本部

嵐の前触れ

布川

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/03/06 01:35

掲示板

オープニング

●嵐の前触れ
 ここ最近、ヴィランの活動が活発になっている。HOPE所属の、エージェントたちはひっきりなしにあちらこちらと大忙しだ。
 中でもヴィランや、違法AGWによる事件が大いに増えているのである。
 エージェントたちの懸命な活躍によって、なんとか被害を最小限に抑えられている……と言ってもいいのかもしれないが、それにしたって、――治安が悪化している。
 そんな思いを抱かずにはいられない。

●海上、某所、密輸船の中で
「きゃーはっはっは、ボロ儲けね! 密輸でこんなに儲かるんだったら、まじめに働くのが馬鹿みたい!」
「全くだ。これを手土産に、俺たちも古龍幇でのし上がるってわけだ!」
 二人は、渡し屋リザーブと、運び屋ペリュトン。国際指名手配されている悪しきヴィランズである。
「アタイ、日本についたら何しようかしら! 宝石を買って、それから~……」
「俺は新作兵器の試し斬りだな」
 ペリュトンは手に持った大剣を振るった。
「ひっどい、無辜の市民に向かって!? それで足が付いたらバカみたい。忘れないでよ、運び屋『ペリュトン』。アタイらの本分は『密輸』なんだからっ!」
「きちんとした商品かどうか試しておくのもクライアントのためだろ?」
「それもそうね、きゃはは!」
 彼らは、自分たちがマークされているとは思ってもいない。
 船は、静かに海上を滑っていた。

●HOPE本部
「今回君たちに集まってもらったのは、他でもない……ヴィランズの国際的なAGW密輸入について、だ。愚神への違法AGWの販売に関わっていた商人を取り調べていたところ、とうとう、このルートにたどり着いた。調べるのに、だいぶ苦労することになったが……。
情報によると、この密輸組織は、今日の午後6時頃、日本の海岸にたどり着く。詳しい場所はモニタを参照してほしい。
 この情報の正しさについては、問題がない。裏が取れている。しかし……、それだけではないようだ。船は<モノ>だけではなく<ヒト>まで運んでいるようだ」
 モニタ上に、二人のヴィランズの顔が映し出される。いずれも能力者である。
「船に乗っていると思われるのは、運び屋『ペリュトン』、および渡し屋『リザーブ』。これまでに相当な兵器や人員をやり取りしてきた悪しき能力者だ。もちろん、人殺しもいとわないような、悪逆非道な連中であることは付け加えておこう。そして、『古龍幇』との関連が疑われている……」

●日本某所、海岸付近
 冷たい風が吹き付ける。
 予告時刻をやや遅れて、夕方。日が沈む海を背景に、天気は、荒れ模様の様相を呈している。
「いました。おそらくは、ターゲットです……」
 覚束ない明かりの中で、高い波にあおられながら、陸に上がろうとする一隻の船。
 一見して、ただの漁船にしか見えないそれは、まるで棺桶のように、人気のない海をゆっくり、ゆっくりと漂い、ついに港に錨を下ろした。
「あれは、普通の船に見えるかもしれないが、ただの船じゃないぞ……中には、AGW兵器と、国際指名手配されたヴィランズがぎっしりだ……!」

 船を待ち構えるエージェントたちは、戦いの予感に身を引き締めた。

解説

●目標
ヴィランズの逮捕。

●登場
運び屋『ペリュトン』
 国際指名手配されているヴィランズ。
 屈強な体躯を持つ運び屋の男。クラスはドレッドノート。
渡し屋『リザーブ』
 国際指名手配されているヴィランズ。
 細身の女。クラスはシャドウルーカー。

一般構成員×20
 非能力者のヴィランたち。武器の密輸や販売を生業とするものたち。

●場所
夕方、日本某所の港。
ぽつらぽつらと小雨が降っており、天気は悪化するような気配を見せている。
(※判定に特にペナルティはない)

●状況
漁船がゆっくりと接岸し、構成員たちが下りてこようとしているところから。
相手方は港に入り、積み荷のAGW兵器を、手配された大型トラックに載せて逃走するだろうということがうかがえる。
なお、このトラックを運び込んでくるものは2人の非能力者であり、押さえるのはさほど難しくないだろう。

ペリュトンが前衛で指揮を執りつつ、リザーブが後ろを見張っているようだ。
通常のコンテナがちらほら見受けられ、死角はそれなりにある。
くれぐれも二人を取り逃がすことのないように注意。

※「●海上、某所、密輸船の中で」はPLのみがわかるシーンですが、二人がどんなヴィランズであるかは知っていても良しとします。

リプレイ


「ヴィランズか……最近こいつら絡みが多いな。これが前触れってやつか?」
 背後に渦巻くような大きな予感を感じ、月影 飛翔(aa0224)は両手を握りしめた。彼の横には、いつものようにメイド服をまとったルビナス フローリア(aa0224hero001)の姿がある。港には冷たい風がびゅうと吹き付けているというのに、ルビナスの身だしなみはまるで完璧だ。

「どうしてこう、ヴィランズって連中は次から次へと……。まるでネズミかゴ」
『待て、サチコ! それ以上は士気に関わる!』
 鬼灯 佐千子(aa2526)のセリフを、リタ(aa2526hero001)が慌てて遮った。エージェントたちの多くがそうであるように、いや、人並以上に。鬼灯もまた、ヴィランとは並々ならぬ因縁を持っている。
 鬼灯はリタの忠告に従い言葉をこらえ、その代わり、やってくるだろう敵をにらんだ。厚く着こんだ服の前をより合わせるようにして、鬼灯は水平線を見据える。
「まあ、要するにアレよ。―――元から絶てばいいのよ」

「愚神への違法AGWの販売……? 古龍幇とやらがそれに関わっていると……」
 コルト スティルツ(aa1741)は、じっと考え事をするように少しだけ黙り、顔を上げた。結論は自明だった。
「……世界の、ひいては私の脅威である愚神へ組する輩は、諸共潰すしかありませんわね。取り敢えずは目先の事から片づけて行きますわ」
 戦いの予感。コルトの口の端がふっと笑んだように見えたのは、果たして光の加減のみだろうか。
「仕事の時間だ、起きろアルゴス」
『ギギ、ギチギチ……』
 アルゴス(aa1741hero001)に命じると、コルトの物腰柔らかな印象が、一瞬だけ、確かに鋭い輝きを増したように思える。
 呼応するように、巨大な昆虫、人型の影がゆっくりと動き出す。

(目標は、ヴィランズの逮捕――だが、極論ペリュトンとリザーブの二名のみ。他に関しては飽く迄も善処)
 どこまでも静かに戦場を計算しつくす天性の才は、こういった作戦でこそ際立つのかもしれない。八朔 カゲリ(aa0098)は、冷静に戦場になるだろう場所を見据えていた。
「密輸の対処とは、何とも味気ない。ああ、然し人同士の争いには見るべきものもある。互いに覚悟と意志があればの話だが」
 どこかつまらなそうに言うナラカ(aa0098hero001)に、八朔も同調する。
「まあ、奴等の情報を見る限り、懸けるものなど何一つ持ち合わせてはいないだろう。我も人、彼も人と、そんな基本の道理も知らないだろうよ。……対等として見る以上、油断なく徹底的に叩くだけだ」
「……彼奴等には……期待出来そうもないか。ヴィントと篝に期待するとするかのう」

「……ナハト、こいつ等は確実に潰す」
 八朔がナラカと言葉をかわしていた同時刻ごろ、ヴィント・ロストハート(aa0473)は、英雄であるナハト・ロストハート(aa0473hero001)に決意を孕んだ声でそう告げた。感情の起伏の少ない声ではあったが、ナハトにはヴィントの言わんとすることがはっきりと分かる。
「人殺しを生業としていた俺にとって、こいつ等の様な輩は反吐が出る。こいつ等にとって他者の命など、商品の試し切り程度にしか思ってないんだろう……。だから……俺の矜持にかけて、コイツ等は全力で潰す」
「ヴィント……」
 ナハトはそっと目を伏せる。
 かつて、ヴィント・ロストハートは殺しを生業としていた。今回相対するヴィランズと彼の決定的な差異をあげるとするなら、――金儲けのためならば何でもするヴィランズには、ヴィントとは違い理想も、矜持もないということだろう。
「あくまで目的は捕獲だよ。殺す事前提で動いたらダメだからね……。でも……彼等が二度とこういう真似をしないようにするのは同意するよ、それと……彼等の様な人間は私も認めるつもりは無い。だから……私達の誓約にかけて、全力で倒そう」
「嗚呼、殺しはしないさ、こいつ等に死は救いになる」
 【信を置く者には剣の誓いを、非道なる者には剣の死を】。誓約を胸に、ヴィントは獅子の謂れを持つ赤く染まった大剣を握る。

 一方で、「斬曉楼導組合長」、火乃元 篝(aa0437)はディオ=カマル(aa0437hero001)を連れ立ち、従業員の服装に扮しながらコンテナの間に潜んでいた。
「静かにだな、し……」
『ま、黙りましょうか……』
 痩躯の長身が、幻想蝶の中で肩をすくめるような錯覚がした。ピエロの衣装と仮面を付けたディオは、今は幻想蝶の中にいる。作戦を取りまとめているのは、幼馴染の八朔だ。
 ひとたび強襲の合図があれば、信頼できる仲間とともに、彼女は迷いなく一直線に戦場を駆ることだろう。

「場所を割られるとは。ヴィランとしては迂闊ですね」
《……また捕縛か。手緩い》
 対人戦ともなれば、手加減が必要だ。全力で戦うことができない。それは、戦闘をこよなく愛するストレイド(aa0212hero001)にとって耐えがたいものだろう。ストレイドの不満げなセリフを、灰堂 焦一郎(aa0212)は無表情に軽く受け流す。
 灰堂は、火乃元の初めての部下である。その信頼に応えるべく、入念に位置と獲物を確かめ、万全の状態を築いて待機している。

「ふぅ……緊張するね」
 戦場にてチョコバーを咥える今宮 真琴(aa0573)。こんな場所にあってもなのか、こんな場所だからこそなのか。甘いものには目がない。
【逃がすなよ……必ず仕留める……】
 奈良 ハル(aa0573hero001)の言葉に、今宮は頷く。共鳴した今宮の髪は赤く染まったロングヘアー。白狐耳と二尾の尻尾が備わる。そして今日は、濡羽色和装の陰陽モードだ。
「指名手配だってさ……」
【賞金とか出るんかの?】
「いやこれ依頼でしょ」
 しばらくそのような軽い掛け合いをして、無音になったかと思うと、チョコバーを齧る音がただ響く。今回の依頼には、見知った顔も多い。
(あっちにはヴィントさんが待機してて、こっちには、……あ、カトレヤ姐さん。何してるんだろう)

 カトレヤ シェーン(aa0218)は、戦いに向けて、せっせとドラム缶を運んでいた。あちこちに散らばっているから、さほど不自然には思われないだろう。
「モノもヒトも差し押さえてやるぜ」
『一網打尽じゃ』
 カトレヤは、ドラム缶の中から外の様子を窺う。具合を確かめてから、一度出て、小さなのぞき穴を開ける。
『ホッ、なんか落着くのじゃ』
「……」
 なんとなくご満悦なような王 紅花(aa0218hero001)とともに、カトレヤは今はまだ見ぬヴィラン強襲のタイミングを今か今かと待ち構えていた。

「……また、メンドクサイ事、起こってんのな」
『最近この手の事件が増えてましたね……』
 不知火 轍(aa1641)はHOPEの要請に対して、だるそうな雰囲気を隠そうともしない。
「……早く、終わらせて、寝る」
『終わってから、寝て下さいね?』
 それが、依頼を受けた時の事になる。
 現場に来てみれば、不知火はてきぱきと自分の仕事をこなしていた。二重の通信手段を手配して、余念のないように連携を整える。
「覚えるのは得意なんだ……職業病、みたいなもんだからね」
 コンテナや雑多な障害物で複雑な地形も、一度ぐるりと見渡しただけで把握してしまった。暗闇に目を慣らしつつ、不知火は仕事に備えていた。
「……やるか」
『やる気ですね、珍しい』
「……たまには、良いだろ」
『そうですね……いつもそのやる気を出して下さると良いのですが』
 雪道 イザード(aa1641hero001)はぱちぱちとまたたいて、それから顔に微笑を浮かべる。

 鬼灯の要請に従って、港のコンテナは予め動き回りやすいように並び替えられていた。奥の列は通り抜けできないよう隙間なく、手前の列は扉を開けられる程度の間隔を開けてある。
「……ライトがありました。天気も荒れ模様ですし、必要があれば」
「皆さん、コネクターの調子は宜しいですか?」
 鬼灯とコルトの呼びかけに、それぞれが答える。
「位置取り、問題ありません」
 灰堂が言う。

 ヴィランズを迎撃するための準備が、着々と整っていく。
 建物の影に潜む月影の瞳が沈みゆく夕日を映しだし、真っ赤に燃えたかと思うと、黒い瞳は赤色をまたいでルビナスと同じ金色へと変化していた。――『共鳴』だ。


 船がやってきた。
 一見してそれとはわからないようにカモフラージュされた『密輸船』だ。近づいてみれば、その異様さはよくわかる。
 港に乗り込んだ船から、大量のヴィランズが降りてきた。大勢の下っ端を従えて、我が物顔で道を行くひときわに派手なペリュトンとリザーブの姿もある。

「来たか……」
 八朔はゆっくりと顔を上げた。銀に変じた髪は、その、英雄ナラカと同じ色だ。腰ほどまで伸びた長髪は、中性的な印象をより女性らしく縁取っている。黒から変じた真紅の眼が、ヴィランズの船を射抜くように見つめる。
 『燼滅の王』 。誰かが、八朔をそう称した。『焔』と『浄化』。 光をも呑み込み焼き祓う黒焔――「敵」に対する鏖殺の念がゆらゆらと揺れる。
 あと少しで、戦いが始まる。
「これだけあれば、いったいいくらになるんだろうな」
「しばらくは遊んで暮らせるぜ、ヒヒヒ」
 ヴィランズたちはのんきなものだ。停められた大型トラックに、コンテナが移されていく。
「一気に気が抜けた瞬間が狙い目だな」
『最難関を突破した瞬間が一番気が緩み、隙が生まれるものです』
「……気づかれているか?」
『いいえ、まだ。しかし、周囲を警戒している様子はあります。慎重にいきましょう』
 月影とルビナスが好機を探る。

 共鳴した灰堂は、ストレイドの頭部をヘッドギアとして装着している。深紅の単眼が動き回るヴィランズを見ているかのようだった。スナイパーゴーグルの望遠を覗き、見張りの位置や動きを仲間に伝える。ヴィランの隙をついて、灰堂は右舷側にゆっくりと回り込む。左舷側には、コルトが潜んでいる。
 共鳴したコルトの姿は、アルゴスと同じように虫を模した一回り小さな姿――まるで虫人間のようでもある。通信機越しに、灰堂は頷く。
 じりじりとするような時が過ぎ、月影の読み通り、ことが進むにつれて相手の警戒もおざなりになっていく。
「そちらに合わせますわ、派手にかましてくださいまし」
 いよいよ、積み荷の積み込みが終わる。

 ダアン。
 仲間たちの合図とともに、発砲音がとどろいた。
 灰堂の狙撃だ。
 16式60mm携行型速射砲が高らかに火を噴く。灰堂の射撃は、見事にトラックの前輪の車軸を撃ち抜いていた。構える銃の機関部には、【CR-WB87LG】の文字。
 運転手がが慌ててエンジンをかけるが、もう遅い。続けざまに放たれたコルトのオートマチック銃が、およそ通常では考えられないほどの遠距離から、左のタイヤを撃ち抜いた。
 ダン。ダン。
 有無を言わせず、八朔が運転席に追撃を放つ。
【逃げない相手はだいぶ楽じゃのぅ……】
 今宮は、車の後部タイヤを狙う。――これも上手くいった。無理やりに発進しようとしたトラックは大いに横滑りし、ヴィランたちの怒声が飛び交っていた。

 パニックになる車内に向けて、八朔が冷徹に射撃を指示する。相手はヴィランとはいえ非能力者だ。エージェントたちは、コンテナの下部に標準を合わせる。
(人道を欠くと言うならそうなのだろう。だが、それが俺の止まる理由にはならない。責任を問うなら俺に押し付ければ良い。理解する必要なんて全くの不要だ)
 八朔は、なによりもまっすぐに目標を見据えていた。加減も容赦もしない。それでも、できうる限りの最大限の配慮はしたのだ。
(事を成す。その為に尽くすだけだ)
(彼は彼、それ以外に何を信ず)
 苛烈に敵を追い立てる幼馴染のすがたを見ても、火乃元はまったく揺らがない。彼の行動を本能で、魂の部分で理解している。
 一斉射撃。
 なだれるようにしてトラックを降りるヴィランズたちが、破れかぶれに銃を構えようとする。トラックから降りる一動作。エージェントたちにとっては、それで十分だ。
 戦意を喪失し、逃げ出そうとするものを、今宮が回り込むようにして追い詰める。背を向けて逃げ出した一人が、およそありえない方向からの一撃を食らって倒れた。テレポートショットだ。
「急急如律令……現身の矢……!」
【逃がすなよ!】
(接近戦は苦手だけど、ヴィントさんも姐さんもいる)
「なんだ、このドラム缶、動きやがった!」
 今宮の意に応えるように、カトレヤが姿を現した。戦槌で攻撃を受け止める。
「ちょっと、何よコイツ!」

 まばゆいフラッシュが戦場を照らした。
 素早く手近なコンテナに飛び移った彼女が、カメラを連射した光である。髪と目をリタと共鳴し、赤く染めた鬼灯。愛用のライブスラスターが、体をしっかり支えてくれる。
(証拠写真――特に犯人の顔写真は、あって困らないもの)
「な、舐めやがって!」
 攻撃と思って防御に回った下っ端ヴィランが、カメラを持つリタに向かって突進する。
 鬼灯は兵装を展開し、一般構成員へイグニスを構える。火炎放射器での一撃は、頭上すれすれを薙いでいった。
「死にたくなければ、伏せなさい」
 鬼灯は警告を挟みながら射角を下げ、ゆっくりとその場を制圧していく。

「対象制圧、次に移りますわ」
 研ぎ澄まされた精神によって放たれるコルトの一射は、逃走しようとするヴィランズの足を容易く打ち抜いていく。視界の隅で、コルトはトラックから何やら持ち出そうとした下っ端を目ざとく見つけた。すぐさま3連射に切り替える。
「悪いけどそれは使わせないよ……!」
 今宮の式紙がふわふわとあたりを舞う。射線が通らないと見た今宮は、すばやく魔法攻撃に切り替えていたのだ。下っ端ヴィランは、武器を投げ出してその場に倒れる。
「そうそう壊れないだろうけれど、後で役に立つかもしれないしさ……」
 飛んできたAGW兵器を、不知火は掴み取った。
「……作戦目標はヴィランズの確保、一人足りとも逃がすものか」
 コルトが武器を構えて包囲網を狭める。エージェントたちは、じりじりとヴィランズを追い詰めていく。


「ぐっ、ぐぐぐ……待ち伏せされてるなんて、聞いてない……」
「くそが!」
 ペリュトンとリザーブは、じりじりと海へ逃げていく。ペリュトンが船を振り返ると、ぱちぱちと船の明かりが点灯した。誰かが船を準備し、回しているのだろうか。しめた。そう思った次の瞬間、その灯りが助けではないことを、彼は理解することになる。
 轟く爆音。海の上で火の手が上がっている。船はフラッシュを帯びて輝いている。

「そおい!」
 カトレヤは操舵室に飛ぶように乗り込み、操舵装置・通信機を戦鎚≪火之迦具鎚≫で殴り破壊していたのである。振るうたびに美しい火花が飛ぶ。適当なスイッチをひねると、船がパッと明るく輝いた。それを見て、カトレヤはにやりと笑う。
「外の明かりの足しになるだろ」
『これで、奴らは背水の陣じゃ』
「貴様、な、何をしている!」
 無謀にも、構成員が乗り込んできた。
 カトレヤは武器を後ろに放り投げると、不意を突いて鉄パイプを思い切り振るった。めきりと嫌な音がして、壁がへこむ。
 一般構成員は、その場に立ち尽くすしかなかった。AGW兵器でないにもかかわらず、この威力。
『戦鎚でブッ飛ばしてやればいいのに』
「愚神や従魔と一緒にすんな。死んじゃうだろ」
 そう言いながら、カトレヤは致命傷にならないだろう部位を狙って打ち据えていく。駆けこんできた少数の増援は、あまりの力量差に腰を抜かした。
「そ~れ、セーフティーガスで制圧、っとな。逃がさねえぞ」
 カトレヤは笑うと豪快に戦場に戻っていく。

「船もダメなんて、どうすりゃいいのよ!」
「あ、あれは!?」
 一人の下っ端が、明後日の方向に声を上げた。その次の瞬間には、灰堂に足を撃ち抜かれ、その場に倒れ付している。
 悪天候を予感させる中、かき消すように、紅炎の如く輝く炎の輪が燃えた。彼女を飲み込んだと同時に、ゆっくりと消える。そんな光景を、下っ端ヴィランは目撃したのである。
 金髪に染め上げられた髪、四肢に黄金に輝く甲冑に身を包んだ火乃元が、高らかに笑いながら一直線に戦場を突っ切る。
「ふむ、運び屋と渡し屋か! 話には聞いていたぞ!」
 武器を向け宣言する火乃元に、ディオはどこか愉快そうに言う。
『主……地雷ですよぉ』
《システム・スキャンモード。索敵開始》
「篝様、お気を付けてお進み下さい」
 灰堂が道を切り拓く。戦場を駆け抜ける一陣の風のように、火乃元が駆けていく。
「とっとと止めろ! 隙だらけじゃねえか!」
 構成員が追いすがるものの、誰一人として彼女をとめることはできない。
 ペリュトンの怒声に、能力者の取り巻きの幾人かの構成員が力なく銃を向ける。銃を向ける手は震えていた。
 ヴィランズの一人が固まって銃を取り落とした。一瞬だけ、火乃元と目が合った。殺される。そう思った瞬間、彼女は通り過ぎ、あっさりとペリュトンとリザーブのほうへと足を向けていた。
 眼中に、――ない。敵わない。
 エージェントというのは圧倒的なものなのだ。
 構成員に向けて、鬼灯がとどめのフラッシュバンを走らせる。八朔の指揮と制圧により、ただ人である彼らは、すでに戦意を失っていた。


「皆さん、これに乗じて距離を詰めてくださいまし」
 コルトのフラッシュバンがリザーブの動きをとどめる間に、ヴィントはリザーブに向き合っていた。
「初めまして……お前がリザーブだな。愚神でないのと頭は悪そうなのが残念だが……代わりに壊し甲斐はありそうだ」
『見た感じ、性根かなり腐ってそうね』
「あらあら、壊しがい、ですってえ! おっかしい、どっちが壊されるか見ものだわ!」
 ヴィントに対峙したリザーブは両手に曲刀を構える。
 ヴィントは鮮血に染まったような異形の腕を差し伸べると、そのまま間合いにゆっくりと迫った。相手を試すように振るわれた一撃を、リザーブがかわす。
「ずいぶんと大振りじゃない。そんなんでアタシを……」
 もう一撃。
 リザーブには喋っている余裕などなかった。
 ヴィントは、笑っていた。どこか狂ったように笑っていた。
「逃がさん! 逃がさんぞ!」
 乱入した火乃元が、コンテナを豪快に破壊しながらリザーブに迫る。
「くっ……」
 リザーブの視線が動く。返す刃できらめく曲刀の一撃。すれすれに放たれた灰堂の威嚇射撃に、リザーブは一瞬気を取られた。火乃元は、リザーブの攻撃を思い切り叩き潰した。
「脚の速さが脅威ならば、それから潰すに限るな」
 狙いを定めたコルトに対して、リザーブが一気に距離を詰めようとする。
「ちっ、接近は本職じゃないっての……!」
 コルトは短剣に持ち替え、一撃をかわすと、距離を取る。そこへ再び火乃元の一撃が迫る。
「お前の相手はこっちだ!」
「しつこいわね!」
「ははは、生ぬるい!」
「ガキが……! ガキが!」
 リザーブは火乃元に向かって刀を振るう。火乃元はにやりと笑い、今度は受けに回った。
「あの男はなにやってんのよ!」
 

 リザーブに加勢しようと向きを変えたペリュトンの行く手を、月影の投げたレッド・フンガ・ムンガが遮った。
『現行犯ですね』
「フン、俺とやりあおうってのか。言っておくが、運び屋とはいえ、伊達にヴィランズやってないぜえ……」
 大男はハンマーを構える。
「時間もかけられないからな、一気に行くぞ」
 月影はブラッディランスを短く持ちかえ、一気に懐に入り込んだ。間合いを見誤ったペリュトンが下がると、それだけ月影も距離を詰める。
 肉薄。
 ペリュトンは目を見開いた。ヴァルカン・ナックルでの追撃が、ペリュトンを大きくのけぞらせる。頭が下がったところへ、回転で遠心力をのせた槍の石突が、ペリュトンの後頭部へ叩き込まれる。
「うごっ、……なかなかやるじゃねえか!」
 ペリュトンは腕を振りあげ、距離を取った。
「……相手は俺だけじゃないんだがな」
 そのとき、後ろから、忍び装束をまとった、不知火が縫止をほとばしらせた。
「ぐっ」
「……止まっとけよ」
 そこをめがけて、八朔の銃撃が降り注ぐ。
 ペリュトンはハンマーをかざして攻撃を受けると、咆哮を上げて思い切り振り回した。


「くっ……」
 銃弾が、リザーブの足をかすめた。灰堂の放った一撃だ。リザーブは慌てて体の向きを変え、位置取りを変える。
(あの狙撃手は厄介だわ。気を抜くとすぐに……誤射をする気配もない……)
「よそ見する暇があるか! 余裕だな!」
 すかさず、火乃元が大剣を振るう。曲刀で受けながら、リザーブは唇をかんだ。
(このガキもただ攻撃してくるように見えて、アタシの攻撃をよく見ている、けど……)
 けれど、こいつなら。
 リザーブは油断していた。ヴィントの太刀筋は、大振りで、容易にかわせるものと考え、ヴィントがしばらく動かないのを、隙と見て取った。
――それが、意図されたものでもあるとも知らずに。
(所詮、ただの脳筋じゃないのよ)
 火乃元に攻撃すると見せかけて、向きを変えて剣を構える。振り向きざまに獲物を振りかざした腕は、簡単に取られた。
「嘘」
『捕まえました……貴女は絶対に逃がさないっ』
 ヴィントの本来の実力で振るわれた剣。一撃、二撃、今までとは比べ物にならないほどの威力。布石は積み上げられていたのだ。
「……喜べ、貴様は『獲物』に充分足りえる存在だ。だから……全部奪い尽くしてやる」
 不意の攻撃に、リザーブは体制を崩した。火乃元が剣を振り上げる。狙いは、ヴィントとは逆の左手。
《非殺傷モード・オン。……面倒な事だ》
 灰堂の銃弾にはじかれ、リザーブの曲刀が手を離れた。――チェックメイトだ。


(くそ、リザーブのヤツ、油断しやがって……!)
 一方で月影らと一進一退の攻防を繰り広げていたペリュトンは、状況の不利を悟り、じりじりと後退する構えを見せていた。
「運び屋なら運ぶだけで責任は持たず逃げるか? それともアフターケアで確実に渡すプロ根性でも見せるか? どちらにせよ逃がす気はないけどな」
(逃げる……)
 進路はすでにふさがれている。リザーブを沈めた追っ手も、すぐに来るだろう。
「くっそ、このままタダで捕まれるかってんだよ!!!」
 ペリュトンが力を籠め、ハンマーをスイングする。
「……隙、頂く」
 ふわりと接近した不知火は、不意の方向からペリュトンに《猫騙》を仕掛けた。その間に、月影は、身をそらせて防御の構えを取る。この一撃は重い。真っ向から食らうわけにはいかない。
「……イザード、頼んだ」
『お任せを……体術ならばまだまだ負けはしませんよ』
「……ハッ、言ってろ」
 不知火に代わり、制御を司った雪道は、華麗な身のこなしで構えを取る。
 ずどん。
 ペリュトンのハンマーが振り下ろされた。地面に大きな穴が開く。しかし、――耐えきった。雪道は、咄嗟にコンテナを盾にした。
 大きな一撃を放ったペリュトンは、無防備だ。
 畳みかける。
「うごお……」
 八朔のライヴスリッパーが、ペリュトンを打ち据える。月影の怒涛の三連撃。
 ペリュトンはその場に倒れ伏した。不知火が武器を弾き飛ばす。



 勝利を手にしたと思われても、エージェントたちに余念はなかった。月影は難なく大男を縛り上げると、体から武器と煙幕を取り上げる。
「いつまで狸寝入りしているつもりだ? お前たちのやりそうなことだろ」
 月影に言われ、ペリュトンはビクリと身を震わせる。
「そちらも終わりましたか」
 コルトは不穏な動きする者が無いか、周辺を警戒しながらもあたりを見回っていた。戦いの間に日はすっかりと落ち、ぽつらぽつらと雨が降っている。
「雨は対象が見にくくなるから好ましくないんだがな……アルゴス、お前はどうだ?」
『ギチギチ』
「聞いた俺が悪かった、だから目を光らすな」
「少しでも変な動きを見せたら、分かってるわよね?」
 鬼灯が構成員にライヴスガンセイバーを突き付ける。ペリュトンとリザーブが敗れれば、もはやおしまいだ。
「お前達は所詮そこまでだ!」
 とどめを刺すように、あたりに火乃元の高らかな勝利宣言が響き渡る。
『我々の方が組織としては小さいですが……鯛の尻尾より鰯の頭でしょうねぇ~』
「貴方がたの抵抗はもはや無意味です。投降を。……篝様。お怪我は大丈夫ですか」
「ん。大丈夫だ。それより、えーと、どこやったかな」
 灰堂が意を察して、戦場に転がっていた拡声器をそっと渡す。すう、と息を吸い込んだ火乃元は、意気揚々と勧誘を始める。
「お前達! 今降伏すれば命の保証はできる! え? 何撃ってきた? お前達もだろ! 後我が組合に入れるぞ! というかだな、こんな状態で盛り返してもお前達の組織は許してくれるかな!?」
 畏敬と恐怖が入り混じったような構成員たちの視線が火乃元を捉えている。輝ける太陽の如きエゴの少女。能力者だとか、そうじゃないとか、そんな次元を通り越して――もはや、器の大きさを感じないでもない。

「積み荷もしっかり確保、っと」
 カトレヤは満足そうに積み荷を押さえた。不知火は船のほうのヴィランズを縛り上げ、連行するのを手伝い、証拠写真を集めていた。
「上層部とか、頭のいい人が上手く使うでしょ」
 鬼灯はカメラの内容を改めていた。よく撮れている。これからの捜査も進むだろうか、あって損はないだろう。
 今宮はおもむろにコンテナを開け、中を見る。中には、ぎっしりとAGW兵器が詰まっていた。
【なにやっとんのじゃ?】
「確かめておこうかと思って。これは……火種になるものだね……できれば壊したいけど……」
 そう言いながらも、今宮はマカロンをぱくついている。
【HOPEが回収するじゃろな……】
「何か嫌な予感がする……ね……」
 一仕事終えた後に、すっかりと落ちた日を眺める。上空を見上げながら、これからに思いをはせ――るが、口にはまだマカロンがくわえられている。
【シリアスな場面なんじゃがな……しまらんな……】
「これだけの武装を密輸……まだこの先があるのかもな」
 護送されていくヴィランズは、おそらく氷山の一角でしかないのだろう。それでも、陰謀を食い止めたことはとても大きい。
『皆様、お疲れ様でした。身体が冷えますので体調を崩さないように気を付けてください』
 ルビナスが、疲れ切ったエージェントたちにタオルと温かいコーヒーを振舞っている。

 エージェントたちの活躍は、運び屋『ペリュトン』。渡し屋『リザーブ』を無事に取り押さえ、多くの一般構成員をとらえた。これからの予兆を感じさせつつも――任務は、つつがなく成功だだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
  • 最脅の囮
    火乃元 篝aa0437
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 単眼の狙撃手
    灰堂 焦一郎aa0212
    機械|27才|男性|命中
  • 不射の射
    ストレイドaa0212hero001
    英雄|32才|?|ジャ
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命
  • 暁光の鷹
    王 紅花aa0218hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 最脅の囮
    火乃元 篝aa0437
    人間|19才|女性|攻撃
  • エージェント
    ディオ=カマルaa0437hero001
    英雄|24才|男性|ドレ
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 願い叶えし者
    ナハト・ロストハートaa0473hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • 木漏れ日落ちる潺のひととき
    コルト スティルツaa1741
    人間|9才|?|命中
  • ギチギチ!
    アルゴスaa1741hero001
    英雄|30才|?|ジャ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
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