本部

鍵穴を通れるのは小さい子だけ

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/04/09 20:20

掲示板

オープニング

●赤い手紙
 その日、切手のついていない赤い手紙と鍵がHOPEへと届けられた。


 ご機嫌麗しゅう、皆々様。本日は、皆さまを不思議の国へとご招待させて頂きたく、一筆したためた次第でございますわ。地図を同封させていただきましたわ。
 是非、お出で下さいな。とっておきのごちそうを300ほどご用意させていただきましたわ。私には、おやつみたいなものですけれど……

 勿論、ただで差し上げるわけにはいきませんことよ。私の謎々が解けたら、差し上げますわ。なかなかの美人を揃えましたわ。飼いならすのに、少々手間どりましたけれど……
 私のお気に入りですわ。今度は、名前もつけましたわ。

 宇春(ユーチェン)、鈴夏(リンシャ)、透秋(トウチィウ)、雪冬(シュェドン)、端(ドゥアン)

 素敵な名前でしょう? 『中国語』の響きもお気に入りポイントですわ。それなのに、帽子屋ったら

「全く『あべこべ』だ。貴様はジャバウォックか?」

 ですって……あんまりだと思いません?
 話が逸れましたわね。戻しましょう。

アリスはケーキを食べる
大きくなった
小さくなった
小さなアリスは涙の川の中

 彼女たちの内の一人が、その先の扉を開けることができますわ。名前を呼べば、その名前の娘が何か反応するはずですわ。正しいと思う娘に、同封した鍵を渡してさしあげて。その娘が皆々様をごちそうまで案内するように、命じてありますわ。
 そうね……皆々様が正解したのなら、はずれの子達は返してさしあげてもよろしくてよ。4人は開放してさしあげるわ。まあ、不要でしたらそのままにしていただいても構いませんわ。ペットのおやつにしますから。
 もしも、間違った名前を呼んでしまったら、どうなるかは分かりますわね。先に手を挙げた場合も、扉を無理やり開けようとした場合も同様ですわ。

 順番は、守ってくださいね。名前を呼ぶ。鍵を渡す。ですからね。

 それでは、皆々様ごめんあそばせ。

●プリセンサーからの報告

「森の中、山のような場所かもしれません。とにかく、鬱蒼と木々が茂り進むほどに日の光が遮られ暗くなっていきます。途中から、周囲が明るくなりますが、辺りに自生する植物は、おおよそこの世のものとは思えない程に奇妙な姿をしています。さらに、進むと再び暗くなり、再び明るくなるとそこは小屋の中です。5人のチャイナドレスの女性が、小さな扉の前に立っています。左から青、赤、白、黒、黄のドレスです。その奥の部屋には…………人です。たくさんの人がいます」

 プリセンサーからの報告は、曖昧な未来を映すことが多いのだが、今回は赤の支配者からの手紙もあり、かなり鮮明な報告だった。

「赤の支配者の文面から察するに、恐らくあなたたちが会うことになる5人の女性は、元エージェントの可能性が高いですね。何らかの状況によって、自我が一時的に赤の支配者に支配されているようです。……邪英化、に追い込まれたのかもしれません」

●赤の支配者からのメモ

宇春は透秋より小さい
透秋は雪冬より大きい
雪冬は端より小さい
端は鈴夏より大きい
鈴夏は宇春より小さい
雪冬は鈴夏より大きい

 五つ子の身長ですわ。一番小さな子が扉を開けられますわ。
 ミリ単位の話ですから、目視の判断は難しいこともお教えしておきますわ。それから、お触り、厳禁ですわよ。

解説

●達成条件
 謎々を解いて、正しい娘に鍵を渡して、300人の人質解放

●敵情報

 邪英化したエージェント5姉妹
  正解の娘に鍵を渡した場合……一人が人質の元まで案内。四人は邪英化から解放。
  それ以外の場合……五姉妹が襲ってくる

   宇春
    元攻撃適正のドレッドノート 
    武器:鉤爪    

   透秋
    元生命適正のバトルメディック
    武器:宝杖
    
   雪冬
    元命中適正のソフィスビショップ
    武器:魔導書

   端
    元回避特性のシャドウルーカー
    武器:双剣

   鈴夏
    元防御特性のブレイブナイト
    武器:片手剣

   強さはミーレス級に近いデクリオ級

●状況
 山の中のドロップゾーン
 バスケットボールコートほどの広さの小屋の中
 5姉妹が小屋の出口の前に立っている
 扉の奥には300人の人質

リプレイ

○会議室にて
 出発前に、本部の会議室を一室借り切り、エージェント達は今回の謎々について考えることにした。
「……中国語、あべこべ……アリスは中国人だったのか!」
「……アンタは黙っといておくれやす」
 キリルブラックモア(aa1048hero001)は本気とも投げやりともとれるような様子で呟く。隣に座る弥刀 一二三(aa1048)は、ため息交じりに、一応返事を返す。
「手紙の内容とメモから、一番小さい子を選べばいいみたいだよね」
 皆月 若葉(aa0778)は、前に座る姚 哭凰(aa3136)に話しかける。
「そうですね。そうなると、鈴夏になりますよね」
 メモから導かれた答えは皆同じだったのか、特に反論の声は上がらない。恐らく、答えは鈴夏なのだろう。しかし肝心の謎々からは、なぜ鈴夏なのかが分からない。無言の会議に終止符を打ったのは、皆月だった。
「俺の考えだと、五つ子で四季に準えた名前となると、生まれた順に各季節の名称がつけられているんじゃないかと思ったよ」
「四季は分かったが……端は?」
 ラドシアス(aa0778hero001)も今回は考えているのか、皆月に質問を投げかける。
「端は「はじ」でしょ? だから年の始めか終わりだね。順番に並べると……こう」
 そう言って、手近にあったメモに皆月は走り書きをして、仲間にそのメモを見せる。

【端、宇春、鈴夏、透秋、雪冬、端】

「それで、あべこべだから、春の反対は秋、夏は冬、端は中央って感じで順番を並べ替えると」

【透秋、雪冬、端、宇春、鈴夏】

 そう言って皆月は、もう一枚のメモを机の中央へと差し出す。
「最後が鈴夏だから、これが答えだと考えたよ」
「うーん、でもそれだと『中国』のキーワードが入りませんね」
 九字原 昂(aa0919)は人の良い笑みを浮かべたまま、どこか困ったように意見する。
 弥刀は本部から貸し出されたパソコンを使い、キーワードを思いつくままに打ち込む。
「中国……季節……色……」
「四神……? 五行……?」
 弥刀の隣でパソコンの画面をのぞき込むキリルは、そこに出て来た文字を読み上げる。
「なるほど、五行思想ですか」
 何か思い当たる節があったのか、石井 菊次郎(aa0866)が呟く。
「あら? 何かご存知のようですね」
 石井の前に座る十七夜(aa3136hero001)が、おっとりとした口調で尋ねる。
「知っているという程のことでもありませんが」
 石井は丁寧に前置きする。
「中国の五行思想はこの世の森羅万象が五行の何れかに属し相剋する、或いは相生し合うと言う壮大なものです」
「あらあら……」
「大ボラ吹きのたわごとにしか思えんが……」
 石井の言葉を信じた様子の十七夜と対照的に、石井の隣に座るテミス(aa0866hero001)が石井に冷めた視線を送る。
「そんな事は有りません、分類をして関連付けると言う事が重要なのです。惑星の運行は天動説でも説明出来ます。ただ仕組みがシンプルで無くなるだけです。五行説は博物学的な分類法としてはそれなりに機能して居ると思います」
「……結局貶して居る様に聴こえるのは主の人徳か?」
 テミスの一貫した攻撃的な口調を、石井はあまり気にしていないようだ。
「四神っちゅうと、中国では風水が有名みたいどす」
 調べものが一通り済んだのか、弥刀は精一杯頭を働かせて考えをまとめる。
「中国の風水では、東の青龍、南の朱雀、西の白虎、北の玄武、そして黄竜が中央に配置される……っちゅうことは、端が真ん中に来る若葉の考えは良い線行ってんちゃう?」
「確かに、そう考えれば皆月さんの推理に『中国』のキーワードが入りますね」
 弥刀の言葉に九字原も同意を示す。弥刀は再びパソコンの検索を続ける。
「これって、中国の名前ですよね」
 確認というような形で、姚が呟く。エージェント達は異口同音に肯定する。
「それだと、端だけが名前だけってことになりますね」
「あらあら? それ気になっちゃいます?」
 穂村 御園(aa1362)は、わざとらしい可愛さで姚に尋ねる。穂村の隣に座るST-00342(aa1362hero001)は穂村に合わせるように、軽く首を傾げている。
「気になります。残りの4人は姓名逆だし……回答に一致することしか考えられずに適当につけられた名前ってわかるのがさらに気に入らない」
 謎々に明確な答えが得られず、どこか拗ねたような口調で姚は穂村に答える。
「まあまあ、そんなに頬膨らませたら弾けちゃいますよ」
「ならないよ!」
 宥めているのか、揶揄っているのか十七夜の口調に姚は柄にもなく大きな声を出す。
そうですねぇ……全員の名前に季節が入っていますし、【大きくなった 小さくなった】が繰り返すことということで季節、小(xiao)に夏(xia)が入っているというのはさすがにごり推し過ぎですしねぇ……」
 一応、それらしい理由を考えてみるものの十七夜自身しっくりきていないようだ。
「……アカン、うちはお手上げどすわ」
 ギブアップとでもいうように、弥刀が机に突っ伏しパソコンを閉じる。
「何か思いつきました?」
 皆月は弥刀のギブアップ宣言が、考えた末の結論に聞こえたため水を向ける。
「うーん……思いつきはしたんやけど……」
「話してみてくれませんか? どの道明確な答えは望めないのかもしれませんし」
 石井の言葉に、弥刀は再びショートした頭を使いだす。隣のキリルは涼しい顔だが、多分考えることをやめたのだろう。キリルに恨めし気な視線を投げかけ、すぐに仲間達に視線を戻す。
「石井はんの五行思想について、もっと詳しく調べてみたんやけど……」
 そう言って、弥刀はとじたパソコンを開き仲間たちに見えるように、パソコン画面を会議室のスクリーンに映し出す。
「石井はんは知ってはるかもしれんけど、五行思想には相生と相剋っちゅう、5つの関係性がありはります。これをアリスに落とし込んで考えてみると……」
 スクリーンには木、火、土、金、水が丸く並び、それらを一筆書きの星を描くように矢印が繋いでいる図が現れる。
「それに加えて、五行には対応する関係がぎょうさんあるんやけど、五官っちゅう関係もその一つどす。今回の謎々、覚えてはります?」
「アリスはケーキを食べる
大きくなった
小さくなった
小さなアリスは涙の川の中
だったな」
 今回は謎解きに協力的なのか、ラドシアスが空で謎々を読み上げる。
「おおきに。それによると、アリスは最初にケーキを食べてはります。つまり、最初は口っちゅうことやと思う。そうすると、五官で対応するところの土、つまり中央が始まりやないかと思うわけどす。あとは相生から考えて、次の『大きくなった 小さくなった』がそれぞれ『相生 相剋』に対応させると、相生なら白の秋、相剋なら赤の夏になるんやけど……」
「どうも理由としては、薄い」
 腕を組み集中して聞いていたテミスだったが、弥刀の消えるような語尾に結論を叩きつける。
「他にも、色々考えてみたんやけど、どうもまとまらん」
 再び頭を抱える弥刀に、一同それぞれに考えを巡らしながら、用意された車に乗り込み現場へと向かう。

○答え合わせ
 現場近くの山中に降ろされたエージェント達は、地図を頼りに山を登る。低く垂れこめた雲からは、日の光は差さずやけに薄暗い。
「嫌な天気だ」
 何気なく空を見上げて、キリルが呟く。
「小さなアリスは涙の川の中」
 九字原は、キリルの言葉に同調するように呟く。九字原の言葉に、周囲のエージェント達は九字原に視線を集める。
「いえ、手紙のリドルの一節を思い出しまして。案外、雨が降れば簡単に次のステージへと運んでくれるかもしれませんよ」
「それは我々が川の氾濫に巻き込まれることの暗示か?」
 九字原の言葉に、少々攻撃的な口調でテミスが応じる。
「すいません。そんなつもりでは……」
 九字原はすぐに否定するが、テミスは返事を返さない。代りに石井が、九字原に軽く肩を竦めて見せる。特に気分を害したわけではないのだろう。
 再び一同は黙々と歩き続ける。進むほどに木々が生い茂り、登山道は獣道の様相を呈してくる。分厚い雲を通して伝わる陽光すらも遮られ、辺りは夜のように暗い。しかし前方はやけに明るく、トンネルを歩いているような気分になる。明るく開けた道へと足を踏み入れれば、そこはまさに別世界だった。
「あら? うふふ、かわいらしいですねぇ」
 足を止めることはないものの、十七夜は足元に咲く渦を巻いた花々に目を留める。
「あれだな」
 ラドシアスの視線の先には、丸太組みの小さな小屋があった。それぞれが用心のため、共鳴して臨戦態勢を整える。

 山小屋の中は外見にそぐわない広さがあった。入って真正面に、5人の女性が並んでいた。
 あらかじめ決めていた通りに、石井が鍵を持って一歩前へと出る。九字原をはじめ、他のエージェント達は不正解の場合に備えて警戒する。
「鈴夏」
 しっかりとした中国語の発音で、石井は一人の女性の名前を呼ぶ。横一列に並ぶ女性の中から一歩前に出て来たのは、黒いチャイナドレスを身に纏った女性だった。鈴夏はうつろな表情のまま、石井から無言で鍵を受け取る。鈴夏はそのままエージェント達に背を向けて、奥の扉へと歩き出す。
「4人は解放されるんじゃなかった?」
 変化の見られない4人に、皆月は怪訝な表情を浮かべる。
「とりあえず、背後を警戒しながら人質のところまで行こう」
「ほな、行きましょ」
 姚と弥刀は固い表情のまま、石井と鈴夏に続く。背後に敵がいるのは、誰だって気分が悪いだろう。皆月も黙って頷き、先へと進む。全員が小屋から出る。小屋はやはり入ったときのまま小さい。辺りは来るときと同様に、不思議な植物が繁茂している。
 不意に先頭を歩く鈴夏の足が止まる。エージェント達は警戒を強め、鈴夏の動向を伺う。しかし、鈴夏は気にする様子もなく背後の小屋に鋭い視線を送る。そして厳しい視線のまま、エージェント達を見渡す。その顔は先程までと違い、しっかりとした意思を持った人の顔だった。
「邪英化の解放のされ方を知っているか?」
 言葉は中国語だったため、すぐに反応できたのは姚だった。まるでその言葉が合図のように、小さな小屋は弾け飛ぶ。
「支配者様は、力加減が絶妙だ。4人は死んでない」
 それだけ日本語で言うと、鈴夏は再び先へと歩き出す。
「先に行って。後から追いかける」
「僕も行きます」
「御園も」
 皆月と九字原、穂村の三人は轟々と音を立てて燃え盛る小屋の方へと戻る。
「気ぃつけてな」
 弥刀は4人の救出に向かう3人に声をかけ、鈴夏の後に続く。何が起こるか分からない。ここは赤の支配者の世界だ。恐らくエージェント達の誰もが、このことを改めて実感したことだろう。
「着いた」
 再び鈴夏が足を止めた視線の先には、大きな鉄格子の檻に入れられた老若男女がいた。鈴夏はおもむろに武器である片手剣を取り出す。
「おい」
「離れて」
 石井の制止も聞かず、鈴夏は檻へと歩み寄り檻の中の人へ忠告を投げかける。そのような忠告などなくとも、檻の中の人たちは片手剣を持って近づいてくる鈴夏の異様な空気に圧倒され波が引くように鈴夏から距離を置く。
 鈴夏は十分、人質が離れたところで剣を横一閃に薙ぎ、太い鉄格子を糸でも切るかのごとく容易く裂く。ゴトリと重たい音がして、何本かの鉄の棒が鈴夏の足元に転がる。出入り口のなかった鉄格子に出口が出来た。
「私の仕事はここまでね」
 鈴夏は少し寂しそうな顔をして、さらに奥へと歩き出す。

 一方、4人の救出に成功した皆月、九字原、穂村の三人は火の粉の飛んでこない安全な場所まで4人を運び出していた。4人とも爆発や火事の影響で火傷や怪我をしていたため、その場でできる簡単な応急手当を済ませていく。爆発の影響からか、軽い脳震盪を起こし気絶せいていたものの、エージェントであるため回復は早くすぐに4人の目は覚めた。
「何があったの?」
 穂村はその場にいる唯一の女性ということで、黄色の服の女性に尋ねる。
「……分からない。あれ?」
 女性は力なく首を振ったものの、何かに気がついたように急に焦りだす。
「あの子は?」
「あの子?」
「もう一人、女いたでしょ」
「鈴夏のこと?」
「そう! あいつは、危ない!」
 必死な様子で訴える女性に、会話をしていた穂村だけでなく皆月、九字原も表情を硬くする。
「あいつは、私達と違う。意思を持って、あの人に仕えてた」
 ほとんど独り言のように、それだけ言うと後は中国語で何か呟き、それきり端と呼ばれていた女性は黙ってしまった。

 人質300人は催眠でもかけられていたのか、パニック状態に陥ることもなく弥刀、姚、石井の指示に従って避難をしていた。
「あの子、本当に邪英化されていたのかな?」
 人質をドロップゾーンの外へと誘導しながら姚は、誰に聞くでもなく尋ねる。
「少なくとも、小屋を出てからほとんど彼女の意思だったように感じましたね」
 石井の言葉に、姚は何かを考えるように口を閉ざす。
「そんなに気になるなら、聞いてきたらええやん」
 やけに簡単なことのように、弥刀は姚に提案する。
「案外、重要な鍵はあの子やっちゅうことかもしれへんし」
 姚は驚いたように弥刀を見る。
「それでは、羊飼いの役は引き受けましょう」
 石井は虚ろな目でノソノソと歩く人質の群れを眺め答える。
「何しとるん? オレ、中国語分からへんよ」
 既に引き返し始めた弥刀に声をかけられ、姚は石井に軽くお辞儀をして来た道を戻る。
 二人を見送り、人質を全員ドロップゾーンの外まで避難させた石井の元へ皆月が駆け寄る。
「あれ? 一二三さん達は?」
「鈴夏が気になると言って引き返されましたよ」
 途端に血の気が引いた皆月を見て、石井は何かを感じる。
「どうかされましたか?」
「二人が危ないかもしれない」
 石井と皆月は人質の保護を九字原と穂村に任せ、再びドロップゾーンの奥へ戻る。

「待って!」
 鈴夏の背中に姚は声をかける。鈴夏はピタリと足を止め、軽く後ろを振り返る。
「私を倒すか?」
 その双眸はどこか好戦的だ。
「違う。聞きたいことがあるの?」
 姚の言葉に、どうぞとでも答えるように鈴夏は首を傾げる。
「あなた、邪英化されてないよね?」
 姚の言葉の返事のように、鈴夏の背後から火の玉が飛んでくる。咄嗟に姚と弥刀は近くの木陰に身を潜める。鈴夏はその場で武器を構え、迫りくる火の玉を薙ぎ払う。
「あら、黙ってやられてはくれないのですわね」
 姚と弥刀は突然現れた少女に見覚えがあった。
「支配者様?」
「もう、その三文芝居もよろしくてよ。見飽きましたの」
 少女は右手に握る宝丈をスッと鈴夏に向ける。乱射されていた火の玉は、宝丈の先へと集まり巨大な火の玉へと形を成していく。
『武器を捨てなさい』
 それほど大きな声ではなかったにも関わらず、やけにはっきりと石井の声が届いた。少女は反射的に宝丈から手を離す。忌々し気に石井を睨み、少女は何も持たない右手を石井に向ける。しかし、すぐに何かに気がつき身を翻す。少女の立っていた場所に、散弾が散らばる。姚の二挺拳銃と皆月の拳銃が火を噴いた。少女の逃げた先では、弥刀が少女の背後で槍を構えていた。
「そこまでです」
 混戦の様相を呈してきた現場に冷たい声が響く。弥刀は、ほとんど本能のようにその場から離れる。弥刀の立っていた場所は大きく燃え上がる。
「お戯れもいい加減にしなさい。アリス」
 突如現れたタキシード姿の男は、魔道書を片手に少女に冷たい視線を送る。少女は真後ろが突如発火したにも関わらず、気にする様子もなく男に笑いかける。
「ペットの後始末に来ただけですわ」
「それなら、さっさと片付けなさい」
 二人の殺気が鈴夏に集まる。エージェント達は訳が分からないものの、鈴夏を庇うように陣形を組む。
「何を勘違いなさっているのかしら?」
 少女はエージェント達に白けた視線を送り、器用に胸の前で腕を組む。
「行きましょう。帽子屋」
 少女は踵を返すと、ドロップゾーンの奥へと悠然と歩き出す。姚はその無防備な背中を、二挺拳銃で狙い撃つ。しかし、狙ったはずの銃弾は変な風に軌道がそれて少女に届かない。少女は首だけ振り返り、姚をしっかりと見据える。
「私を狙った度胸は買って差し上げますわ。早死にしたくなければ、出直してらっしゃい」
 唐突に吹いた一陣の風に視界が遮られ、次の瞬間に男と少女の姿はその場になかった。
「今のが、赤の支配者ですか?」
 少女に初めて会った石井は、信じられないというように声を漏らす。
「アリスって呼ばれていた」
 皆月、弥刀、姚の三人は少女の名前に違和感を覚えた。暫し訪れた沈黙は、鈴夏の苦しそうなうめき声によって遮られる。
「どないしたんや」
 近くにいた弥刀が倒れた鈴夏を支える。口の端から溢れる泡に、原因らしきものが頭を過る。
「これは……毒」
 恐らく少女は、事前に鈴夏に効き目の遅い毒を飲ませていたため、その死体を回収しに現れたのだろう。鈴鹿はガクガクと震えながら、虫の息で何かを呟く。姚は鈴夏の口元に耳を近づけ、その言葉を聞き取る。
「……4人の中に、裏切り者がいる」
 それだけ言うと、鈴夏はそのまま意識を手放す。エージェント達は、鈴夏を含めた5人の女性と300人の人質を近くで待機していた救急隊員に引き渡し、ひとまず任務を終えた。
 弥刀、皆月、姚、石井の4人は九字原、穂村と合流し、赤の支配者や帽子屋、鈴夏の言葉を伝える。
「赤の支配者と対峙するには、こちらからうって出る必要があるのかもしれませんね」
 九字原の言葉は正しいのだろう。低く垂れ込めた雲は晴れることなく、今にも雨が降り出して来そうなまま山は夜を迎える。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362
    機械|23才|女性|命中
  • スナイパー
    ST-00342aa1362hero001
    英雄|18才|?|ジャ
  • 『成人女性』
    姚 哭凰aa3136
    獣人|10才|女性|攻撃
  • コードブレイカー
    十七夜aa3136hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
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