本部

愚神グリスプの迎撃『地に騎兵、天にヘリ』

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/02/15 15:48

掲示板

オープニング


 とある高速道路への入口で、馬蹄の響きと共に、黒い何かが料金所ETCレーンを突破した。
 前方にかざされたレバーをぶち壊され、馬蹄を響かせ立ち去る何かの特徴を、職員は自分の所属する部署ではなくH.O.P.E.へ慌ただしく通報する。
 だがその職員の声は、新たに近づいてくる骨を鳴らす音の群れと複数の馬蹄の轟きから、無数の発射音と共に放たれた弾丸の群れに料金所ごと解体され沈黙した。
 料金所の原型を留めぬ隙間を破り、殺意達は高速道路本線へと駆け登る。


 その高速道路上では、H.O.P.E.所属の調査隊を載せた車が支部への帰路についていた。
 すでにこの世界にはワープゲートというワープが可能な装置も存在するが、支部や本部間での移動は可能でも、それ以外の移動では様々な制約があるため、既存の移動手段を利用する事が多く、この調査隊も例外ではなかった。
 棲家に困る人達に、家を用意して誘い込み、ライヴスを奪う愚神がいる。自分だけが逃げ延びるためなら手段を選ばず、敵も味方も利用するというある意味愚神らしい愚神で、その名はグリスプという。
 先日該当する事件が起こり、H.O.P.E.が踏み込んだところ、その家は爆発し、中から複数の従魔達が現れた。
 エージェント達の奮戦の末、従魔達は討ち取られ、辛うじて息のあった生存者は救出された。
 そしてその人物の持つ手がかりには、次のグリスプの動きはとある地方の大学に通う学生を狙い、『下宿屋』という形で学生達を誘き寄せ、ライヴスを収奪する事だと判明した。
 H.O.P.E.は直ちに現地へと調査隊を派遣し、いなくなった学生の有無を調べ、正体不明の下宿屋の情報などを集め続け、ついに該当する物件を探り当てた。
 しかしH.O.P.E.調査隊の連絡を受け、派遣されたH.O.P.E.先遣隊がその家に踏み込んだ時には、半死半生の学生達が周囲に転がっていたが、グリスプらしき初老のスーツ姿の男の姿はなかった。
 だが手がかりも得た。
 H.O.P.E.先遣隊は学生達を救助後、調査隊にその手がかりを託し、さらに追跡を行っている。
 その手がかりは今、調査隊の1人が有するマテリアルメモリーカード内に保管され、何事もなければ自分達と共に本部に届く。
 今のところは順調に追跡は進んでいる。そんな雰囲気がH.O.P.E.調査隊の車内を包む中、耳慣れぬ馬蹄の響きが車内にいる調査隊の鼓膜を震わせた。
 思わず後部座席のエージェントが後方へと目を向けた先には、迫りくる異形達の姿があり、その先頭には、白い骨の姿で疾駆する馬に騎乗する黒コートに黒ヘルメットの男がいた。
「黒コートに黒ヘルメットって……おい、冗談だろ? 『ピエタ』はグリスプに謀られた末に、生駒山であのエージェント達が殲滅した筈だ」
 唖然とした声を上げたリンカーの横で、別の仲間が自分の意見を述べた。
「ヘルメットもコートも簡単に手に入る。外見はピエタだろうが、中身は別だ。あの動きからすると、あいつだけは従魔じゃない。愚神だ」
 その愚神と思われる存在が、握る剣を前に振ると、後続の骨馬達に騎乗する骸骨達が速度を速めて前に出て、H.O.P.E.調査隊の車へと馬蹄の響きを轟かせて肉薄する。
 骸骨達は骨のこすれ合う音と馬蹄を響かせながら、小銃を頬付して、引き金を引く。
 骸骨達の構える小銃が間断なく咆哮し、殺意の群れが途中に走る車を蜂の巣に変え、運転手が射抜かれ次々と失速し、横転する中、障害と化した車達を飛び越え、骨の人馬の群れは、H.O.P.E.調査隊の車を追い続ける。
 対するHOPE調査隊の人達も共鳴化し、窓から後方へ銃器系の武器を伸ばし、後方から迫る骨の人馬たちに応戦する。
 AGWの掃射が命中した骸骨達は、次々と破砕され、その姿を光の粒子に変えていくが、その間にも別の骸骨達からの掃射で、H.O.P.E..調査隊の乗る車に無数の弾痕が刻まれ、後部ガラスが吹っ飛んだ。
 残る骸骨達が小銃をなおも掃射するが、その攻撃は共鳴化したリンカー達の体に火花を咲かせるも、ダメージがほぼなかった。
「どうも奴らは攻撃力が低いらしいな。そして俺達の武器はあの骸骨どもを簡単に倒せる」
 自動小銃の形状をしたAGWで応戦していたリンカーはそう呟き、敵の開けた後部窓の穴より武器を咆哮させ、さらに骨の人馬の数を減らしていく。
 だが、それも上空から迫りくる爆音が聞こえるまでだった。
 思わず上を見上げたリンカーの視線の先に、ローターを回転させるヘリの姿と、ヘリから身を乗り出し、こちらへ赤い光を放つ黒い人影が見えた。
 本能的に危険を感じたリンカーが、運転する別のリンカーに『急ブレーキ!』と声を発した。
 応じた運転手の仲間がブレーキを踏んで上空からの赤い光の照射から逃れ、赤い光は眼前の道路に照射される。
 次の瞬間、それまで聞こえていたものとは別の砲声と共に、赤い光を浴びた道路は爆ぜ、粉砕されたアスファルトの土柱を噴き上げ、大きな陥没に変わり、運転していたリンカーはハンドルを慌ただしく操って、なんとか車は陥没をかいくぐる。
「走り続けろ! 止まったら狙い撃ちにされる!」
 仲間の声を受け、H.O.P.E.調査隊の車の速度が上がり、地上からは漆黒の男が骨の馬を駆り、残る骨の騎兵と共に馬蹄の響きを轟かせ、空からはヘリが爆音と砲声と共にH.O.P.E.調査隊の車を追撃する。
 その中で車内では車の運転、応戦、H.O.P.E.への状況の逐次報告役に役割分担して、陸と空からの猛攻をかいくぐる中、リンカーの一人が悔しがる。
「あのエージェント達の言っていた懸念は本当だった。奴が生存者や手がかりを残したのは『それ自体が俺達H.O.P.E.を誘き寄せて殲滅するための罠』だったんだ!」
 するとこの手がかりもまた。
 猜疑の種がリンカーの心に忍び寄る。
 やがてH.O.P.E.調査隊の緊急連絡を受け、途中のインターチェンジからH.O.P.E.が緊急手配した、複数台の大型トラックが次々と本線に合流後、強引に調査隊の車後方に陣取り、走る鋼鉄の壁と化して立ち塞がる。
『今、本部の方で手配した残りの増援もこちらに向かっています。それまで私達が持ちこたえます』
 トラックの群れの中からの無線が、H.O.P.E.調査隊のもとへ届き、リンカー達は安堵する。
 だが、いまだ上空にヘリが君臨し、骨の騎兵隊も未だ追撃を諦めず、予断を許さない状況だ。
 一連の状況をヘリの上から眺めていた、先に道路に大穴を開けた砲撃を放った愚神が、機器の向こうにいる存在へ連絡する。
『たまにはこうしてお出迎えに上がらなければ、ご高名なH.O.P.E.の皆様に失礼というものです』
 通話先にいた愚神グリスプは昏く微笑み、地上と空を駆ける配下の愚神2体にH.O.P.E.エージェント達の殲滅を命じ、通話を切った。

解説

●目標
 敵の撃破及び手がかりを持つ調査隊を守り抜く
 今回以下の形で迎撃方法が選択可能。
 1:防壁役のトラックに既に同乗しており、各トラック荷台上を渡り回り、ヘリや騎兵を迎撃する。
 2:貸与されたバイクを駆り、騎兵やヘリを後方から猛追し攻撃する。バイクの最高時速は120km。

 登場
 デクリオ級愚神2体
 いずれも黒コートに黒ヘルメット姿。ヘリにいる愚神は狙撃銃を装備。略称『銃愚』。地上で骨の騎兵隊を指揮する愚神は剣を装備。略称『剣愚』。これまでの交戦で判明しているのは以下の通り。
 『銃愚』
 赤い光を放ち、照射した場所を砲撃する。推測射程18。

 『剣愚』
 下記の従魔たちのうち、馬型に乗って従魔達を指揮し、自らも剣を振るう。

 ミーレス級従魔8体。馬型の骨(通称『馬骨』)4体、骸骨(通称『骨』)3体、廃棄されたヘリに憑依した従魔(通称『ヘリ』)1体で構成される。馬型の骨に骸骨が乗り、骨の騎兵(通称『骨騎』)となり、現在3騎となりトラック最後尾より30m後方を追撃中。
 『骨馬』
 最高時速100kmで走るが物理魔法耐性共に弱い。

 『骸骨』
 上記『骨馬』に乗り射程9の小銃を撃つ。車やバイクには脅威だが皆様には低威力。同じく弱い。
 
 『ヘリ』
 『銃愚』の指示で、車とほぼ同速度で現在トラックの群れの上空10m~30mの間を飛び回る。同じく弱い。

 状況
 現在片側3車線の高速道路上を以下の形で全て同速度、時速80kmで疾走中。
  ↑
  ○(調査隊の車)
 □□□
 □□□
 □□□
  ↑
  ▲『剣愚』
 ●●●『骨騎』
  ↑
  2
 □:トラック9台(各車両寸法は全幅2.5m、全長12m。全高約4m)
 『ヘリ』は□の上空を飛行中。
 選択肢1は□の中から開始。
 選択肢2は『骨騎』後方より20mより開始。いずれも1ターン内で敵と接触可能。
 現在別働隊により高速道路は封鎖中。周辺は人のいない無人地帯。無線貸与済。

リプレイ


 高速道路上を、複数の意志を抱える一群が、火花と様々な音を散らして駆け抜ける。
 先頭をひた走るH.O.P.E.調査隊の車は焦燥に駆られ、後続する大型トラックの群れは守護の意志を示す中、さらに後方から猛然と鳴り渡る小銃の発射音が着弾音と共に響いてくる。
 1、2発という単位ではなく、号令に従って放たれる、連続射撃の轟音だ。
 増援であるバイクにのったエージェント達が来るまで調査隊の車を守り抜くのがトラック群の役割だが、ここにもすでに無線機を借りた精鋭たちが先発し、迎撃前の準備を車内で行っていた。
『調査ですが、かなりの人数を動員する事になりますよ』
 通話先にいる担当官からの声に、石井 菊次郎(aa0866)は『それでお願いします』と告げた。
 既に調査隊より、交戦中の愚神達がどこかと連絡を取り合っていると伝えられ、その内容を菊次郎たちは把握している。現況から考えると、その通話先は愚神達の上位存在である、愚神グリスプの可能性が高い。
 ゆえに通信が維持されている間に居場所を突き止めるべく、別働隊には通信機が無線と電話双方の可能性を考慮し、無線傍受と中継器の探索と掌握、電話機会社をあたり、電話機の把握など様々な手段を用いてグリスプの居場所を特定するよう依頼していた。
 大人数を擁した活動になるので時間がかかると通話先より伝えられたところで、菊次郎が通話を切ると、隣にいるテミス(aa0866hero001)より声をかけられた。
「主よ。今回はやけに精力的に動こうとしておるな」
「グリスプの居場所を突き止めるには、早い方がいいかと思いまして」
 トラックのエンジンがあげる轟音に紛れ、菊次郎とテミスはお互いだけに聞こえる音量で話し合うが、これは理由がある。
『前回といい、今回といい、グリスプの逃げ足は速すぎます。情報が漏れている可能性も考慮した方がいいかもしれません』
 坂野 上太(aa0398)からの無線が、トラックに同乗していた『増援』の仲間達に告げられる。
「坂野のおっさんも心配性だな」
 バイラヴァ(aa0398hero001)は上太に苦笑を投げかけるが、一方で情報の取り扱いの重要性については理解していた。
『詮索は調査隊を無事送り届けてからでも遅くないだろう?』
 既に螺旋を描く炎の幻影がつかの間全身を包み、ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)との共鳴化を終えた無月(aa1531)は、そう無線で仲間達に告げると、トラックに乗る仲間達が迎撃態勢を整えるまでの間、調査隊の車を守るべく、トラックの外へとするりと抜け出し、揺れる足場をものともせずに調査隊の車の天井に無音で着地して、調査隊の車を守る配置につく。
 既にメグル(aa0657hero001)との共鳴化を終え、髪にメグルの特徴とローブを纏う姿となった御代 つくし(aa0657)は、先頭を走る調査隊と無線で交信を続けていた。
『何か異変があったらすぐに知らせてね。皆さんは必ず私達が守るから!』
 つくしの声に、調査隊の人達も己を奮い立たせようと、車のアクセルを踏み込んで、飛来する殺意の群れに車体を少しずつ削り取られながらも、周囲を飛び交う銃弾とアスファルトの欠片の群れの中を、強引に突破する。
(死守しましょう。やられるわけにはいきませんから)
「やっと手に入れた手がかりだもんね。渡すわけにはいかないんだから!」
 メグルの声に応じるように、戦意に満ちた声をつくしは上げ、調査隊の車を守護する位置につく。
 そんなつくし達に向け、追撃をかける黒ヘルメットと黒コート姿の愚神(以下剣愚と略)は骨の馬を駆って剣を前に振るい、指揮を受けた骨の人馬で構成された騎兵3騎(以下骨騎と略)は馬蹄の響きと共に小銃を連ね、猛烈な射撃を繰り返す。
 さらにトラックの上を爆音と共に飛翔するヘリから身を乗り出し、剣愚と同じ外見を纏う愚神(以下銃愚と略)は赤い光を放ち、逃げる車達をつかの間光が撫でて回り、砲撃音と共に、車列前方の道路を砲弾が穿ち、粉砕されたアスファルトを含んだ土柱がそそり立つ。
 さらに砲撃を加えようとした銃愚だったが、トラックの中から荷台へと片手一本で躍り出た何かに気付き、ヘリを真横へ翻させ、その直後、先程までヘリのいた空間を下からの火線が貫いた。
 アリス(aa0040hero001)と共鳴し、人と機械が美しく融合した姿となった佐藤 咲雪(aa0040)からの狙撃だ。
 高速で吹き荒ぶ寒風も、周囲から降り注ぐ道路の破片も、咲雪に影響を及ぼすものではない。
(調査隊の車を護りきるのが今回の仕事の最低目標ね。だから、一番近い敵を撃破するなり脱落させるなりが一番かしら)
「……ん、分かった」
 咲雪の稼いだ時間を使い、ナラカ(aa0098hero001)と共鳴化し、髪に銀色と長さを、瞳に真紅の焔気を宿した八朔 カゲリ(aa0098)や、アイリス(aa0124hero001)と共鳴化し、瞳を全身に纏う金色に変え、アイリスの勇姿を得たイリス・レイバルド(aa0124)が次々とトラック荷台上へと飛び出し、イリスが顕現させた狙撃銃がヘリに向けられると、銃愚はさらにヘリへ回避行動を命じ、頭上からの砲撃が妨害される。
(実際に撃たなくても、撃つぞという姿勢を見せれば、それだけで砲撃は妨害できるようだ)
(わかったよ、アイリス。次はあの豆鉄砲達から車を護りにいくね)
 イリスの内より、アイリスは適切な助言を欠かさず、イリスも素直に応じて、後方から殺到する銃弾の群れに対処するため、武器を透明な盾に切り替える。
(覚者よ。あれが『へり』と言う物なのであろう? 愚神も随分と近代的になったではないか。まあ墜とすが。負けるでないぞ)
 頭上を賢しく飛び回られるのも、私としては癪に障るでな。
 カゲリの中にいるナラカの不敵な口調に、カゲリも冷静に頭上を旋回するヘリの動向を目で追いながら応じた。
「相変わらずこういう時のお前は雄弁だな。だが、お前の言う通り、負ける気などないし、考えていない」
 既にヘリは爆音を残して舞い上がり、カゲリが顕現させ、両手にそれぞれ握る二挺拳銃の射程圏外に逃れている。間合が狭まった時が勝負だ。
 その間にも、共鳴化し、髪と瞳にバイラヴァの色を纏い、青年時の姿となった上太と、共鳴化し、テミスを己が魔法書の十字の意匠へと纏わせた菊次郎も次々と各トラックより現れた。このうち上太は、別働隊より借用した命綱を、やや余裕のある長さに引き延ばしたうえで、トラックと己の間に結びつける。
(スリルは楽しめそうだね。ボクはこういうの大好きだよ、無月は違うのかい?)
 調査隊の車を護る位置についていた無月の内より響くジェネッサの声に、無月は淡々と応じる。
「私はただ任務を遂行する。それだけだ」
 そしてジェネッサにのみ聞こえるように、心の声でこう告げた。
(間もなく役者が全員この場に揃う。スリルが欲しければ、この後起こる戦いの中で感じ取れ)
 そんな無月の言葉通り、骨騎の鳴らす馬蹄の響きの向こうより、複数のバイクの稼働音が近付いてきた。
 3つのバイクが発するエンジンの雄叫びが、周囲の光景が高速で背後に去っていく戦場を震わせる。
 愚神の生み出した騎兵が骨の人馬ならば、こちらは人と、人の作り出した鉄の馬だ。
 リーヴスラシル(aa0873hero001)の世界の作法に則った共鳴で、光の鎧と冠を纏う姫騎士姿となった月鏡 由利菜(aa0873)、バルトロメイ(aa1695hero001)との共鳴化で、普段温和な表情を凛とした歴戦の勇士のものに変え、片方の瞳に紅色を、体に英雄の勇姿を得たセレティア・ピグマリオン(aa1695)、そしてネイ=カースド(aa2271hero001)と共鳴化し、片腕と体の各所に炎を思わせる光沢と、ネイの闘志を宿した煤原 燃衣(aa2271)がバイクを疾駆させていた。
「初乗りで操縦のマスターと任務を同時達成……。厳しいですね」
(ユリナ、自動二輪の操縦は私がサポートする。ユリナは戦闘に専念しろ)
 そんな由利菜をリーヴスラシルはサポートし、状況を見据える余裕を由利菜に持たせる。
 眼前で駆けるのは、骨の人馬達だが、いくら今までの戦闘で数が減ったとはいえ、数が少なすぎる事に由利菜は不審を抱く。
「随分戦力が小出しですね。本当に手駒が足りていないのですか?」
(それとも、また何か企んでいるかもしれない。奴は私達の見えないところで動き回ることが多いようだからな)
 実はこの時リーヴスラシルは、グリスプの本性の1つを言い当てていた。
 その間にも、セレティアの駆るバイクが、これ以上犠牲者を出さぬとの決意と共に速度を上げる。
「ずいぶん派手に荒らしてくれたものだ。補修費用も奴らに払ってもらわねェと、つり合いがとれねェ」
 セレティアの言葉を引き継ぐように、燃太もその目を光らせて殺意と共に咆哮する。
「今なら裁きも大サービスだ。地獄までの片道料金、くれてやるからとっときな。グリスプとかいう外道のデク人形共!」
 燃衣の戦意に応じるように、バイクも咆哮して加速し、骨騎達との距離を詰め、高速に機動する戦いが始まる。
 

(まず後続の敵を牽制して下さい)
「近づけさせないよっ!」
 トラック最後尾に駆け寄ったつくしが、メグルの助言のもと、骨騎達に向かって手と突きだすと、轟然と目の前に火柱があがり、炎の腕は追撃する骨騎の前を走っていた剣愚の前を掠め、剣愚の勢いを鈍らせた。
「退け!」
 剣愚の指示に従い、骨騎達も速度を落として後退する後ろから、バイクを駆る由利菜、燃衣、セレティア達が追撃をかける。
 最初に応じたのは、骨騎でも、それらを指揮する剣愚でもなく、ヘリに乗る銃愚だった。
 赤い光が先頭を走る由利菜ではなく、そのバイクに照らされる。
「そう来ると思っていましたよ!」
 由利菜が透明な盾を顕現させると、器用にバイク前方を覆い、直後上空より飛来した、砲声を伴う攻撃を受け流して、己の駆るバイクを護りぬく。
(乗り物を守らなければならないのは、こちらも承知です!)
 由利菜が銃愚の攻撃を凌ぐ間にセレティア、燃衣のバイクが骨騎殲滅のため動き出すが、剣愚の駆る馬の速度が見る間に遅くなり、骨騎達に追いぬかれ、最後尾となって、セレティアと燃衣の目前に、無防備な背中をさらしたまま近付いてくる。
「お前はここで黙らせる。一歩たりとも進ませねェ!」
 セレティアの発する一喝と共に、突風の速さで放たれたセレティアの分厚く重い武骨な大剣が一閃し、剣愚の駆る骨馬に殺到するが、剣愚の指示の下、疾走の反動を利用して骨馬は跳躍し、そのまま走っていれば骨馬の体を占めたに違いない空間を、セレティアの刃が両断した。
「砕けて消えろ!」
 着地した剣愚のもとへ、時間差をおき電光の速度で放たれた燃衣の非常識な大きさのブーメランが旋回し、楕円の軌道を描きながら剣愚の駆る骨馬に迫るが、剣愚の刃が翻り、金属音と火花を散らせ、燃衣のブーメランを跳ね返す。
「そこな者ども。つまらぬ飛び道具で、大丈夫を斬り伏せられると思うてか!」
 同じ方向に駆けつつ、3人を見据える剣愚から発せられた大喝に、戻ってきたブーメランをキャッチした燃衣は内心呆れた声を上げた。
(なんとも時代錯誤な台詞を吐く奴だな。俺、アレ、真似できっかな?)
 実は倒した後、剣愚の喋り方の真似をして、愚神より入手できる通信機器を使い、剣愚に扮してグリスプより情報を引き出そうと考えていた燃衣だったが、前途は多難の様だ。
(できるできないの問題ではない。やれ)
 内から響く、有無を言わさぬネイの言葉に思わず熱衣は、『が、合点です!』と裏返った心の声をあげ、銃愚からの狙撃を凌いだ由利菜のバイクが咆哮し、疾風となって剣愚のもとへ肉薄するなり、『狂気』の名を冠する大剣が由利菜の刃となって剣愚のもとへ殺到する。
 由利菜の剣閃に応じた剣愚の剣との間で、一瞬の交錯と、一瞬の激突の後、火花と金属音を周囲に散らせ、由利菜と剣愚の刃は駆け違う。
 両者ともに無傷の姿をさらす中、骨騎達はトラックの列に追いすがり、遠ざかっていくのを確認した由利菜は、目の前の愚神を誰かが抑えない限り、後方からの骨騎への到達は難しいと判断し、目標を骨騎から剣愚へと切り替える。
「行って下さい、セレティアさん。燃衣さん! この愚神は私が食い止めます!」
 リーヴスラシルの援護のもと、最小半径でバイクを旋回させ終えた由利菜は剣愚へと迫り、刃を走らせると、剣愚との間で互いの刃が飛び違い、火花を散らす剣閃の応酬を開始した。
「わかった、由利菜。行くぞ、煤原。先にあの骨共を片付ける」
 セレティアを加護するバルトロメイの武人としての判断が、バイクの速度を上げ、燃衣の前進を促した。
「すぐに片付けてきますので」
 燃衣も由利菜の覚悟を無駄にせぬよう、戦意を骨騎に切り替え、バイクのアクセルを捻り、セレティアと共に最大速度で骨騎達のもとへ急ぐ。
 一方トラックの列には、やや後退したものの、依然骨騎達からの銃弾が飛来しているが、アリスの補助を受けた咲雪は、淡々とした表情で、これを迎え撃つ。
(敵の射撃、0.3秒後に予測点に着弾するわ)
「……ん」
 アリスの指示に従い、咲雪は軽く身を捻って予測点から体をずらそうとする。
 射撃は点の攻撃で、軸線を逸らせば躱せるというアリスの論理は間違っていなかったが、上空からの砲撃の結果、前方にばらまかれた道路の破片地帯にトラックが乗り上げるなり、その車体は縦に鳴動し、その上に載っていた咲雪の身体が『予測点』と目される場所へ強引に引き戻される。
 零距離回避で咲雪は着弾を辛うじて避け、その後ろで無月がその身を盾にして銃弾を受け止め、トラックの重要な部分への被弾を防いでいた。
 影月は跳躍しざま、降下してきたヘリに向けて苦無を投じ、空間に光を残して駆け抜けた苦無は、身を乗り出していた銃愚の体に突き立ち、乾いた音を立てた。
 そこへ轟音と共に、カゲリが構える速射砲の砲撃がヘリに放たれるが、ヘリの前に身をさらしていた銃愚がこれを受け止め、銃愚の体に、速射砲弾に込められた威力が炸裂する。
 続く咲雪からのヘリに向けた狙撃も、銃愚がその身で庇い、咲雪の攻撃を受け止めた。
(……何故)
 愚神が従魔を庇うというありえない状況に、咲雪の中にいるアリスが疑問に思う中、速射砲を放ったカゲリが冷静な口調で告げた。
「回避できないものは自分が受ける。俺達と同じく、敵も考えているという事だ」
 カゲリは咲雪とアリスにそう告げると、飛来する小銃弾から車を護る動きを見せる。
(この環境を逆に利用するってのが、俺様の得意とする所だぜ!)
「相手から見れば格好の的ですからね」
 内からのバイラヴァの頼もしい声に応じ、上太は十字の描かれた、凧型の盾を構えたまま、一陣の旋風を巻き起こし、上太を中心として、強固な壁を組み上げた。
 旋風は上太めがけて飛来した弾丸を巻き込んで、あらぬ方向に吹き飛ばし、上太の盾は銃弾からトラックを護りぬく。
 カゲリや上太だけでなく、イリス、つくし、菊次郎も、その身や盾で、骨騎達の銃撃からトラックを守りながら、それぞれの戦いを繰り広げていた。
(咲雪、視界に照準と敵の予測弾道を表示するわ。細かい調整は私がやるから、貴方は照準を合わせて引くだけ。出来るわね?)
「……駄目」
 短く呟き、咲雪の身体がアリスの示した予測弾道の前に滑り、小銃弾を防ぎ止め、背後の車列への被害を防ぐ。
「……避けたら……車に……当たる」
 アリスからは、やる気の欠片もないと酷評される咲雪だが、自身が回避した場合、起こりうる結果や、この場で自分が優先すべきこと、護るべきものを思慮する分別はあった。
 そして上空のヘリより放たれた赤い光が調査隊の乗る車に伸びるが、イリスがその前に立ち塞がる。
「調査隊の人達には手を出させない!」
 イリスの掲げる透明な盾に、さらにライヴスで構築された盾が錬成、顕現し銃愚の前に立ちはだかる。
 上からの砲声と共に、イリスに銃愚からの狙撃が命中するが、銃愚の弾はイリスの構えた2段構えの盾の前に弾き返され、異音と共に四散する。
 その間に、つくしより射出された魔法の剣がヘリの体に直撃し、ヘリが大きく身悶えして遠ざかり、それ以上の砲撃をつかの間中断させる。
『大丈夫。絶対君達を無事に届けるから。守るからね!』
 先頭を走る車に乗る調査隊に、つくしは無線で励ましながら、調査隊の車への護りを固め、銃愚が報復の赤い光を調査隊の車に照射する。
 これに呼応したのは、菊次郎だった。一迅の疾風と化し、赤い光に照らされた、調査隊の乗る車とヘリの間に跳躍して赤い光を阻む。
 直後上空から飛来した砲弾が菊次郎に襲いかかり、撃たれた衝撃を感知した菊次郎は、衝撃に逆らわず後方へ旋回して衝撃を受け流し、調査隊の車の天井に無傷の姿でふわりと舞い降りる。
(主よ。これはもしかすると)
「恐らくあの砲撃は魔法攻撃でしょうね。物理攻撃と錯覚させるために、ピエタに見せかける装備を愚神につけたのでしょうが」
 内からのテミスの声に応えながら、菊次郎は書から黒い霧を顕現させると、ヘリに向かって放つ。
 ヘリに黒い霧が纏わりつき、霧の中から無数の獣の咆哮と共にヘリを穿つ何かが垣間見え、ヘリの身体を喰らい、蝕んでいく。
「露見した策ほど無残なものはありませんよ」
 菊次郎が頭上の銃愚に、そう酷薄に告げる中、銃愚は後方から近づく何かに気付き、眼下にいた骨騎達に大声で命じた。
「目標変更! 反転しあのバイク達を撃て!」
 しかしそれは自分達を危険にさらす行動でもあった。
(イリス、敵たちが背を向けた。『絡め取りたまえ』)
「バイクには行かせない!」
 アイリスの助言のもと、イリスより放たれたライヴスは急速に後方へ遠ざかる骨騎達に慕い寄り、辛うじて範囲に残っていた1体の骨騎を絡め取る。
 イリスの意図通り、2体の骨騎が接近する2台のバイクへ駆ける中、1体が自分のもとへ再び踵を返し、自分へ向けて頬付した小銃を撃ち放つが、銃撃はイリスの透明な盾と展開したライヴスの盾の前に火花を散らせるのみで、ことごとく弾かれる。
 その間に、音もなく間合を狭めた無月から、弓弦を引き絞る音と共に放たれ、骨騎に飛来した矢は、小銃を撃つ骸骨の頭を粉砕し、つくしから放たれた不浄の風は、小銃ごと残る全ての骨を崩壊させ、骨騎を光の粒子へと化した。
 そしてカゲリの構えた二挺拳銃から発射焔が2発、立て続けにヘリに放たれる。態勢を立て直そうとしたヘリは、立て続けに胴体やローターを射抜かれて、光の粒子を上げてのけぞった。
 羽ばたきを止め、失墜しながら消えゆくヘリの中から銃愚が跳躍し、トラック荷台の1つへ着地する。
「やって……くれましたね」
 銃愚の怨嗟の声と視線に、カゲリ、イリス、つくし、菊次郎、無月の毅然とした視線、奥にいる咲雪の無表情が交錯する。
 その間にも、後方より猛追してきたセレティアと燃衣のバイクが雄叫びを上げ、駆け寄ってくる2騎の骨騎と激突する。
「プランAだ!」
「合点、やります!」
 セレティアの大剣が轟然と唸りを上げて、骨騎達に向け疾風を纏う連撃を放つと、それに合わせ、燃衣の備えた斧槍もまた、セレティアの反対方向から、骨騎達に向け、大気を灼いて無数の刺突となって吹き伸びる。
 銃愚の命令を受けて反転し、高速道路を駆ける骨の人馬達もまた、上半身を真っ赤に燃え上がらせて、小銃弾を撃ち放つ。
 2条の火線と、セレティア、燃太の合計10条の剣槍の奔流が、駆け違いに衝突した。
 空中にいくつもの火花が散る残光を突っ切って、セレティア、燃太と骨騎達が轟音を上げてすれ違う。
 一瞬の後、骨騎達の動きが止まり、馬と人の構造が崩れ落ち、光の粒子を放って消えていく。
 セレティア、燃太の放った左右同時の10連撃は、全てが骨騎達の存在を断ち切るほどの威力を発揮した。
 骨騎達が消え去ったのを確認後、セレティアと燃衣はトラック荷台上の仲間達に軽く手を振ると、バイクを器用に反転させて、由利菜を助け、剣愚を倒すために後方に去っていく。


 金属音の交錯と火花が周囲に咲く中、由利菜の横殴りの豪風を纏う大剣が、剣愚の駆る骨馬に喰らいつく。
 上と下に斬り飛ばされた骨馬が光の粒子と共に消え、剣愚が地面に着地する中、リーヴスラシルの加護を受けて術式を紡ぐ。
『舞え、生命の羽。灯せ、癒しの光』
 ライヴスが回復力に変わり、由利菜の身体から負傷部分を癒していく。
 剣愚の斬撃は、リーヴスラシルの加護に包まれた由利菜を打ち崩せず、対して由利菜の斬撃は3条の裂傷を剣愚に負わせ、先程骨馬を討った。
「これでそちらは追撃ができなくなりましたね」
 リーヴスラシルの助言を受けて、剣戟を重ねながら後方にバイクを残した由利菜と違い、剣愚には前方を疾駆するエージェント達に追いすがる手段はない。
「然り」
 そう言い放った剣愚は由利菜に向けて剣を構えるのと、前方よりバイクを疾駆させてきたセレティアと燃衣が射程距離に剣愚をとらえ、燃衣がブーメランを放ったのはほぼ同じタイミングだった。
 燃衣の放った刃は剣愚の無防備な背中を大きく抉り、剣愚はくぐもった声を上げてのけぞった。
 さらにバイクを疾走させて肉薄したセレティアの振りかざす無骨な大剣が、剣愚の背中に叩き込まれ、異音と共に剣愚の身体を跳ね飛ばした。
「間に合ったな。由利菜、無事か?」
 セレティアは由利菜の横へ器用にバイクを滑らせて止まり、道路上に降り立つと、これまで奮戦していた由利菜を守る形で大剣と鋭い視線を剣愚に向けながら、由利菜に声をかける。
「後ろ向きじゃ防げねえだろ。死ぬ準備は出来たか?」
 ブーメランをキャッチした燃衣は、バイクのタイヤを横滑りさせて、疾走の反動を消しながら道路に降り、剣愚に殺意を秘めた声をかける。
 起き上がりかけた剣愚の身体に、由利菜はライヴスを纏わせたインサニアの刀身を叩き込み、剣愚が耳障りな悲鳴と共に再び道路上に倒れ伏す中、由利菜は闘志を損ねない笑みをセレティアに向けて頷いた。
「大丈夫です。ラシルの加護がありましたから」
 その間にも、燃衣の猛獣を思わせる双眸が爛々と燃え、斧槍が旋回して重い一撃となって、剣愚のヘルメットの下を襲う。
 剣愚は頭を下げて燃衣からの首への攻撃から逃れようとするが、ヘルメットは避けきれず、剣愚から宙へ跳ね飛ばされた。
「それがてめえのツラかい。本当に骨だな」
 燃衣の視線の先には、ヘルメットを剥がされ、髑髏の頭をさらす愚神の姿があった。
 そこへ飛び込んできたセレティアからの、裂帛の気合いと共に無骨な大剣が、風圧を纏い剣愚に振り下ろされ、剣愚の身を深く切り裂くと共に、刀身が軽やかに転じ、返す一刀が剣愚の手から剣を空へと弾き飛ばす。
 攻防の術を失った剣愚に、間合を一気に縮めた由利菜の大剣が、雷光の速度で振り下ろされ、分厚い刃が、剣愚の身体を斜めに両断した。
 急速に体が崩壊し、光の粒子を巻き上げながら、剣愚は消えていく。
 残る銃愚も最後の時が近付いていた。
 咲雪の目に照準が定められ、その中に銃愚の姿が重なった瞬間、咲雪が引き金を引き、発射音と共に放たれた銃撃が狙撃銃を構える銃愚の肩を撃ち抜き、その間に横から疾風と化した無月が殺到し、激突の瞬間、その銃身に絡みつくような動きを見せ、無月の繰り出す隼風が這い伸び、銃愚の片腕を穿ち、攻撃の隙を作る。
(今だぜ、坂野のおっさん!)
 バイラヴァの声に応じる形で、命綱を外した上太よりライヴスで構成された蝶が放たれ、銃愚に纏いつくと、銃愚の意識を奪い、急速に肉体の崩壊を加速させ、そこへカゲリの二挺拳銃が咆哮し、銃愚に叩きつけられた弾丸の連撃が銃愚の身体を次々と穿つ。
(そも、己が勝利を一分も疑う事なく信じるからこそ勝利が掴めるのだ)
 カゲリの内にいるナラカは、カゲリだけでなく、この場に集う人間達の秘める『輝き』を信じていた。
「これで終わりだよっ!」
 つくしは温存していた術のうち、不浄の風を銃愚に絡みつかせ、腐食を加速させ、イリスが翼と黄金のオーラを纏う弾丸と化し、伝承の騎士が持つとされる両刃の直剣にライヴスを纏わせ、容赦なく銃愚の腕をその銃ごと刎ねとばし、銃愚の迎撃手段を失わせた。
 そして菊次郎が駄目押しの一撃となる、呪いが絡み合う闇を顕現して、銃愚に放つ。
 闇を受けた銃愚の身体は闇と呪詛の咆哮に呑みこまれ、闇と光の粒子が絡み合う中、通信機器を残して、その存在を完全に滅した。
「では、僕達はこのまま調査隊と手がかりの護送に回ります」
 上太はそう仲間達に告げると、バイラヴァと共に調査隊の車に乗り込み、同じく護送に回った無月と咲雪の乗る各トラックに守られ、いち早く現場より離脱するが、残るエージェント達にはもう一仕事残っていた。
 イリスが周囲を警戒する中、彼らはあらゆる手段で、入手した通信機器を調べ従魔の憑依や罠の有無を確認し、それらが一切ないただの通信機と判明した後、彼らの行動は速かった。
 銃愚と戦った仲間達の助言を受け、共鳴化を解いた燃衣が、ネイや共鳴化を解いたバルトロメイも協力する『内輪もめ』や銃愚からの『報告』を演出し、通信機器からの呼びかけに応じた声に向けられる。
「『アレ』がばれてしまいます。ですから手を打たないと」
 内心の不快感を押し殺して燃衣はグリスプから情報を引き出そうと試み、通話先にいる悪意も燃衣に応じる。
『さすがはH.O.P.E.の方々です。説明する手間が省けました』
 燃衣はその内容に不審なものを覚え、その気配を察したネイが燃衣に声をかけた。
「もう止めておけ。グリスプとかいう奴、からかってやがる」
「おう、てめえ。俺で遊ぶとはいい度胸してんじゃねえか」
 ネイからの声を受け、それまで卑屈な演技をしていた燃太の声色ががらりと代わり、地鳴りのような響きを言葉に籠もらせた。
『私は貴方がたの虚構に付き合っただけですよ』
 このゲス野郎がと燃太は思ったが、挙手しためぐると代わる。
「愚神をピエタに見せかけたのは何故かな?」
『貴方がたのピエタへの仇討ちの機会を増やせればと思いましてね』
「動揺させる、の間違いじゃないのかな。でも、そのくらいで私達は動揺したりしないよ」
 決然と告げたつくしの次は、由利菜のグリスプへの酷評だった。
「時間稼ぎと有利な状況でのいじめしかできないとは、哀れな愚神ですね」
『戦いとは弱い者いじめです。相手に不利な状況を強いて、弱点を攻める事は戦術の基本でしょう?』
 グリスプはそう言って由利菜を嗤うが、そこへナラカが割り込んだ。
「グリスプとやら。そうして笑っているが良い。じきにそちらへ赴いてやろう」
『どうぞご自由に。できればの話ですが』
 ナラカと代わり、菊次郎が今まで探していたこの愚神との会話を果たす。
「きさ…御身がグリスプですか」
『ええ、そうです。心配せずとも、この機器のある場所でしたら貴方がたは特定できますよ』
 実はこうやって交代で通話を続けることで、グリスプの居場所を特定できるよう菊次郎達は仕組んでいたのだが、当のグリスプは『この機器』と応えたことに、菊次郎は不審を抱き、今後グリスプが取るであろう行動を言い当てる。
「この通信できる機器を捨てるという事ですね」
『貴方がたがこうやって、私と対話をしようとしたり、私の現在位置を探ろうとする動きを私に悟らせなければ、私はそのまま身元に繋がるこの機器を持ったまま、貴方がたに討たれるところでした。教えて下さりありがとうございます』
 心の中で菊次郎は舌打ちしたが、表情や声には出さず、淡々と用件のみ口にする。
 グリスプからの回答は、菊次郎の予想とはやや異なるものだった。
「『どちらの事』というのは、どういう事ですか?」
『少なくとも2体は知っているという事です。いずれ貴方はそれらと遭えます』
「せいぜい首を洗って待っていて下さいね。拒否は認めません」
『それは楽しみです』
 菊次郎にそう返答し、グリスプが通話を切った。
 こうして『宣戦布告』が互いに交わされた後、上太からの、調査隊と手がかりは無事H.O.P.E.本部に届けたとの連絡と、周囲に残る別働隊達からの治療を受けたエージェント達も、手元に残る通信機器と共に本部へ向かう。
 今回調査隊と自分達の得た手がかりを提出し、グリスプへ到達する為の追跡調査を引き続き依頼したエージェント達に、後日、情報の整理分析を終えた担当官より手がかりの内容が伝えられた。
 手がかりとなる機器に記録された地図には、どこかの地方空港のある街を示していた。
『ええ。引っ越しのご挨拶と思って下さって構いません。どうぞご自由にお使いください』
 機器に記録されたグリスプの音声は、そのように、どこかへ向けて話していた。
 やはりグリスプは逃げるのを諦めたわけではない。しかし、何かに贈り物をしたとも受け取れる内容だった。
 そして担当官からの、『事前調査』に関する報告は、吉報と凶報の両方が入り混じったものだった。
「皆様が戦っている間、グリスプが通信していた場所は特定できました。しかし、別働隊のうち、その場所の周囲で通信傍受を行ったり、中継器の抑えに向かった隊員たちからの連絡が途絶えました」
 敵の迎撃戦力の少なさを不審に思い、罠を警戒していた由利菜は、罠の正体とその悪辣さに内心で嫌悪を示す。
 今回のグリスプの『迎撃』は、調査隊や自分達だけでなく、グリスプの周囲を調べ回る別働隊に対しても向けられていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 繋ぎし者
    坂野 上太aa0398
    人間|38才|男性|攻撃
  • 守護の決意
    バイラヴァaa0398hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 過保護な英雄
    バルトロメイaa1695hero001
    英雄|32才|男性|ドレ
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
前に戻る
ページトップへ戻る