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LIVETOUR2016win(当日編)
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/03/19 22:08:08 -
【相談卓】都内某コンサート会場
最終発言2016/03/21 22:25:59
オープニング
●の、舞台裏
「じゃ、最終確認始めるね。まず、今日はコンサート出演決めてくれてありがと。依頼主は事務所だけど、俺と彼香クンからも一言……」
天宮すみよし(az0033)に首の根を掴まれ、彼香君(az0033hero001)もお辞儀をさせられる。今日はシャイニーズ事務所のリンカーアイドルグループ・TENKANOのライブツアー『WhiteGift』東京公演当日だ。
「今日は、H.O.P.E.とシャニが合同で推進するリンカーアイドル育成プロジェクトの進水式なんだ。
それじゃ、予定を最初から通すからよく聞いてね!」
天宮は全員にコンサートのしおりを渡し、ホワイトボードに時間割りを書き出す。コンサートは五部構成で、6時から9時まで、3時間が予定されていた。
「第一部、まずここはヒートアップタイム。
アップテンポな曲と派手な振り付けのダンスで会場を盛り上げます。
第二部、俺と彼香クンのソロ。
俺らの言う通り踊ってもらうだけだから、細かいこと考えるのは面倒って人はここ。
第三部はしっとりバラード系。
歌がメインと言ってもいいかも。繊細な歌声やダンスで会場をうっとりさせてよ。
第四部、クライマックスだね。
パートはこっちで振りますから最新曲『White Gift』を全員で歌って、お客さんを沸かせましょう。
第五部では、会場前で握手会を開催予定!
ずらっと並んでもらうから、お客さんから生の感想を聞いて羞恥に震えてちょーだい」
と言っても、一人が出演するのは第一部~第三部からいずれか一幕と、第四部、第五部の最大三幕。
「ソロパフォーマンスがある人は、第一部か第三部の出番がソロになるからね!
ワンフレーズぐらいならオリジナルソングも対応できるよ。
第二部はバックダンサーだから、歌はあってもコーラスかな。
指定がなければ曲も演出もこっちで選んでおくよ。
その場合考えなきゃいけないのは、握手会でどんな反応するかだけ、だね」
天宮はわざとらしくふらついて額を押さえて見せる。
「実はさ、俺ももうとっくに三十路超えてるから。正直そろそろ限界で、若い子育てる方に回りたいのよ。
……え? そうは見えない? ま、まあ、そうか……
俺はね、若年化ライヴス因子ってのを持ってて、見た目が17歳前後で固定されてるんですよ。
有名人だとホラ、香港支部長とかもそうでしょ? あの人は後天性らしいけど……
てわけで、みんなのことは俺らもできる限りバックアップしていくよ。
今日は俺と彼香クンのお手伝いをしてもらって、みんなだけでの活動の予行練習にするつもりです」
既にドーム前は、詰め掛けた女性ファン(と一部の男性ファン)の異様な熱気に包まれている。
●天下の!
「待たせたなトーーーキョーーーッ!!」
叫びはドームに反響し、ひとつの音となって鼓膜を揺るがす。天宮は人が変わったように聴衆を煽り立てた。
「元気がねぇな! ホラッどうしたよ? Say,TENKANO!」
TENKANO!
「もっとTENKANO!」
TENKANOッッ!!
「も~っとTENKANO!」
TENKANOーーッッ!!
「オーケー『TENKANO LIVETOUR WhiteGift』最後まで楽しんでってくださぁい!!
まずはこの曲――」
解説
概要
男性アイドル育成プロジェクトに関わり、コンサートで注目を集めましょう。
アイドルのお仕事
1、第一部~第三部から好きな部を選び、歌って踊ってお客さんを楽しませましょう。
歌詞や衣装、振付けを指定すれば、オリジナルの演技をすることができます。
マイクパフォーマンスもできますので、自分をアピールするならここです。
※歌詞の創作は可ですが、著作権問題に抵触する歌詞はご遠慮ください。
2、第四部ではメイン曲『WhiteGift』を全員でパート分担し、協力して歌います。
白い羽根のたくさんついた衣装を着ます。早着替え頑張ってください。
この衣装をスクリーン代わりに、降りしきる雪の映像が投影されます。
光の色を指定することができるので、色がメンバーで被らないように相談しましょう。
フィニッシュでは花火が上がります。決めポーズがあればここでどうぞ。
3、第五部ではコンサート終了後の握手会を行います。
私服に着替えて会場前に移動し、メンバーで横一列に並んで握手対応します。
「カッコよかったです~」「歌声に痺れました~」
お客さんはその日の感想などを教えてくれるでしょう。
テレビ出演などの経験があるPCには、そろそろファンがいるかもしれません。
※第一部から第五部までの概要は、天宮がオープニング本文で説明しています。
マネージャーのお仕事
1、第一部~第四部まではアイドルさんが忙しく動き回っています。
タオルやドリンクを用意したり、髪型を直してあげたり、手伝ってあげてください。
第五部ではアイドルが受け取った花束やお菓子を預かりましょう。
2、上記をせず、グッズ売り子や営業活動に専念することもできます。
状況
いま皆さんは最終調整を終え、舞台袖で待機中です。ドームが満席なのが見え、歓声が聞こえます。全員イヤホンを付け、マイクを持っています。
リプレイ
●
「ッハ! 華麗なるデビューライブに相応しい、申し分ないくらいの会場だ」
「ねぇ、鯨井くん。余所見しないでよ、今僕が話してる。だいたい、これはうちで用意した舞台でしょ?」
「うるせぇよ、彼香。分かってるさ、ンなことは」
ドームを埋め尽くす人、人、人。鯨井 寝具(aa2995)は彼香君(az0033hero001)に高らかに。
「ここに立つことが許されたってのは! この鯨井シングが持つ強運、スーパースターへと至る運命の力に違い無い。ならこの好機、活かさなくっちゃ嘘ってもんだろッ!」
「ほんと、おめでたい子」
「んだとてめっ」
「ちょ、喧嘩しないで!」
天宮すみよし(az0033)が仲裁する傍で、鹿島 和馬(aa3414)と俺氏(aa3414hero001)も会場を覗いて。
「すげぇ……超満員じゃん」
「TENKANO、大人気だね」
「……これからあそこで、歌って踊るのか」
下を向いてぽつり。鹿島の肩が震えるので、俺氏が「緊張しちゃったかな?」とお道化た口ぶりで案ずる――いや、彼は分かっているのだ。顔を上げた鹿島の瞳に、共鳴時とは違う炎が灯ることを。
「いんや、燃えてきたぜっ!」
「……そうだね、和馬氏」
まずは自分達が楽しまなくちゃ、会場を巻き込むことはできないから。
「和馬ちゃん! 活躍期待してるんだぜ~!! 白虎ちゃんの次位には」
「おー! ってチーちゃん、俺はついでかよ!」
「俺氏殿も、お互いに精一杯頑張ろうでござる」
「もちろんだよ」
「白虎ちゃん、いよいよ本番だよ! 気合入れて行ってきなよ!」
「うむ……わかっているでござる。練習の成果を出すでござる」
虎噛 千颯(aa0123)は白虎丸(aa0123hero001)を激励する。同じくオペラ(aa0422hero001)も九重 陸(aa0422)を励ますも、彼は不安げで。
「今日までよく頑張りました、エリック。あなたのしてきた事の成果、皆さんに見せてあげましょう」
「でも、俺……」
九重の鼻を薔薇の香が掠める。オペラに、頭を撫でられていた。
「お、オペラさ……、」
なでなで。その目から、少しずつ恐怖が消えて。彼を苛んでいたのは、生身でないという理由で不当な扱いを受けた、嘗てのヴァイオリンコンクールの記憶。
「だいじょーぶ、わたくしも、TENKANOのお二人も一緒ですよ」
九重は笑み、ゆっくりと頷く。
「目立てるのですカラ……同族、見つかるかもデス!」
「まぁそんなに簡単には行かないとは思うがの」
老獪たる祖狼(aa3138hero001)のぼやきもなんの、ライロゥ=ワン(aa3138)は目をきらきらさせて。
「日本語もまだ拙いのに、一体どうする気じゃ?」
「ダンス? とゆーので盛り上げればいいのですヨ」
「その知識、この間TVで見て覚えたじゃろ?」
「集落の狩りの舞踊みたいでしたネ」
「それでいいのか」
そろそろ開演時間だ。天城 稜(aa0314)は溜息がちに。
「もうすぐ始まっちゃうなぁ……うう、すごい緊張するよぉ。
まさか、またあいつに嵌められるなんて……
……でも、テレビだってやり切ったんだ。気持ちを切り替えよう。
こうなったら精一杯頑張って、ライブを楽しむしかないよね!」
●縁の下の戦い
「今回のメンバーのキーホルダーだよー! 出来立てホヤホヤだよ!」
「キャー虎噛さんだー! 白虎丸さんのジャーマネですか?」
「おーありがとな、そうなんだぜー! キーホルダーも早く買わないと売り切れちゃうよ~」
「わー、くださーい!」
虎噛と友人のSNSを駆使した宣伝によって、デフォルメしたメンバーのキーホルダーはよく売れていた。ここで上手くいけば白虎丸が公認ゆるキャラへまた一歩近づく、営業活動も重要なのだ。当日も楽屋のメンバーの様子などをリアルタイムで投稿していたので、観客も親近感を抱いた様子。
「ところでさ、キミ仕事は雑誌関係とかじゃない? よかったら宣伝して欲しいんだけど……」
「やだー、各所のカメラいっぱい入ってますよ? 必要ないですって!」
「いや、まだまだ白虎ちゃんはこんなところで終わる男――否、ゆるキャラじゃないんだぜ!」
虎噛はコンサート準備の日、天宮に言った言葉を反芻する。確か彼は「無駄にかっこいいね、あなた」などと返していたか。
(無駄には余計なんだぜ。天宮ちゃん……超厳しくても、公認化は無理じゃないんだろ?
なら、俺ちゃんは突き進むだけだ! 決して越えられない壁は無いんだぜ!)
一方祖狼は、
「そこなお嬢さん……美少年に興味がおありなら『RAI』デビュープロマイドセット、会場限定商品はいかがかな? 中身はお楽しみ、レア写真はシャワー後の隠し撮りじゃ!」
「買います! 5……いえ10セット!」
「俺にも売ってくれ!」
「毎度! 違法営業故、どうぞ内密に。いやしかし、フゥー老人を働かせるとはな。まぁ酒のためじゃ、我慢するかの」
申請が通らなかったらしく、密かに商売に精を出していた。男向けか女向けかは置いといて商魂逞しい酒飲みじいさんである。
「って、許しませんよ!」
「げっスタッフ! な、なにをするやめr」
「写真も売り上げも没収です!」
が、すぐに通報され御用となった。
●まずはこの曲――
「ライロゥ=ワンで『踏鳴』!」
天宮が言うや、ドンと派手な発煙が上がる。ポップアップでメインステージに登場したのは民族衣装なような丈の長い服に身を包んだライ。木管が鳴り、低音で響くドラムに合わせ、披露するのは震脚。その風格に息を呑み静まり返る観客の耳に、しゃらんと鈴の音。
(本来の僕たちの集落舞踊は、衣装に縫い付けた金属が奏でる音色と、舞の組み合わせなのデスが……それじゃ、お客サンに聞こえないのでネ。オーケストラの皆さんに感謝デス)
手には水晶の扇。歌は無く、踊りのみだ。命の育みを表現した舞は神秘的で、見る者は言葉もなく心奪われる。
途端、無音。次の瞬間、空気を震わせるギター。
三味線も加わり、曲は和テイストのロックへ。ライは衣装を脱ぎ捨て、下に着ていたアオサイ風の普段着が露わに。中盤は豊穣の祈りの舞。そして一層曲が激しさを増すと、獣人化し、そのままアクロバティックな戦闘舞踊へ。シフトなどのムーブも使いこなし、観客は大盛り上がり。最後は最初同様に震脚で〆、演技を終えたライはにこにこ顔で中央に進み出て、ぺこりとお辞儀をして舞台を降りた。
「アツい展開、ありがとねライーっ! 続いては皆さんお待ちかね!
鹿島和馬『二人はヒーロー』!」
スネアが陽気なイントロを叩き出す。
「♪Let me Dance!」
袖から飛び出した鹿島はドーム中央ラウンドステージまで、ロンダートからの連続バク転でド派手に登場。いきなりのスーパープレイと、最後に振り向いたときの決めポーズ――ビッと親指を立て、ニカッと笑う姿に会場は黄色い悲鳴で揺れるほど。
「♪woo woo woo!」
続いて反対側から、俺氏が同様にロンバクでステージへ。手を付かずテンポ宙返りへ繋げ、さらに捻りを加えたバク宙で見事着地。鹿島以上の歓声を浴びる中、俺氏は鹿島を挑発するように人差し指をクイクイと。鹿島は口端を吊り上げてニヤッと笑い、二人は背を向けて三歩離れる。そして一際音楽が盛り上がると、同時にインカムマイクに手を。
「♪一人で居ても 始まらない
だからここに 居るんだろ?」
俺氏の白いローブとは対照的に、鹿島の衣装は黒のチェスターコート。背面には紫色で『HERO』と大きく刺繍が施され、フロントには無数のスタッズが輝く。
「♪ダメなとき たくさんあっても」
鹿島がフロアーにつき、全身でリズムを取りながら俺氏を指し示す。俺氏はそのままふな○しーの如く踊り続け、片足だけ膝を着いてしゃがむゲットダウンで鹿島にバトンタッチ。
「♪MY HERO 二人でHERO」
俺氏に指差されると同時に鹿島はブレイクダンス風の床に手を付いた激しいムーブを披露。ダンスバトルちっくな白熱のオン・ステージ。サビに近づくにつれ、二人は次第にテンポを合わせてシンクロし、いつしか向かい合って。
「♪それでも 君はヒーローさ
君がいるから戦える」
サビ直前、高く掲げた拳をぶつけ合い、二人は一人に。見違えるようにイキイキとした鹿島が歌い上げる。
「♪SECRET HERO
SPECIAL HERO yeah!」
間奏には比較的簡単なフレーズも織り込まれ、観客も短い時間ですぐに降りを覚えて一緒に踊ってくれた。
(本当はジェミニストライクやりたかったけど。どうあっても攻撃技だし、色違いもムズカシーのね)
(和馬氏、大丈夫だよ。練習で培われし驚異的持久力に、会場はメロメロさ。最後、決めよう)
(オッケー俺氏!)
〆は両手と頭を床に着け、組んだ両足を突き上げてのフリーズ。そこからラストまで、アウトロにノって一頻り踊る。フィニッシュ後、共鳴解除した二人を包む喝采に、背中合わせで腕を組みドヤ顔で応えて。
「サンキュなー!」
決めポーズの後は、メインモニタいっぱいに鹿島の心からの笑顔。ステージの昇降台で退場する間、彼はずっと手を振り続けていた。
「カズくん最っ高~! じゃあ、次は俺の番。
行くよ、天宮すみよしfeat.白虎丸『MINE』!」
愛らしいBGMと共にメインモニタはアニメに切り替わり、トランペットの高音に合わせて天宮と白虎丸がステージにポップアップ。音痴のため、白虎丸は口パクだけで歌わない。
「♪追っ手をまいて you say“MINE”
そう ビビッとキタなら now,it's time!」
キャッチィなポージング、流動的な動きは白虎丸も得意とするところ。ドームを歩き回る天宮と反対側で、白虎丸は盛り上げ役に徹する。
「♪oh 奇跡の世紀の 出会い
必ず叶える 願い」
ノリノリのサビは天宮と前後に並んで。少年の影からタイガーマスクが顔を出したり、全身をウェーブさせたり。フィニッシュはパァンと上がるクラッカー。
「く~ッ、盛り上がってきたじゃねーの?!」
マイクを握るのは鯨井だ。
「よく聞きな! シャニに舞い降りた期待の新星とはこの俺のことだ!
いくぜ! 彼香君feat.鯨井寝具『rain』」
ドームは暗転し、流れる切なげなメロディー。ぽつぽつと点灯する光の川は、やがてドーム中央へと。そこには揃いの軍服風の白ジャケットを着た鯨井と彼香君。
「♪窓を打つ雨音が 濡らす哀しい記憶
戦いに気を取られ 忘れていた幸せ」
鯨井の力強い、そして彼香君の繊細な。ふたつのテノールが見事な旋律を奏でる。マイクを手に歌いながらも、ダンスは全身に及ぶ。男性らしい色気のある、バラードナンバーだ。
「♪rain rain rain
行かないで 言えなかった」
サビで声量十分にテクニカルな美声を聞かせながらも、鯨井は身体を馴染ませ、ドームの感触を掴むことに専念する。
(まだまだ全てのパートで彼香君と勝負すんのは無理があるからな。
リハと本番はまるで違う、本調子は第四部に持っていくぜ)
会場が聞き惚れる中、第二部は暗転で幕を下ろす。スポットが当たったのは、メインステージ。
「僕は天城稜! 去年からH.O.P.E.のエージェントやってます!
テレビは何回か出演させてもらってますが、舞台は今日が初めてです!
皆さんと共にライブを楽しんで行きたいので、応援よろしくお願いします!」
少女と見紛うような美青年――天城が、マイクにそう語る。イントロは優しくも壮大な弦とピアノ。
「♪現実と幻想(ユメ)の狭間
重なる君とのリンク あれから君と共に
どれだけ夜と朝を越えて来たんだろう?」
歌いながら、天城の手指は繊細に、緩やかに感情を表現する。
「あの時、痛みの中に失った夢を
僕はまだ宵闇の中に探してる……」
その頃ステージ下では、はけてきた鯨井の着替えを九重が手伝っていた。劇場でバイトしているだけあって、早着替えはお手の物だ。
「もぉ……早くしないと次始まっちゃうっす。白虎丸さんは練習の成果が光って、もう終わってるっすよ?」
「いいから。ホラ、出番だぜ?」
「あわっ、はいっ……」
「九重クン!」
振り返ると、天宮が「頑張って」と。その背後で、彼香君は顎で「早く行け」と示す。彼らに頷き、九重はオペラに向き直る。
「歌唱力の底上げなんて、必要ないのに」
「でも、オペラさんと一緒だから、頑張れるんス」
オペラは微笑み、共鳴へ。暗転したドーム中央、観客席の真ん中に九重が姿を現す。照らされた燕尾服に仮面の少年は、魔性の魅力で観客をうっとりさせた。バイオリンとハープの軽やかなイントロと共に、闇が払われるように会場に光が戻る。同時に九重はマイクを唇へ。
「♪一人ぼっちだなんて 思わなくていいんだよ
空に輝く虹は 今も僕らを結んでる」
そして、九重は実はマジックテープで固定された燕尾服を瞬時に脱ぎ去る。現れたのは白い、シフォンたっぷりの衣装。さらに九重は仮面を取り去って投げ捨てる。露わとなる翠眼の美青年の面立ちはメインモニタにも。
「♪いつか終末の鐘が 世界を裂く時が来ても
あの日の流れ星は きっと叶えてくれるさ」
感嘆の声の中、春の風のような爽やかで、暖かな歌声がドームを包む。練習の甲斐あってステップは完璧だ。
「LINK BOYSの九重陸っす! 今日はたくさんの人にお会いできて、とっても嬉しいっす」
流れ続けるアウトロがBPMを上げる中、披露したMCはやんちゃな口調で。でも裏腹に、仕草は小動物のよう。おとなしく甘えん坊な性格が、見る者にも伝わる。
「特技はヴァイオリンっす。今回は尺の都合で弾けないっすけど、
どこかで俺のヴァイオリンを聴いて、今日のこと思い出してくれたら有難いっす!
TENKANOのお二人には、いっぱいお世話になったっす……
彼香さんにはLINK BOYSの名付けを褒めてもらって、
天宮さんにはカフェオレまでご馳走になって。
……えへへ。だから、お二人のためにも俺、頑張るっす。
それじゃあ聞いて下さい……TENKANOfeat.LINK BOYS『White Gift』」
ピアノが加わり、曲はWhite Giftのイントロへ。同時に強い光が射し、ラウンドステージは回転しながら上昇を始める。階段状のステージには出演者が勢ぞろいだ。
「♪孤独を飼い慣らしてきた 僕の心の中に」
歌い出しは九重。緑色のライトに照らされると、雪を思わせる映像が白い衣装に投影されて。
「♪芽生えてた 優しい気持ち」
ライの白い漢服風衣装を照らす光は赤色。
「♪強がって傷ついたそれを 暖かく包んで」
無自覚に明るく歌ってしまっている鹿島と俺氏を照らす光は、紫色。
「(ぱくぱく)」
白く照らされ、雪が黒で投影される白虎丸は口パクで。曲はここで大きく盛り上がる。
「♪White Gift 星降る夜に」
天城は青い光に照らされ、剣舞の様にしなやかな身振りで踊り。
「♪あなたの愛で 春は目覚める」
天宮と彼香君が、それぞれとハモり。サビを終え、曲はCメロのために一際感情的に。鯨井がマイクを握り締める。
(ここで! 散々練習してきた全パワーを解き放つ!
愛を歌うのに、ただ勢いだけじゃダメなのは分かってる。
切なさを表現するCメロこそが肝。同時に、俺が最も苦手な部分だ。
彼香君のような繊細さを以て女性にアピールできないのなら、
サビの盛り上がりから無理に変化をさせることはしない。
いくぜ、伝説への第一歩……
――魂のサウンドを聴かせてやるよ!)
輝くような黄色の光に照らされて、鯨井が歌う。叫ぶように。
「♪あなたに 愛される 自信などない
誰も守れた 試し 僕にはない」
胸が締め付けられる場面でさえ、強がって。鯨井は笑って見せた。会場はメインモニタの笑顔に釘付けだ。
「♪それでもあなた あんただけは 守りたい――」
見事なフェイクだ。しかし、と彼香君は彼を見る。
(感情が入り過ぎて、自分の口調が出てるじゃないか。
まあでも……及第点、かな)
ふっと笑い、彼香君らも、再びマイクへ。
「「「♪White Gift 星降る夜に
あなたの愛で 春は目覚める」」」
8人のアイドルが心を合わせて歌ったラブソングに、会場は歓声の渦。曲が途絶えた瞬間、メインステージではたくさんの花火が上がった。バルーンから降るテープの雨。煌きの中でライは武道ぽい、天城は左手を真っ直ぐ掲げ右手を肘から外側に曲げてL字を描くポーズを決めた。鯨井は天に向かって高々と握りこぶしを振り上げる――ライジングスターの構えだ。
●大成功のコンサート
会場前には、握手待ち長蛇の列ができている。
「今日は……ありがとうでござる……」
「テンちゃんも白虎さんも、ファンシーでかわいかったですー! さすがゆるキャラ!」
「ふぁ……? って、俺はゆるキャラでは無いでござる!」
「お~白虎ちゃん、とりあえずお疲れ~! すごいじゃん、色々貰って!」
「ち、千颯……お疲れでござる。きーほるだーは売れたでござるか?」
「もちろん、完売だぜー! はい、持ってたげるから、握手してな! ……なになに、恥ずかしがってんの~?」
「う、うむ……浮いていなかったか不安だったが、」
「ああ、みんなの顔見れば分かるぜ。練習の成果、ちゃんと出せたみたいだな!」
みな笑顔だった。コンサートは楽しんで貰えたようだ。
「きゃー俺氏さん!」
「おれしーぼくもー!」
「はいはい、順番にね」
「……」
鹿島は過去のテレビ出演もあるし、特に俺氏は小さい子には人気が出て、地味にファンとかいるかも? と思っていたが、地味にどころではなかった。そんな鹿島に、「あの、これ」と花束を渡す女性が現れる。
「え、俺……? あ、悪ぃ、今共鳴すっから、」
「いえ、あなたに。もちろんダンスが一番だったんですけど、歌も……暖かく包んで~のトコとか震えました。私、応援してます!」
鹿島は吃驚したが、すぐに明るく笑って「ありがとな!」とギザ歯を覗かせた。女性は真摯な対応に感動した様子で帰って行った。
「九重くん、かっこよかったー!」
「わぁ、本当っすか!? えへへ、ありがとうっす」
九重の最も恐るべきは、その笑顔が計算だの演技だのに依らないところだろうか。主婦たちは硬直し、至急ひそひそ会議を始める。
「天然かわいい?!」
「で、特技バイオリン?!」
「ご近所で触れ回らなきゃ!」
「おかーさん、てんくんはー?」
「あ、こら」
娘が顔を出したので母親は慌てたが、九重は気にせず少女の頭を撫で。
「よーちみっ子、面白かったか? こんな子供まで見に来るなんてTENKANOの人気はやっぱスゲーなぁ」
「……! おかーさん、わたしこのおにいちゃんとけっこんするー!」
天宮、人知れず振られる。
「天城くんだー! テレビで魔法少女姿見たよー!」
「い、いやぁ……ハハ、そうですか……でも、知っていてくれて嬉しいです。ありがとうございます」
「やばーい、生だともっとかわいー! 学校で宣伝しとくね!」
天城は恥ずかしさに赤面しつつも、笑顔で対応した。
「あ、あの、ありがとう……ございましタ……」
ライは獣人化姿での不慣れな触れ合いに頬を染めて、尻尾と耳がぴょこぴょこ。
「ライたそ本当かわいいね……」
「あ、えと、ボクは男です……ヨ??」
「ハァハァ……そうだね……また来てもいいかな?」
「はい、また来てくださいネ!」
この男、手には怪しい写真が。説教から解放された祖狼も戻って来た。
「祖狼。なんだか、身に覚えのない写真を持っている方を見かけたのですガ」
「何かの時に使えるかもしれんし、補充しとかんとなぁ。元手掛からない商材じゃし、美味しいの!」
「……あれ? これ僕怒っていいのですかネ?」
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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