本部

ロックンロールは止まらない

弐号

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/03/19 18:44

掲示板

オープニング


「おぉぉうぅぅぅ、めぐみぃ!」
 大の大人が泣いている。それも尋常な泣き方ではない。まるで幼子のように、床に横たわり顔を両手で押さえてこれでもかというほどに泣いている。
 ここは街の外れ、不良集団の根城として使われている喫茶店である。
「お、おい……ボスはどうしちまったんだ」
「なんでも彼女に振られたとか……」
 ひそひそと異様な様子のボスについて語る男たち。常から子供っぽい男だとは思っていたが、それにしても今日の様子は異常である。まさにかんしゃくを起こした子供そのものの姿だった。
「あいつ……あいつさえいなければ……」
「あいつ? 誰かに浮気でもされたんですか?」
「あいつだよ! あいつ!」
「YUJIロックコンサートツアー?」
 といって指さした先には壁に貼られた一枚のポスター。そこそこ有名なロックミュージシャンのコンサートツアーの告知ポスターである。
「こいつがどうかしたんですか?」
「その日にちを見ろ!」
「日にち? ……なんてことない日曜日ですが」
「俺の誕生日じゃねぇか!」
 知るかよ、と周りの男たちは思ったが、一先ずそれを口に出すような愚か者は一人もいなかった。
 この男はこう見えてリンカー、すなわちこの町で数少ないヴィランの一人である。一たび暴れだせば一般人が束になっても敵わない暴力の持ち主だ。
「めぐみがよぉ……そいつのコンサートに行くっていうんだよぉ。誕生日の俺を放っておいてよぉ……」
「はあ……」
「だから、俺はちょっと言ってやったんだ。俺の誕生日だろって。そんなのより一緒にどこか行こうぜって……。別によぉ。そんな強くは言わなかったぜ? なのによぉ、めぐみの奴がよぉ、怒り出してよぉ」
「ははぁ……」
 周りの男たちも大体の事情に合点がいく。要は下らないどこにでもある痴話喧嘩である。
「わかるぜ、ボス」
「お前……」
 泣きじゃくる男の肩にポンと手が置かれる。それはこの集団に4人いるヴィランの内の1人だった。
「女なんてもんは信用ならんもんだ。俺だって何度裏切られた事か……。ここは一つ、俺たちの心の叫び、心の痛みを思い知らせてやろうぜ!」
「え?」
 不穏な話の流れに周りの手下たちの中に動揺が広がる。
「どういう意味だ?」
「お前の記念すべき誕生日を無茶苦茶にしたあのコンサート……俺たちがぶっ潰してやろうぜ!」
 相棒のその言葉に水を得た魚のように透の目に光が灯る。
「な、なるほど! そいつはいい考えだ!」
「え?」
「よっしゃ、そうと決まれば今から準備だ! 野郎ども、いいな!」
「お、おおー」
 この集団の数少ないリンカー二人が意気投合してはいかなる手段をもってしても止める手立てはない。手下たちは心底嫌な気持ちになりながら、片手を上げてやる気のない雄たけびを上げた。


「と、まあそんなところです」
 白髪交じりのH.O.P.E.の係員が集まった面々に告げる。
「その集団の中にも歌手のファンがいたようですな。コンサートの数日前にリークがありました。当然、我々はコンサートの中止を要請したのですが……」
 苦々しい顔で手元の資料に目を落とす。
「えー、『ヴィランがいようが愚神がいようが、そこにファンがいる限り俺たちのロックは誰にも止められない。』との事です」
 ポリポリと後頭部を掻きため息を吐く。
「ファンの事を思うのなら中止してほしいのですが、仕方ありません。あなた方にはどうか連中の暴挙を止めていただきたいのです。よろしくお願いします」

解説

●目的
ロックコンサートを妨害しようとするヴィラン達の企みを阻止する

●登場
ボスヴィラン
防御適正・ドレッドノート
アクティブスキル
怒涛乱舞・ストレートブロウ・烈風波
パッシブスキル
護るべき矜持
武器
二丁板斧

部下ヴィラン 3人
ブレイブナイト×2
ジャックポット

手下達 約20人ほど
エージェントにとってはまったく脅威ではありませんが、コンサート会場に侵入されるのはまずいです。
彼らの制圧も必要不可欠です。エージェント単体、英雄単体でも対処可能でしょう。

●環境
当日の開演前にバイクで押し寄せ会場を滅茶苦茶にする計画のようです。
行動の流れは
喫茶店に集合→暴走族よろしくバイクで移動→コンサート会場へ突入
となります。どの地点で迎撃するかもエージェントの方々にお任せします。
・喫茶店
奇襲が可能ですが、狭い場所での戦闘になります。また、敵の本拠地であり、裏口等の存在が考えられます。
・道路
敵がバイクに乗っています。戦場は広いですが、逆に敵が散らばりやすいと言えます。
・会場前
後がありませんが、警戒すべき入り口は正面入り口と業者用搬入口の二か所に絞られます。
今回は特別措置として開演時間の数時間前からの会場入りを可能にしてもらっており、屋外に待機中のファンはいません。

リプレイ


 問題のヴィランたちが集まる喫茶店前に集合し、それを視界に収めながらガルー・A・A(aa0076hero001)が詰まらなさそうにぼそりと呟く。
「しっかし、くだらねぇ。随分女々しい野郎がいたもんだな」
「やめるのですガルー。ちゃんと彼女もいるのですよ……」
 相方の暴言を慌てて紫 征四郎(aa0076)が制止する。しかし、時すでに遅し。その一言はあっという間にその場の面々に伝搬した。
「コンサートの後で食事に行こう、くらい言える懐の深さもないのでは愛想も尽かされるというものですわ」
「まあ、コンサートの妨害って方向に行ってる時点で、だな」
 まず、最初に応じたのはヴァルトラウテ(aa0090hero001)と赤城 龍哉(aa0090)であった。とくにヴァルトラウテは呆れを通り越して若干の怒りを感じるほどの強い語調である。
「ったく、クッソ下らなねぇ理由で暴れようとしてんじゃねぇよ、メンドクセェ」
「ホントよね、女々しい真似して格好悪い。だから降られるのよ」
 それにガラナ=スネイク(aa3292)とリヴァイアサン(aa3292hero001)の二人も頷きながら同意する。
「あはは、誕生日かぁ。確かに男心としては祝ってほしい奴だよね。でも男は意地張って何ぼの生き物だし、せっかくならそこで一緒に行くとかすればよかったのに」
「ライブは、次いつ参加できるかわからない。彼氏の誕生日は来年もある。……ライブの方が優先されるのも仕方ないんじゃないか?」
「そ、その理論は多分お兄さんでも泣くよ……」
 涼しい顔で理屈を述べるオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)に木霊・C・リュカ(aa0068)が苦い顔を見せる。確かに女々しく身勝手な襲撃理由だが、誕生日を恋人と一緒にいたいという気持ち自体は全く理解できないわけではない。それをこうもバッサリと理屈で切られるのもそれはそれで哀れなものがある。
「でも、どんな理由があっても関係ない人にご迷惑をお掛けるするのはいけないことです!」
「まあ、それはその通りだね」
 純粋な科餅で糾弾する新星 魅流沙(aa2842)の言葉にリュカも同意する。
「しっかし、どこにでもいるんだな。この手のモヒカン男って奴は……バカだねぇ……」
 魅流沙の相棒の『破壊神?』シリウス(aa2842hero001)は多少同情的な表情を見せる。
「恋人と一緒にいたいっていうにはちょっとロックが足りなかったな。あいつらにロックって奴を教えてやらないと」
「ええ、まったくです。私が昔教えてもらった『ロックンロール』を彼らに教えてあげますよ」
 興奮した様子で――といっても機械然とした会見から常人が推察するのは困難だが――黒鉄・霊(aa1397hero001)が声を出す。
「やる気を出すのは構わんが……。本当にその装備でいくのか、ゼン? いつもの大剣二刀流ではなくて?」
 その隣で五郎丸 孤五郎(aa1397)がいささか不安そうな顔で相方の肩口を見やる。そこには一対の巨大スピーカー。そして、両手には巨大なエレキギターを抱えている。巨大な楽器に彩られた2メートル級の鉄の巨人の姿は控えめに言って『異様』だった。
「何を言いますか! これは元いた世界で敵の本拠地に攻め込んだ時の装備を再現した決戦装束なのです!」
「……意味がわからんな。まあ、お前がそれでいいならいいよ」
 若干面倒くさそうに孤五郎がまとめる。見た目とは裏腹に天然の入ったこの相棒のやることに振り回されるのには、まあ慣れている。いつもの事だ。
「まあ、なんにせよ、ぶちのめしてやれば目も覚めるだろ!」
 ガシッと胸元で両手を合わせ東海林聖(aa0203)が気合を入れる。それを傍らで見ていたLe..(aa0203hero001)が不安そうに声を出す。
「ヒジリー……鎮圧の殲滅は違うから。……騒ぎ増やさないようにね……」
「わかってるぜ、まかせな!」
 いまいち不安な返事をしながらぽきぽきと指を鳴らす。
「おいおい、落ち着きな。何事も準備が大切ってな。まずは周りの確認からだぜ」
 いきり立つ聖の肩に手を置き、ベルフ(aa0919hero001)が宥めるように話しかける。
「ええ、裏口から逃げられたりとかしたら面倒ですからね」
 それに同意する形で九字原 昂(aa0919)も頷き、改めて喫茶店の方に視線を向ける。
「とりあえず今外にいるのは一人……ですか。一応の見張りといったところでしょうか」
「見たところ、一般人だな。まあ、グループの貴重な能力者が外で見張りなんてしねぇか」
 聖の言葉に龍哉も続けて状況確認に視線をそちらに回す。
「まずはあれをこっそり眠らせて、バイクに細工をして走らせないようにするのが最初のミッションってところか?」
「そうですね、バイクの施錠組と逃走経路確保組に分かれて行動しましょう」
 ガルーの提案にリュカが乗っかる。
「わざわざ逃走手段を用意させてやる義理はねぇわな」
「これが『将を射んと欲すればまず馬を射よ』って奴ね」
「それを言うなら……」
 リヴァイアサンのいう事に突っ込みを入れようとしてガラナが言いよどむ。
「……バカな……間違ってねぇだと?」
「どういう意味よ!?」
「……騒いでないで行くぞ」
 二人の漫才を背中にオリヴィエが静かにため息を吐いた。


「まあ、とりあえずこんな所か……」
 難なく見張りを拘束し喫茶店の前に停めてあるバイクの全てへの施錠を終え孤五郎が呟いた。なお、いつ敵のヴィランと接触してもおかしくない状況である為、全員既に共鳴済みの状態である。
「やれやれ……思った以上に面倒だったな」
 頭をポリポリと掻きながら聖が呟く。喫茶店は景観を意識してか、結構大きめの窓が設置してある構造だった。そこから見えないようにする作業は結構神経をすり減らす作業であった。
「こちらも終わりました。一通り確認しましたが正面の扉以外は裏側に通用口が一つあるだけですね。それ以外に逃走経路は無いものと思われます」
 建物の死角からスッと顔を出した昂が面々に報告する。
「……じゃあ、予定通り」
「正面突破と裏口侵入と逃走阻止の3班行動ですね。大丈夫です、皆さんは私が守るのです」
 一つ頷いて確認を取るオリヴィエに征四郎が自分を中心にライヴスフィールドを展開させる。
「こ、ここは死守して見せますのでお任せください!」
「ったく、どいつもこいつも肩に気合入り過ぎだぜ」
 やはり隣で両手を握りしめ気合を入れていた魅流沙の背中をトンと叩き龍哉が苦笑いを浮かべる。
「あんな馬鹿野郎が相手なんだぜ。楽しんでいこうぜ」
「ええ、今回は存分に『楽しませて』もらいますよ!」
 妙に明るい声音でゼンがギターを構える。
「懐かしいですねぇ。昔もこうして歌を歌いながら敵地のど真ん中に突入したものです」
『なんだそりゃ……』
 感慨深げに語る相棒に意味が分からぬといった様子で孤五郎呟く。しかしまあ、やる気を出しているのは確かだ。わざわざそれを削いでやることもあるまい。
『いいねぇ。ロックだ』
 魅流沙の中でシリウスが笑い声をあげる。
「よし、大体配置についたな。OK、先陣は任せたぜ、黒鉄」
「お任せあれ!、行きます!」
 気合と共に喫茶店のドアをけ破り一気に中に侵入する。
「――!」
「なんだ!」
 にわかにざわめく店内。それはそうだろう。2メートルはあろうかという巨大な鉄の巨人がギターを担いで急に入り込んできたのだ。動揺するなというのが無理な相談である。
そこへ響くド派手なエレキギターの大音量。
「私の歌を聴けぇ!」
 ギャイーンという電子音が担がれたアンプから店内に響き渡る。
 あまりにも唐突かつ突飛な事態に状況を把握しきれなかったのか対応が遅れ、起き上がるよりも大音量に耳を塞ぐことを優先してしまう不良たち。
 その隙を突き征四郎が店内に滑り込み、できるだけ多くの敵に近づけるよう中心部に陣取る。
「それでは、いざ尋常に参る!」
 掛け声と共にセーフティーガスを発生させる。
「お?」
「な、なんだぁ……こ、りゃ、あ……」
 征四郎を中心に不良たちがバタバタとその場に倒れ伏す。
「不要な戦いは避けたいですからね。しばらく眠っておいてください」
 セーフティーガスの効果時間はそれほど長くない。ほどなく眠った者たちは目覚めるだろう。
 しかし、これにより分かったことが一つある。
「ち、起きろ、馬鹿ども!」
「う、ううん……?」
 店の奥で座っていた男が一人立ち上がり横にいる部下の頭を足で軽く小突く。その衝撃で眠っていた男は目を覚ましたようだった。
 その他にスッと立ち上がる男が3人。セーフティーガスは能力者には効き目が薄い。だが、逆に言えばその中で立ち上がったこの男達が今回の障害、ヴィラン達に間違いない。
「よう、てめぇがボスだな! あいさつ代わりに食らっとけぇ!」
 ガラナが一気に店内を駆け最奥にいるボスらしき男へ向かっていく。
「おっと!」
 しかしその間に一人の男が割り込む。
「ちっ!」
 男の持つ盾に攻撃を防がれるガラナ。
「いきなりボス狙いとは感心しねぇな。どんなゲームでも、その前に中ボスがいるもんだ」
「ハッ! そんな行儀のいいもんじゃないもんでな!」
 状況の不利を悟り一度距離を取り仕切りなおす。
「わりぃな、健一。よし、起きてる奴は近くの奴の顔をぶったけ! これは刺激を受けりゃすぐ起こせる奴だ! 起こしたらすぐ裏口!」
『はい! ボス!』
 意外なほどの統率力を発揮してボスが声を張り上げる。
「どんなバカかと思ってたが、それでも一応組織の棟梁だな」
『しかし、それでもまだ想定の範囲内ですわ』
「まあな」
 感心する龍哉にヴァルトラウテが話しかける。
「余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ!」
 そこへボス自身がその両手に手斧を構え突進してくる。
「おおっと!」
 流石に距離があったそれは余裕をもって受け止める。
 しかし、その手に受ける衝撃の強さは想像していたものよりも上であった。
「やる!」
 カウンタ気味に突き出した龍哉の拳は宙を切る。ボスは攻撃が防がれてすぐ飛びのいて距離を置いていた。
「いいね、正直期待してなかったんだが、思ったより楽しめそうだ!」
「楽しませなんてしねぇよ」
「よし、お前ら行くぞ!」
 能力者同士の戦いを尻目に裏口から逃げようとその扉に手をかける不良たち。だが……
「はいはーい、こちら通行止めしてまーす」
「へ?」
 裏口に殺到した不良たちの視界が一瞬真っ白に染まる。リュカの放ったフラッシュバンの閃光である。
「うわっ!」
 閃光に目をやられ、その場に蹲る不良たちをリュカと昂で手早く拘束していく。
「く、くそぉ!」
『まあ、これに懲りたらツルむ相手を変えることだな』
「友達はちゃんと選びましょうって、いい教訓になっただろうね」
 拘束した不良を見下ろして呟く昂。視線を店内に戻すと、状況はそこそこに拮抗している状態だった。
「ち、裏口を塞がれたか!」
「逃げられると思ってんじゃねぇぞ、このバカ集団ども!」
『とりあえず全員殴り倒―す』
「んだとぉ?」
「祐樹! 安い挑発に乗ってんじゃねぇぞ!」
 ガラナの威勢のいい言葉に反応しかけた部下をボスが制する。
『……自分を棚に上げるとはまさにあの男の為にあるような言葉だな』
「良い捉え方をすればイザという時に頼りになる性格とも言えますが」
 ここに来る前に聞いた男の醜態を思い出しながら孤五郎が呆れた声を出す。
 彼女に怒られた程度で癇癪を起こしてコンサートを妨害しようとするほど短気な男に言われてしまえば世話がない。
「祐樹、お前は下の連中を連れて先に外に行ってろ! こいつらは俺たちがボコる」
「あ? どうやって?」
「そこにでけぇ出口があるだろうが」
 言って外の方を指さす。……否、指さしたのは外ではない。
「オーケー、分かったぜ!」
 命令を受け部下の一人が外に向かって駆け出す。
「窓からでる気ですね! させません!」
 いち早く意図に気付いた征四郎が止めようと動き出すが、そこに銃声が響いた。
「させん」
 足元に威嚇射撃が突き刺さり、思わず足が止まる。間髪入れずに今度はボスの声が響く。
「健一!」
「おうよ! 『守るべき誓い』!」
 ボスの横にいた男から高濃度のライヴスが放出され、仲間たちの視線がそちらに集まる。
「イヤッホォォ!」
 その隙に走っていた部下は窓ガラスを突き破り外へ飛び出していた。そして、それに続いていく不良たち。
「ちぃ、意外な程連携が取れてやがる……!」
「ここは俺達の城だぜぇ。色んな状況が想定されてんのよ。俺達がただの頭の悪い不良だと思ったかぁ?」
 龍哉の台詞に挑発的な言葉を返すボス。
『ここは一つ一つ状況をクリアにしていくしかありませんね』
「……そうだな。数を減らそう」
「んじゃあ、まずはあの邪魔な奴からだな」
 オリヴィエの言葉を受けガラナが顎でボスの隣の敵を指す。
 先ほどからボスへの攻撃を防いだり守るべき誓いを使ったりと積極的に攻撃を受けに来ている敵だ。集団戦ではかなり厄介な立ち回りである。
「俺をご指名とは光栄だ」
「フン、好きにできると思うなよ?」
 ボスとその部下ヴィランが武器を持ち直し、同時に駆け出した。


「イヤッホォォ!」
 窓ガラスを盛大に割りヴィランの一人が駐車場の地面に着地する。
「よう、よく来たな! 待ってたぜ!」
 そこへ走り込んできた聖が巨大な大剣を横なぎに殴りつける。
「うおっ!」
 しかしそれは手に持つ槍で受け止められる。
「やるじゃん!」
「てめぇ!」
 怒りを露わにするヴィランと裏腹に楽しそうな聖。
「よっしゃ行くぜ!」
 ヴィランが割った窓から続々不良たちが外へ飛び出してくる。
『飛んで火にいる夏の虫、ってな』
「へ?」
 魅流沙を中心に爆発的に広がった幻想蝶が次々とその蝶に触れ、痛みに苦しんだり急に狼狽したりなどしてその場に蹲ったりしていく。
「もう諦めてください! 会場に行ってももっと悲しい目に合うだけですよ!?」
「くそっ!」
 咄嗟に危険を察知し身を引こうとしたヴィランであったが、範囲外に逃げるには遅すぎた。彼もまた幻想蝶の影響を受ける。
「グッジョブ! よっしゃいくぜ!」
 再びヴィランの方へ飛ぶ見込み、大剣を振りかぶる聖。
「なめんじゃねぇぞ!」
 その一撃はギリギリのところで受け止められるが、勢いに押されてヴィランの体勢は大きく崩れる。
「追加です!」
 そこへ魅流沙からライヴスで作り出された火炎球が飛来し、はじけ飛ぶ。
「うおお……!」
「おぎゃ!」
「おどわぁ!」
 破裂と共に炎をばら撒いたそれは、周りで何とか幻想蝶の影響から逃れていた不良たちを数人巻き込みその意識を奪っていく。
 そして、完全に直撃を食らったヴィランはバランスを崩し、片膝を付いていた。
『……ヒジリー。間違ってもバイクに引火して爆発オチとか嫌だからね』
「解ってんぜ……ルゥ。叩きのめす! 爆発炎上はさせねーよ……っ!」
 そこへ三度聖が迫る。咄嗟に槍を構えようとするも間に合わない。
「いくぜッ! 吹っ飛びやがれッ!!」
 聖の大剣の腹が全力でヴィランの腹に叩き込まれ、数メートルに渡り吹き飛ばす。
 それ以降、彼が目を覚ましたのは既に拘束された後の事であった。


 店内の戦いは今のところ一進一退という体であった。
「やるじゃねぇか、お前ら」
 少し息を切らしながら龍哉が純粋に敵の強さに感心する。
『なかなか厄介な連中だ。それだけにいい経験になる』
「でも、そろそろ流石に終わらせたいね……」
 昂に諭すように話しかけるベルフに少し余裕をなくした様子で答える。
 何度かのやり取りを通じて大体敵の基本パターンは明らかになった。防御役のブレイブナイトがひたすら敵の攻撃に耐え、ジャックポットの援護の元、カウンター気味にパワーの強いドレッドノートのボスが強襲してくる。大体そのような連携スタイルである。
『出来れば邪魔なドレッドノートを仕留めたいですが」
「……それには『守るべき誓い』が邪魔だ」
 征四郎の意見に同意しながらオリヴィエが銃を構える。
「よっし! なかなか楽しい戦いだったが、あんまり時間もかけてられねぇ、畳みかけっぞ!」
 目の前で拳を合わせ、パシッといういい音を立てながら龍哉が宣言する。
「総力戦だ!」
「了解……」
 龍哉の言葉にオリヴィエが弾丸を援護射撃を放ち、ヴィランの行動を著しく妨げる。
「こちらもいきますよ!」
 続けてゼンの音響攻撃がヴィランに迫る。盾を構えて身構えるヴィラン。
「よそ見はいけませんね」
 そこへ横合いの死角から昂の放った毒刃が迫る。
「なにっ!」
 寸前でそれに気づき体をひねって躱す。しかし、それは明らかな隙であった。
「その通りだ! よそ見はいけねぇ!」
「しまっ――」
 毒刃に気を取られたところへ龍哉の拳がその胸元へ叩き込まれ、耐えきれずバランスを崩しその場に尻餅を突く。
「おぐっ!」
「もういっちょ!」
 完全に体重の乗り切った一撃がヴィランの顔に叩き込まれそのヴィランは沈黙した。
「ヒャッハァー!」
 一瞬の安堵の好きに乗じてボスヴィランが大きく跳躍しリュカの元へと迫る。
「リュカはやらせません!」
「征四郎!」
『せーちゃん!』
 そこに割って入る征四郎。
「邪魔だ、どけぇ!」
「くっ!」
 一撃目の斧は受け止めるが続く拳を避けきれず大きく後ろに吹き飛ばされる征四郎。
「せこい真似してんじゃねぇぞ、てめぇ!」
 そこに今度はガラナが横合いから飛びかかる。
「女々しい嫉妬まき散らしてんじゃねぇよ。性根文字通り叩き直してやっから、歯ぁ食い縛れやぁ!」
 防御の事を考えない全力の一撃がボスヴィランに振るわれる。
「ぐっ!」
 何とか斧で受け止めるボスヴィランだが力を流しきれずに斧の一本を吹き飛ばされる。
「くっ! 貴様――!」
 ボスの不利を悟ったジャックポットが反撃をしようと手の銃を構えが、鳴り響いた銃声は彼のものではなかった。
「……静かにしていろ」
「ぐふっ」
 オリヴィエの放った弾丸に肩を打ち抜かれてジャックポットが意識を失う。
「まだだ! 俺はまだ倒れてねぇぞぉ! めぐみぃ!」
 大声で喚き散らしながらボスが立ち上がる。
 だが――
「あなた達に勝ち目はないのです。諦めなさい」
 いっそ穏やかともいえる征四郎の声にボスが辺りを見渡すと、既に外にいた二人も合流し、完全に周囲を取り囲まれている状態だった。
「お前、ここで諦めた方が傷は浅く済むぞ?」
「くそっ……くそぉ!」
 ボスヴィランはその場に沈み込み床を叩いて己の敗北を悟ったのだった。

 その後、『ロックを教えてやる』という名目で不良たちを観客にシリウスと黒鉄の急増ロックバンドによる、ゲリラライブが行われたのは、報告書に記されることなく、その場にいた者たちの記憶にのみ刻まれた出来事だった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • 魅惑の踊り子
    新星 魅流沙aa2842

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 汝、Arkの矛となり
    五郎丸 孤五郎aa1397
    機械|15才|?|攻撃
  • 残照を《謳う》 
    黒鉄・霊aa1397hero001
    英雄|15才|?|ドレ
  • 魅惑の踊り子
    新星 魅流沙aa2842
    人間|20才|女性|生命
  • 疾風迅雷
    『破壊神?』シリウスaa2842hero001
    英雄|21才|女性|ソフィ
  • 海上戦士
    ガラナ=スネイクaa3292
    機械|25才|男性|攻撃
  • 荒波少女
    リヴァイアサンaa3292hero001
    英雄|17才|女性|ドレ
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