本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】ボウソウ

雪虫

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 5~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/03/10 16:18

掲示板

オープニング

●バンコク、下町、屋台街
「ようおっさん、いつものヤツ頼むぜ」
 カウンターから聞こえてきた声に、麺屋の店主は「あいよ」と一言だけを返した。しばらくして出されたタイヌードルに、ダムは仲間達と共に「いただきます」と両手を合わせる。
「おお、食え食え。しかし最近見なかったが、一体何をやっていたんだ」
「細けえ事を色々だよ。何でも日本の方で何か事件があったとか……ま、俺達下っ端にゃあ関係ねえ話だけどな」
「はは、違いねえ。いくら古龍幇所属のリンカーだっつっても、こんな場末の屋台で麺食ってるようなご身分じゃあなあ。所でその缶一体なんだ?」
「何でもリンカーの力をめいっぱいに引き出す栄養ドリンクらしくてよお、今俺らの間で流行ってんだ。こいつらはさっき飲んじまったんだけど俺は後にしようと思って。っつうか今さりげなく馬鹿にしやがったなクソ親父……」
「うううう……」
 隣で麺を食べていた仲間の一人がうなるように呻き出し、ダムは箸を置いて立ち上がった。自分を抱きかかえるようにうずくまる仲間の肩に右手を置いて覗き込む。
「おい、どうした、腹でも痛えのか? おっさん、何か変な物入れたんじゃ……」
「がああああ!」
 突然、苦しがっていた仲間が咆哮しながら顔を上げ、目を見開いたダムに勢いよく拳を振るった。ダムが吹き飛ばされたと同時に共鳴し、拳銃型AGWをダムの眉間へと向ける。
「お、おい、何するつもりだ!」
「ああああああ!」
 咄嗟に共鳴したダムの頬を放たれた銃弾が掠めていき、その視界に一人、また一人と、いつもとは様子の違う仲間の姿が映り込んだ。異常を察知したダムはグレートソードを出現させ、店主へ声を張り上げる。
「おっさん、早く逃げろ! こいつらは俺が食い止める! 他の屋台の連中にも異常を伝えろ! 早く!」
「あ、ああ!」
「おいお前ら! 俺達は古龍幇だぞ! 一体どうしちまったんだ!」
「ガアアアアア!」

●救援、要請、大至急
 ガイル・アードレッド(az0011)はデランジェ・シンドラー(az0011hero001)と共にバンコクの下町を歩いていた。最近アジア全域でリンカーの無差別的な暴走事件が多発しており、調べてみると古龍幇の構成員によるものであると言う。それで香港支部から捜査の依頼が入り、ガイル達も仲間と手分けしてバンコクの下町を歩いているという訳である。
「ミーが目指すのは世界最強のワールドワイドなNINJYAでござる。絶対にゲンインを突き止めて、このナンジケンをカイケツ! でござるよ!」
「た、助けてくれ!」
 視界に血塗れの男が飛び込み、ガイルは慌てて駆け寄った。頭を切ったらしく、顔の半分以上がべったりと赤に塗れている。
「ど、どうしたでござるか!?」
「こ、古龍幇の構成員が、この先の屋台街で暴れていて……でも、あいつらそんな事をするようなヤツらじゃないんだ……確かにガラは悪いが、突然こんな事をするなんて……一体何が……」
 ガイルとデランジェは互いに顔を見合わせた。何やら事情がありそうだが、とりあえずやれる事は一つである。ガイルは無線を取り出しつつ、親指で自分を指し示す。
「ミー達はH.O.P.E.のエージェントでござる! まかせるでござるよ! ミナサマ、エマージェンシーでござる! 屋台街でクーロンパンがオオアバレ! キュウエン、ヨウセイ、ダイシキュウでござる! エマージェンシー!」

●暴走、暴走、ボウソウ
「ぐうッ!」
 壁に叩きつけられたダムは、そのままズルズルと地面に落ちた。グレートソードはすでに砕け、金属の塊に握り手の生えた程度の代物になっている。
「て、てめえら……一体どうしちまったんだ……俺達は下っ端だろうが古龍幇だ! ただ暴れるだけの何処ぞのヴィランや従魔共とは違うんだぞ!」
「ぎあああああ!」
 ダムの叫びは、暴れ狂う仲間の凶弾に遮られた。その様子を、構成員の暴走により廃墟と化した屋台の影から、目も耳も存在しない小さな何かが伺っていた。
「ギイイイイ」

解説

●目標
 古龍幇構成員の生け捕り

●状況
・PC達は暴走事件の捜査のためバンコク内を探索中
・事件現場に最も近いのはガイル
・全員徒歩
・各PCが屋台街に到着するまで五分かかる
・屋台はきちんとした屋根のあるものからテント式まで様々
・屋台街は一本の大通りに店が乱立した形となっており、少々入り組んでいる
・事件は大通りの中央辺りの麺屋で発生
・一般人の避難は完了している
・時刻は日中。曇り。視界の制限なし
・無線により仲間と連絡可。必要物品あれば申請可(マスタリング対象)
・ダムの持っていた缶は割れている

●敵情報
 暴走した構成員×3
 以下のAGWとスキルを使用する。ステータスが強化されている。連携を取る

・シャドウルーカ―(鉤爪)
 潜伏/毒刃

・ジャックポット(オートマチック)
 威嚇射撃/フラッシュバン

・バトルメディック(ワンド)
 ケアレイ/ブラッドオペレート

●NPC情報
 ガイル&デランジェ
 回避適性/シャドウルーカ―。特に指示がなければ現場を目指す
・縫止
 ライヴスの針を発射し対象の行動を阻害する
・鷹の目
 本物の能力と同程度のライヴスの鷹を生成。鷹はダメージを受けると消滅
武器:ニ丁拳銃「パルファン」

 ダム
 古龍幇所属のブレイブナイト。重体。自力で動く事は出来ない

●PL情報
 オンリースニフ
 全長10cmのトカゲ型従魔。臭いのみで獲物を認識、臭いが消えるまで追ってくる。移動と回避が異常に高い。古龍幇構成員が捕縛されそうになると瓦礫の影から構成員に襲い掛かる。構成員以外には見向きもしない。
・連続噛み付き
 素早く連続で噛み付きダメージを与える

リプレイ

●急行
 ガイルからの連絡に、麻生 遊夜(aa0452)はやれやれと肩をすくめた。無差別暴走事件。香港支部からの依頼により、現在手分けをしてその捜査に当たっている最中なのだが、
「無差別暴走事件、ね……誰が裏で糸引いてやがるのやら」
「……ん、ヨンピョーは、大丈夫?」
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)はつい先日出くわしたヴィランの名前を口にした。超絶人見知りのユフォアリーヤがたった一回出会っただけの、しかも敵を気に掛けるとは珍しい。余程気に入ってしまい、そして気になっているのだろう。
「あっちはあっちで調べてるだろうが、っと……屋台街か、すぐ向かう」
 
「一体、古龍幇に何が起こっている? これは只事ではないぞ」
「詮索は後だ、まずは彼らを止めよう」
 連絡を受けた無月(aa1531)は唸るように声を上げ、ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)は念のため相棒へと釘を刺した。無月は頷きをもって返すと、無線の向こうにいるガイルへと指示を言伝る。
「ガイル君、すまないが鷹の目で現場と敵情の視察をしてもらえるだろうか。可能なら我々の誘導もしてもらいたい」
「了解でござる!」
 指示を受けたガイル・アードレッド(az0011)はデランジェ・シンドラー(az0011hero001)と共鳴すると、ライヴスの鷹を作り出し上空へと羽ばたかせた。程なくして瓦礫と化した屋台街の中心で暴れる三つの影を見つける。
「中央辺りで三人ぐらい暴れているでござる! それと誰か倒れているようでござる!」
「では、怪我人の保護、及び暴走した三人を散らばらせないよう足止めを頼みたい。君一人に全てを任せるのは申し訳なく思っている。だが、これは君にしか出来ない事なのだ。すぐに私達もそこに向かう。それまでは耐えてくれ」
 指示を出しながらも心情としては、ガイル一人にここまでやらせるのは大変で危険な事は重々承知だ。念のために言えばガイルだから荷が重いのではなく、誰がやっても荷が重い事は解っている。
「それでも、今は君に頼るしかないのだ。それと私は……いや、私達皆は君を信じている。命だけは粗末にしないで欲しい」
「デランジェ君も無理だけはしちゃだめだよ」
「リョウカイでござる!」
「任せて頂戴」
 無月とジェネッサに応えを返し、ガイルとデランジェの声は途絶えた。一連のやりとりを黙して聞いていた木陰 黎夜(aa0061)が小さく呟く。
「調査中に出くわすなんて……」
「急いだ方が良さそうね」
 アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)に頷き、黎夜は共鳴すると全速力で走り出した。男性恐怖症の黎夜は、相棒だが男性のアーテルと共鳴する事も苦手としている。だが、今はそうも言ってはいられない。
「……っと、誰かいる」
 前方に人の姿を認め、黎夜は急ぐ足を緩めた。そして、息を荒げている住民へと声を掛ける。
「H.O.P.E.のエージェントだ。今、事件が起きたって聞いて現場に向かってんだけど……こっちでいいのか?」
「あ、ああ。頼む。あいつらは急に暴れ出すような奴らじゃないんだ……何とか穏便に……」
「……分かった。生かして、止めてくるから……」
 黎夜は零すように答えを返し、そして再び走り出した。一方、同じく現場に向かいながら、役に立ちそうなものを見つけては拾っていた御童 紗希(aa0339)は、瓦礫の影で何かが動いている事に気が付いた。
「なんか気持ち悪いトカゲがいるよ?」
「新種のトカゲじゃないのか? 知ってるか? 新種の動植物を見つけると最初に見つけた奴の名前が付けられるんだぜ」
「そんじゃ、一応写真とっとこ」
 カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)の言葉に、紗希はスマホを取り出しトカゲの姿をカメラに収めた。何かにまとわりつくようにウロウロするトカゲにカイが不快そうに顔をしかめる。
「それにしてもキモいトカゲだな」
 カイは足で踏み潰そうとしたが、トカゲは素早く瓦礫の中へと逃げてしまった。粘着テープを手にした紗希がカイを諫め、二人は再び現場へと走り出した。

「古龍幇って……『信用』が主な商品……でしたよね!?」
 若干息を荒げつつ煤原 燃衣(aa2271)は傍らを走るネイ=カースド(aa2271hero001)に半ば独り言のように問い掛けた。伝え聞いた情報では古龍幇は政治財閥とのコネが強く、警察と極道両方の立ち位置にあるという。そんな古龍幇にとって信用は第一のはず。それを、こんな暴走とも取れる行為を働くとは……
「まるで"マガツヒ"……だ、な……」
「だとすると……古龍幇じゃなくて……むしろ信用の失墜と弱体化を狙った……他組織の仕業……? 或いは下部をダシにした何かの策? ならば彼等は『消される』かも」
 燃衣の冷徹とも言える推理を耳にしながらネイの表情は変わらなかった。大半の感情を失い、業火のような殺意のみを糧に生きる魔人は言葉を投げる。
「推理小説は此処までだ、スズ」
「……はい……ッ。集中しろ……でなければ、誰かが死ぬ!」

『見捨てルノは日本に帰っテからネ』
 シルミルテ(aa0340hero001)の歌唱用合成音声に、佐倉 樹(aa0340)は内心で口を尖らせた。お騒がせNINJYAを面白おかしく見捨てる事、それは「好き」という感情を永らく持ち合わせてこなかった樹のここ最近の楽しみとなりつつあるが、どうやら今回その楽しみを堪能するのはお預けらしい。
 樹は嘆息した後共鳴し、もちうる全速力で駆け出した。その最中に、手慰みのように無線機のスイッチを入れる。
「ガイルさん、忍者として追加任務をお願いします。状況の逐次報告を。ただし」
『自分第一にネ!』

●強行
 ガイルは二丁拳銃パルファンを構え眼前の敵を見据えていた。受けた指示は負傷者の保護、そして敵の足止めだったが、現場の状況から両方をこなすのは難しいと判断した。今自分に出来るのは敵を攻撃して注意を引き、負傷者から少しでも離す事……ガイルは暴走した三人の構成員をキッと睨む。
「クーロンパン、ミーが相手でござる! そこの方、今ミーの仲間が来るでござる、それまで頑張って欲しいでござる!」
「ガァァッ!」
 鉤爪を携えた敵は獣のように唸りを上げると獲物目掛けて走り出した。ガイルは照準を合わせたが、その腕に敵のオートマチックの銃弾が埋め込まれる。
「ぐっ!」
「死ネッ!」
 鉄の爪がガイルを切り裂く、その直前、不浄の風がガイルを護るように吹き荒んだ。ガイルが風の吹いた方向を見ると、零月 蕾菜(aa0058)が朱い鳥の翼と脚にクリスタルファンを広げながら、ゴーストウィンドを放ったままの姿勢で立っていた。
「あんぱん、退け。ここからは俺らがやる」
「これでも食べておいて下さい」
『ヨク頑張っタネって言ってルのヨ』
 カイがガイルの襟を掴んで後ろに下がらせ、樹がその顔にチョコレートを叩きつけ、シルミルテがすかさずフォローを入れた。まるで人の姿を得た獣のような敵の有様に十三月 風架(aa0058hero001)が声を漏らす。
『集団で暴走、ですか……』
「風架さん、大丈夫ですか?」
『このくらいで竦んで鈍らせたりはしないから、大丈夫』
 風架は自分に言い聞かせるように自嘲気味に言葉を返した。おっとりとした口調とは裏腹に、風架の秘める性質は穏やかさとはかけ離れたものである。暴走したヴィラン……その姿は、他人事と割り切るにはあまりに近しいものがある。
『まぁ、こっちの心配を出来るなら蕾菜は問題なさそうですね……殺さずに止めますよ、絶対に』

「おい、大丈夫……か」
 蕾菜達が武器を片手に敵の注意を引いていた頃、黎夜と無月は負傷者……ダムに接触していた。一般人とは違う姿に「リンカーか」とダムは呟き、二人は頷きをもって返す。
「うちらは今回の原因を知りたいだけ……突然暴れたりするヤツらじゃねーって、聞いてる……貴方は屋台街にいる人を守ったんだろ? そっちにはそっちの誇り、あるだろうけど……その誇りをぶっ壊そうとしてるのに、何か思い当たる?」
 黎夜の言葉に、ダムは眼の前にいるのがH.O.P.E.であり、自分が古龍幇だと知られている事に気が付いた。口を噤むダムに、しかし黎夜は嘆願する。
「一般人だけじゃなく、貴方の仲間の命もかかってるかもしれねーから……ここにいるリンカーや一般人は、死なせない……お願い、今だけ情報を下さい……」
『どうするかは貴方に決めてもらうけれど。断っても生け捕るだけだもの』
 黎夜の説得とアーテルの述べる事実に、ダムは傍らに視線を向けた。そこにはグシャグシャに潰れて割れた缶が転がっていた。
「そこに転がってるドリンク……あいつらはそれ飲んで、屋台の麺食ってただけだ。それ以上は分からねえ」
「すまないが、これから彼らを無力化させる。これは貴方達がここの人達を護っているという誇りを守る為の戦いだ。どうか理解してほしい」
 無月は立ち上がると刃を掲げ仲間達の元へと駆けていった。黎夜はその場に残ってダムを隅へと運んでいき、服を破って負傷箇所へと包帯代わりに巻いていく。
『黎夜、大丈夫?』
「大丈夫……今はアーテルがいる……」
 黎夜は気丈に返し、禁軍装甲を肩に備え右手に死者の書を携えた。奇襲や流れ弾に警戒しつつ無線機に口を寄せる。
「暴走しているヤツらは何か変なものを飲んだらしい……うちはこのまま護衛に当たる」

 紗希はインポッシブルを出現させると敵ジャックポットへ狙いを定めた。目的は構成員の生け捕り。出来れば穏便に事を済ませたい所だが
「暴走した原因がドリンクなら、効果で痛覚が鈍っている可能性もある。ほぼ戦闘不能に持ち込むつもりで戦うわよ!」
 紗希は好戦的に口元を吊り上げながら、一度に二発の弾丸を発射出来る「不可能」の引き金を引いた。ワンドを構えるバトルメディックに接近した樹は、暴徒捕縛用に申請していたカラーボールを敵の顔面へと叩きつける。銃弾はジャックポットの肩へ、カラーボールはバトルメディックの両目へと当たったが、二人の構成員はにたりと笑い、そのまま眼前の紗希と樹を攻撃しようと腕を振るう。
「ガッ!」
「グウッ」
 その時、屋根の上から三つの矢が構成員達へと降り注いだ。トリオ……屋根の上から神速の早撃ちを披露した遊夜は、フェイルノートを傍に下げ、ユフォアリーヤと視界を共有しつつ戦場を瞳に映す。
『……ん、ござるお手柄?』
「おぅ、現場発見したってよ」
『……ん、ござる、後で褒めてあげるね』
「何はともあれ鎮圧・捕獲だ。これ以上被害を大きくはさせないぜ!」
 遊夜と同じく【陰】としてタイミングをうかがっていた谷崎 祐二(aa1192)は、軽い変装のためのサングラス姿のまま、敵ジャックポットへと滑り込みライヴスの針を放った。同じく無月もメディックへと肉薄し縫止を仕掛けたが、こちらは外れメディックは後方へと引き下がる。
「掛かったな、私は囮だ!」
 無月が叫んだと同時にイメージプロジェクターで瓦礫色へ偽装した燃衣が、「暗殺」と唱えながらバトルメディックに急襲した。痛覚が遮断されている可能性を考え、ザグナルの背の槌部を、一気呵成を掛けて右膝へと叩き込む。転倒した敵にさらに斧槍を撃ち、ゴキリと嫌な音がしたが、バトルメディックはまるで意に介さないように歪んだ笑みを浮かべてみせる。
「ヒハハハ」
 バトルメディックは手中のワンドを掲げると、回復をもたらす淡い光で自身の体を包み込んだ。同時に鉤爪を手に持つシャドウルーカ―が、毒刃を乗せて燃衣へと飛び掛かる。 
「させません!」
 その行く手を、蕾菜のクリスタルファンから放たれたブルームフレアが遮った。紗希は武器をライオンハートに持ち替えて縫い止められたジャックポットへ接近し、握り締められたままのオートマチックに勢いよく叩きつけた。拳銃から火花が散り、狙撃手は武器を取り落とす。それを見たバトルメディックとシャドウルーカ―が標的を紗希に変更し、大剣を携える少女に同時に攻撃しようとする。
 だが、その足元に樹の放ったブルームフレアが、目の前に遊夜の放ったフラッシュバンが襲い掛かった。
「暴走して力は上がってるし、連携も取るみたいだが……」
『……ん、理性がない、単純』
 炎と光に焼かれる敵に、遊夜とユフォアリーヤは悪戯っぽく呟いた。遊夜から渡されたサングラスで光をしのいだ無月は、今度は本気の縫止を再びメディックへと放った。動きを封じられたメディックに燃衣が背後から飛び掛かり、再度ザグナルを関節部へと叩き込んで地面へと組み伏せる。同じくシャドウルーカ―に掴み掛かった蕾菜も、骨を折らんと言わんばかりに敵の腕を締め上げた。
「命を取るつもりはないですからおとなしくしてください」
「が、がが、ガァァッ!」
 シャドウルーカ―は激しく暴れながらライヴスで自分の体を覆い隠そうと試みた。だが、何も起こらない。同じくシャドウルーカ―である祐二がやれやれと首を振る。
「潜伏は自分をライヴスで覆い見つかり難くする効果があるが、英雄と共鳴しているリンカーには効かないんだ。諦めな」
 最後に紗希がライオンハートの腹でジャックポットの横っ面を思いっきり引っ叩き、敵は完全に沈黙した。少々過激なようでもあるが、未だ獣のように唸っている所を見ると仕方のない事と言える。エージェント達は共鳴の解けた三人をそれぞれロープなどで縛り上げ、蕾菜は抵抗出来ないように幻想蝶を回収した。紗希はさらに拾ってきた布やら粘着テープやらで猿轡と目隠しを行い、万が一に備えて構成員を安全な場所に引きずっていく。
「何かの力が働いているなら、証拠となる彼等を『消す』為の存在が居る可能性が高い」
「証拠握られたくねぇ輩がやることは一つ、だろ?」
『……ん、口封じは、定番』
 共鳴中の燃衣は普段の気弱な口調とは違う淡々とした調子で呟き、遊夜とユフォアリーヤも周囲に視線を走らせた。燃衣は先程H.O.P.E.に現在の状況の推察を述べた上で、安全な場所と護送の手配を頼んだが、今自分達のいるバンコクに最も近い、設備の整った施設は香港支部であり、そこから護送車を送るよりも乗ってきたバスに乗せて運んだ方が早いとの指示が帰ってきた。バスが到着するまでもうしばらく掛かるそうだ。燃衣は黒白目と紅い虹彩の上にライヴスゴーグルを装着すると近くの物陰を注視した。視界は10mまでしか届かない試作品だが、ライヴスの流れを可視化する事が出来るゴーグルだ。無月も共鳴を解き、自分は苦無、ジェネッサにはオートマチックを持たせ近遠共に警戒する。
「あれ? またトカゲ? カイも言ってたけどキモイなあ」
 その最中、紗希は近付いてきたトカゲに気付き、足を持ち上げ踏み潰そうと試みた。なおスカートが無駄にめくれないよう配慮する事も忘れない。だが、トカゲは共鳴している紗希の攻撃を素早い動きで回避し、紗希の背後に転がる構成員に接近しようと試みる。
「そのトカゲ、ライヴスをまとっている!」
「普通の小動物が危険地帯に飛び込んで来るわけねぇよな? 怪しい物は例え小さくとも見逃さん!」
 燃衣が叫んだと同時に、遊夜はテレポートショットをフェイルノートから撃ち放った。空間を転移し死角から狙う襲撃を、しかし10cm程のトカゲは紙一重でかわしてみせる。
「トカゲ、気持ち悪い……」
 ダムについていた黎夜は、嫌そうに顔をしかめ死者の書から銀の魔弾を出現させた。しかしトカゲ型従魔はそれをもかわし、自分を攻撃する黎夜達には目もくれず、構成員だけを狙い鋭い牙を大きく剥く。
『させるか!』
 蕾菜と共鳴する風架は咄嗟に構成員を地面に押し付け代わりにトカゲの牙を受けた。従魔は連続で共鳴した蕾菜の白い獣の左腕を噛み、鼻の辺りを動かした後「違う」と言わんばかりにその場を離れる。
 樹は従魔の外見から、以前生駒山で出会ったトカゲ型従魔を思い出した。細かな外見こそ違うが、執拗に構成員だけを狙っているような姿から樹は周囲に声を荒げる。
「たぶんこいつら!」
『一度狙っタラ離れナイ!』
 そして樹は死者の書から幻影蝶を、蕾菜はクリスタルファンからリーサルダークを解き放った。光の蝶と魔力の闇が同時に従魔を取り囲み、そこに再度遊夜がフェイルノートを引き絞る。
「せっかく生き証人がいるんだ、やらせてたまるかよ」
 遊夜の矢が従魔を串刺し、祐二のグリムリーパーがその首を切り落とした。トカゲ型従魔は活動を止め、砂となって瓦礫の一部に混ざっていった。

●凶行
「はい、これどうぞ」
 祐二はチョコレートを取り出すと蕾菜と風架へと差し出した。蕾菜は祐二とチョコを見比べわたわたと両手を振る。
「いえ、そんな、かすり傷ですし」
「あんなにガブガブ噛まれたんだから、無理するなって。まだ油断は出来ないが、とりあえずおつかれさま」
 再度「ほら」と言われては断りきれるものではない。蕾菜は恐縮しつつチョコレートを受け取った。
「ところで、どうしてずっと共鳴しているんですか?」
「英雄が暑いからって出たがらないんだ。バスが襲われる可能性もあるし、俺の場合は見た目は大差ないから別にいいが、支部に戻るまではずっとこれだな」
「……ん、ござるー♪ えらいえらい」
 祐二がサングラスを直しつつため息を吐いた一方で、ガイルに突撃したユフォアリーヤはガイルの頭を抱えてなでなでしつつ月餅を口にくわえさせた。樹からはチョコレート、ユフォアリーヤからは月餅、そろそろガイルのお腹周りが心配である。
「やれやれ、これで進展するかねぇ?」
 遊夜は割れた缶を見つつ顎に指を当て呟いた。中身はほとんど零れてしまっているようだが、わずかに液体が残っているのが見える。もっともこれが正しく缶の中身かは分からないが……黎夜は気泡緩衝材を取り出すと、中身をさらに失わないよう気を付けながら回収し緩衝材で包み込んだ。
「似たのに秘薬はあるけど……狂暴化する副作用でもあった、かな……?」
「もしこれが試作品なら、古龍幇のリンカーで実験なんてあり得るかもしれないわね」
「この栄養ドリンクの出所……どこか分かるか? いつ頃から、誰によって配られたのか……」
 黎夜の問いに、ダムは眉間に皺を寄せた。地面へと視線を落とし、苦々し気に答えを返す。
「俺達は下っ端仲間が流してくれたヤツを貰っただけだ。そいつらだって、一体誰に貰ったのか……」
「今、お前には敵が多過ぎる……親からも……『消され』る……ぞ……」
「今はH.O.P.E.へ……少なくとも、身の安全は保障されます」
 ダムの身を案じてのネイと燃衣のフォローに、しかしダムは勢いよく顔を上げた。立ち上がろうとし、しかし叶わずに崩れ落ちながら、燃衣達を噛み付くように睨みつける。
「その『親』っつうのは古龍幇の事か……フザけんな! 古龍幇は俺達みたいな下っ端だろうと貧乏人だろうと社会のゴミだろうと捨てやしねえ! 何かありゃあトンズラこくしか能のねえクソ共とは違うんだ!
 それに、てめえらなんざに守ってもらわなきゃならねえ程落ちぶれた覚えもねえ! どけよ、止めてもらったのは感謝してるが、あいつらの事も連れて帰る……」
 その時、バスの方から獣のような声が聞こえてきた。意識を取り戻した構成員達の声は、彼らがまだ正気を戻していない事を示していた。ダムはその声を聞き、きつく歯を食いしばる。
「……俺がてめえらについていくのは、あいつらの治療のためと、古龍幇の潔白を証明するためだ……情けねえが、世話になる……」
 メディックが正気に戻っていれば治療を頼もうと考えていたが、どうやらそれは叶わないようだ。燃衣はダムに肩を貸すと、引きずるように皆とバスの方へと向かっていった。

 樹はシルミルテと二人、ダムや構成員の事は仲間に任せトカゲ型従魔の残骸に視線を落としていた。出来ればそのまま持って帰りたかったのだが、完全に砂と崩れている。今ある証拠は紗希がスマホに撮った画像一枚だけである。
「どうしてここに」
『生駒山のトカゲっポイのガ』
「いるのかな?」
 かつて樹は生駒山にて、このトカゲ型従魔によく似たものを見た事がある。細かな外見こそ違うが、一度狙った獲物を執拗に追い回す性質はひどく似ている。もし、この従魔が生駒山で見たものと同じに属するものであるなら、
『ソレじゃH.O.P.E.に報告!』
「予測に過ぎなくても報連相は大事だね」
 割り台詞を決めながら樹は思考を巡らせる。古龍幇の構成員がマガツヒじみた暴走をしているのは何故だろう。生駒山を陣取っていた敵のボスは誰だった? もしかしたら先の戦いの大将が……アンゼルムとそれに組する者達がこの香港にいるのかもしれない。古龍幇がマガツヒじみた暴走をしているのはマガツヒが絡んでいるかもしれない。同時に起こったという事は、この二つは手を組んでいるのかもしれない。例え予測にしか過ぎなくても、もしそうであるのなら……
 樹の口元ににやりと凶暴な笑みが浮かんだ。普通を装う事を止めた少女の、さらに奥に隠し持っている自覚ある異常性。あぁ、俄然楽しくなってきた。二人の魔女は歓喜と共に声を揃える。
『サァ!』
「喰らいつこう」

 事件はまだ続いていく。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531

重体一覧

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • Foe
    谷崎 祐二aa1192
    人間|32才|男性|回避



  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
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