浜港より数隻の船が出港した。
 軍艦、武器を積んだ輸送船、そして多数のリンカー乗組員からなるH.O.P.E.の船団である。
 香港支部への援軍派遣を主眼としたそれは、言うまでもなく大規模作戦にて最大限機能するべきものだ。
 然るに到着は前提にして必須、事前に危ぶまれる事などあってはならない。
 幸いにして出港時は天候に恵まれ、予報上も時化などの気配はなく、順調な航海が期待された。
 だが、忘れるなかれ。
 全てを得んとする者は、全て失う覚悟をしなければならない事を――。


●司令室
「ハール(海霧)ですって? 聞いてないわ!」
 テレサ・バートレット(az0030)は苛立たしげに天気図が表示された気象予報のモニターにかぶりついた。
 H.O.P.E.の船団が小笠原諸島沖に差し掛かった途端、この海域に濃霧が立ち込めたのだ。
 仕事を奪われたスタッフがおろおろと見守る中、何度確かめてみても現時刻に霧が発生する見込みは、ない。
「待ってテレサさん」
 ミュシャ・ラインハルト(az0004)がそれを制する。
 船窓を見遣り、あたかも異界へ紛れ込んだかの如く薄ら寒い光景に、眉をひそめ。
「……タイミングが良すぎると思わないか?」
「同感だ。恐らく――」
「小笠原諸島周辺のライヴス濃度急激に上昇中!」
「――ね?」
 頷く圓 冥人(az0039)の示唆を、ほぼ同時にレーダー技士が補完した。
「前方より所属不明船舶数隻、及び二十――五十――夥しい数のライヴス反応が接近中! 従魔です! ミーレス級からデクリオ級相当! 更に高ライヴスの個体が二点。うち一方の波形は生駒山近郊、並びに明石海峡大橋のデータと酷似!」

 即ち――ヴォジャッグ!

「最悪の船出ね」
「まだ生きてたのか……!」
「で、もう片方は? そっちもモヒカンなのか?」
「データありません、ただしケントゥリオ級と推定――」


●海の絶望
「――ククク、これで奴らは死んだも同然」
 そのケントゥリオ級の愚神ことキャプテン・リーチは、船の甲板に立ち、邪に口元を歪めていた。
 自らが展開した霧のドロップゾーン、その首尾に満足して。
 今から襲い、奪い、踏みしだける事に満悦して。
 やがて、彼は右手代わりの巨大なフックを掲げる。
「よォし野郎ども! 何から何まで奪ってこォい! 皮も、爪も、髪の毛の最後の一本まで余さずむしり取ってきやがれぇぇ!」
 リーチの威勢の良い号令に伴い、ボロボロに傷んだ胡乱な船が、大砲を積んだボートが、無数の大きな魚影が、首なしライダーの集団が、そして――
「へっへっへへへ見てやがれあのエージェントのクソ虫のクソ以下のクソにも劣る最悪のクソから生まれたクソオブクソどもぉお――クジラの餌はやめだ、どいつもこいつも片っ端からぶっ潰してぎっちぎちに丸めてクジラに玉芸仕込んで見せびらかしてやるずぇぁああ~~!!!」
 そして、ヴォジャッグが。
 耳障りな声で罵詈雑言を並べ立てながら、暴虐的なカスタムを施した水上バイクを悪辣に唸らせ――進撃を開始した。
「ヒィイイイヤッハアアアアアーーーー!!!」

●突撃する者
 船内から声が上がる船内。
「覚悟は良いかな?」
 冥人はエージェント達に向かってほほ笑んだ。
 恐怖と不安で体を震わせる者。
 どうすれば倒せるか、と戦略を練る者。
 獲物を見つけた猛獣の様な眼光を宿す者。
 そんなエージェント達の答えは一つしかない。
「はい、準備は出来ています!」
 と、返事をするが数えきれない程の従魔、空が見えない程の霧を見て不安が胸を押しつぶしてくる。
「君達が相手をするのはヴォジャッグのみ。安心して、テレサ達が従魔達を引き付けてくれるよ」
 冥人は霧を見つめる。
「大丈夫、向こうは向こうで、やるよ。テレサ君達を信じて」
 弩 静華(az0039hero001)はエージェント達を見つめた。
「皆、厳しい戦いにはなるよ。能力者達、英雄達……俺達は道具ではない、生き残れ!」
 エージェント達はALブーツで海の上に立つ。。
 相手は幾度かエージェント達と剣を交わえた愚神ヴォジャッグだ。
 震える体を抑える。
「……不安、でも、信じる」
 潮を含んだ風が静華の頬を撫でる。
「ヴォジャッグ撃退に向かう!」
 冥人の合図と共にエージェント達は闇色にそまりつつある海の上をALブーツで走りだした。

 勇敢な突撃者よ。
 無謀は突撃とならん事を……

解説

【はじめに】
 こちらは藤たくみMSのシナリオ『【東嵐】ラストスタンドヒーロー』と相互に影響を及ぼし得ますが、処理上は独立したシナリオとしてプレイングを取り扱います。
 他のシナリオ参加者との連携は無効となりますのでご注意ください。

【目的】
 ヴォジャックの撃退

【状況】
 小笠原諸島沖、日中。
 最初の交戦地点は大小の岩礁が点在する浅瀬。
 前方は島々、後方にH.O.P.E.船団。
 霧のドロップゾーンにより視界悪し。
 もう一方の状況次第ではヴォジャッグに援軍が現れます。

【敵情報】
・ヴォジャッグ(水上バイクに騎乗)
 トリブヌス級と想定。
 筋骨隆々の大男。武器は斧。モヒカンヘッドが自慢。
 物理特化のパワーファイター型。
 ライヴスを吹き込み魔改造した水上バイクに乗っており、凄まじい機動力を有する。
(PL情報:バイクが破壊された場合、1~2ターン消費してバイクを復活させる)
・ロードキラー
 パッシブ。
 バイクによる暴走移動。ヴォジャッグが移動するスクエア上の対象に攻撃判定が発生すると共に、命中した対象を1d4スクエア後退させる。
・クリメイトダート
 アクティブ。
 広範囲への火炎攻撃。命中対象へ減退(2)付与。
・アックスキッス
 アクティブ。
 スクエアを貫通する直線攻撃。攻撃判定を二度行う。
・グラップルボム
 パッシブ。
「クリメイトダート」以外の攻撃・スキルが命中時、命中した対象を中心とした範囲(1)内の対象(ヴォジャッグ以外)へ2d6ダメージ。また、回避を行う対象に回避時ペナルティを付与。

【冥人】
 静華が後方から援護射撃。
 戦況次第では冥人で前衛に出ます。
 指示があればそちらを優先に従います。

【その他】
・海上戦につきALブーツ必須
・重体・死亡の可能性あり

※今回の霧のドロップゾーンは人間に対する支配が不完全です。支配されないものとお考えください。

リプレイ

●往け
 浅瀬を霧が覆う中。
 ヴォジャッグは改造した水上バイクに跨り、陽気な声を上げながら水上バイクのアクセルを全開にする。

 その頃、エージェント達もまたALブーツを履き視界の悪い浅瀬を慎重に進む。
「繋がるかな?」
 餅 望月(aa0843)はライヴス通信機に向けて言う。
『良好』
 と、ライヴス通信機から圓 冥人(az0039)の明るい声がした。
「ライヴス通信機は使えるね」
 百薬(aa0843hero001)は冥人の声を聞いて望月を見る。
「うん」
 望月は浅瀬に漂う霧をアメシストの様な瞳で見た。
「あれを逃す手はない。恐れるなよ、征四郎」
 ガルー・A・A(aa0076hero001)は桃色の瞳で能力者を見る。
「勿論なのですよ。……覚悟は、ここにあるのです」
 と、紫の髪を潮風に靡かせながら紫 征四郎(aa0076)は浅瀬の上を走る。
 浅瀬を覆う霧で視界が悪いが、ライヴスゴーグルのお陰で他のエージェント達よりも先が見える。
「今から緊張してるとすぐにバテるぞ」
 震える拳を握りしめているアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)にマルコ・マカーリオ(aa0121hero001)は青い瞳で見る。
「解ってるよ。マルコさんこそ、相手がモヒカンだからやる気出ないなんて事ないよね?」
 アンジェリカは赤い瞳でマルコを見上げた。
「馬鹿な事を」
 マルコは肩を竦めた。
「たぶんボクの事なんて覚えてないだろうけど……」
「まあ、一戦だけだしね」
 イリス・レイバルド(aa0124)の言葉にアイリス(aa0124hero001)は苦笑する。
「トドメを刺せたら一等賞だからだいじょうぶだよ、お姉ちゃん」
 イリスは青い瞳を細め、金のツインテールをふわっと手の甲で撫でる。
「過去のデータは揃っているが、侮るなよ。間違いなく強敵だ」
 そんなイリスとは対照に、アイリスは冷静な口調で言う。
「でもお姉ちゃんがいるから頑張れる!」
「ああ、頑張りたまえよ」
 アイリスはイリスの言葉を聞いて力強く頷いた。
「いい加減見飽きたよね」
 志賀谷 京子(aa0150)はヴォジャッグの声を聞いてため息を吐く。
「とびきり下品な顔ですしね」
 アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)はヴォジャッグの顔を思い出し顔をしかめる。
「言うじゃない? じゃあ、今回で終わりにしようか。行くよ!」
 京子は手の甲で髪をかき上げ口元を吊り上げ浅瀬を駆け抜ける。

「テレサ達、大丈夫かな。すごい数の従魔だけど」
 大宮 朝霞(aa0476)はテレサ・バートレット(az0030)が居るであろう後方に視線を向けた。
 霧によりテレサ達の戦況は見えない。
「他人の心配とは余裕じゃないか、朝霞。まぁ、マイリンも付いてるんだ。大丈夫だろう」
 ニクノイーサ(aa0476hero001)は口元を吊り上げ微笑んだ。
「そうね。私は私のできる事をやる。ヴォジャッグをモヒッってカーン☆してやるわ!」
「……よくわからないが、その意気だ」
 力強く拳を振り上げ声を上げる朝霞にニクノイーサは「モヒッってカーン☆」という謎の単語を一瞬考えたが、軽く首を横に振り頷いた。
「いくわよ、ニック。変身(共鳴)よ!」
「恥ずかしいという感覚がマヒしてきた自分が怖いぜ……」
 朝霞の言葉を聞いてニクノイーサはため息を吐く。
「ふふっ、ニックもようやくわかってきたわね! 変身! ミラクル☆トランスフォーム!!」
 共鳴状態の姿『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』に変身した朝霞はポーズを決めた。
「じゃーん!ウラワンダー・セイレーンモードよ!」
「水上活動用のALブーツか。朝霞、慣熟はしたのか?」
 ニクノイーサは足元を見る。
「そんな暇はない! 大丈夫、なんとかなるわ!」
 と、朝霞は明るい声で言った。
「ぶっつけ本番か」
 ニクノイーサは眉をひそめた。
「相変わらずしぶといモヒカンだね。今度こそ引導を渡すんだから!」
 桜木 黒絵(aa0722)は猫耳をぴこっと動かし尻尾をピーンと伸ばした。
「向こうの状況次第では援軍の可能性も考慮しないといけないけど、まずは目の前の敵に集中だ」
 シウ ベルアート(aa0722hero001)の言葉に黒絵は頷く。
 ヴォジャッグと二度戦った、二度逃げられた。
「絶対に終わらせる」
 木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は同時に声を上げた。
 エージェント達の手には各々が準備出来る光源が握られていた。
 霧の中で位置を確認する為だ。
「2~3人のチームで行動、そしてヴォジャッグを逃がさないために囲うよ」
 リュカは作戦を仲間に聞こえる様に声を上げ指示をする。

「こちらへ真っ直ぐ向かって来ています」
 ヴォジャッグらしき影が見えた征四郎はスマートフォンで仲間に伝える。
 イリスはライオットシールドを握りしめた。
 足止めとしてイリスと征四郎はそのまま真っ直ぐにヴォジャッグに向かって走る。
「ヒャアアアアアハッアアアアアー!」
 ぶぉんぶぉんと水上バイクのエンジンを鳴らしながらヴォジャッグは速度を落とさず、イリスと征四郎に向かって突撃する。
「小細工無用! 真っ向勝負!!」
 イリスは盾を構えた。
 改造された水上バイクの縁と盾がぶつかる金属音が響く。
「くっ!」
 脚に力を入れ、踏んばるが……慣れない水上戦なのだろうかイリスは水飛沫を上げながら後退した。
 征四郎は水上バイクをギリギリで回避し、岩礁にALB「セイレーン」のつま先を引っ掛けようとするがヴォジャッグがぶんぶんと片手で振りまわす斧に当たる。
「させない!」
 黒絵はライヴスガンセイバーでヴォジャッグの斧を撃つ。
「邪魔だぁぁぁぁ! ヒャアアアハッアアアー!」
 ヴォジャッグはやや甲高い声を上げながら水上バイクを反転させ、黒絵に向かって走り出す。
(まずは、水上バイクを壊さないとっ!)
 経典はバラバラになり黒絵の周囲に舞う。
 ヴォジャッグが近づいてくると、バラバラの経典から白く輝く光が次々と放たれる……もちろん、狙いは水上バイクだ。
 光が水上バイクのパーツに当たる度に破片が海の中へと落ちる。
「ボクのターン!!」
 イリスはヴォジャッグの横に回りアロンダイトを水上バイクに向けて振り下した。
 しかし、ヴォジャッグは持っている斧でアロンダイトを弾いた。
「くっそ、霧の意味ねーじゃねぇか!」
 ヴォジャッグは舌打ちをし、水上バイクを反転させ距離を取ろうと走り出した。
 だが、ヴォジャッグが進もうとした先には……
「やはり生きていたか」
 ヴォジャッグの前に現れたナラカ(aa0098hero001)は呟いた。
「端から死んだとも思っていなかったが、良くもまあ、生きていたものだ」
 八朔 カゲリ(aa0098)は呆れた表情でヴォジャッグにティルヴィングの切っ先を向けた。
「海の旅は如何であったかね、楽しかったか? ああ、楽しかったであろうな。故に此度も沈めてやろう。いやさ、此度は奈落にでも行くが良い」
 ヴォジャッグが口を開こうとした瞬間、カゲリは水上バイクにティルヴィングを振り下ろす。
 ぶぉん、とエンジンが唸ると水上バイクは反転し、その反動で海水が飛沫を上げる。
「ぶっ!」
「ざまぁねぇな!」
 カゲリの顔に海水が当たり、それを見てヴォジャッグは笑い声を上げた。
 すると、破裂音が響くとヴォジャッグの水上バイクから黒い煙が上がる。
「丸見えだよ」
 リュカが弱点看破を使いスナイパーライフルで水上バイクのエンジンを狙撃したのだ。
「くっそ!」
 ヴォジャッグは岩礁の上に立ち、黒い煙が出てる部分のカバーを外し修理し出した。
「出やがったな扇子頭! ……えーっと……名前忘れちまった!!」
 肩にフルンティングを担いだ東海林聖(aa0203)が声を上げるが、最後の一言で黒絵はお笑い芸人の様にコケる。
「名前くらい覚えなさいよ!」
「つぅか、幾度か戦って来たが……なんか覚えられねェんだよな……! この変人野郎はッ!!」
 と、黒絵のツッコミに聖は頭をかきながら大声で言う。
(……変な頭なのは同意だけど……あ、愉快かな……)
 Le..は潮風で靡くヴォジャッグのモヒカンに視線を向けた。
『発音しにくい、と言うか横文字だからじゃないの?』
 ライヴス通信機から冥人の声がした。
「そうそう」
「って、のんきにそんな話をしている場合じゃないよ!」
 ボケとボケが会話している中、黒絵はツッコミを入れる。
(こんな時に……)
 と、思い黒絵はため息を吐いた。
(……ヒジリー……あんまり密集しない様に、でも……抜け道は与えないから、ね……)
「わーってるよ」
 Le..(aa0203hero001)の言葉に聖は答える。
「うりゃぁぁぁ!」
 聖はヴォジャッグの背に向かってフルンティングを振り下ろす、が――
 斧で受け止められてしまう。
「いいかげんその似合わないモヒカンどうにかしたら? いっそスキンヘッドの方がすっきりしていいんじゃないかな? よければ剃ってあげるよ!」
 と、聖の横からエクスキューショナーの先が通り過ぎ、ヴォジャッグのモヒカンに刺さる。
「な、何をしやがるーっ!」
 ヴォジャッグはモヒカンを片手で押さえながら声を上げた。
「中途半端だから、綺麗なスキンヘッドにしてあげるよ」
 アンジェリカはエクスキューショナーでモヒカンをグイグイ引っ張る。
『あー、女の子ってそう言うよねぇ……』
 ライヴス通信機から冥人の呆れた様子の声が聞こえた。

「真っ向勝負の仲間を活かすには搦手も必要ですから」
 京子はそう言うと腕輪から生成された光の弾をヴォジャッグに向けて射出する。
 光の弾はヴォジャッグの体に吸い込まれるように当たる。
「あれ?」
 アンジェリカは首を傾げた。
 軽い、先ほどまでヴォジャッグのモヒカンが引っ掛かってる手応えがあった。
「どうしたんだ?」
「マルコさん……コレ……」
 アンジェリカはエクスキューショナーの先に付いていた金色のモノを見る。
「もしかして、付けモヒカン……?」
 聖は金色のモノを触ると、さらりとした絹糸の様な感触がした。
「ぶふっ!」
 望月が盛大に噴き出す。
「付けモヒカン、ダサイですね」
 京子は口元に手を当てて声を上げた。
「頭がさっぱりしたね」
 ヴォジャッグのゴーグルだけになった頭を見てアンジェリカは満足げに頷く。
 心なしかヴォジャッグの肩が震えている気がする。
 普通に戦っては勝てない、それはヴォジャッグと戦ってきたエージェント達の経験から得た情報だ。
「バイクを新調すればさんざん転倒(コケ)た実績がなくなるとでも思ってるの?」
 イリスはクスクスと笑いながらヴォジャッグの頭を凝視する。
「なんだか個性が無くなったよね」
 百薬は先ほどのヴォジャッグを思い出しながら言う。
「うーん、ただのハゲたおじさん?」
 望月は首を傾げる。
「いいね、敵であれ足掻く人はお兄さん嫌いじゃないよ」
 リュカがうんうんと頷く。
「何度でも沈めるがな」
 オリヴィエはヴォジャッグに向かって冷たく言い放つ。
「今日は手下はいないけどだいじょうぶ? 泣いてない? 膝笑ってない? ストレスでモヒカン散らすなよ、みっともないから……あ、既に無かった」
 修理しているヴォジャッグの真後ろでイリスが盾越しに言う。
 徐々にダルマの様に赤くなっていくヴォジャッグの寂しい頭部。
「ねぇ、今どんな気持ち? ねぇ、ねぇ!」
「だー! もう我慢出来ねぇ! テメェら! モヒカン返せ! そして海に沈めてやらぁ!」
 ヴォジャッグは立ち上がり斧を振り上げた。
「やれるもんならやってみろ!」
 聖はニッと口元を吊り上げた。

●怒りのヴォジャッグ
「この霧の中じゃぁ、テメェ等なんか怖くねーぜ!」
 ヴォジャッグはブンッ、と水上バイクのエンジンを鳴らした。
 すると、エージェント達の周りに炎が唸り声を上げながら燃え上がった。
「あっちっ! あっちっ!」
 火炎が体に絡み焼きつくそうと炎は天に向かって伸びる。
「あのモヒカンにまとめて轢かれるのは、勘弁してほしいもの」
 と、京子はエンジン音を耳にした瞬間、素早くヴォジャッグから距離を取った。
 他のエージェント達はギリギリ範囲外で軽度の火傷で済んだが、ヴォジャッグの真後ろにいたイリスは喰らってしまったのだ。
 クリメイトダートでエージェント達の気が反れた瞬間。
「1人づつ、確実になぁーっ!」
 と、笑い声を上げながらヴォジャッグは水上バイクに乗りその場から離れた。

「岩礁が多い。朝霞、気を付けろよ」
 浅瀬を見回しニクノイーサは言う。
「これだけ障害物があれば、水上バイクは動きづらいハズ。岩礁の位置をみてヴォジャッグの進路を予測、攻撃するわよ!」
 明々と光る霧へ向かって朝霞は走る。
 ブォォンと、水上バイクのエンジン音が鼓膜に響く。
「来なさいっ!」
 朝霞はドラゴンスレイヤーを鞘から出し声を上げた。
「この、イライラをテメェにぶつけてやらぁぁぁ!」
 頭にモヒカンを付け直したヴォジャッグは、京子に向けて水上バイクを走らせる。
「バイクじゃないと戦えないのでしょうか?」
 朝霞は満面の笑みを浮かべながら言う。
 イラッ、とヴォジャッグの胸に込み上げてくる衝動。
「勝てりゃ、良いんだよ! ヒャアアアアハッアアアアア!!」
 ヴォジャッグは舌舐めずりをし水上バイクのアクセルを全開にした。
 しかし、ヴォジャッグは気づいていない……朝霞の罠に掛った事を……
「それは、どうでしょう?」
 と、朝霞は微笑みながらゆっくりと後退する。
 事前に京子から作戦を聞いた征四郎は、少し離れた位置からヴォジャッグを追う。
「待ちやがれ!」
 威勢の良い声に反してヴォジャッグの水上バイクはピンボールの様に左右にガンッガンッぶつかる。
「岩がじゃまだぁぁぁ!」
 と、ヴォジャッグは声を上げ斧を岩に斧を振り下し砕いた。
 その瞬間――
「ウラワンダー☆斬りぃーっ!!」
 朝霞は技名を叫びながら、ヴォジャッグのハンドルを握っている手に目掛けてドラゴンスレイヤーを振り下ろす。
「技名はもう少し考えろ……」
 何度聞いてるニクノイーサは呆れた声色で言った。
「いってぇぇぇ!」
 切られた手を腹部に隠しながらヴォジャッグは叫んだ。
「まだまだ!」
 黒絵はライヴスの蝶をヴォジャッグに向けて飛ばす。
「こんなっ! ものっ!」
 ヴォジャッグは斧を振るいライヴスの蝶を叩き落そうと試みる。
「燃えちまえ! ヒャァッハァァァァァァ!」
「早く離れるのです!」
 征四郎は落ち着いた声色で指示を出す。
 黒絵と朝霞は素早く後退する。
「クリメイトダート!」
 ヴォジャッグの周囲に火炎が上がり、ひらひらと舞うライヴスの蝶に纏わりつこうと炎は揺らめく。
「貴様に私が見るべき輝きなど一片もない」
 ナカラは炎で位置が丸見えのヴォジャッグを見る。
「生ずるとも思えぬ。屑は屑のまま、屑として散るが良い」
「そして如何やら恥も知らないらしい。いや、元より期待もしていないが。……有利な状態だったハズのお前は負けたって事を忘れるなよ。何度死に掛けても屑は屑の儘だな?」
 カゲリはホルスターからPride of foolsという二挺拳銃を引き抜く。
「――聖、志賀谷、征くぞ」
「おう!」
「はいっ!」
 カゲリの言葉に聖と京子は力強く答えた。
 終わらせる、この醜い……いや、卑怯な戦い方しかしない愚かな神。
 愚神ヴォジャッグを倒す――
 聖を先頭にし、その後ろからカゲリと京子が並んでついて行く。
(ミイラ取りがミイラになったの)
 塩を含んだ独特の香りが京子の鼻に付く。

「ボクの羽が焦げたよ……」
 イリスは唇を尖らせながら羽を見る。
「一家に一人、天使の癒し」
 望月はイリスにクリアレイで清めてからケアレイで傷を癒す。
「絶対にあの付けモヒカン野郎を魚のエサにしてやる!」
『動けない、とかあるか?』
 スマートフォンから冥人の声がする。
「全然、元気だよ!」
『いざとなったら呼べよな』
 イリスの返答を聞いた冥人は笑いながら言う。
「船の方からはヴォジャッグの様子は見える?」
 リュカは問う。
『馬鹿なのか……何なのか、炎の明かりで位置が分かる程度だね。絶好の狙撃チャンスだよ』
「まだ、こっちからは見えないので位置を教えてよ。俺達の位置はここだよ」
 リュカはスマートフォンのライトを頭上に掲げた。

「見えるよ。了解」
 冥人は光る位置を見てライヴス通信機で返答する。
「……」
「不安?」
 冥人の問いに弩 静華(az0039hero001)は首を振った。

「ふふふ、存在感だけで勝負」
 百薬はスナイパーライフスのスコープを覗き口元を吊り上げた。
 今の状況ならば負ける気がしない、と百薬は思った。
 そんな百薬の言葉を聞いて望月は、彼女の強気なところが”頼もしい”と思った。
 炎が揺れる先に影が見える。
 まずは、ゆっくりとヴォジャッグらしき影を探す。
「その、モヒカンが目立ち過ぎる的だよ」
 百薬はスナイパーライフルのトリガーをゆっくりと引く。
 発砲音と共に硝煙と銃弾が射出される。
 弾はモヒカンの影、ヴォジャッグの体に真っ直ぐに飛ぶ。

「セイちゃん!」
 黒絵に名前を呼ばれた征四郎は小さく頷く。
 征四郎はライヴスフィールドを展開させた。
「その炎を利用させてもらうよ」
 と、黒絵はヘカテーの杖を両手で握る。
 ヴォジャッグの周囲に青い炎が生まれ、ゆらゆらと揺れながら徐々に大きくなる。
「燃えちゃいなさいよ!」
 ライヴスで出来た青い炎は破裂しヴォジャッグを呑みこむ。
「うぉ! クリエイトダートが熱い! 何故だ!?」
 困惑した様子でヴォジャッグは、まるで黒絵に踊らされているかの様にダンダンとステップを踏む。
 ライヴスフィールドの影響もあり、ブルームフレアがヴォジャッグの体に絡まり徐々に体力を奪う。
「何か、日本のお祭りで踊るヤツに似ているよね」
 シウは炎の隙間から見えるヴォジャッグを見て言う。
『あ! 阿波踊りみたいだよね!』
 スマートフォンから望月の明るい声がする。
『え? ヴォジャッグが阿波踊りしてるの? 見たい』
 冥人の楽しげな声がスマートフォンからした。
「待ちなさい、その話はヴォジャッグを倒してからしてあげるからね」
 黒絵は額に手を当て呆れた表情で言う。
『楽しみにしているよ』
 と、楽しげに言う冥人の言葉を聞いて黒絵はため息を吐いた。

●不屈の心
 クリエイトダートの炎が消えた頃。
「手間取らせやがって!」
 と、ヴォジャッグはイライラした様子で水上バイクのシートにドスッと腰を下ろす。
 水飛沫を上げながら聖がヴォジャッグに向かって走る。
「食らいやがれッ!!」
 聖は水上バイクを巻き込むように電光石火で攻撃をする。
「ぐっ……」
 ヴォジャッグは斧で防ごうとするが、聖の見えない程の速さで繰り出される攻撃で上半身にピッと赤い線が増える。
「驚いてもらおうかな、ただの曲芸と思わないでね」
 京子は15式自動歩槍「小龍」の銃口をヴォジャッグに向け、トリガーを引くが銃口からは弾が出てこない。
「ぐっ!」
 ヴォジャッグの脇腹から赤い線がツーと肌を伝う。
 テレポートショットだ。
 聖の攻撃に集中している今なら死角は出来る、と思い京子は撃ったのだ。
『聖、引け!』
 スマートフォンからカゲリの声を聞いて、聖は素早く後退した。
「へっ、大した事……」
 後退する聖を見てヴォジャッグは鼻で笑う。
「甘いな」
 カゲリは二挺拳銃の引き金を引く。
 発砲音と共に二つの銃口からライヴスの弾が射出された。
 ボロボロのヴォジャッグは”弾く”事より”防ぐ”ために斧の刃を盾代わりにした。
「ぐあぁぁぁぁ!」
 斧の刃に当たったライヴスの弾は爆発し、その威力でヴォジャッグの斧は柄だけを残して破壊された。
 ライヴスショットが当たった事により、ヴォジャッグの周辺に余波ダメージが当たる。
「ぐっ!」
 水上バイクにしがみつくヴォジャッグだが、改造パーツがパキパキと音を立てる。
 リンクコントロールでリンクレートを上げた状態の攻撃だ。
 通常のリンクレートよりも強い爆発が起こり、余波ダメージは改造された水上バイクのパーツをボロボロにしていく。
「お、俺の……バイクがぁぁぁ!」
 改造パーツにヒビが入り、水上バイクから剥がれて海の中へと沈んでいく。

「ほら、こっちを向いてよ狼さん。一緒に踊ってくれてもいいんだよ?」
 リュカはスナイパーライフルの銃口から跳弾を発射する。
 チュンッと音を立て弾は跳ぶ。
 ヴォジャッグは跳弾を目で追おうとするが見失う。
「がはっ! クソッ!」
 ヴォジャッグはボロボロの腕を振り上げ、水上バイクがドンッと壊れない程度に腕を振り下ろした。
「これ以上、手間を掛けさせないでくれるでしょうか?」
 アリッサは15式自動歩槍「小龍」で素早くヴォジャッグを撃つ。
「これ以上はその醜い姿を見たくないんだよね」
 と、イリスはアロンダイトにライヴスを纏わせ横一閃。
「……へっ! そんな攻撃じゃ、俺を倒せないぜ!」
 脇腹に走る激痛で顔を歪ませながらヴォジャッグは大声で言う。
 しかし、エージェント達から見たらヴォジャッグにそんな余力が無いのが分かる。
 だがヴォジャッグはトリブヌス級の愚神、そう見えるだけであって実は……というのも可能性はある。
「そんな安い挑発には乗らないぜ」
 マルコが口元を吊り上げる。
 油断は禁物、リュカは離れた位置からヴォジャッグを観察する。
 些細な動きを見逃さないように、狩りをする猫科の猛獣の様に静かに息を潜める。
「あんだとぉ!?」
 ヴォジャッグが大きく吠え、手に持っている斧を振るう。
 しかし、カゲリが横からヴォジャッグに突っ込んできた。
「そうは、させないっ!」
 ライヴスを纏ったティルヴィングを斧に向けて突き刺す。
 ピキッと音がし、斧の刃の部分にヒビが入る。
「なっ!?」
 そして、ヴォジャッグの驚きの声と共に斧の刃はバラバラになり海に吸い込まれるように落ちた。
 武器が無くなったヴォジャッグは、金棒を持ってないひ弱な鬼にしか見えない今がチャンスだ。
「もう、逃げ場はないです」
 征四郎は冷やかな目でヴォジャッグを見る。
 エージェント達はヴォジャッグから距離は保ちつつ囲う。
「絶対に逃がさないっ」
 望月はトリアイナの柄を握りしめ、うな垂れているヴォジャッグ向かって走る。
 これで、ヴォジャッグが倒せる高揚感と達成感を感じながら征四郎もライオンハートを振り上げた。

(もしも……もしも、負けそうになったらコレを使え)
 ヴォジャッグの脳裏に愚神商人の言葉がよぎる。
 ズボンのポケットに手を入れる。
 指先に感じるのは、愚神商人から水上バイクと共に渡された小さなボタンが付いたオモチャ。
(使わせてもらうぜぇ!)
 ヴォジャッグはボタンを躊躇わずに押す。
 すると――
 水上バイクから眩しい程の閃光が発せられた。
 スッ、と閃光が消えた瞬間。
 派手な爆破音が浅瀬に響き、同時に爆風が起きた。
「なっ!?」
 エージェント達は驚きの声を上げ、予想もしなかった爆発に驚き後退した。
 征四郎は安全を確かめてからライヴスゴーグルで周囲を見渡すが、ヴォジャッグの姿は見えない。
「くそっ!」
 聖は岩礁を蹴った。
「近くを探すよ!」
 リュカは声を上げ仲間に指示をする。
「もし、海中に逃げられたら……っ!」
 アンジェリカはギリィと口を噛む。

 煙に紛れ海へ逃げたヴォジャッグは、もしもの時に海中に潜ませていた部下達に手を引かれていた。
(潜ませておいて正解だったな)
 泳ぎが得意な部下を選んでおいたのだ。
 先ほどまで海の中まで響いていたエージェント達の声はもう聞こえない。
 静かな海中、後は部下達に任せてヴォジャッグは目を閉じた。

「見つかりましたか?」
「いいえ……」
 黒絵の問いに朝霞は首を振る。
『うーん、船の上から探しているけど視界が悪いから見えないよ』
 スマートフォンからリュカの声がする。
「また、海に逃げた可能性もありえるよ……」
 前に同じような方法で逃げられた経験があるイリスは言う。
「でも、もしかしたら……」
 近くに居るかもしれない、という気持ちがまだある京子は呟く。
「あ……」
 アンジェリカは空を見上げながら声を小さく上げた。
 鉛色の空が徐々に見なれた青色に戻る。
 霧が晴れ、浅瀬が太陽の光でキラキラと輝く。
 そんな中、改造されたバイクの残骸が岩礁の上に幾つか残っていた。
 バトルメディックのケアレイで治せる範囲の怪我しか負わなかったのは、何度かヴォジャッグと対峙した事があるエージェント達のおかげだ。
 エージェント達はまたヴォジャッグに逃げれ、悔しそうに叫ぶ者や、悔しさをそっと胸の中で叫ぶ者……
 しかし、この経験を元にまた現れた時には倒せる! いや、絶対に倒す! と力強く口にしながら、霧が晴れて美しい小笠原諸島を見つめた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
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