本部

なごり雪の友情

巳上 倖愛襟

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/03/28 00:48

掲示板

オープニング


 神戸の人混みを歩いていたあなた達は、突如聞こえてきた声の方に目を向ける。
「なんっなんだ! あいつは!」
 若い男の声だ。
「誰が行くか! ボケーッ!」
 視線で姿を捉えれば、男というよりは少年。
「行かねぇよ。……バカ野郎」
 多くの行き交う人達の中で、立ち止まった彼が気になったのは、落としたその声が泣きそうだったから。
 そして振り上げた拳が何かを地面に投げつけようとして、止まったから。
「くそ、頭……痛ぇな……」
「おい、こんな人混みで立ち止まったら危ないぞ」
 片手で頭を抱える少年に声をかけた途端、案の定、後ろから人にぶつかられている。
「あ……っ!」
 彼の手から零れ落ちたのは、トップが長方形のペンダント。
 拾おうと手を伸ばした少年の手の先で、気付かぬ通行人の足がシルバーのペンダントを踏もうとした、その時――。
 ペンダントが飛び跳ねた。
「あぁ?」
 少年は声を洩らし、そのままペンダントは人々の間を縫うようにして飛び跳ね遠ざかっていく。
「従魔!」
「ちょっ、待……」
 目を剝いたあなた達の前で、少年がつんのめるようにして駆け出した。
「くっそ! 昌良のペンダントが動くってのは勘違いじゃなかったのかよ!」
「――待て。自分達はH.O.P.Eのエージェントだ」
 共鳴していた為、後から追い付く事になった少年と一旦並走し声をかければ、「エージェント!?」と頓狂な声をあげる。
「『昌良のペンダントが動く』って、どういう事?」
「俺のあれと揃いのペンダント! 昌良が『朝起きたら置き場所が変わってた。変だなー』って、『寝惚けて移動させてんじゃねぇの』、なんて俺は言ってたんだけど」
 何日か続いているとの話を聞いて、そんな何日も続く勘違いはおかしいだろう、とあなた達は思う。
 そちらのペンダントにも従魔が憑いている可能性が高い、と判断した。
「昌良君ってのは、今どこにいる?」
「知らねーよ」
 絶交中だ、と吐き捨てて。
「……離れる前に学校に寄るっつってたから、中学校じゃね」
 投げ遣りな少年にその中学校の名前を聞き出し、走りながらスマホを耳にあてた。


 仲間から連絡を受けたあなた達は、ペンダントを所持している少年を捜す。中学校へと向かうと、正門の前、ジッと校舎を見つめる少年がいた。
 近付き声をかけようとした途端、少年が崩れ落ちる。
「おいっ!」
 大丈夫か、と屈み見れば、酷く青い顔をしていた。
「すみません。……何だか吐きそうで」
 言った少年は、「ぐっ」と口を塞いだ。
「吐いてしまうか?」
 首から下がるペンダントを確認しながら尋ねれば、首を横に振る。
「大丈夫です。吐き出したいのは、きっと情けない言葉の方。言ってはいけない言葉、だから」
 情けない僕を見せたくない、あいつに――。
 ギュッと眉根を寄せて、泣きそうな表情をした。
 従魔を追いかけ中との仲間からは詳しい話は聞けなかったが、何か事情があるのだろうとあなた達は察する。
 ペンダントに注意を注ぎながら、何があったのかを聞いた。
「僕、東京の学校に引っ越すんです。……それで、弘人が――僕の親友が、駅まで見送りに来てくれるって、言ってくれたんですけど、断っちゃって」
「なぜ?」
「来られたらきっと、僕、泣いてしまうから」
 そう落として、ペンダントトップを握り締める。
「これ、僕が引っ越すって判ってから、あいつがくれたものなんです。『男同士だけど、気にすんな』って、お揃いの。『俺のこと忘れんな』って、メッセージが刻まれてる……。最近、僕、なんか変なんですよね。すぐ疲れるって言うか、調子が良くなくって。だからかな」
 ネガティブになってる、と苦笑した。

 大切なものなのだとは思うけれど、従魔が憑いているのであれば追い出し討伐しなくてはならない。

 昌良を戦闘に巻き込みたくないならば。
 一旦ペンダントを手放してもらう必要があるだろう。
 それはほんの少しの、間だけれど。

 自分達が攻撃をしてもペンダントは壊れないと、壊さないと、説明したとして。
 彼がネガティブになっている、今この時に。
 昌良は素直に渡してくれるだろうか――。

 どう言えば信じ、預けてくれる?
 己を支える、あの宝物を。

解説

●目的
従魔の討伐。
弘人に引っ越す昌良を見送らせてあげる事。


※以下、PL情報。

●山根弘人 14歳
親友に「見送りに来なくていい」と言われ、意地になっています。
従魔憑きペンダントにライヴスを吸われ、体調不良と頭痛が出ています。痛みの所為でイラつき、冷静に考える事が出来なくなっています。
戦闘後、弘人を駅に連れて行くには意固地になっている彼を説得する必要があります。
今は、何時の電車で行くのかも知らずにいます。ペンダントを大事にしている彼が後悔しないよう言葉を掛けてあげて下さい。

●上原昌良 14歳
泣いてしまう姿と、情けない言葉を親友に知られたくない為、弘人の見送りを拒んでいます。口から出てしまいそうなのは、弘人を困らせるだろう「引っ越したくない。行きたくない」の言葉です。
従魔憑きペンダントにライヴスを吸われ、吐き気と体調不良の所為でネガティブになっています。
電車の時間を弘人へと伝えさせようと思えば、こちらも説得してあげる必要があります。

●敵
従魔 イマーゴ級 2体(弘人と昌良のペンダントに、それぞれ1体ずつ)。
攻撃されると、攻撃してきた対象の反対側に逃げようとします。


●時間帯と戦闘場所
とても寒い日の夕方です。昌良が駅に着く頃には、なごり雪もちらほら。

弘人側は人通りの多い通りでペンダントを追いかけています。もう少し走れば右手に公園が見えてきますので、そこに従魔を向かわせて下さい。

昌良側は住宅街にある中学校の正門前にいます(門は開いています)。今は人通りはありませんが、時間が掛かり過ぎれば人が来ます。

●今回は、すでに二手に分かれています。
『弘人側』にいるのか、『昌良側』にいるのか、プレイングの冒頭にお書き下さい。
リプレイ開始時、弘人側は既に共鳴を済ませており、ペンダントを追いかけています。

携帯で互いに連絡を取り合う事は可能です。メールでならば、傍にいても弘人と昌良に気付かれる事はありません。

リプレイ


 ちょうど親友達がそっち方面に行っている筈、という礼野 智美(aa0406hero001)の言葉で彼等と連絡を取り合っていた中城 凱(aa0406)は、走りながらスマートフォンを耳にあてる。
 まだ話していないペンダントの形状を伝えた。
『ねえ、昌良君ってお友達でしょ? なんで絶交なんてしちゃったの?』
 行き交う人々を避け山根弘人と速度を合わせ走りながら、御神 恭也(aa0127)と共鳴している英雄・伊邪那美(aa0127hero001)は弘人へと問いかける。
「あぁ? なんでって、それはあいつが――」
 そこまで答えた弘人はギリッと歯を食い縛り、睨み付けるように前方のぺンダントを見つめた。
「くそっ」
 少年の吐き捨てる声に今の状況では詳しい話を聞き出すのは難しいと判断し、自分達も従魔を追いかける事を優先する。
(従魔の討伐も大切だけど、この子達の仲も如何にかしないと)
「頭を冷やすのに時間を掛けたい所だが、それも難しそうだな」
 思念で伝えてきた伊邪那美に恭也も返し、走るスピードを上げた。
「ペンダント憑きの従魔を追いかけてるのは良いけど、この人混みの中で戦闘する訳にはいかないし」
 前を走っていた凱に追いつくと、彼のそんな呟きが聞こえてくる。
『あの公園に向かうように追い立てよう。多分彼が追ってくるから逃げてるんだと思うし』
 智美が告げ、「そうだな」と恭也にも判るよう指差したのは、通りの右側に見えてきた公園。
 確かにこの人混みの中、このままでスナイパーライフルを撃つ訳にはいかないようだ。
「ならば」
 それ以上は声には出さぬ恭也と一瞬の視線を交わし合い、先回りするのはこちらの役目だなと凱は更にスピードを上げた。

「うん。見つけた彼が、その形状のペンダント付けてる。今、話しを聞いてるとこだよ」
 そう伝えて凱からの電話をきった離戸 薫(aa0416)は、スマートフォンをしまう。少年を見れば、白瑛(aa3754)と倭奏(aa3754hero001)の手を借り正門の内側、塀に凭れるようにして座っていた。
『体調悪いみたいだし、もっとちゃんと座れる所にしたいんだけど。近くに座れる場所ないみたいだから……ごめんね、大丈夫?』
 倭奏が心配そうに顔を覗き込んで、『水、買ってくるね』と立ち上がろうとすれば、上原昌良に手を掴まれた。
「大丈夫、です。ありがとうございます。凭れられるだけで、随分、楽です……」
 僕は、と自己紹介した昌良に、再び地面に膝を付いて問いかける。
『引っ越しちゃうのに……どうして学校へ?』
 すぐにでもペンダントを調べて従魔を倒したい――白瑛からはそんな気配も伝わってきていたが、まずは昌良を落ち着かせてあげたかった。
 大切な物のようだし、ちゃんと持ち主の了解を得たかった。
「お別れを言いたくて」
 2年間通った学校だから、思い出が詰まっていると昌良が俯く。
「……あと1年、一緒に通いたかったな」
 校舎を見上げたその瞳が映すのは、きっと先程聞いた、弘人という友人の事だろう。
『泣いちゃうの見られたくないの?』
 呟けば、ハッとしてこちらを見返した。
『でもいいじゃん? 男同士だけど気にすんなってペンダントくれた友達なんだろ。泣いたって、情けない言葉だって、きっと』
「あいつ、間違いなく困った顔するよ。『引っ越したくない。行きたくない』……そんな言葉、言われたら。――判るんです、親友だから」
『それでもきっと、話を聞いてくれるよ』
 僅かながらも心を動かされたらしい昌良は、それでも小さく苦笑を浮かべる。相手の反応だけではなく、己自身の気持ちの問題も、あるのだろう。
「ネガティブになっているのって、そのペンダントの所為って言ったら信じます?」
 えっ、と見返した昌良に、薫がしゃがみ、説明する。
「僕の親友から電話がありました。君の親友のペンダントに従魔がついていて、それが勝手に動いて逃げているって。多分、ライヴス吸われているんだと思いますよ? 思考がマイナスに傾いているの」
「弘人、の?」
 薫の背後にいる美森 あやか(aa0416hero001)も頷いて、言葉を足した。
『ペンダントが勝手に動く――心当たりがあるでしょう? あたしの親友も、昌良さんの親友と一緒に今、ペンダントを追いかけています』
「そして弘人君から、君のペンダントが寝ている間に動いているらしい事を、聞きました」
「あなた達は……いったい……?」
『お兄さん達、H.O.P.Eのエージェントなんだ。ちょっとだけそのペンダント、貸してもらっていいかな?』
 倭奏の言葉に目を見開く昌良は、ギュッとペンダントを握る。
「そんな……」
 受け入れられない気持ちが、握る手に籠められていた。
 突然の呼び出しに少しの戸惑いを抱いていた石井 菊次郎(aa0866)は、「ええと」と仲間達の後から行動を起こす。
「君、大丈夫ですか?」
 サングラス越しの瞳が、昌良の様子を確かめた。
 大丈夫そうだと判断して、ライヴスゴーグルを取り出す。彼がしたい事を察した薫が、少年の前であやかと共鳴した。
「これはライヴスゴーグルと言ってライヴスが異常に強いものを判別する機械です。ここを見て……共鳴したリンカーはこう……」
 菊次郎に言われるままにライヴスゴーグルで薫を見ていた昌良が、首を傾げる。
「あれ、見えませんか? 周囲に立ち上ったり拡散していくライヴスが?」
 すみません、と困ったような昌良の反応に、ポリポリとこめかみを掻いた。
「……一般人にはダメみたいだと技術部に伝えておかなくてはいけませんね」
 呟いて、「ちょっと失礼」と己が装着し、昌良の掌にあるペンダントを確認する。
 しかし中々見えずにしばらく見つめ、ようやくちらりとだけライヴスを確認する事が出来た。
「ライヴスの吸収が弱いようですし、イマーゴ級、といったところですか」
 それでもあまり力の強くないイマーゴ級のライヴスの動きが見えたという事は、それなりの量のライヴスを集めてきている、という事ではないだろうか。
 金に縁取られた紫色の瞳が、不安そうな少年とその手にあるペンダントをじっと見つめていた。


 公園の前まで疾駆し勢い良く振り返った凱の手にある剣に、通行人の何人かが気付く。
「え? ちょっと」
「あれって……」
 剣を短剣のテルプシコラへと持ち替えた凱は、ざわめき始めた人々の視線が向いた事で大きく声を発し、通行人達を誘導した。
「我々はH.O.P.Eのエージェントです! 従魔を追跡しています、公園とは反対側に寄って下さい!」
 どちらにしても短剣に持ち替えたとは言え、この行き交う人混みの中で武器を振るうのは難しいだろう。凱が指差した方向に、戸惑いながらも慌てて人々は流れて行った。
「え? なになに?」
「エージェントだって」
「早く」
 自分よりも手前で足を止め、行き交う人々に紛れ見えずにいた恭也の姿が現れる。
 長い銃身を構え狙いを定めた恭也が、釣られたように人々と同じ方向へ遅れて逃げようとするペンダントの前方に向け発射した。
「なっ!」
 驚きの声をあげた弘人が、「止めてくれ!」と恭也の後方で叫ぶ。
「壊す事だけは避けないと」
 手を伸ばし駆けて来る弘人の姿を恭也越しに確認して、凱は呟いていた。
「男がペンダント持ってるって……多分、大事な品だと思うから」
 その為には、彼が追いつくまでに済ませたい――その思いで、こちらに逃げて来るペンダントへと素早く短剣を振るった。
 連続した攻撃に、従魔がペンダントから離れる。
 迫った恭也が武器を大剣に持ち替え、目にも留まらぬ速さで従魔に振り下ろした。狼狽と翻弄により動けぬ従魔に、凱が恭也を見遣る。
「任せていいですか?」
 頷く恭也に頷き返し、公園内へと移動した。
 振り返ると、勢い良く放たれた恭也の攻撃が従魔を公園内へと吹き飛ばす。
 攻撃者から逃れようと、自分へと体当たりしてきた従魔に向け、凱は振り抜く刃で衝撃波を放出した。

「憑依した従魔や愚神は被憑依された存在より先にダメージを被ります。弱ると分離したり消滅したりしますが、元の存在に傷は付きません。エージェントが憑依した愚神を攻撃して中の人物を助ける映像とか見た事は有りませんか?」
 理路整然と説明する菊次郎に、昌良は俯き力なく首を横へと振る。
「だからそのペンダントをちょっとだけお借りしても良いですか?」
「でも。こんなに小さい物、ですし……」
 説明を聞き頭では一応の理解をしてみても、心には不安が浮かぶ。
「……弱りましたね」
 呟く菊次郎の肩に、テミス(aa0866hero001)が手を置いた。
『おそらくその少年は、そんな事を聞きたいのでは無いと思うぞ』
「……絶対とは言い切れないんじゃないか――そう、思えてしまうんですね?」
 薫の言葉に、頷く。
『でも』
 震える昌良を、瞳を細め見つめる倭奏が伝えた。
『2人の想い合う気持ちを邪魔する奴が、それに憑いてるんだ。俺達はそれをなんとかしたい』
 白瑛と視線を交わし合うと幻想蝶に触れ、共鳴する。今度はその手を、昌良へと差し出した。
『ちょっとだけそのペンダント、貸してもらっていいかな?』
 必ず返すと、彼等全員の表情が言っていた。

 菊次郎とテミスも共鳴を済ませ、昌良から預かったペンダントを囲むように立つ。
 ――あんまり傷つけないように。
 そう思い、二胡弓刀残月からナイフに持ち替えた白瑛がチェーンを持ち、ナイフの柄で当てようとした打撃は、ペンダントトップには当たらない。
 けれどもペンダントが避ける為に見せた不自然な動きは、今までエージェント達の説得を聞いていた昌良へと、従魔憑きなのだと知らしめていた。
 逃げるペンダントに向けた菊次郎の、テミスが融合しているラジエルの書から銀の魔弾が放たれる。
「あ、あの!」
 両手を地面に付き立ち上がろうとする昌良に肩越しの視線を一瞬向けて、薫はペンダントへと視線を戻した。
「あなたは、動かないで下さい。大丈夫、わたし達を信じて」
 英雄寄りの、美しき女性となった姿。踏み込み振るうのは、ライヴスのメスだ。
 細い刃を薙げば、長き髪が流れるように揺れる。
 薫から逃げようとするペンダントを、菊次郎の銀の魔弾が貫いた。
 続けざまに白瑛がぶつけたのは、力を込めた重い一撃。
 衝撃に従魔が離れると、ドレスローブの裾をはためかせ、薫の操るメスがその身を切り裂く。
 反対側に逃れようとした従魔に放った、銀の魔弾。
 従魔が消滅するまで見据えていた十字の瞳孔を瞼が隠すと、十字剣の意匠が浮き出ていたグリモアを、菊次郎はパタリと閉じた。


 戦闘を終え共鳴を解いたエージェント達は、今度こそ弘人から友人との間に何があったのかを詳しく聞く事にする。
「知らねぇよ。昌良が言ったんだ。『見送りに来なくていい』って。俺があいつに、何が言えんだよ、これ以上……」
 掌にペンダントを握り込み言う弘人は、視線を逸らせて仏頂面だ。
『う~ん、もしかしてだけど昌良君も本心で言ったんじゃないんじゃないのかな』
 伊邪那美の言葉に、「はぁッ!? 何で?」と怒った口調のままで聞き返してくる。
『だって、首飾りには互いに従魔が憑いてたんでしょ? 弘人君も会った当初は様子が変だったし、昌良君も同じだったんじゃないのかな?』
「変? ……俺、変だった?」
 自覚がなかったらしい少年は、首を傾げながらも素直にはなれないらしい。大きく溜め息を吐いて、それでも動こうとはしなかった。
「伊邪那美の言った可能性はある。後悔をしない様に確かめる為にも会ってみたらどうだ?」
 恭也の言葉には、チロリと視線を向ける。
「けど……」
「従魔と判ってもペンダントを追いかけたんだ。本当に縁を切りたい訳ではないんだろ?」
 見透かされた事に「うっ」と声を洩らした弘人は、ただ視線を逸らした。
「揃いのペンダントって言ってたけど」
 凱の呟きを聞いて、「俺が贈ったんだ」と掌の上のペンダントを見つめる。
「引っ越すって、知ったから」
「……そんな大事なものに勝手に従魔がついたのって……気に病まないって言える?」
『何日か続いてると言っていたが、そんな何日も続く勘違いはおかしいだろう。お前自身が影響受けて、冷静に考えられなかった可能性が高いと思う。体調不良の可能性も高いが……冷静に考えろ。絶交中で見送りに行かなくて、序に行先の住所とか聞いているか?』
 凱に続いた智美の言葉には、「聞いて、ねぇけど」と拗ねて返した。
 ひとつ、溜め息を吐いて。智美は更に続ける。
『そして相手だが、お前の住所はっきり知っていて、今後も絶交した相手に手紙出すと思うか? ……今が、友情が続くか消えるかの瀬戸際だと思うぞ?』
 途端に唇を噛んで、泣きそうに顔を歪めた。
「従魔にライヴスを吸われて、今はまだ冷静では無いだろうが、回復したら恐らくは悔やむ事になるぞ」
 次いだ恭也の言葉に、「そう……かもな」と返して少年は深い溜め息と共に頭を抱える。
 こうまでしても動かぬその姿は、まるで何かを、待っているかのようだった。

『引っ越すって言ってたけど、時間は大丈夫?』
 何時の電車で行くの? 倭奏がそう聞けば、「5時の電車なのでまだ大丈夫です」と昌良から微笑が返る。
 聞き出せた出発の時間に、早速弘人の傍にいる仲間へとメールを送ろうとした――のだが。
『……シロどうしよう。メールってこれ?』
 小声で白瑛へと尋ねれば、「……さあ?」と頼りない返事。
 2人共が、現代の利器には不慣れであった。
 あーだろうかこーだろうか、と悪戦苦闘している2人に、見兼ねた菊次郎とテミスが覗き込む。
「大丈夫ですか?」
『それはたぶん、ここを押すんだと思うぞ』
 2人の助言を聞きながら、何とかメールを送る事が出来た。

〔うえはらくんでんしゃごじ〕

 4人が1つのスマホを覗いている間、薫とあやかは昌良の傍に付いておく。
「いいんですか? 君の親友に伝えなくて」
 薫の言葉に、昌良は瞼を伏せて寂しげな笑みを浮かべた。
『さっき薫さんが言ったように、ライヴスを吸われたから思考がマイナスに動いているんだと思いますよ』
「そうですね……でも。今はまだ――」
『本当はこうして欲しいんだけどつい反対の事を言っちゃうってあるよな』
 倭奏の言葉に、白瑛があっさりと答える。
「……正直になればいいだけだろ」
『シロはいつも意地張ってるじゃん?』
「……あんたはいつもうるさいな」
 そんな2人の遣り取りに笑って、立ち上がりズボンの砂を払った少年は、「じゃあ僕はそろそろ」と告げる。
『送っていきますよ』
 あやかの言葉に、薫も頷いた。
「……絶対後悔すると思いますから、このままだと」
 それは小さな、昌良を想っての呟き。
 歩き出そうとする昌良の背中を、菊次郎とテミスが優しく押した。
「ありがとうございました」
 ペコリと頭を下げた少年に軽く上げた手を振って、菊次郎とテミスは昌良を送り出した。


 エージェント達が電車の時間を伝えて急いで行くよう促せば、弘人は「くそっ!」と悔しげに言葉を吐いた。
「なんであいつはッ、自分で連絡して来ねぇんだよ!」
 ギュッと拳を握った手が、けれどもペンダントトップに触れて、「バカヤローッ」と叫びながら駆け出す。
 それを見送って背を向けた恭也に、『一緒に行かなくて良いの?』と伊邪那美が訊いた。
「下手に他人の目があったらまた意固地になるかも知れん」
 その言葉には、確かにそうかも、と少し笑って、恭也の横顔を見上げる。
『……恭也って弘人君と齢の差って無かったよね?』
「俺が16で向うが14だから。まあ確かに差が無いと言っても過言では無いな」
『2人の言動に10歳差は確実にある様に感じたんだけど……』
「…………」
 少しの沈黙の後、そうか? と言いたげに恭也の片眉が僅かに上がった。

 駅のホームへと走り込んで来た弘人とエージェント達に、昌良は心底驚いた顔をする。
「え……弘人……? なんで……」
 昌良の言葉に、雪が降り始めた道路を本当に全力疾走だったらしい弘人は、文句を言いたげな瞳で――しかしゼェゼェと肩で息をするのが精一杯な様子で、昌良を見返した。
 ハハッと、笑いを零して。昌良が弘人の腕を掴み、皆に紹介した。
「……僕の親友の、弘人です」
 途端に今まで怒っていた事を忘れたように、弘人が顔を真っ赤にする。
「おっ前は、ほんとに!」
 ガシガシと、昌良の頭を押さえ込むようにして弘人が髪を掻き乱した。
「あ、ヒドイ……」
 ちゃんと紹介してよ、の言葉にぶっきらぼうな声を出す。
「俺の親友……の、昌良だ」
 エージェント達と自己紹介をし合い、凱が薫の親友だと知ると、昌良はとても喜んだ。
「皆さん、引っ越す直前にでしたけど、会えて嬉しかったです。弘人もありがとう……来てくれて」
「誰かさんは連絡くれなかったけどな」
 再会出来た昌良と弘人に、倭奏がインスタントカメラを向ける。
『シロ、かめらってここ押せばいいの?』
「山育ちの僕が知るわけないだろ。ぐりぐりカチってやれば撮れるんだよな!?」
『ぐりぐりカチって何!?』
 大騒ぎの2人に全員がこちらを向いて、弘人と昌良が顔を見合わせ笑った。
『しゃったーちゃんす』
 それは夕焼けを映す茜色となごり雪の中、切り取られた素敵な瞬間。
 けれども笑っていた顔が、歪んで。
 昌良は縋るように弘人の袖を掴むと、俯き肩を揺らす。
「――引っ越したくない。行き……たくない」
 彼がその言葉を言えたのは、エージェント達のお陰だろう。
 言いたくて、言えなくて。
 やっと吐き出せたその言葉に、「バカ野郎」と弘人が返した。
「俺だって、行かせたくねぇんだよ」
 それ以上は、何も言えずに。
 エージェント達が見守る中、2人はただ強く、互いに握り合った手を小刻みに震わせていた。

「ありがとうございました」
 来た電車に乗って、頭を下げた昌良が全員を見回す。
「気を遣って下さった、先に帰られた方達にもよろしく伝えて下さい」
 うん必ず、と頷いて、倭奏はインスタントカメラを昌良へと差し出した。
『これ現像が必要だけど……2人があの時どんな顔をしていたのか残す事が出来る。焼いた写真は手紙に添えて送ってやればいいんじゃないか。――こういうあなろぐなのも、悪くないだろ?』
 弘人には聞こえぬよう小さく伝えた倭奏に、「発音なんかおかしいって」と白瑛の突っ込みが入る。
 2人の遣り取りにまた笑って、「ありがとうございます」と大事そうに受け取ったカメラを両手で包み込んだ。
「弘人に必ず、手紙、送ります」

 ――うん。大丈夫。
 ほんの少しのきっかけさえあれば。きっと……ずっと続く、友情だろうから――。


 動き出しても中からずっと手を振っていた昌良の電車が見えなくなるまで、弘人と共にエージェント達は見送る。
『本来親友だったって……俺とあやかみたいな感じだったのかなって』
 電車の見えなくなった線路を見つめたままの智美の呟きに、凱が顔を向ける。
『俺は今の所あやかと喧嘩した事ないし……こっちきてからの半年間に限るけど……』
 そこで言葉を途切らせた智美は、声を潜めて凱に告げた。
『お前と薫は、親友同士だけど……お前はその関係変えたいんだろ?』
 吹き出しそうになる。思わず薫を見ると、視線を感じたのかこちらへと茶色の瞳を向けた。
「……こんな時にその事言うんじゃねぇ」
 此奴はもう、と零しながら再び親友を見れば、こちらの会話を解っていない様子であやかと顔を見合わせ首を傾げている。
 ひとまずは誰にも聞かれていなくて良かったと、胸を撫で下ろした。
 
 袖で何度も目を擦っている弘人の背を押して、エージェント達はゆっくりと駅を後にする。
「ありがとう……あり、がとう……」
 繰り返される礼に、優しく首を振って。
「とんでもないよ」
 彼を支えながら、そう返した。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 清廉先生
    白瑛aa3754

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 清廉先生
    白瑛aa3754
    獣人|15才|男性|回避
  • 裏技★同時押し
    倭奏aa3754hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
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