本部

広告塔の少女~クイズ、遙華はどれ?~

鳴海

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2016/03/07 01:04

掲示板

オープニング

「はーい、私遙華、みんな仲良くしてね」
 テレビに映った遙華はお茶の間の皆さんにウインクを届けた。
「長期の休暇のおかげで心も体もリフレッシュしちゃった。これからビシバシ、開発に愚神退治頑張るよ! みんな応援してね」
 キャピルン。
 そうぶりっ子ポーズをとる遙華、さらにその隣で白目で佇むロクト。
「あれ? ロクトちゃん、なんで何も反応してくれないの? 遙華寂しい」
 ロクトは反応しない、放心のまま袖をぐいぐい引く遙華のなすがままになっている。
「ねぇねぇ、ろくとぉ」
「……この子だれよ!」
 ロクトの叫びがスタジオにこだまする。


「どこからどう見ても見た目は遙華、でも中身は全然違うじゃない! あなた達の目は節穴なの?」
 ロクトは激怒した。目の前に整列するスタッフたちを怒鳴りつける。
「これは、最近話題の犯罪集団か、新手の愚神が送り込んだ偽物よ」
「なんでそう思うの?」
 偽物(暫定)遙華はロクトに問いかけた。
 そこはスタッフルーム、長机とイスと化粧台しかないその部屋にスタッフ一同が押し込まれていた。
「だって、もし遙華がそんなに急に愛想を振りまけるようになったなら、私の今までの苦労はなんだったというの。半年かけて『いらっしゃいませ』もろくに言えない子なのよ?」
 一同はうんうんと頷く。
「一朝一夕で身につくものじゃないのよ、だからあなたは偽物」
「ふーん、だったらどうするの?」
「つかまえるわ」
 そうロクトはブーツから細長いナイフを取り出し、目の前でまわして、そして放つ。
 遠心力を乗せたそれは閃光のようにひらめき、そして遙華の顔面に突き刺さった。
「遙華をどこへやったの?」
「…………えへへへ。そこ」
 そう偽物(確定)が指をさすと突如控室のモニターが映った。
 その先には。
 白目をむいて、目の前の大参事に相対する、遙華の姿が映っていた。


   *   *


「なによ、これ。私は予定時間にちゃんとスタジオについたわよね。何かのドッキリなの? なんで私が三人もいるのよ!」
 遙華はその日、何かおかしいことは感じ取っていた。
 朝起きてもロクトがいないし。送迎のオジサンもなにか物言いたげだった
 そして収録予定のスタジオまで来るとこのざまだ。
 スタジオ内で自分にそっくりな人間が三人もいる。
 それぞれ、胸にアルファベットが書かれたバッジをしているが、それ以外は思い思いの行動をとっている。
「あれ? やっと来たんだね」
 その遙華たちは本物の遙華が来ると、その興味を本物の遙華に向けた。
「きた! 偽物の遙華だ!」
「偽物?」
 遙華はその言葉に首をひねる。Dと書かれたバッジの遙華が放った言葉が根本からよくわからない。
「これから君は偽物になるんだよ」
 別の遙華が言った。
「この番組はね本物の遙華を決める番組なんだよ」
「……何よそれ、そんなの聞いてない違うわ、今日は世界の不思議を発見するための」
 遙華は自分のスケジュール帖をひっくり返す。
「本物の遙華を決める番組なんて知らないわ」
「じゃあ、あなたが偽物ね」
 スタジオにあふれる偽物コール。
「横暴だ!」
 遙華は思わず声を荒げた。
「それに本物かどうか決めるのはあなたじゃないわ」
 そこに突如Aのバッチをつけた遙華が現れた言った。
「決めるのはこの番組の視聴者よ」
「…………え?」
 まただ、遙華は彼女らの言葉の意味が分からない。
 だって、決めるまでもなく、自分が、自分が遙華のはずだから。
「この番組で、本物の遙華にふさわしいって選ばれた遙華が、今後遙華をやっていくの、素敵でしょ?」
「全然素敵じゃないわ。だって、私が遙華なんだもの。勝手に遙華を決めるって言われたって、そんなの」
 遙華はあまりに混乱しすぎて、何も言えなかった。
「そうだ、そうだロクトよ。ロクトなら私を共鳴できる。リンクさえできれば、私が本物だってわかるはずよ」
「ロクトはね、邪魔だからね、閉じ込めたわ」
「閉じ込めた?」
「だって、本当の遙華を決めるのには必要ないもの。本当の遙華はみんなが望む遙華でしょ?」
 何を言っているの? そう遙華は口にしようとしたが、言葉にならなかった。
「ねぇ、みんな。あなた達も嫌でしょ?」
Aの遙華はテレビの前のみんなに問いかける。
 グロリア社に行くたびに『ここはグロリア社。 日常品から能力者のための武器防具まで、ありとあらゆるものが揃う世界最大のコーポレーションよ』なんて横柄に接されるのは」

 唖然とすると遙華を尻目に、偽遙華はカメラに視線を送る。

「それでは役者がそろいましたので、これから番組を始めます。クイズ、本物の遙華はどれ、この番組はグロリア社の提供でお送りします」


*遙華ズの紹介

A 愛想のよい遙華
「私、遙華。よろしくね」「好きなものは愛と友情」「みんな大好き!」
 とても愛想の良い遙華、愛情と愛嬌をふりまく。笑顔が特徴的。

B 知的な遙華
「うるさいわね、黙っていられないの?」「もう少し考えて話したらどう?」
 知的でクールな遙華、残酷と思われる発言をする。

C うるさい遙華
「私が本物だってば!」「なんでわからないの?」
 何かにつけて他の遙華の言葉を否定する嫌な遙華

D 幼い遙華
「ふえ、なんでそんなににらむの?」「いやだよう、叩いちゃいや」
 幼い遙華、言動も発想も幼い。

E 何かよくわかんない遙華
「さぁ、始めよう。ここから僕らの物語を」
 そもそも一人称からして違っている遙華。劇がかった口調で茶々を入れる。


* 回答者集合
 この番組が始まった直後あなた達はピンチヒッターとして選ばれた。
 本来の出演者とは別にこのクイズ番組に出演し、本物の遙華を当てて欲しい。間違えた遙華を選んでしまった場合、本人がどうなるかは誰にもわからない。

解説

目標 偽物の遙華の撃破

従魔 偽物遙華
・偽物遙華は従魔です。戦闘能力は高くありませんが。他の人間に化けることもできます
・目からビームを放ちます。
・そのチョップは大地を割る威力です。
 遙華ズ達は各々の性格に合わせた受け答えをしますが、記憶を共有しているわけではないので。本物しかわからないような質問を投げかければ。すぐに偽物はわかるでしょう。
・このゲームには必勝法があります、ロクトと遙華が共鳴すれば一発で本物がわかるので、うかつなことをせずにロクト救出を優先してもいいかもしれません。



スタジオ
 スタジオは二階建ての建物内にあります、体育館程度の大きさでカメラやセットなどでごちゃごちゃしています、壊しても弁償するのはグロリア社なので気兼ねなくやってください。

 ロクトさんについて。
 この建物内のどこかに監禁されています、外に偽物遙華が三体配備されています。

遙華さんについて。
 なんかちょっとすねてます。偽物に言われたことに加え。
 みんなに本物だとわかってもらえないことから過去の行いを恥じています。
 


下記PL情報
 実はこの従魔、端末のようなものでして、背後で一人の愚神が操り、糸電話のように従魔の口から言葉を放っています。
 こちら建物のどこかに潜んでおりまして。探し出して倒してもこの茶番を終わらせられます。
 ロクトがいると探しやすいと思います。この建物の構造を熟知しているので。

愚神 ハイドアンドシーク。
特長
・糸で影を操る愚神。PCの動きを止めることができる。
・クナイを放つ、威力は高くないが命中精度が高い。
・移動力が高く、知能が高い、ふりを悟ると逃げる。
 今回愚神を討伐することは目的には入っていませんが、愚神も倒せれば大成功になります。


リプレイ

『イリス・レイバルド(aa0124)』はスタジオを目の前に立ち尽くす。その隣に『アイリス(aa0124hero001)』が寄り添うと、そのスカートを掴む。
「今回従魔にしては知恵が回りすぎている感じがするんだ」
 イリスは言う。
「こういう悪趣味なのは愚神とかが得意な気がする」
 イリスは何度も見てきた、愚神特有の意味のない悪意。それがこの建物内すべてに充満している気がした。
「しかしここにずっといるわけにもいかない、さぁ西大寺の御嬢さんを助けに行こう」
 そういつものように微笑をたたえ歩を進めるアイリス。その笑みに普段とは別の意味が込められている気がして、イリスはその顔を覗き見た。
 全員がスタジオに入る。

   *    *
 
「はい始まりました『世界の不思議発見』。司会進行役の蔵李 澄香と」
「小鳥遊 沙羅です!」
 二人の美少女『蔵李・澄香(aa0010)』と『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』が可愛らしく挨拶すると。一人を除いてわーっと遙華たちが拍手を送った。
 今日の回答者は遙華が五人とかなり珍妙な光景がひろがっている。 
「はい、ではまず今回の事情について説明しないとね。今回は特別企画として遙華の不思議をみんなで解き明かしてもらいます」
 そう澄香が言うと、また一人の遙華以外が拍手を送る。
 無愛想なCの遙華はなんだか暗い顔をしてうつむいていた。
 このCの遙華、澄香たちが入ってくるなり。
『澄香! 沙羅! 助けに来てくれたのね』
 と大騒ぎするも、それを無視して番組を始められたことにショックを受けて、最初からこの調子だった。
「だから司会もバトンタッチ。私達美少女二人がお届けします」
 そう沙羅が言う。
「あ、その前に皆さんに誓います。今日私はこの番組で、お見苦しいものを見せないように万全の注意を払うことを……」
「お見苦しいものって何よ!」
 澄香が突っ込みを入れる。
「それはおいおい。では今日の回答者の紹介です!」
「まず、遙華A」
 そう澄香が紹介すると遙華一人一人にスポットライトが当たっていく。
「みなさん、今日は楽しんでいってね」
「清々しいまでのTHE・八方美人。虫唾が走るわね〜」
「そして、遙華B」
「私に解けない謎はないわ」
「反抗期そのもの。夜の校舎窓ガラス壊して回るタイプ」
「続いて遙華C」
「ねぇ! 私が本物よ! わからないの?」
「面白くないリアクション芸人。要おでんと熱湯風呂」
「はい、次は可愛い。遙華D」
「ふえ? おうち帰りたい」
「児ポ法を盾にした汚い子供。ビンタしたくなる」
「最後に遙華E」
「私が壇上に上がったからには、咲かせてみせるよ。夜咲きのバラを」
「キャラ作りに瞑想した芸能人そのもの。そのうち風水とかタロット始めて逆に騙されそう」
「て、こら、沙羅ちゃん」
 澄香が言う。
「なによ、っていうか沙羅ちゃんって」
「カメラの前のイメージ作りです。それより、何なのあの人物紹介後の辛口コメンテートは」
「テレビの前のキャラづくりです」
「そっか、毒舌キャラで行きたいんだね……というわけで」
 どういうわけだ、そう遙華は突っ込みたかったがそんな体力がなかった。
「では続いて質問者の入場です」
 そう澄香が言うと続々とリンカーたちが入ってくる、まずは『斉加 理夢琉(aa0783)』と『アリュー(aa0783hero001)』から
「おおいな!」
「ねぇアリュー『世界の不思議発見』って番組だったよね、え? 遥華さんって五つ子だったの!?」
「違うと思うぞ……何かあったようだな」
 続いて金糸の髪の姉妹のような二人。
「アイリスだよ。今回はよろしく頼むよ」
「イリスです。よろしくお願いしますね」
「この中に本物の遥華さんがいるのね、偽物なんかすぐにわかる。はず……よ……ね?」
 理夢琉は目を丸くした。残念、パッと見ではさっぱりわからない。これからの発言を頼りに探すしかなさそうだ。
「あれ? Eの遥華さん以外はほのかにありえそうな感じ? Dはなんか可愛い~」
 そう言った理夢琉を遙華は涙目でにらむ。
「これは本物を探す、ではなくて……自分の理想の性格の者を本物に仕立て上げる、というテーマらしいしね」
「趣味が悪いよね。お姉ちゃん」
 そう小声でお話しするイリスとアイリス。
 その後ろに続いて入ってきた『水瀬 雨月(aa0801)』は心配そうに遙華を見ている。『アムブロシア(aa0801hero001)』は相変わらず幻想蝶の中である。
「遙華安心して、すぐに助け出してあげる」
 そう雨月はつぶやいた。
 そして最後に入ってきたのは『Arcard Flawless(aa1024)』とArcardに担がれた『Iria Hunter(aa1024hero001)』その手には箱が握られている。
「はい、これお近づきのしるし」
「いいのもらって、ありがとう」
 そうAの遙華が受け取ると、包み紙を丁寧にほどき、中に入っているチョコレートをカメラに映るように掲げた。
「うわー、おいしそうArcardさん、ありがとう」
「わー。私も食べたい」
 そう遙華たちがチョコレートに群がる中。Cの遙華だけはそれに手を付けられなかった。
 見れば顔が青ざめている。
「私は、それを食べてやっと、メイナードの苦しみがわかったのよ。睡眠薬と媚薬の解毒剤、必ず開発するからね」
 そう涙ぐむ遙華をよそに、番組は続いていく。
「さて、まずは誰に質問してもらおうかな」
 澄香が言う。
「説明しましょう、今回は出題者が事前に質問を用意していて、それを一つずつ遙華たちにぶつけていく方式を採用しているわ」
「さぁ、答えてくれサイダイジャー」
「サイダイジャー!?」
「というか、なんでアリューが隣の回答席に居るの? 仕事ほかにもいっぱいあるよ?」
「何かあったら直ぐに共鳴しないといけないだろ。ココなら理夢琉に一番近い」
 というかどんな質問する気なんだろう、そう理夢琉は首をひねる。
「はい、じゃあトップバッター、理夢琉さん」
「え?」
 カメラが突如、理夢琉をアップで映し出す。その頬は周知で桃色に染まっていた。
「す、好きな食べ物は?」
「来ました定番、これは……」
 ピンポンっ! 間髪入れず音が鳴った。Aの遙華のランプがともっている。
「パンケーキ!」
「こ、これは……」
 沙羅が澄香を見た。
「正解!」
 澄香は叫ぶ。
「何でよ!」
 遙華Cも叫ぶ。
「可愛い、女子力が高い回答に五点差し上げます」
「第二問」
 澄香はまたしても理夢琉を見る。
「明日地球が消えちゃうとしたら何して過ごす?」
 負けじとピンポンする遙華C。
「研究所に引きこもって過ごす」
「…………」
 ピンポンっ。振り向くと遙華Dのランプが光っている。
「ロクトとか、おじい様と一緒にいたいな」
 そうはにかんだ遙華D。
 沙羅は澄香を見つめる。
「かわいい! 正解!」
「何でよ!」
「第三問」
「遥華が寝坊した時英雄ロクトはどういう起し方をする?」
 続いて質問を投げたのはアリューテュス。
「えっと、普通に。こう、揺さぶって。不機嫌そうに、これはたぶん私が朝に弱いせいね。二度寝しちゃうから少し乱暴なの」
「不正解!」
「なんで!」
「面白くないからね、次。四問」
 無情にも沙羅が回答を切る。
 その後「遥華が落ち込んでいたら英雄ロクトはどんな言葉をかける?」などの《遥華が…英雄ロクトは……》のシリーズが何問も続く。
 どうやらアリューテュスは遙華とロクトの関係性を参考に、理夢琉との関係性をどうにかしたいようだった。新婚さんみたいだった。
 そして当の理夢琉は。
(あれ?遥華さんの事以外と知らないんだ私…)
 など考えていた。
 その後は澄香の質問が続く。
「遙華さんの得意料理は?」「肉じゃが」「一番乙女なA遙華さんに5点!」
「得意科目は?」「全てよ」「一番知的なB遙華さんに5点!」
「好きな動物は?」「ねこさん」「一番可愛いD遙華さん5点!」
「ちょっと正解も何もない、偽物の好みじゃない! しかもポイント上げる理由が正解度外視!」
「澄香さーん」
 遙華Aが手を上げる。
「この偽物がうるさい」
「誰が偽物ですって!」
「だまるんだー、サイダイジャー」
 沙羅が言う
「はいここで質問タイムは終わり。飽きたし。次はそうね……。5人ユニットでアイドルソングを歌いなさい」
「そんなの無理にきまって……」
 その時だった、スタジオが暗転。そして五色のスポットライトが灯り。スタジオの中心が照らし出された。
 そして軽快な音楽と共に。誰からかマイクが手渡され、あれよあれよという魔にステージの真ん中へ。
「え? なにこれ、どういう」
 そしてAの遙華が言う。
「それでは聞いてください《愛のバーゲンセール・グロリア社》」
 そしてCの遙華以外が謳い始める。振付つきで。
 リンカーたちは唖然とその光景を見守った。
 遙華Cは白目をむいて、茫然とたたずんでいた。
 その光景を舞台の隅から見守る『卸 蘿蔔(aa0405)』その隣には『レオンハルト(aa0405hero001)』が立っていた。銃の調子を見ている。
「遙華、大丈夫でしょうか」
 蘿蔔はカメラの前には出られないので、今回の事件の裏を探る役回りだった。
「皆いるんだから大丈夫さ。お前はお前のできることをすれば良い」
 レオンハルトが答える。
「そうですね。私に出来ることは……」
 その時『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』からインカムで連絡が入る。
「見取り図を手に入れました。これから私の指示する地点に向かってもらえますか?」
「行くか、蘿蔔」
「ええ、不安定な友人を置いていくのは心残りですが」
 そう蘿蔔は困り果てて白目をむいている遙華を名残惜しそうに見つめる
 その時『榊原・沙耶(aa1188)』が何やらアクションをしているのが見えた、スタッフさんがカンペで指示を出す
『卸蘿蔔。画面に観覧者映ってる! どけて!』
 やってしまった、そう顔を赤らめた蘿蔔は脱兎のごとく廊下へと逃げ出した。

    *    *

 スタジオ内の廊下を、筋骨隆々の男が歩いている。
 ぱっと身、ハリウッド映画俳優のように見える彼『メイナード(aa0655)』は相方の『Alice:IDEA(aa0655hero001)』と並んで周囲の警戒に当たっていた。
「他人に化ける従魔か……冷静に考えれば恐ろしい存在だが、今回みたいな使われ方をしたのは幸運と言うべきなのかな?」
「どうでしょうねぇ」
「いや、当事者の遙華君にとっては不幸以外の何物でもないんだけども」
「うーん、正直どれが本物なのかなんて一目瞭然なんですが……」
 番組の冒頭を見ていたIDEAは首をかしげた。
「ああ、メイナードさん」
 スタジオの方からレオンハルトと蘿蔔、そして番組を抜け出してきたArcard とIria が二人に駆け寄った。
「作戦開始だ」
「……番組の方は、問題ないです」
 まだ遙華が気になるのか意識がそっちを向いている蘿蔔にクラリスからの通信が入る。
『警備室に連絡したけど応答がないようです。生存者の可能性も。急行を』
 全員が頷き、警備室まで向かうと、その扉は内側から厳重にロックされていた。
「どうする? 鍵を探すか?」
 レオンハルトが言った、しかし。こんこんと扉を軽くノックしたメイナードはい行った。
「必要ない」
 メイナードがドアのノブを握りしめ。そしてもう片方の手を壁に当てる。
 そして、まるで扉を引きはがすように力を込めた。
 盛り上がる筋肉、そして吹き出る汗。フルパワーメイナードが。
 見事、扉を破壊することに成功した。
「中に誰もいないじゃないか」
 ぽいと扉を投げ捨てて、メイナードは言う。
「クリア」
 レオンハルトは目の前の現実に驚きを隠せなかったが、拳銃を構え警備室に危険がないことを確認してから銃を下ろす。
『PCに得増を送ってください』
 指示通りに警備室のPCを操作。クラリスのPCに映像が送られてくる。
 それクラリスは、12倍速で一度にチェックしていく。
「見つけました。ロクトさんが閉じ込められているのは。第二会議室。今は見張りとして遙華さんが三人いらっしゃるようで……」
 現場に急行する面々。そのクラリスの言う通り、部屋の前を三人の遙華が仁王立ちで守っていた。
「スタジオだけで5人……これだけの数となると、あの遙華さん達は従魔と考えるべきでしょうか」
 そういぶかしむIDEA。
「本物はスタジオにいる……けど、もし違ったら……」
 そう蘿蔔はどこからともなくおでんを取り出す。
「どこから出した!」
 驚くレオンハルト。
「しかも煮立ってる!!」
「これをぶつけます、まずは、この汁をたっぷり吸った。もちきん!」
「それは、やめてあげろ。それは最初にする奴じゃない」
 そして蘿蔔は器用にもちきんを箸でつまみ。振りかぶって投げた。
 ぺち。
 遙華Fにあたる。そして地面に落ちる。そのおでんを見て遙華は言った。
「あら、おでん」
「……これはどっちなんでしょう」
 悩む蘿蔔。
「いや、偽者だろ!」
「遙華ならあんな反応しそうな気がします」
 そんな冗談はさておいて。
 全員が共鳴。
 真っ先に躍り出た魔法少女レモンはトリオで遙華ズを狙い撃つ。
 その攻撃を受け侵入者に気が付いた遙華ズはまるで間接が固定された人形のように不自然な歩き方でこちらに向かってくるが。
 片方をメイナード。もう片方をArcardが適切に処理。残った一体もレモンが蜂の巣に変える。
「制圧完了」
 Arcardが周囲を確認しながら言った。
「油断しないほうがいい。アレが人間じゃないとすると、化けれるのは遙華君だけとは到底思えない」
 メイナードは扉の向こうに視線を送る。
 警戒しつつもその扉を開けると、そこには番組スタッフたちが閉じ込められていた。
「ああ。助けに来てくれてありがとう」
 そのなかにはロクトもいた。無事だった。
「ロクト君、無事で何よりだ。ところで、この前のグロリアンメイルの調子はどうかな」
「ふふふ」
 口に手を抑えて笑うロクト。
「そうね、あの時はお世話になったわ、メイナードさんも、アルスマギカの影響はない? あ、そうそう、メイルではなく。アーマー。グロリアンアーマーね」
 本人確認がすんだところでメイナードはロクトにインカムを渡す。
『御無事で何よりです、クラリスでございます』 
「助けに来てくれてありがとう、めいわくばかりかけてごめんなさいね」
『とんでもないです。それより時間がないので早速本題ですが……』
 その時だった。スタジオでカメラのデータをあさっていた沙耶が声を上げた。
「あーー。これ黒幕じゃない?」
 映像の端の端に、黒髪を全て逆立てた、褐色肌の少年が映っている。
 今回の件でこの少年は見かけていないし、映像スタッフの誰に聞いても、こんな人物は知らないと言われた。
『警備室までデータを送ります。この少年は明らかに重要参考人。捕まえないと』

    *    *

 一方そのころスタジオでは、唐突に始まった歌の時間が終わり、C以外の遙華がやりきった顔をして席に着いた。
「これは……」
 アイリスが澄香に目くばせする。
「間違いなさそうね」
 その場にいる全員が顔を見合わせた。
 そしてロクト救出の報告をきいた沙耶は、カンペに『事件の真相に向けて』と書いてだし。合図を送る。
「いやぁ、すごかったですね。私即興であんなに完成度の高い歌を見たのははじめてよ」
 沙羅が言うと、澄香はそれに反応する。
「すごかった、特に春香Aさんの踊りのキレ。これはC以外に二十点くらいあげちゃおうかな」
 もはやその言葉に反応できないほど消耗している遙華。
「では質問タイムに戻りたいと思います、さぁ遙華Cさん。席へ戻って」
 茫然と動かない遙華Cの手をアリューテスが取り。座らせてやる。
「では次は、私からの問題だ」
 アイリスがいう。そしてアイリスはその目をつむり、とある歌を口ずさむ。
 その歌に遙華はピクリと反応した。
「では問題だ。この曲名ルナはどこで聴いたのか覚えているかい?」
 次いでアイリスはヒントを出していく。

「なんだ、わからないのかい? 大きな蚊の従魔に襲われた時のだよ」
「後ろから襲われたのは参ったね」
「そうだね、時計塔からの景色が美しかったよ」

 回答席がざわめき立つ。誰一人わからないようだ。誰もピンポンしない。
 しかし、遙華Cだけが、傷つき疲れ果てた瞳をまっすぐアイリスに向けている。
 その瞳の奥に悲しみがあった。
「私は、よく覚えているわ。蠅をかたどる愚神と、群れの従魔に襲われて。イリスは上空から襲ってきた愚神から彼女を守ってくれたのよ。その大きな盾に小さい背中。あの子が心強いと言っていたのを覚えてる。それは噴水広場での出来事よ」
「では肝心の水晶の歌姫、私たちの友達の名前はなんでしょう? 全員で一斉に答えてください。はいっ!」
「ルネよ! 忘れるはずがないわ」
「そうです正解はルネ! 遙華Cさん十億点!」
 そう、本物はCの遙華である。リンカーは見事正解を引き当てた。
 ざわめき立つ回答席。遙華Aが異議を申し立てる。
「は? その得点配分おかしいじゃん!」
「関係ないわ、正解はCだけ。他の遙華では意味がないのよ」
 雨月がそう言う
「他にもためそうか?」
 沙羅がそう不敵に笑った。
 理夢琉が言葉を継ぐ。
「遥華さんからのお仕事で新しい友達ができました。
名前と愛称、容姿の特徴を本物の遥華さんなら答えられますよね?」
「え? 春香のこと? でも特に何も言ってなかったし」
「ほら、グロリアンアーマーが暴走したときの」
「ああ、バルムンク。あの子たち最近、感極まって泣き出すから困ってるのよ」
「私がバレンタインの時に送ったのは?」
 雨月が問いかける。
「スペシャルバレンタインケーキ。おいしかったわ、独りで全部食べちゃた暗いに」
「私は最初あなたと出会った時、贈り物をもらっているの。それがなんだったか、わかる?」
「香水ね」
「ちなみに何で、香水だったんですか!」
 澄香がインタビュアー風にマイクを押し付ける。
「特別な意味があったんですか!」
 沙羅がマイクを押し付ける。
「えっと、その、いい匂いがしたから。ほらロクトって無臭だし」
「その補足説明の意味が分からないけど。これで確定ですね。優勝は遙華Cさん」
「横暴よ! やり直しを要求するわ」
 そう遙華たちが騒ぎ出す。
「なんで?」
 沙羅が言う。
「だって、この子みたいな、物調ずらで可愛くなくて。素直じゃなくて、メガネで。空気が読めなくて、発言をオブラートに包めない、ネーミングセンスのない女なんていらないでしょ」
 遙華Aの纏う空気が変わった、それと同時に他の遙華から人間らしい表情が失われ、まるで人形のようになる。そしてその手が遙華Cに伸びる。
「私の方がうまく。遙華をやれるんだから!」
 その時、会場に紫色の蝶がはばたいた。絵本の中から飛び出てきた蝶の群は遙華たちを翻弄する。
 雨月の幻想蝶だった。
「魔法少女クラリスミカ! 貴方のハートをくらくらりん☆」
 そのタイミングを逃さず、変身共鳴したクラリスミカが遙華ズの間に割って入り、本物の遙華をかばう。
 そして遙華をお姫様抱っこしていったん距離をとった。
「魔法少女参上! 盛り上がってきました!」
「グロリア社の令嬢たるもの、戦闘までできなければ、遙華は務まらないようです」
 沙羅が言う。
「サイダイジャー・ファイト! 生き残った遙華さんが本物だ!」
「この!」
 遙華Aの号令で遙華Eが襲いかかる、その前に出たのはイリス。
 その分厚い盾で遙華をいなし。地面に叩きつけ、剣を突き刺した。
「ここは、通しません!」
 遙華たちに威嚇の視線を向ける。すべての遙華が理解した、こいつを倒さなければ遙華は殺せない。
守るべき誓いで攻撃をこちらに集中させる
「お姉ちゃんの教えひとーつ! 盾を攻撃に活用しろ!」
 イリスが遙華ズとにらみ合いを続ける中。遙華の袖を蘿蔔が引いた。
「蘿蔔……。ロクト」
 その隣にはロクトが立っていた。
「無事で、よかった」
「私はもう少し見回りしようと思います……黒幕がまだ姿を見せていないので」
「ええ、では編集室を探すといいわ。たぶんそこにいる」
 そうロクトは言うと、遙華と共鳴する。
 直後、雨月のブルームフレアがさく裂。戦闘は激化する。

   *   *

 Arcardは建物内を疾走していた。ロクトの報告を受け、編集室に直行する。
その扉を押し開けると。そこにはだれもいない。
「上だ!」
 メイナードが叫ぶと。上空から愚神が襲いかかった。
 ハイドアンドシーク。無邪気に笑う少年型の愚神だった。
 その攻撃により拘束されるArcard。
「つかまるかよ!」
 そうシークは廊下を駆け抜ける。
「ふふ、ここまで頭に来たのは、久しぶりだ」
 そうArcardは拘束されつつも。ポケットから一つの結晶を取り出す。
 それはライブスソウルと呼ばれる結晶でリンクバーストを引き起こす力がある。
「リンクバースト……」
「やめて!」
 その使用を遙華が止めた。
「リンクバーストはただでさえ体への負担が大きいのよ」
「くっ」
 歯噛みするArcard、遠ざかる愚神。
 しかし。
「背を向けられると……余計逃がしたくなくなります」
 奇跡の弾道で放たれた銃弾が、愚神の顔面にめり込んで吹っ飛ぶ。
 蘿蔔の放った弾丸だった。
 その攻撃で移動が止まる愚神。そしてそれにゆっくり歩み寄るArcard。
「人間の怒りを煽ったんだ。報復されるだけの覚悟は、あるんだろう。なァ!?」
「ひっ」
 愚神は息をのむ。この三人にケンカを撃ったことをぐしんは後悔した。
 
    *    *
 
 戦闘自体は簡単に終わった、おそらく従魔を操っている愚神を同時に攻撃したことによって両方の戦闘力がガタ落ちしたせいだろう。
「では、今回の『世界の不思議発見』お時間ここまで」
「また来週!」
 そう司会者二人が笑顔で番組を閉める中。遙華はスタジオの隅で丸まって小さくなっていた。
 その隣に蘿蔔が腰を下ろす。
「今日は大変、でしたね。でも」
 その時、遙華は蘿蔔の袖をつかむ。その手は震えていた。
「怖かったわ。もし、私が見つけてもらえなかったらと思うと。本物じゃなくて偽物で。いらないって言わることを想像して、怖かった」
 その手を蘿蔔は握る。
「大丈夫、私達が一緒ですよ」
 本当はもっと言いたいことがあった。声をかけたかった、けれどまとまらない。
 だが蘿蔔のあふれんばかりの思いはその手を通して遙華に伝わることだろう。
「姿が全く同じ中からこうやって正解を引き当てた………それって、皆さんがそれだけ西大寺さんという人を見てたって事じゃありませんか?」
 IDEAが遙華の顔を覗き込みながらそう言った。Arcardが言葉を継ぐ。
「相変わらずよく抱え込むねえ。
 ボクは知ってるよ、西大寺さんの魅力。と言ってもロクトさん程じゃないけど。
 屈託のない表情 決めたことへの心の強さ 一度悩むと内向的で周りに素直になれないトコも含め。
 前も言ったでしょ?みんなそういうトコ知ってるんだから。
 だからボクらは騙せやしない。魅力のない人形に吊られるほど甘くはないさ」
 その時、撮影を終えた澄香が遙華の元までやってくる
「落ち込まないでよ遙華。私は最初から分かってたよ」
「え、今、わたしのこと」
澄香の西大寺さん呼びが終了。
「遙華……」
 そしてその柔らかな声に遙華は顔を上げた。
「無愛想でも私は特に気にしないけどね
 変わりたいと思うなら変わればいいのだし、一緒に変わっていければそれはそれで面白いと思うわ。
 ハグしたりとかすれば可愛い反応も返ってくるしね」
 くすくすと微笑みながら、雨月は優しく遙華をだきしめた。
 その光景をクラリスはメイナードと言った保護者たちが見つめている。
「みなさん、この度は本当に助かりました。本当に大変だった……」
 そうロクトが全員に挨拶する。
「ロクト様、今後もどうか警戒を。遙華様はリンカーにとって大変重要な方ですので」
 クラリスがそう遙華を見やる。
 そこにいる少女は友人に囲まれて、とても楽しそうに笑った。
「友達がたくさんできたわね。遙華」
 そうロクトも微笑んだ。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • 神鳥射落す《狂気》
    Arcard Flawlessaa1024
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 危険人物
    メイナードaa0655
    機械|46才|男性|防御
  • 筋肉好きだヨ!
    Alice:IDEAaa0655hero001
    英雄|9才|女性|ブレ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 神鳥射落す《狂気》
    Arcard Flawlessaa1024
    機械|22才|女性|防御
  • 赤い瞳のハンター
    Iria Hunteraa1024hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
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