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マッチング籤会場
最終発言2016/01/04 21:57:59 -
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最終発言2016/01/02 04:27:31 -
マッチング相談
最終発言2016/01/05 13:50:30
オープニング
『あなた』達は、その紙に目を落としていた。
今日は、実戦研修……所謂模擬戦だ。
能力者同士、自分の戦闘スタイルを見つめる為、1対1の個人戦闘形式で行われるらしい。
勿論、実戦研修である為、死に至るようなことにはならない。
ルールだけでなく、対戦相手も記されている紙によく目を通しておかないと、苦労するのは自分達だ。
『あなた』は、パートナーと顔を見合わせる。
任務を行う上で他のリンカーと共闘することは大切なこと……だが、その共闘の為には自分の能力がどういうものなのかを知っておかなければ、その共闘で十分な力を発揮し切れないだろう。
今回は個人戦闘形式の実戦研修のようだが、他のリンカーとペア同士で対戦するもの、規模の大小の違いはあれど集団で対戦するもの、果てはバトルロイヤル形式なんてものもあるかもしれない。この辺りは研修へ参加申し込みする必要があるし、その日取りを見逃してはならないだろうが。
新年、明けたばかり……大規模作戦も一応の目処を迎えたが、全ての戦いは終わった訳ではなく、いつまでもお正月気分でいる訳にもいかないだろう。
顔を見合わせていた『あなた』達は、対戦相手を見た。
先方も向こうを見ている。
彼らと、どのような戦いになるだろうか。
解説
●ルール
・戦闘開始時点で共鳴しているとします。
・戦闘前に模擬戦闘用のAGWへ交換されます。
双方の合意があっても装備品での個人戦闘は出来ません。
模擬戦闘用AGWのデータは下記で統一。
武器→物理・魔法攻撃力共に15のみ(武器種別・射程は装備していたものと同一)
体→物理・魔法防御力10のみ(盾の装備がある場合盾もこの数値の適用となります)
頭→物理・魔法防御力・命中・回避1
顔→命中2
足→物理・魔法防御力1、回避3
補助防具・アクセサリ→なし扱い
※『装備コストはオーバーしていない』扱いとして判定します。
・戦闘場所は7スクエア範囲。開始位置任意で防具に設置されているスタート許可が揃い次第開始。
・木製遮蔽物は希望があればスクエア内に設置。対戦毎に異なっていてもOKです。
破損・破壊は考慮しないでOKですが、遮蔽物の数の量に関する希望以外は反映されません。
・時間は10分間。決着がつかない場合は引き分け。
・勝利条件は相手の生命力25%まで削る(防具にあるセンサーが終了サイン出します)か降参させる。
・スキルはBS気絶付与のスキルのみNG。
・終了後、別研修のバトルメディック(モブ)達が治癒する為、『このシナリオでの』生命力減少はありません。(他のシナリオでの生命力減少・重体は対象外)
●対戦相手決定方法
・参加者同士による話し合いが望ましいですが、難航する場合は挨拶の奇数偶数(1-2、3-4、5-6、7-8)で決定して下さい。
・参加者が奇数であった場合のみ、最後の対戦相手はほぼ同じ実力を持つNPC(クラス・適性・武器も同一)となります。
●注意・補足事項
・あくまで模擬戦闘です。ガチで殺すプレイングを書かれても対応しません。場外乱闘も禁止です。
・他の対戦を見る事も可能です。が、アドバイス等は禁止です。(反則負けになります)
・交流関係だけでなく、適性やクラスの特性を見て対戦相手を決めてもいいかもしれません。
リプレイ
●対戦相手決定
「武器が貸し出しのオモチャであるのが気に食わぬな」
「あのスキルを試すチャンスです。勝敗よりそちらを優先しますよ」
そうした会話を交わすのは石井 菊次郎(aa0866)とテミス(aa0866hero001)だ。
菊次郎は模擬戦闘だからこそ行えることがある、と巡ってきた機会に意気込みを見せる。
が、その正反対にいる者も勿論いる。
「……ん、めんどくさい」
佐藤 咲雪(aa0040)である。
半ば引き摺られるようにして来たけど、研修めんどくさい。
何か説明しているけど、聞くのめんどくさい。
要点だけ聞いたら模擬戦闘……最高にめんどくさい。
「……咲雪?」
アリス(aa0040hero001)の笑顔はイイ笑顔だが、目が笑ってない。
ここでアリスの怒りを買ったら、夕食抜きの上お説教3時間コースは確定的。
そっちの方がめんどくさい。
アリスのことは信用も信頼もしているが、それとこれとは別なので、咲雪こっそり嘆息。
「……ん、わかった。やる」
「よろしい」
ある種の日常だ。
そうした意味では、こちらの面々もそうだろうか。
「実践ではないが慣れる為じゃ!」
「……あまり戦うの得意じゃない……」
今宮 真琴(aa0573)と奈良 ハル(aa0573hero001)である。
その横では、稲穂(aa0213hero001)が小鉄(aa0213)に言い含めている姿が。
「研修だからね?」
「判っているでござるよ。しかし、皆強そうでござるなぁ。……H.O.P.E.も良い企画を考えたでござるな! うずうずしてくるでござるよ……!」
「今日は一戦だけだってば! あぁもう、その物欲しそうな眼は止めなさい」
血が騒ぐのは解るけど、と小鉄へ説く稲穂。
そんな小鉄と稲穂を見、真琴は「ボク……遠距離専門だよ……?」と経験の重要性を説くハルへ抵抗を試みている。
「近づかれたら何も出来ません、と敵へ言うつもりか? どんな状況でも、生き残った方が勝ちなんじゃ。しっかり学べ」
真琴が、やがて「了解」と項垂れると、ハルが真琴の口へ金平糖を放り込み、ひとまず機嫌を取る。
……なんて、甘いやり取りとは対極の者達もいて。
「麟殿、エステル殿は気づいておられるようですぞ」
「何が?」
エステル バルヴィノヴァ(aa1165)に気づいた宍影(aa1166hero001)が骸 麟(aa1166)へ耳打ちをするが、麟はよく解ってない。
麟は諸々教えられても、「エステルは心が広いから大丈夫だよ」と取り合わず、「やっぱり、一撃離脱だよな」と顎に手を添える。
……が、エステルはそう思っていないのか、泥眼(aa1165hero001)が「エステル、落ち着いてね」と宥めていたり。
そんなこんなで、対戦相手が決められていった。
「精一杯、努めさせていただきますね。よろしくお願いいたします」
「僕達が何処まで出来るか分からないけど、お互いにいい形を残せるように頑張ろう」
トウカ カミナギ(aa0140)が、メリア アルティス(aa0140hero001)と対戦相手の菊次郎とテミスへ頭を下げた。
自分も相手も次に繋がるようにと考える姿は、彼女らしいものである。
遮蔽物の有無等を打ち合わせれば、メリアと共鳴して打ち合わせだ。
(『相手はソフィスビショップ。遠距離からの魔法攻撃が主体のクラスだね』)
(距離がひとつの焦点になるでしょう)
メリアの見解にトウカも肯定し、彼女達なりの作戦を立て始める。
「私も、戦闘は専門外ですので」
まず全員へ、それから友人達に挨拶した唐沢 九繰(aa1379)へ、エミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)は、自分も学ぶことがあると伝える。
身体を動かすのが得意、道具の扱い方が上手、機械的な力の伝達に長ける……が、戦闘に関する専門知識があるとは言えない自分達。
今までは勢いで乗り切ってきたが、座学で学んだ戦闘関連の知識を自分の物にする切っ掛けが欲しい。何とか掴めればいいのだが……。
「あ、そうでした」
九繰が準備している職員へ駆け寄った。
自分の動きを客観的に見られるよう録画許可を取りに行ったのだ。
すると、他のエージェントからも要望が出、全ての対戦カードの録画許可が出、そちらの準備も始まる。
「邪魔にならなければ観戦しても良いとのことでしたので、勉強……」
言いかけて、九繰はエミナが袖をくいくい引っ張ってきたので、彼女を見る。
「九繰、忍者が、忍者がいます」
エミナの表情も声も変動なしだが、右手の甲にある小窓を見れば、小鉄に興味津々であるのは一目瞭然。
後で、話しかけてみましょうか、なんて話しつつ、九繰とエミナも共鳴した。
●温度差の結末
(『どうしましょう。どうしてこんなことに』)
泥眼の声が内に響く。
「運命ですね。事故が起こり悲劇的な結末になるかもしれません」
当然、泥眼からは『エステル、止めて』と制止の声が上がる。
「……冗談です。本気にしないでください」
そう言いながらも、エステルは思わぬ行動は止めて欲しいと彼女へ告げる。
周囲には、木製遮蔽物が20。
これは麟が希望したもの、エステルは希望を出さなかった。
「麟……よろしくね」
そう呟いたエステルは、訓練用の防具にあるスタートサインを押した。
一方、麟は、遮蔽物の陰にいた。
基本戦略は一撃離脱、遮蔽物を利用した奇襲である。
「オレ有利になるような配置にはしてくれない、か」
遮蔽物の希望は量以外考慮されない為仕方ない、と麟。
シャドウルーカーが扱う潜伏はリンカー以外には有効だが、エステルはリンカーだ。有効手段になりえず、地力勝負である。
「忍の道は1日してならずってね」
スタートサインを押し、模擬戦闘開始。
(エステル、動かない?)
麟は遮蔽物を素早く移動しながら、エステルの様子を伺う。
エステルは周囲を見回し、麟を捜すことなく、その場に立っている。
(『迎撃するつもりでござろうな』)
宍影がエステルの意図に気づく。
機動力で、エステルは麟には勝てない。
ならば、無理に動かず、迎撃した方が良い。
この判断は妥当なものである。
(ま、攻撃する間を与えなければいいか)
油断するなという宍影の言葉にさらりと答えた麟はエステルの斜め後ろから飛び出た。
「エステル、やほー! ってことで、骸分身撃!」
挨拶に来たかのような麟はエステルが身体の向きを変える隙を見逃さず、ジェミニストライク。
が、狼狽えず、エステルは訓練用の扇で麟を思い切りどついた。
「あなたって何も考えないで能天気に……。本当に頭にくるわ」
絶対零度の声。
どつかれながらも遮蔽物へ逃げた麟の背に冷たいものが走る。
(『……謝っておいた方が良かったのではござらないか?』)
宍影がそう言うが、もう遅い。
(あなたがスピードで押してくるのは予想済みなのよ)
エステルは遮蔽物を移動し、こちらを翻弄して攻撃してくる麟に告げるかのように目を細める。
「骸木人塞! オレがどこにいるか分かる?」
「知る必要ないわ。私は待てばいいだけ」
麟がスピードのついてこれるかと挑発してくるが、エステルは流した。
逆に、笑みを浮かべて言ってやる。
「技の名前を唱えれば、威力が強くなったり、遮蔽物に特殊な力が生まれるとでも思っているの?」
が、麟は出てこない。
宍影が押さえたとは分かるが、エステルは知っている。
彼は、『同罪』である、と。
その時、麟が左後方から飛び出してきた。
今度は特にスキルを用いず、訓練用の刀で斬りかかってくる。
エステルは敢えてそれを受け、攻撃直後の隙を見逃さず、扇でその頭を引っ叩く。
「言っておきたいんだけど……」
エステルは麟を冷めた目で見下ろす。
「あなた、冷蔵庫のルールも覚えられないのかしら」
あ、やっぱり。
宍影が思う中、エステルは急いで遮蔽物に逃げた麟へその怒りを爆発させた。
「いい麟! あなた専用は冷蔵庫の2段目! 3段目は共用スペースなの!」
「! 先週のケーキは本当にごめん!」
「それもあなただったのね、やっぱり!!」
麟、地味に自爆した。
(あんなに怒ることないのに、エステルって案外大人気ないよな)
(『麟殿が言う台詞ではないでござるが……』)
麟にそう言う宍影は、自分達が押されていることに気づいている。
簡単に言えば、エステルが麟のフィールドに立たなかったのが大きい。
無理に麟を追わず、迎撃体勢を取り、防御に優れる彼女自身の特性を生かした戦い方を選んでいる。
「骸告死印!」
ジェミニストライクも全て放ち、麟はデスマークも止むを得ず使用した。
が、エステルは、リジェネーションで折角与えたダメージも回復してしまう。
「燃えてきたぜ!」
麟も闘志失わず、「骸凌斬剣!」と斬りかかるが、エステルは「回復手段がないあなたに勝ち目はないわ」と対処。
直後、防具の終了サインが出た。
「死ん! …コホン、倒れなさい!」
が、構わず、エステルは続行しようとし──
(『エステル!』)
それまで黙っていた泥眼が制止の声を上げて、エステルを止めた。
死ぬような攻撃は与えないだろうが、終了サインは出ており、多くのエージェントと職員が見ている。この先の攻撃はしてはいけない。
直後、エステルの共鳴が解除される。
「少しすっきりしました。麟、ありがとう」
「麟さん大丈夫? ごめんね」
エステルはそう言うもその表情はあまり良くない。
泥眼が気づいて、エステルを休ませるべく引き摺っていく。
「今度から、名前も書いて貰った方がいいかな」
「その前に冷蔵庫のスペースを覚えておくでござるよ」
麟へ宍影がぽそりとツッコミした。
●実りあるよう
トウカと菊次郎の模擬戦闘は、菊次郎の希望で木製遮蔽物10個設置された。
出来れば実戦の環境に近い形をと希望していたトウカもこの数は不自然ないものと判断、職員の設置を見守る。
(力量も経験も先方の方が上……勝敗に関わらず、私達にとって良い経験になるわ)
(『だからと言って、最初から負けるつもりでいてもね』)
(勝ちたい気持ちはあるもの。出来る限りのことはしないと)
トウカとメリアは模擬戦闘の場の中央に立つ。
有利不利がないように、というのが理由である。
遮蔽物の陰でのスタートを選ぶ菊次郎の姿は見えないが、トウカはスタートサインを出した。
「良い試合にしたいものですね。AGWの性能差も機会あれば研究したいですが」
トウカとメリアへも試合の挨拶と共にそう伝えた菊次郎は、手近に感じた遮蔽物の陰にいた。
最初が肝心でもある、とスタートサインを送り、模擬戦闘開始。
まず、行うのはウィザーズセンスの発動だ。
訓練用のAGWならば底上げは必要と判断してのこと。次いで───
(『備えろ!』)
テミスの警告が響いた。
その時には、トウカがすぐそこまで迫っている。
(……!)
ウィザードセンスの間にトウカは菊次郎へ距離を詰めてきていたのだ。
彼女達は、遠距離攻撃手段がないことを認識していた。
この為、間合いを詰めることを最優先にしていたのだ。
菊次郎がどの遮蔽物にいるかまでは知らなかったが、手近な遮蔽物であった為に気づくのも早かった。
こうなると、菊次郎は拒絶の風を先に発動せざるを得ない。
「くっ!」
トウカの、中距離攻撃が可能な武器攻撃は風によって阻まれる。
その間に菊次郎は間合いを取ることを優先して別の遮蔽物へ飛び込んだ。
(ウィザードセンスを使うなら、距離は最大に開くよう初期配置を決めた方が良かったようですね)
菊次郎は心の中で呟く。
遠距離攻撃手段を持っていない相手ならば、自分へ間合いを詰めてくることは想定の範囲内だ。
十分に間合いを取っていれば、到達される前に迎撃可能だが、今回その間合いはそれ程ではなかった。
(ここで気づけたなら、感謝しなくては)
(『それより、どう攻める?』)
テミスの問いに、菊次郎は訓練用の武器を出した。
(流石に接近された際の対応を考えてたわね)
(『風の途切れ目を狙わないと厳しいね』)
トウカとメリアは遮蔽物を利用しつつ、菊次郎への接近を試みる。
本命は近距離での戦闘だが、菊次郎の攻撃を当てる技量は高く、遮蔽物がなければ攻撃命中は確実だろう。
(『早く縫止で封じておかないと危険なんだよね』)
模擬戦闘とは言え、気を抜けるような相手ではなく、自分達なりの戦い方で臨んでいるが、事前の予測通り距離が焦点となっている。
(『風を張り直す前に、行こう』)
拒絶の風が終わったのを見、メリアが提案、トウカは拒絶の風を発動される前に全力で向かう。
その直前、菊次郎の口元に笑みが浮かんだ。
「この声を聞くまつろわぬ者どもよ。汝らが真の主人の命を聞け……」
そう、菊次郎が最初から狙っていたのは、支配者の言葉。
扱い所を選ぶのではと菊次郎は思ったからこそ、実戦使用前にその威力を確かめておきたかったのだ。
トウカの身体がびくり、と震える。
(『武器破壊命令を出すのか?』)
(流石に訓練用の武器を破壊したら、弁償になりそうなので、止めておきましょうか)
菊次郎はテミスに応じつつ、実戦ではそれがいいにしても模擬戦闘においては、この武器は訓練用のもの、自分のものではない。
木製遮蔽物とは訳が違う……今後、訓練を行う他のエージェントへ影響が出る為だ。
菊次郎は距離を取りつつ、トウカへ武器を足元に置き、遠くへ蹴るように命じてから、攻撃開始。
攻撃を受け、トウカの洗脳は解除されたが、自分達の圧倒的な劣勢を強く認識した。
(『落ち着いて。遮蔽物に入ってやり過ごし、武器を回収しよう』)
メリアに頷き、トウカが遮蔽物に入ろうとするが、菊次郎の攻撃がそれを許さない。
時間的にフィールド内の遮蔽物を全て破壊は現実的ではない。
職員によって設置されたこれら10個は全て密集している訳ではない。また、完全に使い物にならないように破壊する手間を考えると、恐らく規定の10分を迎え、引き分けとなってしまうだろう。
菊次郎はそう判断し、武器放棄を行わせ、すぐさま攻撃する方針へ変えたのだ。
「搦め手に注意しないといけませんからね」
菊次郎は手を抜かず、攻撃し続け、最終的にトウカの終了サインを告げさせた。
「全力出したけど、やっぱり『影』の名を冠する英雄としては悔しいな」
「こちらもいい経験になりました」
メリアへ菊次郎はそう声を掛ける。
「今度は果し合いが良いな」
「それまでに腕を磨かせていただきます」
テミスへトウカも微笑む。
互いの健闘を讃え合った両者、その実りは十分だったようだ。
●慣れぬ者同士
咲雪と九操は対称の位置からそれぞれスタートサインを出した。
「……ん、九繰。いくよ」
咲雪は初手で鷹の目を発動、空へライヴスの鷹が舞い上がる。
上空からの視点を得れば、死角はゼロとなる。
(『長期戦になるから集中を切らさないように』)
アリスの助言が響き、咲雪が頷く。
九繰は生命力高く、また、バトルメディック、ケアレイ、リジェネーションは想定範囲……すぐに勝負が決まるような相手ではない。
咲雪の視界には、アリスが提示した九繰のデータ、それに基づく行動予測等々が表示される。
(『実戦で、リンカー相手でなければ潜伏も有効だけどね』)
同じリンカー相手の模擬戦闘である為潜伏は使用しても有効ではないものだが、実戦ならまた話は違うだろう。
一方、九繰は内々にエミナと話しつつ、対称の位置、模擬戦闘場の角から遮蔽物を利用した移動をしつつ、咲雪へ向かっていた。
(『個人的な目標、ですか。良いと思います』)
九繰は勝利以外に個人目標の設定をエミナへ申し出ていた。
その個人目標の判定をエミナに依頼していたのである。
(『理想通りの攻撃と防御、そうでなくとも、受け止める、回避する行為をどの程度成し得るかの目標、達成度を見るのはいいことです』)
エミナの声が響いた、その時。
両者、接近する。
(『予想通り最短移動で距離を詰めてきたわ。武器に注意して』)
アリスの声に咲雪は応じる。
完全融合したそこにタイムラグはない。
手にした武器の都合上、咲雪は接近の必要がある。
が、九繰はその接近を許さないかのように訓練用の斧槍を振り翳した。
「いきますよー!」
遠心力を活用した一撃は、咲雪のナイフとのリーチの差を活かした攻撃である。
(『敵攻撃軌道予測……左後方に跳べば回避可能よ』)
「……ん」
言われるまま左後方へ跳ぶと、斧槍は咲雪を捉えることなく、空を切る。
九繰がエージェントになるまでごく普通の高校生だったように、咲雪もエージェントになるまで普通の中学生だった。
武術の心得どころか、喧嘩すらまともにしたことがない。(めんどくさいと回避以前に発生しない)
その彼女がエージェントとして戦えるのは、アリスのサポートが大きいだろう。
(『上空の鷹で視界補助を得つつ、攻撃のタイミングを予測しているようですね。データ的なもので、感覚的なものではないでしょうが』)
エミナは戦闘の専門家ではないが、そのことに気づく。
(獲物が獲物ですし、間合いの維持には注意しないと大変ですね)
(『攻撃した直後は注意した方がいいでしょう』)
後方に跳んでくれたが、前方に向かって跳ばれた場合、反撃の切っ掛けになってしまう。
九繰はそのことを留意しつつ、高い移動力を利用して接近してきた咲雪へ力強く踏み込んだ一撃を狙う──が、これも咲雪は右横に跳んで回避。
九繰も踏み込んだ足を引きながら、武器を戻し、間合いに飛び込んできた咲雪のナイフを柄で阻んだ。
が、それ自体予想していたのか、咲雪は動じず、九繰を翻弄するかのようにジェミニストライク。
「……流石ですね」
九繰も咲雪のようにはいかないが、回避能力は低いというものではない。
何とか回避行動を取ると、斧槍を横に薙──否、攻撃の軌道を変えて、突き上げた。
「!」
横薙ぎへの回避行動直後であった為、咲雪が十分な回避行動し切れず、突き上げを食らう。
しかし、追撃は許さず、後方に跳んで、一旦間合いを取った。
(『今のは読み切れなかったわ』)
「……ん」
謝罪するアリスへ咲雪は緩く首を振る。
勢いでやってきたと九繰が自身をそう評価しているだけあり、フェイントは予想外だった。
が、九繰はしっかり間合いを詰めに来ている。
(『次は警戒されますからね』)
(分かってますよ。羹に懲りて膾吹くとも言いますし!)
横薙ぎの攻撃は、咲雪ではなく、遮蔽物へ。
遮蔽物がダメになったが、その間に咲雪も九繰への間合いを詰める。
(『後方遮蔽物を利用させてはダメ』)
アリスのアドバイスに応じるように九繰へ攻撃を仕掛ける咲雪。
が、九繰は後衛を背にしたことを想定していたのか、回避ではなく、防御で対処。
「いきます、よ!」
そして、九繰のレガース装着の脚が咲雪に繰り出された。
咄嗟に避けた咲雪は九繰へ攻撃を叩き込んだ。
九繰にケアレイもリジェネーションも使う暇を与えないようにしないといけない。
が、九繰も咲雪の攻撃を受け止め、リジェネーションを発動させて凌ぐ。
そうしたやり取りの末、10分経過、両者引き分けとなった。
「どうでした?」
「理想の攻撃以外は目標達成でしょう」
九繰へエミナが落ち着いて答える。
回避能力が高い咲雪へ理想の攻撃は入ったとは言えないが、今後の糧にはなった。
「あの位向上心があればいいのに」
「めんどくさい」
アリスが彼女達のやり取りを見てそう言ったが、咲雪は当然そういう見解を述べた。
●学ぶこと
「同じレイヴンの者として、1度戦ってみたいと常々思っていた故」
「全力でぶつかり合いましょっ。どこまで通用するか、勉強させて貰うわねっ」
小鉄と稲穂はそう言い、真琴とは対極の位置へ歩いていき、共鳴した。
残された真琴と言えば、「無理無理死んじゃうー!」とハルに泣きついている。
「模擬戦闘じゃからな! 精々やってみせよ」
「で、でも、本業じゃないし、そもそもこの区域狭い……狙撃なんて……」
「真琴の都合のいい場所でいつも始めて貰える訳ないのじゃ」
「でも……」
尚も反論しようとする真琴へハルがにやりと笑う。
「文句言うのかの? 後でどうなっても知らんぞ」
「ハルちゃん、イジワル……」
「頑張ったら褒美を考えておこうかの」
ハルがそう言って、真琴の頤をつっと撫でると、チョロイことに真琴の目の色が変わった。
「行こう、ハルちゃん!」
(『いざ参ろう』)
共鳴した彼女達も初期配置へ。
やがて、模擬戦闘開始。
「様子見などしてはやられる故、最初から飛ばしていくでござる」
忍んでいない系忍者は回避能力そのものは低くない。
ただし、真琴は射程のある武器を持っており、油断は出来ない。
「ごめんね……。頑張るって約束したから……!!」
真琴は開始と同時にファストショットで小鉄へ攻撃を命中させて以後、遮蔽物を移動しながら、命中精度に誇るブルズアイでの攻撃を考えていた。
が、真琴よりも小鉄の方が移動力が高く、遮蔽物を移動している間に小鉄は近づいている!
「変衣:陰陽型!」
真琴の和装が紫紺色から濡羽色へ変じ、対応に入る。
小鉄も訓練用の苦無を投擲、真琴が間合いを取ろうとする動きを阻む。
「遠距離メインなのに……!」
半泣きの真琴は、苦無攻撃を回避していく。
(『こーちゃん、もうちょっと考えて!』)
(そうは言うでござるが、難しいでござる!)
稲穂が小鉄へ注意するが、小鉄なりに頑張っているらしい。
命中しなかったが、間合いを取らせないことには成功した。
「……当たらない! けど!」
真琴も間合いが取れない状況に冷静さを失っているが、それは頭に血が上ったという意味で、普段の意味ではない。
いよいよ近接距離、真琴は完全に接近され切る前にフラッシュバン……を試みようとして、ハルから制止を受けた。
(『接近され過ぎたのじゃ』)
フラッシュバンの効果は相手を選ばない。
小鉄に距離を詰められ過ぎている為、真琴自身にも悪影響が出かねない。
「このっ!」
真琴は扇に切り替え、小鉄へ舞うかのような立ち回りで対処に掛かった。
「当てられてばかりでは忍の名が廃るでござるよ……!」
小鉄も真琴の攻撃は回避で対処し、大剣のリーチを活かして疾風怒濤で狙っていくが、真琴の舞を思わせる動きは、その動きを全て捉えられない。
「重い……!?」
けれど、一撃当たった真琴は想像以上の攻撃の重さを実感した。
普段装備している防具とは格段に劣る訓練用の防具だからこそ命中時相手の地力が実感出来る。
「……当てる……」
真琴が間合いを取らせるように扇で牽制するが、小鉄は回避はしても、間合いは取らず、再度疾風怒濤、今度は2発命中、真琴の顔が歪む。
が、真琴も攻撃と回避を繰り返す。
接近するまでに真琴は攻撃を命中させていたものの、移動力に勝る小鉄が予想よりも早く危険区域に到達した為、ブルズアイ、フラッシュバンの使用が出来なかった為に想定より悪い。
対する小鉄は接近こそ早かったが、攻撃の命中率はあまりよろしくなかった。
「勝負するでござるよ!」
小鉄がトップギアから、重力を乗せた一撃を放つ。
一気呵成の可能性を考えた真琴は受けることを元から考えず飛び退いて回避した。
が、小鉄はすぐさま追撃してくる。
再度トップギアからの一気呵成、倒されはしなかったが、命中。
トップギアの底上げもあり、ここで、真琴の防具から終了サインが出た。
「よくやった方か」
疲れた様子の真琴へハルは言い放つ。
意欲を持って欲しいハルに対し、真琴はやはり慣れた様子ではない。
「臨機応変な対応が必要じゃの」
「動かないで撃っていれば良かった」
「微妙にニートじゃ……」
ハルがこちらへ来る小鉄と稲穂に気づいた。
観戦していたエージェントから意見を聞いていた彼らは、双方の改良点を話し合いたくて来たのだ。
「見るのも修行、勉強になったでござるが、やはり実際手合わせいただいた今宮殿、奈良殿の意見を聞きたく」
「回避や防御、参考になる人が多くて、凄い、負けてられないって思ったけど、実際の所気になって」
小鉄と稲穂へハルが気づいた点などを話しているのを、真琴はご褒美どうなったのかななんて思って見ていた。
すると、動いた分腹を空かせた小鉄へ、稲穂が用意していたおにぎりを持ってきて、皆へ振舞い出す。
「仕方ないの、あーんじゃ」
視線に気づいていたハルが真琴へおにぎりを食べさせていると、小鉄がふむと頷いた。
「今宮殿は奈良殿と仲良しさんでござるな! それが強さに秘……」
「ごめんなさいね」
小鉄の頭を張り倒した稲穂が、顔を赤くさせている真琴へほほほと笑った。
互いの音を全て知るのは、中々に難しい。