本部

かぜ、ひいた

真名木風由

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
4日
完成日
2016/03/01 05:10

掲示板

オープニング

 体温を測れば、平熱よりも遙かに高い体温。
 わぁ、素敵(棒)
 『あなた』は天井を見て、溜息を零す。

 風邪ですね。
 今流行ってるんですよ。
 能力者でも病には勝てませんからね。

 病院での診察結果がこれだ。
 いや、まぁ、インフルエンザじゃないそうだから、それはほっとするのだけど。
 でも、熱は高くて、ちょっとしんどいかもしれない。
 寝返りを打つのも億劫だ。
 と、英雄がやってきた。
 英雄は、薬を飲むには何か食べないといけないからと言い放つ。
 食べるものを持ってきたのだろう、と『あなた』は思い、それから、ふと気づく。

 それは、英雄の手料理だろうか。
 それは、既製品だろうか。
 いや、そもそも、何を持ってきたのだろうか。

 英雄の料理の腕は?
 何を食べさせようと言うんだろうか。

 全て、『あなた』の英雄次第のこと。
 『あなた』を想う英雄次第のことだ。

 だから、『あなた』はちゃんと食べて、お薬飲んで、早く治そうね。
 尚、殺人料理だった、病人が食べるようなものじゃなかった等々の問題は、許してあげよう。
 ……愛は偉大だ。

解説

●状況
・能力者
何らかの理由(他MSのリプレイ参照必須以外で、よほど無理なものでなければ大体OKです)で風邪引いた。インフルエンザじゃないけど、熱は結構高い。へろへろ状態。
・英雄
能力者の看病中。お薬飲ます為に料理持ってきた。
※手料理か既製品かは自由。既製品の場合、一般のスーパーに販売されているものの範囲としてください。作る場合もスーパーにあるもので作成してください。

●出来ること
・能力者
料理を食べてお薬飲んで看病されてください。
・英雄
料理のアレコレ、食べさせたり、看病してください。

●注意・補足事項
・基本的に個別描写となります。参加能力者は確実に風邪を引いており、お友達が引いているけど自分は大丈夫なのでお見舞いということは出来ません。
・個別描写ではありますが、英雄同士の場合のみ連絡を取り合うことで、能力者の看病の為にアドバイスし合うという協力体制はOKとします。その場合、プレイング冒頭に『連』と記載してください。
・何もなければ能力者自宅(シナリオイラストはイメージです。人それぞれ違ってて大丈夫です)となります。参加者の誰かの家にお世話になっている場合、参加者同士の合意が必要となります。その場合は共通タグを設定してください。
・糖度希望の場合は『☆』を。ただし、関係の進展具合によっては糖度に至らない場合もあります。
・英雄はこの世界の人間ではない為、風邪は引かないです。感染の心配はありません。
・公認されていない基礎設定は問題ない範囲まで暈すか、該当箇所を不採用とする場合があります。
・私担当のシナリオ以外のリプレイは参照しません。私担当であっても、リプレイが公開されていないものにつきましては参照の対象外となります。
・概ね好きに看病していいですが、一般の人に迷惑を掛けない配慮と公共の場でのTPO遵守はお願いいたします。

リプレイ

●薬より効く看病
「……ちょっと油断してたかなぁ」
「日頃の不摂生が祟ったんじゃないですか、もう」
 ベッドの上の住人となったレヴィ・クロフォード(aa0442)へリオ・メイフィールド(aa0442hero001)が呆れたように溜息を零す。
 酒は百薬の長だからと新しい酒を求めるレヴィの手を引っ掴み、リオが病院の診療室へ放り込めば、風邪の診察。
「寒暖差にやられるなんて思ってなかったなぁ……。少し体が怠いかなぁって感じはあったけど、大丈夫だと思って放置してたのは拙かったかな……」
「お酒ばっかり呑んで、あんまり食べないからですよ」
 ごろごろしているレヴィの枕の下へ氷枕(お酒用の氷には事欠かないのだ)を敷くリオ。
「俺が一緒じゃないとちゃんと食べてないんじゃないですか?」
「治ったら纏めて聞くよ」
 レヴィは本当に具合が悪いらしく、辛そうに目を閉じた。
 こんなに弱っている姿を見たのは初めてだ。
「色々口喧しいかもしれませんけど、レヴィが心配だから言ってるんですよ?」
「死ぬ訳じゃないし、そんなに心配することないと思うけどな……」
「俺はレヴィのそんな弱った姿見たくないですから」
 ぽつりと漏らした言葉にも律儀に反応したリオは濡れタオルをレヴィの額にぺしっと乗せた。
 きちんと絞られたタオルは冷たい心地良さをくれる。
「早く治してくださいね。……お酒はちゃんと治るまで禁止ですから」
 処方された薬を飲んでいただく為にも何か作ります。
 リオは買い物に行くと言って、部屋を出て行った。
 「気をつけて行くんだよ」と声を掛けたレヴィは、独り残った部屋で呟く。
「薬は出来るだけ飲みたくないんだけど……」
 レヴィは溜息を零し、リオが戻ってくるまで目を閉じた。

 ドアが開く音がし、レヴィは意識を引き上げる。
 いつの間にか眠っていたようだ。
「レヴィ、起き上がれますか? お酒は……呑んでませんね」
 リオがトレイにお粥を持ってやってきた。
 葱が刻まれ、三つ葉が飾られたシンプルなお粥は、市販のものではないと判る。材料を買ってきて作ったのだろう。
「ネットで作り方、調べたんです」
「包丁で手を切ったり、火傷したりしなかった?」
「大丈夫です。レヴィのようにはいきませんでしたけど」
 リオは「俺はそこまで子供じゃないですよ」とレヴィの心配に苦笑し、お椀を差し出す。
 レヴィが口に運んでみると、少し塩が足りない気はしたが、ちゃんとしたお粥の味が広がる。
 恐らく、ずっとコンロの傍で見ていたのだろう。
「美味しいよ」
「良かった。味付けはシンプルにと思って作りました」
 リオが自分の為に作ってくれたものだ、食べない訳にはいかないと思っていたが、本心からの言葉をレヴィは伝える。
 そう答えるリオがいつも以上にしっかりしている、とレヴィは内心笑みを零した。
 薬より効き目がありそうだけど、薬は飲まされるのだろう。
「健康でいてくれた方がやっぱりいいですね」
 看病自体に文句は言わないリオが水と薬を準備してくる。
 この後、レヴィとリオによる薬の攻防戦、勃発。

●学習能力に関する論議
 ニクノイーサ(aa0476hero001)が病院から帰って来るなり布団に直行した大宮 朝霞(aa0476)を見下ろすと、朝霞の目がぼんやりと彼を捉えた。
「あー……、ニックって忍者だったの? ニックが3人に見えるよ……」
「熱のせいか、いつも以上におかしいことを言っているな」
 が、朝霞は反論する気力がない。
「ちょっと待っていろ。今食べ物を用意してきてやる」
「あんまり食欲ないんだけど……」
 余程と判断したニクノイーサの申し出を朝霞が消極的に拒否するも、ニクノイーサは却下した。
「しっかり栄養を取らないと、治るものも治らんからな。薬を飲む必要もある」
「おくすり、きらい」
 ここで一般的な英雄なら、「ヒーローだろうが」と言うかもしれないが、朝霞相手にそんなこと言ったら、健康になった時が怖い。
「我侭言うな」
 ニクノイーサはそれだけ言って立ち上がり、台所へ向かいながら病人食を考え始める。
(風邪と言えば、お粥だよな。冷蔵庫には食材の買い置きがある。この世界に来てから料理はしたことないが、ネットで調べれば作り方も解るだろう)
 自分にやってやれないことはないとニクノイーサはニヤリと口の端を上げた。

 そうして、出来上がったお粥は朝霞の元へ。

「ニック……私……蟹が食べたい……」
 ニクノイーサが待たせたと声を掛けると、朝霞は言うに事欠いて作ってやったお粥以外の希望を述べた。
「そう言うと思って、カニカマ入れておいたぞ」
「タラバとかズワイが食べたい……」
「風邪が治ったらな」
 本物の蟹ではないと言う朝霞、熱はあっても、その指摘は忘れない。
 ニクノイーサも朝霞なら当然の範囲と軽やかなスルーで、お粥を差し出した。
「たーべーさーせーてー」
 ニクノイーサは風邪で熱も高いから仕方ないとレンゲにお粥を掬い、口を開けて待機の朝霞の口へ運ぶ。
 ぱくっと食べた朝霞は咀嚼し、首を傾げた。
「……何が入ってるの?」
「カニカマの他には、摩り下ろした生姜。それから刻み葱、溶き卵、蜂蜜」
 風邪に効くだろうと思って選んだレシピだ。
 朝霞は甘さは蜂蜜かと納得し、「ありがとう」と顔を綻ばせる。
「食べ終わったら、この湯冷ましで薬飲んでおけよ」
 準備良く、薬とコップに入った湯冷ましが準備されてあるのを見、朝霞は頷いた。
「早く治して、世界平和の為、また頑張らなきゃ……。聖霊紫帝闘士ウラワンダーは、熱に負けてられないしね……」
 ニクノイーサ的に不本意なそれに口を開く前に朝霞は盛大な溜息を吐く。
「ヒーロー物に付き物の特訓回だと思ってやったのに……」
「真冬の海で水泳なんて真似をして何もない方が恐ろしいだろうが」
 ガックリした様子の朝霞へ、ニクノイーサが呆れ果てる。
「お前がまともな人間で良かったと……俺は寧ろ、今安心しているよ」
「真のヒーローには大事だと思ったのよ。今度は温泉プールにしておくわ……」
「学習しているのかいないのか、よく判らんな」
 ニクノイーサはふかーい溜息を吐いた。
 やっぱり、朝霞はおかしい。

●壁向こう風邪模様
 棚橋 桜(aa2464)の目には、天井が映っている。
 いつもと違うのは、自分が風邪を引いているということ。
 学校で風邪が流行っていたが、いつの間にか貰ってたらしい。
「……本当に熱出したのは久し振り……」
 天井を見つめながらぼんやり呟いた桜は、最後に風邪引いたのはどの位まで遡るか考えてみる。
 最後は……今目に映る天井ではなかった。
「……ニコラスさん、大丈夫かな……」
 絶対的に信頼出来る存在、ニコラス スミス(aa2464hero001)は桜の高熱に心底心配してくれた。
 病院へも一緒に来てくれたし(診察の時は待合室で待っててくれたが)、気遣ってくれる。
「火傷しないといいんだけど……」
 そう、ニコラスはここにいない。
 ニコラスは桜の為にレトルトのお粥を温めに台所にいる。
 かつていた世界にはない物で溢れるこの世界で暮らす為、ニコラスはH.O.P.E.の研修も積極的に受け、所謂文明の利器の扱い方は一通り心得ている、けれど。
 桜は熱で少々朦朧とした頭で、ニコラスを案じた。

 さて、桜が寝る部屋の壁向こうの住人も似たような事態に陥っていた。
「うぅ……酷い目が続いているの……」
 オリヴィア アップルガース(aa0649)は病院から帰宅し、パジャマに着替えてベッドに戻る。
 すぐさま、袴田 雪絵(aa0649hero001)が額の汗を拭き、オリヴィアの額に冷却シートを張った。
「フォローが間に合わなくてごめんね」
 任務も終わり、共鳴も解除し、撤収に入ろうとした時、オリヴィアは橋のアーチから足を滑らせた。
 雪絵が手を掴むよりも早く川の中へダイブ、寒中水泳のおまけをこなしたのだ。
 で、翌日の今日、この状態。
(熱が高いから、処方箋の薬は飲まないと……)
 雪絵は「何かお腹に入れないとね。お粥でも作ってくるから大人しくしててね」と台所へ身を翻す。
 見送るオリヴィアが「桜さん、大丈夫かな……」と零すのが聞こえる。
 隣の住人は別の経由で風邪引いたらしく、病院の待合室で一緒になったのだ。
(手伝った方がいいとは思うんだけど……)
 桜は年頃の少女であり、ニコラスは立派な男性だ。
 着替えなどに苦慮すると思えば、手伝いたい気持ちはある。
 が、オリヴィアの熱も高く、目が離せない。
 雪絵は、ニコラスを応援するしかなかった。

 そのニコラスは、桜より買い置きの『れとるとのお粥』所在と調理法を一通り説明され、言われた通りに調理していた。
「湯で温めるだけで食べられるとは便利な世界ですね」
 ニコラスは、感心するばかりだ。
 桜に教わった通りの時間通りに火を止め、器に移してから、一応味見……少し味が薄い気もする。
「病人にはこの位でいいのでしょう」
 問題なく作ったお粥、コップに水、処方箋の薬をお盆に乗せ、ニコラスは桜の部屋へ戻った。
「起き上がれますか?」
「何とか……」
 桜がのろのろと身を起こす。
 自分と2人きりの時だけ、桜は言葉遣いも年相応の少女だ。
「言われた通りに作ったつもりですが……」
「ありがとう……」
 桜は不安そうなニコラスからお椀を受け取り、口に運んだ。
 美味しい、と伝えれば、ニコラスは安堵の表情を見せる。
 食事を済ませ、薬も飲んだものの、そこまでだった。
「ごめん……大丈夫……ちょっと疲れただけだか……ら……」
 言い終えた時には、桜は寝息を立てていた。
 ニコラスは毛布を直すと、濡れタオルを再び水で冷やして額に乗せる。
 暫くすると、桜が汗をかいてきたことに気づき、顔や首筋の汗を拭いていくが、水分補給と着替えも重要である。
「起きてください。着替えと水分を用意します」
 薬の効き目もあるのだろうか、桜が起きる気配はない。
 このままでは──
 ニコラスは桜と着替え、用意している水分を見比べ、決断した。

 オリヴィアは独り残った部屋で目を閉じていると、雪絵が戻ってきた。
「作ってきたけど、起きられる?」
「……何とか」
 オリヴィアは身を起こすが、熱の所為で頭がぼーっとしている。
 傍らで雪絵が小さな土鍋からお粥を小皿に移し変えているのが、どこか他人事のようだ。
「自分で食べられる?」
 顔を覗き込まれての問いかけも、どこか遠い。
 と、お粥が乗ったスプーンが口元へ運ばれてきた。
「あーん」
 オリヴィアはぼーっとしたままお粥をぱくりと食べる。
 出汁と溶き卵で整えられたお粥は薄味で、優しい味だ。
(本人は食べたの覚えてなさそうよね……)
 食べさせる雪絵は苦笑しながらも口元へ運んであげ、お粥を全て食べさせた。
 次は、薬だ。

 桜が目を覚ました時、ニコラスの顔が近くにあった驚きで思わず身を起こした。
 パジャマが、変わってる?
「汗が酷くてですね……起こそうと……」
「解ってます。怒ってないから、それ以上言わないで……」
 汗を拭きながら着替えさせてくれたのだろう。
 近くにあるガーゼが濡れているから、目覚めるまで濡れたガーゼで最低限の水分を補給してくれたのだろう。
 桜は恥ずかしさで真っ赤になりながら、申し訳なさそうなニコラスからコップを受け取った。

 オリヴィアの目の前に唐突に手の平がひらひらと現れた。
「オリヴィア~? 帰ってこないと、口移しで薬飲ませるけどいいよね?」
 薬、口移し……。
 ……。
「いいよー」
 オリヴィアの言葉に雪絵が予想外だったらしく時間を停止させた。
「……冗談なの」
 流石に戻ってきたとオリヴィアが笑うと、雪絵は「やられた」と呻く。
「雪絵さん、そういうことしたい人?」
「冗談よ。ちょっとからかうつもりだったのに」
 オリヴィアの問いへ、雪絵は真顔で聞かないと調子を戻した声でオリヴィアの額を冷却シートの上から叩く。
「熱で変なスイッチ入っちゃったみたいで」
「いつもはこっちがからかってるからいいけど。……はい」
 笑うオリヴィアへ雪絵が水と薬を差し出してくる。
 お礼を言って飲んだオリヴィアは傍にいるという雪絵へ「寝てる間に悪戯しないでね」と笑った。
「まだ言うのね……」
 オリヴィアからコップを受け取った雪絵の呆れたような、けれど、怒っていない声を聞きながら、オリヴィアは再び眠りに落ちた。

●感じる『時』
「うー……ぐるぐるまわるー……」
 御代 つくし(aa0657)から体温計を受け取ったメグル(aa0657hero001)は予想以上の高熱に溜息ひとつ。
「出かけるなんて無理ですね……」
 寝てください、と告げると、つくしはメグルを見上げた。
「きょう、いけないって……れんらく、してー……ごめんなさい……って……」
 熱で苦しくとも、それは忘れていない。
 今日、本当は佐倉 樹(aa0340)とシルミルテ(aa0340hero001)とお出かけする予定だったのに。
 気温の変化と近づいてくるお出かけへの楽しみではしゃぎ過ぎ、昨日は夜遅くまで眠れなかったこともあり、朝には立派な風邪コース。
(いつきちゃん、ごめんなさい……)
「僕が連絡しておきますから、つくしは寝ていてください。機会はまたありますから、治すことを優先に。今日様子見て、熱が下がらなければ病院へ行くのを検討しましょう」
 メグルが病院での診察に慎重なのは、つくしの素性によるものが大きい。
 さる組の一人娘のつくしは不要と父親に棄てられ、別組織へ誘拐を装い、襲われた経緯を持つ。
 メグルが現れ、誓約を交わした為、今ここにいるつくしは本人が思う以上に微妙な立場だ。
「ありがとう、メグル……。たのしみだなー……はやくなおさないと、なー……。かぜ、なおったら……いっぱい……あそぶんだー……ごはん、とか……おかいもの……とか……いっぱい……」
 熱で苦しいのにそう笑うつくしは眠りへ落ちて行く。
 メグルはその寝顔を見、ひとつ溜息を零してから、スマートフォンを手に取った。

『もしもし、佐倉さんのお電話で間違いないでしょうか』
「ンー……樹、今病院」
 樹のスマートフォンを代理で取ったシルミルテは樹が風邪で熱を出し、今病院に行っていることを告げた。
『佐倉さんも、ですか?』
 メグルが驚いた声を上げたのは、つくしも同じだからだそうで。
 お出かけはまた今度という話になり、お大事にと言葉を交わして電話を切る。
「ソロソロ帰ッテ来るカナー」
 樹は病院に行くに辺り、遠慮なくおじさん呼びで日頃から抉る従兄を足に使ってたし。
 シルミルテはシルクハットをテーブルへ置き、代わりにコミカルな白うさ耳がぴこぴこするナースキャップとリトルナースの衣装を取り出し、着替えた。
 やがて、窓の外に車が停まり、樹を下ろして去っていった。
「さクット治スノが、今ノ樹の仕事ネ!」
「……うん」
 シルミルテに頷いた樹はいつその服とキャップ買ったのだろうと思いつつ、言われるまま寝ることにした。
「1人デ寂しクナイよーニ」
 シルミルテが樹の頭の横へもっふもっふなうさぎの大きめなぬいぐるみを置く。
 顔を寄せれば、肌触りが凄くいい。
(これ……あの子にあげる奴じゃないの……?)
 察したシルミルテが無邪気に笑った。
「あげルノはネー、別の子。今途中なノヨ」
 何が途中なのかは聞かないでおこう。
 大切なあの子に贈る子、きっといい子だから、それが判ればいい。

 樹も風邪を引いたとは、喜べない偶然だ。
 眠りに落ちているつくしへ伝言を伝えれば、きっと喜ぶだろう。
(もう10年近く……)
 つくしと共に過ごした年月はその位になるだろうかと振り返ってみる。
 今までこうして寝込んだことはあり、その度にメグルは看病していた。
 ペットボトル、風邪薬、卵粥……準備は整えてある。
「以前はうなされていましたが……今はもう、大丈夫なんですね」
 真実を、知ったからだろうか。
 本を読む手を止め、メグルは呟く。
 つくしはあの夢で、両親を思い描き、家へ帰ろうとしていた。
 誓約反故のリスクを承知で真実を告げ、つくしは変わったのだろうか。
「……僕は元の世界に……」
 考えても仕方のないことだと解っている。
 解って、いる。
 両親よりも長く時を過ごしていた、のに。
 ……つくしは真実を知らなかったから、思い描いただろう、けど。
 でも、この世界に留まる理由がないならば──
 そう考え、メグルは緩く首を振った。
 何が違う。
 つくしを棄てた親と、自分は、何が違う。
 残して帰るなら、同じではないか。
「それでも……今はまだ……捨てられないんです」
 思い出せない記憶がある。
 残してきたと思う人がいる。
 メグルにも捨てられないものがあるのだ。
「つくし……僕を、許してください……」
 この言葉を告げられたら、その時こそ──本当の意味でつくしに向き合えるかもしれない。

 シルミルテは樹が病院に行っている間に万事整えていた。
 ネットスーパーで買ったスポーツドリンクは容態を見て、水で薄めた方がいいだろうが、今はお粥を食べて貰わないと。
 お1人様用の土鍋に作ったお粥は五分粥、塩で味を調え、卵を落としてある。
 土鍋の蓋に桃色地に白兎の染があり、シルミルテは笑みを零す。
 自分と同等に扱う樹も最近譲歩したのか、可愛いものも買ってくれるようになったが、最後の抵抗とばかりに8割は兎関連である。
 こうして兎柄を見ていると、仕方ないという気分になって──
「ダカラ、樹ガ愛おシイんダよネ」
 呟くシルミルテがお粥を持って行くと、樹は天井を見ていた。
「次までにゼミの先輩にデザートが美味しいカフェでも聞いてそこにも行こうか」
「イイネー」
「つくしさんが喜んでくれるといいけれど」
 樹もお出かけの延期が少し残念だった。
 でも、移してしまうと宥められて病院へ行って帰ってきたら、つくしも風邪らしく大変なようだ。
 と、樹のスマートフォンが鳴る。
 覗き込んだディスプレイには、『鴉:御代つくし』の文字と彼女のメール着信を告げるガラス細工の向日葵の画像。
『おでかけはまたこんど』
 頑張ってメールしてくれたのだろうか。
 樹は画面を操作し、メールを打つ。
『また今度。カフェでイチゴのスイーツ思いっきり』
 メールを送ると、樹は一息つく。
 すると、目の前にイチゴが盛られた小皿が現れた。
 メールを打った今まさに食べたいと思っていたイチゴは流水でよく冷えている。
「樹へご褒美ヨー」
 シルミルテの何もかも理解した笑みを見、樹は看病してくれるのが己の半身で良かったと心の底から思った。

●変わりつつある日常
「普通の風邪で幸運だったかもしれないわね」
 アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)は、「頭がくらくらする」とふらついた足取りの木陰 黎夜(aa0061)を病院へ連れて行き、インフルエンザではないことに少々ほっとしていた。
 黎夜が自分の布団に入って休んでいる間、アーテルはお粥の準備。
(貰った梅干は冷蔵庫……)
 1LDKの、お世辞にも綺麗とは言い難いアパートは風呂等はあっても広いとは言い難い。
 その大家からお裾分けして貰った梅干を取り出し、種を抜く。
 梅干を入れたお粥は塩で味が調えられているが、シンプルなものだ。
「さ、お粥作ったから食べましょう」
 身を起こした黎夜がアーテル特製のお粥を口に運べば、容態にあった柔らかさのお粥は絶妙の塩加減、梅干も種は抜かれていて、食べ易くなっていた。
「おいしい……」
「良かったわ」
 アーテルが黎夜へ微笑を向ける。
 風邪を早く治すには、ちゃんと食べて、薬も飲んで、ゆっくり休まないと。
 早く治さないと──
「……病院、もう行きたくない」
「栄養もつけたし、暖かくして休んでればちゃんと治るから」
 黎夜は病院が嫌いだ。
 その理由のひとつに男性恐怖症もあるだろう。アーテルも女医がいる病院へ診察予約を入れ負担軽減に努めていた。
 黎夜が食べ終わると、待っていたアーテルは水と薬を差し出す。
「隣にいるから、何かあったら呼びなさいね」
「……うん。おや、すみ……」
「おやすみなさい」
 黎夜が薬を飲むのを見届けたアーテルが出て行ってから、黎夜は部屋を見回す。
 部屋に濡れたタオルが干されているのは加湿器がないからだ。お粥を作る前に干してくれた。
 枕元にはスポーツドリンク、何かあった時の為にビニール袋がセットされた洗面器。すぐ近くには蒸しタオルの準備もある。
 着替えも用意されており、汗をかいてから探す必要はない。
(ハルにまた迷惑かけてる、かな)
 黎夜は溜息を零し、布団の中へ入る。
 布団の中には湯たんぽが入っており、温かい。
 アーテルは父兄のような人ではないと知っているが、厳しくも優しさをくれる人だとも知っている。
 けれども、心の内を全て語らず、そしてまだ読めず、不安になる。
 いつか裏切られることも視野に入れて信頼しているけれど──
(治ったら、また頑張らないと)
 黎夜は、眠り猫とクマのぬいぐるみを抱えて眠りに落ちる。

 アーテルは黎夜を起こさない配慮をしつつ、家事を続けていた。
(環境が大きく変わったからな。どうして今と思うが……)
 木陰 黎夜、アーテル・ウェスペル・ノクス……エージェントとして名乗るその名に慣れて気が緩んだからだろう。
 自分達の『日常』は、『つぅ』と『ハル』だけだった。
 今は『黎夜』と『アーテル』も日常の一部になりつつある。
 誓約も大きく進歩していると思うが、今は『つぅ』として休息させるべきだろう。
 とは言え──
(寒い。引越しも視野に入れるべきか)
 まだ読まれない心の内、彼は『ハル』と呼ばれる日常への変化も考慮している。

●日常茶飯事とは言え
「38度程度なら微熱です。微熱」
 朔耶・F・月臣(aa3037)は幼少に比べればだいぶ改善されているが、頑丈とは言い難い体質である。
 その為、熱に対する感覚はこういったものだ。
 が、藤原 厚(aa3037hero001)はこの感覚を「はいはい」で退けた。
「一般的には立派な高熱なんだから寝ててくれ大将」
 厚によって布団に寝かされたが、彼がお粥を作る為に台所へ姿を消すと、朔耶は布団から出た。
 意識が朦朧としている訳でもなく、多少だるい程度だ。大騒ぎするようなものでもない。
 先日の任務の報告書を仕上げておきたい。
 朔耶は、文机に向き直った。

「俺も看病慣れしちまったんだよな……」
 どこか遠い目をする厚は朔耶の為のお粥作成中。
 誓約を交わしたばかりの頃は看病に慣れておらず、料理も出来なかった。
 今はだいぶ成長したもので、鶏のささ身と卵のお粥は割と美味しく出来たのではないかと思う。
(まぁ、布団には絶対いないな)
 溜息を零し、部屋に戻れば、予想通りの展開。
 視線を移せば、文机に朔耶の背中がある。
 しっかりした体躯の自分とは異なる、華奢な背中だと厚は思う。
 まだ自分に気づいていない様子の朔耶へ、「たぁいしょ」と声と共に羽織を被せる。
「おや、見つかりました」
「起きてんのはこの際言わんからせめて何か羽織ってくれよ。悪化する」
「大袈裟ですね」
 朔耶は心配性だと笑いながらも羽織の配慮に礼を言う。
「そもそもこの時期にインフルエンザを拾わず、この程度で済んでいる時点で軽い奇跡ですよ? 少し眩暈がするだけじゃないですか」
 奇跡なら風邪も貰わないと思う。
 厚は自分の感覚は変じゃないと思いながらも、お粥を文机へ置いた。
「割と上手くいったから冷めないうちにどうぞ。ってな」
「いただきましょう」
 あまり食欲はなかったが、折角厚が作ってくれたのだからと朔耶は小鉢とレンゲを手に取った。
 最初は人が食べるようなものではない、暗黒物質を差し出されたのが嘘であるかのようにお粥の姿をしている。
「腕を上げましたね」
 そう微笑むと、厚は炭と化したお粥や砂糖と塩を間違えた過去を振り返りながら、「流石に慣れた」と軽く肩を竦める。
 複雑なことをしなければ失敗しなくなったのは、朔耶がそれだけ寝込んでいるからで、それを考えると複雑なのだが。
「流石に少し疲れました」
 小鉢一杯が限度だったらしく、朔耶は布団へ戻ろうと立ち上がる。
 と、朔耶がよろめき、厚は咄嗟に差し出した腕に抱き留めた。
「案の定悪化してるし」
 呆れたように言う厚の腕は揺らがない。
 朔耶は厚に支えて貰いながら、布団の中へ潜った。
(昔、父が見ていた時代劇にこんな場面が……)
 父は帰化する前はドイツ人だったが、日本を愛しており、時代劇も見ていた。
「厚、いつもすみませんね」
「そいつぁ言わない約束だろ。ってか? 時代劇ごっこもいいがそろそろ休んでくれや」
 朔耶が思い出して言った言葉に付き合った厚は朔耶を寝かしつけた。

 目覚めたパートナーが、元気になっていますように。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    朔耶・F・月臣aa3037

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • エージェント
    レヴィ・クロフォードaa0442
    人間|24才|男性|命中
  • うーまーいーぞー!!
    リオ・メイフィールドaa0442hero001
    英雄|14才|?|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • エージェント
    オリヴィア アップルガースaa0649
    機械|17才|女性|命中
  • エージェント
    袴田 雪絵aa0649hero001
    英雄|19才|女性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • エージェント
    棚橋 桜aa2464
    人間|20才|女性|生命
  • エージェント
    ニコラス スミスaa2464hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • エージェント
    朔耶・F・月臣aa3037
    人間|27才|男性|命中
  • エージェント
    藤原 厚aa3037hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
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