本部
掲示板
-
【相談】悪意の花を取り除け
最終発言2016/03/15 18:20:54 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/03/15 18:15:37
オープニング
「香港へ、ようこそ。観光ですか、ミスター&ミセス? 香港は、良い所ですよ」
空港に降り立った老夫婦に、少女が一輪の花を渡す。夫婦はわずかにその花をいぶかしんだが、可愛らしい少女が差し出した花を拒否することもできずに受け取った。
エキゾチックな容姿の彼女は、英国からやってきた夫妻にはひどく幼く見えたのだ。自分たちの孫のような年頃の少女を邪険に扱うことはできなかった。空港にウィランズの残党として、その少女の顔写真を張られていたとしても外国人の夫妻には分からないことだった。
「ありがとう。観光を楽しませてもらうよ」
にこり、と少女と老夫婦は笑いあう。
そして、別れた瞬間に少女は笑った。
「では、さようなら。楽しい最後の旅を」
少女がそう囁いたとき、老夫婦が受け取った花がわずかに輝いた。
あと数十分で、あの花は爆発する。
いいや、あの花だけではない。少女が配り歩いた、三十個以上の花が一斉に爆発するのである。そうなれば、空港の機能は維持できまい。
配り歩いた花は実は爆弾であり、あと二十分もすればいっせいに爆発する。この広い空港は、阿鼻叫喚に包まれることであろう。
旅行者に花を配る女性――リウには目的があった。
彼女は、すでに解散したヴィランズの一員であった。リーダーであった父の落とし種の一つでしかない彼女に、元より組織での発言権などなかった。それでもリウがヴィランになったのは、慕う兄を逃がす為だった。
「兄さん、もうすぐ私が逃がしてあげる。そしてら、私もすぐに兄さんの跡を追って外国に行くから。一緒に逃げてあげるから」
リウは、兄にプレゼントしてもらった大きな花のブローチを握りしめる。
十分後、彼女は空港を爆破させる。
――どーん、と老夫婦に渡したばかりの花が爆発したのはリウの想定外の事であった。
●
「もうすぐ、15時か。リウが空港を爆破する、時刻だな」
ハオランは変装をした姿で、空港が爆破される瞬間を待っていた。フードに黒ぶちの眼鏡をしただけなのだが、誰もハオランが指名手配されたヴィランであるとはわからなかった。これから、ハオランは偽造パスポートで外国に飛び出る。跡を誰かが追おうとしても、すべてはリウが爆破してしまう。
「リウ、私のために死ねて本望だろ」
もうすぐ、ハオランが乗る飛行機が飛び立つ。
そして、リウが旅行客に配った爆弾が爆発する。リウは爆弾の規模は全て小規模だと思っているだろうが、あの花の一つには大規模な爆弾が混ざっている。リウも空港も、ぜんぶ吹き飛んでしまうだろう。
――どーん、とハオランにも耳にも予定外の爆発音が聞こえてきた。
●
「爆発が起きたぞ!」
空港の職員がすぐさま現場に駆け付けると、そこには焦げた人型があった。側にいた老婦人の証言から、自爆テロの類ではないと職員は判断する。老婦人は、「花を……花をもらってすぐに爆発したの」と脅えながら話す。詳しい事はわからなかったが空港がなにものかに、攻撃を受けたのは間違いないようだ。
「すぐに各フロアで、乗客の移動を制限しろ。ついでにHOPEの協力も要請だ」
「警察ではなくて?」
「最近は、ヴィランとそれに対抗するHOPEの活動が活発になっているらしいからな。最近だって、ヴィランズの組織がHOPEによって壊滅したっていうじゃないか」
職員が「あれが、逃げた残党らしい」と少女に思えるほどに若い女と男の顔写真が載ったポスターを指さした。
「念のためだ。飛行機の離陸も着陸も許可するな」
空港職員は、HOPEに連絡をとる。
「――こちら、●●空港。爆弾事件が発生した。ヴィランの攻撃の可能性があるため、至急リンカーをよこしてくれ」
解説
・爆発物の排除
・爆弾を仕掛けた犯人の逮捕
・空港……比較的大きめな空港。手前から売店などがある一般フロア、搭乗手続きを終えた客の待合フロア、さらに手荷物検査を終えた客がいる搭乗口フロアがある。すべてのフロアに爆弾である花をつけた客が十名ずつおり、客自身にはその自覚はない。現在、爆発が起きたため一時的に各フロアへの出入りは禁止となっている。近隣を根城にしていたヴィランズ残党の顔写真が、目立たぬ所に貼られている。
爆弾……高性能ではなく、すでに時間前に一つ爆発している。威力は大したことはないが、花を身につけている人間は命の危険がある。なお、花は全てが白百合の形をしている。
――以下PL情報
リウ……香港の弱小ヴィランズの生き残り、指名手配されているが化粧でかなり幼く変装している。追いつめられた際は、銃で応戦する。現在は搭乗口フロアおり、他のフロアに行くことができない。追いつめられない限りは自分から行動を起こそうとはせず、爆弾が爆発する時刻まで待っている。しかし、自分も爆弾を身につけていると知ると錯乱し、ハオランが乗っている飛行機へと向かおうとする。大規模な爆発を起こす花のブローチを、知らず知らずにつけている。
リウの部下……五名。全員がナイフを所持。リウの側で一般人を装って、待機している。リンカーがリウの側に近づいたと思うと妨害をしてくる。しかし、リウは不利になったりすると空港の外へと逃げようとする。忠義の心はなく、傷めつけたりすると簡単に情報を漏らす。
ハオラン……指名手配されている。リウの腹違いの兄であり、出発間近の飛行機に簡単な変装をして乗っている。リンカーではないものの刃物を秘密裏に隠し持っている。追いつめられると、隣に座っている女性を人質にとって逃亡をしようとする。
リプレイ
「夫が……夫が女の子から花を受け取ったんです。そしたら、その花が爆発して」
目の前で夫を亡くした老婦人が涙を流しながら、自分が見たものをリンカーたちに語る。
「花を爆弾にね……なかなかゲスなことをするね~」
虎噛 千颯(aa0123)が、呟く。
『人を何だと思っているでござるか……こういう輩はゆるせないでござる!』
その隣で白虎丸(aa0123hero001)が怒りを隠すことなく拳を握りしめていた。
「むぅ。このあいだも空港で爆発事件を解決したのに、また爆発さわぎ。香港って、映画みたいに危険なところだねー」
ギシャ(aa3141)は、空港職員によって乗客の移動が禁止されたフロアを見渡していた。場所柄普段から避難訓練などはしっかりとしているのだろうが、思わず香港と言う場所は危険な土地なのかと勘ぐってしまう。
『やり口が違うから、たぶん違う組織だ。なんにせよ、被害を出さないように気を引き締めて行け』
火のついていない葉巻を口から外したどらごん(aa3141hero001)は、重々しく言葉を紡ぐ。見た目は竜だが、渋い仕草がハードボイルド小説の主人公のようであった。
『事態が急を要するようですね』
テミス(aa0866hero001)の隣で、石井 菊次郎(aa0866)は腕を組む。
「ふん、どうもヴィランどもと遊ぶのは興が乗らんな。手垢が付いたような手口で欠伸が出る」
『とは言え、空港で多発的に爆発が起これば社会システムを揺るがす大事件です。愚神どもの跳梁も激しくなるでしょう』
「まさに、我々にとっては好都合だな」
石井の言葉を聞いていたテミスは、冷たい目で彼を睨みつける。
「……戯言だ」
石井は、居ずまいを正した。
今は、ともかく老婆の話を聞くことが先決である。
「……花を渡したのは、どういった人間だったのでしょうか?」
紫 征四郎(aa0076)は老婆に、夫に花を手渡した人物の特徴を尋ねた。
「女の子でした。私たちの孫でもおかしくない年頃で、胸に大きな百合のブローチをしていたわ……。そうね、しいていえば顔立ちはあそこの写真に似ていたかしら。私たち以外にも花を配っているようだったから、私は何かのイベントだと思って」
老婆が指さしたのは、指名手配されているヴィランズの残党であった。もしも、爆弾を配っていたのがヴィランズの残党であるならば、これ以上の被害がでることも十分に考えられる。木霊・C・リュカ(aa0068)は空港の職員に、すでに飛行機に乗っている乗客の手荷物や飛行機そのものに爆発物が仕込まれていないかを調べるようにと伝える。
「飛んでいるときに爆発されると手に負えないからね」
穏やかに職員に自分の考えを伝えるリュカは、傍目から見ればさぞかし良い保護者であろう。しかし、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)はもう気がついている。リュカが頭のなかで、どういう作戦を考えているのかを。
『……』
「……何だか不満そうな雰囲気が、ばしばし伝わってくるね」
職員への説明を終えたリュカは、微笑む。
リュカの考えを見越したオリヴィエは、すでに不機嫌を露わにしていた。だが、リュカもそんなオリヴィエの考えを見切っていた。
「でも、良い考えだと思わない? 不安感もあんまり煽らないしさ、ね」
ダメ押しのようにリュカは、「こういうのは大抵時間制限がある物だから」と付け加える。
『急ぐべきか。……行ってくる』
オリヴィエは、戦場をかける傭兵の横顔で頷いた。
その緊張感に、面々は気を引き締めた。
●花を集めるものたち
『……このなかで、さっき女の子に白百合を貰った人はいません、か!』
一般フロアの真ん中で、オリヴィエは無垢な子供を装って叫んだ。人々は、オリヴィエの声に振り向く。一般フロアにいる客の視線をいっぺんに浴びたオリヴィエは、できるかぎり年相応の少年っぽく喋り出す。
「さっき女の子が配っていたのはお花は売り物で、間違いで配ってしまいました。代わりに、本物の配布用の花とお取り返します!」
品の良い中年女性が「じゃあ、お願いね」とオリヴィエに白百合を手渡す。優しそうな彼女も爆発に巻き込まれていたかもしれないと考えると、背筋が冷えるものがあった。オリヴィエのもとには、老若男女の様々な人々から花が届いた。
犯人は、無差別に花を渡していたようだ。
リュカは、オリヴィエに花を返しに来た中年女性に話しかける。
「すみません。俺は彼と花を配っていた女の子の保護者のような者なんですが……目が不自由で手伝いをすることができないんです。他に白百合の花を持っている人がいたら、彼に教えてもらえませんか」
「あら、大変ね。わかったわ。あなたは、ここで待っていて」
親切な人々の手伝いもあって、リュカの手元にはあっという間に花が集まる。リュカとオリヴィエは周辺を見渡し、花を取り残していないかを確認した。
見える範囲に花はない。
リュカは、他の花を集める者たちに連絡を取った。
「何だろう嫌な予感がするんだよな」
待合フロアにやってきた白市 凍土(aa1725)は、呟いた。人が多く集まる場所は、集団パニックが起こりやすい。見たばかりのテレビ番組の情報が、凍土の不安を悪戯に煽っているだけだと信じたいが現状が危険なことに変わりはない。
『トウ君の予感は大体当たるからなー。……気を引き締めて行こうか!』
シエロ シュネー(aa1725hero001)の声に、凍土は頷いた。
「パニックが伝染する前に、だな」
さて、どうやって花を回収しようかと凍土は考えを巡らせた。
花が爆弾であると明かしてしまうのは、愚の骨頂であろう。今はまだ、誰も花が爆弾であるとは知らないから平和が保たれているが爆弾があると分かれば、それこそテレビで言っていたような集団パニックの引き金になってしまう。
凍土は、花を持っているカップルに近づいた。
「海外の出張から帰ってくる両親にプレゼントをしたいんだけど、お金がなくて困ってるんだ。お姉さん、チョコと交換して。おねがい」
子供らしく凍土は、花を持っていた女性に声をかけた。無垢な子供の声と裏腹な堅実な凍土の思考に、シエロは『どっかの名探偵さんみたいだなー』と人知れず呟いていた。
「おじさん、その花すっごいきれい。友達のお誕生日会に持っていきたいんだけど、ゆずってくれませんか?」
花を持っている人間に無邪気な振りして近づいて着々と花を集めながら、凍土は考えていた。犯人はどこへ行くのだろうか、と。
「逃亡するなら、飛行機に乗るよな。……じゃあ、搭乗口にいるんじゃないのか?」
乱暴な考えだが、狙いが空港の爆破ならば飛行機で逃亡するのも手であろう。自分であったならば爆発を起こす予定の空港には長居はしたくはないし、空港から出ても最適な足など限られてくる。凍土は考えながら、なおも花を集める。
「おばあさん、そのお花を譲ってください。妹が、すっごく欲しがってるんです」
「あら、良いお兄ちゃんね。じゃあ、百合のお花が逃げないようにしっかりと掴んでいてあげてね」
老婆から花を受け取った凍土は、聞いた言葉を脳裏で繰り返す。
『逃げる』と言う言葉。
そうだ、犯人ならば逃げたいのだ。
そして、ここは空港である。
ならば、飛行機に乗って遠くへ逃げてしまえば良い。
いかにも目立たぬところに貼られたポスターに乗っている悪役が、考えそうなことではないか。
「空港って、目立たないところに犯罪者の顔写真を貼ってたりするんだよな。ちょっと確認をしていくか……。それにしても、なんで空港なんだろう?」
凍土は歩きながら、考える。
「誰かをここに釘付けにして、出さないようにしているのかな?」
花を集めた凍土は考えならも、ギシャに連絡を取った。
彼女ならばきっと自分よりも素早く、悪意の花を海に散らしてくれるはずだ。
ギシャは、搭乗口フロアに急いだ。
搭乗口フロアでは、職員たちが乗客を落ちつかせている。ギシャはパニックが起こっている事を予想していたが、大混乱というほどの混乱は起きてはいない。しかし、客の顔色には不安が色濃くあった。
「んー、爆弾を回収したいと言ったらダメかな?」
ギシャは小首をかしげるが、その考えをどらごんがたしなめる。
『爆弾と知れば、慌てて振り払って爆発の危険性もある』
そうなれば、なんとか平静を保っているこのフロアは一気に混乱に陥るであろう。そうなってしまえば、もはや爆弾の回収どころではない。
鷹の目のスキルで確認したが、このフロアには老婦人が言っていた白百合を持っている人間がいた。次いで罠師のスキルで確認してみたが、白百合の花が爆弾であることは間違いようである。
「んー」
ギシャは、考えた。
背中の小さな翼をぱたぱたとさせ、お尻の尻尾をふりふりとしながら。彼女は考えて、その縦長の瞳孔の瞳を大きく見開かせた。
「それじゃ――」
『なにか思いついたんだな?』
どらごんの問いかけに、ギシャは微笑んでみせた。
「みなさん、聞いてください!」
笑顔のままで、ギシャは大きな声を出した。
「ギシャは、HOPEのエージェントです。窃盗グループが、白百合を渡した人をターゲットにする犯罪が流行っています。ミゼンに事件を防ぐ為に、花を回収しているので協力お願いしまーす」
ギシャの言葉に、人々は持っていた花を彼女に手渡した。すぐに身の危険はないが、持っていても得にならないというギシャの説明のおかげで目立った混乱もなく彼女の手のなかに花は集まる。
「この花と皆の花も受け取って、捨てに行かないとだよね」
ふと、ギシャはすれ違った少女の胸に白百合があったことに気がついた。顔立ちは、夫を目の前で亡くした老婦人が言ったととおりにウィランズの残党に似ている。
ギシャは、走り出す。
片手間で仲間に連絡を取ったが、その足取りは止まらない。
「ギシャは、すばやいアサシンだよ」
だから、早く爆弾を捨てに行かなければ。
仲間のなかで、きっと誰よりも早いのは自分なのだから。
●悪事を摘む者
「が……父さま、父さま! 香港に着いたのです」
搭乗口付近で、征四朗は無邪気を装ってガルー・A・A(aa0076hero001)を呼んだ。お父さまと呼ばれたガルーは、そんな征四朗に答える。
『はいはーい。あんま先行くんじゃないぞ、迷子になるから』
ガルーの姿は、初めての海外旅行にはしゃぐ娘の面倒を見ている父親のそれであった。二人は見事に親子連れとして、客のなかに溶け込んでいた。
老婦人は、爆発した花を搭乗口付近で受け取ったらしい。ならば、ここらに犯人が潜んでいる筈である。それにここらで指名手配犯とよく似た少女を見た、と言うギシャの報告もあった。征四朗とガルーは指名手配されていた女性の写真を思い出しながら、行きかう客人の様子を見ていた。
「ちょ~っと、ごめんよ。探している子に似ているような気がしてね」
聞いたことがある声が聞こえると思ったら、前方で虎噛が明るく女性に声をかけている。まるでナンパでもしているかのような光景であったが、彼の手には指名手配犯の写真が握られている。虎噛も、犯人を探すことに一生懸命であった。
そんなとき、獣臓(aa1696)から連絡が届いた。
獣臓は潜伏のスキルを使用して、犯人だと思われる少女の跡をつけているらしい。人塵を離れたところを戦闘に持ちこむのが理想であるが、少女とその仲間らしき男たちは人通りの多い所から離れる気配がないようだ。
「綺麗な花には棘があるというが、爆弾はいただけないのぉ」
仲間たちに連絡をとった獣臓は、白百合のブローチを身につけた少女を見ながら呟いた。女人を愛する獣臓であるが、爆弾を配り歩く危険な白百合を見逃すことなどはできない。
「キュキィ、迅速に行くぞ」
『了承いたしました。旦那様』
キュキィ(aa1696hero001)は、頷く。
二人で手分けをして、やっと見つけた犯人である。キュキィにも、逃がしてやるものかという気持ちがあった。獣臓の元に、犯人を視認したという仲間たちの報告が続々と届く。しかし、当の犯人たちは人のいない方向に移動する気配がない。
「しょうがないのう。なるべく一般人を巻き込まぬように捕まえるぞぃ、キュキィ」
『では、ライオンハートではなく、竜牙の小太刀をご使用ください』
「いいや、この距離ならのう……」
獣蔵が選択したのは、キュキィが進めた武器とは別のものであった。
「なに、多少傷があってもいいんじゃろ? 命がのうなっておったらすまんの。ふぉふぉふぉふぉ」
獣臓は、スキルの縫止を少女の仲間だと思われる男に使用する。
「てめぇら、覚悟はいいか!」
キュキィと共鳴した獣蔵は、オートマチックを取りだした。黒光りする銃と若さを取り戻した獣蔵の言葉が合図になった。
「投降しないさい! あなたたちは、包囲されています」
石井が野次馬のなかから露われて、犯人たちに呼びかける。少女の周りに、ナイフを持った男たちが集まる。男たちの人数は、五人。
「HOPEのリンカーね。誰が、投降なんてするものか!」
少女は銃を取り出すが、石井がゴーストウィンドのスキルを発動させる。風に苛まれながらも、少女は白百合のブローチを握りしめる。
それが、大切なお守りであるかのように。
遅れて参戦した征四朗たちは、少女のその動きをよく見ていた。
「もう一度、お聞きします。今、投降すればこれ以上は手荒な真似はしません」
石井は、再度少女たちに降参を呼び掛ける。
しかし、少女の返答は「断る!」というものだった。
「それでいいんだな。俺ちゃん、今ちょっと機嫌が悪いから手加減出来ないぜ?」
『千颯、このような者達を許す必要は無いでござる!』
虎噛が、ライブスフィールドを始動させた。一時的に弱体化する結界に囲まれた少女たちに、石井のブレームフロアが襲いかかる。
少女は、その力によろけた。
自分たちの頭が力を失いつつあることを見た少女の部下たちは、彼女を見捨てて逃げだそうとした。
「逃がすかよ!」
虎噛は、一番近くにいた少女の部下を捕まえる。そして、その戦意を奪う目的で彼の腕の骨を折った。
「あんな外道なもの誰が作った!」
怒れる虎噛に、少女の部下は「ひっ」と小さく悲鳴を漏らした。
「ハ……ハオランだ! その女―リウの兄貴だよ。空港で騒ぎを起こして、そいつの兄貴が自分だけが飛行機で逃げるために作ったんだ」
少女の部下の言葉を聞いた征四朗は、少女の胸元にある白百合を見た。爆弾と全く同じ形をしたブローチに、征四朗は嫌な予感がする。
「ハオラン……ポスターに並んでいた仲間の方ですね」
少女―リウが持っているブローチは、あまりに不吉に爆弾に似すぎている。
虎噛が残りの部下の男たちを拘束しながら、リウのほうを見た。リウはまだ戦意を喪失していないが、石井が銀の魔弾を発動させようとしている。部下を失った彼女の負けは、誰が見ても決定していた。
それでも、リウは諦めてはいなかった。
リウの部下たちを全て拘束した獣臓は、ふぅと息を吐いた。リウの部下達で動ける者は、もういない。「鍛錬がたりないぜ。若いもん」と、リウの部下を一蹴した獣臓は力強く笑った。獣蔵からみれば、リウの部下など鍛錬も覚悟も足りない若造に過ぎなかった。
ちらりと、獣蔵は虎噛たちを見る。敵のリーダー格であるリウが、まだ諦めてはいない。だが、彼女への対応は若い衆に任せることにした。
虎噛は、リウに近づく。
花を配っていたのはリウに間違いないであろうが、配ってすぐに爆発したことからリウが作ったものではないだろうと虎噛は予測していた。
「んで、そのハオランから送られたのは花爆弾だけか? お前自身何か貰ったんじゃないのか?」
虎噛の言葉に、リウはブローチを握りしめる。
「花のブローチね。……同じ花で、それは爆弾じゃないのか。HOPEは、もうハオランが購入した爆薬の量を調べているだぜ。俺たちが回収した花爆弾より多い量をハオランは購入しているんだ。ちょうど、お前一人を吹き飛ばせるぐらいのな」
爆薬云々の話しは、虎噛の咄嗟の嘘であった。
けれども、リウの顔色が変わった。
「嘘よ……兄さんが、そんなことするわけない!」
錯乱したようにリウは叫び、走り出す。リウが向かう方向は、飛行機への搭乗口だった。石井はリウを追いながら、ライブスブラスターに武器を持ちかえる。
「最後の警告です。投降しなさい!」
だが、リウは歩みを止めない。何も聞こえていないかのように真っ直ぐと走るその姿に、石井は狙いをつける。
そして、銀の弾丸を放った。
弾丸はリウの足に命中し、彼女はその場に倒れる。
外れたブローチが床を転がり、リウが手を伸ばすより先に石井がそれを拾い上げた。
『気をやりすぎるな。集中しろ、征四朗』
リウの部下たちを相手にしていた征四朗に、ガルーは声をかけた。征四朗の目は、未だにブローチを求めてさまようリウの手に向いている。
似ていると思っているのだろう、とガルーは思う。
ハオランが逃げるための囮として使われたリウは、兄と父に捨て置かれた征四郎に少しだけ似ていた。
「飛行機に急ぎましょう。俺に考えがあります」
石井は、そう告げる。
●悪意の根元
飛行機に乗せられたままの乗客たちは、不安に包まれていた。空港の爆破事件が起き、自分たちの手荷物すらも改められたのである。隣の人間が犯人ではないか、と疑心暗鬼に陥ってもしかたがない状況であった。
しかも、ハオランの後ろの席の乗客が何やら席のことで揉め事を起こしている。キャビンアテンダントも呼ばれるほどに発展した騒ぎは、しばらく終わりそうにもない。
出発するまで、時間がかかりそうだ。
ハオランは、ため息をついた。
ふと、前方に今までいなかった少女がいた。紫色の髪をした少女は、ハオランを糾弾する。
「リウにとって貴方はお兄さんなのに……貴方にとってのリウが妹ではないのは如何してなのですか!」
もう聞かなくなると思った名を聞いたハオランは、思わず立ち上る。
悪党の勘が、彼に告げる。
リウは、失敗したのだと。
ハオランは咄嗟に、隣に座っていた女性に手を伸ばした。
「こっちに来るな。この女が、どうなってもいいのか!」
虎噛は、征四朗の後ろからセーフティーガスを使用する。人質がその効果で眠りにつき、体の力抜けて人形のようになる。その体を支え切れなくなったハオランは、バランスを崩す。
「……芝居は、苦手なのですが」
席の事で喧嘩をしていた乗客――石井がハオランの頭に銃を突きつけていた。
●悪意の華は爆発する
空港近くにある海に、ギシャとリュカは白百合を放り投げていた。できるかぎり遠くに投げると、水面に落ちた花は爆発して散っていった。
どうやら水に濡れたことで回路がショートして、爆発してしまうらしい。投げるたびに「どーん」という音が響き渡り、まるで音と共に悪意が四散していくようであった。
その音は、征四朗がいる飛行場まで響いていた。
悪意の花が散る音を聞きながら、征四朗は拳を握る。その震える小さな拳を、ガルーは無言で見つめる。
「征四朗は……父さまのやり方は仕方がなかったんだと思ってたけど」
悪意の花が、また爆発する。
どーん、音を響かせる。
「けど、やっぱり……こんなのは、かなしい!」
悪意の花が爆発する音にまぎれて、征四郎は心から叫んだ。
ガルーは、無言でそれを聞いていた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|