本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】グリスプへの汝の盾は禊

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/03/15 18:47

掲示板

オープニング


 このシナリオは昇竜MSのシナリオ「【東嵐】『古龍幣』への汝の剣は鎖」と連動します。

●愚神の失策
 自分を追うH.O.P.E.の部隊へ迎撃戦力を差し向けたその愚神は、『ある組織』からの情報を受け、動き出した。
 お前の近くで何かをしている連中がいる。
 その情報を受けた愚神は、自分のもとへ辿り着こうとするH.O.P.E.の別働隊だと推測し、残る骸骨姿や鎧姿の従魔達を率いて、その集団のもとへと急行した。
「詰めが甘いですね、H.O.P.E.の方々」
 そう呟くと共に、従魔達と共にその集団へ襲いかかる。
 H.O.P.E.別働隊という存在は、独力で事件を解決できない弱い存在達だとの認識がこの愚神にはあった。
 しかし自分の行った襲撃により、この愚神は人間を舐めていた代償を払う事になる。
 
●弱い人間の戦い方
「お叱りはいくらでも受けます。私への処分も決まっています」
 そう担当官は深々と頭を下げ、部屋の人達に謝罪し、『連絡の途絶えた別働隊』の正体を説明した。
 ――グリスプの逃げ足は速すぎる。情報漏れか、愚神の周囲に自分達H.O.P.E.の動きを報せる何者かがいる可能性が高い。
 そして今回の迎撃にしても敵戦力が少なすぎる。
 あるエージェント達から、グリスプに関する不穏な報告を得ていた担当官は、H.O.P.E.諜報担当の人達と一部の上層部の人達と相談し、グリスプの迎撃を受けたH.O.P.E.調査隊や、周囲で高速道路の封鎖に専念していたH.O.P.E.別働隊達にも知らせる事なく、諜報担当職員達と共に、グリスプへの『ある策謀』を巡らせた。
 H.O.P.E.内での情報のやりとりは、組織の特性上、何重もの防護体制と暗号化で管理され、誰かに傍受され、解読される事を困難にさせている。
 情報漏れの可能性は低かったが、念には念を入れ、内心現地で死闘を演じるH.O.P.E.エージェント達に詫びつつ、情報のやりとりや様々な手続きを駆使して、紙や情報の上では存在するが『実在しない別働隊』を仕立て上げた。
 責任は自分が負う形にして、担当官は諜報担当職員達の協力のもと、手がかりと共に得たグリスプへの通話先より突き止めた居場所の周囲に向け、既に把握している『ある存在達』の居場所に『高速道路封鎖とは別に動くH.O.P.E.別働隊がいる』ような様々な工作を行い、グリスプが『その存在達』をH.O.P.E.別働隊と誤認して襲撃するよう仕向けた。
 そしてエージェント達がグリスプからの迎撃を退け、H.O.P.E.調査隊と手がかりを無事本部まで送り届けた後も、H.O.P.E.内のどこかに不審な動きがあれば即座に抑えにかかれるように態勢を整えた上で『連絡が途絶えた』との情報も発信した。
 最初から実在しないのだから、連絡自体もないので、嘘ではないが、偽りと言われても仕方ない内容だ。
 それでもH.O.P.E.内で情報漏えいといった不穏な動きは見られなかったので、今回の『ある任務に動いた別働隊はいない』という話になったわけだが、身内すら騙した事への担当官の責任は軽くない。
「騙した事は頭にくるが、犠牲者が出なかったのはよかった」
 嫌な事は引きずる性格ではないのだろう。部屋の中にいたリンカー達の何人かは担当官を叱責した後、今は普段通りの態度に戻り、改めて担当官に問いかけた。
「実際にグリスプが襲った『別働隊』は何だ?」
「愚神集団『シュドゥント・エジクタンス』(ある筈のない存在達)です」
 思わぬ存在達の名を担当官から告げられ、部屋の中がどよめいた。
「皆様のご尽力により、それぞれの連絡先は把握できましたから、諜報担当の方々の協力を仰ぎ、居場所を突き止めた上で、あの愚神集団を『別働隊』に見せかけるよう、様々な工作はいたしました」
 愚神を討つためならば、別の愚神の活動も利用し、策略を巡らせる。
 担当官は担当官なりの『戦い』をしていた。
「結果はどうなった?」
 リンカーからの問いに、担当官は応えた。
「グリスプの方は、手勢の従魔達をほぼ失い、『霧と共に現れた、紫色の女性型愚神』の援護を受けて逃走。シュドゥント・エジクタンスの愚神達は、残念ながら損失ゼロ、とH.O.P.E.先遣隊より連絡がありました」
「先遣隊? そんな隊が……いたな。わかったぞ。お前が実在しない部隊を用意してまでやりたかった事が」
 リンカーの1人が、先の依頼で調査隊に手がかりの本部提出を頼み、引き続き追跡を続けるH.O.P.E.先遣隊の事に思い至ると共に、担当官の意図を読み取った。
「はい。今回の策謀の目的は2つありました。1つ目はグリスプに『今後別働隊に手を出したら痛い目に遭う』と思い知らせる事。もう1つは、皆様がお気づきのように、H.O.P.E.先遣隊の存在と、現在もグリスプを追い続けている事をグリスプから隠す事です」
 追跡を含め、諜報活動の要は、探っている事を相手に悟られぬ事だ。担当官はあらゆる可能性を考慮した上で、身内にすらその存在を秘匿させる策を講じていた。
 その労力の結果がスクリーンに映される。
 そこには先の調査隊が持ち帰った手がかりと同じ、空港のある地方都市の地図が示され、ついで範囲が空港内に絞られ、滑走路や空港設備の見取り図が拡大される。
「調査の結果、グリスプは一般人に紛れ込み、この空港から飛行機に乗り海外へと高飛びするようです。それを手引きした人間がいる事も判明しています。恐らくその人間、あるいは組織こそ、グリスプに情報を提供し逃走を助けていたのでしょう」
 担当官は部屋の人達に頭を下げた。
「どうかこの愚神の海外への高飛びを防いで下さいますよう、お願いします」
 なお今回出動してくれるH.O.P.E.別働隊は、空港周囲の封鎖に専念するが、現地で動員できる人数の限度ぎりぎりまで出しているので、それ以外の任務はこなせず、増援も出せないとの事だ。


 ボロボロになったスーツと電話機を新調したグリスプが、先の情報提供主である男に抗議の連絡をするが、通話先からは『H.O.P.E.とは言っていない。誤解したのはお前の方だ』と素気ない男の声が返ってきた。
『人間を舐めるからそんな目に遭う』
 通話先の男の声には、どこか人間を誇り、愚神を侮蔑する響きがあった。
「貴方がた『古龍幣』も、ご自分達が最強だと仰るクセがありますよ」
 グリスプも通話先の男にそう返した。
『それで、例の件はどうなった』
「滞りなく済ませました」
『それならいい。手続きは済ませたから、予定通り出発しろ』
「私と『連れ』と共にそう致します」
『安心しろ。逃げる手立ては複数講じてある』
 生駒山から放たれた悪意の一つが人間と手を結び(リンクし)、海外へ逃げようとしていた。

解説

 ●目標
 愚神グリスプの海外高飛びを阻止(敵殲滅は退治目標に含まれない)

 登場
 グリスプ
 生駒山より逃げ続ける愚神。推測でケントゥリオ級。外見は初老のスーツ姿の男。能力不明。
 PL情報:皆様が空港に到着した時点で空港内発着ロビーにいるが、戦わず逃げに徹する。
 
 ケントォリオ級愚神1体
 ズセ
 全身に紫電を纏う、紫で統一されたドレス姿の女性型愚神。空港発着ロビーで一時的にドロップゾーンを展開し、下記従魔を召喚して暴れ、グリスプ逃走の時間を稼ぐ。(PL情報:一定時間後逃亡)
 2回行動。槍と雷を振るう。(以下H.O.P.E.先遣隊が先の愚神同士の争いの時、把握した範囲の能力)

 雷撃
 何故か効果範囲を示す光る円が地面に浮かび上がった後、自分の周囲(範囲3)に放電する形と、地を走らせ放つ形がある。射程45。

 霧化
 自身を紫の霧と化して別の場所へ素早く移動する。移動力+10。霧状の間は物理攻撃が無効化されるが、魔法攻撃に弱くなる。
 
 紫電癒
 紫電状のライヴスが回復力となり、生命力が回復する。

 従魔2体
 ミーレス級従魔。身長2mの骸骨姿で通称『骨』。全長2mの棍を振るう。射程1。既出の骸骨達よりはタフ。

 一般人達
 現地空港を利用し海外へ向かう人達や空港職員達。

 H.O.P.E.別働隊
 空港周囲の封鎖と皆様の空港への送迎、従魔出現後は空港内の人々の避難誘導を行うが、動員上限の人数が出ているので、皆様の戦闘後の負傷治療やアイテム補充を除き、それ以外の行動要請や増援要請には応じられない。

 状況
 とある地方の街にある空港。空港の3方は海で囲まれ、海外へ向かう国際便も多い。
 交戦区画は、空港内のロビーで、ズセと従魔達が暴れ、ロビー奥に見える滑走路へ向けグリスプが逃走を開始。広さは縦横各50スクエア。無線貸与済。
 (PL情報:グリスプは、空港滑走路上に1機だけ残る小型飛行機を強奪して操縦し逃げる予定)

リプレイ

●邂逅前
 愚神グリスプの情報を掴んだH.O.P.E.エージェント達は空港へ急行するなり、グリスプの逃亡を阻止すべく、周囲を封鎖し、今後内部にいる人々を避難誘導すべく集うH.O.P.E.別働隊が拓いた空間を活用し、それぞれの道を疾駆する。
「おい、先回りだ!」
 雁間 恭一(aa1168)が空港の『ある場所』へと向かうべく先を急ぎ、追随するマリオン(aa1168hero001)がその行動に疑問を挟む。
「何処に先回りして如何するのだ?」
「コンテナ運搬車を借りて、コンテナを滑走路に並べて飛行機の離陸自体を不可能にさせる。奴を狩り出すのはそれからだ!」
 恭一は飛行機の破壊が失敗した事態を想定して、滑走路自体を塞ごうと動いていた。向かう先は空港内のコンテナ車やコンテナのある区域だ。
 ただしその場所はロビーと滑走路を見通せるものの、滑走路からは離れている。
 見取り図では、この空港施設は道路幅60m、長さ2800mの滑走路1本の前に屹立する。
 通常ならば出発口を抜けても、税関や出国検査等が待ち構えており、簡単に通過できないが、今回の場合、その手前の出発ロビーで人に紛れた愚神が暴れる事が予想されるため、関係職員や周囲の人々はH.O.P.E.別働隊の手で避難を始めている。
(いつまでも逃げられると思ったら大間違いだと、グリスプに教えてあげましょう)
「そのつもりだよ。逃がさない、絶対に!」
 既にメグル(aa0657hero001)と共鳴し、髪の色と長さ、瞳にメグルの特徴と長衣を纏った御代 つくし(aa0657)が、予めH.O.P.E.を介して要請した空港の見取り図の写しと、空港から通過許可を得た滑走路への近道の一つをひた走る。
 各情報はつくしの手で同じく近道を通る仲間達にも送られている。
 海外の逃亡を図る以上グリスプは飛行機に乗る必要がある。
 飛行機の特定については、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)と共鳴し、髪の一部と左目、そして装束にヴァルトラウテの特徴を纏った赤城 龍哉(aa0090)の意見が採用された。
 グリスプの場合、準備に手間の掛かる旅客機は避け、少人数で使う小型機を狙う可能性が高い。
 同様の意見は、時間は異なるが無線とH.O.P.E.本部を介して、別班の仲間達からも寄せられており、現在空港が飛行機の特定を進めている。
 バイラヴァ(aa0398hero001)と共鳴し、髪と瞳にバイラヴァの色を纏い、青年時の姿となり、今は借用申請して借りた警備員の衣服を纏う坂野 上太(aa0398)がH.O.P.E.を介し、様々な要請を行っている。
 この空港に今後空港へ着陸する飛行機を別の空港へ避難させる事や、現在滑走路上にいる飛行機の離陸停止及び扉を固く閉ざし、避難させる事。そして空港と海外を結ぶ周囲の海域に巡視船を派遣すること、空港の車の借用願いなど多岐に渡る。
 H.O.P.E.からの各要請に対し、海上警備隊からは『巡視船の乗務員達の専門は戦闘以外であり、戦える者は船の警備にあたっており、いかなる要請でも今後一切応じられない』と回答があり、空港もまた空港内外で離発着する飛行機をなくした後、『危険性を鑑み今後一切いかなる要請にも応じられない』と回答があった。
 そしてバイラヴァが今回の討伐の難しさを見抜いていた。
(考えてもみろ、坂野のおっさん。避難誘導や人命救助優先で動いてくれる仲間達がいるとしても、空港内の人達が周囲で動く中にケントォリオ級愚神が暴れる『状況で』討伐に専念できると思うか?)
 『状況』が討伐を難しくしている。だから『逃亡阻止』に達成条件を緩めている、と。
 上太はバイラヴァの考えを無線を介し仲間達だけに通じる話し方で伝えたが、ここまで上太が仲間との無線通信に注意を払うのは理由がある。
『恐らくH.O.P.E.はグリスプを助ける連中を炙りだす事も視野に入れているはずだ』
 ナハト・ロストハート(aa0473hero001)と共鳴し、髪を銀色に、瞳を真紅に、片腕を異形と化したヴィント・ロストハート(aa0473)からの無線がそれぞれの道を進む仲間達に届く。
 何らかの人間の組織がグリスプの逃走を助けていたことは、今回、プリセンサーが感知した『刀使い』から見ても明らかだ。
 そして上太は自分達の交わす無線を傍受される可能性を考慮し、伝達内容を空港警備員の会話内容に偽装していた。
 ヴィントやナハトは上太からの無線を受け、予想される状況とグリスプの逃走失敗後の未来を予測し、別班と戦う敵の意図を推測し、そう判断した。
「人間だけではないぞ。グリスプが戦った『シュドゥント・エジクタンス(ある筈のない存在達。以下SEと略)』のように、愚神同士が手を結んでいる可能性も否定できぬ。実際に、H.O.P.E.先遣隊の話では『愚神の増援』が来たと言うではないか」
 クー・ナンナ(aa0535hero001)との共鳴を終えたカグヤ・アトラクア(aa0535)は別の角度から上太とバイラヴァの意見に賛同する。
 今回も別の愚神が現れる可能性がある。そんなカグヤの懸念はこの先のロビーで的中する。
「奴等を倒せぬ程度ではSEにも勝てんということかの」
(あれ? 共存諦めたの?)
 内よりカグヤにだけ届くクーの声に緩く首を振って、カグヤは内心クーにのみ聞こえる声でこう応えた。
(わらわは平和主義者ではないからのう。諦めてはおらぬが、力や戦術、技を磨けばいずれ何かの時に役に立つ筈じゃ)
 リーヴスラシル(aa0873hero001)の世界の作法に則り共鳴し、光の姫騎士姿となった月鏡 由利菜(aa0873)はバイラヴァ、ヴィント、カグヤ達の話を聞くうちに疑問点が解消され、今は別班の仲間達へ感謝を捧げていた。
「あの方々はその力も心も強い。きっと人々を守ってくれると信じています」
(それぞれの信念を持って戦いに臨んでくれている。ヴィランや従魔などに負けはしない筈だ)
 リーヴスラシルも由利菜が別班に向ける信頼に賛意を示した。
 その一方で、2人とも先のカグヤの話に出ていたSEについては警戒を緩めていない。
 そんな中、輝夜(aa0175hero001)はある不安を抱えていた。
(鈴音がだんだん『鬼』に近付いておる気がする……)
 輝夜と共鳴化し、心なしか常より長い金色の髪と白い装束を纏う姿となった御門 鈴音(aa0175)が輝夜にだけ聞こえる声で呟いた。
 逃がさない。どこへ逃げようと。どこへ隠れようと。
(鈴音!?)
 普段は怯えつつも暖かな心の持ち主の鈴音が発したとは思えない、底冷えのする響きがこもった鈴音の声を耳にして、輝夜は危惧を抱いた。
 終わらせねばならぬ。一刻も早く。これ以上鈴音が何かに飲みこまれる前に!
「愚神が増援に来た場合の抑えには俺が回ります」
 テミス(aa0866hero001)と共鳴化し、魔法具に十字の意匠を顕現した姿になった石井 菊次郎(aa0866)がそんな懸念を払う提案を仲間達に告げた。
(主よ。それは戦力分散を誘う敵の手の内に入るのではないか?)
 魔法具より伝わるテミスの声に、菊次郎はこう応えた。
「グリスプの事ですから、誰かが対処しなければならない状況を用意している筈です」
「その時は私も菊次郎様の援護に回り、増援の愚神を抑えますわ」
「わらわもその時は加勢するぞよ」
 ヤン・シーズィ(aa3137hero001)と共鳴し、表情を凛としたものに引き締め、白い装束を纏ったファリン(aa3137)もまた、これから来るであろう愚神への対応を申し出て、カグヤも協力する意思を示した。
 そして菊次郎の予測もまた、この先のロビーで正しいと判明する。
 そして龍哉と別班からの『飛行機の絞り込み方法案』をもとに、管制官達は複数の候補の中から『該当機』を見つけ出し、直ちにその飛行機の情報が無線を介しエージェント達に届けられる。
 それは滑走路上に残る飛行機の内、とあるクラブが借用した小型飛行機だった。
 それをグリスプが使用すると睨み、10人の戦意は動き出す。
 
●全力移動
 ロビーに駆け付けたエージェント達を、よく通る女性の声と空間を軋ませる異音が出迎える。
 それまで空港を利用する人々が行き交うロビーの空間中央に、紫黒の穴『ドロップゾーン』が展開し、骨の軋む音と共に、2体の骸骨姿の従魔(以下骨と略)がその中から躍り出る。
「あの女愚神、デクリオ級じゃねぇな。グリスプとかいう奴と同格か?」
 眼前に現れたドロップゾーンを前に、龍哉はそれを構築した愚神の力量を推し量る。
(あの力量を考えると使い捨ての駒、とは考え難いですわね)
 内にいるヴァルトラウテも、龍哉の見解に賛意を示す。
「同格の力量なら厳しい戦いになりそうだ」
 龍哉は眼前のロビーで行われる今後の戦闘が厳しいものになると予測していた。
 眼前で避難を呼びかける別働隊達と、その声に集まりつつある人々の喧騒が入り乱れる中、エージェント達は周囲の人々と異なる動きをする『それ』をいち早く見抜く。
 敵の雷が鞘走り、周囲を席巻する轟音と、骨の音達の向こうに『それ』がいた。
 生駒山より逃げ続ける、スーツ姿の初老の男の形をとる災厄。その名はグリスプ。
 映像の中にいた愚神が、目の前にいる。
 エージェント達の心に、つかの間様々な感情が沸き起こる。
 グリスプもまたエージェント達の姿を認めたのか、昏い笑みを皆様に向けた後、身を翻す。
(落ち着くのじゃ。周囲にはまだ人々がおる。今は先回りを優先せよ)
 鈴音は内よりの輝夜の助言を受け、飛びかかりたい衝動を辛うじて抑え、事前に教わっていた滑走路への近道へ向け疾駆する。
 輝夜には危惧している事がもう一つあった。
(妙じゃ。なぜあの『ぐりすぷ』とやらは、今回わざわざ姿をわらわ達に見せつけるような逃げ方をするのじゃろうか?)
 グリスプが何か罠をしかけている。そう輝夜には思えてならなかった。
「奴が何を企んでいようと関係ないわ。私たちが奴の逃走を阻止すればいいのだから」
 常にない口調で、鈴音はそう輝夜に告げながら近道を駆け抜ける。
 そのグリスプは『全力移動で』逃走し、その先には、未だ避難誘導を続ける別働隊と庇護を求める人々で構成される人の壁があった。
「大至急、ロビーの奥にいる人達を両脇に引き寄せろ!」
 龍哉が慌ただしく別働隊へ指示を飛ばすと共に、通常移動では間に合わないと判断し全力移動で後を追う。
(坂野のおっさん、みんなに今の状況を伝えろ! 骨どもに関わってる暇はねえぞ!)
『ロビーに愚神2体出現! うち1体は「全力移動で」滑走路に向け逃走中!』
 バイラヴァの助言を受け、上太は無線を介し、仲間達へグリスプが全力移動で逃げたことを話す内容を急ぎ加工して伝達し、殺到してきた骨達に不浄の風を放つ。
「行きがけの駄賃です!」
 上太から放たれた魔風に絡め取られた骨達の身体が急速に朽ちる中、グリスプの全力移動は止まらず、弾丸のような速度で後方にいる別働隊と人々の群れの中にまっしぐらに突き進む。
 この時幸運だったのは、その先で避難誘導にあたっていた別働隊が、龍哉の指示を受け、逃げ惑う人々をうまく左右に引き寄せ、グリスプの突進から辛うじて人々を巻き込まずに済んだことだ。
 左右に開いた人々の群れの中をグリスプは駆け抜け、その後を龍哉と由利菜、そして骨への対処からグリスプ追撃に急ぎ方針を切り替えた上太が追撃する。
(あとは頼むぜみんな)
 上太の内よりバイラヴァが、この場に残る仲間達に後を託す。
「わたくしの取るべき道は生駒山の惨劇を繰り返さないことですわ」
 ファリンは藤の巻かれた弓を引き絞り、向かってくる骨達に向けて弓弦の音と共に放たれた矢で骨の身体を穿ち、後方の人々を護りぬく。
(君はその選択を取るのか。このロビーにいる命達を護るために)
 いいとも。力を貸そう。
 内より響く己の英雄に向け、『ありがとうございます、お兄様』とファリンは感謝し、次に番えた矢が漆弓の弦を鳴らして飛翔し、上太の術で脆くなった骨の頭を貫いて破く。
 骨はその身を光の粒子に変え、消えていく中、残る骨にはカグヤが顕現したフラメアが翻り、打ちこまれた骨の棍を火花と共に跳ね返す。
「カグヤ・アトラクア、推して参るのじゃ。人が研鑽を積んだ技術に付き合ってもらうぞ」
 人々や仲間を守る方を優先し、棍を跳ね上げたカグヤは穂先を旋回させ、勢いをそのままに突風の速度で横薙ぎを骨に放つ。
 既に上太の術で脆くなった胴体をカグヤの刃が両断し、骨は光の粒子と共に消えた。
 その間に菊次郎は奥で紫電が人の姿をとった愚神に向け疾走する。
(紫衣の女愚神……。果たして奴なのであろうか?)
 奴とは、現在菊次郎が探し続けている『とある愚神』の事だ。
「分かりません、しかし可能性があるなら確かめなければ」
 グリスプは以前の『通話』で少なくとも2体知っていると言っていた。今回現れた愚神は条件に近い。
 その愚神はフードを被り顔を隠していたが、迫る菊次郎には見向きもせず横に手をかざすと、その手から一条の紫電が空間を引き裂いて走り、上太、由利菜、龍哉達に殺到する。
「皆さんの邪魔はさせません!」
 由利菜が全力移動を中断して仲間達と紫電の間に割り込み、その身で紫電の蹂躙を防ぎ止め、後方にいる仲間達や後方の人々を護りぬく。
「行って下さい! 私も追いつきます!」
 そう言って由利菜は殿をつとめ、龍哉、坂野の全力移動を援護する中、かけつけたカグヤからの癒しの光とファリンからの指圧のような光を受け、負傷を癒す。
「ありがとうございます。ご用心下さい。あの愚神の雷は強力です」
 カグヤとファリンに感謝を伝えつつも、由利菜は己の身を駆け抜け、生命力を奪い去った紫電の威力に脅威を感じていた。
「心しておきますわ」
「承知した。雷を避けながら、相手をするとしよう」
 ファリンとカグヤはそれぞれ頷き、現在愚神と交戦中の菊次郎のもとへと急ぎ、やや遅れ由利菜も全力移動でグリスプを追う。
 紫電を放った愚神だが、距離を置いた菊次郎が報復の光刃を放ち、刃は愚神に執拗に纏いつく軌道を見せた後、その頭部を切り裂きそれ以上の雷撃を阻む。
「俺を前にしてよそ見とは失策でしたね」
 愚神のフードが菊次郎の攻撃で裂かれ、その顔が露わになるが、それは菊次郎の『ある期待』を否定した。
 その愚神の瞳は確かに紫だった。しかし十字の光はない。
 内心菊次郎は舌打ちしたが、表には出さず眼前の愚神を抑える事が重要と判断し、再び光刃を駆使して愚神を翻弄し、その間にカグヤ、ファリンが駆けつける。
「御身はズセとお見受けします。俺をご存知ですか?」
 菊次郎の光刃と問いが愚神に直撃したところで、女愚神は槍を顕現させてこう応えた。
「私は貴方のことなんか知らないけど、何故私の名を知っているの?」
「ご興味を持たれたのでしたら、俺達としばし『歓談』といきませんか。特に俺のこの瞳を持つ愚神の話でも」
 菊次郎の言葉と共に轟音を伴う火柱が上がり、炎がズセを包む。
「そこのぴかぴか淑女。負け犬として逃げる前に、わらわと遊んでいかぬか?」
 その間に一跳びして駆け寄ったカグヤの穂先が、突風の速度で菊次郎の業火を払ったズセの胴に殺到する。
 カグヤの穂先をズセの槍が火花を発して突き上げる中、今度はファリンより弓弦の響きと共に放たれた矢状のライヴスがズセの肩を穿ち、菊次郎、カグヤ、ファリンは弓槍魔法をもって愚神ズセと交錯する。
 一方貨物室では、恭一とマリオンの空港職員への直談判が続く。
 戦いには巻き込まない。設置後は滑走路から退避してくれ。
 そう恭一が説得しても、空港職員達は怯えるだけで答えない。
「俺が責任を持って守る。ダメか?」
 恭一の言葉に反論したのはマリオンだった。
「雁間。どう責任を持つというのだ? あの危地に此奴等を送り込む事に変わりなかろう」
 別班の戦場が滑走路上にある以上、この職員達を滑走路に出すのは危険すぎる。
「滑走路に出てくれとはいわない。けれどあんた達にも、誰かを守る『盾』を持つ資格はあるんだ」
 できる形で手を貸してほしい。
 真摯に訴える恭一に、職員達はおずおずとコンテナ車を動かす為の作業に協力を始めた。
 その間にも龍哉、坂野、由利菜がグリスプを猛追するが、グリスプは通路への道へと曲がることなく、そのまま直進した。
 その前には免税店があったが、壁の後ろ側は滑走路だ。
「通路を使わず『そのまま直進する』つもりですか!」
 人間ならば弾き返されるが、愚神が突進する場合はどうなるかに思い至った由利菜が、全力で疾走しながら焦りに近い声を上げる。
 すでに免税店にいた人々は避難を終えているが、その中へグリスプは突っ込み、旅行客が購入するであろう数々の商品と陳列棚を巻き上げ、そのまま壁に激突する。
 壁は一瞬持ちこたえたが、愚神の突進に抗する事ができず、粉砕され、粉塵と化して滑走路へ向けて爆ぜ飛んだ。
 巻き上がる粉塵の幕をグリスプは突っ切り、空中へと身を躍らせ、やや遅れてグリスプの開けた穴を通り、由利菜もまた滑走路へ舞い降り、遥か先にいるグリスプを追い、滑走路上を疾駆する。
『愚神、ロビーより「そのまま直進して」空港施設の壁を突破し、現在滑走路上を走行中!』
 間に合わないと判断した上太が車のある場所へと方向を変える中、仲間には伝わる内容で無線を飛ばす。
 無線を聞いたつくし、鈴音はそれぞれの近道から全力移動に切り替え、最短の空間を駆け抜け滑走路へと飛び出した。
(グリスプ。大勢の命を弄んだ元凶。これ以上、アイツを野放しにするわけにはいかないよね)
「まずは奴の逃亡を阻止するぞ。みすみす逃がす程俺達は甘くはない」
 内より聞こえるナハトの声にそう応え、ヴィントも全力移動で施設を出て、滑走路を疾走する。
「考えてる時間もねぇってのは厳しいな」
 この時龍哉は全体を俯瞰し、グリスプの逃走を阻止する対応を考えていたが具体的方法が思いつかず、飛行機を破壊すべく、龍哉は滑走路へ向け疾駆する。
 そんな中、滑走路上に強引に割り込むコンテナの列を従えた車があった。
 運転しているのはマリオンとの共鳴で、身体の一部に機械を帯び、在りし日のマリオンの容姿に変じた恭一だ。
 恭一の要請に応じた空港職員達の協力の結果、乱雑ながら連結できたコンテナの列を滑走路上に置き、飛行機の離陸を阻み、車を降りた恭一は特定した小型飛行機へと全力移動で疾駆する。
 そして飛行機の後方より駆けてくる愚神の姿と速度を見て、間に合わないと覚った。
 あの速度では飛行機手前で職員のふりをして呼び止める事も、事前に飛行機内部で破壊工作をするのも不可能だ。
 そして小型飛行機もまた管制官の離陸中止指示に従った以上、パイロットは未だ飛行機の中にいる。
 恭一は無線を介し仲間達にこう訴えた。
『既に滑走路上にコンテナを置いて飛行機の離陸を不可能にさせた! 該当機の中にいるパイロットを避難させてから機体を壊してくれ!』
 そこへ一陣の疾風がグリスプの真横から突っ込んだ。
 グリスプへの到達を最優先とし、鈴音の姿をした戦意の疾風が血色の大剣と化してグリスプの体に喰らいつく。
 全力移動をしていたグリスプはそのまま鈴音の斬撃を受けて真横へ跳ね飛ばされる。
「おまえだけは絶対に逃がさない!」
 鈴音が血色の輝線を纏う暴風と化してグリスプを切り刻み、その間に飛行機前につくしとヴィントが到着し、中にいるパイロットを外へ避難させていた。
 駆けつけてきた恭一と共にヴィントは飛行機の破壊に取り掛かり、つくしは鈴音の援護に駆ける。
「今助けるからね、鈴音ちゃん!」
 グリスプは先端を穂先とする無数の刃が乱立する鞭を顕現し、グリスプが腕を軽く振る。
(鈴音! 後ろへ躱すのじゃ!)
 内からの輝夜の助言に従い、鈴音が飛び退くと、眼前を赤い光と共に刃の群れが通過した。
 鈴音の目測ではグリスプの鞭の全長はおよそ10m前後。
 そこへ呪詛を吼える闇がグリスプに殺到して絡みつく。
「行かせないよ! あなたはここで終わりなんだから!」
 後方より駆けつけたつくしのリーサルダークがグリスプの意識を奪い、仲間達の集う貴重な時間を稼ぐ。
 そして轟音と共に後方から急速に近づく車がグリスプの真横を駆け抜けざま、放たれた幻影蝶がグリスプに纏いつき、その力を強奪する。
「ここが終点です!」
(リゾート地には行かせねぇぜ!)
 すれ違いざま幻影蝶を放った上太とバイラヴァはそのまま飛行機へと車を走らせ、その先ではパイロットを避難させた飛行機への攻撃が始まった。
 上太と交代する形でパイロットが車に乗り駆け去る中、獅子の咆哮と共にヴィントの大剣より迸る衝撃波の奔流が、無抵抗のままその場に残る飛行機の垂直尾翼と水平尾翼を噛み裂き、駆けつけた恭一が腕を振り、腕輪より放たれた無数の光弾が飛行機の胴体に破口を穿つ。
 さらに遅れて駆けつけた龍哉と由利菜が飛行機の左右から機体の破壊に加勢する。
(よく狙って撃ちますわよ!)
「持ち主には悪いが……」
 ヴァルトラウテの声に応じ、龍哉は飛行機の所有者に詫びを入れた後、速射砲を咆哮させ、エンジンを次々と破砕する。
「こ、高価な飛行機の部品ですけど、グリスプの逃走経路を潰すには……」
 覚悟を決めた由利菜の斬撃は飛行機の脚にあたる降着装置を次々と両断し、支えを失った飛行機の腹が滑走路上に落ち、飛行機は動く術を失った。

●『盾』は『鎖』に
 全員の避難を終え、無人と化したロビーの空間の中を光刃が奔り、矢が疾走し、槍が激突し、紫電がズセの身に纏いつく。
 カグヤとズセが駆けちがい、振るいあう槍の閃きの中、カグヤの続けざまに繰り出す槍はズセの槍に跳ね返され、菊次郎の放った幻影蝶がつかの間ズセから意識と力を奪い、ライヴスのメスやファリンより殺到する矢が次々とズセの身を穿つも、ズセに倒れる気配はなく紫電がズセの負傷を癒す。
(戦の道は心を攻めるのが上策だ。揺さぶってみよう)
「貴女、彼の何ですの? 捨て駒にされるとはお思いになりませんの?」
 ヤンの助言に従い、ファリンは離反を誘う言葉を並べて揺さぶりをかける。
 ズセはそれまで旋回させていた槍を止め、3人に背を向けてドロップゾーンへ歩き出し、こう応えた。
「時間だからもう行っていいわ」
「御身が如何なる約定によって彼の逃亡を助けるかは知りませんが、それも策の一つですか?」
 菊次郎は予想と異なるズセの態度に不審なものを感じて問いかけるが、ズセはドロップゾーンを消した。
「私はある程度ここにいろと言われただけ」
「それは捨て駒にする常套文句じゃな」
 カグヤもまたファリンの揺さぶりに乗る。
 魔法の剣はそのように見えるライヴスであり、敵の雷も同様である以上、避雷針作戦は使えない。
 今回目の前の愚神を倒すには戦力が足らず、周囲が無人で被害が出ない今、この愚神を退去させるのが妥当とカグヤも考えていた。
「グリスプのような下衆に、下に見られてますのね。憐れな方……」
 演技めいたファリンのため息にズセは哄笑した。
「それは『私達』のほうよ」
「どういう事です? 私達とは?」
 菊次郎の問いに、ズセはこう応えた。
「あいつ、あの後私達の増援を見込んで作戦立てていたたけれど、私達『パラダイス・メーカーズ』(楽園の作り手達)はあいつを助けない。『人間』の方もね」
 そしてズセは何事かを3人に伝え、その体が霧となり、空港外へと去っていく中、3人は滑走路へと疾駆する。
 その頃、滑走路上では7人の戦意とグリスプの間で攻防が続いていた。
 まるで宙を舞う蛇のような機動で刃の鞭が周囲を蠢く中、駆けちがう恭一が腕を振り、幾条もの光が駆け抜け、グリスプの体を穿つ。
(今までの事を悔いてもらいますよ)
「ここで終わらせるよ!」
 メグルの意志に支えられたつくしが放つ不浄の風がグリスプの体に纏いつきその体を朽ちさせる。
 そこへ肉薄した鈴音の刃が上下へ二閃し、グリスプの体に2条の斬撃を刻み、警備員の偽装を解いた上太があえて距離を詰め、アルマスブレイドを翻し、上太の斬撃が新たにグリスプの体へ斬創を刻む。
(貴様をトリブヌス級にさせてやるほど、私達は甘くはない)
「女性の手を煩わせるのも、ここまでにして頂きましょうか」
 リーヴスラシルの加護のもと、金色と赤い宝石、刀身に赤線を纏う由利菜の刃が横殴りの豪風と化して刃の鞭と交錯するが、それを跳ね上げ、愚神の体に刃を叩き込む。
 そしてトップギアで『装填』を終えたヴィントの大剣が轟然と旋回して三閃し、愚神の体を三度噛み砕き、別方向から轟音と共に振る舞われた龍哉の60ミリ弾がグリスプに直撃し、その威力をグリスプの身体に炸裂させる。
 だがグリスプの体が黒、次いで白く光るとその体に刻まれた負傷が塞がり、腐食も止まり倒れる気配がない。
 ここまでに判明したグリプスの能力は3つ。
 2回行動が可能で、負傷と状態異常をそれぞれ回復する術を持つ。そしてしぶとい。
「その状態で、この後来る『古龍幣』などの増援とも連戦できますか?」
 グリスプが初めて手の内を明かし、その内容に7人が色めき立つ。
 古龍幣というのは海外に本拠地のあるあるヴィラン組織の名で、現在H.O.P.E.本部より斡旋されている依頼の中にその名が散見される。
 そしてそれは既に援軍に来ている『刀使い』の正体でもあった。
 そこへカグヤ、菊次郎、ファリンが駆けつけて合流するなり、カグヤはグリスプにこう告げた。
「助けは来ぬぞ。その『古龍幣』と愚神の『両方とも』」
 そしてズセより言われた内容を伝えられたグリスプは初めて狼狽の顔を見せた。
 やがて別班が刀使いや骸骨達との戦いを制し、被害を最小限に食い止めたとの連絡がH.O.P.E.より寄せられる。
 それは『鎖』と『盾』がグリスプをこの地に繋ぎ止めた事を意味していた。

●終幕序曲
 そこからのグリスプの動向は見ものだった。
 まずグリスプの連絡した『古龍幣』からの回答はグリスプを見捨てる内容だった。
『愚神とは手を切れとの上からの命令でね。そう嘆かないでくれないかな。こっちも悲しいんだ。大切な部下がお前のために死んだんだから』
 しかし実際のところは助けに行く利益がないだけだろう。
 グリスプは通話先に『この俗物ども』と抗議したが、通話は向こうから切られた。
 そこへグリスプの持つ別の通話機に連絡が入った。
 恐らく先程まで戦っていたズセからだろうが、こちらも救援を拒む内容だった。
「『一緒にいた間、貴方に抱いた感情は一つだけ』とズセは言っていましたわ。愚神とは相容れませんが、貴方への感情に限っては同意できましたわ」
 ファリィは酷薄な笑みでそう告げる中、カグヤは冷笑を浮かべ『その感情』をグリスプに放った。
「『この屑め』だそうじゃ。それにはわらわも同意したがの」
 ここに至り、エージェント達はグリスプが見捨てられたと思い至る。
 それも『人間』と、同じ存在である愚神両方から。
 己のみが逃げ延びるためなら人間も愚神も踏みにじり続けたグリスプが、今その両方から見捨てられた事を、菊次郎は直ちにH.O.P.E.へと連絡する。
「ええ。『古龍幣』も『パラダイス・メーカーズ』と名乗る愚神達もグリスプより手を引きました。助ける利益がないそうです」
「『助け』を借りて、俺達をまとめて始末しようと罠を張っていたつもりだろうが、はめられたのは貴様のほうだ」
 ヴィントの指摘通り、現在グリスプへの包囲網は厚みを増して狭まり、海外どころかこの場からの逃亡も不可能に近い状況だ。
(因果応報、とはよく言ったものです)
「私は人の不幸は悲しいけど、今の私の気持ちを鈴音ちゃんと一緒に伝えるね」
 つくしはメグルの声に頷きながら、それまで険しい表情だった鈴音がつくしに名指しされて困惑する中、つくしは鈴音に近づき耳元で何かを囁いた。
 すると鈴音の顔から毒気が抜かれ、ついで吹き出すように笑い、晴れやかな表情と共に今の心境をつくしと声を揃えてグリスプに放つ。
「「ざまあみろ!」」
 その途端、周囲にいた8人は笑いを吹き出す衝動にかられたが、これを抑えグリスプの包囲を狭めると、グリスプは通話機器を地面に落とし、足で踏みつぶして不可思議な言葉を紡ぐ。
 それはグリスプが奏でるこの世界への呪詛だった。
 そしてグリスプの周囲から色を奪い、影をはぎとる『ドロップゾーン』が顕現し、その中へとグリスプはその身を消す。
『皆様、辛い戦いを強いた事をお詫び申し上げます』
 そんな時、無線を介し担当官からエージェント達に謝罪の意志が伝えられると共に、詳細な状況が伝えられた。
『皆様のご尽力により、被害は最小限に食い止められ、空港周囲からの人々の避難は全員完了しました。そして、これ以上の敵増援はないとみなされましたので、今回の依頼はこれで完了となります。皆様には一度この場から退いて態勢を立て直して下さい』
 その間の監視や逃走を阻止する包囲は、H.O.P.E.が責任をもって行います。
 そう担当官は皆様に告げていた。
 なお現時点をもってこの依頼は終了したとみなされたので、皆様はこのまま帰路についても問題なく、H.O.P.E.別働隊員達が送迎してくれるとの事だ。
 皆様がグリスプの災厄を広げぬ為の『盾』となり、別班の『鎖』と共にグリスプをこの地に繋ぎ止め、それぞれが己の役割を果たし、被害を抑えた事が高評価に繋がった。
 そして担当官より、上層部からの次の依頼が皆様に伝えられる。
 愚神グリスプを討て。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • 繋ぎし者
    坂野 上太aa0398
    人間|38才|男性|攻撃
  • 守護の決意
    バイラヴァaa0398hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 願い叶えし者
    ナハト・ロストハートaa0473hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
前に戻る
ページトップへ戻る