本部

ゲレンデの魔神

弐号

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~8人
英雄
2人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/02/19 19:26

掲示板

オープニング

 軽快に雪を切り裂きながらゲレンデをボードで滑走する。
(いいねぇ、良い雪だ)
 これでこそ、貴重な休みに新幹線を使ってまで来た甲斐があるというもの。家の中でゴロゴロと寝転んでいるだけでは癒せぬ疲れがあるのだ。
(サイコー!)
 普段は嫌で仕方ない凍えるような冷たい風も今ばかりは心地よい。男はどこまでもスノーボードを堪能していた。
「っと……」
 とあるところに差し掛かったところで、ブレーキをかけ滑りを止める。
「久々だな」
 一度ゴーグルを外しこれから進む斜面を肉眼で確認する。
 ここはこのスキー場に置いて最高難度を誇るコース、南壁コースである。
 辺りに人影無し。家族連れでここに挑む人は少なくこの難関コースに挑む人間はそう多くない。どうやら今は自分だけらしい
「コンディションは……悪くないね」
 空は快晴、風も無し。
 改めてコースを見やるとそこにはずらりと並ぶのコブ。
 これでいい。これでこその難関コースである。
 期待に胸躍らせながらゴーグルを付け直し、男は斜面に滑り出した。
 一つ、二つ、と順調にコブをすり抜けていく。
(絶好調!)
 久しぶりの滑走とは思えぬ順調ぶりに男のテンションも上がった。
 だが――
(ん?)
 一瞬違和感を感じる。視界の端で何かが動いたような。
 しかし、確かめる余裕は無く、勢いのままボードは滑走していく。そして、その異変は起きた。
「なにっ!」
 これから進む先のコブが『動いた』。
 男の右前方に合ったコブがまるで邪魔をするかのように進路上へと移動してくる。
 無論、自然にそのような事があるはずがない。
(まさか……!)
 嫌な予感が脳内に閃く。結果として、それは正解だった。
 突然『コブ』から二本の太く大きな腕が生え、男の方へ向かって伸びてくる。
「うわあああああ!」
 咄嗟によけようとコースをずらしよけようとするが、無理矢理だったためバランスを崩した。
 しかし、結果的にはそれが功を奏した。
 転倒し倒れた男の上を巨大な手が通過する。
「……っ!」
 命拾いしたことを悟った男はすぐさま立ち上がり、祈るような思いで必死に斜面を降りる。
 ある程度逃げおおせた男がちらりと後ろを振り替えた時見えたのは、一つまた一つと動き出す巨大なコブ達の姿だった。

『緊急警報です。ゲレンデ内に従魔が発生しました。コース内のお客様はすぐさま下山して下さい。リフト上のお客様は、リフト降り場の係員の指示に従い、下山して下さい。くれぐれも、慌ててリフトから降り無いようお願い致します。繰り返します……』
 スキー場にサイレンとアナウンスが流れたのはそれから10分後の事であった

解説

●目的
ゲレンデに出現した従魔の撃破

●登場
デグリオ級従魔『スノーハンド』 4体
半球状のコブのような頭と巨大な二本の腕のみで構成された従魔。
その巨大な腕による叩きつけ攻撃と掴みからの締め上げ、投げ飛ばし攻撃を得意とする。
また、スノーハンド同士で味方を掴み、巨大な雪玉状にして投げ飛ばしてくるという特殊な攻撃も行ってくる。
投げられた方は着弾地点で元の形に戻る。

●環境
ゲレンデになります。まだスキー場の非難は完全には終了しておりませんが、少なくとも従魔周りに人はおりません。
従魔は元いたコースから徐々に下山。周りの雪を吸収し徐々に大きくなっているという報告もあります。
今は緩斜面のファミリーコースにいるようです。

リプレイ


「……で、着いた訳だが」
 雁間 恭一(aa1168)は車から降り立ち、開口一番気だるそうに呟いた。
「二人ってお前……死ぬぞ」
「場所が場所だ。すぐに来れる人間がいなかったのだろう」
 相棒であるマリオン(aa1168hero001)がそれにこたえる形で口を出す。
「ったく、ゲレンデにはいい思い出がねぇ。前に待ち伏せで寒空の中、延々立ちぼうけ食らったのを思い出す」
「日頃の積悪の報いであろうよ。良い教訓だったな」
 心底どうでもよさそうに吐き捨てる。車からはさらに二人下車して雪山を望んでいた。
「かなり積もってるなぁ……そういや、昔しごきが嫌で、雪山修行の間に遭難のふりをして、さぼったっけなぁ。半年はばれなかったよ」
「行方不明とは聞いておりましたが……いやはや半年修行をサボるためにそこまでされますか?」
 骸 麟(aa1166)の唐突なカミングアウトに宍影(aa1166hero001)が苦笑いを浮かべる。
「あ、いたいた! H.O.P.E.の方々ですよね」
 そこへ小走りに都呂々 俊介(aa1364)が駆け込んでくきた。
「あん、なんだお前?」
「僕は都呂々俊介といいます。偶然学校行事でこちらに来ておりまして。H.O.P.E.の要請に従い協力させていただきます」
 と、さらにその後ろから声が掛かる。
「お、見知った顔もいるな。ぢょうど良かった」
 振り向くと金髪を結わえたグラマラスな美女。カトレヤ シェーン(aa0218)、彼女もまたH.O.P.E.のエージェントである。
「従魔の相手をするなら戦力ががいるだろ? 本当は休暇だったんだが……協力するぜ?」
「いやあ、有り難い。これで四名。一応の頭数は揃いましたな」
「ああ、それに見たところ手練れ揃いだ」
 宍影の言葉に麟が力強く頷く。
「よし、んじゃあ……行くとすっか」
 首をコキコキと鳴らしながら、恭一はそびえたつ雪山を睨めつけた。


「さて、遅れんなよ?」
「ぬかせ」
 ゴンドラから降り不敵に笑うカトレヤに、スキーをレンタルした恭一が不機嫌そうに答える。
 彼らが選択した作戦は、上から追い立てて戦う組と待ち伏せて戦う組に分かれての挟み撃ちだった。
「ノルマは一人一体だ。あんたこそぬかるなよ」
「それこそ余計なお世話だ、よ!」
 その言葉を機に同時に斜面へと乗り出し、従魔を見逃さぬよう注意しながらコースを下っていく。
「……いたぞ、あそこだ!」
 カトレヤの声に恭一の視線が進行方向のコースを見やる。
 四体一丸となって進む巨大なこぶの姿があった。
「まずは釣り上げんぞ」
「まかせな!」
 カトレヤがボードを停止させると、フェイルノートを取り出し従魔たちの群れ向かって射かける。
「オォォン!」
 腕に突き刺さった矢に、従魔達が一斉にこちらを振り向く。
「よし、針には食いついたな」
「……待て。様子が変だ」
 従魔達は振り返った後こちらに向かってくるでもなく、ゆっくりと一か所に集まり始めていた。
「まさか合体なんてしないだろうな」
「いや……」
 四体の内、二体が残りの従魔をそれぞれ巨大な手で鷲掴みにし持ち上げた。持ち上げられた従魔は腕を丸め巨大な一つの雪玉と化す。
「投げる気だ!」
 従魔達が腕を振るい巨大雪玉を投げつける。速度、精度共に驚異的。当たればただでは済まない
「あぶねぇ……なんつー捨て身の技だ」
『捨て身で挑む奴を鉄砲玉とよく言うが……あれでは大砲玉という方が正しいな』
 幸い早期発見と彼我の距離が相まって、その攻撃を避けることには二人とも成功していた。
「ォオォオ……」
 地面にぶつかった雪玉から再び腕が生え、ほどなく元の形を取り戻す。
「ちょうど、半分。二体だな」
 カトレヤ従魔が元々いた位置に視線を移すと、既に残った二体は進路を戻し斜面を下り始めていた。
「二体二ってわけだ。好都合だな」
 懐から火炎呪符を取り出し、ライブスを流し込む。
「グッダグダに溶かしてばらまいてやる」
「オオオオオオオ!」
 従魔の雄たけびが山彦のように響き渡った。


「きたな……」
 その身をライヴスで隠ぺいしながら麟が呟く。視線の先には斜面を下る二体の従魔。
『いやはや、実際見るとなかなかの迫力』
「あれごとき雪玉など……僕の前では雪の妖精程度の脅威度でしかありません」
「頼もしいな。じゃあ、右側頼むぞ」
「え?」
 俊介の軽口にそう短く言い残し、麟は気配を消して群れの横に回り込む。
「ま、まずは足止め……」
 迫りくる巨大なコブ。その腕の大きさに至っては俊介の身長よりもよほど高い。それが二つである。
「お、おお、でかい……」
 その圧力に物怖じして一歩引く俊介。と、先頭をすすむ従魔の動きが一瞬止まる。その体に走る一条の黒い線。
「かかった!」
 それは麟の仕掛けたトラップ。糸に結ばれた一対の短刀が従魔の体に引っかかりその体に突き刺さる。
「オォォォォン!」
 痛みか、それとも怒りか。従魔が拘束を振り払わんと両腕を無茶苦茶に振り回す。
「今だ!」
 そこにすかさず俊介が研ぎ澄ましたライヴスを叩き付ける。真正面からその攻撃を受け止め、従魔の体に裂傷が刻まれる。
「ふ……この魔の刃が君の凍りついた肉体を切り裂くのです」
 ここぞとばかりに決め台詞を放ち恰好を付ける俊介。
「オォォン!」
 しかし、従魔は傷を物ともせず、俊介を掴もうと両手を伸ばす。
「やっぱり、大きすぎますよね! 小さくないですよね! 掴まないで!!」
 寸でのところで斜面を転がるようにして腕の射程から逃れる。
 しかし、転がった先には運悪く一体の従魔が待ち構えていた。
「こ、こっちにも!」
「ここで忍びが現れるのさ……骸幽月斬!」
 従魔の視覚から身を乗り出した麟が伸ばした腕に切りつけ刃を立てる。
「おまえの相手はオレだ。こっちに来い!」
 距離を取りながらの挑発に従魔が麟の方へと向きを変える。
「では、僕の相手はこいつですね」
 巨大な鎌を握りしめ、俊介が己を鼓舞ずるように叫んだ。
『来ますぞ!』
「わかってる!」
 麟と俊介、それぞれを目がけて従魔が突撃してくる。
「まずは、布石から……骸死兆印!」
 真正面から向かってくる従魔に向けライブスを飛ばし打ち付ける。ライヴスのマーカーが従魔の体に張り付くが、従魔は一切意に介することなく麟を掴もうと両手を伸ばす。
「そんな単純な攻撃で」
 脇をするりと通り抜け、麟が拳に装着した白虎の爪牙で従魔の肌を切り裂く。それと同時に先ほど付着したライヴスが破裂し、逆側にもダメージを与える。
『……体が大きい故、致命傷までは行きませぬな』
「こうなったら根競べだな。あいつが倒れるのが先か、オレがダメージを食らうのが先か」
 従魔は麟達を無視して進もうという気はないらしく、反転してこちらを向く。
「なに、修行に比べれば楽なもんだ」
 麟が布の舌で不敵に笑った。


「くそっ!」
 巨大な雪塊を素早く躱しながら、恭一がお返しに呪符から生み出した炎の蝶を飛ばし反撃する。
 しかし、不安定な体勢で放たれたその炎は敵を逸れ、離れた地面を抉るに終わった。
「オォォン!」
 着地した魔が腕を滅法矢鱈に振り回し、殴りかかる。
「おっと」
 カトレヤが距離を取り腕の射程範囲から離れる。その隙に投げた方の従魔が身を寄せ、二体の連携を崩さない。
「ち、二体一緒にいると厄介だ。引き離すぞ」
「どうやって」
「射程はあんたが上だ。一回離れてあとはさっきと同じ手順だ」
「……その間は任せていいんだな?」
「仕方ねぇ。やってやる」
 方針を確認してお互い頷いたところで再び従魔が仲間を持ち上げ、投げつけてきた。
「いくぞ!」
 それを左右に分かれて回避しながら、恭一は全身から大量のライヴスを放出する。高濃度のそれは従魔達の意識を引き寄せるには十分だった。
「まとめてかかってこい!」
 作戦通りに二体の従魔が同時に恭一の方を向く。
「オォォン!」
 近い従魔が掌を叩き付けようと振り下ろす。
「芸がねぇ!」
『近所の犬でももう少し多芸だぞ』
 その攻撃は難なく回避。しかし、すぐさまその進路をもう一体の従魔が塞ぐ。
「ウォォォン!」
「ちぃ、ちっとは考えてるって事かよ」
 完全に包囲され逃げ場を失った恭一に掌が迫る。
「……っく!」
 強烈な衝撃と共に両手に挟まれる恭一。
 が、そこで従魔の動きが止まった。
「ハサミの刃を握っちゃダメってママに教わらなかったのかよ……」
 口の端から血を零しながら恭一が不敵に笑った。
 恭一を握っている従魔の手の甲からそれぞれ一本ずつの刃が突き出していた。掴まれる寸前に恭一がつっかえ棒のように突き立てておいた二本の剣であった。
『ま、うちの犬はそれなりに芸ができるのでな』
「うるせぇよ!」
 従魔自身の力で深々と突き立てられたそれを力任せに振り下ろす。
「オォォォォォォ!」
 手を中ほどまで切り裂かれ、従魔が絶叫を上げた。
 拘束から解き放たれた恭一が着地する。
「オオオオ!」
 そのタイミングを狙ってもう一体の従魔が両手を組んで叩き付けんと振り上げた。
「待たせたな!」
 その手をカトレヤが放った矢が穿つ。
「いいタイミングだ」
 矢の衝撃に動きが止まった瞬間を見逃さず、恭一が包囲を抜け出す。
「おらおら、ボーっとしてっと矢衾だぜ!」
 手の届かない遠距離から次々と矢を放ち、次々と射かけていく。
 精度よりも本数を重視した挑発目的の射撃。しかし、それでもいくつかは対処しきれず従魔の体に突き刺さる。
「ウオオオオオ!」
 流石に辛抱堪らず射撃を阻止すべく、従魔が相方を持ち上げカトレヤに投げつける。
「待ってたぜ!」
 迫りくる巨大な雪塊を前にカトレヤが肉食獣を思わせる獰猛な笑みを浮かべる。
 即座に弓から手を放し、幻想蝶から巨大な戦鎚、『火之迦具鎚』を取り出し構える。
「ぶっ潰してやる!」
 飛んでくる雪玉を打ち返すように戦鎚を振り上げ、両者が空中で激しく激突する。
「ぐっ!」
「グォォン!」
 互いが勢いに押され大きく跳ね飛ばされる。
「オォォン!」
「お前の相手はこっちだろうが!」
 再び剣から呪符に持ち替えた恭一がカトレヤの方へ向かおうとした従魔に炎の蝶を浴びせかける。
「ォォォ……」
 表面を溶かされ、従魔が怒りのままに恭一に向かって突撃してくる。
「炎は割と効くみてぇだな」
 避けるそぶりすら見せず、ゆったりとした動作で呪符を幻想蝶へとしまう。従魔が恭一の目前まで迫り
――そして、地面へと沈み込んだ。
「――!」
『雪を溶かして作った落とし穴にも気づかないとは最期まで駄犬であったな』
「おすわりだ! 寝てろ!」
 従魔が事態を把握するよりも早く恭一の両手から発せられたライヴスが従魔の内に流れるライヴスを乱し、その動きを阻害する。
「最後はやっぱスカッといきてぇよな」
 幻想蝶から巨大な大剣インサニアを構え、肩に担ぐ。ズシリとした重さがその身に加わった。
「……!」
 従魔が何とか体を動かそうともがくも、身をよじるに程度に終わる。
「無駄だ!」
 大きく振りかぶった巨大な大剣を従魔に叩き付け、その身を真っ二つに引き裂いた。
「やれやれ……」
 一つため息を吐き、恭一がカトレヤの方を見やる。場所は大分上方。スキーを付けたままだ登るのは時間がかかる。
「ま、あいつは大丈夫だろ。下を見てくるか……」
 口の中に溜まった血を吐き捨て、恭一は斜面を下り始めた。


「ち、やっぱり一発でとはいかねぇか」
 体勢を素早く立て直し、カトレヤは従魔のいる斜面の下の方を見やる。
 ところどこと体が欠け、その表面もボロボロ。だが、従魔は臆することなくカトレヤに向かって突撃を仕掛けてきていた。
「オオオオオオ!」
 両手を左右に大きく広げ、進路を塞ぐようにしてカトレヤに迫る。
「そのガッツは大したもんだ」
 対するカトレヤも微塵も引かず真っすぐに従魔へと滑降していく。その狙いは従魔の体そのもの。
「――」
 従魔がカトレヤを掴もうと手を狭めるが、両翼の手からは最も遠い位置――即ち真正面に位置どったカトレヤを掴むことは紙一重できなかった。
「ヒュウ!」
 背中に従魔の両手が閉じる風圧を感じながら、まったくスピードを緩めることなく従魔へ突撃するカトレヤ。そして、その勢いのまま従魔の体をジャンプ台にして、高く上空へと舞い上がる。
「トドメ行くぜ!」
 従魔の頭上で360度回転し、足を下に戻し戦鎚を大きく振りかぶる。
 従魔とはいえ真上は死角。碌に対処できず十分すぎる加速と質量の乗った一撃が脳天に加えられる。
 ズン……と衝撃が地面に響く。
「意外と楽しかったぜ、デュアルタイムレース」
 ぺしゃんこにひしゃげた従魔を確認し、カトレヤはニッと笑ってみせた。


「ハァ!」
 すれ違いざまに従魔の腕を爪で切り裂く。
 通算何度目かの攻防かはもうすでに数えるのを諦めたが、次第に従魔の動きが鈍ってきているのを麟は経験から感じ取っていた。
『タフでありますなぁ……』
 宍影がうんざりした口調でぽつりと呟く。
「ボヤいても仕方ない。とはいうが……」
 ちらり、と俊介の方に視線を送る。
「うわわわ!」
「オオオン!」
 ちょうど従魔の叩き付けを俊介が間一髪のところで飛びのいて避けたところだった。
「もう一体いる。そろそろ終わらせたいぜ」
『俊介殿もよくやっておられますが……確かに』
 もう一度気を入れて武器を構えなおし、従魔に向き合う。
「わっ、とっとっ……!」
 一方、俊介の方は従魔の攻撃を何とか避けながらちまちまとダメージを与えるのがやっとだった。
 しかし、それがある意味幸運だったというべきか。俊介のギリギリで当たらない動きに、従魔の方がムキになり一心不乱に俊介を追い回しているのが現状であった。当然もう一体との連携はほとんど取れておらず、期せずして単体同士の戦いという形で下の戦場は推移していた。
「オオオオ!」
 従魔が両手を大きく広げ、振り回しながら麟へと迫る。
「馬鹿の一つ覚えかよ」
 いい加減慣れた動きでその攻撃を避け、さらに一つ裂傷を付ける。
従魔の体がぐらり、と傾いた。もう限界に近い。それは間違いないはずだ。
 だが、従魔の動きはそれまでとは少々違った。
「……っ! あいつ!」
 従魔は麟の横をを通り過ぎた後、勢いを止めることなくそのまま真っすぐ突き進み走っていく。
 その先にいるのは俊介ともう一体の従魔。
「ここに来て合流するつもりか!」
「オオオオオン!」
 雄たけびに応じてか、俊介を追っていた方の従魔が動きを止め、もう一体の従魔の方に向き直り、相方を掴もうと腕を伸ばす。
「させるか! 女郎蜘蛛!」
 体内で精製したライヴスをネット状に展開し走る従魔に投げつける。
「捉えた!」
 従魔の腕が届く直前にライヴスの網に絡めとられ、ピタリと進行が止まる。掴もうとした従魔の腕が空振る。
「そろそろ年貢の納め時だ!」
 足の止まった従魔に勢いよく駆け込み、そのど真ん中に全力で拳を叩き込む。深々と突き刺さった拳は従魔の中の最後の『何か』を打ち抜いた。
「ォォ……」
 断末魔の声とともに一つの塊だった従魔がズシャリと崩れ去り、跡に雪溜まりを残すだけとなった。
「おお、スペクタルです! 後は残すところ一体だけですね!」
 俊介が満面の笑みで駆けつけ、一度距離を取った麟と共に残った従魔を逃がさぬように武器を構え間合いを詰める。
「オ……オオン!」
 と、ゆっくりと後ずさりをしていた従魔の後頭部に赤い炎が突如巻き起こる。
「順調そうだな、ガキども」
 恭一が悪態を吐きながらスキーを止め、さらに後方の逃げ道を塞ぐ。
 そこへさらに追い打ちで風切り音と共に高速の矢が従魔の体に突き刺さりその身を穿った。
「逃げ場はない。詰みって奴さ」
「今だ、畳みかける!」
「はい!」
 従魔の意識が増援としてきたカトレヤと恭一に映ったのを感じ取り、その隙を逃さず麟と俊介が一気に距離を詰める。
「ウ……ウォォォン!」
 失策に気付いたのか慌てて振り返り横なぎに拳を振るうが、あまりにも焦りのある雑な攻撃だった。
 俊介はその場に屈み、麟は飛び越え、拳が虚空を薙ぐ。
「骸死兆印! 雪だるまに戻ってしまえ!」
 宙に浮かびながら麟が再びライヴスのマークを付着させる。
「失礼、これで終わりです!」
 麟のデスマークのブーストを受け放たれた俊介のライヴスが従魔の体を上下に分断し、従魔は文字通り物言わぬ雪だるまと化したのだった。


「そこで僕のバシィっと決まりまして、それで決着した訳なのです!」
 鼻息を荒くして避難していた学友たちに危機として活躍を語る俊介に、あきれ顔でカトレヤが溜息を吐く。
「若いね、まったく」
「欲求に素直なのも若さの特権でしょう」
「そんなもんか? ……まあ、そうかもな」
 宍影の言葉に曖昧に頷く。十歳も下か、などと無駄なことを考えて少しブルーになった事は心の中にとどめて表には出さなかった。
「そういや、蛍雪の功ってまさにオレの事だよね? 全部クリアしたもん」
「正確に言うとクリアするのは蛍でも雪でもないのでござるが、まあ良いでござる」
 麟の言葉に今度は宍影に溜息が移る。
「あー、寒っ。このままじゃいつぞやの二の舞だ。俺は帰るぜ」
「武勇伝を語るようなタマでもないしな。それともお前も昔はああだったか?」
「……あんなだった時代は俺にはねーよ」
 誇らしげに話し続ける俊介の顔を見やり、嘘か真かぼそりとそう呟いて恭一は車に乗り込んだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命



  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 真仮のリンカー
    都呂々 俊介aa1364
    人間|16才|男性|攻撃



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