本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】古龍幇の名の下に

星くもゆき

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/03/17 19:30

掲示板

オープニング

●香港の日常
 香港九龍支部で開催されるHOPE国際会議。その開催予定日は刻一刻と近づきつつあった。
 道行く人たちはどこかせわしなく落ち着かない様子で、誰もが忙しそうに感じられた。
 商店や飲食店、宿泊施設などは会議中のかきいれを当て込んで準備に余念がなく、メディア関係者は早々に現地入りして取材の下準備に大忙しで、現地の住人らも開催期間中の喧騒を予想してどこか落ち着きが無いようだった。
 そんな非日常の気配迫る中でも、変わらないものがある。
「ああっ、ご覧下さい! 大きな従魔に今武器が振り下ろされました!」
 リポーターがひっくり返った車の裏でまくし立て、カメラマンは腹ばいになりながらカメラを向けている。画面の中では、エージェントが大剣を振り回し、白黒模様の熊のような従魔と戦っている。
「街のど真ん中で……暴れないの!」
 エージェントが振り回した大剣が従魔をなぎ払い、塵に還す。
 そう、彼らエージェントにとっては、そんな非日常こそが日常なのである。

●裏の法規
 頻発する古龍幇メンバーの暴走事件。その一環で香港に集められたエージェントたちは大陸内地のほうへ出向き、無事に彼らを鎮圧した。
 そして香港に向かう帰り道。車両を走らせていたが、腹が空いてきたので途中で食事も含めて休憩しようという運びになった。

 小規模な町に入ったところで車を停め、往来を歩く。
 腹を満たすために、適当に選んだ飯店に入ろうとした時だった。
「食ってやったってことでよぉ、代金いただいてくぜぇ!!」
「不味い飯だったもんなぁ! 文句ねえよな!!」
 戸を乱暴に開け放ち、ひどく人相の悪い男が2人、中から出てきた。坊主頭の男は握った札の束をひらめかし、もう1人の長髪男は下卑た笑い声を上げて、肩で風を切って往来の向こうへと去っていく。
「あぁ……」
 厨房服の小柄な男性が出てきて、戸の脇で、沈んだ様子で奴らを眺めていた。
 エージェントたちは仔細を尋ねる。あれは何なのかと。
「見たとおりのチンピラですよ。能力者みたいでね、タチが悪いったらない。あいつらに出来んのは、まぁウチみたいな小さい店から金巻き上げるぐらいですがね……そんな程度だとさすがにH.O.P.E.もすぐ人を寄越してくれるってわけにゃいかなくて」
 自虐的な言葉。金の話ではさすがに声のトーンが落ちた。
「H.O.P.E.の目に留まらないああいう小物でも、普段なら幇の奴らが抑えになっているんだけどなぁ……」
 『幇』とは、古龍幇のことだろう。人員不足の感が否めないH.O.P.E.では、町の小さな事件等に対応しきれないということはままある。小さすぎる魚は網にはかからないものだ。
 だが、そこで上手いこと機能してくれていたのが古龍幇だ。自分たちの支配領域で揉め事を起こされるのは、侵犯されると同義である。故に幇に属さぬ無法者には鉄槌をもって応え、その地が古龍幇の占有地であると教え込む。つまり小さい魚も自由気ままに泳ぐことはできないのである。
「もちろん、幇には金を貢がなきゃならないが……ああいう連中に店をぶっ壊されるよりはマシさ。ここいらの店の連中は皆そうしてきた」
 みかじめを払う代償はあれど、古龍幇という、いわば裏の法規によってこの辺りの平穏は保たれていたということだ。
「幇のほうで何かあったのかねぇ……このままじゃあいつらみたいなのが増えちまうよ」
 町の先行きを案じる男性は、古龍幇が動いてくれるのを望んでいるようだ。警察では能力者に対応できないし、H.O.P.E.も小さな町にエージェントを常駐させるほどの余裕は当然ない。そうなれば、金と引き換えに安寧を、古龍幇と上手くやっていくしかないのである。
「まぁあんたがたには関係ないことだ。飯食いに来たんでしょう? ああ言われちまったが味には自信があるからね、どうぞゆっくりしていきなよ」
 深いため息をついた後、暗い気分を振り払うように笑顔を作り、男性はエージェントたちをもてなした。

 店を出ると、空はすっかり暗くなっていた。エージェントたちは香港に戻るため、停めていた車両へと歩いていく。
 自分たちがいなくなっても、死人が出ることはないかもしれない。どうせ人を殺す度胸もない、ヴィランとも呼べぬヴィランなのだ。
 しかし、だ。こんな小さな町には、のどかな空気が似合っているし、そうあってほしいと思う。
 足が止まる。
 香港に帰る前に、ひと仕事こなしても悪くはあるまい。

 H.O.P.E.としてヴィランを捕まえても、騒動の根本的解決にはならないだろう。古龍幇に押さえつけられていた潜在的な犯罪者はごろごろいるはずだ。今は古龍幇という抑止力が必要なのだ。
 それなら、古龍幇の目は未だ奴らを捉え続けているのだと思わせればいい。古龍幇が黙っていないと思わせればいい。

 一行は、町の人から話を聞きだし、奴らのねぐらに見当をつけた。

 無法の輩には、鉄槌を。
 エージェントたちの怪しい笑みが、夜闇の中に浮かぶ。

解説

古龍幇を装ってチンピラを痛めつけ、幇が健在であることを示して下さい。
まぁ要するにこわいおにいさんになって、脅かしまくるということです。
成功すれば、チンピラたちへの抑止力が働き、町がのどかになることでしょう。
古龍幇の構成員は、現在はその町にいません。見つかって話がこじれる等の心配は無用です。

チンピラのねぐらは、町外れにある放棄された1階建ての建物です。寂れきっています。
ソファとかテーブルとか酒とか色々持ち込んで、勝手に使っている状況です。

敵はOPの2名と、ねぐらにいるモヒカン男とボス格の大柄男1名です。(それぞれ坊主、長髪、モヒカン、ボスと表記します)
坊主と長髪はともにソフィスビショップ。ちまちま魔法攻撃を行う。
モヒカンはジャックポット。射撃が得意。オートマチック所持。
ボスはドレッドノート、力自慢の脳筋です。手下に比べれば骨があるでしょう。
全員『地元じゃ負けなし』ないきがっている感じがたっぷりです。
しかし所詮はチンピラ。エージェントが苦戦することはまずないでしょう。

彼らには古龍幇が健在であることを触れ回ってもらわねばなりません。
痛めつけすぎて倒してしまわないよう気をつけて下さい。
できる限りに脅かし、戦意喪失させるのが一番です。

物品の貸与はありません。任務の帰り道ですので。

状況は、ねぐらに向けて夜道を歩いているところからスタートとします。

リプレイ

●道中

 暗がりの夜道を歩く、8人。
「どったらどごさもこげん奴らは居るもんだなぁ」
 国が違えど人は変わらず、齶田 米衛門(aa1482)はあくどいチンピラたちに呆れかえる。
「見ていて気持ちの良い者達ではござらなんだ……。何より人が作った食事を貶める者は特に……こてんぱんにするでござる!」
 肩を並べる小鉄(aa0213)も憤慨の言葉を口にする。飯店の食事は美味しく、とても貶されるような出来ではなかった。
(「変態200人を釘バットで相手にした経験も無駄では無かったと言う事だね」)
 日頃の鬱憤が晴らせると気を良くしている桜木 黒絵(aa0722)の姿はひどかった。目元にはサンライゼス・グラスを装備し、口ではガムで風船を作り、得物として釘バットを担ぐ。いわゆるスケ番スタイルだった。
 チンピラ退治に燃える者もいる傍ら、鴉守 暁(aa0306)は村の治安状況を憂えていた。
「常駐が無理ならエリアを統括する支部なり役所、つまり連絡先を作っておく必要があるのだけれど。まあ考えても仕方ない。ここは古龍幇の名にあやかろー」
 現状での応急策はこれしかない、というのは理解はできる。暁は気のないかけ声を出して、てくてくと夜道を歩く。
「古龍幇があるからこその平和、なのよね。古龍幇がいればおとなしくなる……。ちょっと懲らしめちゃいましょう。ウフフフ」
 柔らかい物言いと裏腹に、世良 杏奈(aa3447)の表情は黒い笑いで満ちている。
「……ックク……じゃあ『古龍幇の真似して半殺し』……楽しみますかァ~! ハハ……ッ……俺、ぜってー裏社会の人間だよナァ~。いやー楽しむしか無いっしょコレ!」
 狂気じみた偉丈夫、火臥壬 塵(aa3523)は内から湧き起こる衝動を堪えきれず悦に入っていた。
「つかお姐さん美人ですね、どーですこの後!」
 塵は杏奈を誘うが、杏奈は左手の薬指を見せてやんわりと拒否。その指には輝く指輪。
「ダメ? ァアー残念ンッ!」
 断られても、それはそれで楽しんでいる様子の塵。刹那主義に生きる彼には、過去がどうだとか先がどうなるとかは何の意味もないものだ。
 愉快にチンピラを葬りに向かう塵に比べ、GーYA(aa2289)は浮かない顔をしている。
「ン~ッ? 暗いッスねぇ~?」
「……ムカつくんだよ、何にムカついてんのかわかんないけど!」
 顔を覗きこんでくる塵を振り払うように、ジーヤは歩を速める。自分でも何故かはわからないが、心にもやもやしたものが渦巻く。
「あの、効果的に脅かせるように作戦会議をしません? あとコードネームとかどうです?」
 のんびりした声で杏奈が提案した。
 軽いノリで賛同した一同は、それぞれにそれっぽい名を考え、作戦中はその名で呼び合うことにした。

●プロと素人

 情報どおりの場所に、奴らの根城はあった。ボロい外見ではあるが一応、雨風をしのげる程度の建物ではある。
 來燈澄 真赭(aa0646)が身を潜めて内部の様子を探りに行く。潜伏を使えればまず安全だっただろうが、生憎と人間相手ではそうもいかない。細心の注意を払って地道に近づいていく。
 鈍い明かりの漏れる窓があり、そこから中をうかがう。飯店で見かけた者の他にボスらしき男と、ヘンテコなモヒカン頭の存在を確認。仲間のもとに戻って情報を伝える。
 どれを相手するか大体の割り振りを決め、杏奈を除く全員が突入態勢を整える。
 小鉄と米衛門が扉の両脇に立ち、互いに目を合わせる。
「ッし、やるスか、小鉄さん」
「やるでござるか」
「一丁がっちめがす」
 小声で言葉を交わし、息を合わせ扉を破る。米衛門は蹴り、小鉄はストレートブロウで派手にぶち壊した。
 木製の扉は破片となって室内に飛散し、下らない談笑をしていたチンピラたちは突然のことに慌てふためいた。反射的に手近な武器を探る。
 しかし。
「たのもー!」
 強襲には不似合いな、というかかなりズレた挨拶をかます暁。そして同時に室内にフラッシュバンを撃ちこみ、チンピラどもを強烈な閃光に包み込む。おかしな言葉とは対照的に、行動は本格的な突入作戦のようである。
「目が、目がーー!」
 チンピラたちは情けない声をあげて目を両手で覆う。見えないながらも対抗して坊主と長髪はブルームフレアを放つが、明後日の方向へと。
「シマの中をうろちょろしてるネズミが居るって聞いてきたんだけどね」
 白無地のフルフェイスの仮面を装着した真赭が、古龍幇が動いたと見せるための啖呵を切る。
「まぁ、対応が遅れてしまったのは事実だけど……他のネズミへの見せしめのためにも、おたくらには生贄となってもらおうか」
「な、何言ってやがるんだぁ!?」
 ボスがうわずった声をあげるも、真赭は気にせず続けていく。
「逃げるなり、刃向かうなり全力でおいで。震え縮こまる獲物を狩るだけじゃ面白くないんだ」
「ふ……ふざけんじゃねえーーー!!」
 閃光の衝撃冷めやらぬまま、抗戦の姿勢を見せるチンピラ。
 各員、担当のチンピラを一気に制圧にかかる。
「はいはーい。とりあえず足でも撃って動けなくしておこっかー」
 暁は長大なスナイパーライフルをごそり、と幻想蝶から取り出し、容赦ない射撃を坊主の太腿に当てる。
「クソがぁーー!」
 痛みに悶えて倒れこむが、反撃の魔法を再び撃ってきた。だがそれも暁の頭上に飛んでいくのみ。暴れられては面倒だ、暁はファストショットで迅速に腕を撃ちぬいた。
「降参するなら武器捨てて手を上げて後ろ向いて壁に手をつきなー逃げるなら撃つぞー」
「ま、待て! これでいいだろ、撃たないでくれ……!」
 手足を撃たれて戦意を失った坊主は、言われるがままに降参の意志を示した。

「ぶほっ!」
 坊主の相方だった長髪は、閃光で目がくらんだ際に黒絵の初撃釘バットを顔面に喰らっていた。ダメージは負わないとはいえ、痛みはある。たまらず鼻を押さえる長髪。
 よろめいて後ずさる長髪に、黒絵はゆっくりと、1歩1歩近づいていく。長髪の心を恐怖で侵食していくように、じわりじわりと。
「く、来るんじゃねぇあぁーー!」
 焦燥に駆られ、長髪は闇雲に魔法攻撃を連発する。しかしその攻撃は、突入前に拒絶の風を使用していた黒絵を捉えられるほどのものではない。黒絵は自分の顔の横をかすめていく攻撃に対し、ぴくりとも表情を変えず、距離を詰める。
「踊りな」
 壁際に追い詰めた長髪の足元へ、黒絵はライヴスガンセイバーで雨のような銃撃を浴びせた。長髪は両足を交互に跳ねさせて、その場で踊り狂う。
「冗談じゃねえっ!」
 壁伝いに走り、黒絵から逃げようとする長髪。
 彼の眼前を、ごうっ、と大きな炎が通り抜ける。黒絵のブルームフレアだ。
「どこ行こうってんだい? 長髪」
「ひっ……!?」
 にじり寄る黒絵。
「アタイは優しいから銀の魔弾で脳天ぶち抜かれるか、釘バットでしばかれるか選択させてあげるよ。さぁ、どっちがいいんだい? 長髪!」
 一喝した黒絵は長髪の答えを聞くまでもなく、釘バットで全力でぶっ飛ばした。
 恐怖とショックと、長髪は崩れるように倒れる。
「ケッ、アタイはね、変態が大っ嫌いだけど、あんたらみたいなゲスなチンピラはもっと嫌いなのさ。だから容赦はしないよ!」
 倒れた男の長髪を引っ張り、引きずり回し、黒絵は色々と溜まっていたものを解消するのだった。

 震えながらオートマチックを向けてくるモヒカンに対し、米衛門は静かに語りかける。
「粋がるだけの小物さは、古龍幇の恐ろしさってのを身に叩き込むってルールがあるんスよ……覚悟は出来てるッスな?」
 ぼんやりと光を放つ右手をモヒカンに差し向け、米衛門は軽く凄んでみせた。
 モヒカンは強襲の動揺に加え、目の前の男の威圧的な視線にやられてオートマチックの照準が定まらない。米衛門はその状態を見て、すぐさま制圧行動に移る。
 1歩踏み込む。慌てたモヒカンが衝動的に引き金を引くも、弾は米衛門に当たることなく根城の地面に穴をうがつ。だが外れたことよりも、自分の攻撃を全く意に介さずに鼻先まで接近してくる米衛門の姿がモヒカンにとっては驚くべきことだった。
「潜った場数が違うんスわ」
 米衛門は強烈なボディブローをモヒカンに叩き込む。腕に巻きつけておいた雷神ノ書から発射された雷撃がその腕を伝い、モヒカンの体の心まで痺れさせていく。
「俺の銃撃が怖くねぇのか……バケモンか、てめぇ……」
 腹を押さえうずくまるモヒカンを見下ろし、米衛門は最後の言葉をかける。
「弾が当たらねってわがったら怖くもなんもねぇッスよ。目の動き見りゃ弾道の予測つくッス」
 数多の死線をくぐり抜けた米衛門にしてみれば、チンピラの放つ鉄砲玉など何の脅威にもならなかった。

 小鉄は扉をぶち破った勢いそのままに、ずいずいと室内を進んでいき、集団のボスと相対していた。
「んだこのマスク野郎がぁ!」
「推して参る」
 戦闘開始の言。ボスが力任せに振り上げた拳は、やはり突入時の閃光の影響を受けて見当外れの場所を叩き、小鉄は造作もなく回避した。
「その程度で……ござるか」
 一旦腰に備えた刀に手をかけ、何かを思って取りやめた風にその手を離し、徒手空拳で戦う構えを見せる。「お前に武器を使うまでもない」という強者っぽいことをしたかった、と後に忍者は供述している。
 挑発が見事に効いたボスは頭に血を上らせ、小鉄を捉えようと低姿勢のタックルを仕掛けてきた。
「遅いでござる!」
 猛牛をかわすように、華麗に横に回避してみせた小鉄は、ボスの背後から疾風怒濤をお見舞いする。ちなみに実際は素手ではなくメギンギョルズを装備しているのでリンカー相手でも問題はない。チンピラ風情には見切れるはずもない攻撃をモロに喰らい、ボスは立つこともままならない。
 最後の意地で小鉄に殴りかかろうとするも、細いライヴスの糸がボスの身を包み拘束する。真赭の放った女郎蜘蛛だった。
「幇の足元でこういうことをしてたんだ。バレればどうなるかは理解していたんだろう?」
 拘束されて床に倒れたボスの顔すれすれに、真赭のV8-クロスパイルバンカーが打ち込まれる。わずかに頬をかすめたそれは深く床に刺さりこんでいた。
「皆、やめなさい」
 と、そこに悠然と杏奈が入室してきた。不敵な笑みを浮かべながら。
 真赭はつまらなそうに手を引く。
「面白くはないが上からの指示だ。殺しはしない。ただし今度会ったら、次はその顔を杭で打ち抜いてあげるよ」
 真赭の渾身の脅しでボスは折れ、根城の制圧は完了した。

●お灸

「俺達が見えないからって悪さしてたようだけどさぁ! 殺されても文句いえない事してるって、わかってやってんだよねぇ?」
 ジーヤがチンピラの1人1人に尋ねる。彼らは手足を縛られ、正座で床に並ばせられていた。全員震えている。踏んではいけないものを踏んだと痛感している。
「誰から切り刻まれたい?」
 チェーンソーの駆動音を鳴らし、機械刃を彼らの耳元でうならせる。
「や、やめてくれ! マジで! 頼むからよぉ!!」
 坊主が哀願する。耳元でチェーンソーを回される、その恐怖は計り知れないものがある。
「やめてくれ、ってさァ? 俺ら天下の古龍幇よォ? 困ンだよねぇ~……テメェらさ~何処のシマで勝手ヤッたか分かってんの? ネェ。カタギに手ぇ出した罪は……重いよん? ね~姉御ォ?」
 舐めるようにチンピラに囁いていた塵が、涼しい顔をしている杏奈に問う。杏奈は何も言わない。
「か、金か? 金なら今まで取ってきたもんを分けるからよぉ、それで許してくれよ!」
「……ックク……金? いらねーよ、要んのは……か・ら・だ☆ 真っ赤なお化粧で日光浴して貰っちゃおっかな!」
 セリフに合わせ、ジーヤが再びけたたましいチェーンソーの音を鳴らす。チンピラは一斉に身を強張らせる。
「ま、待ってくれよ! それだけは……!」
 ジーヤの脅かしに塵も加わる。
「えーヤなのー? じゃーねぇ……カタギに土下座して金返す、古龍幇の名を広げる、それで許すよ? たーだーし! 他の雑魚が何かヤったら……キミタチ共々……『消えて』貰っから……死ぬ気で頑張ってね☆」
 にこやかな笑顔でチンピラに迫る塵。悦楽しか感じ取れない表情はまさに狂気。
 そこで、パンと手を叩く音。杏奈だ。
「これくらいで良いでしょう」
 怯えきったチンピラに近づき、杏奈が警告を告げる。
「これでわかったでしょう? これが古龍幇よ。この町で悪事を働けば、皆こうなるわ」
 他の者に比べて柔らかい杏奈の雰囲気に、チンピラたちは一筋の希望を見出し、素直に首を縦に振り続ける。
「本当は始末するんだけど、私は優しいから、特別に見逃してあげる。……ただし条件があるわ、それはさっき彼が言ったことを忠実に遂行すること。いい? 貴方達のお仲間さんに二度と悪事をしないよう伝えてくれるわね?」
 ただ黙って、頷く4人。自分たちを超えた実力と狂気を持つ者たちを、これ以上敵に回そうなどとは思うまい。チンピラどもは充分に触れ回ってくれるだろう。
「もう顔割れてっからね~? 逃げたらブッ殺すよ?」
 スマホで撮った写真を見せながら、ケラケラと笑う塵。
「姐さんに免じて今回はヤらないでおく。でも、俺達を忘れないように……」
 ジーヤはチェーンソーを幻想蝶に仕舞いこんで、4人に顔を近づけて囁く。
「幇はいつもキミらを見ているぞー。わかったならさっさと仕事してきなー」
 暁が威嚇射撃を天井にぶち込む。4人はびくっと体を跳ねさせ、生殺与奪を握る杏奈を見上げる。
「行きなさい……でももし、またこんな事があったら、分かるわよね?」
 4人の手足を解放しながら、にっこり。優しい笑みが、より恐怖を感じさせる。
「は、はいぃ! 今すぐに!」
 一目散に外に駆け出していく4人。
 彼らが必死になって触れ回ってくれたおかげで、町の平穏はすぐに戻ってきたらしい。

●必要悪

 土下座と返金の確認ついでにもう1度飯店に寄って帰らないか、という塵の提案があり、何人かは店への道を辿っていた。
 腹が空いたと呟く面々の中、ジーヤは最初と同じような浮かない顔。
「どうかしました、幻?」
 幻、というのはジーヤの暗号名だ。結局圧倒しすぎて名前を呼び合うこともなかったが、気落ちしているジーヤに杏奈は悪戯っぽくその名で呼ぶ。
「あー、いや……俺、最初はあのチンピラたちにムカついてると思ってたんだけどさ」
「うんうん」
 ジーヤは真っ暗な町の様子を眺める。
「でも違った。H.O.P.E.が正義をもってどんなに頑張っても行き届かない場所がある。そんな場所に秩序を持たせてるのが古龍幇でさ……必要悪ってのを認めなくちゃいけない事に、ムカついてたんだよ」
 杏奈は黙って頷いた。
 H.O.P.E.として救いきれない。
 ジーヤにとってはその悔しさを噛み締める、やりきれない1日であったのだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 毒を以って毒を制す
    白雲 夜美霞aa3523
    人間|21才|女性|回避
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