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最終発言2016/02/03 01:28:27 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/02/03 01:06:16
オープニング
雪解けの季節。世界的、というより主に極東の島国でのみ、需要が激増する菓子がある。
平和だったころに比べ、輸送には危険が伴うようになったが、子供たち、恋人たちの笑顔の為に様々な人々が尽力していた。
今も、カカオを山積みした小さなトラックが山道をゆく。それを岩場から見下ろす、怪しい影があった。
「……連中が最近、やったらこそこそ運んでるアレは、いったい何なのかしらね? 秘密兵器か何だか存じ上げませんですけど」
愚かな神、と書いて愚神と読む。一敗地に塗れたことで人間を警戒するようになっていたグリムローゼは、何やら激しく誤解をしていた。
「善はハリー、必死こいて守ろうとする連中を蹴散らして蹂躙して踏み潰して憂さ晴らしでもしないとやってらんねー気分ですし、ちょうど良い生贄ですわね」
パーリーは盛大な方が楽しいですし、殺し合いならなおのこと、という彼女の意向で、その「情報」は一部の愚神たちの間に広まっていった。不幸な事に、そんな残念過ぎる発想に至った彼女を誰も止めてはあげなかったらしい。
本部に並ぶ依頼に、輸送中のカカオやチョコレート工場、果ては街角の手作り教室までを襲う従魔や愚神の対策願いが並ぶようになったのは、その数日後だった。
●亡者 in 商業ビル
「モテたい……モテたい……」
「死すべし……カップル死すべし……」
「チョコ……食いすぎた……」
「かゆい……あ、気のせいだった……」
7階建ての商業ビル、そこは亡者に占拠された悪夢の地。
説明しよう。亡者とは、愚神達が作り出したバレンタイン撲滅兵器である。彼らは世の中の非モテをモデルに作られ、外見はゾンビそのもの、リア充とチョコレートを滅却しなければ気が済まないという迷惑な性質を持っているのだ。
今日も、リア充共を成敗するため、奴らは大挙してこの商業ビルに押し寄せた。賑わっていたビル内はあっという間にもぬけの殻となり、悲しいうめき声と腐臭が漂うひどい場所になってしまった。
そして、たまたま居合わせたエージェント達も奴らの毒牙にかかり、窮地に立たされていた。
急襲を受けた際、それぞれ相棒が亡者に噛まれたのだ。すると相棒は挙動が怪しくなり、まるで敵の亡者のようにリア充への妬みや憎しみを口にし始め、やがて異常なほど何かを欲する禁断症状のようなものを発症してしまった。
変化した相棒達はすぐにビルのどこかのフロアへ走り去ってしまい、相方は独り取り残されることになった。
彼らは亡者が蠢くビル内を当て所なく動いている中で、自然と合流していった。
亡者が蔓延る商業ビルの中で、彼らは相棒を見つけ出し、無事救出することができるのか。
そして相棒の色々ヤバい姿を目撃しても、平静を保っていられるのか!
解説
※著しいキャラ崩壊を起こす危険があります。要注意だよ☆
戦闘描写なしのコメディです。
亡者に噛まれたことで、相棒の精神が汚染されてしまいました。
何とかして相棒を元に戻しましょう。
亡者化しているのは能力者・英雄のどちらか1人。プレイングで指定して下さい。
・亡者化した相棒
噛まれたことで何らかの影響を受け、自分を亡者だと思い込んでいる。
リア充や色恋に対して物凄い悪態をつき、貪るように何かにハァハァするようになる。何かはプレイング指定。
食べ物の場合は実際に貪る。
不完全な亡者化のため一般人を襲う危険はないが、あまりにも悲しい状態なので捜し出して治してあげましょう。
相棒は『自分もリア充なんだ、幸福なんだ』という感情を抱けば、気合とかそんなんで回復します。
あらゆるアプローチで相棒に訴えかけて下さい。
亡者化が解けても精神的にキているので、しばらく共鳴はできません。
・救出する相方
共鳴できないので武器等使えません。亡者の群れに突っ込むのは危険です。
大きいダンボール箱に隠れるなりしてスニーキングしましょう。
(複数人で入れば『ちょ、どこ触ってんのよ』的なやりとりができるぜ)
亡者はアホなので気づかないでしょう。ダンボール被って直立歩行してれば話は別ですが。
救出する側が英雄の場合、幻想蝶からアイテムを取り出せないのでご注意を。
携帯できる小物程度なら大丈夫です。
・商業ビル
1Fと2Fは家電やPC、ゲーム。
3Fが女性服。
4Fが男性服、スポーツショップ。
5Fが生活雑貨。
6Fは色々な店が並ぶスペース。(普通の商業施設になさそうな特殊な物にハァハァしている人はココに強制連行)
7Fがレストラン街。良い匂いがする。
屋上はキッズスペース。遊具やゲーム筐体がある。楽しい。
・亡者
ビル内を徘徊するリア充絶対殺すマン。
噛まれたら救出者の精神も亡者化する。
コメディなので噛まれるというプレイングをかけなければ噛まれません。
リプレイ
●拷問
7階、従業員が使うスタッフルームで動く小さな少女がいた。
「光司ー? 光司ー!?」
不安げに辺りを見回しながら、松葉 いそみ(aa0154hero001)は相方の三傘 光司(aa0154)を捜していた。ビルが襲撃された際、光司は亡者に噛まれながらも僅かに残った理性でいそみをスタッフルームに避難させたのだ。
おかげでいそみは一時の安全を得たわけだが、彼女は隠れ過ごすわけにもいかない。2人が交わした誓約が『可能な限り一緒にいること』だからである。
「今の状況……かなりマズイよね?」
急いで合流して、彼を元に戻さなければならない。彼女は7階に並ぶ店舗の厨房でこっそりとホットチョコ(という名のチョコレートを溶かしたお湯)を作り、そこらにあったポットに収容。
「コレで完成……あとは飲ませるだけなんだよ」
何故それを飲ませようと思ったのかは不明だが、彼女は意気揚々と出発。倉庫にあったダンボールを被っているので装備は完璧だ!
階段を使って下へと行くつもりだ。光司の居場所は見当がつく。6階のカメラ専門店だ。襲撃されるまで2人はそこに向かおうとしていたのだから。
ダンボール箱が通路を進む。予想された通り、館内は亡者がうろうろしている。だがダンボール装備ならば問題ないはずだ。いそみには自信がある。
だが実際は、ダンボールからはガラガラとポットを引きずる音が聞こえ、中身のチョコ湯も漏れ出してかなり注目を集めていた。しかしいそみは気にせず進む。
ガッスガス蹴られてもめげずに進んでいく。もうダンボールがボッコボコだけど大丈夫、多分。
苦難を乗り越え6階へ到達。もぞもぞと進んでカメラ店へ。
すると、いた。
店内のショーケースに肉迫している、いやもう顔面も体も押し付けて、展示されているカメラを凝視する光司がいた。憧れのキャメラを欲する光司、もう喉から手が出るほど欲しい。
というかもう実際出ていた。舌が。ベロが出ていた。カメラに向けて舌を伸ばしていた。
「光司……」
べろんべろんショーケースを舐め上げる光司を見ていそみは言葉を失う。もう舐めすぎて唾液が泡立っている。こわい。
ひとしきり舐め終わると、ベロリストは視線をカメラの値札に向ける。余裕の6桁超え。
「結局ハ金カァァ……」
「も、もう見てられないんだよ!」
ダンボールを脱ぎ捨て、いそみは光司に飛びかかる。彼女の体重は90kg超である。キツい。
「グェッ……!」
光司に馬乗りになり、いそみは手際よくポットを準備。中身のチョコ湯を光司の口にぶち込む。じたばたもがこうとねじ込む。
「タイムぅ!? いそみさん待っガボボボ……」
「早く戻るんだよ!? そうじゃないと契約がダメになるんだよ!!」
「戻ってますかラボボボボァ!?」
想像してみて欲しい。仰向けに寝た体に重石を乗せられ、身動きが取れない中で口にアッツアツの変な湯を注がれることを。
拷問である。
プロの犯行により光司は正気を取り戻すが気絶、いそみは涙目で立ち尽くしていた。
●約束
「共鳴できれば強行突破も出来たと言うのに、まさか目を離した隙に伊邪那美が迷子になるとはな」
6階の刀剣店に潜伏しながら、御神 恭也(aa0127)は不覚を悔いていた。小太刀の鑑賞に没頭するあまり伊邪那美(aa0127hero001)から目を離し、そのせいで亡者に襲撃された際に完全に離れ離れになってしまった。
「感染はしてないとは思うが、問題は何処に行ったかだな……」
彼女の居場所について恭也は3つの候補を考えていた。新しい服を探して3階、空腹に耐えかねて7階、暇潰しに屋上の3択だ。
まずは現在地から近い場所を捜す。恭也は7階のレストランに向かうことにした。通路の亡者に見つからないよう、警戒しながら足音を消して移動。家柄のためそういうことは朝飯前、難なく目的地に到着する。
薄茶色の液体で汚れた通路を通り、店舗を回ってみるものの伊邪那美らしき人影は見当たらない。背格好の似た少女が食料を貪っているのは見かけたが、その少女の髪色は緑であり、伊邪那美とは違う。恭也は内心ホッとしていた。
ついでに屋上にも足を伸ばしたが、人っ子1人いない。どうやら屋上にもいないらしい。
「となると3階にいるのか……?」
最後の候補、3階の女性服売り場に向かう恭也。ここにいなかったらお手上げだ。
しかしちゃんと予想通り、伊邪那美はそこにいた。自分に合うサイズの服を手当たり次第に試着し続けて、彼女の周囲にはぐちゃぐちゃの服が散乱していた。
おまけに何か愚痴りまくっている。
「他の英雄の子達は良いよね……契約者が優しくって……。ボクの場合なんかでりかしーはないし、食べ方が汚いとかはしたない格好をするなとか口煩い上に買い物なんかも付き合ってくれないんだから……ねぇ聞いてる?」
姿見に映る自分と喋っているんですが。情けない英雄の姿を目撃し、頭が痛くなってきた恭也は眉間を押さえる。
「なぜ、感染しているんだお前は……」
後ろから伊邪那美に声をかける。伊邪那美は素早く反応し、床に散らかった服をかき集めて距離を取った。
「渡すもんか渡すもんか渡すもんか渡すもんか……」
お経のように繰り返している。何これ怖い。しかし話は通じそうだし、説得できないこともなさそうだ。
「……服が欲しいのなら、また今度、お前の気が済むまで買い物に付き合ってやる」
予期せぬ恭也の申し出に、ギラギラと目を光らせていた伊邪那美が途端に正気に戻った。
「ほんとー!? いっぱい買って良いんだね!」
「……あぁ、そう言ったが……」
伊邪那美は抱え込んだ衣類をぽいっと放り投げる。あっさりと説得が済んで、恭也は肩透かしを喰らった気分である。
「にゃは~、楽しみだな~。荷物持ちしてくれて~、何時間でも買い物して良いんだよね!」
取り付けた約束が嬉しくて、すっかり浮かれている伊邪那美。先程の異常な様子は何だったのか。
「……お前、本当に感染していたのか……?」
芝居だったんじゃないだろうな、という疑念がどうしても湧いてしまう恭也であった。
●捕獲作業
「ただの買い物……だったんだけどな」
4階のスポーツショップにて、東海林聖(aa0203)は思わぬ事態に溜息をついていた。スポーツ用品や食料品の買い足しにやってきただけなのにこんな目に遭うとは。おまけに買い物中に英雄のLe..(aa0203hero001)はどこかで迷子になったようだ。
「アイツの事だ……どうせ腹が減ったとかで食い物があるフロアにいそうなもんだけどな」
そうなると可能性が高いのは7階のレストラン街だ。聖は買った物を全てリュックに仕舞い込み、木刀を手に構えて困った迷子の捜索にかかる。通路には亡者が溢れるが、奴らの視界に映らないよう注意しながら進んで聖は階段までたどり着き、急いで駆け上がる。
「迷子になりやがって……」
やれやれと呟いて7階のフロアに顔を出した聖は、その惨状に絶句した。恐らくこのフロアのあらゆる食料が食い散らかされ、無惨な残飯となっている。しかも食いかけの生肉まであるんですが、ルゥさん生で食べたんですか。
聖は食料の痕跡をたどる。そしてその先にブラックホールさながらに食料を吸引するルゥを発見する。賠償請求されたら経済的に死ぬ。
「……?」
モグモグと咀嚼していたルゥが聖に気づき、振り向く。続けてすんすんと鼻を鳴らす。嗅いでる。食料の匂いを、リュックの食料品の匂いを感じ取っている!
「いただきます……」
一直線に聖に向かってくるルゥ。
「どう見ても普通じゃねェな!?」
リュックに手を伸ばすルゥを聖は木刀で受け流して応戦する。
(普段のルゥ相手だったらもっとヤベェけど、変になってるせいで大したコトねぇな! ……つぅか獣か!)
獰猛な肉食獣の動きでルゥが迫る。上下左右から伸びてくるルゥの手を木刀で払い落としながら、聖は剣道3倍段という言葉を脳裏に浮かべ、素手のルゥに負けられるかと気合を入れ直す。
しかし、今のルゥに食料を強奪されることはないだろうが、このまま戦い続けるのはまずい。何かの拍子で亡者達が集まってくるかもしれない。
何か打つ手はないかと思索するうち、聖は妙案を思いつく。いや、当然の策か。
「ほら、ルゥ……食いモンだぞ!」
今まで守っていたリュックを放り投げる。敵は聖を狙っているわけではなく、食料を狙っている。ならばそれを利用して注意を逸らし、そこを叩いてしまうのが早い。
予想通りにルゥはシュバッとリュックに飛び込み、中身を漁り始めた。
「悪ぃな!」
ルゥの脳天に木刀を振り下ろす。その威力は肉食獣を止めるに充分なものであり、ルゥはそのままリュックを枕のようにしてうつぶせに失神した。
少しすると、ルゥは意識を取り戻した。叩きすぎたかと心配していた聖は胸をなで下ろす。
「ヒジリー……ルゥお腹空いた。ルゥまだ何も食べてない。早くご飯」
7階の食料を食い尽くした記憶は全くないらしく、その超常の食欲に聖は呆れ果てるのだった。
●腐ってやがる
「なんでこんなことに……いや、守れなかった俺の責任か……」
5階の雑貨屋に身を潜めながら、レオンハルト(aa0405hero001)は自分を責めていた。彼は相棒の卸 蘿蔔(aa0405)とバレンタインチョコのラッピング用品を買いに来ていた。そして亡者の襲撃を受けた際に蘿蔔が噛まれ、彼女はどこかへと消えてしまったのだ。
レオンハルトは店内で捜索用物資を調達し(代金はレジに置いた)、裏から大きめのダンボール箱を拝借した。立派なスニーキングスタイルで蘿蔔の救出に向かう。
「6階にいるだろうな……」
目指すは6階のアニメショップだ。行きたいと騒いでいたし、亡者化した際のハァハァした様子を見ればまず間違いない。
いざ出陣。階段は面倒くさいから堂々とエレベーターで降りる。道中に亡者の集団を見かけたらラッピングの箱を適当に投げてそちらに亡者を誘導させて安全確保。
目的のショップに到達すると、案の定、蘿蔔はいた。
亡者の襲撃のせいかわからないが店内は荒れていて、床にはアニメキャラの抱き枕やポスター等のグッズ、挙句の果てには男同士が絡み合ってるそういう本が散乱していた。そのグッズ達に囲まれ、蘿蔔は寝転がっていた。
「やっぱ……三次元、なんて……クソなのです。くふふふ……ふふふ……ハァハァ」
あ、これ散らかってるのこの子のせいですね。亡者達が放つものとは別種の腐臭のせいで周囲には亡者すらいません。
(どうしよう……いつもの蘿蔔だ!?)
亡者化しているはずなのに蘿蔔の言動は普段と変わらないという事実にレオンハルトは頭を抱える。
「おい、早く逃げるぞ……って見向きもしねぇこの腐った大根めっ」
抱き枕にしがみついて荒い呼吸を続ける大根をどうしたものか、と考えていると、ふと散らばったBL本の1冊に目が留まった。その帯に。
『俺なしじゃ生きていけない身体にしてやるよ』
これだ。
大根を救うには、これしかない。
「頼む蘿蔔、目を覚ましてくれ。お前がいないとダメなんだ……俺は、お前なしじゃ生きていけない体なんだ」
渾身のセリフ。レオンハルトは単純に英雄は能力者がいなければ生きていけないということを伝えたかったのだが、蘿蔔のフィルターを通すと全く別の意味となる。
「ふぁーーーっ!!」
びくんと起き上がった蘿蔔は赤面し、大声を出し、狂ったように床に何度も頭を打ちつける。これはヤバい。
「や、やめろ! さっさと行くぞ……!」
発狂する蘿蔔を引っつかんでダンボールに引きずり込み、撤退しようとする。
だが、レオンハルトが発したセリフに惹かれて亡者達がうようよと押し寄せていた。
「くっ、しまった……」
蘿蔔はわーきゃー騒いで共鳴どころではない。ここまでか……。
と、思った瞬間。
「亡者風情が娯楽なんぞに手ぇ出してんじゃねえぞオラァ!」
「従魔にアニメは百年早いの……ね、トラ」
亡者達に詰め寄って脛をガンガン蹴りつける2人組のヤバい亡者が出現。執拗にガッスガスと脛を蹴り続けている。鬼の形相で。
突如現れた2人組は嵐のように、亡者達を連れて店から去っていった。
「助かったのか……?」
ダンボールの隙間から様子を探るレオンハルト。傍らでは蘿蔔がハァハァしている。正気なのに。
「あの……さっきのもう1度言ってもらえませんか……?」
「この腐った大根め……」
●消火器は危険
桜木 黒絵(aa0722)は1階を彷徨っていた。
「コメディとかいらない……亡者とかいらない……笑いとかいらない……」
シリアス展開を渇望する黒絵は、亡者化して以降このような呟きを発し続けていた。1階を彷徨っているのは上階にコメディの波動を感じ取ったからかもしれない。
「ここにいたのか、黒絵!」
聞き覚えのある声、これは彼女の英雄のもの。生気のない目で彼女は声がする方向を見る。
「!?」
黒絵は己の目を疑った。
バァァーーン!
そこにはどこぞの聖帝ばりに、亡者の神輿の上で悠然と座すシウ ベルアート(aa0722hero001)の姿があった。
説明すると、彼は黒絵を捜索中に案の定、亡者と遭遇。「Join us」と勧誘してくる亡者達に対し逆に彼らを懐柔した後、あれよあれよと担ぎ上げられて気づけば神輿の上の聖帝となっていたのだ。
「でかくなったな小娘。……じゃなかった、助けにき――」
飛来する消火器がシウの額にクリーンヒット。彼が落下すると、頂点を失った神輿はあっさりと瓦解した。登場の仕方が悪すぎたようです。
「全員正座」
コメディ憎しの黒絵さん、やってきたシウと亡者達をその場に正座で並ばせる。
「大体いつもシウお兄さんは……」
「いつになったらシリアス部分を見せるのよ!」
「貴方達も女性にデリカシーが無いからモテないのよ!」
「私がどんな思いをしてるのかわかってるの?」
スーパーお説教タイムは30分近く続いた。うんざりした亡者達はシウの体をつつく。
「何とかしろ……」
「いやこれは僕1人の責任ではないよ。そもそも彼女をあんな風にしたのは君達じゃないか」
小声でやりとり。
「あれ噛んだ奴……誰だよ……」
「俺じゃない……」
「噛んでない……あんな貧乳……」
「君は後で校舎裏に来るんだ」
「聞こえてるのよーー!」
黒絵の怒りの消火器が再びシウの頭を捉える!
「わ、わかった! すまない! こうなったら胸の内を全部吐き出してくれ! とことん付き合うよ!」
どっか、と胡坐をかいて男らしい姿勢を見せるシウ。
「説教してるのに何で胡坐なのよ!」
冴え渡るツッコミ、消火器で思い切りシウの頭を叩く。
が、今度は当たり所が悪かったのか、シウはそのままぐったりと横になり……動かない。
「……あれ、シウお兄さん?」
消火器を持ったまま呆然とする黒絵。亡者の1人がシウに近づき、状態を調べる。
「反応がない……」
黒絵を振り返り、重傷を告げる亡者。ショックで消火器を取り落とす黒絵。
「そんな……シウお兄さん、起きて、起きてよ!」
黒絵は駆け寄り、シウの上体を抱きかかえて涙ながらに訴える。シリアスキタコレ。
正気を取り戻す黒絵だったが、自分が結構まずい状態にあることを知る。周りには女に飢えた亡者達。
「お、女……貧乳だが……」
「これで俺達もリア充……貧乳だが……」
にじり寄る亡者達。
「何!? 近づいてこないでよ! っていうか失礼すぎるよっ! モテないのも納得だよ!!」
憤慨しながらも大ピンチな黒絵さん。シウが今のままでは共鳴も出来そうにない。
と、そこへ乱入者。
「なにガンくれてんだオラァ! 人様の通路塞いでんじゃねえぞオラァ!」
当たり散らしながらヘッドバットをかましていくマフィア亡者出現。肩車で少女が乗っかっており、マフィアが頭を振る度に彼女も振れる。振れながら彼女もヘッドバットしている。二段設計なの?
暴れる子連れマフィアは台風のように、亡者達を連れてどこか別の場所へと去っていった。
「た、助かった……のかな?」
シウは倒れたままだが、多分大丈夫だろう。
●脱人間
元々が亡者に近い思考をしている者は、噛まれても影響が薄いのかもしれない。江口 焔(aa1072)はがっつり噛まれても特に普段と様子が変わることはなかった。
「何だ、何なんだこの……亡者共へのシンパシーは!?」
「あっはっは♪ まあ似てるからじゃ……ぐっ!」
焔の相方の臼鳥沢 優雅(aa1072hero001)は突如、頭を押さえて蹲る。彼もしっかり亡者に噛まれていた。
「ぐぅ……リア充……許せ……る! 狭量な人間なんてエレガントとは程遠いからね!」
「沢! 待ってろ、今助け……って治ってるじゃねえか!」
脳内が基本的にお花畑な優雅は、湧き上がるエレガントシンキングで亡者化から回復したらしい。だが、彼にはたったの一瞬だろうと醜悪な存在になりかけたことが耐えられなかった。ふらっとよろめき、吐血しながら傍らの焔の腕の中にその身を預ける。
「すまない……エレガントさのない僕はもう……エレファント、いわば象さ……」
「誰か! 助けて下さい! っていや生きてるし。まあそれは良いからとりあえず象に謝ってこい」
「その惜別の言葉……とってもエレファン、ト……」
しょうもない言葉を最後に、優雅は逝った。
それを看取ると、焔は優雅を適当にポイして己の欲望のために動き出す。彼が向かう先、それは3階。
女性服売り場である。もっと言うと下着である。
ハァハァしながら3階を徘徊する焔。そしてランジェリーショップを素早く発見、踊るような足取りでレッツゴー。
「これは……楽園!」
目の前にこの世の全てがある。顎に手を添えながら商品を吟味、そして厳選したブツを手に取る。
「それはダメです! もう戻れなくなりますよ!」
焔を制止する声が聞こえる。振り向けば、いつの間にか蘿蔔とレオンハルトがいた。2人は友人である焔達を助けるため、どうせここだろうと真っ先に3階へと下りてきていた。
「戻れない、だって?」
「そうです。それを被ったら……もう……!」
必死に説得する蘿蔔だが、内容が内容なだけに自分で悲しくなってくる。
だが、焔は覚悟を決めている。
そっとブツを顔の位置まで持ち上げ、そして――。
「グッバイ道徳社会、いざリビドーの解放区! 俺は人間をやめるぞぉぉーーーッ!!」
全てを解き放ち、焔は被る。
女性用下着を。
「な、なんてことを……!」
「こ、これは! この奥底から湧き上がる衝動は何だ……!? エ! エロスタシィィィ!!」
注釈しておこう。女性用下着とは、人間が被ることによってその者の能力を飛躍的に高めることができる、とってもすごい頭部装備なのである。ただし一部の特殊な人間のみに有効なので、良い子は真似してはいけない。
パンツを被ってこめかみに指をグリグリしている焔。最高にハイになっちゃってますね。
「クロスアウッ!! フォォォォ!!」
意味不明な絶叫と共に焔は全速力でその場から走り去っていく。恐らく館内にいる女性に片っ端からセクハラするつもりなのだろう。
「ちょ、それ本当にヤバいですからーー!?」
暴走する焔を追い、蘿蔔とレオンハルトも3階を後にするのだった。
●初めて
宇津木 明珠(aa0086)が目当ての本を見つけられずに6階の書店を出てくると、辺りには亡者しかいなかった。店外の通路で待機させていた金獅(aa0086hero001)の姿もない。
明珠は仕方なく金獅の捜索を始める。本に興味がない金獅が書店にいるとは考えにくい、まずはフロア内の別店舗を捜す。だがどこにも見当たらない。
次に4階を捜索するが、そこでも明珠は金獅を発見できなかった。続けて3階を捜そうと階段を下りようとした所で、性質の悪い亡者に絡まれた。
「グヘヘ! オレサマリア充マルカジリ!」
女性用下着を顔に被った焔です。無視して通過しようとするも、この亡者は明珠が進もうとする方向に立ち塞がって妨害してくる。
「ディーフェンス! ディーフェンス! グヘヘ!」
明珠の機嫌は臨界点に到達。
問答無用で顔面に爪を立て掌底、淀みない動きでみぞおちに肘鉄、更に急所を蹴り上げる無慈悲なフルコンボで彼を床に沈めた。
「セクハラはまずいですよ! ってあれ?」
蘿蔔達が焔を追ってやってきたが、彼女らが目にしたのは股間を押さえて気絶している焔と、迸る殺気を纏って彼を見下ろす明珠。さては死んだな、と2人は一瞬で悟った。
「えっと、あの、大丈夫ですか? 顔色が良くないようですけど……これに何かされました?」
蘿蔔は焔を指差しながら、おずおずと尋ねる。
「いえ、問題ありません。お尋ねしたいのですが、金髪で変わった目をした男性を見かけなかったでしょうか?」
「す、すみません。見ていないです……」
「そうですか、それでは失礼致します」
さっさと階を下りていってしまう明珠。蘿蔔は彼女の背を見送ると、レオンハルトと2人で焔を引きずって館外への脱出を始めるのだった。
どこを捜しても金獅が見つからず、明珠は最初にいた書店に戻ってきていた。
そしてそこで、女性ファッション誌を貪るように読む金獅を発見した。
「ガキだって……こういう格好すれば……」
ぶつぶつ呟きながら、明珠に似たモデルが写るページを見つけては破っている。何かもう丸めて口に放り込んだりもしている。明珠は本気で契約破棄を考え始める。
だが悩んではいられない。亡者を相手にしていたせいで体力の限界が近いし、何より服とかベタベタして臭い。早く帰りたい。
ずいずいと明珠は金獅に歩み寄り、彼の長髪をむんずと掴んで振り向かせる。更に馬乗りになって顔を両手で掴み、親指で彼の死んだ目を見開かせて一喝する。
「私の笑顔を見るのはどうしました! いい加減にしなさい!! 大体その目は私の担と……う」
新刊の発売日だからと体調不良を押して無理をしたことが祟り、明珠はそこで気を失ってしまった。支える力を失った彼女の頭が重力のままに落ち、金獅の鼻に直撃する。
初めて明珠が声を荒らげる所を目撃した。金獅は鼻を押さえながら目を白黒させ、混乱の末に徐々に正気を取り戻していった。
(1度も俺に触らなかったガキがこんな格好で怒鳴るとか! つーかガキの怒鳴り声とか初めてじゃね!?)
初めての経験に感動し、その嬉しさで顔が綻んでしまう。しばらくはその感情に浸りたい、と金獅は明珠に乗られたままにやにやと寝転がっていた。
その後すぐに明珠は目覚め、金獅は白い目で見られた上に強烈なビンタをもらったそうです。
●悲しみの獣
時を遡り、亡者が施設を襲撃した直後のこと。
亡者との遭遇は、獅子ヶ谷 七海(aa1568)と五々六(aa1568hero001)にとって初めての経験ではなかった。任務で1度対応したことがあり、その時は難なく殲滅してみせている。本来ならば彼らが遅れを取るような相手ではないのだ。
だから、館内で七海が亡者に噛まれ、精神汚染されてしまったのは単純に不運であっただけだろう。
五々六が少なくない時間を共に過ごした少女は、何かブリッジしながら猛スピードで階段を上り下りしていた。何これ。
「……人間、ああなっちゃ終えだよな。次の契約相手を探すか」
亡者の襲撃をしっかりやり過ごした五々六は、哀れなる七海の姿を遠い目で見つめていた。もう七海は手遅れだろうと早々に見切りをつけ、その場を去ろうと踵を返す。
その時。
眼前に、大きく開いた亡者の口。むき出しの犬歯。いつの間にか接近していた亡者がすぐ傍まで迫っていた。
「あっ」
「幸せそうな人たちが憎い……子々孫々まで祟り殺さん……ね、トラ」
「結婚もしてねえのに……なんで俺はコブ付きなんだ……クソが……」
ビルを徘徊する悲しき2匹の獣。彼らは己の不幸を呪っていた。そして己を不幸にしたものへの憎悪を激しく燃え上がらせていた。
それは愚神だ。
従魔がいなければ七海は両親と幸せに暮らしていただろう。愚神がいなければ五々六がこちらの世界にやってくることもなかっただろう。
奴らがいなければ――その一念が2人を突き動かす。復讐心が突き動かす。復讐にその胸を高鳴らせ、ハァハァする。
全ての愚神を打ち滅ぼしたその時こそ、私は、俺は、リア充になるんだ。
そんな悲愴な妄想に駆り立てられた2匹の獣は、その後あちこちで散々暴れまわった挙句、H.O.P.E.から要請を受けてビルに突入した別働のエージェント達に亡者と勘違いされて武力行使をモロに喰らったが、奇跡的に重体にはならなかったようである。
色々と危険な目に遭ったものの、館内のエージェント達は全員無事に生還を果たしたのだった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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