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地獄祭控え室
最終発言2016/02/07 21:55:11 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/02/07 17:16:05
オープニング
●ここは「ほがらかスペイン村」!
某県のすみっこにある小さな某市。
過疎化が進んで存続の危機に瀕したこの市は、一発逆転の策を打ちだした。
ほがらかスペイン村。
細々と継承してきた闘牛文化と、推奨栽培作物トマトからひねりだされた、町興しの秘策。ようするに牛とトマトで再現できそうな国がスペインで、地方によくある「○○村」をやったらスペイン村になっただけなんだが、ともかく。
今年の1月という、山が木の枝先まで雪に埋まる壮絶な時期に開村した「ほがらかスペイン村」はなぜかそこそこ好調。客足をさらに掴まんと、2月14日開催の大イベントに向けて最終テストを行おうとしているんだった。
●チョコトマトの死闘開幕!
村中央、地元産にこだわった石畳の「パンプラ広場」のど真ん中で、市役所の担当者さんが太短い腕を振り回しながら指示を飛ばしていた。
「はやく片づけちゃってぇ! ラーブスリンカさんがもう来てくれてますんでぇ!」
ライヴスリンカーたちを手招きする彼が立つのは、でろっと重たい赤黒のただ中。
ちょっとした惨劇の跡地かと思いきや……赤いのは血じゃなくてトマトだった。スーパーや八百屋でおなじみの、ぷりっと丸っこいやつ(品種名:桃太郎)。
で。
問題は黒。
「いやぁ、せっかく2月ですんでね! トマトといっしょにチョコレートもどうぞってねぇ。2月っちゅうたら節分とバレンタインデーでしょお。チョンガー(独身者)は外、色恋は内ってなもんで、こりゃあ盛り上がりますよぉ」
トマトに注入されたチョコレートソースが、破裂したトマトの奥からでんでろでんでろあふれては、実に不気味なマーブル模様を描き出す。
「ルールなんですがね、トマト投げるんじゃなくて相手の口にぶっ込むようにしとります。売りに出せないトマトと行き場のないチョコの再利用なんですが、食べもんは大事にせんといかんですんでねぇ」
担当者が用意していたポスターを広げてみせた。
『セント・トマト祭り ~愛のチョコトマトで内へ外へ~』
バレンタインデーとスペインの伝統的な祭り、熟したトマトをひたすら投げ合う「トマティーナ」を節分要素でコーティングしでかしたような祭りの告知が、そこにあった。
それにしても、こんな祭りに女子の参加はあるんだろうか? 愛を求めて集いし男どもが全力でチョコトマトを喰わせあう……それ、単なる生き地獄では?
「まあ、そんなこんなで、地元の若いバイト君たちに試してもらってたんですがねぇ。今時の子はなんちゅうか、ヤワでしてぇ。こんな有様ですわぁ」
担当者、大笑い。
担架に積まれて運ばれていくバイトのみなさんはもれなくチョコトマトまみれ。赤黒く染まった体のあちこちに浮かぶ、コブやらアザやらの青が実に痛々しい。
広場の隅にどさどさ投げ捨てられた彼らは、その衝撃を受けてなお、全員ぴくりとも動かなかった。
「その点、ラーブスリンカさんなら思う存分やってくれますからなぁ! チョコトマトはたっぷりありますんでぇ、さっそくベータテストってことで」
ライヴスリンカーたちにチョコトマト喰わせ合戦をさせるため、この太ましい担当者はホットラインまで使ってHOPEに連絡してきやがったのか。
おののくライヴスリンカーたち。
しかし。
「ンホホホホオォ」
「クコッ、クケケケェェェェ」
「退村したい! 退村したぁぁぁぁい!!」
倒れていた若者たちが、ゾンビよろしく立ち上がった!
洋物ホラー映画を輸入してる制作会社のディレクターが、よかれと思って加えたら大失敗しちゃったキャッチみたいな音を垂れ流しながら。
しかも、彼らの手にはチョコトマト。それらがもれなく「へひい」とか「けくけく」言ってます!
ちなみに、ライヴスリンカー用に運ばれてきたトマトもだ。
「若い人は働かなくて困ったもんだと思ってたんですがねぇ。なかなかどうして、根性ありますなぁ」
いやいや、あの人たちもトマトも根性はないだろう。どう見たって取り憑かれてる!
……この市には、大量の従魔発生騒動が発生した過去がある。加えて、去年は牛に従魔が取り憑く事件も起きていた。理由はわからないが、従魔を呼び寄せやすい土地なのだ。
と、そんなことよりもなによりも。この事態をなんとかしなければならない。
ライヴスリンカーたちは、手の中で奇怪な声をあげるチョコトマトを握りしめかけて、あわてて手の力をゆるめた。潰してしまったら多分、超気持ち悪いし。
セント要素なんかカケラもない地獄祭りが今、幕を開ける!
解説
●依頼
イマーゴ級従魔に取り憑かれた若者たちを助けてあげてください。
●状況
・若者たち(女子も少数います)は従魔に取り憑かれています。
・父さんにもぶたれたことのない若者たちは、AGWで攻撃すると一撃でショック死します。
・武器としてでなければ、AGWも使用可能です。
・従魔憑きチョコトマト(以下CT)が唯一使用できる武器となります。
・CTは毎ラウンド無制限で使用できるものとします(ただし1ラウンドで効果を発揮するのはひとつ分だけです)。
・CTを若者に接触させることで(口にねじこむ、ぶつける、なすりつける等)、若者に取り憑いた従魔にダメージを与えることができます。
・CTを持ってパンチ、CTを乗せて頭突き等、CT+格闘攻撃は有効です。
・潰れCTは使用者に精神的ダメージを与えます(ぬるっと気持ち悪いです)。
●地形
・主戦場となる「パンプラ広場」は20×20スクエアの広さがあり、自由に動きまわれます。ただ、今はCTのせいですべりやすくなっています。
・パンプラ広場から村の外まで渦状に伸びる大通り、「サンヘルミン通り」は幅2スクエア、長さ1200スクエア(2400メートル)。そのあちこちに狭い横路があります。
・広場の縁や通りの左右にある建物の屋根の上に登ることができます。
・ロープやセメント袋、カラーコーン等の資材は使用可能です。
●若者たち×20
・CT攻撃1~5回でノックダウン。中から従魔が転がり出して消滅します。
・CTで攻撃してきます(近接/遠距離)。
・妙に勘がよかったり、動きのいい個体が少数混じっています。
●備考
・CTを食べた人の感想は「別々に食べたらいいと思います」。つまりは微妙です。
・CTは生物(なまもの)なのでお持ち帰りできません。
・地面に落ちたCTの残骸は、住豚のみなさんが後ほどおいしくいただきます。
リプレイ
●漢たちのMA・TSU・RI
「ホオォ」
「へひいへひい」
「クケケェェ」
赤黒い残骸に覆われた石畳をずるずる渡って襲い来るアルバイターのみなさん――コードネーム「ゾンビ」!
「この地は呪われているのか? 呪いの人形か箱か邪神か、トマトに!」
御神 恭也(aa0127)はゾンビをチョコトマト(以下CT)で撃ち倒し、建物の屋根へ跳び乗った。
「土の下でダイダラボッチとか体育座りしてて~、そこから生えてきたトマトがすくすくけくけくへひぃへひぃ! とか~?」
恭也に抱えられたまま意外にありそうなことを言うのは、幼女と少女の狭間を生きる契約英雄、伊邪那美(aa0127hero001)だ。
「また農産物関連で従魔騒ぎが起きたら、検討の余地ありだが……」
「こないだ牛ちゃんが取り憑かれて、みんなと追っかけっこしたんだって! 次はなにかな~?」
従魔がなぜこの村に沸くのか。恭也にはなんとなくわかる気がするのだ。とはいえ口に出したらつけこまれそうで言えないが――
「だってこのへんの従魔ちゃん、ノリよさそうだもんね~」
「伊邪那美、よせ!」
恭也はすぐに伊邪那美の口を塞いだが、替わりに太ましい担当者が。
「あー、このへんにゃあ昔っから――」
「関係ない騒ぎの予感を吹き込むな!」
ノリのいい従魔に土地の伝承など聞かれたら、もっと大変なことになるだろうが!
「退村したい! 退村したぁぁぁぁい!!」
広場の中央に仁王立った谷崎 祐二(aa1192)が、眉をひそめて相棒のプロセルピナ ゲイシャ(aa1192hero001)を見下ろした。
「退村希望者多過ぎだろ」
「にゃ」
プロセルピナがうなずいた。伊邪那美が狭間のお年頃なら、こちらは幼女真っ盛りである。
「トマト祭り、普通に楽しそうだったんだけどな」
嘆く祐二だったが、なぜだろう。いい笑顔だ。
「みゃ~?」
「いやほら! 祭りだし、どうせやること同じだし!? 俺も漢と書いてオトコだし!? 真っ赤なクラッシックパンツ(褌)で決め――」
「み・や・あ」
「あっ! ゆっくりはヤメテぇ! ヤるならせめてひと思いにぃ!」
プロセルピナに顔の真ん中をギ・ギ・ギっと引っ掻き下ろされた祐二がお慈悲を乞うた。外見年齢32歳男子、冬の事案だった。
「……いっちょ普通に楽しもうぜ、セリー!」
「にゃ!!」
仲直りしたふたりは景気づけに「えけっ(注:CTの断末魔です)」CTを実食。
「完全に、チョコとトマトだな」
「みゃうう」
祐二は新たなCTを鷲づかみ、先頭のゾンビの顔面へ叩きつけた。
「わびゅっ」
「退ソんっ!」
トマトとゾンビが衝突し、後味の悪いハーモニーを響かせる。
「よし。この微妙な味わい、アイツらに嫌ってほど食わせてやるぞ!」
「にゃーっ!」
盛り上がるふたりから6メートル左、最初からすでにクライマックスな鬼がいた。
「鬼は外ぉ! って、俺が外かよオイーっ!」
雄叫ぶ黒鬼 マガツ(aa2114hero001)に、彼の契約主である比良坂 蛍(aa2114)がおそるおそる。
「マガツさん、元気ですネ?」
「これはオトコの祭りだぞ!? やるぜ! 俺はやるぜ!」
燃える意気をジャージの赤に映し、盛り上がるマガツ。青ジャージ姿の蛍はげんなり、ため息をついた。
「僕は綺麗好きなの。こんな赤黒い世界で昂ぶる脳筋な生き物じゃないんだよ。だから」
「退村したくなくもない! 退村したくなくもなぁぁぁぁい!!」
割り込んだゾンビがマガツの顔にCTをべっちゃり。
「ぬるっとキターっ! ――殴ってナニが悪ぃ!?」
赤鬼ならぬ赤黒鬼と化したマガツは、両手のCTをソンビの口へイン。
むがくく、とうめくゾンビの胸ぐらを揺さぶり、マガツがわめく。
「貴様なぜ2回ぶたなくもなかったねとか言わんのだぁ!?」
「口いっぱいでしゃべれないでしょ。元ネタ知ってる歳でもないし」
ナイトシールドの影に引きこもった蛍がぼそり。
「甘ったれるなーっ!」
猛るマガツ、シールドを引っぺがして蛍の顔面にCTをバースト!
「ちちち父上っ! 父上にもバーストされたことないのニィィィ!!」
赤黒く汚された蛍が、きりきりターンしながらぶっ倒れた。
「死ぬ――これもう死ぬ――星になる――」
マガツは蛍をそっと引き起こし、
「生きろ」
蛍は呆けた顔をカロカロ振るばかりであった。
祐二やマガツの様から分析を終えた石井 菊次郎(aa0866)は、小美麗に決まっているのになぜかくたびれて見えるスーツの襟を正し、呪いの十字が刻まれた眼を細めた。
「見えましたね、攻略の道が」
「村ごと燃やし尽くしてしまおう。それがいちばんの解決法だ。な、それしかない」
彼の体を盾にしたテミス(aa0866hero001)が口早に言う。その顔は、いつにない恐怖と嫌悪で引き歪んでいた。
「確かに最善手かもしれませんね。でもダメです」
菊次郎はあっさり却下して。
「祭りに水を差すなど無粋の極み。さあ、逆に火をくべてやりましょう」
異様な熱を帯びる菊次郎から3歩離れ、テミスが拒絶の右手を突きだした。
「やめろ! 貴様がなにを企んでいるかなど知りたくもないが、我を巻き込むな!」
テミスの右手を両手で包み、菊次郎が低くささやく。
「ふふふ。けして汚されはしませんよ。そして完勝を決めるのです。なにせ今日の俺はボケじゃなく、ツッコミですから」
「貴様がっ! まともにツッコめたためしなどあるかーっ!」
かーっ! ーっ。っ……テミスの絶叫はへひぃや退村したいの波に飲まれ、虚しく消え失せた。
ワイルドブラッドの竜娘ギシャ(aa3141)と契約英雄のどらごん(aa3141hero001)はサンヘルミン通りへ移動していた。
「ベンキョーしたバレンタインとちがうよね? ろーかるるーる?」
外見年齢、いちおう幼女を脱した少女のギシャが笑顔を傾げる。
「アレは単なるイレギュラーだ。ギシャはギシャの仕事をすればいい」
ギシャの横を行くどらごんが渋く言い放った。150センチ3頭身の龍という彼だが、着ぐるみでもゆるキャラでもなく契約英雄である。
「しっかりひとりずつ殺すよ!」
「いやそうじゃない」
「ゾンビだから、アタマ潰して殺す?」
まるでなにもわかっていないギシャのデコを、どらごんはぺしりと叩き。
「殺しのライセンスは没収だ。得物は俺が預かるぞ」
幻想蝶の内にAGWを放り込んだ。
その間、ギシャは右に頭を傾けて考え、左に頭を傾け考えて……「わかった!」、手を挙げた。
律儀に後ろを追ってきたゾンビのみなさんは挙手しなかったので、解答権は自動的にギシャのものに。
「はいギシャさん」
「チョップで首とかポッキリして殺す!!」
「やれやれ。こいつはどうやら、長い説教になりそうだぜ……」
●愛をください
「実は退村したい! 実は退村したぁぁぁぁい!!」
打ち明けるゾンビの顔に、恭也が屋根の上からCTをぶつけた。
「じつわたっ」
「うわぁ、血しぶきみたいだねぇ~」
赤黒く染められて倒れたゾンビへコメントする伊邪那美に、恭也は苦い顔で言い返す。
「やめろ。やる気が削げる」
その眼下をでろでろ行き交うゾンビたち。その数は一向に減る様子もなく。
「退村するたい! 退村するたぁぁぁぁい!!」
「退村、それは退村力の変わらないただひとつの退村したぁぁぁぁい」
「九州人なのか掃除機会社の回し者なのか」
ツッコミつつ、恭也がゾンビの口にCTを投げ込み、文字通りに口封じ。
「こういうのってなんだっけ~? シニンにクチナシ?」
横から口を出す伊邪那美に、恭也は短くため息をついて。
「だから、やる気を削ぐことを言うな。なにかあるのか?」
「べ~つに~」
ぷんとむくれた伊邪那美の顔は、どう見ても自称神世7代の1柱とは思えない子どもっぽさだ。
「退村? いつでもどうぞぉ。予算の都合で棺桶は用意できませんがねぇ」
CTをかじる担当者が「どうぞどうぞ」の構えで言った。
「む~!」
担当者の頭目がけ、伊邪那美が罠――角材の先にCTを詰め込んだ安全ネットをくくりつけたもの――を発動!
「大地の恵みとほかの人をおもちゃにする悪い人は、ちょっとくらいグチャってなってもしょうがないよね~」
「そういうことか……。おい、気持ちはわかるが相手は一般人」
言いかけた恭也の目が、驚愕に見開かれた。
「自然落下ごときで、このあたしはしとめられませんよぉ」
へひけくぶひょう。悲鳴をあげて飛び散った残骸どもを残し、5メートル先にふわりと着地した担当者が嗤う。
『しとめる! 絶対しとめるよ~!』
強制的にリンクした伊邪那美の言葉に、恭也は力を込めてうなずいた。
あのメタボディ、放置しておくには危険すぎる――!
「ぅおああああ」
前から後ろから、下から上から右から左からCTをなすりつけられ、マガツが叫んだ。こちらの作業に参加中のゾンビ6体ももちろん、口々に退村の意を申し述べている。そこにCTの奇声も加わって、視覚的にも聴覚的にも生き地獄。
「どちくしょーっ!」
マガツはフンスと鼻息を噴いて呼吸を確保、体育座りでカロカロしている蛍のジャージ内にCTをありったけイン。蛍の脚をひっつかみ、思いきり振り回した。
「喰らえい! 蛍バスター!」
CTを詰め込まれた蛍の体が、まわりのゾンビを一気に薙ぎ払った。さらにマガツはCTを蛍に補充し、ナイトシールドに乗せて蹴りを入れる。
「蛍ダイナマイツ、轟(GO)!!」
ぬるぬるの石畳をざしゃーっと渡っていくシールド・オン・蛍。多数のゾンビを巻き込み、ぐちょぶちべちぃ! 壮絶な自爆を遂げた。
「酷いな」
「にゃ」
鬼のくせに「桃太郎(トマト)」でどつきあうマガツと、その攻撃の贄に捧げられる蛍。闇のデュエルめいたその光景に、祐二とプロセルピナがしかめっ面を見合わせた。
「でも、あの戦法は使えるな」
ニヤリと口の端を吊り上げた祐二が相棒の足元にかがみこんだ。
「にゃにっ!?」
人語めいた悲鳴をあげたプロセルピナだったが。
「冗談だよ。いや、やるけどな。コイツでさ」
祐二が抜き放ったのはブースター内臓バット、ファラウェイだった。
「よっしゃ来ぉい!」
祐二がファラウェイをくるくる。去年高校野球界を賑わせたあの構えでプロセルピナに合図すると、彼女はCTをトス。
「狙うぜ代打ホームラン!!」
ぶちょお! トスバッティングされた潰れCTが、ぬるっと汁の尾を引きながら飛んでいき。
「退村しない手はないべりこっ!」
ゾンビを撃ち倒した。
「さーごーえー」
高校球児調、聞き取り不能なかけ声をかけ、祐二が次のトスを促した。
プロセルピナがトス。祐二がバッティング。トス。バッティング。トス。バッティング……代打戦法は順調に思えた。しかし。
祐二が打ったトマトを、「にゃにゃー」っとプロセルピナが追いかけていく!
彼女は抑え切れなかったのだ。本能、ってやつを。
それを見た祐二、ほんのり目を細めて次のCTを打つ。
「みゃー」
打つ。
「にゃぎゃーっ」
獲物を求めて追っかけてくるゾンビを引き連れ、プロセルピナが右へ左へ。
「よし。次は思いっきり走らせちゃうぞー」
「み! ぎゃ! あ!」
「あああ! セリーさんゆっくりはっ! ゆっくりはぁぁぁ!!」
怒りのおしおきを食らう祐二をCTの海底から見上げつつ、蛍はつぶやくのだった。
「ほんと……トマト祭りは地獄だ……ぜ……」
と。その蛍の体が、唐突に浮き上がった。
「ならば地獄の罪人にふさわしい扱いをさせてもらいましょう」
ゾンビが投げてきたCTを蛍の体で華麗に防ぐ菊次郎である。
その笑顔とスーツには一点の染みもなく、完璧な「綺麗」を保っていた。
「蛍さんバリアー!」
トマトを持って殴りかかってきたゾンビをまた蛍でガード。そして。
「マガツさんシールド!」
「祐二さんジャマー!」
「プロセルピナさんボンバー!」
『貴様は悪魔かっ!?』
次々仲間を使い捨てていく菊次郎へ、彼の内に在るテミスが怒声を叩きつけた。
「ぎゃにゃーっ!!」
CTまみれで飛びかかってきたプロセルピナの首根っこをつまんで吊り下げて、菊次郎は口の端をぎぎっと吊り上げた。
「完勝のためには感傷など不要」
ぽい。プロセルピナを放り捨て、菊次郎は群がってくるゾンビの群れを見回した。
『ま、万が一にもアレを塗りつけられたら、針千本飲ますからな! 絶対汚されないって約束だもん!』
恐怖で幼児化しちゃうテミスさん。
「心配いりませんよ」
ざわり。菊次郎の体から薄暗いライヴスが立ち昇る。
「忌まわしき従魔に穢されし者どもよ、食せ! CTをひたすらに! その胃が赤黒くもたれるまで!」
菊次郎が発動した「支配者の言葉」。抵抗しきれなかったゾンビどもが、CTをもりもり食らい始めた――
「アンズチョコ……食いてぇ」
「燻製、燻製したら……」
「……にゃーにゃみゃ」
――心弱りし仲間たちもごいっしょに。
『戦力まで減らしてどうする!』
「アクシデントを嘆いてもしかたありません。こうなれば、リンクを解除して人手を増やします」
『あ、アレに触るのは死んでも嫌だぞ!』
菊次郎はリンクを解除し、テミスの肩へ手を置いて。
「テミスはいつものように罵詈雑言を。ゾンビさんがもっと退村したくなるようにね。そうして開いた口に、俺がCTをツッコミます」
追い詰められたテミスにはもう、従うほか選択肢がなかった。
「な、生ゴミかと思えば、なんだこのニオイは? トマトの青臭さとそれを凌駕する菊次郎の加齢臭!」
「蛆虫以下の菊次郎めが! 生憎だが検査してなどやらんぞ? 肥溜めの裏で独りさびしく分裂しているがよいわ!」
1分後。
「おれわぶんれつなんだ」
「しまった、つい……!」
丸くなった菊次郎と、あわてるテミス。
そこへ、菊次郎のおかげでノーダメージなゾンビどもがやってくる。
●赤黒クライマックス
一方、サンヘルミン通り。
「行くぞギシャ」
「はいよー」
通りの左右に分かれたどらごんとギシャが、互いに端を持っていたロープを引っぱり、ぴんと張った。
彼女たちを追うゾンビどもが引っかかり、すっ転ぶ。
その隙にギシャは近づき、ゾンビをCTで屠っていった。
「次行こっか」
ふたりは屋根の上に張ったロープを伝い、次の獲物を探して移動を開始した。
「むぅ」
「どうした?」
どらごんの問いに、ギシャは笑顔の上の眉をひそめ。
「足りない。なんかこう、ちわきにくおどる感じ?」
「敵が弱いせいもあるが……祭りらしくはないかもしれん」
と。
『ギシャちゃん手伝って~っ!』
伊邪那美の声に振り向けば、サンヘルミン通り沿いの建造物の屋根を伝い、駆ける恭也の姿が。
「おー、なにするー?」
『悪い人に天罰ド~ン!』
通りを爆走する太ましい担当者が吠えた。
「あたしを罰したいんなら、ウチの市にふるさと納税してから来るんですなぁ!」
すれちがいざまにゾンビの肩へ手をついて反動をつけ、高速回転しながら「退村」を訴えるゾンビの口へCTをツッコむ担当者。市民相手に一切の容赦なしである。
「あの動き、ただの太ましいオッサンじゃないな」
どらごんのつぶやきに、ギシャは笑顔で挙手。
「ざっくり? ポッキリ?」
「――ペチンにしとけ」
果たして、ギシャが通りへ降り立った。
「オッサン! 右と左とどっちがいい?」
「左は?」
「ギシャの左脚でミドルキックだよ!」
「右なら?」
「オッサンの右っ腹に左フックだよ!」
どっちを選んでも肝臓潰しなんであった。
「オニですなぁ」
「ギシャは龍だよ?」
「ギシャ、奴が言いたいのはそういうことじゃない」
「見たまんま龍の方に言われましても……」
小話は終了、本番が開始した。
「ふっ」
ギシャが、鼻先をこするほど倒し込んだ上体を鋭く跳ね上げ、左のCTフックを放った。
担当者はそれをかるくかわし、どす黒い笑みを浮かべる。
「予告どおり肝臓狙いとは、かわいらしいお嬢さんですなぁ。実にお強いですが、まだいろいろと駆け引きが足りてないようで。ウチの役所に来ませんかぁ? いろいろと教えてさしあげますよぉ?」
「よく聞こえなかった。もう1回頼む」
口を挟む恭也。すでに戦いへ心を傾けていた担当者は、ついつい普通に繰り返してしまうが……。
「以上、そちらが聞いたとおりだ。すぐに仕末を頼む」
公衆電話の受話器をフックに戻す音が響いた。
「アンタ、いったいどこに!?」
「担当者さんの言葉を市役所に伝えただけさ。ダイジェストでな」
恭也は担当者の言葉を中継する際、わざと音のところどころをカットしていたのだ。それによって仕上がった発言は。
『かわいらしいお嬢さんですなぁ。実によいですが、まだいろいろと足りてないようで。ウチに来ませんかぁ? いろいろと教えて差し上げますよぉ?』
「あ、あたしのキャリアが……」
担当者もとい変態紳士はがっくりヒザをついた。
『力に頼る人は力に潰されるよね。因果応報~』
伊邪那美が小難しい顔でうなずいた。
場面は再びパンプラ広場へ。
「退村したぁぁぁぁい!!」
ゾンビどもがCTを投げる。
空は無数の赤黒い塊によって塞がれ、夜が来たように暗くなった。
「蛍バリアーだけじゃ保たねぇ」
蛍の体を抱えて赤黒い豪雨を防ぎつつ、マガツが舌打ち。
「本当は攻撃あるのみなんだがな。その隙がない」
プロセルピナをかばいつつ、祐二が答えた。
普通のゾンビだけならそれほど問題はない。しかし1体、妙なゾンビがいるのだ。
小柄でよく動くゾンビ女子。「退村したい? 退村したぁぁぁぁい!?」と仲間を導いている。
「訊かれましてもね」
肩をすくめる菊次郎。正気に戻ったのはいいが、その彼をしても打開策は打ち出せない。
せめてあのゾンビ女子だけでも仕末できれば……。
「相手が女子なら行けるかもしれん」
蛍の影に滑り込んできたのは恭也だった。担当者を市役所の粛清班に引き渡し、ギシャたちとともに戻ってきたのだ。
「なにをどうするよ?」
問う祐二に、恭也は生真面目な顔を向けた。
「プロセルピナさんを借りるぞ」
そして。
「セリーちゃん」
「にゃー」
とっとことっとこ、伊邪那美とプロセルピナが前進。
「退村したい?」
ふたりのあまりに無防備な様に、ゾンビ女子が仲間へ警戒を促した。結果、CTの雨がやんだ。
「いくよ~。よいしょ」
125センチの伊邪那美が120センチのプロセルピナを猫抱っこ。とどめにプロセルピナが上目づかいで。
「みゃあ」
あざとい悔しいでもかわいい! ゾンビ女子は「たたた退村、もうちょっと退村しなぁぁぁぁい!!」。
「今だ!」
その隙に、マガツとライヴスリンカーたちが突撃を開始した。
あとはもう、敵味方入り乱れての消耗戦あるのみ。
「蛍の命、ムダにゃしねぇ!」
マガツの蛍バスターがゾンビをまとめて吹っ飛ばし。
「ギシャ、俺の後ろに隠れべぼっ!」
ギシャを守ろうと飛びだしたどらごんが、でかすぎる頭にバランスを崩してすっ転び。
「退村したぁぁぁぁい!!」
そのでかい口に、ゾンビがCTを次々押し込んで。
「どらごん今助けるよ!」
ギシャが迎え酒ならぬ迎えCTをねじ込んでトドメを刺し。
『ぬるぬるが我をぬるぬるとぬるぬるーっ!!』
迫り来る赤黒い恐怖にテミスが絶叫したり。
「汚れはしません。汚れは」
菊次郎があいかわらず綺麗をキープしていたり。
「倒れろ」
忍びよった恭也が背後からゾンビにCTを食わせて倒し。
「ナイス!」
その囮になったことででろでろになった祐二が恭也にハグを要求するも当然拒否されたり。
「……キレちゃったよ。僕の中でさっきまで大事だったはずのなにか」
ついに覚醒した蛍が、村人たちによる放水攻撃で体の汚れとその他あれこれを洗い流され、いい笑顔で気を失って。
騒ぎはぐだぐだの内に収束していったのだった。
――CTの残骸を、住豚のみなさんが平らげていく。
「豚ちゃんがおいしく食べてくれてるのが救いだよ~」
伊邪那美の言葉に、恭也がやれやれとため息をつく。
「最後のほうぐちゃぐちゃだったけど、楽しかったなセリー!」
「にゃー!」
なんだかんだで祭りで暴れ通した祐二とプロセルピナは満足そうだ。
「……結局、勢いだけでなんとかしようとするからこんな悲劇を生むのでしょうね」
「あー、あー。我はもう二度とこんな村とは関わらぬ!」
したり顔でまとめてみる菊次郎と、耳を塞いでわめき散らすテミス。
「どらごん大丈夫?」
「男の背中……龍の口は女を守るためにある。おまえが無事なら、俺はそれだけで満腹なのさ」
ギシャに腹をさすってもらいながら、どらごんが渋く決めた。彼の見かけはいつだって着ぐるみで、その心はいつだってハードボイルドなのだ。
「さあ、始めるよ? 句点の向こう側でふたりきり、オニの血祭りをね?」
「えひぃ!」
さんざん盾にされ、武器にされた蛍は、マガツとふたりっきりの祭りを開催決定。
この日残骸と化したCT、14873個。
退村の夢かなえたアルバイター、60人(内、ノリで増殖した40人を含む)。
村の被害、微少。
ほがらかスペイン村の営業企画は、まだ始まったばかりだ――!