本部

梅の木を伐採する簡単なお仕事です

星くもゆき

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~12人
英雄
8人 / 0~12人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/03/31 12:45

掲示板

オープニング

●梅見頃

 運送トラックを運転する男は、目の前の不思議なモノに目を丸くして、車を止める。信号もないところで止まったために後続車からはクラクションの嵐。道を急ぐ者たちからは大ブーイングだ。
 だが進めない理由がある。
「なんだ、ありゃ……こんなところに何で?」

 公園で遊んでいた子供は、突然起きたことに驚きを隠せない。数秒前まで砂場で遊んでいたはずが、何かにその場を占領された。周りにいた多くの者たちが言葉を失うような何かに。
「……おっきい」

 オフィス街を歩くサラリーマンたちのもとにも、それはやってきた。
 何気なく歩を進めていたところに、頭上から舞い降りるものがある。断続的にひらひらと、風の中を降りていく。
 何事かと思い顔を上に向けると、あったのだ。
「……梅の木?」


 車が絶え間なく走り続ける道路に、子供たちが楽しそうに遊んでいた砂場に、オフィスビルの壁面から水平に、梅の木が花を咲かせて、生えていた。


●伐採してきてね

「梅の木が街中の至るところに現れました。プリセンサーが感知しており、従魔による仕業だということがわかっています。道路等に出てきた木もあり、仕事や生活に支障を来すものになってきているので、皆さんで伐採してきて下さい」
 集まったエージェントに向け、オペレーターは伐採と言う。木を切るだけで大丈夫なのだろうか。その従魔とやらを排除したほうが良いのでは。
「従魔の位置がわからないので直接叩く術がありません。ですがプリセンサーによると、この従魔は本能的に梅の木を増殖させたがっているそうです。現在は梅の木が充分に増えたことで活動を停止していますが、皆さんが木を減らしてくれれば再び増やそうとしてライヴスを消費します。知能はないので、自分のライヴスが尽きるまで梅の木を増やし続けるみたいです。つまり従魔が消えるまで梅の木を壊し続ければ事件解決なんですよ」
 知能の低い従魔の悲しい性、なのだろう。エージェントたちはとりあえず納得する。とにかく街中の梅の木を切りまくればいいという簡単なお仕事ということらしい。
「梅の季節ですからねー。梅見も楽しめて一石二鳥ですね!」
 オペレーターの緊張感のなさが、気楽な任務であることの証明である。

解説

■目的
どこかにいる親従魔が消えるまで、梅の木を伐採し続けること

■標的
街中の梅の木×たくさん
どこかにいる従魔のライヴスが尽きるまで伐採することになります。
従魔は遠距離から木を作ることができるので、直接倒すことはできません。
伐採と言っても切らなければならないわけではなく、ダメージを与えれば木は破壊できます。
雰囲気重視なら斧とかピッタリでしょう。
OPのようにビルの壁面についているものもあるので、遠距離攻撃が必要になる場合もあります。
実際に根を張って生えているわけではありません。その場に乗って固定されている状態とお考え下さい。
梅の木はライヴスで出来ているので、破壊した後は霧散します。

■場所
街のある一帯。
歩道、道路、公園、モール、オフィス街、様々な場所にあります。
モールやオフィス街、建造物の多い場所には、壁から水平にor天井から逆さまに生えている木が多いです。
道路には、身動きの取れなくなった車が多くいます。早めに解消してあげたほうが良いでしょう。

■状況
梅の木が増殖しているエリア近くまで運んでもらったところからスタートです。
怪我人等も出ておらず、危険性が低いということで住民の避難はされていません。
むしろ梅見しながら昼間から酒を飲んでる人とかいるかもしれません。
梅の木が増えなくなれば、倒したということです。

見た目だけは立派な梅の木を観賞しながら、バサバサやっちゃって下さい。

リプレイ

●梅だよ。梅がたくさん。

「うわー。ホントに梅ね」
 町中を埋め尽くす、白梅やら紅梅やら。見た目は壮麗だが、人々の経済活動や日常生活に及ぼす被害は大きい。鬼灯 佐千子(aa2526)もその辺りの事情は理解しているがセリフに緊張感はない。
「ほう、路面だろうが壁面だろうがお構いなしだな。大した根性だ」
「雑草根性って言ってもいいのかしらね、こういう場合も」
 リタ(aa2526hero001)と一緒に頷き、梅のど根性に感服の意を表する佐千子。
「ジロー! すっごく綺麗だよ! これ、切っちゃうの?」
「まぁな。色々と支障も出ているようだしな」
 梅の木をぺたぺたと叩きながら、小狼(aa3793hero001)が武 仁狼(aa3793)を見上げた。仁狼は特に取り合わず。
「綺麗……だけど、任務だからきちんとお仕事しないとね」
「お花……サーヤ、お花見……」
 傍では九十九 サヤ(aa0057)が一花 美鶴(aa0057hero001)の腕を引っ張って伐採活動へ向かう。
「僕はばっさばっさと行っくよー!」
 サヤたちと対照的にテンションバリ高なのはグラディス(aa2835hero001)だ。
「なんかすげぇ機嫌いいな……」
 相方の秋原 仁希(aa2835)は彼女の異様なテンションに若干の不安を感じている。
「俺たちも負けてはいられない。切りまくるぞ、凱」
「何で対抗意識を燃やすんだよ」
 無駄に腕まくりを済ませた礼野 智美(aa0406hero001)に肩に手を置かれ、中城 凱(aa0406)は彼女の男勝りな負けん気に呆れる。
「ユキミチ、全部の木を取られないうちにあなたも積極的にお仕事するのよ」
「うーん……従魔とはいえ梅の木の伐採かぁ……僕らよりも庭師さんにお願いしたほうが良かったんじゃないかな、リリィ? あ、でもAGWじゃないとダメだから……リンカーの庭師さんかな?」
 都築 幸道(aa2350)は呑気な物言い。だがリリィドール(aa2350hero001)は密かな企みを持って今回の依頼に参加していた。
「庭師なんて、そうそう都合の良いヒトいるわけないじゃないの。別に日本庭園を造るわけでなし、とにかく切ればいいのだから専門知識がなくても大丈夫。さあさあ、お仕事なんだからしっかり働くわよ」
 大人しく従うように言い含めて幸道の背中を押し、リリィは近くに生えている梅の木をちらりと見やる。
(「それに……重要なのはコレが動かないということ。今後のためにユキミチの戦闘訓練の代わりにちょうどいいわ」)
 リリィが一瞥した梅の木の裏では、符綱 寒凪(aa2702)が万感の思いを込めてその木を撫でていた。
「ついに、伐採技巧検定に合格した私の実力が発揮される依頼が……」
 じーんと感じ入った彼の目尻からは一筋の涙が流れる。
「楽しめそうだな!」
 厳冬(aa2702hero001)は平常運転である。というか異常増殖した梅の木が並ぶ中、ガスマスクの男って何かヤバそう。
「なぜか心惹かれて購入してしまったコイツに出番が来るなんてね……!」
 自前のチェーンソー(AGW)に頬をすりつけて、寒凪は訪れた偶然の機会に感謝する。
「こんなに生き生きしてる凪を見るのは久しぶりだな~」
「忘れたのかい厳冬……先日のあの事件を……」
「悲しい事件だったな~」
 何事かあったのか、2人はしばし無言でその事件をふり返ってため息。
「まずは状況把握ね。どういう風に梅の木が発生しているのか見ていきましょう」
「わかりました」
 騒動の効率的な解決を図るユキメ・フローズン(aa0486)の言を受けると、ライラ・アトワイト(aa0486hero001)は幻想蝶からノートパソコンを取り出し、画面に現場付近の地図を表示した。

●楽しい伐採

 兎にも角にも優先されるは車両の通行止めの解消だ。
 凱たちが降り立った道路では、停まった車両の間に何本もの梅の木が生え、誰もが身動き取れない状況にあった。
(「見事な梅の木だが……サクサク倒すか」)
「なぁ、これって放置しておいたらどうなるんだろうな」
 咲き誇る梅の花々の下で、共鳴中の凱がふと気になっていたことを呟く。
(「花梅みたいだが……最悪、実がなって落下ダメージで人を攻撃するとかになりそうだな」)
 智美は仮定の先を想像し、言葉を続ける。
(「とりあえずこれらは解消しよう。車に乗っていると攻撃性の増す人って結構いるし、流通が滞るのは困るしな」)
「だから英雄のくせに何でそんな社会に適応してるんだ、お前……」
(「気にするな」)
 現代社会を知り尽くした女、智美は話をそこで切り上げる。さっさと伐採しろということだ。
 取り出した武器は、なぜか鉞。純然たる鉞。
「……何で鉞? バトルアックスとかのほうが……」
(「すまん、多分これが一番慣れてる気がするんで……」)
 何となくそれを軽く持ち上げて肩にかつぐ。キマっている。だろうか。
 そのまま木まで歩み寄る。いくら霧散するとはいえ木が倒れる様を見れば不安がる一般人が多いだろう。現に車中の人々はこちらの行動を気にしているようだ。
「できるだけ人の多い方向に倒したくはないんだけど……」
(「木を切り倒す時なんて、大抵ある程度斧を入れた反対方向に倒れるもんだぞ」)
「だから何でそういう」
(「気にするな」)
 納得する答えが得られぬまま、凱は智美の判断に任せて、木の根元に思いっきり鉞を打ち込んでいく。

 共鳴を済ませた仁狼も、車道の渋滞解消を優先して動いていた。
 アスファルトから通常の梅の木が生えることなどないだろうが、仁狼は念のため生えている木をカッターで削ってみる。AGWでない普通のカッターで傷がつかなければライヴスの梅ということだ。
「よし、従魔の梅の木だな」
 通行止めを喰らった人たちもピリピリしていることだし、早く片付けるに越したことはない。
 目前には、人の流れなど知るものかと言わんばかりに好き好きに林立する梅の木。ただ攻撃すればいいだけの相手、気楽に臨める。
「……練習台として使わせてもらうか」
 格闘家として、エージェントとして、技を試す格好の機会は見逃せない。
「破っ!!」
 猛炎をまとう蛇矛が幹を穿ち、木は綺麗さっぱりと消滅する。リスクを有するオーガドライブだって気兼ねなく試行できるのだ。
「これはいいな!」
 車の間を縫うように動き、林冲の振り心地を堪能。スキルを使い切った後も軽快に木を倒していく。
 だが。
「しかし……この姿じゃ決まらないな……」
 小狼と共鳴した仁狼には狼の耳と尻尾がもふっと生えて、とても可愛くなってしまうのだ。彼は常にそのことで頭を悩ませている。
 乗車中の人々から痛い視線を浴びる。仁狼は自分の趣味ではないと必死に説明しつつ、梅の伐採に勤しむのだった。

 花見中の人が密集しているような梅を避けて動き、ユキメは車道に生えていた梅を優先して伐採していた。
「これで……よし、ね」
「はい、次に参りましょう」
 あらかたの除去を終えて共鳴を解くユキメ。ライラは次に向かうべき場所を確認するためにPCを開く。
「ライラ、記録もお願いするわ」
「承知しました、ユキメ様」
 画面上には探索と伐採の結果が反映されており、梅を発見した場所、伐採した場所、後回しにした場所が一目でわかるように記録されていた。全てライラの秘書としての腕前によるものだ。
「次はどこかしら?」
「梅が密集している箇所がありますので、そちらへ参りましょう」
 PCの操作を終えると、ライラは再びユキメと共鳴し、2人は梅が茂るというその場所へ急ぐ。
 到着すると、ライラが言ったとおりに路地いっぱいに密生する梅の木が待っていた。1本1本を除くのは骨が折れそうだ。
「少し、激しく行くわよ?」
(「無茶だけはしないで下さい」)
「大丈夫よ、仕事中は油断も無茶もしないわ」
(「そうでしたね」)
 小ぶりな一対の手斧を構え、ユキメの目がぎらりと光る。所狭しと並ぶ木々の中へ、ユキメは手斧を振り回しながら突っ込んでいく。一振りごとに木を断裁し、豪快に路地を切り開いた。
「あら、あんな所にも」
 路地を抜け切った先のビル、そこの壁面に横向きに生えている木を発見。ユキメは手斧を下から振り上げ、その木めがけて投げつけて切り落とした。
「アックスブーメラン……かしらね」
(「実戦では使えそうですか?」)
「さあ? 初めて試してみたのよね……」
「……初めてですか」
 動かない敵に何か試してみたいと思うのは、能力者共通の習性のようだ。

 チェーンソーをドゥルドゥル鳴らしながら街中をさまよう寒凪。怖すぎ。
 彼は被害の大きい道路には人が多く向かうだろうと考え、そういうメインステージではなくどこか変な場所に生えている梅を狙っていた。
 ふらーっと進んでいると、少々入り組んだ道に入り込み、そこに群生する梅たちを見つける。無駄技術と言われて久しい伐採技巧、それを活用する時が来た。
「測ってから方向決めて倒さなきゃなんだけど……細かいことはいっか!」
(「勝手に霧散するらしいしな!」)
 どりゃーっ。とりあえず切る。伐採よりも皆伐? それとも除伐? 細かいことはどうでもいい!
「ガンガンいこう!」
 切る。切る。切りまくる。チェーンソーの使用に飽きたら大鎌でズバズバ。大鎌も飽きたらもう拳。
 ガツン。拳を押さえて座り込む寒凪。
 だが痛みで止まることはない。だって楽しいから。再び寒凪は伐採に走る。
「こんな経験人生ですることってそんなにないだろうからね、今のうちに満喫しよう、この瞬間(とき)を!」
(「眩しすぎて一瞬後光が差した気がすっけど……気のせいだな!」)
「何を言っているんだい厳冬……私は何時でも輝いているよ!! この瞬間を!」
(「そうだったな!」)
 止まることを知らない伐採マシーン。いわゆるランナーズハイってやつ。

「梅を切っちゃうので離れていてくださーい」
 精一杯大きな声を出し、サヤが梅の木の周辺から人々を遠ざける。所構わず生える木々を前にして「よーし」と気合を入れ、グリムリーパーを持ち出してザクザクと除去する。
「よいしょ」
 高所や埃っぽい所でも背伸びしたり、手で口と鼻を覆ったりして頑張る。
 だが高すぎて届かない木も現れる。いくら腕を伸ばしても刃が届かない。
「あ、私やりますから」
「?」
 背伸びしていたサヤの背後から声をかけてきたのは佐千子だった。頭髪と瞳がリタのように赤く染まっていることから共鳴状態にあることがわかる。片手にはなぜかガラケー。
 彼女も道路は担当人数が足りるからということで他方面に足を伸ばしていた。そして興味からガラケーのカメラで梅を撮影し始めた。単純に綺麗に感じた景色から、シュールな珍風景まで。特に写真への造詣があるわけでもないので適当に、容量が一杯になるまでパシャパシャと。
 そんな撮影最中に高所の木を切ろうとするサヤを発見し、駆けつけてきたのだ。遠距離攻撃が得意なこともあり、元々そういったことを担当するつもりでいた。
「お願いします」
「任されます」
 ぺこりと頭を下げたサヤに佐千子も一礼。
 その場を彼女に託してサヤは自分に切れる木を探して仕事を再開する。
(「周囲はお花見を楽しんでいるというのに、伐採したらまた伐採」)
「美鶴ちゃん?」
(「ええ、わかってます任務ですから!」)
「わっ!?」
 美鶴の八つ当たりに引っ張られ、サヤの体が大鎌を振り回す。刃はことごとく幹を裂き、みるみる木の数を減らしていく。
 サヤの背中を見送った佐千子はライヴスガンセイバーを掲げ、真横に振って幹へ斬撃を飛ばす。梅は上下に真っ二つに裂け、一瞬で消える。
「結構楽な仕事かも」
(「まぁ脅威はないからな」)
 街を徘徊し、佐千子は近接武器が届きそうにない梅の木を重点的に処理していく。斬撃が届かなくても16式60mm携行型速射砲を持ち出して撃ち抜く。スキルも併用した彼女の仕事は高所・難所に生える梅を着実に破壊していった。
「消毒」
 密集した木立にはイグニスによる火炎を用いる。延焼の危険はないにしろ、見た目は完全に放火魔である。
(「消毒とは何だ」)
「……気分よ、気分」
 攻撃を続けていると、木は簡単に消えてくれるし何だか高揚感が湧き上がる。
「……ちょっと楽しくなってきたわ」
(「サチコ……遊ぶ前に任務を遂行しろ」)
 詳細不明の何かのキャラクターを模して木を剪定する佐千子に、共鳴下のリタが静かに声をかける。佐千子は返事をして仕事に戻るが、ガラケーでそれを撮影しておくことは忘れない。

 とにかく壊せばいいのだ、と考えない幸道は携帯端末で木の伐採方法を調べていた。梅園の画像なども検索しておく。
 リリィにより、剣が届くが切りにくい位置に生えて、幹が太いものを狙わせられる幸道。
「切りにくいなぁ……」
(「大変そうならスキルを使うのよユキミチ、すぱーんと!」)
 リリィは幸道が戦闘時に適宜行動を取れるように熱血指導。
「あれはどうするの?」
 小さいビルの壁面から生えた木を指差す幸道。剣は届きそうもない。
(「高所や遠い所にはSMGリアールを使うのよ!」)
 言われるままにSMGリアールを取り出し、幸道は高所の木を撃ち、除去完了。
 ふと彼方を見やると、梅の木が霧散する際の光が目についた。誰かが切り倒しているようで、接近してきており、やがて声が聞こえてきた。
「えーっとねー、今商店街の近くで伐採してるー!」
 やけに楽しそうに誰かに現況報告しているのは、仁希の体で木を倒しまくるグラディスである。相棒がノリノリ過ぎたので仁希は体の主導権を早々に譲ったのだが、グラディスはテンション上昇が止まらずにドーパミンどばどば状態。
「あれ見て、仁希! 木が壁から! 水平にー!」
(「あぁ、すごいな……」)
「いっくよぉー!」
 グラディスは意気揚々と壁を駆け上がり、斧で叩き斬る。その後は壁面を大きく蹴り、軽く回転して体勢を整えながら着地。
「……もっとかっこよく着地したほうがいいかな……?」
(「それ、真剣に悩むことなのか……?」)
「大事だよ?!」
(「……そうか」)
 刃物はレディのたしなみと豪語する女・グラディス、エンターテイメント性にもこだわりを持つらしい。
「見て、仁希! 木が天井から! 逆さまにー!」
(「あの距離じゃ届かないだろ」)
「んー……あっ!」
 面白そうな物を発見した、というような声色。目を輝かせているグラディスが駆け寄るのは、じっと様子をうかがっていた幸道である。
「ねぇ、お願い! 踏み台になってー!」
「えっ……」
(「ユキミチ、体を張るのも仕事の一環、頑張るのよ!」)
 体に直接的な負荷をかけるのも良い訓練になると考えてのリリィの発言。
「わかりました……」
「やったー」
 天井から下がる木の真下でかがみこむ幸道。グラディスは遠慮なく背を踏んで、上方に顔を向ける。
「飛!!!」
 きりもみ回転しながら飛び上がるグラディス。
 上昇し、頂点で二丁板斧を交差させるように振り上げる。壊し方まで華麗に。グラディスの譲れないポイントなのだ。
 先刻のようにくるっと空中で身を翻らせ、彼女は10点満点の着地を決めてみせる。
「……翔」
 腕を変な方向にまっすぐ伸ばし、ドヤ顔のキメ顔なグラディス。
(「……頼むから色はお前だけど、形は俺のなんだからあんまり妙なことは止し」)
「今やらずしていつやると?!」
(「だからなんでお前はそんなにテンション高いんだよ」)
「斬るの楽しいからー!」
 仁希は深い、深いため息をついた。そもそも刃物を存分に振り回せそうな依頼で彼女に体を預けたのが間違いだったのだ。
「さ、次は幸道君が踏んでいいよ」
「僕は別に」
(「せっかくの機会だから踏ませてもらいなさい」)
 リリィの勧めで幸道も踏ませてもらうことに。その後、グラディスが飽きるまでかわりばんこで踏みあったという。

●梅見

 サヤと美鶴は一通り伐採しまくって、少しばかりの休憩のために共鳴を解いていた。
「疲れました……サーヤ、やっぱり少しはお花を楽しむ時間も必要……ってああっ、サーヤ待って!」
 切り残した梅の木にもたれて美鶴が休憩していると、サヤがどこかへ走っていってしまった。
 しかしサヤはすぐに戻ってきた。美鶴が疲れたのかと思って飲み物を買ってきただけだった。
「はい、美鶴ちゃん」
「これは……ジュース」
「ダメだった……?」
 不安げに覗き込むサヤ。美鶴は苦笑してしまう。
「いいえ、ありがとう。もうこの1本しか梅が残っていませんけれど、ささやかなお花見をしましょう。ジュース1本分ぐらいは、ね」
「そうだね……あっ、そういえば忘れてた!」
 慌ててポケットから何かを取り出すサヤ。美鶴はジュースを飲みながら、サヤの挙動を見つめている。
「美鶴ちゃん、テレイドスコープって知ってる? 仕組みは万華鏡なんだけど、ここから覗くとガラス玉を通して外の景色が万華鏡のように見えるの」
 差し出したサヤの手の上には、小さな万華鏡のような物。
「テレイド……? 万華鏡は聞いたことあるけれど……」
 スコープを覗いてみる美鶴。
「綺麗! 梅の花が鏡に映っていっぱい。まるで一面に咲いてるみたい」
「ゆっくりお花見する時間がないと思ったから、せめて美鶴ちゃんに綺麗な景色を見せてあげたいなって思って用意してたのに……。ごめんなさい、任務に懸命になって今頃になっちゃった……」
 サヤは申し訳なさそうに視線を落としている。美鶴はそんなサヤの気持ちが嬉しくて、次第にくすくすと笑いを抑えきれなくなる。
「美鶴ちゃん?」
「私のことも考えてくれてたのね……ありがとう、でももう少し早く見たかったわ」
「ごめんね……」
 その後はジュースが空になるまで、2人でわずかばかりの梅見を楽しんだ。

 幸道は一般人が梅見中の木に取りかかる。
「あの……ここの木、見映えがあまり良くないので切ってしまいたいのです。あちらなど如何でしょうか?」
 やんわりと退去要請をするが、酔った男は言うことを聞いてくれない。
「何だぁ~? 可愛いじゃないの……まぁ呑め呑め」
 完全に酩酊しているおっさん。共鳴した幸道を女性だと思い込んでいるようだ。
 面倒だがこういう輩には特別な対処法がある、と2人は共鳴を解く。野郎と幼女であると一目でわかる。
「お誘いは嬉しいのですけれど……警察のお世話になりたくはないでしょう?」
 努めてにこやかに、リリィが脅し文句を口にする。その妙な迫力におっさんは急速に酔いがさめていったようで。
「あ、ああ、ああ……」
 返す言葉が見つからず、おっさんはそそくさと退散する。リリィは笑顔でその背に手を振っていた。
「まったく。お気楽なものだわ」
「うーん、まぁそうなんだけどさ……」
「?」
 幸道の手はさっきまで梅見の対象であった木の幹に触れ、目は頭上の梅の花に向いている。
「従魔だけどさ、凄いねぇ……こういう景色をもっと見てみたいな」
「ユキミチ……」
 幸道が何を言わんとしているか、リリィなら瞬時に理解できる。死を拒絶する、という誓約を交わした英雄なら。
「ええ、私も見たいわ。だからユキミチ、頑張りなさい……いや、頑張りましょう」

 公園には立派な梅の木が成り、そこを訪れた仁狼の目から外界の様子を見た小狼は花見をしたいという猛烈な衝動に駆られた。小狼が共鳴中の仁狼の体を半ば乗っ取るような形になる。
「くんくん……いい匂いもするです! ……むぐっ!?」
 勝手に体を動かして梅の木をかぎ始める小狼に対抗し、仁狼は何とか手で口を覆う。
「おい、やめろ! ちゃんと花見させてやるから!」
 こんな姿を誰かに見られては色々とまずい。白い目で見られるのは嫌だ。
 仁狼は白旗を上げて、持参したお菓子とジュースを味わって仕方なく梅観賞。共鳴は解かずにいるので傍から見れば孤独に梅見をする獣耳の男。しかも尻尾がパタパタ振れて嬉しそうな雰囲気。とても恥ずかしい。
 しばらく観て小狼の気が収まったところで、仁狼は梅の木に林冲をあてがう。
「楽しませてもらったんだ、梅の木も本望だろう」
 一言かけて、伐採。仁狼は次の木を求めて走り出す。

 梅を切っていると飲みたくなる物がある。
 グラディスは街中のコンビニから普通に出てきた。その手には梅酒。
(「……よーしよく聞け。今は仕事中だ。酒は飲むな」)
「共鳴状態だと酔うことないんだから大丈夫大丈夫♪」
(「仕事中だし、そもそもそれならなんで買った?! そして飲もうとするな!」)
 酒をあおろうとしていたグラディスが手を止める。
「梅けぶる中で梅酒を飲まないだなんてありえないよ」
(「言い切るな」)

「あら、こんな所に茶屋があるわね」
 効率的に仕事を進めていたユキメは、通行人の少ない通りに、雰囲気の良い小さな茶屋を見つけた。小さな卓と席と、梅見をするには申し分ない環境と言えよう。
「ご休憩されますか?」
「ええ、せっかくだから少しだけ、お花見と行きましょうか」
「かしこまりました」
 多少疲れていたこともあり、彼女らはそこで一時の休息を得た。茶と菓子とをライラが注文し、ユキメは遠目に咲き誇る梅の花を見物する。
 従魔のもたらすものでなければ、最高なのだが。
 数分後、ユキメはPCの画面を見てデータ確認。
「さて、再開しましょうか。データのほうはまとめてあるかしら?」
「はい、現時点でのデータはまとめてあります」
「ありがとう、ないとは思うけど再発生していないかどうか、後で確認しましょう」
「承知しました」
 ユキメが再開の支度を済ませる間にライラが勘定を終える。最初から最後まで色々と行き届く英雄である。

 道路から始まり、歩道にオフィス街、道が塞がった場所、と誰かが困りそうな木の伐採に専心していた凱と智美の仕事ぶりは感心すべきものだった。高所だろうが何のその、ブーメランでさくっと一刈り。
 脇目も振らず、梅の観賞もせず、ただただバッサバッサと木をなぎ倒すことを最優先で動き続けていた。
「なぁ、花見している奴も多いがお前は良いのか?」
 伐採をスムーズに進めるために凱もたまに仲間と連絡を取っていたが、背後の音や声からして花見に興じている者がいるらしいことは把握していた。
(「見た目が綺麗でも、人の迷惑になるものを放置する時間が長かったら、組織に人が不信感抱くだろうが。それに1本1本観てもなぁ……どうせならそういう梅庭園に行って大量の花を観るほうが俺は好きだな」)
「そんなもんか?」
(「そんなもんだ。第一、俺に普通の女みたいな感性求めるな」)
 確かに今回の依頼に迷いなく鉞をセレクトするような奴だしなぁ、と凱は思ったが口には出さないでおいた。

「行け行けGOGO! 梅見? それも良いけれど除伐のほうが心惹かれるかな!」
 誰も聞いていないのに恐ろしい独り言。寒凪はテンションが限界突破して新世界の扉を開いていた。
「樵魂に火がついた私を止められる存在はいないよ!! 多分!!」
 目につく梅は殺る。その精神で働き続けた寒凪は、もう変な脳内物質とかで疲労とか感じなくなっていた。チェーンソーの駆動音がもうケアレイみたいなもん。
「あ、ちゃんと目標は見失ってないからね。決して従魔が生み出した木以外も伐りたいとか思ってないからね」
(思ってたのかー)
「思ってません」

●伐採完了

 伐採は滞りなく進み、梅の木はすぐに街から一掃された。再発生もない。原因の従魔はどこかで消滅したことだろう。
「ライラ、今回のデータをレポートにまとめておいて」
「かしこまりました」
 こんな事件でも何かの参考になるかもしれない、とユキメは指示を出しておく。
 梅が消えた公園ではグラディスが飲み残した梅酒をちびちびとやっていた。
「んー……この体だと酔えないのが残念だけど……それでもやっぱり美味しいねぇ」
 街の別区画では、ひっそりと生えた本物の梅の木を1本見つけた仁狼が、小狼とともにゆったりと観賞していた。小狼は尻尾をふって明らかに嬉しそう。
「ジロー、花見させてくれてありがと!」
「……ふん」
 照れてまともに小狼を見ないが、仁狼もそれほど悪くないものだと思ったりしていた。

「これ、このありえない角度の梅の木が何とも言えないんです……」
「シュールですね……」
「ユキミチのいい練習台になったかもしれないわね」
 佐千子はこの依頼で撮りまくった梅の写真を全てノートPCに転送、自慢の面白画像をサヤやリリィたちに披露していた。興味本位で参加した依頼で、思いのほか楽しめたのは幸運だった。
「あぁ面白い。大収穫だわ。この画像、後で知り合いに見せまくってやろっと」
「死してなお人を楽しませるとは、やはりあの梅は大したものだな。それが雑草根性か」
「いや、そういう意味じゃ……」
 リタの脳内辞書にはまたひとつ、間違った日本語が追加されたのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • いつも笑って
    九十九 サヤaa0057
    人間|17才|女性|防御
  • 『悪夢』の先へ共に
    一花 美鶴aa0057hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • エージェント
    ユキメ・フローズンaa0486
    人間|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    ライラ・アトワイトaa0486hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 温かな希望
    都築 幸道aa2350
    機械|14才|男性|攻撃
  • 黒タイツロリ
    リリィドールaa2350hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 鋼の冒険心
    符綱 寒凪aa2702
    人間|24才|?|回避
  • すべては餃子のために
    厳冬aa2702hero001
    英雄|30才|男性|バト
  • 日々を生き足掻く
    秋原 仁希aa2835
    人間|21才|男性|防御
  • 切り裂きレディ
    グラディスaa2835hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 狩る者
    武 仁狼aa3793
    機械|17才|男性|攻撃
  • 狩る者
    小狼aa3793hero001
    英雄|6才|?|ドレ
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