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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/02/13 16:57:47 -
フラッシュモブ関連
最終発言2016/02/14 11:57:55 -
毒条院麗佳関連
最終発言2016/02/14 11:29:52
オープニング
●帰還
日本のどこかにある海岸。
いつもは静やかな海面が唐突に渦巻き、天へと噴き上がった!
「にゃっ!?」
このシーンを目撃した唯一の存在、田中コロンさん(メス/キジトラ/2歳)のびっくりした声が、渦の巻き起こした強風に払い流され、青空の中へ消えた直後。
「ぼごぶぼべぼこはどこですわー!?」
渦をビンタで割って跳び出てきたのは、太ましすぎるボディを白銀の甲冑で包んだオバ――2週めの青春を迎えたお年頃の巨大な女性だった。
「ここはどこですわ?」
全身の毛を逆立てて硬直するコロンさんをつまみあげる甲冑巨女。
「にゃ、にゃあ」
圧倒的な戦闘力の差を悟ったコロンさん、いっしょうけんめい声を絞り出すが。
「ぬぅ、さっぱりわからねーですわ」
そっとコロンさんをリリース。巨女は海を背にして歩き出す。その足取りには、今にも砂浜を地盤ごと踏み抜いてしまいそうな重さと力があった。
『何事もうまくゆかぬものじゃのぅ』
巨女の内から、艶めかしいアルトボイスが漏れ出した。
「こうしてまた陸地にたどりつけただけでもよし、ですわ」
巨女――毒条院麗佳は、自分と共鳴し、その内に在るアルトボイスの主「宮様」へ言葉を返した。
1月下旬、カカオ撲滅のためアフリカ行きを目論んだ麗佳は、ライヴスリンカーたちの妨害と気づかいによって当初の「貨物扱いでアフリカ便に搭乗」案を破棄。自らの足での海底踏破を試みた。
サメの群れと戦い、海溝にはまり、巨大イカと戦い、海底火山にぶっとばされ、メルルーサ(白身魚フライの原料)をおいしくいただき、押し寄せる潮流に抗い、謎生物とも戦い、ついにたどりついた大陸でもまた戦い抜いた。
「南アフリカのくせに密林でしたわねー」
『豆が育つには肥沃な土が必要なのじゃろうて』
「それにしてもあの訛りはひどかったですわ」
『日本にも「い」と「え」がひっくり返る地域があるからの。「色エンピツ」などと言わせた日にはもう……』
「そんなんシモの人間(しょ)しか言わねてば、ですわ」
南アフリカ(現地の人は「南アメリカ」と連呼していたが)の密林を舞台に、麗佳は褐色の肌をした人々をいじめる謎の軍服集団や、沿岸で悪さを働く海賊どもを退治した。救われた人々は彼女に感謝し、労を惜しまず協力してくれたのだが。
『カカオの撲滅は成らんかったのう』
日本ではガーナなどのアフリカ産カカオが有名だが、そもそもの原産地は南アメリカだ。実際、麗佳たちはカカオの栽培地にたどりついたのだが……。
「カカオはともかく、カカオ売って暮らす人々を苦い目にはあわせられませんわ」
『うむ。色恋友情憎んで人を憎まずじゃからな』
意外に良識的なふたりなんである。
『しかしながら、南アフリカのひよこ豆とピラニアはなかなかであったわ』
「ピンガとかいうお酒もですわ。また訪れたいものですわね南アフリカ」
これだけのキーワードがそろっていて正解が出てこないのもアレだが、まあ、思い込みの力はたいがいの障害をかろやかに跳び越えるもの。
『さて。ここがどこかわからんが、これからどうするかの』
「どこだろうと今からやるこたーひとつですわ!」
麗佳はぶふーと熱い鼻息を噴き、
「カッポウの愛を阻み、生まれ出ようとあがく恋を断つ。盛りし者どもめ。不愛闘(ふあいとう)! イッパぁーツ! ですわー!! 呪呪呪呪呪呪祝」
●フラッシュモブを止めないで
麗佳が呪いと祝いを垂れ流したころ。
海岸近くの公園で、ひとりの男が張り詰めた息を吐き出していた。
『総員配置完了。いつでも行ける』
スマホを揺るがす友達の声は、彼にとって運命の扉を開く鍵であり、地獄の釜のフタを開ける鬼の手でもあった。
(おちついてオレ! 勇気出してオーレっ!)
――つまらないギャグで自分をはげます彼は、今からひとりの女性に告白する。
好きなのに、彼女のまわりをうろつくだけだった日々。まわりの友達のおせっかいがなければ、ほかの誰かとくっついた彼女に半笑いで拍手を贈っていたはずだ。でも。
売れない芸人のオレだけど、このハダカ……いやいやハダカのキモチは一級品だから。ほかの誰かじゃなくて、このオレに本命チョコ、くれないか?
友達に呼び出された女性――背は高いが、綺麗よりもかわいいタイプ――が、アウトドアスポーツができるよう、芝生を敷き詰めた広場の中ほどにたどりついた。
「空は青くて 海も青くて 僕の頬も青くて」
フットサルに興じていた青年たちが、声をそろえて歌いだす。
「なぜかわかる? 僕はまだ死んでいるから」
通りすがりの女子の一群が、歌いながらステップを踏んだ。
「今日の僕は呪われた王子 生き返るため 必要なのさ」
女性の前で合流した人々が、完成度は高くないながらも練習を重ねたのだろうフォーメーションを披露。
とまどっていた女性は気がついた。これってまさか、フラッシュモブ?
「姫君の あたたかな微笑み」
歌声が高まり、主人公であるタキシード姿の芸人男が、登場のタイミングを図る――
「盛るケダモノぶっ潰せーですわっ! 愛などいらぬっ! 恋などさせぬっ! ましてやチョコなど断固喰わせぬー! 非愛の恋・断・姫ーですわーっ!!」
フラッシュモブに、異様なものが混ざっていた。
平均的なヒグマよりふたまわり以上も大きい巨体。
その丸太さながらの足が踏むかろやかなステップは、昔懐かしいボックスステップだ。
「色のない世界 死んだままさまよう日々はもう終わり」
突然の闖入者に目を奪われながらも、フラッシュモブは止まらない。参加メンバーが止まってしまえば、アホだけれども気のいい男の告白が打ち切られてしまう――!
続行だ。なにがなんでも続行。人々が覚悟を決める中、当の主役は斜め上な芸人魂を燃やしていた。
(なにあのオバサン、超ステキな超ステキステップ! オレも決めなきゃ求愛ダンス!!)
解説
●依頼
1.毒条院麗佳を撃破もしくは退散させてください。
2.フラッシュモブを成立させてあげてください。
●状況
・みなさんは「プリセンサーが、海沿いのとある公園に強力なライヴスの歪みが発生すると予測した」との報を受け、公園で待機しています。
・戦前、戦中、戦後問わずフラッシュモブに混ざれます。
・麗佳は妨害がなければ10ラウンドで状況に気づき、人々を恐怖のずんどこに叩き落とします。
・主役の芸人男は、今にも踊りながら服を脱ぎそうです(彼のほぼ唯一の持ち芸です)。
・フラッシュモブが中止された場合、依頼は失敗となります。
・芸人男の脱衣が完了した場合も依頼は失敗となります。
●地形
・広々とした「芝生」を中心に、それと隣接する「海」、海と反対側に「遊歩道」があります。
・「芝生」の縁にはベンチと街灯がまばらに配置。
・「海」は高さ5スクエアの崖で「芝生」としきられています。
・「遊歩道」は幅1スクエア、左右にサルスベリの木が植林されています。
・遊歩道の途中には鐘があり、ウェディングな音がします。
●毒条院麗佳(&宮様)
・見た感じ、非常に残念です。
・すぐエキサイトします。
・恋愛憎んで人を憎まず。
・幸せのにおいと音に敏感です。
・残念女子としてのトラウマこそが原動力。それをどう扱うかで、彼女の闘志も上下します。
●麗佳の能力
・殲滅パンチ=近接単体物理攻撃(ビンタ)。「気絶」のBSが付与されています。
・壊滅キック=呪いの光線を足の小指から放つ遠距離単体魔法攻撃。「翻弄」のBSが付与されています。
・呪いソング=呪言を垂れ流して「狼狽」のBSを与える範囲魔法攻撃です。
・絶縁ガード=目と耳をふさいで丸まることで肉体的、精神的な防御力アップ。ただしガード中はなにも見えず、なにも聞こえません。
注:BSをくらうとトラウマを呼び起こされます(内容指定がない場合、設定を元にしたねつ造トラウマが見えます)。
リプレイ
●フラッシュモブが始まった
和:まさか目の前でフラッシュモブ始まるとか……なんだありゃ?
ア:告っちゃう気じゃろ? あのタキシード
俺:こんなハデにやられたら、すごい断りづらいよねー
ド:>旧 便乗して毒条院に告白してこいよ。新聞紙でバラとか作っちゃってよwww
ア:キマシタワァ(AA略
俺:新聞紙は苦いよ?
旧:>俺 ( -_-)ノ食うな*)゚O゚)
旧:>ド それ、作戦ってことでいいんだよな?
ド:>旧 誠心誠意の作戦
「……おい」
防人 正護(aa2336)があきれた声を投げると。
公園の隅で1台のスマホを回してチャットしていた和=鹿島 和馬(aa3414)、俺=俺氏(aa3414hero001)、旧=旧 式(aa0545)、ド=ドナ・ドナ(aa0545hero001)が顔を上げた。
「口で言えよ」
「俺たちニート長かったもんで?」
守勢において希有な才ありと謳われたヒキニート和馬が、右を向いて言う。
「昔ながらのチャットのが落ち着く感じ?」
過去、「紅のニート」を自称していた式が、左を向いて言う。
まったく目を合わせないのが元ニートっぽかった。
「いやいや、面と向かってはムリじゃけど、ネットごしなら言えちゃうもんじゃよ。たとえば、愛死天流」
チャットに「ア」として参加していた正護の契約英雄、アイリス・サキモリ(aa2336hero001)が、画数の多い漢字をいそがしく宙に書きつけてみせた。
「おまえ、歳はいくつだ?」
正護に問われたアイリスは「ふふふ」とはぐらかすのみ。
その間に毒条院麗佳は、ボックスからランニングマンにステップを変え、空の一点を指差していたりしていた。
「う、やっぱり厄介な人だ。ひどいよエスティ、御園、ああいう人苦手なのに……」
仲間たちのかけあいから少し離れた場所で待機中の穂村 御園(aa1362)が、踊る麗佳からおぞましげに顔を反らした。
「すまない。本部では、毒条院麗佳のライヴスの歪みを計測することしかできなかった」
彼女にそう返すのは、全身機械化サイボーグである契約英雄ST-00342(aa1362hero001)だ。
「バレンタインデー当日に騒ぎ起こすなんて空気読めなさすぎ。御園、今日は超いそがしいのに……」
磨きあげた爪の先を、傷つけないよう注意しつつ噛み噛み、御園はフラッシュモブの中心でランニングマン・ステップを踏む麗佳をにらみつける。
「それにしてもなんだろアレ。手入れなんかしてなさそうなのにお肌ツルツル! ムカつくデ――体重コントロールできてないオバ――人よね」
STは、御園に向けたメインカメラの焦点を細かく調整していたが……やめた。
(対象物「女心」の測定は不可能と判断する)
あらためてライヴスリンカーたちが集合し、状況を整理。
「俺たちの任務は毒条院麗佳の撃破もしくは撃退だ。一般人に被害が出ないようにしないとな」
正護が苦い顔で言った。あのヴィランがまさか帰ってくるとは……。
そんな正護の最後の「な」へ、御園の甘ったるい声音がからみつく。
「御園がんばりまぁす。――でもぉ、御園ぉ、さっきから脚が……」
適切なシェイプと完璧な処理を施した脚をぷるぷる、か弱さアピール。ちなみに御園のレベルは53、ぶっちぎりで最強だ。
「御園がピンチになったら、変身して守ってくれますかぁ? しょ・う・ご、さん?」
「あ、もももちろんだ」
魂を狩りにくる御園に、おどおど逃げる正護。
ア:相方に事案発生!
ド:ありゃバックリいただかれるわ
旧:3次元怖ぇー! ぼくにじげん逝くー
和:ギャルゲもいいけど太ましやかな子ktkr! 甲冑娘もかわいいもんよねぇ
ド:>和 (つд⊂)ゴシゴシ (;゚д゚)ムスメダト?
俺:白き牝鹿こそ至高。異論は認める
S:御園から話題の焦点がずれ始めている。パートナーとしては流れを元に戻したい
「いやだから、おまえら口で言えよ」
新たにSTを加えたチャットメンバーへ、正護がツッコんだ。
その後ろでこっそり御園が舌打ちしてたりするわけだが、芸人男が服に手をかけてそわそわしだしたので打ち合わせは終了。ライヴスリンカーたちが動き出す。
●告白は突然に
「ちょっと待った!」
言いながらタキシードを脱ぎ去ろうとした芸人男の肩に手をかけ、和馬はその脱衣を手伝った。
「和馬氏、脱いだ服畳まないと、お母さんが怒るよ?」
「俺が脱いだんじゃねーし! 俺お母さんとかぜんぜん怖くねーし!」
そのデコの真ん中に、正護がチョップ。
「脱がすな着せろ」
続けて俺氏の白ローブをつまんで揺さぶり。
「怪しいから脱げ」
そして去って行った。
「わらわさー、早く彼氏んとこいっちゃいたいんじゃがー? いっちゃって、いちゃいちゃ? んー、イマイチじゃのう」
正護の代わり、居残ったアイリスがそわそわと急かす。
「オレも彼女んとこにイカなきゃ早く!」
「そこまでだ」
芸人男を制した和馬、着用している袴に指を差し込み、決め顔で。
「それ以上脱いだら俺も脱ぐ。俺の袴はローライズだぜ? どっちが先にパージできるか……わかんだろ?」
脱衣者にとって、先に脱がれることはすなわち敗北だ。
緊迫した空気が高く引き絞られ、場をキリキリと締めつける。
そして。
「なにが望みだ?」
芸人男が折れた。
「俺らはあそこの甲冑っ娘を止めにきた。フラモブ混ざってアイツをなんとかしてくっから、合図するまで待ってろ」
「俺氏も手伝うよ。安心して待ちぼうけるといいよ」
踵を返す和馬と俺氏。芸人男は斜め下から彼らへ、実にかっこよく言い放った。
「3分。それが限界だ」
……こいつ、なにを言ってやがるのでしょう?
「僕がここにいる理由 それは」
「滅殺撲滅殲滅ぅ! サツ・メツ・メツの三拍子~を お届けするですわーっ!」
完全に歌詞まで奪いとる麗佳。フラッシュモブ参加者はもうくじけそうだ。そこへ。
「かーらーのぉっ!?」
フラッシュモブに割り込んだアイリス。人々の「君に伝えるため」の歌詞に合わせ、右腕を上から下へ、左腕を横から差し込んで十字架を表わす「ロザリオ」を決めて。
「お伝えするのじゃそなた様! ハーイ! ハハイ! ヒュー!」
左右で手拍子してジャンプする「PPPH」をぶっ込んだ。
「俺も、部屋で練習してた俺のブレイキンパワームーヴを見せる――魅せるぜ!」
和馬がアイリスの拓いた突破口(?)へ、前転で転がりこんだ。そして、横倒しにした体を左手だけでバランスをとって支えるブレイクダンスの技「エアチェア」を披露。
「どーよ!?」
人々とアイリスの生あたたかい目が、そっと和馬から反らされた。
「え? え? これって作戦? まさか陰謀?」
「いや、その、すごい地味……じゃから」
申し訳なさそうに、アイリス。
「パワーとかムーヴとか、そういうのが見たかったんじゃよ」
「エアチェアって超難しいんだぜ! それにほら、ぐるぐる回ると迷惑がさ!」
「蛍光灯割ってお母さんに超怒られてたよね、和馬氏」
「LEDって見栄張っとけよ! あとお母さんじゃねぇよママだよ!」
人々の目がさらに反らされたこと、言うまでもなし。
「……おぬしら、なんですわ?」
ここでようやく麗佳がライヴスリンカーたちの乱入に気づいた。
『あのこれ見よがしな乳――先日妾たちを愚弄したじぇいけいではないか!』
「言われてみればあの巨乳……となればここは日本ですわ!」
アイリスを指して騒ぐ麗佳と宮様。憶えているのが胸のサイズのみというあたり、恨みがましい喪女の性が感じられて不憫だ。
『ときに、そなた。枯隷死(かれし)とやらとは、絶縁したのであろうな?』
「今は絶円状態かの」
「なんですわ、それ」
「超絶円満、らぶらぶってことじゃよ~」
頬をほんのり赤く染め、アイリスがダブルピース。
「おぬしは断固殲滅ですわーっ!」
「じゃあ、ユーも幸せになっちゃいなよ?」
どこぞのジャニーみたいなセリフが麗佳を止めた。
「誰ですわ!?」
「俺が欲しいのは 君の大きなぬくもり 包み込んで 俺の小さな心と体」
フラッシュモブに合わせて歌詞を紡ぐのは、伊達メガネに黒スーツで決めた式だった。ただし、そのスラックスの丈は膝上7センチ……!
「お似合いだぜ旧式。ほんと、すげぇお似合いだぜ」
ドナが(笑いすぎたせいで)涙を流しながらスタンディング・オベーション。
「体に合うのがコレしかなかったんだからしょーがねーだろ! 上半身だけ見とけ!」
小学校入学式スタイルの式は、そのへんで摘んできた青い花を束にしたやつを捧げ持ち、麗佳へ跪く。半ズボンを隠すために。
「部屋のどん底に沈んでた俺を生き返らせてくれた姫君に、プレゼントだぜ」
「ニートじゃねーと語れねー愛だな」
「ニートが生き返ったら負けじゃね?」
「あの花は……苦い」
ドナ、和馬、俺氏の順でコメント。
式はそれを無視して顔を思いっきり上へ向けた。
「ほんとは赤いバラがよかったんだけどよ。青バラのつもりで受け取ってくれよ。青バラの花言葉、「ひと目惚れ」ってんだぜ?」
実際に彼が差し出した花はアメリカイヌホオズキで、花言葉は「汝を呪う」という毒草だ。
「踊ろうぜ? マイレディ」
「あひゃははは!」
ドナの大爆笑を背に負って、花束を麗佳の右手に握らせた式が彼女の左手をとった――
「ちょっと待ったー!」
――勢いよく駆け込んできた和馬が、麗佳に右手をくわっと伸ばし。
「なんかよくわかんねぇけど悔しいんで、俺もお願いしまっす!」
「俺氏、今なら種族を超える予感」
なぜか俺氏も、ローブに隠された右手を差し出す。
『なんと、複数の殿方より告られておるぞ!』
「伝説のレッドポークホエール団ですわ!?」
麗佳とその内の宮様は、体にぐうっと力を込めて激しい震えを止め、溜めて溜めて、くわっ!
「なにをたくらんでやがりますわー!?」
『なにをたくらんでおるんじゃあー!?』
●怖い女はやっぱり怖い
麗佳の巨体が真下へ沈み込んだ。そして右腕で両目と左耳を、左腕で顔と右耳を覆って丸くなる!
『妾たちを惑わすものみな遮断! これぞ絶縁ガードじゃ!!』
ライヴスリンカーたちは甘く見ていたのだ。あまりにも非モテな日々を過ごしてきたため、人の好意も善意も絶対信じなくなってしまった彼女たちの心を。
そんな麗佳の白銀の甲冑にカンカンカンカン! 乾いた火花がいくつも咲いた。
「ちっ、固いですぅ」
式の肩を台にして照準固定していたPride of foolsをホルスターに収め、御園が舌打ちした。
そして丸まったままの麗佳へ、外骨格化したSTをまとう指先を突きつけ、骨伝導の要領で。
「卑屈すぎて引いちゃいますね。プライドあるなら、拒否なんてリアクションしないで無視すればいいのに」
「コミュスキルなくてエキサイトって、キモすぎ」
「なのに意外と良識ガーとか。アタマ大丈夫ですかー?」
麗佳の心のど真ん中へ、素直な悪意がズバズバ突っ込まれる。
『御園、そろそろストップだ』
「えー? 御園まだまだお伝えしたいことあるんだけど?」
『ドン引きされている』
STが視覚センサーで指し示したのは、麗佳ならぬチームメンバーだ。
「あたしもさ、まあ、ほめられたもんじゃねぇけどさ……アレはなぁ」
「リア充はリア銃じゃなく、リアル・リリックで殺すんじゃの」
「俺氏、人になりたくなさすぎてむせび泣く」
ドナとアイリスがひそひそ。俺氏はなぜか堂々と。そして式と和は突っ伏し、青い芝生へ2次元のすばらしさを説き続けていた。
「えっと、これって御園が悪いのかな? ――でも任務だから! 誤解されたって最後までやり遂げるから! だって御園、先輩にそう誓ったんだもの!」
『これが「開き直り」というものか。実例とともにデータを保存する』
話を閉じようとしたSTだったが。
「……すげーパンチラインでしたわ」
ゆらり。麗佳が立ち上がった。
「次はおぬしも味わうですわ。殲滅パンチ・ダブル派!」
回避も防御もできず、御園の顔が麗佳の両ビンタに挟まれた。掘り起こされしトラウマが、彼女の心を蝕んでいく……!
『精神汚染度、急上昇。御園、このままでは!』
「これやばい――でも御園、負けない」
と。御園の指がじりじり地をたぐって前進、麗佳のの甲冑を捕えた。
「な、なんですわ!?」
麗佳の体にしがみついた御園が青ざめた唇を開き。
「どうして去年の誕生日、ほかのお誘い全部蹴ってイケメン医大生なんか選んじゃったんだろ……肝心のプレゼントがブランドバッグひとつ。デパート貸し切りで好きなもの選んでいいよって言うのが普通でしょ」
リア充なトラウマを精神攻撃に変える御園!
STはため息をつくばかりだ。
『これが女の執念か。理解不能』
「愛とか情とかねーんですのこのゲス女!?」
わめく麗佳に、御園は青い顔できょとん。
「御園かわいいから、大事にされるの当然だし。なに言ってるの、アタマわるーい」
壊滅キック直当派で御園を蹴り離し、麗佳が人々をにらみつけた。
「この不快感、おぬしらで晴らしてやるですわ!」
そのとき。
●オトコたち
「ついにたどりついた 君の前へ」
フラッシュモブの先頭に、ヤツがいた。そう、今日の主役、芸人男である。
「盛り上がる世界 見てるだけのオレはもういない」
ダンス中の人々が、不審な目で芸人男を見る。練習してきた歌詞とちがうのだ。
「次はオレが見せる番 本気の一芸 魅せる番」
芸人男が首から蝶ネクタイを引き抜いた。
奴の体から噴き上げるのは――脱気!
「結局こうなっちまうか」
進み出たのは和馬だ。早脱の準備と覚悟はすでに済ませている。
「俺氏、例のやつは頼んだぜ」
「仏契る(ぶっちぎる)俺氏の俊足はアキレス」
俺氏が遊歩道のほうへ走っていった。ローブに脚がだばだばもつれ、超遅かった。
「人々はわらわにお任せじゃ! モブ枠に収まらんわらわのエンジェルボイスを聞けい!」
アイリスがオタ芸「ロマンス」を発動、激しい振りと煽りで人々を圧倒していく。ここに正護がいたなら、「ボイスはどこへいった」というツッコんでくれただろうに。
そして御園は芝生の上で、おととしの誕生日のトラウマに苛まれ中。
つまりこの場で麗佳に対せるのは式とドナのみなのだ。
「皮肉なものですわね。立ち塞がるのがおぬしとは」
『サイズ的に塞げてねぇけどな』
ドナのセリフは聞こえないふりで、式はでかい奴っぽい低い声をつくって。
「俺に戦う気はねー。でも放っとくわけにもいかねー。だから受け止めるぜ。おめーのビンタもビームも、俺の甲斐性でよ」
式がシルバーシールドを構えた。
『おめーの甲斐性、70センチかよ。すっぽり隠れちゃってんじゃねぇかよ』
135センチの式に爆笑する120センチのドナ。どっちもどっちなのに、ひどい言いぐさだ。
「殲滅パンチですわーっ!」
轟。式のつくり声よりずっと低い風切り音を鳴らし、麗佳のビンタが襲い来る。すかっ。
前にもあった気はするが、あまりにもな身長差が引き起こした悲劇である。
「また空振りされてんじゃねーか!」
『肩車すっか? あたし下な』
「上んなったら絶対死ぬわ!」
――カラァン、コロォン。
シリアスになりかけた空気を揺らす鐘の音。
「このウェディングな音は」
『倖いの臭いじゃ』
いきなり麗佳が駆け出した。鐘の音が鳴るほうへ。
「追っかけるぜ!」
式が和馬に声をかけた。しかし。
「行ってくれ。今、取り込み中だからよ」
ニヤリと口の端を吊り上げる和馬。その体からは75パーセントの衣装が失われており、今の彼は、震える指をインナーのほうのパンツにかけている有様だ。そしてそれは芸人男も同じこと。
先に脱いだほうが勝って、負ける!
『オトコってさ……アタマ悪ぃよな』
ドナに返す言葉を、オトコの一員たる式は持ち合わせていなかった。
「OADからローマーンスっ! ロマンスーからのサンダースネ」
人々のフラッシュモブ完全無視で次々とオタ芸を打っていたアイリスが、ぶつん。いきなり倒れ伏した。
人々はぎょっと目を剥くが、すぐに成すべきことを思い出す。
なにが起こっているかわからないが、(サイズ的に)最大の障害が消え、(音量的に)最悪な障害も消えた。あとはそう、主役に服を着せて告白させるだけだ!
●ラストぐだぐだ
カラァン、コロォン。
「幸せはどこですわーっ!」
「幸せはいつもここにある」
音をたぐって遊歩道に駆けつけた麗佳を待っていたものは、鐘のヒモをぐいんぐいん振り回す俺氏だった。
『なんと! 巧妙な罠であったか』
「俺氏もかかりたかったよハニートラップ」
ローブのスソをチラチラめくってみせる俺氏。スソが長すぎてつま先すらチラリしなかったが。
「うるせーですわ! 壊滅キーック!」
BSを食らって転がった俺氏がトラウマを垂れ流す。
「同窓会で酔っ払って脱ぎ捨てた下半身装備。我が息子をチラ見した女子が「かわいい」。酔いは醒めて空気は冷めて」
「そりゃ俺のトラウマだーっ!!」
式が俺氏にスライディングキック! 念のため、静かなる布の塊と化した自称鹿にトドメをさしつつ、彼は額の汗をぬぐった。
「あぶねー。もうちょいでバラされるとこだったぜ」
『全部言われてんだろミスタ・ミニマム』
「……人にはみな悲しい過去があるものだ。だから気にするなニュルンベルガー」
ドナのツッコミを遮ったのは、共鳴して「サキモリ」に変身した正護だった。ちなみにニュルンベルガーは世界最小のソーセージだよ!
「毒条院、おまえは恋をしたことがあるか?」
「あるわけねーですわ」
即答する麗佳へ、正護は静かに語りかける。
「俺は……女に捨てられちまった男だ。あのときは不幸のどん底を味わったよ。だが俺は人の幸せをねたんだりしない。人々が幸せに暮らすこの世界を守ってみせる! たとえ俺の幸せが存在しない世界だとしても! この永遠に続く絶望の連鎖を断ち切ることが多分きっと絶対できなくとも! 俺は――俺わ――くっ、殺せ!」
正護ががっくりヒザをついた。
『よぉ、あいつツッコミじゃなかったっけ?』
「登場すんのがちっと遅すぎたんだろ……って、長ゼリフのオチが“くっころ”かよ」
ドナと式が、正護と麗佳を交互に見比べた。まあ、正護はともかく麗佳はオークに見えなくもない。
「――俺が死なないなら俺が殺す!」
『おいおい、錯乱あそばしてんぞ正義のライダーさん!』
「ちょっと待てよ、正護こっち見てんぞ!?」
「防人流……雷堕脚ぅう!!」
顔の真ん中に「後方宙返りからの跳び蹴り」という物理法則完全無視なキックを食らった式はなぜか爆発し。
正護はそのままバイクで颯爽と逃走。
あとには麗佳だけが残された。
『……帰るかの?』
「ですわね……」
麗佳は先ほど俺氏が握っていたヒモを引っぱった。
カラァン、コロォン。空に溶けていく鐘の音をもの悲しい目で見送り、麗佳は思いを馳せる。
――すべてのリア充に呪いあれ。すべての傷負人に祝いあれ。
一方、フラッシュモブ。
「僕の愛を 受け入れて」
なんだかんだでタキシードを再装備させられた芸人男が、愛しい彼女の前に跪いていた。まわりの人々も、かるくステップを踏みながらそのときを待ち受ける。ついでに覚醒したアイリスと、やはり着衣完了した和馬もドキドキ見守っていた。
果たして、返答は。
「絶対ムリ!」
そりゃね。フラッシュモブそっちのけで脱衣勝負してたらね。それ以前に、脱ぎ芸しかない芸人じゃね。
「えーと。わらわ、彼氏が待っておるので」
アイリスは両手をすくいあげるように前へ振り出すオタ芸「ケチャ」を打ちつつ、場から離脱していく。
「カゼ、ひくなよ?」
固まる芸人男に声をかけ、和馬もまた「ケチャ」で離脱。途中で5年前の誕生日トラウマに苦しみ中の御園をアイリスとふたりで回収し、公園を後にした。
というわけで。事件は解決したんであった。