本部

強制! 感動の卒業式!

星くもゆき

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~12人
英雄
5人 / 0~12人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/03/30 19:12

掲示板

オープニング

 3月、別れの季節。卒業の季節である。
 学園モノのドラマとかで感動的な卒業式のシーンを見て打ち震え、己も卒業式に関わりたいと思う不憫な愚神がいたそうで、彼はその願望のために近場の中学校に忍び込んだという。
 プリセンサーがそれを感知し、H.O.P.E.はエージェントを集めて中学校に向かわせた。卒業式の日付はとうに過ぎており、学校に生徒はいなかったが危険であることに変わりはないという判断だった。

 それがいかんかったようです。

 愚神がいると思われる体育館にエージェントたちが突入すると、そこに彼はいた。普通にいた。「いないんですけど! やってないんですけど!」とか言っていた。どうやら卒業式に参加できると思って来たのに、すでに学校がもぬけの殻となっていたことがショックだったようだ。

 少しかわいそうかもしれないが、愚神は愚神。覚悟しろ、と一行が彼に迫った時である。
 小物っぽかった愚神が急に何らかのスキルを発動し、一行は意識を失った。

 そして目が覚めると、彼らは体育館に並べられたパイプ椅子に座っていた。3月だというのに館内がぽかぽかと暖かくて眠くなりそうだ。
 何故ここにいるのだったか。
 そうだ、今日は卒業式の日じゃないか。
 自分たちは今から、この学校を卒業するんだ。

 体育館の隅っこでは、担任の先生が卒業生を生暖かく見守っていた。
 エージェントたちは愚神になんか洗脳っぽいことをされ、彼とともに卒業式を遂行する羽目になったのだった。

解説

とある愚神に洗脳っぽいことをされ、体育館で卒業式を行うことになりました。
皆で卒業式を完遂すれば、先生(愚神)は満足して帰っていくことでしょう。
共鳴は解かれ、能力者も英雄も式の間は何も不思議に思いません。卒業生役に入り込んでいます。
愚神は具体的な卒業式の内容を知らないので、式の内容はPCの思考に丸投げです。
卒業式の段取りは以下。

開式の言葉……先生が行います。ほぼ学校名を言うだけです。学校名は皆さんで決めて下さい。

卒業証書授与……壇上で先生から手渡しで授与されます。証書の内容はご自由にどうぞ。

答辞……送辞は適当に済んだものとされ、皆さんには答辞を行っていただきます。全員壇上にいます。

歌の斉唱……オリジナル卒業ソングを歌います。各員、オリジナルの歌詞をプレイングに書いて下さい。5W1Hゲームの要領で組み合わせた歌詞をリプレイに使用します。相談なしを推奨。

贈る言葉……最後に教室に帰って、先生(愚神)から贈る言葉をいただいて閉幕です。先生が勝手に何か言います。

各場面、先生の力でそれっぽい吹奏楽が流れますし、在校生として人型の従魔とかも配されています。
戦うような力はありませんのでご安心を。
考えて頂く箇所が多いですが、特に希望がなければMSで処理します。


先生が教室から去っていった後、全員正気に戻ることになります。

洗脳されてから先生が去るまではもはや運命の流れなのでどうにもなりません。
愚神はくだらない洗脳っぽいことをする力はありますが、戦闘能力は皆無に等しいです。
洗脳状態なので何をやっても大丈夫です多分。恥じることはありません。

リプレイ

●学園で過ごした日々よ

 並んだ椅子に座るのは、揃いのブレザーを着た卒業生たち。学園の生徒としての最後の日。
「なんだかんだでもう卒業かー。意外とあっさり」
「式が終わってからのほうが来るかもね……」
 静まり返った館内でひそひそと交わされる声。廿枝 詩(aa0299)は膝下丈のスカートを遊ばせ、卒業式といえどさっぱりした表情。月(aa0299hero001)も同じく感動ゼロ。だが全部終わってからしみじみ、ということも確かによくある。
 2人の傍らでは龍ノ紫刀(aa2459hero001)が泣いていた。卒業に際したもの、というよりはある意味親心とかそういう系統。
「まさか娑己様が卒業できるなんてねぇ」
「あは、卒業できるなんて私って実は稀にみる天才とか!?」
 あっけらかんと能天気。屈託ない笑顔を見せるのは天都 娑己(aa2459)だ。褒め言葉でないことに欠片も気づかない娑己。彼女はガチの現役女学生のはずだが進級とか大丈夫なのか。
「卒業式なんてやってられっかよ」
「オレ、痔だし座ってらんねぇんだわー」
 パイプ椅子が並べられてある中、わざわざ床に座り込む男子学生たちがわざと大きな声で話し始める。真面目にやっていられるかと若さを見せつけたのは五行 環(aa2420)と鬼丸(aa2420hero001)だった。2人とも多分、普段の素行とか生き方とかが反映されているのだろう。

「只今より、第193回、愛☆青春学園、卒業証書授与式を執り行います」

 愚神扮する先生から、開式の宣言がなされる。生徒たちはぴしっと背筋を伸ばした。
「学校名、そういえばそんなんだったね」
「どういうわけか忘れてたね……」
 首を傾げる詩と月。無理もない。だって通ったことは1度もないからね!

●証書

 先生が名前を読み上げる順番は滅茶苦茶だった。五十音順とか多分知らないのだろう。
「卒業証書、授与。3年G組、ヨハン・リントヴルム」
「はい」
 名を呼ばれ、完全に成人男性であるヨハン・リントヴルム(aa1933)が授与の壇上に上がる。小中高とほぼ通学の経験などないはずのヨハンだが、洗脳にどハマりしたのか早々に涙を流している。
「貴方はとても頑張りました。ここに、その頑張りを賞します」
 頭を下げ、証書ではなく賞状を受け取るヨハン。そこには『頑張ったで賞』の文字。明らかにおかしくても、視界が涙でぼやけるヨハンが気づくことはなく、彼は胸を張って段を下りる。手を振る級友に、同じく手を振り返しながら。

「獅子ヶ谷七海、五々六」
 続いて壇上に上がるのは飛び級しまくった(設定の)天才児・獅子ヶ谷 七海(aa1568)と、20年以上も留年し続けて『腐りすぎて土に還り始めてるミカン』とまで称された超問題児、五々六(aa1568hero001)だった。
「貴方がたは本校においての最年少卒業者、そして最年長卒業者であることをここに証します」
 名誉と不名誉のコラボレーション。30歳以上もの年齢差がある同級生が、時を同じくして学園を巣立っていく。
「まさか俺が、愛学から卒業できる日が来るとはな……」
 感無量の柄の悪いおっさん。洗脳の影響で若干まとも。ちなみに愛学とは『愛☆青春学園』の略称だよ。
「……あんな腐りすぎたミカン、野に放っていいのかな。ね、トラ」
 ジト目で隣の中年を見上げる少女。洗脳の影響で毒が強め。ちなみに五々六の陰口を広めて『腐りすぎて~』という先述の称号を与えたのは七海だよ。

「宇津木明珠、金獅」
「はい」
 先生と向かい合うのは、宇津木 明珠(aa0086)と金獅(aa0086hero001)である。明珠はまっすぐ先生を見つめ、金獅は照れ臭そうに視線を外す。
「――教育課程を修了したことを証す。2人とも卒業できてよかったな」
 明珠はうっすらと笑み、金獅も証書を嬉しそうに受け取る。
 持病により通学できなかった明珠は都合で修学義務を免除されていたが、単に生徒名簿から自分の名前が消えるのは嫌だと言い、先生や学友に頭を下げて何とか卒業式に参加させてもらえた。着慣れない制服に身を包み式に臨む。
 金獅は五々六をマジリスペクトしていた。彼の教師に物怖じしない姿勢、二桁を軽く超える留年回数、口には出さないが一方的に憧れていた。そしてそんな五々六と真正面からぶつかり合う先生のこともカッコイイと思っていた。五々六のようになりたくて、先生にぶつかってきて欲しくて、髪を金色に染めて喧嘩もした。
 結局2人の間には入れなかったが、それでも2人の最後を見届けたいと思って留年してきた。しかしそれも今日で終わり。
 金獅がふと見下ろす先には、自分に拍手を送ってくれる五々六パイセンがいた。

「廿枝詩、月」
「はい」
 詩と月は双方とも落ち着いた様子で、黙々と先生から証書を貰う。文面には「2人いつも一緒で大の仲良しだったことを証します」と書かれており、詩はそういうものなんだと受け入れ、月は洗脳下とはいえ引っかかるものを感じて眉根を寄せる。

 環たちも呼ばれて、だらだらと壇上に上る。証書には至ってシンプルな、テンプレどおりの文が並んでいた。
「貰うもん貰ったし、そんじゃ」
「じゃあなー、楽しかったぜー」
 式をふけようと館外へ向かう腐ったミカンたち。在校生にガンをくれてやりながら扉を乱暴に開き、一足先にお外へと。

 授与も佳境。ネクストバッターは紫刀だ。ブレザーの下からでも主張してくる胸の存在感。多分、愛学イチの巨乳。
「卒業証書、龍ノ紫刀殿。本校において――」
「先生、『しとう』ではなく『むらさきがたな』です」
「失礼――本校において、イケナイ乳への課程を修了したことを証します」
 やったぜ紫刀、巨乳課課程を卒業だ。何故か男子在校生からは嵐のような拍手が発生し、紫刀はけたたましい音の中、さっさと椅子へと戻る。
 最後に娑己の名が呼ばれ、彼女は「ふぁい!」と大きな返事で小さな段を上っていく。そして「ひゃぁ!?」と踏み外し、すってんと転び「いたた……」と言う。周りの視線に気づいた時には「てへへ」である。完璧だ。
「卒業証書、天都娑己殿。本校において、見た目は淑やかだが実はとんだ馬鹿……の課程を修了したことを証します」
 キラキラした目で恭しく、差し出された証書を受け取る娑己。1歩引いて文面を眺めればそこには、うん、馬鹿を極めましたという意味ですね。
「馬鹿を卒業なんて私ってやっぱり天才……。先生どうしよう!? 頭が良すぎて悪行組織とかにブレーンとして狙われないかな!? やっぱりどこかにかくまってもらったほうがいいか……」
 これ以上、主に恥をかかせるわけにはいかないと、紫刀に引きずりおろされるまで娑己は先生にガチの相談を続けるのだった。愛学イチの馬鹿、無事に現役卒業だ!

●答辞

 壇上から館内を見渡すと、内部の真ん中から後方は在校生の人形で埋め尽くされていた。じっと壇上に立つ卒業生を見つめていて何だか怖い。客観的に見れば。
 だが洗脳の只中にあるエージェントたちはちっとも疑うことはない。逆に「あぁ、これが卒業式なんだよな」とか思っちゃっている。
「卒業生による、答辞」
 先生の合図で、生徒たちがマイクを握る。全員がマイクを持ってて何かのグループのコンサートなの、って感じだ。

「獅子ヶ谷、です。本日は、お集まり頂き、ありがとうござり、ござ……ござるました。この学園で過ごした日々をふり返って……ふり返って、えっと……あの……やっぱふり返るほど在学してなかったです」
 七海が折れた。だって9歳だもの。通学の記憶が全然ないもの。感動できる材料ないもの。
「……五々六、かわりにやって」
「やだよ。大勢の人に見られんの恥ずかしい」
 9歳児の助けをすげなく拒否するおっさん。二十余年に渡る愛学での生活で何を学んだのだ。

「えっと、春になりました……?」
 一言だけ述べ、詩の口が止まる。いわゆる時候の挨拶というものが思いつかない。
「仲春のみぎり、寒さもだいぶ緩んで参りました」
(「あっそんな感じ」)
 助け舟を出した月の挨拶を聞いて、小声で反応する詩。
「先生方、今日まで本当にお世話になりました。私たちは、この学校の生徒であったことを誇りに、これからの人生を歩んでいきます」
 淡々とそれらしいことだけを連ねて、月が詩を肘で突っつく。続けて何か言えということだ。
「あ、んーと……学校でははじめてのことがたくさんあって、たくさんのことを学びました。私と一緒にいてくれた皆、ありがとうございました」
 人前で喋るとあってわずかな緊張を匂わせながらも、詩はきっちりと仕事はやってのけた。

 証書を受け取って体育館を出て行った環と鬼丸は、答辞が始まる時になって壇上に強制送還となった。何度も何度もめげずに脱走を試みるも、愚神の力でどうやっても壇上に戻ってきてしまう。恐怖。
「おい、どうなってんだ……」
「なぁ、何か言わなきゃいけねぇ雰囲気じゃねぇか?」
 鬼丸と環が在校生の視線に気づく。無言のプレッシャーが2人を追い込んでいる。
 仕方なくマイクを取り、鬼丸はやる気のない言葉で答辞を行う。
「やべっ、人前ってキンチョーする……。えー、オレ、まじめにジュギョー受けてなかったけどよ、ここに来てダチの大切さは学んだつもりだっ。以上っ」
 相棒からマイクを渡され、環も仕方なく続く。
「めんどくせぇな……。聞いとけ先公! 窃盗の罪を着せられそうになった俺を証拠もナシにやってねぇと信じてくれる、そんな先公から俺は大切な何かを学んだ気がする……。以上だ!」
 完全に腐ったミカン役である。環は思い切って言ったもののすぐに恥ずかしくなり、マイクを放り捨てて体育館の外へと走り去っていき、鬼丸も追随して出ていく。

「えっと、父が乱入してきた運動会、ふざけて校舎が半分ふっ飛んだ文化祭、どれも今となってはいい思い出です」
 愛学での偽りの記憶をたどる娑己。何でそういう具体的なイメージが湧いてくるのだろうか。やはりバ、いや天才だからなのか。
「振り返ってみれば……濃い学園生活でした」
 紫刀も何か明確なイメージがありそう。眉を寄せて疲れたような呆れたような表情をしているが。

「春の訪れを感じるこのよき日に、我々は無事卒業式を迎えることができました。このような盛大な式を挙行して頂き、心より感謝申し上げます。先生からの温かいお言葉に、お礼の申し上げようもございません。本日は、本当にありがとうございました」
 学校にほぼ通えていなかったはずの明珠が一番しっかりした答辞を読んでいる。眼鏡で三つ編みで大人しい、委員長として完璧ではないか。
「俺のことだし、他の連中には関係ない。そう思って生きてきました。だけど、今日ここに俺がいるのは、色んな人の気持ちとか言葉とか存在とかがあったからだと思います。だから卒業できてよかったとほんとに思ってます」
 金獅は若干涙声になりながら周囲への感謝を述べる。腐ったミカンが更正して巣立っていく様に先生も思わず涙ぐむ。二十余年の留年を果たしたヤ●ザも微笑んでいるじゃないですか。

「在校生の皆さん……素敵な送辞を、ぐすっ、ありがとうございます……今日という日を無事に迎えられて、すごく……嬉しいです。思えば高等部の入学式の日、アレがアレしてすごくアレで……あの日なんかもかなりアレで……とにかくアレな3年間でした……。あー、えーと……」
 詰まりまくるヨハン。具体的な記憶がなくめっさふわふわしている。核心には触れずに回り道、遠回り。何を言っているのかさっぱりわからん。
「……それでは在校生の皆さん、僕たちとは今日をもってお別れとなりますが……これからも……清く正しく、この学園に相応しい生徒でいて下さい」
 目元を拭いながらヨハンが話を締めくくる。完全に雰囲気重視の答辞だったが、在校生からは盛大な拍手が巻き起こる。

●斉SHOW

「続きまして、卒業生による歌の斉唱です」
 式は粛々と進行していく。答辞を終えた流れのまま、卒業生は壇上に並んでいる。
 しん、と静まり返った館内。
 ゆっくりと始まる、吹奏楽の演奏。
 聞き入る先生と在校生に向け、卒業生の渾身の歌が贈られる。

~~~

 未来へと進むため
 僕らはこの学び舎で
 輝く時を精一杯生きていた

 よくわからない学校で何かを学んだかもしれぬ
(教師は担当科目がUNKNOWN)
 腕に抱くは愚神討伐の希望かもしれぬ
(様々な謎があるの、うん)

 迷ってもいい
(どうせ隣の隣とは初対面の可能性)
 とことんやれば見えてくる何かがあると
 似非吹奏楽部からは エレキギターの速弾き
 壮大な旋律に紛れてる


 この一瞬一瞬が宝物だと
 輝く時を精一杯生きていた

(Hei YO!)

(ここに集うWe are)
(清き水のHITOTSUBU)
(一人ひとりがかけがえないSONZAI)

※これまで過ごした毎日が
 これからは思い出になって
 僕らと君とを繋ぐよ

(俺たちSOTSUGYO! 成し遂げるぜIGYO! 心機一転生まれ変わるTANJOH!)

 だから今はさよなら

(別れはMUJOH! 哀しみのKANJOH! それでも変わらぬ俺たちのYUHJOH!)

※リピート

~~~

 練り上げられたカオス。だが一同は眉をひそめることもなく、むしろ涙を流しながら斉唱していた。
 明珠はほぼ口パクレベルの声の小ささ、金獅はむしろ口パクでいてくれと思うほどの超絶音痴ぶりを披露。全員の声に混じると何故か合唱のような響きだったが、単品では聞けたものではない。
 ヨハンは泣きながら声にならぬ歌声を出していた。何だか一番真面目に卒業式している。
 環と鬼丸は再度の強制送還を喰らい、やむなく適当に輪唱して遊んでいた。なかなかイイ感じでそれがまたおふざけに拍車をかける。
 詩は歌唱に関しては最も真剣に取り組み、最初から最後までちゃんと歌っていた。月はというと、そんな相棒の歌声に聞き入って、静かに体を揺らすのみ。
 娑己は式が進むにつれて卒業の実感がじんわりと湧いてきて、歌う頃にはもう嗚咽が止まらなくなっていた。あふれ出す涙、歌い詰まる喉、紫刀もしんみりと感じ入って娑己を慰める。その様は感動的に過ぎて、涙は先生や在校生にまで伝染していった。
 五々六は泣きながら魂のラップを差し挟んでいた。遊撃ラッパーとして壇上を所狭しと暴れまわるヤ●ザ。

 卒業生によって作り出された歌が響く混沌の中で、式はその幕を下ろす……。



 式が終わると、卒業生は最後の時間を教室でゆっくりと過ごしていた。
「ちゃんと卒業歌を歌わないなんて不良ね」
 詩の歌声に聞き入っていた月が、当の詩に突っ込まれた。
「いや、歌詞忘れちゃって……」
「うそだー不良めー」
 晴れやかな笑顔で小突き合う2人。大の仲良し同級生とでも言うような取り留めのない会話の背後では、不気味なすすり泣きが聞こえてくる。
「ふぅッ……ウッ、ヴッ……ウウッッ……!」
「ティッシュ使います?」
 気味の悪い嗚咽を漏らしている金獅に、明珠が色々な物を拭けとティッシュを差し出す。愛学での数々の思い出が金獅の脳内でドバッとあふれ返っているに違いない。
「大丈夫!? 今はお別れだけど心配ないよ、今度同窓会でも企画するから、するがらぁ~~……」
「娑己様、はい、ティッシュ」
「うん……」
 金獅に駆け寄って慰めていた娑己は、逆に泣き始める始末。やはり別れは惜しいもの、愛学の生徒として過ごした時間は濃密なものだったのだ。
 そこにガラリ、と戸の音が響く。先生が入ってきた。
「銀八先生……」
 皆が反応する。銀八って名前なの、この愚神。

「もう皆、この学校に戻ってくることはありません。ですが皆さんの過ごした時間は、さっきの歌のように心の中にずっと残っているはずです」
「先生……」
「……これから始まる暮らしの」
「先生、何となくそれはやめたほうがいいと思います」
 数名の生徒からのツッコミ。先生はゴホン、と咳払い。
「とにかく、ここでの生活は皆さんの財産です。この先色々な苦難に襲われることもあるかもしれませんが、君たちなら乗り越えることが出来る。先生は確信しています」
「……今までありがとうございました!」
 全員立ち上がり、深々と礼。学生生活、最後の礼だ。

「先生ー」
 ひとしきり先生のお話が終わったところで、詩が挙手する。
「答辞でも言いましたけど、私、もともと常識知らずで。学校で、とっても成長できました」
 成長の軌跡はひどくぼんやりして、輪郭すらもおぼろげな回想。詩は不鮮明な学校生活を思い返す。
 うん、やっぱわからん。
「先生、ありがとうございました」
 わからなくても礼だけは伝えておく。先生は黙って頷いて納得している風。

「みんな! 先生を胴上げだぁ!」
「おぉー!」
 五々六の音頭で、先生のもとに全員集合、教室内ながらも抱えあげる。先生は「おいおい」と困ったような笑顔である。
「ありがとう先生! ありがとう愛学! 俺、これからは真面目に生きるよ!」
「もう先生、警察に迎えに行けないからな!」
 高く放り上げる胴上げの最中、五々六が心からの感謝を伝える。
「……五々六が真面目に生きてもせいぜい、土方にでもなって元ヤン女と結婚して、レベルの低いしょうもない生活を送るのが関の山だよね。ね、トラ。襟足無駄に長い可愛げのない子供とか産むんだろうね」
「お前が一番可愛げねえよ」
 最高潮で釘を刺すのが七海クオリティ。大団円とはいかなかったが、全てが無事に終幕したのだった。

「……私はもう行かなきゃいけない。あなたたちもあんまり遅くまで残っているんじゃないぞ」
「はーい」

 ピシャリ、と戸が閉じられる音がして。廊下で先生はふぅ、と息をついた。
「先生、あの……」
「うわっ。何だお前たちか」
 そっぽを向きながら先生を廊下で迎えたのは環と鬼丸だった。廊下の壁に背をもたれて、ずっと中の話を聞いていたのだ。
「まぁ……今までありがとな」
「……最後ぐらい、みんなと一緒に過ごしたらいいんじゃないか?」
「うっせーよ、人前で感動して泣けるかよ……」
 鬼丸が袖で目元を拭う。先生はめっちゃ優しい笑顔で2人の頭をくしゃっと撫でて、くるっとふり返って歩いていった。
 こつこつと鳴る靴音が、廊下の向こうに消えていく。



 洗脳が解けた後は天国と地獄だった。
 地獄とは主に、茶番劇を演じた屈辱による諸々。

「……って何なんだこの茶番はよぉ!? おいコラクソ愚神コラ! 満足げにお家帰ろうとしてんじゃねえぞコラァ! てめえをこの世から卒業させてやらぁ!!」
 猛り狂うヤーさん、呆けていた七海と無理やり共鳴し、銀八先生の後を追いかけていく。
 もちろん殺すつもりだ。

 五々六が飛び出していった教室で、金獅はただただ震えていた。肩が。怒りで。
 洗脳が解けようが記憶が消えるわけではない。色々と突っ込みどころ満載すぎた己の設定が腹立たしくて、恥ずかしくて。
「おい、ガキ。共鳴」
「はい」
 全てを破壊し尽くした存在として、色々なアレを破壊するために金獅も銀八を追う

「……何が清く正しく、だ……僕なんかが馬鹿馬鹿しい」
 ポツン。ヨハンは苦々しい思いに包まれながら、いそいそとその場を帰ろうとした。どうせ夢だったんだ、忘れてしまおう。
 しかし、カサリと、手の中の感触に気がつく。卒業証書として渡された、頑張ったで賞。
「……頑張ったで賞、Johannes Lindwurm殿……貴殿はこれまでとても頑張ったことをここに賞します……平成28年……愛☆青春学園……」
 ほろり、ヨハンの目頭から熱い涙が落ちる。
「……だから何だよ……お前愚神なんだろっ……次会ったら絶対、殺してやるからな……っ!」
 次は必ず討伐してみせる、悲しい決意を胸に秘め、ヨハンはとぼとぼと家に帰るのだった。

「早く帰ろーぜー」
「やってらんねーわー」
 環と鬼丸は洗脳中とほぼ変わらない調子で教室を出て行った。今度はガチでやってられない気分ではあるが。

 愚神は時間とか感動とか色々なものを奪っていっただけではない。実はそこそこ良い気分になっているエージェントも。
「何だか素敵な夢を見てた気がするー」
「あたしもー」
 娑己と紫刀は何だかんだ結構満たされていた。というか卒業の感動で胸が一杯で、愚神のことなど完全に頭から抜けていた。
「このブレザー何なのかわかんないけど、このまま帰ろっか」
「さんせー」
 ほくほく笑顔で夕暮れの家路へ。何という幸せな依頼。

「愚神の洗脳ってすごいんだね」
「ありえないことばっかりだったね……」
 最後まで教室に残っていた歌と月。洗脳が解けようとも特に式の最中とスタンスは変わらない。
「でも楽しかったよ。それに、卒業してもしなくてもつきとは一緒だなってうれしい」
「……そうだね。末永く宜しく」
 茶番劇の中で確かめ合えた繋がり。2人が目を合わせて笑うと、何故か学校のチャイムが鳴り響いた。
「帰らないとね」
「もうこんな時間だ」
 あんまり遅くまで残らないように。詩と月は先生の言葉を思い出して、教室の戸を通り、静かに扉を閉めるのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568

重体一覧

参加者

  • Analyst
    宇津木 明珠aa0086
    機械|20才|女性|防御
  • ワイルドファイター
    金獅aa0086hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
  • マイペース
    廿枝 詩aa0299
    人間|14才|女性|攻撃
  • 呼ばれること無き名を抱え
    aa0299hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 急所ハンター
    ヨハン・リントヴルムaa1933
    人間|24才|男性|命中



  • エージェント
    五行 環aa2420
    機械|17才|男性|攻撃
  • エージェント
    鬼丸aa2420hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
  • 初心者彼女
    天都 娑己aa2459
    人間|16才|女性|攻撃
  • 弄する漆黒の策士
    龍ノ紫刀aa2459hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
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