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LIVETOUR2016win(準備編)
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/02/23 09:46:02 -
LIVE準備中:相談卓
最終発言2016/02/26 15:53:51
オープニング
●ある日の赤坂8丁目
「社長~そういえばね、プーホーに来てくれたリンカーさんがさぁ、いろいろ提案してくれるんだよね。ホワイトタイガーマスクをマスコットにしようとかさ、猫耳美形の少年が俺を紹介してくれ! とかさ。どうかなあ、考えてみてくれません?」
シャイニーズ事務所本社ビル、社長室にて。仕事をするシャイニー社長に、所属タレント天宮すみよし(az0033)が何気なく言った。
「ナルホド……OK、次カラソノ子タチYOUノCONCERTデIDOLサセチャイナYO!」
「ですよね~やっぱり無理か~……ってエ?!」
内心そんなことどうでもよかった天宮はソファで携帯ゲーム機にがっついていたが、社長の予想外のコメントに左手からタッチペンが滑り落ちる。
「思エバLINKER IDOLハズットテンダケダッタ。最初ハ風当リ強カッタカラYOUニハ苦労サセタケド、今後ハ積極的ニ採用シテイコウト思ッテイタノサ。猫耳、イイジャン! NEW GROUP結成スルYO!」
「ま、マジ……? マスコットは?」
「GOODSモ作ッテイイYO! TVshowノMASCOTニスルノハ局ノ同意ガ要ルカラスグ実現ハ無理ダケド、人気出レバCOMING SOON!」
かくして天宮すみよしの次回コンサートには、H.O.P.E.公募によるアイドルグループが出演する運びとなった。
●都内某所、レッスンスタジオ
「ってワケで集まってもらった訳なんだけどさ……正直、俺もバックダンサーみたいなもんだからね。主役はほぼあっちだから」
そういう天宮が指し示すのは、彼の契約英雄である彼香君(az0033hero001)。天宮がバラエティ・俳優業を得意とするオールマイティアイドルならば、彼香君はアイドルがアイドルたる為の歌唱力・ダンス技術に優れたハイスペックアイドルである。気心知れた天宮に対しては、彼はその実力も鼻に掛ける。
「当然でしょ、歌も踊りもまるでダメなお前と比べないでくれる?」
「はいはい。ちょっと彼香クン、みんな初対面なんだから挨拶くらいしてよね」
彼香君はまるで天宮など見えていないようにその横を通り過ぎ、テーブルを囲むエージェント達に笑いかけた。
「はじめまして、僕のことはカノでいい。みんなとは仲良くしたいと思ってるよ。よろしくね?」
「あっ俺もはじめましての人いるかな? コンサート本番までよろしくね!」
挨拶を終えると、彼香君は表題に『ライブツアーWhite Gift』と書かれた台本を取り出す。
「今度のツアーはホワイトデーにちなんだネーミングなんだ。バレンタインには僕も天宮もファンの子からたくさんプレゼント貰ってるからね、そのお返しになるようなコンサートにしたいと思ってるよ」
「で、彼香クンが出した叩き台はこう。え? 俺の意見? 出したよ。まあ2パーセントぐらいしか採用されてないけど」
「オープニングにあんな暗い曲選ぶセンスがわかんない」
「それ、もう聞いたよ」
天宮の開いたページには楽曲の演奏順が書かれていた。アップテンポの楽曲に始まり、二人のソロを挟んでバラードメドレーへ。クライマックスは最新シングル『White Gift』。この曲はオーソドックスなラブソングだ。
「きみたちがどれを踊るかがポイントだよね。
アップテンポのやつはバク転とかあるし派手だけど、超疲れるよ。
天宮のソロはぶりっ子ポーズしかしてないけど、僕のはウェーブとステップ難しいからお勧めしないな。
バラードはしっとり、色っぽく踊りたい人向け?」
「ホワイトギフトは皆で歌おうね! フリも簡単にできるから。
じゃ、歌詞カード配るよ。とりあえず俺と彼香クンでお手本を見せよう」
天宮がCDプレイヤーの電源を入れると、『White Gift』の大人しめなイントロが流れ出す。
『♪孤独を飼い慣らしてきた
僕の心の中に……』
歌い出しは天宮。歌唱力は言うほど下手ではないが、声が独特なので好き嫌いの別れそうな感じだ。ダンスも技術的にはそれなりだが、何となくネットリしている……きっと男らしい色気を出したいと思っているのだろう。曲はサビで大きく盛り上がる。
『♪White Gift
星降る夜に
あなたの愛で……』
対する彼香君は余計な力を入れず、粛々と振り付けをこなす。声にも癖がなく、耳にスーッと入ってくる感じだ。派手なダンスではないが、滞りない重心移動など、所作からして素人目にも上手なのが伝わってくる。恥ずかしい歌詞だが、二人は慣れているせいか特に照れている様子はない。
「こんな感じで、『White Gift』は上半身だけでジェスチャーみたいなのがメインね! じゃ、俺らはあっちで練習してるから。教わりたいことあったら聞いてね!」
歌い終えた二人は、ミーティングの席に新しいシャイニーズアイドルの面々を残してレッスン室の隅に移動した。さて、まずはどんな曲があるか聴くところから始めようか? やりたい曲が決まっているなら、早速ダンスや歌を練習しようか? 会場で販売するグッズや、曲に合わせた衣装、演出を考えるのもいいかもしれない。
解説
●概要
新しいアイドルグループプロジェクトに携わり、天宮のライブツアー『White Gift』に関係することになりました。今日はダンスや歌の練習をしたり、演出を考えたり、グッズの考案をします。
●ライブの流れ
1、アップテンポな曲が続き、バク転などの派手な振り付けのダンスで会場を盛り上げます。PCさんが主役になります。
2、天宮と彼香君のソロ曲で、PCさんはバックダンサーやコーラスができます。二人と話す機会は一番多いかも。
3、バラードが続き、技術系やセクシー系のダンスで会場をうっとりさせます。PCさんが主役になります。
4、最新曲『White Gift』を全員でパフォーマンス、会場の女性ファン(と一部の男性ファン)をknock out!(原文ママ)
●今日できること(二つまで)
A、歌やダンスの練習をする
ライブの流れ項の1~4から一曲選び、その曲を練習します。今日練習した曲を本番で歌う必要はありません。
パートナーが上手なら教えてもらってもいいでしょう。練習は皆がいるスタジオの一角で行われます。
B、演出を考える
ライブの流れを見て、お客さんが楽しくなる演出や衣装を考えます。
花火やウォータースクリーンなどはありますが、機材を使わずとも共鳴すれば魔法も使えます。
美術さんに頼めば、ムービングステージやワイヤーアクションでの登場なども実現するかも?
C、グッズを考案する
会場で販売するグッズのデザインを行います。グッズは一種類しか作れないので、事前に相談しましょう。
例)タオル、ピンバッジ、キーホルダー、うちわ
●NPC
特に絡みが無ければ、リプレイの最後に参加者へのお礼としてコーヒー(ブラック)を一杯ずつ驕る描写があるのみです。苦手な場合は容赦なく代わりの飲み物を要求してください。(知り合いだった場合、能動的に違う飲み物を買う可能性はあります)
リプレイ
●顔合わせ
「うぉ、生カノじゃん。宜しくオナシャス!」
「こちらこそ。天宮から聞いてるよ、あれだ、馬系の人でしょ?」
「どういう説明の仕方?」
鹿島 和馬(aa3414)と彼香君が挨拶を交わす横で、先に済ませた俺氏(aa3414hero001)が感慨深げに言う。
「生でアイドル見るのはじめてだよ。やっぱりオーラがあるね」
「え? はじめて……生の天宮……あれぇ?」
「はじめまして! 私は大宮朝霞といいます。今日はニクノイーサがお世話になります!」
「ああ、麗しいお嬢さんと英雄さん。こちらこそよろしく……」
「あれ? どうしたんですか天宮さん、泣いてるんですか?」
大宮 朝霞(aa0476)に失礼のないよう懸命に堪えながらも、天宮は俺氏の心無い言葉にはらはらと涙を流していた。ニクノイーサ(aa0476hero001)は傍らの彼香君にも声を掛ける。
「よろしく頼む」
「……驚いたな、中々の上玉だね。こちらこそよろしく。ところで、きみたちその格好で来たの?」
快くそれに応える彼香君と既にジャージ姿のニクノイーサを横目に、虎噛 千颯(aa0123)は差し入れのお菓子類をモグモグ。小豆色のジャージ姿の大宮には、白虎丸(aa0123hero001)も驚きだ。
「ニックちゃんがアイドルとか意外ー!」
「千颯、菓子が飛び散っている! しかし、大宮殿はやる気が漲っているでござるな……」
「おろ、大宮、男装してアイドルやるんじゃねぇの? ちっと期待してたんだけどなー、残念」
「ニック氏がこういうのに参加するとは少し意外な感じ。勝手に応募されちゃった口かな? デビューフラグだね」
俺氏の言うように、大物には気が付いたら何故かデビューしていたと言う者も多い。熱血指導する気満々の大宮に、鹿島はほんの少し落胆した様子だ。とはいえやはりニクノイーサは乗り気ではない。眉目秀麗の目元に影を落とし、ぼそぼそと言う。
「おいおい、なんで俺がアイドルの真似事なんぞやらなきゃならないんだ?」
「ニックはウラワンダーに変身するときも、まだ恥ずかしがっている感じするから! 今回のレッスンで完全に払拭するのよ」
「あーちゃんコーチ姿もかわいーね♪ にくちゃんもあきらめて頑張ってー」
「ありがとうございます! さあニック、早速始めるわよ!」
大宮は浦見 真葛(aa0854)とシュノギ(aa0854hero001)に明るく返し、ノリノリでフロア中央に出て行く。ニクノイーサは仕方なさそうにその後に続いた。
(気分じゃなくても俺たちにしっかり挨拶するあたり、いい子なんだな……)
天宮はそんな風に二人を見送り、残りのメンバーに向き直った。目の前には仮面の少年、薔薇の香りを纏った美女、フリルたっぷりの衣装に身を包んだ女性、そしてハニーゴールドの髪を持つ同業らしき青年。
「そちらの4人は、はじめましてだよね?」
「ええ、よろしく! シングの英雄・ゴールドシュガーよ」
「俺は九重 陸……よろしくお願い、するっす」
「みんなの女神、オペラです。よろしくお願いしますね♪」
「いつの間にか俺がアイドルになる依頼に参加していた……何を言っているのか分からねーと思うが俺も以下略」
「うふふ、天宮の依頼にはパートナーに黙って参加するのがマナーと聞きました」
「「どこの異次元のマナーっすか(ですか)オペラさん(サン)」」
「ハッ?! 九重クン俺に被せてくるとは中々やるね! こちらこそよろしく、天宮澄良です。それで君は……」
九重 陸(aa0422)、オペラ(aa0422hero001)、ゴールドシュガー(aa2995hero001)と挨拶を交わし、残る一人を振り返る天宮。だが鯨井 寝具(aa2995)の興味は傍らの彼香君に向けられていた。真っ直ぐ自身を見据える鯨井に、彼は煩わしげに。
「……きみ、誰?」
「鯨井シングだ。覚えときな、いつかお前を越える者の名だぜ」
鯨井が彼に抱く感情、それは敬意と対抗心。熱い視線に中てられて、彼香君は可笑しそうにした。
「……きみ面白いな。
鯨井くんね、忘れるまでは、覚えておいてあげる。
天宮、おいで」
「あ、うん」
珍しい光景に天宮は呆気に取られていたが、去って行く英雄に呼ばれて我に返った。テーブルでは和気藹々としたやりとりが続く。
「ちーちゃん一緒に荒稼ぎしよー♪ 虎ちゃんはシュノのことよろしくねー」
「真葛ちゃんー頑張っていい商品作ろうなー! あとシュノギちゃんそっちは任せたぜ!」
「シュノギ殿もアイドルでござるか、確かに似合うでござるな」
「うむ、白虎丸と一緒なれば百人力じゃ♪
天宮に彼香、そなたらの足を引っ張らぬよう(踏み台とするべく)頑張るのじゃ♪ 宜しく頼むぞ!」
そう言うシュノギの声が聞こえ、彼香君は振り返って軽く手を振った。……どう見てもただのショタだ。天宮から聞いていた印象とは違う。
「かわいいね。あの子のどこが塩対応なわけ?」
「彼香クン……あなたあのカッコが見えないの? 『モフとショタの力、とくと見せてくれようぞ……ククク』って顔に書いてあるじゃん」
「は? 何言ってんの。それよりアレ……」
彼香君は鹿島と俺氏のことが気になるようだ。
「俺氏殿も参加されるでござるか?」
「和馬ちゃんのアイドルとかマジうけるっ」
「チーちゃん笑いすぎィ! こう見えても俺氏と二人で、某動画サイトに踊ってみた動画をうpしてたんだぜ?」
「鹿島さんはダンスや歌がお得意なんですね! でもアイドルなんだから、よく寝てクマを取らないとダメですよ! 俺氏さんは、そのローブ脱がないんですか?」
「朝霞氏……これは鹿皮、つまり俺氏の皮膚だからね、決して脱ぐことはできないのさ。ご覧、これがその動画だよ」
自負するだけあって、ダンスの実力はかなりのものだ。しかし俺氏は白い全身ローブのせいで、猛スピードで増殖変形するアメーバを彷彿とさせる。彼香君は天宮にぽつりと一言。
「○なっしーに繋がるキモさがあるね」
「……人気は出るんじゃない」
●練習する者たち
鯨井寝具は確信していた。
――――歌うぜッ、そして当然踊るぜッ!
シャイニーズの新しい仕事ってーのは、未完の大器たる俺にどこまでも相応しい。
そうさ、この鯨井シングに必要なのはただひとつ。こういうきっかけだけだったんだよ!
やるぜ、やってやるぜ……
俺の魂のシャウトを全世界に響かせてやるぜ!
「フーーーーハッハッハッハ!」
「シング、注目されてるわよ」
シュガーに言われてゴホンと高笑いを収めるも、鯨井の瞳はきらきらと輝いていた。
軟派な外見とは裏腹に、その心はどこまでも真っ直ぐに夢を抱いている。
シュガーはそんな鯨井を庇護の眼差しで見た。
(まさかこんなに早くシング向けの仕事の話がくるとはね。
まあ幸運なのも優れた英雄の素質って言うし、とりあえずは喜んでおきましょ。
せっかくのチャンス、全力でがんばりなさい)
そんな英雄の心中を知ってか知らずか、鯨井の練習には他の誰よりも熱が入っていた。彼が目指したのはツアーのメイン曲『White Gift』を徹底的に自分のものにすること。ツアーのメイン曲である以上、ここがコケたら他がいくら上手くいってもダメだ。逆に言うならここを完璧に決めれば成功、と言っても間違いではない。
(……なんてのは建前なんだけどな)
そう、鯨井が熱っぽいのにはもう一つ大きな理由があった。DVDプレーヤーを止め、部屋の隅をちらと見る。そこには天宮と一緒にいる、彼香君。
(本音を言やー、こいつのリハで目が覚めたってところか。
あわよくばメインであるこいつを食っちまおうかと意気込んでちゃいたが、いきなりの壁だ。
天性のアイドルボイスに身のこなし、コレは俺と同じ天才タイプといって過言じゃねー)
才能が同一のものに差があるとき、それはやはり練習量で決まる。後追いの鯨井に、遊んでる暇は無い。
再び振付師の動画を再生する。Bメロまではゆったりとした曲だ。サビで春の風のように盛り上がり、抒情的なCメロを経て繰り返す。典型的なアイドル歌謡は、鯨井の最も得意とするところ。
「……あの子、今日中に振りをマスターするかもね。履歴書見た? 世界的に有名な音楽学校出てるみたい」
そう言う天宮に彼香君は素っ気ない。
「へえ。ただの阿保じゃないんだ」
「気になる?」
「別に」
音楽への情熱が本物なのは伝わった。ダンスも上手い。動作が流麗なのは、羞恥や虚飾が薄いから。それでいてダイナミック、これは強い自我の現れだろう。表現力なら敵無しか。
――けど、繊細さが足りないな。
体幹はしっかりしてる。キレがあり、アタックは美しい。
だが大振りすぎて止まりきれてないね、乱雑さは青さの証さ。
「敵じゃないよ……今は、ね」
「そ。他のみんなも、筋はいいよね。流石は能力者」
天宮の視線の先には大宮とニクノイーサ。二人も運動神経は抜群に良いし、センスも悪くない。ただし、大宮が熱意を発揮するのはコンサート成功のためというより、変身ポーズを磨くためだ。
「違う! シェイクハンドが抜けてるわ。こうよ、こう!」
その風景は高校の体育館と見紛うようだ。体育教師よろしく竹刀が床を鞭打ち、バシバシという音がスタジオに響く。CDプレーヤーから流れるのはノリの良い明るいナンバー。大宮は竹刀を放り、お手本を披露すべくニクノイーサの前に立った。
「♪世界の果てまで
いってらっしゃいな いってらって
ここはふぁい、しっくす、せーぶんえい、こうよ!
♪夢の中でなんて 待ってたって
しょーがないでしょ、LALALA LAND OF LAST
バク転、指差し、せくしーぽーず! わかった、ニック?」
ギターが掻き鳴るたびに手や足が振り付けを踊るが、ステップを踏む身体の芯は一切ブレない。ニクノイーサも感心しきりだ。
「飲み込みが早いな。朝霞が出演した方がいいんじゃないか?」
「褒めたって手加減しないわよ! アイドルとして成功する道は、高く険しいのよ! さあもう一度!」
蹴とばされる勢いで、今度はニクノイーサが踊る。だがバシバシは鳴り止まない……
「ほらほら、羞恥心が残ってるから、キレがいまひとつなのよ!」
隣では高難度フレーズをビシッと決めた鹿島が心の中でガッツポーズを決めた。俺氏も彼の動きにピタリと合わせて見事に踊るながらも、その見た目はアレである。
「……その格好でキレッキレに踊られると気持ち悪ぃな、やっぱ」
「慣れてるからね。それに、俺氏も伊達に英雄やってないのさ」
「イヤ褒めてねぇよ」
鹿島自前のトレーニングウエアはもう汗だくだ。その隣で、オペラが九重に根気強く振りを教える。
「右、右、左、右、まわって、ジャンプ! そうそう、とっても上手ですよ。はい続けて、わんつー、」
「ちょ、ちょっと待っ…あっ」
ばたーんと転倒してしまう九重、彼はまだステップで苦戦していた。長く病気だったせいもあり、激しい動きにバテバテだ。
「うう……だいたい本番は共鳴するんだから俺の練習要らないんじゃ……」
「大丈夫ですよ、さあ立って。エ・リ・ック! エ・リ・ック!」
と、何かにつけて沸き起こる謎のエリックコール。九重は照れながらも練習を続ける。その甲斐あって、段々と上達の兆しが見えつつあった。
「こ、こうっすかね……? あ、できたっ」
「そう! そうですエリック、よくできました。アイドルは希望を与えるお仕事です、めげずにがんばりましょうねっ」
オペラはついにステップをマスターした九重を褒め、少し休むように勧める。一方、彼女は天宮の方へ。
「おお、本当でござるか天宮殿。やはり殺陣とは違う故、よく分らないでござる」
「全然いいですよー未経験とは思えないです。歌はアレでしたけど、ダンスは流石ですね!」
天宮は白虎丸に自分のソロのバックダンサーをお願いした。かなりの音痴だったためハモりは頼めないが、元々武道を嗜んでいるため運動神経は抜群だった。ふと、彼は近付いてくるオペラに気付く。
「どうしました?」
「んー……天宮、ちょっとこっちへ」
天宮がオペラの方へ行くと、彼女はおもむろに天宮のソロ曲を再生し「ここですけれど、」と彼の顔を見た。彼女はみんなの女神、指導の対象は全員だ。
「あなたはもうちょっと元気なダンスを心がけなさい、例えばここの振付なんかは腕を伸ばし切った方が絶対にステキですよ」
「な……」
「くっ、」
顔を真っ赤にする天宮に、近くにいた彼香君が笑った。
「白虎丸、ここで我を抱っこじゃ!」
「承知したでござるっ」
「そしてこう! うむ、完璧じゃ!」
激しい踊りができないシュノギも、白虎丸と共に天宮のバックを任されていた。浦見も賑やかしがてら練習に参加し、時折英雄にカメラを向ける。するとシュノギは汗を拭うなど、がんばるショタっこをアピール。浦見はにやにやしながらそれを写真投稿サイトにアップした。こうしてゆる~く宣伝活動に勤しむのだ。無論、他の人たちも撮影する。
「キレッキレだね~かずくんとおれっしーまじうける~」
「クズは踊らねーの?」
「モブ顔だからね~存在感はお察しでしょ」
「そうか? しかし真葛と金が絡みそうな話聞くと、文化祭ん時に荒稼ぎしたの思い出すわ……あんまやりすぎんなよ?」
「千颯氏、千颯氏。俺氏グッズも宜しく頼むよ」
「まあ任せてよーおれっしーとかもゆるキャラでいけそーきもカワ系♪」
「白虎ちゃん、真剣にやってる?! 遊びじゃないんだよ!」
「分っているでござるっ」
依頼を受けた以上はと真剣ながら、白虎丸は虎噛のやる気に押されている部分が強く、演出家卓から飛んでくる檄にたじたじだ。そして本人達の思惑には気がついていない……
「はい、水分補給してくださいね」
そこへ部活のマネージャーのごとく、大宮がスポーツドリンクの差し入れを持ってきてくれた。タオルや飲み物は、シュガーが用意してくれている。
「シングも、休憩は大事なのよ」
「……おー」
「かたじけない。しかし、シュノギ殿は飲み込みが早いでござるなあ」
「雅楽や神楽は得意なのじゃ!」
「朝霞ちゃん、白虎ちゃんも鍛えてあげて~」
「白虎丸さんもお上手ですよ! ニックも二人を見習いなさいよ!」
大宮は白虎丸の顎の下の毛をもふもふしながら虎噛に答え、キッと英雄を見る。ニクノイーサはげんなりと息を吐き、シュノギと鹿島はもふもふに食いつく。
「朝霞ずるいぞ! そのモフモフを我もするのじゃ!」
「俺も! 白虎丸モフモフ!」
「そこな引きこもり、我に振りを教える栄誉をくれてやろう」
「やっぱシュノたんprpr!」
「愛想笑いが欲しくば飲み物を買うて来い」
「喜んで!」
「……鹿島殿、頑張るでござる」
「浦見さんと虎噛さんはグッズ開発かぁ。何を作るつもりなんだろ?」
邪魔者を排除したシュノギは大宮と共に存分に白虎丸をもふもふした。
一方たまの息抜きにパシられた鹿島は。
「なあ俺氏。
沢山の人が見て、笑顔になって……
弾幕とはまた感じ違ぇけど、悪く無ぇよな、ああいうの」
鹿島は、前回のテレビ出演が楽しかったので、イベント事に味を占めたようだ。
「そっか……和馬氏もついに直接見られる快感に目覚めたんだね」
「そういう意味じゃねーよ!
……ったく、エネルギー充填したら、さっきんとこもっかいやんぞ!」
「わわ、珍しく和馬氏がマジだよ……仕方がないね」
二人は足早に自販機へ向かう。飲み物が既に全員の手に行き渡っているのは忘れたまま。
●考える男
虎噛千颯は確信していた。
――これで白虎ちゃんがアイドルになれば公認ゆるキャラの道も近くなる!
ついでにプーホーのマスコット化!!
そのためには真葛ちゃん主導の広報活動が鍵。
ここはシュノギちゃんのあざと……もとい、超絶テクに乗っかるが吉!
「グッズはキーホルダーにして、ゆるキャラブームに乗る。
SD化とかグデキャラとか、格好良いよりは可愛いを前面に押し出したデザインに……
アイドル全員分に加え、白虎丸とシュノギちゃんコラボや、シークレットで天宮ちゃんと彼香ちゃんも入れる。
フフフ、少しでも売れる為なら手段を選ばないぜ」
「ちーちゃん本気すぎてうけるんだけど……」
開発担当と熱心に相談を重ねるいつになく真剣な虎噛に浦見は半笑い。彼の下心は物販企画からマネジメントに絡んでいけないかというところにあった。たくさんのサンプルイメージの中から、キーホルダーデザインを吟味する。九重とオペラも休憩がてらにその席に居た。
「まあ、なんて可愛いキーホルダー! おいくらかしら、せめてエリックの分だけでも買い占めます♪」
「オペラさん……それじゃ儲からないよ」
九重は居候先の劇場では見たことのない舞台装置に興奮しているようで、資料を読み耽っている。
「花火! 使いたいっすね、こう、フィニッシュと同時にバーンって! ぜってーカッコいいっす! 魔法もいいっすけど、今いるメンバーが本番にも揃う保証はないんで、今のところは特に考えてないっすね」
「確かにな。あいつらは魔法も使えるみてーだけど、それじゃ味気ないし」
首にタオルを掛けた鯨井も、ペットボトルの中身を喉奥に流し込みながら話し合いに参加中。
「メイン曲の衣装だけ、アイデアを出しておくぜ。コンセプトからして、基調となる色は当然白系だろ?
そこを利用して衣装をプロジェクションマッピングの映像を投影するためのスクリーンにできないか?
動くスクリーンにってのは難しいが、今回はそんな派手なダンスじゃねーしな。ま、一案として」
「それもいいっすね! あ、この装置ハケる時ってMCで繋ぐっすよね? キーホルダーの売り上げ上位の三人は特別にお礼の言葉を言うってのはどうっすか?」
「事前告知の企画としてはーWebサイト上の人気投票は『いいね』ボタンで数値を可視化、稽古場風景の動画アップ、あとはSNS広報アカウントとの連動とかかなー? 景表法すれすれで購買意欲煽ってこー♪」
「ちょっと待って」
やってきたのは天宮だ。どうやら人気投票の話が聞こえたらしく、申し訳なさそうにしている。
「シャニってさ、所属タレントに絶対優劣付けないんだ。シャニーさんがみんなのバックアップする限り、人気投票は有り得ないと思う」
「ちぇー、どうしよっか?」
「ソロパフォーマンスは欲しいよなー」
それを聞いた虎噛と浦見はがっかりしたが、事も無い。
「え? やっていいよ、個人企画。
全員がやると、個々の時間は短くなっちゃうけど。
あ、宣伝は浦見サンに任せるよ、あなたやり手だし」
「天宮ー!」
天宮は鹿島に呼ばれ、その場を後にした。
「なあに?」
「いいの思いついたんだけど、ちょっと見てくれよ!」
鹿島も一つの演出を考案していた。それは息の合ったコンビネーションダンスだ。
「♪それでも君はヒーローさ
君がいるから 戦える
サビの直前、両拳を突き合わせると、二人は共鳴し身体能力が大幅に上昇する。繰り出すのはアクロバティック、二人はほぼ地に足を付けず空中で超人技を披露。
「♪SECRET HERO
SPECIAL HERO yeah!」
その後共鳴を解除、通常のダンスに戻る。ワイルドブラッドの高い身体能力が活きた素晴らしい演出に、天宮も笑顔が零れる。
「どう? ライブの流れに組み込めそうなら練習するけど?」
「すっごくいいよ! 練習頑張って。あなたは歌も上手いし、俺応援してるから」
●「みんなお疲れ~」
「良かったらコレ、俺からのお礼」
練習時間の終わり、天宮が全員分の紙コップ売りコーヒーを買ってきた。それぞれが手に取る中、九重だけはおずおずと恥ずかしそうに。
「あの……俺、ブラック苦手っす。カフェオレ、もらってもいいっすか……?」
「そうなの! ごめんね、すぐ買ってくる」
「わたくしはお紅茶、お願いしますね♪」
「はいはい、オペラさんは紅茶ね」
一服、憩いの時間が流れる。天宮は思い出したように虎噛に尋ねた。最初、必要なら手本を見せれる位には踊れると言っていたのを思い出したからだ。
「チーちゃんは、踊らなくていいの?」
「ああ。俺ちゃん白虎ちゃんのゆるキャラとしての地位確立には相当マジだから」
「そこまで本気なら言っておくけど……白虎丸サンをH.O.P.E.公認ゆるキャラするのは超難しいからね?」
「天宮殿、彼香君殿、今回はありがとうございましたでござる。バラード系も練習したかったのでござるが……」
「その被り物、取れると困るんだろ? 技術系だとどうしても動き激しくなるからね。大丈夫、きみが天宮のバックで踊ると、最高にメルヘンだよ」
礼儀正しい白虎丸に、彼香君の心証も良い。浦見はデザイナー等の担当者と交換した大量の連絡先を整理しつつ、天宮に尋ねる。
「ねーねー、キーホルダーにてんちゃんかのちゃん絡めたいなって思うんだけど、勝手に使うのはNGだよねー? どこに交渉すればいーのかなー?」
「あー、それは無理かも。あなたたちはいいけど、うちの社長、物販嫌いだから」
「えー仕方ないね……全種購入特典はシュノと白虎ちゃんかなあ」
「ていうかさ、毎回あなたたちって言うの、面倒なんだけど。何か適当に名前決めない? 何か案ある人ー?」
天宮の言葉に、九重が自信なさげに手を挙げる。
「あ……えっと……『LINK BOYS』、なんてどうっすかね?」
「それ……メッチャいいね!」
「ああ、絶妙なダサさがシャニっぽい。でもきみ、」
思いのほか好評なので、彼は顔を輝かせた。彼香君も好評しつつ、九重を見る。
「仮面、したままステージに上がる気かい?」
「本番は外すっすよ。今は……ちょっと、心の準備が、」
「なに照れてんのさ?」
「じゃー解散前だけど、他に何か意見ある人ー?」
天宮の言葉に、今度は大宮が手を挙げた。
「会場前で握手会とかしたらどうですか? 新人アイドルが売り出すのに、ファンとのふれあいは大事かも?」
「……確かに言えてるね」
「うん。俺らシャニって、握手会は長いこと禁じ手だったのね。だから考えもしなかったけど、それはかなり名案かも」
想像以上に良い案がたくさん出る会になった。それもみんなが一生懸命取り組んでくれたから。変身の練習もできた大宮は嬉しく思い、笑顔を浮かべた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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