本部

掻き消える太陽、沈みゆく月

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~12人
英雄
7人 / 0~12人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2016/02/18 18:09

掲示板

オープニング

 『字名 明日葉』は口の中にたまった血を吐きだした。息を吸いこむたびに肺が痛む。おそらくは肋骨が折れ。それが肺を傷つけているのだろう。これではまともに戦えない。
 明日葉は自分の無力を呪った。
「『エンヴァーソン』聞こえる?」
 彼女は自分の英雄に語りかける。英雄も痛覚が共有されているせいか、霊力の枯渇故か、低く唸って反応を返す。
―― 明日葉どうする、もう逃げ続けるのにも限界が
「そうね、お姉さまももう戦えない。私ももうお姉さまをかばって逃げられるわけじゃない」
明日葉は傍らで呻く『アリエ・トールソー』を見る彼女は両腕に深い傷をおっており、失血が心配だった、顔色が蒼い。その意識はなく、共鳴中の彼女の英雄『アルメリア』が今は彼女の大便をしていた。
「月と太陽がきいてあきれるわね。まんまと敵の策にはまったわけだ」
「いえ、まだよ、まだやれるわ」
「お姉さま……」
 明日葉は意識を取り戻した明日葉を抱き起す。
「このような事態を想定してバックアップ部隊の編成を始めているはずよ、彼らが来てくれれば、生きて帰ることはできる」

「それはどうかな」

 その時、二人を上から圧迫するような、さながら急に体に重力がかかるような、高密度の霊力が二人を襲った。
 ケントゥリオ級愚神。アルマレグナス。
 翼をもち、迷宮すべてを見渡す十の目を持つ魔人型の愚神。
 そんな彼が、2人を見下ろしていた。
「なかなか、探したぞ、とでも言うと思ったのか? わが迷宮はわが胃袋」
 瞬時に近づきアルマは明日葉の喉を両手で締め上げる。
「ぐ、ああああああ」
「お前たちで最後。いや違うな、鼠だ」
 アルマは明日葉を投げ捨て、迷宮の中に意識を向ける。
「面白い、助けに来たのか、いいだろう。だがこの迷宮突破する前にこいつらが死ぬのは明らか。そうさなぁ」  
 アルマはくつくつと笑いながら思案を巡らせる。
 その間に二人は体制を立て直し。武器を構えた。
「いいだろう、この迷宮を組み替え、5フロアを超えることができればこの間に届くようにしておこう。死ぬか死なないかぎりぎりの線だろう」
「その間死ぬなよ、お前たちが死んでしまえば、あいつらが来た意味は何もなくなるのだからな!」


* 戦闘風景

 明日葉はその双剣を猛烈な勢いで叩きつける。振りかぶった双剣を爆発させて加速度と熱と、鋭い切れ味の三重苦でせめててるのが基本スタイルだが、アルマは涼しい顔をしていた。
 すべてを素手で受け止め。にたりと笑って衝撃波を放つ、明日葉は空高く舞い上がった。
 それにスイッチするようにアリエが槍で突貫、そのチャージは疾風と言っても過言ではなく、それをよけられるものなどいなかった。しかし。
 アルマは首をひねって回避する、真空波で頬が切れたがそれも気にかけず笑う、彼の反撃だ。
 衝撃波でアリエを飛ばし。空中をまった明日葉に追従。地面と並走するように明日葉を蹴り飛ばし、ダンジョンの壁に激突させた。
「明日葉!」
 一瞬アリエの意識が明日葉にむいた、その隙を逃さずアルマは接近。両手の魔力球をらせん状にねじ上げ、合成、人を覆うほどの火球としてそれを少女に叩きつけた。
「あああああ!」
「お姉さま!」
 その火炎を払い、アリエは槍を杖代わりに立ち上がる。
「大丈夫よ、明日葉、私は、それよりあなたは大丈夫?」
「お姉さま、もうやめて、私を守るような戦い方は」
 その時明日葉を柔らかな歌が包んだ、その傷が癒えていく。
「お姉さま……」
 アリエは笑みを作り、そして明日葉を見据えた。
「もう、だれも『目の前で誰も死なせない』私はそう、誓ったのよ」
 そうよね、アルメリア。
 そうアリエは英雄に語りかけた。
「だったら!」
 明日葉が獄炎にも似た火焔を巻き上げ、アルマと対峙する。
「『人を導く、道を切り開く人物になる』ここで私は終わらない」
「いいぞ、そうやって徐々に徐々に疲弊し、そして絶望してくれ」
「いくぞ! アルマレグナス!」


* 救出対象個人情報

『字名 明日葉』 
 契約内容は『人を導く、道を切り開く人物になる』
 燃えるような赤い髪はウエーブし腰まで届く。女性にしては背が高く欧米の血のせいか体格もいい。ただし内面は少女的で無知的、無鉄砲。 

『アリエ・トールソー』
 銀糸の髪を持つロシア系の女性。   
 穏やかな性格で、共鳴していなければ虚弱。日の下に出ているだけで三時間で動けなくなる。
 常に敬語が主体で、人見知りはしないが人にあまり素をさらさない。
 誓約は『目の前で誰も死なせない』


* 愚神の戦闘力について。

ケントゥリオ級愚神。アルマレグナス
 戦闘能力も高いのですが、その戦闘スタイルは嫌らしいです。ドS、殺さずに痛み苦しむ姿を見るのが好き。
 翼には穴が開き今はまともに空も飛べず、四本あった角の一本が折れている、霊力も相当消耗しているが、弱ってもケントゥリオ級。彼と一戦交えるかはよく考えていただきたい。 
 複数の情報を処理することが得意ではない。監視する部屋が増えるほど思考能力と命中、回避精度に影響が出る。
 彼はこのドロップゾーンから出ることはできない、少なくとも今は

* 作戦会議

 アンドレイは君たちに険しい表情で語りかける。
「愚神討伐に向かった討伐チームが壊滅した、その中のエース的立場のリンカー二人が生き残っているが、それを救出に行くために君たちが編成された」
 本来であればもっと人数を集めたかったのだが、これが限界だ、そうアンドレイは力なく項垂れる。
「ドロップゾーンは一本道だが、フロアが五個生成されており、そのフロアは罠が仕掛けられているか従魔が守っている。」
 それをいち早く突破し、駆けつけなければふたりは死んでしまうだろう。
 ただ、愚神からはリンカーたちがみえており、説得したり気を引いたりして彼女たちへの注意をそらせれば時間が稼げるかもしれない。
 さらに音声は彼女たちのいるフロアにも届く用だ、彼女たちを鼓舞すること、指示することで生存率をあげられるかもしれない。
「要点は三つ。
 いかに愚神の元にたどり着き。
 いかに彼女たちを救出し
 いかに元来た道を安全に帰るか」

「最後に言っておく、救いに行ったお前たちが死んでしまっても元も子もない。頼むおれと約束してくれ。生きて帰ってくると」

 そうアンドレイは締めくくった。
 

解説


目標 保護対象の救出。もしくは愚神の撃破

以下PC情報

迷路
 迷路の5フロアはランダム生成。トラップ部屋か従魔部屋の二種類
 トラップ部屋は解除できなかった場合行きと帰りでトラップが発動する。
 従魔部屋は従魔を倒してしまえばただの部屋なので帰る時には何もない。
 ただし、従魔部屋は必ず一度は生成される。
 一つのフロアは、大体のPCが一ラウンドでかけぬけられるほどの大きさであり、狭い。部屋の中には何もない。正方形で天井がない箱庭である。

 現在愚神がいるフロアは広く、トラップ部屋の五倍の大きさがあり障害物などは何もない。
 最短でついた場合、部屋の中央で二人が戦闘を繰り広げているが。
 二人の消耗は激しく今にも倒れそうである。たいしてアルマレグナスは余裕を残している。
 部屋にリンカーが到着したのを見るとすかさず二人のNPCに引導を渡そうとするので注意。

 
トラップ部屋
・毒ガストラップ 可燃性。吸い込むと著しくステータスが堕ち機動力も下がる、ラウンドの最後にダメージを受ける。
・落石トラップ 大量の石が降り注ぐ、ダメージ判定が複数回発生。
・落とし穴トラップ 一度発動すると解除される。従魔がひしめき合う闇に落される。壁を伝って這い上がったり、堕ちることを防いだりすることは容易だが。
 部屋の床全体が堕ちるため。壁を伝って、向う側の通路に行かないといけない。

従魔部屋 注意。従魔一体の注意を引くためには一人のリンカーが必要です。
・ハウンドドックが3体 大型犬のような従魔が出現。敏捷命中回避に秀でる。
・ゴーレムが1体    物理攻撃と魔法物理防御力に秀でる。体力が高く三メートルの巨体
・メイジが2体      魔攻 魔防に秀でる。一番攻撃力が高いが撃たれ弱い

ケントゥリオ級愚神。アルマレグナス
・杖による魔法攻撃、攻撃力が高く広範囲を爆破できるが連発できない
・拳による連続攻撃。きわめて高い命中精度を誇る近接技
 

リプレイ

「ああっ」
「きゃあっ」
 圧倒的なアルマの力の前に、アリエは崩れ落ちる、明日葉も満身創痍でアルマをにらむのがやっとだった。
 二人は絶望の色を隠せない、もし彼が手加減していなければ、もう何度死んでいるか分からない。
「この程度か、つまらん」
「く、ここまでなの?」
 明日葉は歯噛みする。もう抵抗する気力はない、逃げることもできない。
 そうアリエをみて思った。彼女の怪我がひどかったからだ。明日葉をかばい続けたがための傷だった。
「明日葉、ごめんなさい、私あなたを守れなかった」
「……いえ、それを言うのは私の方よ、お姉さま。ついに来てしまったわね」
 死が二人を別つときが。口に出さずとも伝わる。その言葉。
 そう二人が全てをあきらめ、瞼を下した時。
 突如として、声が聞こえた。
 幼い、したったらずな声音。けれどその言葉には芯が通り毅然として聞こえる。
 そんな声が。

「あきらめないでください!」

 アルマレグナスはすぐさま意識をダンジョンの前に向ける。
 そこには七組のリンカーがいた。
「死んで良いって誰が言った?」
『 ガルー・A・A(aa0076hero001)』倒れ伏した二人へと問いかける。
その言葉を『紫 征四郎(aa0076)』が継ぐ。
「H.O.P.E.は征四郎たちはまだアスハたちのこと、あきらめていないです!」
 アリエの瞳から涙があふれた。
 生きられる希望が芽生えた。それがうれしくて。
「生きている者には無限の可能性がある。じゃから死ぬのは許さん。わらわ達が辿り着くまで、死ぬ気で生き延びよ」
『カグヤ・アトラクア(aa0535)』が鼓舞する、その言葉はダンジョン内に凛と響き渡った。そしてカグヤの言葉を相棒の『クー・ナンナ(aa0535hero001)』が継ぐ。
「倒すことよりも逃げることを重視して。キミ達が死ねばもっと多くの悲劇が生まれるから、可能な限り生存を」
「必ず助けますから、だからなんとか、耐えてください!」
「あははははは!」
 その四人の言葉にアルマは手を叩いて笑い転げた。
「いいぞ飽きてきたところだったんだ、特注の贄が、ネギしょってやってきてくれたわけだな」
「そう言っていられんのは、今のうちだ」
 憎々しげにガルーがつぶやく。
「準備はいいな」
 その四人の後ろで『雁間 恭一(aa1168) 』は最終準備を整えていた。リンクレートを高め、共鳴時の戦闘に備える。その隣で救助者の写真を見ながら『マリオン(aa1168hero001)』は言った。
「中々美形では無いか……迷宮の王の元から囚われの姫君を救い出す。戦士に相応しい任務だ」
「のんびりしている場合じゃねぇぞ。時間が無え! 大分こいつについちゃ情報がある見てえだが。だから絶望的だって分かる。期待するなよ」
 期待するな、その意味は口に出さずともその場の全員が理解している。
「時間は作れば良い。それにこの手の愚か者は意外と隙が多いものだ」
「確かにお前に似た性格みたいだしな。スケベ根性を出して自滅しそうだ」
 いつもと同じやり取り、だがその胸の内は複雑だ。
 自分たちがしくじれば姫君二人は死ぬ、それどころか自分たちも死ぬ未来は十分に考えられるのだ。
 相手はケントゥリオ級、本来七人で相手にできる敵ではない。
「行きはよいよい帰りは怖い、だね」
 そう言いながらも自分の装備を確認する『木霊・C・リュカ(aa0068)』消火器とスマートフォン。そして通信機。策は講じた。あとはうまくいくのを祈るだけ。
「……行きも、中々厳しい道のりだが、な」
『 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)』は冷静に状況の分析、想定を行う。生存率を少しでも上げるために。
 リンク。
 そして全員が共鳴を開始した。
「行きましょう」
『石井 菊次郎(aa0866) 』は『テミス(aa0866hero001)』との共鳴を済ませ、そしてこれから挑むダンジョンを見た。この先にいる迷宮の主、それが自分の望む情報を持っていることを願って。
 全員が駆けだした。足並みを乱さずに、慎重に、しかし最高速度は保ったまま、フロア1に突入する。
「報告ではトラップが発動するようでしたが」
 菊次郎はテミスに問いかける。その問いの答えとして『ギシャ(aa3141) 』から突如通信が入った。
「最初の二つはトラップルームだよ」、
『どらごん(aa3141hero001)』と共鳴したギシャは持ち前の身軽さを武器に先行し偵察に出ていた。
「一つが落石、こっちは解除したけど、二つ目の毒ガスの方は解除できなかった」
 二つ目のフロアを目前にし、その報告を受けた『御神 恭也(aa0127)』は。
「問題ない」
 そうつぶやいて、その部屋に火のついたマッチを放り込んだ。
 全員が次に起こることを察し。壁に張り付き爆風を避けた
 直後轟音、可燃性の毒ガスは全て燃え尽きる。
――恭也、無茶のし過ぎだよ!
『伊邪那美(aa0127hero001)』が抗議の声を上げた。下手をしたら巻き込まれている、壁が倒壊していれば深手を負っていたはずだ。賢い判断とは言えなかった。
「誰かがやらなくてはいけない事だ。ガスが充満しないうちに行くぞ」
 その声に全員が続く。
――説明してよ……
 不服そうな伊邪那美に、観念したかのように恭也は言葉を投げた。
「安全を考慮して時間を掛ければ二人は死ぬ、二人を助ける為に時間を惜しめば二人を連れ出す戦力が無くなるかも知れん」
「だからってあんなことしなくても」
「だから最低限の安全を確保して可能な限り時間のロスを無くすしかない」
 どちらを重視しても、ハッピーエンドにはならない。贅沢は言っていられない状況なのだ、それならば多少のリスクは追うしかない、そう恭也は理解していた。
――こんな罠で時間稼ぎする愚神なんざ、ケントゥリオ級でも高が知れているな。どうせ明日葉さんらと俺様達が合流したら勝てないから。今頃必死こいて先に倒そうとしているんだぜ
 ガルーが叫んだ。
――そうやって自分が有利な状態じゃないと戦えないんだね。
 伊邪那美が続く。
「なに?」
 アルマレグナスの声音が変わる。それに臆することなく伊邪那美は言葉を続けた。
――それか、あ~、もしかして。自分よりも強い相手にやられて自信喪失してるから二人を嬲って自分を慰めてるんだ
「ほう、言うな、お前。いいんだぞ、お前たちから血祭りにし、この女どもの前に吊り上げて。苦しむ姿を永遠と見せても」
――じゃあそうしなよ、二人への攻撃を止めてボク達の到着を待ったら?
それとも、鼠扱いするボク達が怖い?焦らせないと、もしかしたらやられちゃうって心配かな?
「いいだろう! 小娘。お前の望みどおりにしてやろう、その顔がゆっくりと苦痛と恐怖に浸食されるのを見てやろう。それをこの女たちに見せる」
 アルマの笑い声がダンジョンに響く。
――ボク、あいつの事嫌い。
 伊邪那美が言う、その口調には普段の穏やかさも、無邪気さもなく。ただただ鋭い嫌悪感が滲んでいた。
「まぁ大口はせめて、次のフロアにいる魔術師を倒してからにしてもらおうか」
「気をつけて、こいつら強い」
 ギシャの肉声がフロア3に響く。見ればフロア3でギシャは二体のメイジからの攻撃を避け続けていた。
 敵のカバーがしつこく先に進めないのだ。
「手はず通りにやってくれ!」
 恭一が号令を出す。
「本当ににいいんですね?」
 征四郎の言葉に恭一はうなづく。
 全員がフロアに躍り出ると、不意を突く形で二体のメイジに攻撃、爆炎と衝撃でメイジは一瞬怯み後ろへさっがった。
「いまだ!」
 そして次の瞬間、メイジ達が見たのは次のフロアへ走り去る一向、その背を恭一は眺めメイジ達を振り返る。
―― くく……ここは余に任せ、姫君の救助に向かわれよ! くれぐれも余の活躍を伝えるのだぞ
「おい、待て!それは貧乏くじだぞ!」
 その脇をメイジは駆け抜けようとする、しかし
――どこを見ている。お前たちの相手は余が相手をする、みてわからんのか?
 自身満々のマリオンに、どこか余裕のある恭一の雰囲気。それにメイジ達は気圧される。走り去ったもの達を追うより、こいつを倒したほうがいい、そう直感的に思わせた。
 だがそう思わせているだけで、二体の従魔を相手にすることは簡単ではないと、恭一もマリオンも理解していた。ケントゥリオ級愚神が連れる従魔が弱いわけがないことは経験からわかっていた。
「せいぜい早めに救出頼んだぜ」
 そして一行は四つ目のフロアに出る、中央には岩が山のように無造作に積み上げられていた。
「メイジを一人で相手にするのか? むりだな、お前たちも残酷なことをする」
 アルマの声が響く。同時に二人の悲鳴も。
「だが、そいつは突破できないだろう、私の最高傑作だ」
 アルマレグナスは迷宮をある程度操ることができる。そこでアルマはフロアの壁に明日葉たちの姿を投影する。
 二人は満身創痍だった。武器を杖に、立つのがやっと。アッパーのように繰り出されたアルマの拳が、明日葉の剣をはじきあげた。
「負けるか! お姉さまだけでも」
「聞こえたか? お前たちが来たおかげで、諦められなくなった、生きることを。苦しみが増えた。苦しまなければいけなくなった。はははは」
「負けないでください……どうか、どうか、気持ちだけでも。諦めないで。私達は諦めない、まだ明日は臨めるんですから!」
 征四郎が叫ぶ。直後、岩山が形を変え、粗末な人間型のゴーレムに姿を変える。
「俺が行く。お前たちは全員でいけ」
 恭也が一歩前に出た。
「無茶です」
 征四郎が止めに入る。しかし
「早くいけ、二人は今にも倒れそうだ」
 そう言うや否や大剣片手に恭也は突貫する、ゴーレムの攻撃をよけながら攻撃を浴びせていく。
「早くいけ!」
「この先はまだ見てない。何があるか分からないよ!」
 ギシャが先導する。全員が五つ目のフロアに入った。しかし、何もない、トラップも、従魔も。
 その時、ギシャが気が付く。入ってすぐに発動してもうまみがないトラップと言えば。
「罠だ! 落とし穴だよ」
「くっ」
 菊次郎は歯噛みする。何やら機械音が壁の向こうから聞こえだしたのだ。
 その瞬間、カグヤは加速した。ライブスラスターをの出力を一杯にあげ。半分飛ぶように出口へ突貫する。
 その時、部屋全体の床が開く。
「征四郎!」
 カグヤが振り返る。征四郎、オリヴィエ、菊次郎の三人はゆっくりと開いていく床の上を全速力でかけていた。
 間に合わない、誰もが思った。あそこに落ちて無数の従魔の餌食になる。そんな未来が征四郎の脳裏によぎる、しかし。
――恐れて減速するな! 少しでもスピードを緩めるんじゃねぇぞ
 ガルーが言った。征四郎にだけ伝わるように脳内で。
「恐れて足を止めないこと」
 征四郎はつぶやく。それは約束。
――落とし穴だけじゃない、あの扉の先の愚神を恐れるな
「恐れて足を止めないこと」
 それはあの日かわした誓約。
「恐れて、足を!」
 向うでカグヤが手を伸ばしている。それをみて征四郎は自分より後方にいる二人を振り返った。
「オリヴィエ! 手を取って!」
「征四郎!」
「菊次郎も!」

 手がつながった、全員が一本の綱のようになりぶら下がっている、堕ちたものは誰もいない。

 そして落下は免れた。少しでもスピードを緩めていたら、三人はここで脱落していただろう。
「……恐くなんて無い。絶望なんて、して堪るものですか!」
 そう征四郎は扉に向き直る、今まで見てきた扉の中でもひときわ豪奢な扉、その先に奴がいる。
「帰り道の安全はギシャにまかせて、二人をお願いね」
 ギシャは四人のみつめると。まずは落とし穴の解除にかかる。
 そして残った四人はうなづきあうと。扉を押しあけた。
 そこでリンカーたちを待っていた光景は。
 床に伏せって動かない明日葉と。喉を締め上げられ、宙に吊るされているアリエの姿だった。

「遅かったな」
 遅かった、その言葉の真意を測りかねた。
 違う、信じたくないのだ、持てる限りの全力で、全速力で、ここにたどり着いた。
 なのに、現実は非情だというのか

「ひとり、死んだぞ?」

「このっ」
 全員の血が沸騰した。
 その瞬間、オリヴィエは目にも留まらないスピードで銃を抜き、銃弾を三発放つ。それは吸い込まれるようにアルマの顔面を穿った。
 反動でアリエを落としながらもアルマは言う。
「戯れがすぎたか」
「そこを、どけっ!」
 次いでカグヤが突貫。全速力でアルマと明日葉の間に入る。その手には大型の盾が握られていた。
「よくがんばったアリエ」
 敵を見据えながらカグヤは語りかける。
「かはっ、明日葉が! 明日葉が!」
 すがるアリエ。その頬を優しくカグヤが撫でた。
「わらわ達が来たのじゃぞ、大丈夫じゃ、あとは任せるのじゃ」
「どうかな?」 
 にんまりと笑ったアルマは両手に灯る火球を盾にぶつける。
「っ……」
 その攻撃を何とか防ぐカグヤ、範囲が調整されていて、カグヤを中心に攻撃するわけではなく、カグヤも巻き込むように攻撃を放っていた。だから。
「爆炎で近づけません」
 征四郎を含めそのほかのメンバーが全く近寄れない。
 これでは結局カグヤが倒れるだけの結末で終わってしまう。
 その時だった、今まで状況を静観していた菊次郎が口を開く。
「お待ちください偉大な迷宮の主よ、それは御身の営為を無にするが行為です……つまり、楽しめなくなります」
「なに?」
 アルマは、炎を両手からではなく、片手で放つように攻撃方法を変えた。
「何故ならそのなさり方では怒りは残りますが、苦しみは消え失せてしまいます。
 重荷の無くなった我らは怒りを御身にぶつけるか、全てを諦めて身軽に引き返すか? 
 これだけの趣向を用意されたのにそれでは余りに”上り”が少な過ぎるとは思われませんか?」
「ほう、お前はわきまえているようだな、身分と、そして俺が、私がどんな存在か……。いいだろう、そこまで言うなら、何かあるんだろう? 俺を出し抜くための秘策が」
「ああ、その前に。迷宮の主よ。一つお尋ねしたいことがございます」
「なんだ?」
「この瞳を持つ愚神に心当たりは?」
 そう菊次郎はサングラスをずらして見せる。
「知らんな、これから出会う可能性もあるが、その時がそいつの命日だろうな」
 二人は会話を続ける、そんな中、カグヤは急速に疲弊していく、その中でも二人の治療はやめなかった。
「やめてください、そんなことをしたらあなたが死んでしまう、私たちは置いて、引き返してください、アルマレグナスは、倒せない」
「やめるのじゃ。生きることをあきらめた人間はどうあっても救えん。お主らに諦められたら、誰も救えんのじゃ、じゃから」
 カグヤの盾を持つ手が震える、爆炎を防いでいても熱がカグヤの手を焦がしていた。左腕の感覚がなくなりつつある。
「じゃから、希望を捨てるな!」
 アリエは目を見開いた。
「この部屋で二人を我々に引き渡して頂けるなら帰路、御身が楽しめるように努力しましょう。まず一つ毎の部屋に一人の犠牲を……」
 菊次郎は交渉を続ける。何か突破口はないか探しながら。その間に征四郎とオリヴィエは遠距離から攻撃を続ける、しかしそのダメージが蓄積している様子はない。
「だめだ、つまらないくだらないおしゃべりを続けるなら、こいつを殺すぞ」
 アルマはうっとおしそうに片腕をふる。
「ではこのような提案はどうでしょう?」
「我々は脱出するまで二人の治療若しくは救助隊への治療は行わないというのはどうでしょう」
「だめだ、つまらん」
「あなたが帰路の何れかの部屋で待ち受けるのを邪魔はしない……」
「だめだ、そもそもお前たちが邪魔できるとは思えない」
「私がこの部屋に残ります、一分程度」

「…………ん?」

 その時アルマが攻撃を止めた。
「俺と一対一? おまえ、俺が怖くないのか」
 菊次郎は黙っている。
 代わりにその場にいる全員が戦慄する。ケントゥリオ級とサシ。それは死の同義語ではないか
「撤回してください、菊次郎!」
「そうだ、無謀すぎる」
 全員が無謀さを咎めた、しかし菊次郎は言葉を覆さない。菊次郎は淡々と装備を変更した。
「はははいいだろう何秒もつかな?」
 突如壁がせり上がり、アルマと菊次郎、他の者を分断する。
「く、菊次郎、持ちこたえてくれ」
 カグヤは祈る。壁の向こうの風景は見えない、ただすぐに爆炎が放たれる音と、そして菊次郎の攻撃音が鳴り響くことになる。
「菊次郎 !」
 征四郎は壁に寄り掛かる、しかし。
「明日葉! ああ、どうしよう、明日葉、息をしていません!」
 そんな悲痛な声が征四郎の耳に入る。
 気が動転しているのだろう、アリエはぱらぱらと涙を流しながら。カグヤに縋り付いている。
 征四郎はすぐに自分がやるべきことに気が付いた。
「あやつが時間を稼いでいる間に、せめて歩けるようになるまで回復させるぞ」
 カグヤが言う、征四郎はそれに習い。明日葉の回復に全力を注いだ。
「私達がいる限り、死なせはしませんから……っ!」
「くっ」
 その間オリヴィエは周囲を警戒しているしかなかった。自分には何もできない歯がゆさが胸を衝く。
――せめて、アルマが飛んでくれれば
 リュカが言った。狙撃手はその時を虎視眈々と待つ。
 壁の向こうの戦いは激化していた。開始三度の攻撃の応酬で菊次郎が対抗は不可能と判断、逃げに徹している。
「どうした、お前の威勢の良さを気に行ったんだがなぁ!」
 アルマの俊敏性は目を見張るものがあり、菊次郎はすぐに壁際に追い詰められる。
 アルマの両の拳が唸りを上げ菊次郎に迫る。
 これで終わりか、そうあきらめにも似た思いを抱いた次の瞬間。
 突如フロアに人数の雄たけびを上げる声が響い。
「なに?」
 驚き、狂った照準は壁を穿ち外れる。
「援軍だと?」
 アルマは首をかしげる、声はするだが、迷宮内には誰もいない。だが大勢の靴音、話声。そして武器を取回す音、様々な音がアルマの集中をかき乱す。
――おそらく、少し時間を稼げるだけだけど
 これはリュカの作戦だった。アルマを混乱させるために迷宮内にスマートフォンを設置した。
「く、うるさい」
 だがそれだけで終わらなかった。一緒になって響いたのは。ギシャの歌声。
 大声で気持ちよさそうな。歌がアルマの脳内処理の邪魔をする。
「ぐあああああ! こうなれば回路をせつだんして」
「明日葉!」
 その時、たまたまアリエの声をアルマはひろった。
「ああ! よかった明日葉」
「お姉さま、くるしい……」
 目覚めたのだ、明日葉が、二人のメディックのおかげで一命を取り留めた。
「目覚めたばかりで悪いが、走れるかの?」
 そうカグヤがを手を伸ばす。
「はい!」
「く! 目覚める前に仕留めるはずだったものを」
 アルマは初めてその余裕をくずした。
 そしてその翼を大きく広げ飛んだ。アルマは壁を飛び越え、そしてアリエと明日葉を狙って爆炎を放とうと構えた。
「おや、ルールを破るのですか?」
 菊次郎は腹部を抑え問いかける。
「満身創痍のお前ではつまらなくてな」
「ルールは守ってなんぼだろう、アルマレグナス!」
 その瞬間だった。オリヴィエの放った魔弾が、アルマの顔面を穿った。
「あとはまかせたぞ恭也」
 そして、いつの間にか待機していた恭也が大剣をひらめかせ、壁を走る。そして、堕ちてくるアルマレグナスに。
――これでも食らえ!
 電光石火の一撃を加える。
「この!」
 アルマはすぐさま体制を立て直しアリエに肉薄、その拳でもって吹き飛ばそうとした、しかし。
 征四郎が間に入る、征四郎が構えた盾の表面には霊力で作られた鏡面。
 ため込まれたエネルギーが、今愚神へと返る。
「ぐお!」
「あなたの力を見縊ったりしてないのです。だから、だからこそ!」
その隙を狙って菊次郎は黒の猟兵を構える。
――思い上がりを正してやれ。菊次郎。
「ええ、わかっています」
 テミスの囁きは幻惑の蝶となり、そしてアルマをこの世ではない世界にいざなう。
「ぐ、ぐおおおおおおおおおおあああああああああ!」
「いまだ! 走れ!」
 オリヴィエが言うと。
「落とし穴は解除してあるよ! 今は毒ガストラップを……」
 ギシャから通信が入る、その声は弱弱しかった。
「ギシャ、お主」
 カグヤはそれがなぜかすぐに思い当たる、しかし今はそれを考えている暇はなかった。カグヤは明日葉とアリエの手を取り駆け出す。
――彼奴をぶん殴りたい……
 殴り足りないと伊邪那美は言う。
「同意するが、これ以上は無理だ。今は諦めろ。俺達の勝手で二人の命を危険に晒す訳にはいかん」
 そう駆け出す恭也にオリヴィエが問いかけた。
「ゴーレムはどうした」
「削ったが恭一がきてな、まかせろと言われたので、任せた」
 つまり恭一は今従魔三体の注意を引いていることになる、彼も危ない橋を渡っているようだった。
 そして一行はフロア5から4、3へと走る。
 そこには恭一が立っていた。目の前には崩れ去った三体の従魔。
 意外と一人でも倒せたことに一番驚いているのは本人のようだった。
「恭一、何をぼやっとしておる。走るぞ!」
 その声に恭一は反応し振り返る。満身創痍の一行だったがきちんと二人の姫君を救出していた、そのことにマリオンは安堵する。
――おお、美しい。
「本当にあれやるのか、かっこつけたいだけだろ?」
――それが重要なのではないか
「まったく今回だけだぞ、もうこんな無茶はしないからな」
 そのやり取りだけでリュカは二人が何をしたいのか把握したらしく、通信機を部屋の隅にばげてもらった、二人のサポートのためだ。 
 恭一は駆け抜ける仲間たちへの選別としてリンクバリアでパーティを覆う。
そして、直後壁をぶち破って突入してきた愚神を見据えた。
『どこを見てる、ウスノロ』
 突如背後から聞こえたオリヴィエの声に、アルマレグナスは反応する。
「な?」
 その横っ面めがけてインサニアで一撃を放つ。
「ぐあ!」
「そこでねてろ!」
 恭一は命中したのを確認すると、足早にかけていく、そしてフロア2のトラップはすでにギシャが解除していた。
「毒ガスも解除できたよ」
 神経に作用する毒ガスが充満する部屋でトラップ解除作業は、骨が折れただろう。徐々に震えが大きくなる指先での精密な作業に心が折れそうになっただろう、だがギシャはやり遂げた、その任務を立派に果たして見せた。
 その時、またしても壁が破壊され愚神が顔を出す。
 しかし。それも織り込み済み。
 リュカの設置していた消火器が爆発し。視界を覆う。その隙に全員が脱出した。
「生きて帰れた」
 全員が共鳴を解く。膝をつき、息を荒げ。迷宮の入り口を見る、その奥は暗闇が満ちており見通せない。
「覚えておくと良いよ。ボクはねお前みたいに命を嬲る真似をする奴が許せないんだ」
 それでも伊邪那美は勇猛に迷宮に向けて吠える。
 悪を断罪できない、その苦しみを全員が抱えていたが、しかし。
 明日葉と、アリエは生きている。今にも倒れそうだが、生きている。
 今はそれだけでいいように思えた。
「俺達に訂正だな。負け犬の遠吠えに聞こえるだろうが、必ず貴様の息の根を止めてやる」
 恭也が同意を示した。そして、到着したH.O.P.E.の車両に皆で乗り込む。
 帰り道元気だったのはマリオンだけだった。
「おお、まさかこの異郷の地でファムファタルと出会う事になろうとは……その銀の髪をもう少しよく見せて欲しい」
「ファムファタルってなんですか?」
 そう引きつった笑みを浮かべるアリエ。そしてそれを不機嫌そうに見つめる明日葉と皆で帰還する。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
前に戻る
ページトップへ戻る