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おなしゃす! さあ、おなしゃす!
掲示板
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闘魂注入相談スレッド
最終発言2016/02/24 22:07:35 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/02/24 06:30:01
オープニング
●懇願する者たち
休日の昼下がり、がやがやと賑わう繁華街。人に溢れ、活気みなぎるその場所に奴らは現れた。
「何あれ……?」
「わかんないけど、近づかないほうがいいよね絶対……」
街を行く人々が避けて通る、それらの正体とは……。
「お願いします! お願いします!」
「1発だけでいいんです! どうかお願いします!」
「こんな俺に喝を入れて下さい! おなしゃす!」
懇願する男たち。野郎どもが徘徊している。
「どうか……どうか俺にビンタを……こんな俺に闘魂注入して下さい!」
闘魂注入ってなんだよ。
彼らに声をかけられた人々は当然のごとく迷惑そうな表情で通り過ぎていく。我関せず、と誰もが見えていないフリをする。
しかし彼らはめげることなく、ひたすらに頼み続けるのだった。
「おなしゃす! さあ、おなしゃす!」
●辟易しつつ出動する者たち
「街中で『おなしゃす!』と言って闘魂注入を求めてくる男性が大勢現れたそうです。どうやらこれらは従魔に憑かれたことによるものだそうで、数時間後にライヴスを吸収して彼らがマ……レベルアップした未来をプリセンサーが予知しました。そのプリセンサーはそれを報告したきり頭が痛いと言って寝込んでいますが……」
ブリーフィングルームでエージェントたちへの説明がオペレーターによって行われている。プリセンサーは一体何を見たというのだ。マって何? レベルアップってどういう意味なの、強くなるってことでいいのかな? いいんだよね? 平手打ち以上を求めるようになったとかそういうことじゃないよね?
「何事も早めの処置が肝心です。どうやらこの従魔は共鳴状態の平手打ちで消滅するほど弱く、AGWを見た瞬間にビビって逃げ出してしまうそうなので、1人ずつ平手打ちで相手をしてやって下さい。プリセンサーから報告された彼らの情報は皆さんの端末に送っておきます。倒す分にはなんの障害もない任務です、皆さんなら簡単に成し遂げられるお仕事ですよ!」
ニコニコと微笑むオペレーターの喋り口に何だか嫌な予感を抱きつつ、エージェントたちは事件現場へと向かうのだった。
解説
目標:イマーゴ級従魔の殲滅、及び一般男性の解放
敵:イマーゴ級従魔に憑依された一般男性×200人
従魔に憑かれたことで精神が変調しており、『おなしゃす!』と言って平手打ちを求めてくる。
彼らは自分に自信がなかったり、悩んでいたり、落ち込んでいたりします。
(好きな女性に告白する勇気がないとか、将来が不安だとか、300時間プレイしたゲームのデータが消えたetc)
男性がどんなことで悩んでいるかプレイングで指定しても構いません。
闘魂注入してやって下さい。共鳴状態でなければ効果はありません。
悩みをじっくり聞いてからでもいいし、問答無用でバシバシいくのもアリです。
攻撃力は皆無なのでエージェントがダメージを受ける心配はありません。(物理的には)
彼らを放っておくと従魔がライヴスを得て成長してしまいます。
そうなると(色んな意味で)更なるレベルに到達するので迅速に事を進めて下さい。
ちなみに彼らは平手打ちされると闘魂注入に対して『ありがとうございます!』と喜びながら倒れ、従魔は消滅します。
女性PCの平手打ちに対して別の意味で『ありがとうございます!』と喜ぶ個体もいるかもしれません。気をつけて下さい。
場所:人通りの多い繁華街
路上は勿論、ゲームセンターやファーストフード店、郵便局や銀行等の様々な場所にいます。
素晴らしい平手打ちをすれば従魔のほうから寄ってくる可能性もあります。
危険性が低いために一般人が普通にいるので退治する際はとても注目されることでしょう。
状況:現場到着時からスタート
上記の理由から一般人を避難させる必要はありません。
避難させようとした場合、あんな弱い従魔なのに避難させる必要があったのかと近隣の店や自治体からクレームが来るでしょう。いくらかの報酬減が考えられます。
衆人環視の中でがんばるのです。
リプレイ
●準備
まずエージェントたちは繁華街の一角、人通りの多いスペースを確保しに動いた。男どもを叩くことで一般人に怪しまれるのを避けるために『時間内にどれだけ多く平手打ちできるかを競う』という偽イベントを開催することにしたのだ。
カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)と共鳴した御童 紗希(aa0339)、天都 娑己(aa2459)と龍ノ紫刀(aa2459hero001)が関係各所を回り、事情を説明することですんなり許可は得られた。
更に鴉守 暁(aa0306)はH.O.P.E.を通して警察に根回しを行うために別行動。急遽イベントを行うことになった経緯を説明して数名の警察官を派遣してもらい、正当性の確保、及びイベント見物の市民に安心感を与えるために動いていた。
「こんなクレイジーなイベントデスネー」
開催前のスペースで、フリップを掲げたセクシーお姉さん、キャス・ライジングサン(aa0306hero0019)は通行人たちにこれから行われる催しについて話していた。合わせて、街中で『おなしゃす』と言っている人たちはイベント参加者だとして、見かけたら誘導してあげてほしいとも伝えた。市民の協力が得られれば事がうまく運ぶ、と暁に言われていたからだ。
別働隊の『ロケハンに見せながら街行く人を叩く班』も準備を整える。
「まったく、どうして私の周りは変態ばっかり集まってくるのよ!」
(今日は黒絵を刺激しないでおこう)
仕事内容に不満を漏らす桜木 黒絵(aa0722)と、今日は大人しくすることを決めるシウ ベルアート(aa0722hero001)。御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)は2人を黙って見ていた。
新星 魅流沙(aa2842)と『破壊神?』シリウス(aa2842hero001)、土御門 晴明(aa3499)と天狼(aa3499hero001)はビデオカメラを買いに店を訪ねていた。
「お前もシリウスなんだなー。中国語でシリウスのこと、天狼って言うんだよ。面白い偶然だな!」
「私と同じ名とは、奇妙な縁もあるものだな!」
シリウスと天狼はたわいない会話をしている。買い物は相棒に投げっぱなし。
●叩く!
「おなしゃす!」
「おなしゃす!」
しばらくすると噂を聞きつけた男どもがイベントスペース前で列を成していた。情報が街に広く浸透したようだ。
機は熟した。イベントの幕が切って落とされる。
「いよいよ始めるぞ! さぁ、叩かれたい奴はどいつだ!」
「おなしゃす! おなしゃす!」
司会役を務める天狼がスタート宣言。待望していたおなしゃすどもが押し寄せる!
そこで共鳴した紗希が天狼からマイクを奪い取り、叫ぶ。
「ガチのハーフJKが今からお前ら豚どもに闘魂注入くれてやる! 悩みや相談など一切聞かない! ただし散り際の言葉だけは聞いてやる! 渾身の張り手を喰らいたい奴は今すぐここに並びやがれ! 今まで見たことない世界見せてやる!」
赤いマフラーたなびかせ、大喝。言いたいことを言ってスッキリした紗希はマイクを天狼に返し、
「ゴメンネ! ソラくん、もし何かが近づいてきたら誰かの後ろに隠れてね。でも場を盛り上げるのも忘れないでね」
耳元で囁く。ロケに出る前に晴明が「ソラに何かあったら」と言って全員と連絡先を交換していたし、何かあってはいけない。
「あ、あぁ、任せろ!」
どんと胸を叩く天狼。
挨拶はこれで終わり。
ここからは叩きまくるだけだ。
「なるほどな、仕事で失敗の連続で心機一転を図りたいがために叩かれたいというわけか」
ばっしばっし処理していた恭也は、時折持ち込まれる重めな相談に対してはある程度は話を聞いていた。
(「……叩かれて気合が入るってわけがわからないんだけど?」)
「俺も理解はできんが、眠気覚ましに頬を叩くのと同じ要領なんじゃないのか」
心中で伊邪那美と感想を述べ合いながら、恭也は平手打ち。闘魂を注入する。
「ありがとうございます!」
満足げに倒れる男。晴れやかな表情である。恭也は叩いた痺れをその手に感じながら。
「……望まれているとはいえ、理由もなく叩くのは抵抗があるな」
(「そうかな? ボクは何だか楽しくなってきたよ」)
「……わかっているとは思うが、他所で同じようなことはするなよ」
(「なら恭也にはやっていい?」)
「ダメに決まっているだろ! 俺は叩かれて喜ぶ趣味はない」
「おなしゃす!」
伊邪那美との会話の最中、次なるおなしゃす来訪。
「またか。お前の悩みは何だ?」
「あ、開始前までお兄さんと一緒にいた小さな女の子に叩いてほしいんですが」
「……何だと?」
「女の子、おなしゃす!」
恐らく伊邪那美のビンタを所望している。
特殊な人だった。
(「うわぁ……気持ち悪いね。ボクは嫌だよ」)
「闘魂注入では生ぬるい。性根を叩き直したほうがよさそうだ」
いい加減うんざりしてきた恭也の往復ビンタが華麗に炸裂した。南無三。
「ハーイ! 『厄災』それが私の名よ!」
キラキラと身を輝かせ、ド派手に共鳴シーンをキメた暁は男どもを手招き。
「悩みを叫んで前に出なー」
「おなしゃす! 告る勇気が出なくて――」
「さっさと告ってこーい!」
バシー。女々しい悩みを一蹴。
「ありがとうございます!」
倒れる男を見送ると、またおなしゃすの声が聞こえてくる。
「おなしゃす! 最近やる気が」
「やる気出ろ!」
適当すぎる激励とともに張り手一閃、葬り去る。響く、ありがとうございます。
バシバシ叩いていくが数が多い。つまり面倒。
「おなしゃす!」
「だからお前はチェリーなのだ!」
バシー。
「おなしゃ」
「おまわりさんこっちです!」
バシー。
「お」
「お前憑かれてないだろ!」
死なないようにバシー。もう適当すぎて途中から話を聞いていない暁。だがそれでも気持ちよい叩きっぷりは好評で、懇願は後を絶たないのだった。
「色んな意味で死にたい奴は自ら頬を差し出せ!」
ゴミを見るような目で彼らを待ち受けるのは紗希である。彼女の言葉に導かれ、1匹やってくるが……。
「おな……」
「息を吐くんじゃない豚野郎!」
腰から捻った、フルスイングのビンタが男の首を持っていく。あまりの威力。何も言えずに男はそこにくずおれる。
恐怖の鬼軍曹JKに、おなしゃすどもは怖いような楽しみなような、色々なものを感じた。
また1人、勇者が紗希の前に出る。紗希は何も言ってないのに後ろ手に組んで直立している。
「貴様の悩みは何だ!」
「おす! 自分のなや――」
「誰が喋っていいと言ったぁー!」
全力の平手打ち。何たる理不尽。その赤いマフラーは返り血で染まったとかそういう感じなのか。
だが。
「ご褒美ありがとうございます!」
天へと還る魂。鬼軍曹の前に出るだけあって、そのテの強者だったらしい。
というか紗希が開幕で豚とか言うものだから、彼女の前の列には豚野郎しかいなかった。
隣では娑己がまぁまぁ話を聞きながら対応をしていた。開始前はためらってなかなか引っ叩くことができず、紫刀にたしなめられることもあった娑己だったが、悩みを聞いていくうちに彼らを応援したい気持ちが強くなっていた。
頑張ってほしい、そのためなら。
「トランプタワーを完成させることができないんです……苦節40年、何度も何度も何度も挑戦しているのですが……やはり軟弱な精神であるせいだと思うのです。おなしゃす、どうか闘魂おなしゃす!」
「諦めたらそこで試合終了です! 死ぬ気でやれば何とかなります!」
情熱と愛情と、ほんの少しの「そんな悩み?」という気持ちを込めて全身全霊の平手打ちを喰らわせる娑己。
「ありがとうございまぁす!」
感激しながら倒れていく中年男性。人に感謝されるのは悪くない気分。
ぼちぼち処理していた娑己だが、周囲がなかなか苛烈にぶちこむおかげで彼女の担当する列の人がいなくなった。そこで聖地にたどり着けていない人たちを探してこようと思い立ち、1人イベントスペースを離れる。
おなしゃすという声や頭を下げる人影を探していくと、いた。銀行の中でやらかしていたのだろう、警備員につまみ出されながら「おなしゃす!」と言っている男たちがいた。
救ってあげよう、娑己は動く。
「イベント参加の方ですね。ではこちらに……」
「お、おなしゃす! おなしゃす!」
手で導いてイベントスペースまで連行していく娑己。彼らを捕まえていた警備員は明らかに訝しげ。
「失礼しました。闘魂注入のイベントなんです」
娑己は笑いながら事情を説明する。もう感覚が麻痺していて普通に闘魂注入という単語を使ってしまっていた。客観的に聞くとすごいセリフだ。
催しは成功、イベント班は数多のおなしゃすを釣り上げることが出来たのだった。
●仕事人
「ついに私の天馬流星弾の力を解放する時が来たようだね……」
拳が風を切る。符綱 寒凪(aa2702)は闘魂注入できる時間を今か今かと待ちわびていた。気合入りすぎて、間違って殺っちゃわないかだけが心配。
(「なぁ凪~、殴っちゃダメなんじゃねぇのか?」)
共鳴中の厳冬(aa2702hero001)の意識が忠告する。寒凪はハッと気づいたように、拳の素振りを止めた。
「……仕方ない、じゃあ小宇宙を爆発させて」
(「俺様よく聞いてねぇからわかんねぇけど、それもあぶねぇんじゃねぇの?」)
「……仕方ない、真面目に平手打ちするよ。耳には当てないように注意しなきゃ、鼓膜が破れたら大変だものね」
鼓膜を破壊した経験があるのだろうか。寒凪と組んで行動していた晴明はそこが気になるのだった。
ロケに見せかけるための裏方役の晴明は、普段の和装とは違い、パーカーにジーパンというそれっぽい服装で臨んでいた。しかしウルフカットの長髪を縛らずに下ろしている風貌はとてもワイルド、190センチ超えの長身も相まってとても撮影スタッフには見えない。
適当に街中を歩いていると、見つけた。
「おなしゃす! おなしゃす!」
頭を下げている男が数人。寒凪がパキッと拳を鳴らす。
「殴るなよフツナ」
「わかってるさ」
厳冬との会話を知らない晴明が釘を刺す。
「そこの人。何してるのかな?」
寒凪が満面の笑みで話しかける。晴明が用意していたカメラを向け撮影のフリをするが、寒凪がちゃんと平手打ちするか気が気でない。男が負傷しないよう念のため尻尾で受け止める心の準備をしておく。
「おなしゃす! 恋人が出来たことのない俺に闘魂注入を……」
「恋人が出来ない? そっか!」
風を切るビンタが男の頬を打つ! ものの数秒の会話で即刻平手打ちを喰らわせる寒凪。容赦ない攻撃に一層不安になる晴明。
「ありがとうございます!」
感激して大の字に倒れる男。1体撃破。
だが急に平手打ちをかました男と礼を述べて倒れた男は、当たり前だが人目を惹く。道行く人々がちらちら見てくる。
(わかっちゃいたが、心持ちは良くねえな……)
「殴られたい人はどんどん来るんだ!」
晴明の胸中などお構いなし。寒凪が男を集める。三々五々、奴らは寄ってきた。
「300時間以上やりこんだゲームのデータが消えて……生気が湧かなくて。闘魂注入おなしゃす!」
「ゲームのデータ? 君なら短時間で超えられるよ!」
「データねぇ。俺は株やってるから何百万って金を一瞬で失うこともあるし、何でもねえだろ。やり残したイベントとかクリアするチャンスも――」
「もういいよね、ハイ!」
べしーん。晴明が励まし終わる前に寒凪の闘魂が炸裂。「ありがとうございます!」と言って男は逝く。
「もう少し何か言ってやってもいいんじゃねえか……?」
「スピード重視で」
寒凪がそう言うのは、状況を判断した結果か、それとも殴りたい衝動を抑えきれないからなのかはわからない。数が多いのは事実なので晴明もそれ以上のことは言わない。
「おなしゃす! 将来が不安で――」
「その不安って気持ちを私に伝えたのだから君はもう前に進めるよ! 明日へ向かって行ってきな!」
ばしーん。
「おなしゃす! 最近妻が冷たくて――」
「貴方の愛が足りていない!」
べしーん。
「おなしゃす! やる気――」
「それは大変だね!」
ばしーん。
「おなしゃ――」
「喜んで!」
バコォッ。
吹き荒れる「ありがとうございます!」。仕事人寒凪が次々と処理していく。
「彼女にふられたか。それは神さんがお前に相応しくねえと思ったからそうなったんだ。他に相応しい奴もいるだろ。うちの神さんもそう言ってたぜ」
状況に慣れきった晴明はカメラは寒凪に向けながら、目線は平手打ちを求めて行列を作る男たちに向け、バシバシ叩いてしまう寒凪に吐き出せないだろう気持ちを聞いてやるのだった。
●オネェ
「アイドルの闘魂注入! お悩み相談室出張版! イベントもやってるぜー!」
声高にシリウスが宣伝する。黒絵たちと回る彼女はカメラを構え、雰囲気を演出している。
闘魂注入というワードに惹かれ、シリウスの周辺に男が流れ着いてくる。おなしゃすおなしゃす。
「ではまずオレが手本を。ニボシはカメラ持ってなー」
魅流沙にカメラを渡し、男の悩みに耳を傾けるシリウス。
「じゃあ悩みを聞こうか!」
「バイトの面接に行く勇気が出なくて……どうか闘魂注入おなしゃす!」
しょぼい。だがシリウスは大きく何度も頷く。
「よーしわかった! 大丈夫! お前は一歩を踏み出した! できる、できるんだ!」
アゲてアゲて、平手を振りぬく。パチーン、と大きな音がする。音だけでダメージはなく、男は立ったままだが。
「な、簡単だろ? それじゃ交代。さぁニボシ、成果を見せてみろ!」
「えぇー!?」
何故か自分も平手打ちする流れになっていることに、裏方仕事だけで済むと思っていた魅流沙が驚く。
「闘魂を見せろニボシ!」
「む、む、無理です! そういう路線じゃないです!?」
「やれニボシ! さぁ!」
むぎゅっとさっき叩いた男の顔を掴み、魅流沙の前に差し出す。対応が雑すぎて男も困った表情で魅流沙を見ている。
「そ、そんな顔……う、うぅ……やります、やりますよ! ごめんなさーい!」
ばっちーん。鈍い音。
「もっと、もっと強いのおなしゃす……」
2人の攻撃を喰らっても満足できず、男は地に手をついておかわり要求。やはり共鳴しなければ。
「やっぱ倒せないか。そんじゃオレたちは大人しく撮影に回るか!」
「そ、そうだね」
ロケハンのフリ作戦。カメラを構えてスタッフっぽく振る舞う。ネット生放送をしていた経験がある魅流沙はその役目を買って出た。決してひっぱたく担当になりたくなかったからじゃない。
「まず悩みを聞こう」
男たちの悩みとは何なのか。黒絵はまず尋ねる。
「ワタシ、女装が趣味なの」
「好きになった人もオネェで……」
「男が欲しい」
「我が魂に打ち込まれた楔が――」
ひどい。
「シウお兄さんだけで充分だよ!」
オネェ、オネェ、オネェ、厨二病という素敵なラインナップ。
「おなしゃす!」
懇願するオネェ系メンズ。
「わ、わかったよ!」
ぺちん。ひどく弱々しい。優しい性格の黒絵は、従魔に憑かれているとはいえ彼らを思いきり攻撃することはできなかったのだ。
「た、足りないわ……」
中途半端な攻撃が刺激したのか、オネェ成分が強まってきた。
「それなら……」
黒絵は消火器を取り出し、構え、ありったけの闘魂を脳天に注入した。
「これでどう!?」
オネェは倒れたか。
否、立っている。
「おなしゃす! もっとおなしゃす!」
むしろ元気になってた。
「えい! えい!」
消火器で殴りまくる黒絵。魅流沙たちがロケハンに見せかけているとはいえ、その姿は一般人には恐怖を、一部の人間には期待を抱かせた。
「お、おなしゃす!」
「ワタシもおなしゃす!」
群がるオネェたち。にしても数が多い。
(「気をつけるんだ黒絵。これは変態が混じっているパターンだよ」)
シウの助言。混じっているというか全部変態です。
引き寄せられたオネェたちから盛大なおなしゃすコールが巻き起こる。消火器で殴っても殴ってもそれは止まらない。
プッツリ、切れる音がした。
「消火器で殴ってもおなしゃす! ですって……それじゃ釘バットで殴られても文句言えませんよね?」
幻想蝶から取り出すは、無数の釘が刺さったバット。
得体の知れない何かが黒絵の魂から迸る。
「注入!」
スラッガー黒絵、オネェを次々に殴りつけていく。
「あぅふ!」
「殴られた痛みは3日で忘れます。でもこの思いは絶対忘れないで下さいね!」
これは彼らを救いたいという優しさ。それを否定する者がいるなら出るところに出てやる。黒絵はそう思い、バットを振り続ける。
「ふふふ、コメディは私が全部叩き潰すんだから!」
トランス状態で暴れる黒絵は、彼女の行動が悪夢を引き起こすことをまだ知らない。
●どうしてこうなった
「疲れたよー、手が痛い……」
多くの男どもを張り倒した娑己の手は赤く腫れあがっていた。
「あたしも娑己様の平手打ちなら喜んで受けるよー」
「もういいってばぁ~!」
紫刀が頬を差し出すが、疲れきった娑己はむにゅっと相棒の顔を押しのける。
「急場しのぎだが、氷を買ってきた……冷やすと良い」
手を腫らした者たちのために、恭也がアイシングのための氷を調達してきていた。ビンタ疲れをしていた者たちが氷を求めてやってくる。
と、そこに現れる何十人という男たち。
嫌な、予感がした。
「ここがワタシたちをぶっ飛ばしてくれるという天国ネェ……!」
男じゃなくてオネェだった。服がパッツパツの筋骨隆々だった。
「さぁぶっ叩いてチョーダイ! 宴よぉーー!」
「ウウォォォオーーーーー!!」
野太い。後に続く咆哮が野太すぎる。
「何てことだ……」
遅れてやってきた数人。ロケ班の面々だった。トランス終了した黒絵は自分の行動にショックを受けており、そのため共鳴が解かれていたシウがオネェ襲来の模様に戦慄する。
原因は黒絵だった。消火器も釘バットもライヴスを介した攻撃が出来ないので従魔は次第に成長し、オネェたちを『ガチムチドMオネェ』に変えてしまったのだ。色んな意味でレベルアップ。
そして彼らは聖地を求め、市民の皆様の協力でイベントスペースにやってこられたのだ!
「あらぁ、良いオ・ト・コ☆」
1体のオネェが恭也に目をつけ、獲物を狩る肉食獣のような動きで接近してきた。怖気とか色々なものが瞬時にこみ上げた恭也は即座に伊邪那美と共鳴し、迎撃する。
「寄るな!」
平手打ちがオネェの頬を捉える。だがオネェはわずかに体を仰け反らせただけで、すぐさま体勢を立て直し、すがるように恭也に抱きつく。
「イイわぁ! もっと、もっとチョーダイ! ビンタじゃ足りない、グーパンよ! グーパンしてー!」
これぞ末期。成長したオネェは平手打ち一発では消滅せず、更にはグーで殴ってくれと言う始末。プリセンサーが予知した未来はこれだったのだろうか、オネェの芽を摘むことができなかった黒絵の罪は重い。
「そこまで言うなら……望みどおり殴ってやろう……!」
(「殺さないようにね、恭也! でも手加減しないでね!」)
伊邪那美のムチャぶりを聞き流しながら振りかぶられた恭也の拳が、オネェの頬をしっかりと打つ。
「ありがとう……愛して、る……」
あらゆる意味で昇天し、オネェは倒れた。
しかしまだだ。精鋭はまだまだいる。オネェの熱気で空気が揺らぐ!
「爆発しろ、私の小宇宙! 天馬流星弾!!」
一連の流れで拳解禁を察知した寒凪が共鳴、必殺の拳ラッシュを打ち込む。背景に宇宙とか星座とか見える気がする。
「ありがとうイケメン……いや女? まあどっちでもイイわ、二足歩行ならぁーー!」
「アリガトーーン☆」
流星弾により宙高く舞い上げられ、ドシャッと地に落ちる雑兵たち。いやオネェたち。皆一様に満足した表情である。
(「凪、イキイキしてんなー!」)
「ふふっ、腕が鳴るよ。心置きなく小宇宙を、じゃなくて闘魂を注入していいってことだからね」
闘士は突っ込む。オネェの群れへと。ウッキウキで。
「なるほどなるほど叩かれたいのかー。この豚野郎!」
「はぶっしッ!」
ゴン。暁が問答無用でオネェをぶん殴る。男に殴られたかったオネェはみっともない断末魔とともに頭から地面に倒れた。
「グーパンかー。手の平が痛かったからちょーどいいかなー」
暁は目につくオネェを殴り倒す。もう悩みなんか聞いていられない。最初からそんなに聞いていなかったけど。
阿鼻叫喚の中、紫刀がぐったりしていた娑己を立たせる。
「娑己様、あたしたちも休んではいられないよ!」
「えぇーっ! あ、あれに近づくの……!?」
「あんなのでも、さっきまで叩いてた人たちと同じように従魔のせいなんだよ。きっと。多分。かも?」
「どんどん弱くなってる!」
相棒の言葉に不安を感じながらも、エージェントとしての責任感から娑己も共鳴状態になり、豚野郎の駆逐に励む。
「もう一度自分を見つめ直すのですー!!」
「あべしっ!」
「恥を知りなさい! 恥をー!!」
「すぺしうむっ!」
不本意ながらも女に殴られて消え去る、オネェたちの最期の言葉は何か変な叫びばかりである。
「ハルーーー!」
「生きてたか、ソラ」
オネェたちとの戦闘から命からがら逃げてきた天狼がロケ班に駆け寄り、晴明にとびつく。だいしゅきホールド。
「ハル……あれ、あれあれ――」
言葉が見つからない天狼は口をぱくぱくさせている。ガチムチドMオネェをどう表現すればいいかわからないのだろう。
「あー……そうだな、あれは従魔だ従魔。怪物。それだけわかってりゃ問題ねえ」
「世界は恐ろしい……」
どぎついモノを見て落ち込みきった天狼。こちらの世界は恐ろしい。
「良いオトコがこっちにもいるわぁーーー!」
狂喜乱舞するオネェたちが晴明を発見し、わらわらと群がってくる。危機感に突き動かされ、晴明は怯える天狼と共鳴した。狩衣をまとい、隠していた九尾を露にした姿は獣人の威容といったところだが、オネェたちは意に介さず近寄ってくる。
「イケメンがイケメンに変身ですって……!?」
「キターーッ!」
むしろ興奮していた。
「俺はオネェに興味はねえ!」
心からの拒絶とともに、晴明の全力の拳がオネェたちを葬っていき、感謝と悦楽が混在したオネェたちの声がこだまする。
「ロケに行ってた方々は帰ってきましたか……って何これ!?」
イベントが終了した後、しばらくその場を離れていた紗希が戻ってきた。そしてオネェ溢れる惨状を目にする。仲間たちがオネェをグーパンしている惨状を。
「この人たちも従魔憑き……? あ、そういえばカイは……」
残していったカイは無事だろうか。紗希は人が入り乱れる中、きょろきょろと探し回る。
「マ、マリ……ここは危ない……今すぐ逃げ、ろ……」
割とすぐに彼は見つかった。
「早く殴ってェ~ん。そのたくましいお腕でワ・タ・シ・を☆」
「ずるいわよっ! この方に殴られるのはワタシよぉ~!」
ガチムチオネェに囲まれて、その肉体をすりつけられ、何か色々すりつけられて息も絶え絶えになっているカイが見つかった。
「見るなマリ……俺を見ないでくれ……」
オネェにされるがままの恥態など、カイは見せたくなかっただろう。2人が合流したことで共鳴してオネェを倒せるようになったのは救いだが、カイにとってはとってもつらい。しにたい。
「あの、うん。カイ……話とかは後でいいから、今は従魔を倒すのが先決ってことで」
「いっそ、殺せ……」
男泣き。紗希は何も言わず、その表情も見ず、オネェの輪の中からカイの手を取り、再び鬼軍曹JKへと姿を変えた。
「黒絵、君はこんな(面白い)状況にしてしまったことを気に病んでいるんだろうけど、その前にやることがあるはずだ」
自身がコメディに片足を突っ込んだことで落ち込み、うずくまっていた黒絵にシウが手を差し伸べる。
「シウお兄さん……」
黒絵が見上げると、シウは微笑んでいた。
「さぁ行こう黒絵。コメディは君が叩き潰すんだろう?」
「そう、そうだね……。こんなところで挫けていられない!」
手を伸ばす。握られた手。再起のリンク。
「オネェは消毒だよ!」
(「僕たちの戦いはこれからだ!」)
蠢く獣たちを消毒しに行った黒絵。さぁコメディの時間だ。
「ニボシ! このスクープ映像を逃すわけにはいかないぜ! レッツREC!」
「えっ!? 撮るの、これ……」
「『シリウス』としてのニボシは、これを撮り逃してもいいっていうのか!」
「全然構わないけど……」
戸惑いながらも、魅流沙はシリウスに促されるままにオネェと戯れるエージェントたちの様子をカメラに収めていくのだった。
全てが終わった後に映像を見た黒絵が、数日間寝込んだのは言うまでもない。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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